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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻11号

1975年11月発行

雑誌目次

特集 癌免疫と外科治療

Ⅰ.癌の免疫療法の現状と展望

著者: 橘武彦

ページ範囲:P.1383 - P.1384

□腫瘍免疫と免疫療法□
 実験動物腫瘍のみならずヒトの腫瘍においても腫瘍抗原(腫瘍特異抗原及び腫瘍関連抗原)が存在し,適当な条件下で生体はこれら抗原と反応する能力を有することは今日では衆知の事実である.しかし腫瘍抗原は一般にその抗原性が弱く,したがつて宿主に対して強い免疫応答を起こさせにくい.一方担癌宿主の免疫能は一般に低下しており,かりに腫瘍抗原に対して応答できたとしても,これを拒絶するにいたらず腫瘍の増殖をゆるしている状態が癌患者の姿であろう.したがつて,癌免疫療法はこの腫瘍—宿主関係を両側から改善し,強力な免疫応答が成立するように工夫するにあることはいうまでもない.
 実験的に腫瘍免疫を強化するいくつかの方法が考案され,試みられてきた.それらを列挙すると,(1)免疫賦活剤による非特異的免疫能の増強.(2)種々の方法によつて腫瘍抗原の抗原性を増強させ,特異的活動免疫を成立.(3)感作免疫担当細胞の移入による免疫の成立.(4)免疫学的メディエーター(transfer factorや免疫RNA)の移入による受動免疫.(5)抗腫瘍抗体による受動免疫.(6)阻止因子の除去による免疫の増強.これらの多くは正常動物を予め処理することによつて同系移植腫瘍の移植不成立(免疫予防法)で効果が判断されたものが多く,担癌宿主に与えて有効な効果を発揮したものは少ないか,あるいは未だ検討されていないものもある.しかも多くは移植腫瘍を対象としており,したがつてすべての方法が直ちに人癌の免疫療法に役立つとはいえないであろう。

Ⅱ.癌患者の免疫状態

著者: 折田薫三

ページ範囲:P.1385 - P.1391

はじめに
 1902年Reed1)が進行したホジキン氏病ではツベルクリン反応が陰転していることをはじめて報告して以来,リンパ—網内系の腫瘍では細胞性免疫の低下していることが普遍的事項として知られている.比較的最近になり,非リンパ系の固型癌患者でも細胞性免疫が低下ないし障害を受けているという報告があいついでいる.発癌実験や種々の臨床的知見から,人においても細胞性免疫が発癌から腫瘍の増殖に重要なる役割を演じていることが次第に明らかとなり2-5),さらに近年,欧米を中心にメラノーム,白血病などで免疫療法の有効なことが確認されるにおよび,癌と免疫,癌の免疫療法が世界的規模でのテーマとなつている.他方,液性抗体については異論もあるが,慢性リンパ性白血病,リンパ肉腫,多発性骨髄腫のようなリンパ—網内系あるいは骨髄系の腫瘍では特に一次抗体産生能が低下しているが,これら以外の悪性腫瘍では一般に,末期に至るまで抗体産生能は比較的良く保たれている6-9),周知のごとく免疫系は大きく細胞性免疫と液性免疫に二分され,前者は胸腺依存性のTリンパ球,後者はFabricus嚢依存のBリンパ球が中心となつている.後者のB細胞が形質細胞となつて液性抗体を産生するわけであるが,抗原の種類によつてはB細胞単独でこれに対する抗体を産生しうるが,多くはT細胞(helper T-cell)の力を借りて抗体を産生する.

Ⅲ.術前術後からみた癌患者の免疫療法

著者: 服部孝雄 ,   新本稔 ,   峠哲哉

ページ範囲:P.1393 - P.1399

はじめに
 癌の治療は,外科的手術療法,放射線療法,制癌化学療法の3つが中心となつて,とくにこの数年間目ざましい発展をとげた.一方癌の診断技術も飛躍的に進歩したので,この両者が一緒になつて,癌の治療成績は著しく進んだように見える.しかしながら,癌の臨床の実際にたずさわつてみると,依然としてこれらの治療手段では全く歯のたたない,末期進行癌の患者が後をたたない有様で,現在の治療法の限界をいやでも思い知らされるわけである.制癌化学療法でたしかに効果があつたと思われる例にぶつかることは現在必ずしも稀でないが,その効果の持続期間の短いことには落胆させられることが多い.生命をほんの少し先へのばしてやつただけという程度の効果に満足しなければならない.癌を治療する臨床家の切実な希望は,何とかこのような効果を長びかせるような,そういう画期的な治療法の出現である.そして何かそれにこたえてくれそうな期待がもてるのが免疫療法ではないだろうか.
 癌患者の予後は例外なく悪いものと信ぜられている.臨床の実際にあたつて,われわれの予測を裏切つて,良好な予後をとるような癌患者というものはまずないであろう.しかし全くないわけではなく,例外的に長期間生存する症例にぶつかることがある.このような場合にわれわれはまず,診断に誤りがなかつたろうか,という風に考えるように教えられてきた.確かに組織学的にも裏付けのある癌患者で,予測を裏切つて良好な経過をとり,長期間生存するような症例がそれでもなお存在することを,われわれ臨床家はかなり古くから知つていた.それが宿主の抵抗性に基づくものであろうとは考えながら,患者の免疫力に結び付けるにはあまりにも基礎的な実験的な根拠が乏しかつたのである.

Ⅳ.癌免疫療法の実際

BCGによる癌免疫療法

著者: 吉崎和幸

ページ範囲:P.1401 - P.1408

はじめに
 最近,癌に対する従来の治療法,化学療法,外科療法,放射線療法に加えて免疫療法がにわかに注目されてきた.
 癌の免疫療法は第1表に示したように,(1)active immunotherapy,(2) passive immuno-therapy,(3) nonspecific immunotherapyと大別される.active immunotherapyは腫瘍細胞または細胞分画を直接またはアジュバントと共に宿主に免疫するものである.passive immunotherapyは腫瘍で免疫して得られる抗血清,感作リンパ球またはそれらからの抽出物を癌患者に移入して腫瘍免疫を受動的に獲得させようとするものである.これに対してnonspecific immunotherapyは主として宿主の抵抗性を高めることを目的とした治療法である.

リンパ球移入による癌免疫療法—細胞性受動免疫療法

著者: 三井清文

ページ範囲:P.1409 - P.1420

はじめに
 最近,癌免疫療法への期待が癌研究者のみならず,臨床医さらに一般の人々の間にまで急速に高まつてきた.その背景には数年来の腫瘍免疫学の目ざましい発展によつてもたらされた多くの新しい知見があり,これらの知見をもとにして,従来の癌治療法に対する反省とともに,癌免疫療法の可能性を現実的課題として検討する必要が生じたものとみることができる.癌免疫療法自体は,すでに19世紀末からその可能性が追究され,各種の免疫療法が臨床癌に対しても試みられてきたが.十分な成果をあげるまでに至らなかつた.しかし,ここ数年来の癌免疫療法への関心の高まりは決して一時的な流行ではなく,現代免疫学と腫瘍免疫学との多くの重要な知見を根拠としており,当面する癌治療の厚い壁を打ち破るまで持続するものと予想される.なぜならば,この壁を打ち破るためには,従来の治療法の発展に加えて,宿主の癌に対する抵抗性を増強させるような新しい治療法の開発がぜひ必要であり,癌病態を腫瘍宿主相関からみるとき.免疫療法こそそれに応えるものとなろうと予想するに十分な根拠があると思われるからである.

いわゆる免疫化学療法—溶連菌製剤:ピシバニール,蛋白多糖体:PS-K,嫌気性菌:コリネバクテリウム

著者: 小川一誠

ページ範囲:P.1421 - P.1426

はじめに
 現在の癌化学療法においては,実験的または臨床的な知識を基礎にして,有効な薬剤を選択し,さらにそれらを組み合わせる併用療法により,急性白血病,悪性リンパ腫においては80%以上の症例に寛解がえられ,また,肺癌,胃癌,腸癌等の固形腫瘍においても約半数の症例に腫瘍の50%以上の縮小を認める成績がえられている.しかし,これら腫瘍細胞の"total kill"を目指す治療方法にも限界があり,腫瘍効果がそのまま生命延長に必ずしも反映されず,治癒に到らしめる過程にはいまだ解決せねばならぬ困難な問題が山積しているのが現状である.化学療法の方式は上に示されるごとく,強力な薬剤を用いての寛解導入,そして寛解維持療法,あるいは強化療法が用いられているが,それに用いられる薬剤の欠点は,生体免疫機能を低下させることであり,また腫瘍細胞の薬剤に対する耐性発現が生じてくることである.それ故に,近年注目されているのが,減少させた腫瘍細胞を生体の免疫機能を高めて,増殖を抑制,または死滅させようとする概念に基づく免疫療法である.このような研究の端緒となつたのは,Mathé1)らによる急性リンパ性白血病に対ずるBCG療法であり,以後いろいろの薬剤が主として,非特異的に免疫機能賦活をするために研究されている.本稿では,BCGを除く本邦において開発され研究されている,ピシバニール,PS-K,コリネバクテリウムに関して概要を述べたい.

免疫監視療法による進行胃癌の治療—放射線及び抗癌剤による抗原誘導とリンパ球移入を基礎に

著者: 佐藤一英 ,   仁尾裕 ,   中嶋靖児 ,   臼井龍 ,   戸塚茂夫 ,   真木実

ページ範囲:P.1427 - P.1433

はじめに
 癌治療の対策は種々の方面より行なわれているが,その主題となすところは早期発見であり,病巣の外科的処置としておることは周知のとおりである.然るに現実に臨床家が直面する癌患者はその大部分が進行癌の状態にあり,発見と同時にその治療に苦慮せざるを得ないところである.もちろんこれらの進行癌に対してでもコントロールしようと図り,これまで外科的,化学療法的および放射線医学的に多大の努力が払われ,それなりに幾多の改善法が見出されてきた.著者等は癌対策の根底の一つとして,担癌生体内の癌組織を縮小化するかまたは排除するような生物学的反応系を導入させることが必要と考え,その開発に努めてきた.周知のごとく,古くから多くの研究者より,細菌学の分野より発展した免疫学を基礎に,腫瘍の自然排除を惹起させようとして努力し,実験腫瘍の面で多くの業績がなされてきた7-17).しかし単なる自動免疫および他動免疫の導入によつては,人の腫瘍に用いた場合は良い結果が得られなかつた18-20).それはLudwig等21-24)が示したように人の進行癌患者においては細胞性免疫反応が低下しており,それ故に感染症患者の免疫効果と異なり,免疫反応が生じ難くなつているものと推定される.われわれはこれらの担癌生体の反応系を配慮しつつ,臨床応用に入る以前にまず担癌動物を用いて種々の方法を考案し,腫瘤排除機能の賦与法について検討した.そのもつとも基本的な考え方としては次の2つの問題の解決がまず必要条件と考えられた.その1つの問題は担癌生体内に抗癌活性を生ぜしめるような有効な腫瘍抗原をいかにして求められるかであり,他の1つはすでに抗癌免疫体の生産系がブロックされている生体に,どのような方法により癌免疫因子産生系を賦活させ得るかの問題であつた.この2つの問題の解決方法として種々の基礎的検討を重ねたが,これまでのところ次のような事実が得られた.すなわち,組織培養した新鮮分離腫瘍細胞に対し,その分裂増殖速度に応じて3,000〜6,000RのX線照射を行なうとその培養液中にマクロファージおよびリンパ球を感作し得る因子が遊離してくることがわかつた1-3).もちろんこの液を用いて試験管内でマクロファージ,リンパ球または骨髄細胞等を培養すると,それぞれ感作され,試験管内において標識細胞の増殖を抑制する活性をもつようになる4).そこでこの感作細胞を担癌体の免疫監視系の刺激因子として用い,さらに腫瘍局所に放射線照射を行ない,腫瘍抗原の遊出を図り,両者の相互作用で担癌体に腫瘤排除作用が生じるかどうかが検討された.その結果,感作細胞の静注以前に1,000Rという比較的少量の放射線を局所に照射しておくと著明な抗腫瘍作用が発現し,腫瘤が著しく縮小消失した4).この作用機構を臨床的に応用し得るように配慮し次の実験を行なつた.すなわちin vitro感作細胞を用いる替りにin vivoつまり担癌生体内で感作細胞が生じるような系を試案し同時に腫瘍局所より抗原が遊出されるような照射法を導入してみた.その結果,あらかじめ適量の放射線を腫瘤局所に照射しておき,ついで同種動物の正常リンパ球の静注投与を行なうと著明な抗腫瘍効果が現われ,さきのin vitro感作リンパ球と照射との組合せ結果と同様の効果がえられた5).これらの結果から,この実験系に準じて行なえば人の癌治療にも応用しうると考えられた.臨床的には腫瘤の一部よりまず放射線またはある種の抗癌剤を抗原誘導の目的で使用し,適量に達した時点で免疫担当細胞として健康人末梢血より得たリンパ球を移入する方法を導入してみることにした6). 1971年6月以降種々の末期癌患者について症状に応じ多少の方法を変え前述の原則に準じた治療を行なつてきた.今回は紙面の都合もあり,その一部,胃癌の治療成績をとりあげ臨床結果について述べる.

脳腫瘍に対する免疫療法

著者: 高倉公朋

ページ範囲:P.1435 - P.1441

はじめに
 癌に対する免疫学的治療への関心が近年著しく高まつているが,悪性脳腫瘍の治療においても,その可能性を追究する研究が地道に進められている,脳は従来他の臓器と異なり,リンパ系組織を持たない免疫学的に特殊な,免疫現象の起こりにくい臓器と一般に考えられてきた.しかしallergic encephalitisの存在することや,glia細胞中のmicroglia細胞がmacrophageと同じような働きを持つことが明らかにされたり,各種脳炎や膿瘍に見られるような多数のリンパ球浸潤による間質反応を考えてみると,脳も決して免疫反応から疎外された特殊な臓器でないことは明らかであろう.Gliomaの組織像を見てもリンパ球の浸潤像が認められ,このような間質反応が他の癌と同じように重要な意義を持つていることに変りはない.
 脳腫瘍患者における免疫学的監視機構(immunological surveillance system)が他の癌患者と同様に低下していることも最近の多数の研究から明らかにされてきている(第1表).悪性脳腫瘍患者では末梢血中のリンパ球が減少し,それに伴つてT細胞も減少している,細胞性免疫機構の低下の一つの指標となるPPD(tuberculin)反応やDNCB反応などの遅延型過敏反応の低下が著明で,悪性gliomaや転移性脳腫瘍患者では高率に陰性化している.リンパ球のPHAに対する幼若化率も同様に低下している.Glioma細胞を培養し,患者のリンパ球を混合培養することによつてcytotoxicityが認められ,しかも患者血清にそのblocking factorの存在することも明らかになつた.Humoral immunityの立場からは,患者血清中にある自己抗体の存在が免疫粘着現象によつて認められている.この自己抗体とblockingfactorとの関連もやがて明らかになることであろう.以上にあげた事実は脳腫瘍患者に免疫監視機構が存在し,しかも低下していることを示唆するものである.

グラフ 消化管内視鏡シリーズ・4

内視鏡的膵・胆管造影法

著者: 高木国夫 ,   竹腰隆男

ページ範囲:P.1376 - P.1381

 十二指腸乳頭部は膵・胆道疾患と関連が深く,上腹部臓器の診断上重要な部位である.経日的に乳頭部を内視鏡で観察,乳頭□へ挿入して,膵・胆管を逆行性に造影する方法が1969年大井及び著者により開発され,現在では世界的に広まつている.
 この内視鏡的膵・胆管造影法(endoscopic pancrea-tocholangiography,略してEPCG)は現在ではルーチン検査として膵・胆道系の診断に用いられて,その臨床的意義はきわめて高い(①).乳頭口からの膵管造影率は90%以上であり,胆管は70〜80%であり,胆管系の造影は本法のみでなく,経皮的胆管造影法もあるが,膵管の造影は本法のみで,造影率も高く膵臓の診断的価値が高いものである.

外科医のための生理学

肝臓の生理

著者: 小沢和恵 ,   山岡義生

ページ範囲:P.1449 - P.1452

はじめに
 肝臓で営まれるいろいろの代謝様式は,過去十数年間の分子生物学の進歩によつて,数々の知見が明らかにされている.肝疾患の治療にあたつてそれらの知識を理解精通した上で手術を施行すべきであるが,現実的には,それらの知見の外科領域への導入の遅れを痛感せざるをえない.ここで,与えられた"肝臓の生理"という命題について限られた紙面で論ずることは不可能であり,総括的な知識と私どもの最近の見解を併せて述べてみたい.

Pros & cons

「空腸移植を併用した幽門側(BI法)広範囲胃切除術」に関するわれわれの考え方—(「臨床外科」第30巻第8号所収,榊原宣氏他の反論に応えて)

著者: 松林冨士男

ページ範囲:P.1453 - P.1456

はじめに
 榊原博士1)等の著者の論文「空腸移植を併用した幽門側(BI法)広範囲胃切除術」に対する反論を拝読して,著者の意見や,先人の残した数々の学説とことなるところが多いので,反論に対する反論でなく,正論を述べさせて頂きます.

座談会

卒後臨床研修を考える—日本外科学会実態調査をめぐって

著者: 牧野永城 ,   出月康夫 ,   熊谷義也 ,   吉岡昭正

ページ範囲:P.1458 - P.1472

 日本外科学会総合調整特別委員会によつて3年間に亘り行なわれた,外科卒後教育に関する実態調査報告が,学会誌上及び日本外科系学会連合会等で公けにされ,各方面で大きな反響を呼んでいます.この調査の一つの特徴として,直接インタビューによるアンケートという全く新しい方法で行なわれたことがあげられます.そこで今回,この調査に携わつた方々にお集りいただき,自ら各施設のレジデントに接して,肌で感じられた卒後外科教育の問題点を,調査結果の分析を通じて話し合つていただきました.

カラーグラフ

大腸隆起性病変の微細表面形態—アルシャンブルー染色と実体顕微鏡の応用

著者: 小坂知一郎 ,   榊原宣 ,   鈴木博孝 ,   長廻紘 ,   青木暁 ,   小林政美 ,   矢端正克 ,   中江遵義 ,   矢沢知海 ,   竹本忠良 ,   中山恒明

ページ範囲:P.1473 - P.1476

はじめに
 大腸内視鏡検査の進歩には目覚ましいものがあり,最近では病変の拡大観察,色素着色法の開発など,診断能力を向上させる努力がなされている.しかるにわれわれが拡大観察に必要とする大腸粘膜表面形態の解析はほとんどなされていない.そこで数年来,われわれは拡大装置付ファイバースコープの開発,メチレンブルー着色法の研究をすすめるとともに,その基礎的研究として,生検により得た着色粘膜組織の実体顕微鏡的観察,カラチ・ヘマトキシリン染色と実体顕微鏡を応用し,大腸微小隆起性病変の形態学的分類1)などを行なつてきた.このメチレンブルー液,カラチ・ヘマトキシリン液が粘膜表面の吸収上皮を主体に着色あるいは染色するのに対し,現在われわれは粘膜表面のGoblet cellを主体に染色するアルシャンブルー液を用い,表面形態の拡大観察を行なつている.これらの研究は,その組織学的所見の裏付けによつて病変の表面形態を解析し,さらに近い将来臨床的に応用できるものと考えている.

臨床研究

ライナックマンモグラフィーのカラー変換について

著者: 西井憲一 ,   江原功 ,   日野紘孝 ,   宮崎幸俊 ,   小山弘二 ,   丸山清 ,   山本俊介 ,   田口光雄

ページ範囲:P.1477 - P.1480

はじめに
 乳房撮影のX線写真は,従来白黒の濃度により表現されてきた,しかし,これをカラー化することにより,更に多くの情報を得ようとする研究が試みられ,1958年にはFisher及びGershon-Cohen1)らによりmammographyのX線フィルムをTV systemを用いてカラー化した報告がある.また,わが国でもカラー化の試みは1970年に高橋(勇)2)らの発色現像法を用いた報告がある.その後,種々の研究報告がなされてきたが,まだまだ技術的にも困難な点も多く,カラー化情報量も少なく鮮明でない欠点が多かつた.しかし近年の電子工学の目ざましい発展により,X線診断の領域にもこれが導入されるようになつた.しかしmammographyに関しては,ますます低電圧による乳房撮影の傾向にある中で,われわれはまつたく新しい試みとして,これとは逆に超高圧X線治療装置(linear accelerator)によつて超高圧X線乳房撮影を行ない,そのフィルムの濃度差をcolor変換して,乳房腫瘤の診断に役だてようとするものである.

先天性肥厚性幽門狭窄症—術後嘔吐を中心として

著者: 飯島勝一 ,   牧野永城 ,   干哲三

ページ範囲:P.1481 - P.1484

はじめに
 Ramstedtの幽門筋切開術は先天性肥厚性幽門狭窄症の治療として,安全なしかも十分に満足すべき効果がえられる手術法として普遍的に用いられている.しかしながら,一方術後長期間にわたつて嘔吐が続いたり,体重の増加がおもわしくない症例も少なからず見聞されている.この術後嘔吐は外科医にとつて頭の痛い問題であるが,これに関する報告は幽門狭窄症に関する数多くの文献の中にあつてきわめて少なく,その本態は解明されていない.この観点よりわれわれは,この嘔吐が果して臨床的な因子と何らかの関係ありや否やを検討してみたところ,若干の知見がえられたので報告する.
 材料は聖路加国際病院および佼成病院において1964年から1973年の10ヵ年間に本症で外科的治療を受けた54例である.

術後20年腹腔内残遺ガーゼ周辺存在物質に関する臨床的ならびに実験的報告—放射化分析法および赤外分光分析法による検討

著者: 一戸兵部 ,   杉本博洲 ,   石川惟愛 ,   佐藤光永 ,   秋葉文正

ページ範囲:P.1485 - P.1488

はじめに
 放射化分析法は近年著しく発達しつつある分析法である.特に戦後,原子炉の開発と測定器の急速な進歩に伴つて熱中性子による放射化分析が容易に行なえるようになり各方面で新しい知見がえられている.
 著者らは,最近,約20年前手術の際腹腔内に残されたガーゼによる異物腫瘤を切除する機会をえた.患者は臨床上術後20年間何ら苦痛を訴えていなかつた.このガーゼ周辺をとりかこんで存在していた淡黄色泥状物質の理化学的性質を調べる目的でその自然乾燥物の中性子放射化分析法を試み,Ca,Mg,その他の定量を可能ならしめた.さらに本物質は石灰化していたので同試料につき赤外分光分析を行なつていろいろ検討した結果,その化学組成式を推定し,いわゆるhydroxyl apatite様物質と同定したので報告する.

間歇性跛行の手術療法

著者: 塩野谷恵彦 ,   平井正文 ,   河合誠一

ページ範囲:P.1489 - P.1493

はじめに
 間歇性跛行とは下肢動脈の慢性閉塞症,すなわちBuerger病や閉塞性動脈硬化症などに特有な症状で,歩行にさいして下肢の筋組織に生じるいたみのために,ある距離以上歩行を続けることができなくなる病態をいう.
 歩行をやめると間もなくいたみは消失するが,また歩みを続けるとほぼ同じ距離までくると前と同様ないたみが生じて休止せざるをえなくなる.いたみを生じるまでに歩く距離すなわち跛行距離は,同じ歩行速度ならほぼ同じである.

臨床報告

乳頭膨大部癌に他臓器癌を重複した2症例

著者: 工藤正純 ,   後藤洋一 ,   田辺文彦 ,   小川勝比古 ,   高杉信男 ,   手戸一郎 ,   長谷川正義 ,   伊藤哲夫

ページ範囲:P.1495 - P.1497

はじめに
 膵頭十二指腸切除術を行なつた乳頭膨大部癌の2例が,それぞれ早期胃癌と前立腺癌を重複していたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

胃に原発した腺扁平上皮癌について

著者: 角田秀雄 ,   泉山隆男 ,   菊池晃 ,   西田伝 ,   川口忠彦

ページ範囲:P.1499 - P.1503

はじめに
 胃に原発する腺扁平上皮癌は稀なもので,1969年のStraus1)の集計によれば41例を数えるにすぎない.本邦報告例も私共が調べえた範囲内では33例にすぎない.
 私共は,術前進行胃癌と診断し,術後組織学的検索で腺扁平上皮癌と判明した1例を経験したので報告し,さらに文献的に本邦集計を試み,考察を加えてみた.

心筋硬塞に合併した心室中隔穿孔の閉鎖および左室瘤切除の1治験例

著者: 小原邦義 ,   酒井章 ,   島倉唯行 ,   遠藤真弘 ,   林久恵 ,   今野草二 ,   福沢利明 ,   石沢慶春

ページ範囲:P.1505 - P.1509

はじめに
 心筋硬塞に合併した心室中隔穿孔はきわめて予後不良で,通常強い両心不全に陥り,その大半が硬塞発作後の早期に死の転帰をとるといわれている1,2).最近われわれは,急性期の危険を乗り越えた同合併症1例に対し,慢性期においても,うつ血性心不全や重症不整脈があり,社会復帰しえない状態のため,心室中隔穿孔閉鎖と左室瘤切除を同時に行ない,劇的な改善をえたので報告し,併せて外科治療上の問題点につき若干の考察を加えたい.

特発性小脳内血腫の1例

著者: 井沢正博 ,   間中信也 ,   名和田宏

ページ範囲:P.1511 - P.1514

はじめに
 近年,後頭蓋窩の病変に対する神経放射線学の発達により6),小脳内出血に対する診断がさらに確実になつた.しかし特発性小脳内血腫は,全脳内血腫の約10%4,11)と比較的稀である.さらにその大部分が高血圧性であり,血腫の第4脳室内穿破,あるいは血腫による脳幹圧迫のため本疾患の予後は不良である.したがつて特発性小脳内血腫に対する手術的治療例は比較的少ない.今回われわれは,臨床症状および諸検査により特発性小脳内血腫と診断,手術により救命しえた1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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