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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻5号

1975年05月発行

雑誌目次

特集 胃切除後にくるもの—その対策と治療

胃切除後のMalabsorption

著者: 井口潔 ,   友田博次

ページ範囲:P.523 - P.527

はじめに
 胃手術,ことに胃全摘後では,栄養素の消化吸収率の低下や食餌摂取量の減少などのため,栄養低下,体重の減少,下痢,浮腫,低蛋白血症あるいは貧血などをきたし,適切な術後栄養管理を行なわなければ,全身的な栄養低下が起こり,各種のストレスに対する抵抗性も減弱し,術後の就労状況にも影響をあたえ,その予後を不良ならしめると考えられる.また,膵,結腸切除を合併したりすれば,そのために消化吸収障害を起こしてくるわけである.
 ここでは,胃切除および全摘後におけるmalabsorption(消化吸収不良症)および栄養障害につき,その治療と対策をのべてみたいと思う.

胃切除後の下痢

著者: 榊原宣 ,   小松崎孜 ,   矢端正克

ページ範囲:P.529 - P.532

はじめに
 胃切除術は消化器外科の中で今日もつとも一般的に行なわれる手術の一つである.しかし、安全かつ容易に行なわれた胃切除術であつても,術後ある時間経過してから,いわゆる胃切除後症候群を訴える症例のあることは,消化器外科にたずさわるもの誰でも経験するところである.その中でもつとも多いとされるのは胃切除後の下痢である.日常生活に支障をきたすような重症例は稀であるが,これが長期間にわたつて続くと,消化吸収機能障害に関連して術後体重減少などにつながることとなるので,胃切除後の下痢といえども無視できない.そこで胃切除後の下痢の問題について考えてみたい.

ダンピング症候群

著者: 鈴木快輔 ,   木根淵光夫 ,   島田徹治 ,   渡辺糺 ,   成原健太郎

ページ範囲:P.533 - P.539

はじめに
 胃切除術は,Billroth以来94年間変ることなく,現在も一般にはBillroth法が広く行なわれている.これはBillroth法の術後成績が優秀であったこと,ならびに煩雑な手術操作を要しない点にあるようである.しかし一方では,必ずしもBillroth法に満足して連綿としてこの方法に甘んじて来たわけではない.近年,広範囲胃切除術は術後の消化性潰瘍を防止するには良いが,なるべく胃を大きく残し,生理的状態に近づけようという努力がなされているし,Billroth法の欠点を補つて術後障害を少しでもなくそうという努力もなされている.これらの手術方法は多種多様であるが,原則的にはBillroth法を用い,それに種々な方法を加えた変法にすぎない.したがつて前述した如く,Billroth以来100年近く原則的には同法が広く採用されている現況である.
 ここではダンピング症候群を中心とした胃切除の問題点,その防止法,治療法,手術適応などについて述べたいと思う.

胃切除後の骨障害

著者: 武藤輝一 ,   小山真 ,   松木久 ,   福田稔

ページ範囲:P.541 - P.546

はじめに
 胃切除後に起こる骨代謝障害はダンピング症候群や貧血のように高率に発生するものでなく,また術後かなりの年月を経てから現われるものであるだけに,今日なお本邦においてはそれほど注目されていない.
 胃切除後骨軟化症の発生はSarasin (1941)19により初めて報告されたが,1960年代に入り西ヨーロッパ(とくに英国)において多くの報告がなされ注目されるようになつた.一方,本邦においては池田ら(1957)により胃全摘後の骨変化が報告されたが,骨軟化症については教室における堺教授ら18)の発表が初めてであつた.しかし本疾患はとくに術後遠隔時に留意しなければならぬものであり,著者らの経験を基に述べてみたい.

胃切除後のCa代謝

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.547 - P.553

はじめに
 胃切除は早期胃癌発見の頻度の増加により最近しばしば行なわれるのであるが,そのカルシウム代謝に対する効果はあまり深く考えられていない傾向がある.しかしながら胃の生体の健康に必要な生理作用の中で,カルシウム代謝の調節は決して容易に無視することの出来ない重要なものであつて,胃切除後の後遺症としても,カルシウム代謝異常が近年次第に注目されつつある現状である.今回は胃のカルシウム生理学における意義を考えるとともに,胃切除後に起こるカルシウム代謝上の出来事,更にその結果として起こる骨疾患について述べ,その対策を考えたい.

胃切除後の貧血

著者: 長尾房大 ,   山口吉康 ,   青木照明

ページ範囲:P.555 - P.561

はじめに
 胃切除後の貧血は,胃切除後の栄養障害,鉄吸収障害,Castle胃内因子の欠如あるいは不足によるVitamin B12(以下,V.B12と略す)の吸収障害,減酸による腸内細菌繁殖によるV.B12の吸収障害,肝臓内ビタミンC含有量の減少,葉酸の代謝利用の障害などがその発生原因としてあげられている.
 ここでは胃切除後貧血の実態ならびに上記の成因の中でも特に重要な問題とされている鉄欠乏性貧血と巨赤芽球性貧血をとりあげ,最後に胃切除術式とその貧血に対する対策ならびに考え方を述べることにする.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・34

乳腺悪性腫瘍の諸相—手術材料の病理解説 Ⅳ.特殊型乳癌(2)

著者: 広田映五 ,   佐野量造

ページ範囲:P.520 - P.521

 前回に引続き特殊型乳癌,中でも比較的稀な3型を供覧する.

クリニカル・カンファレンス

胃切除後障害をどうするか—早期ダンピング症候群と術後吻合部潰瘍をめぐつて

著者: 渡部洋三 ,   大久保高明 ,   青木照明 ,   榊原宣 ,   牧野永城

ページ範囲:P.562 - P.577

《症例1:早期ダンピング症候群》
 患者51歳,男,会社役員.
 主訴食後30分以内の冷汗,動悸,めまい,顔面紅潮,全身倦怠感,ねむけ,胸内苦悶,腹鳴,腹痛,はきけ,腹満.

外科医のための生理学

胃—消化吸収の生理

著者: 渡部洋三

ページ範囲:P.581 - P.583

 はじめに
 消化吸収の面における胃の役割は,摂取された食物を胃液とよく混和し,これを粥状にして少量ずつ小腸に送り込むことである.したがつて胃は消化吸収の面ではあくまでも脇役で,摂取食物ことに蛋白質を除いた固形食物を細かくして,小腸における消化酵素の作用面積を大きくし,消化を効率のよいものにしている.
 次に胃液の役割について考察してみると,消化吸収に直接あるいは間接に関与している因子は,pepsin,HCl,内因子の3つである.pepsinは蛋白分解酵素で蛋白質をpeptonにまで分解し,HClはpepsinogenを活性化してpepsinに変え,また食物中の鉄をイオン化して吸収しやすくする.内因子はvit.B12の吸収にとつて不可欠である.

臨床研究

胃切除後空腸潰瘍の経験

著者: 安名主 ,   小林巌 ,   畑山善行 ,   松下昌光

ページ範囲:P.585 - P.591

はじめに
 胃酸分泌機構および胃・十二指腸潰瘍の発生因子が明らかになつた今日,胃切除後空腸潰瘍の発生は比較的稀であるが,一方,胃および十二指腸潰瘍に対する術式は多様化しており,術後消化性潰瘍の発生防止,治療などについてなお一周の関心を払わなければならない.
 今回われわれは過去18年間に外科的治療を行なつた6例に基づいて術後空腸潰瘍の,主として発生因子と治療について検討した.

胸部食道癌のリンパ節転移に関する検討

著者: 富田正雄 ,   古賀保範 ,   白石満州男 ,   阿部治美 ,   綾部公懿 ,   武富勝郎 ,   柴田紘一郎 ,   三浦敏夫 ,   釘宮敏定 ,   調亟治 ,   辻泰邦 ,   中山巌

ページ範囲:P.593 - P.597

はじめに
 食道癌の術後の予後を向上させる1因子としては,リンパ節廓清とともに癌巣を十分に切除することにある.
 食道のリンパ流に関しては縦軸方向の経路が指摘され,頸部食道では左右の旁気管リンパ節,深頸リンパ節の経路,胸部食道では旁気管および後縦隔リンパ節の経路,腹部食道では噴門リンパ節経路が指摘されている1)
 しかしながらGarlock2)が述べるように,悪性腫瘍による正常リンパ路の閉塞によりparadoxe lymphbahnの存在を考えるとき,本症のリンパ節転移は複雑な形式をかもし出すものと想像される.そのため本症の外科的治療とくにリンパ節廓清の範囲も複雑多岐なひろがりにまでおよぶものと考えられる.

実験

犬胎児を用いた子宮内手術—先天性小腸閉鎖症の実験的研究

著者: 古賀禧子 ,   池田恵一 ,   林田裕

ページ範囲:P.599 - P.603

はじめに
 胎児実験は,胎児の生理,生化学的態度の研究に有用であり,また人の先天性奇形の実験モデルをつくるにも価値あるものと考えられる.近年では免疫学の分野からも注目されるようになつた.実験動物としては,ラット,家兎,犬,豚,羊,その他が現在までに使用されている.そのなかで妊娠犬は入手ならびに飼育が容易であり,妊娠期間は比較的長く,胎児の大きさも手術に適当である等の利点を有している.われわれは犬胎児を用い先天性小腸閉鎖症の実験を行なつたので,その手術手技につき述べる.

臨床報告

胃癌肺転移切除の1症例

著者: 庄野洋 ,   角田悦男 ,   楠瀬賢三 ,   露口勝 ,   稲山三治 ,   越智友成

ページ範囲:P.605 - P.608

はじめに
 転移性肺腫瘍に対する外科療法は,1939年Barney1)らが腎癌の肺転移に対して切除術を行ない,その長期生存が報告されて以来積極的に行なわれるようになつた2-4)
 本邦においても近年転移性肺腫瘍に対する切除例が増加し,多数の報告が見られるようになつた5-8)

腸球菌性腹膜炎

著者: 庄達夫 ,   中島和雄 ,   山本泰久 ,   岡島邦雄

ページ範囲:P.609 - P.611

はじめに
 日常しばしば遭遇する急性腹膜炎の大部分はその原因が明らかなものであるが,腹膜炎のうち3〜4%は原発,巣が不明で,診断が困難ないわゆる原発性腹膜炎がある.われわれは原発巣不明な腸球菌,すなわち,enterococcusによる非穿孔性の腹膜炎を1例経験し治癒せしめえたので報告する.
 腸球菌は1886年Escherichが新生児胎糞および健康乳児の糞便中に卵円形の球菌を発見して以来,諸学者により種々の名称で呼ばれていたが,1899年Thiercelinによつて初めてenterococcusと命名された.本菌による腹膜炎の報告は1907年Jehle1)が最初に行ない,わが国では1933年伊藤2)によるものが初めてであるが,以来文献上本邦では10例をでない.

尿膜管臍瘻の1例

著者: 岩朝昭 ,   北村宗生 ,   清家矩彦 ,   谷上安駿 ,   原田七夫 ,   越智友成

ページ範囲:P.613 - P.619

はじめに
 尿膜管疾患は比較的稀な疾患であり,そのうえ外科と泌尿器科の境界領域の疾患であるため,われわれ外科臨床医にとつてはさらに取り扱う機会が少ないようである.われわれは最近,尿膜管臍瘻の1例を経験したので報告するとともに,本邦の文献上にみられる尿膜管臍瘻および尿膜管嚢腫につき文献的集計を行なつたので若干の考察を加え報告する.

上腕切断肢再植の2例—再植における骨短縮の意義

著者: 井上喬之 ,   福富経昌 ,   小山昱甫 ,   中村光祐 ,   橋中保男 ,   川中俊明 ,   那須享二 ,   花川志郎

ページ範囲:P.621 - P.624

はじめに
 切断肢再植術は,1962年5月,アメリカBostonのMaltら1)が右上腕の完全切断例に再植術を試み成功したのが最初である.以来すでに12年を経過したが,その間アメリカはもとより中国2-4),日本5,6),ヨーロッパ7,8)など世界各地で広く再植術がこころみられ,成功例も相次いで報告されるようになつた9,10)
 わが国では,とくに最近,再植成功例の報告がとみに増加しているが,このことは再植術における技術的進歩はもとより,再植術の臨床的価値がひろく一般に評価され,再植を希望する傷者や再植術を積極的に遂行する外科医たちが増加してきたことを示すものであろう.

直腸平滑筋肉腫の3例

著者: 坂井博 ,   渡辺英夫 ,   古川良弥 ,   古川冨士弥 ,   渡辺和三郎 ,   手塚隆好 ,   大武省三

ページ範囲:P.625 - P.629

はじめに
 直腸に発生する悪性腫瘍は上皮性のものが圧倒的に多く,非上皮性なかんずく平滑筋肉腫は極めて少ない1,2).本邦文献上,直腸平滑筋肉腫と報告されているのは28例4-29)にすぎない.われわれは最近,この3例を経験したので報告するとともに,若干の検討を加えてみた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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