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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻4号

1975年04月発行

雑誌目次

特集 腹部外科のPhysical Signs

視診の教えるもの

著者: 井口潔

ページ範囲:P.417 - P.422

はじめに
 近年,レントゲンを初めとする理学的検査や臨床検査室における化学的検査など諸種の検査法が発達し,早期診断や治療法の選択に大きな進歩をもたらしたとはいえ,診断学の基本はあくまで正確な問診と,それにひきつづいて行なわれる視診,触診,聴診などの理学的所見についての医師の判断にあることはいうまでもない.なかでも視診は患者に接した瞬間から始まり,問診と共に診断の第1段階として,触診,聴診,あるいは臨床検査法の選択に重要な示唆を与えるものである.豊富な経験と知識をもつ医師の"first impress-ion"はときに諸種の理学的,化学的検査法に優るものであり,診断の基本としての視診の重要性をよく認識することが必要である.
 さて,今回の主題は腹部外科に関するものであるが,視診の範囲は腹部のみに限局するものでなく,疼痛があるときの患者の特有な体位,古来よりヒポクラテス顔貌と呼ばれる癌末期患者の顔,その他,黄疸,貧血,出血斑など,腹部疾患と関連ある重要な所見が全身各部位にあらわれることを忘れてはならない.

急性腹症の触診のコツ

著者: 秋田八年 ,   迫田晃郎

ページ範囲:P.423 - P.426

はじめに
 急性腹症は急激に起こる腹痛を主徴とし,腹腔臓器の破裂,穿孔,急性炎症,通過障害,血行障害とこれらに伴う限局性あるいは汎発性の腹膜の反応が包括される.そしてこれに対し迅速,積極的な外科的対応が要求される.従来ややもすれば安易に"急性腹症"の診断をつけ開腹を急ぐのあまり真の診断への努力が忘れられがちであるが,これは慎しまねばならない.
 診断には少なくとも病歴聴取,診察,臨床検査,X線検査など駆使し全智を投入する習慣が大切である.すぐ病変部の触診から始めるが如きは賢明な方法ではない.本項では与えられた命題に従って触診を主として述べるが視診,打診,聴診などの他の理学的所見とその総合的解析と判断が一層重要であることを強調しておきたい.例えば胃十二指腸潰瘍の穿孔が疑われるとき病歴に潰瘍症状が潜在したり,腹痛がいつ,どの部位にどんな状態で始まつたか,疼痛発現の模様と程度の聴取の資料は診断に極めて重要な示唆を与える.

腹部の抵抗と腫瘤

著者: 綾部正大 ,   西村興亜 ,   谷田真

ページ範囲:P.427 - P.432

はじめに
 腹部の外科領域において腫瘤あるいは腫瘤様の抵抗を認める疾患は少なくないが,これを正しく認知してその本態が何であるかを決定することは必ずしも容易でない.現今いろいろ高度な検査法や診断技術が開発され,術前に確定診断を下し,悪性腫瘍などについては根治手術の可能性さえ予測しうる場合もある.しかし腫瘤診断の第1歩はやはり綿密詳細な病歴の聴取であり正確な現症の把握にあることに変りはない.
 腹部の腫瘤ないし抵抗は患者が自ら気付き主訴として来院する場合もあるが,その他のいろいろの愁訴で来院し医師の診察により初めて発見されることが多い.いずれにせよこのようなphysicalsignsとしての腫瘤の診断は周到適切な問診と熟練した診察により決定できるものであり,われわれ外科医にとつては必須の基本的事項である.

直腸診の重要性

著者: 大内清太 ,   西川泰右 ,   久保園善堂

ページ範囲:P.433 - P.437

はじめに
 直腸・肛門部の疾患にはいろいろのものがあるが,その中で痔核を罹患している人が意外と多い.痔核は便秘,長い旅行,不養生などで悪化し,安静,坐薬,坐浴などで軽快することが多い.そのためか肛門部より出血,あるいは排便異常があつても,例の持病位に安易に考え勝ちで,医師を訪れようともしないし,医師も話を聞いて痔核かと思い,精査を怠ることさえある.
 その結果,重要な疾患,例えば直腸癌などの発見がおくれ重大な結果を招くことがある.

痛みの特徴

著者: 内田耕太郎 ,   本庄一夫

ページ範囲:P.439 - P.443

はじめに
 痛覚とは,一般に生体に有害な刺激作用によつてひきおこされる不快な感覚,あるいは神経終末に対する刺激により惹起され,多少とも限定された不快・苦悩・苦悶を伴つた特定の自覚的な感覚と定義される.疼痛には通常身体的表現が伴い,防衛反応,逃避反応としての筋運動ばかりでなく,自律神経性反応として恐怖の際の反応と同様に,頻脈,血圧亢進,呼吸促迫,瞳孔散大,発汗,顔色の変化,叫声などが出現する.
 発熱,嘔吐などその他多くの自覚症状と異なり,夜間耐えきれず医療を求める原因になるものとして腹痛が多いことはしばしば経験するところである.

聴診から得られるもの

著者: 石川浩一

ページ範囲:P.445 - P.448

はじめに
 近年腹部の外科的疾患には,消化管二重造影,胆道造影,消化管内視鏡,胃液・膵液の分泌機能試験,消化吸収試験,腹部大動脈とその分枝・門脈などの血管造影が日常広く用いられるようになり,診断は質的にも局在的にもきわめて精密に行なわれるようになっている.しかし,患者に与える負担が少なく,疾病の本質に触れやすく,また設備や人員を要しないなどの点で,腹部の視診,触診,聴診,計測,直腸指診,糞便検査,腹部X線単純撮影などの古典的な診断法は依然として重要であつて,その価値が大きい.ことに,腹壁・腹膜内外の病変や腸管の運動機能などの診断には精密検査法に盲点があり,また急性腹症や腹部血管異常の診断には,聴診法が今なお欠くことのできない診断法となつている.
 このような部位の病態について,腹部で聴診しうる雑音は大きい推測の材料となつたり,診断のきめてとなつたりするものであつて,従来胸部に聴診器をあてる姿が内科医を象徴するように,熟練した外科医にとつて腹部疾患の診断に聴診器が重要な武器となつている.

EDITORIAL

Physical Signsに寄せて

著者: 卜部美代志

ページ範囲:P.415 - P.416

 私達は,学生の頃,外科総論の講義をきいて,外科的症候学,ないし,外科的診断学を学んだことを,なつかしく思いだすことができる.それで考えられることは,外科学のはじまりは,疼痛,腫脹,腫瘍,出血,潰瘍などphysical signsから起こつて,発達してきたのではないかということである.その後,今日までの外科学の進歩に従つて,これらのphysical signsの観察内容,ならびに,意義づけも,昔に比べて大きく進展し,近代外科学の理論がおりこまれているにちがいない.例えば,出血についても,現代の外科医がぜひ知らねばならない新しい知見がたくさん加えられ,また,今後,進むべき方向も示されているにちがいないのである.
 Physical signsは,くわしくいえば,症状と所見とに分けられるであろう.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・33

乳腺悪性腫瘍の諸相—手術材料の病理解説 Ⅲ.特殊型乳癌(1)

著者: 広田映五 ,   佐野量造

ページ範囲:P.412 - P.413

 乳癌取扱い規約に記載されているごとく,この種の癌は比較的まれで特異な組織形態を示すものである.しかも部分像としてでなく,大部分がこの組織形で占めている場合のみに採用することになつている.本院の集計によると,特殊型乳癌は全乳腺悪性腫瘍の7.6%である.本号では次の3型の症例について供覧することとする.

座談会

医療事故を考える

著者: 浅山健 ,   饗庭忠男 ,   林正秀 ,   松峯敬夫 ,   牧野永城

ページ範囲:P.450 - P.465

 医療事故問題の取扱い方は時代と共に変化してきました,医療が医師と患者の相互信頼関係の上に成り立つことに変わりないとはいえ,医療と人権をめぐるトラブルはますます複雑化・多様化の傾向にあります.今回は日常の臨床レベルでの具体的な事故防止のための考え方について,法律家のご意見を伺いながら,外科からみた問題点を浮き彫りにしていただきました.

外科医のための生理学

胃—運動の生理

著者: 田中直樹

ページ範囲:P.473 - P.475

 1.胃運動の2つの型 第1図は,よく引用されているCode1)のものであるが,人の胃の運動を3つの型に分類している.しかしよく見ると,このうちtype Iはtype IIの波の小さなものに見える.またtype IIIは,実は曲線のうちの基線の隆起部分を指すので,一般には,胃の運動はtype II 1つであると考えても誤りとはいえない.これが胃の蠕動であり,1分間に3個程度発生することから,20秒波とも呼ばれる.そして,これが輪状筋の収縮を示すことには異論がない.
 ところでCodeのいうtype IIIとは何を意味するのであろうか.著者らもかつて胃の興奮の強い時にこれを認めて,tonusの変動と考えていた.しかし最近の,犬胃におけるストレンゲージ法の記録によると,胃を筋層により3つに分けた場合(第2図),下の2つの領域すなわち斜走筋領域と輪状筋領域においては,type II型の収縮が認められるが,上の2つすなわち環状筋領域と斜走筋領域(ここだけは2つの波がダブル)では,蠕動波よりはるかにおそい収縮が認められているのである.これがCodeのtype IIIと全く同じかどうかは別としても,環状筋と斜走筋が走行からいって極めて近い関係にあることと,斜走筋領域のみが外縦,中輪内斜の3層構造をもつことと考え合わせると,このおそい収縮は斜走筋のもののようにも思われてくる.しかし,この収縮に関連した活動電位はまだ記録されない.

トピックス

市販器具の改良によるイレオストミー用器具の製作および使用法

著者: 中込義昌

ページ範囲:P.476 - P.479

 はじめに 私は潰瘍性大腸炎により1968年11月に手術を行ない人工肛門を持つ身となり,最初の内はラパックを使用していたが,社会復帰を考えると,ラパックには不安を感じ,なんとか通常の生活ができるような器具がないかと考えた.
 アメリカではイレオストミー人口が多く,多数の器具が開発されていると聞き,カタログを取寄せて注文を出したが入手できずに終り結局自分で器具の製作をしなければだめだと思い色々研究することにした.アメリカのカタログを見るとほとんどが器具を接着剤により肌に固定する方法が行なわれており,この方法で研究することにした.

臨床研究

成人輪状膵に対する考察

著者: 吉川和彦 ,   沈敬補 ,   深水昭 ,   梅山馨

ページ範囲:P.481 - P.488

はじめに
 輪状膵は,まれな膵組織の発育異常で1881年,Tie-demann1)により初めて記載され,1862年,Alexander,Ecker2)が剖検時にこれを発見し,以後"AnnularPancreas"の名称で呼ばれ,欧米では現在までに100例を越える報告がみられる.
 本邦においては,1922年黒沢3)によつて2剖検例が報告されたのが最初であるが,1954年には小泉4)が初めて手術に成功した症例を発表し,以来1967年に古味5)らは自験例を含めて42例の文献的集計を行なつている.このうち成人の輪状膵は16例にすぎない.成人における輪状膵は新生児のそれとは病状において異なつており,同一の範疇では論じられない.

手術の周辺

持続陽圧呼吸PEEPおよび間歇強制換気IMVによる呼吸管理

著者: 後藤幸生 ,   宮野英範 ,   永田真敏

ページ範囲:P.489 - P.497

はじめに
 急性呼吸不全の患者に対してレスピレーターによる機械的人工呼吸法は,日常広く行なわれている.しかしながら,ごく短時日の間に患者の呼吸状態が回復した場合はよいが,一旦長期化するとかえつて呼吸器系のみならず全身的な不治の障害すら残すようになり,その他いろいろの難かしい問題が生じてくる.
 本稿では,これらのうち2つの問題点すなわち人工呼吸中のhypoxemiaとweaningの方法につき考察し,その対策としてわれわれの行なつている方法ならびに症例につき述べてみたい.

臨床報告

左Morgagni孔ヘルニアの1例と本邦報告例の統計的観察

著者: 松岡潔 ,   伊藤保憲 ,   溝淵正行 ,   野村武生 ,   桑原和則 ,   仲宗根浩二 ,   河島浩二 ,   笠井敏雄

ページ範囲:P.498 - P.506

はじめに
 近年小児外科のめざましい発展に伴い,新生児期にそのほとんどが緊急手術の対象となるいわゆるBoch-dalek孔ヘルニアの報告は著明に増加しているが,Mo-rgagni孔ヘルニアについては頻度も比較的少なく,症状も通常軽微であり,年長児から成人に到つて発症するか,または偶然発見されることが多いために,その報告はさほど多くはない.本邦におけるMorgagni孔ヘルニアの報告は,1926年飯田1)の剖検例が最初であり,内野ら2)は1969年自験例を加えて32例を集計し検討を加えている.その後いくつかの集計がみられるが,1973年長岡ら3)は自験例を入れて49例の報告があるとしている.われわれが調べえた限りでは1974年3月までにすでに71例に達しており,漸増の傾向がうかがわれる.本症は右側に発生することが多く,左側例はまれである.
 われわれはさきに14歳男子で,軽度の腹部症状を主訴とし,一時は心肥大とも誤診されていた左Morgagni孔ヘルニアの1例を経験したので報告すると共に,あわせて本邦報告例71例について統計的観察を試みてみたい.

Pilonidal Sinus 14例の経験

著者: 井原悠紀夫 ,   福留厚 ,   磯山徹 ,   渡辺千之 ,   白川洋一 ,   神谷喜八郎 ,   新井正美

ページ範囲:P.507 - P.510

はじめに
 Pilonidal sinusは本邦ではまれな疾患とされ,その報告例16,18,21,24,25,33,34,38)は少ない.都立墨東病院外科では1966年より1973年までの8年間に14例の本症を経験した.その発生頻度および術式などについて検討し,若干の文献的考察を加えた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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