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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻7号

1975年07月発行

雑誌目次

特集 手術と副損傷

胃手術における副損傷

著者: 大森幸夫 ,   本田一郎

ページ範囲:P.791 - P.794

はじめに
 1881年,Theodor Billrothが43歳の胃癌患者の胃切除術に初めて成功して以来,ほぼ1世紀に近い年月が経過した.この間,多数の先達の努力によつて胃切除術をはじめとした各種の胃手術は腹部外科領域においては最も普遍的で,しかも安定した手術手技となつた.しかしながら過去20年以来,胃癌に対しては広汎廓清術と広汎合併切除術等が施行されるようになり,また,胃・十二指腸潰瘍に対しては迷切をはじめとした種々の手術が加えられるようになつた.一方,外科手術前後における患者管理技術の向上,麻酔の進歩等は必然的に,riskの低い患者,あるいは高齢者へと手術適応の拡大をもたらすに至つた.そもそも外科手術というものは,本来ある疾患の治癒を目的とした治療手段であるにもかかわらず,その実施によつてなんらかの組織損傷を伴うために不測の合併症を招来する可能性を常に有している.従つて,胃手術における適応の拡大と,手術手技の複雑多岐化とは長い胃手術の歴史にもかかわらず,依然として手術時における副損傷が絶無とならない大きな理由と考える.このようなことを前提として,日常の胃手術時において発生しやすい副損傷について述べてみたい.

結腸手術における副損傷

著者: 安富正幸 ,   多田正安 ,   原満

ページ範囲:P.795 - P.800

はじめに
 盲腸よりS状結腸にいたる結腸は約1.5mの長さを有し,右下腹部より上腹部,さらに左下腹部と腹部全体にまたがつているから,結腸手術の際の副損傷もまた腹腔内および後腹膜にある各種臓器に起こる可能性はある.しかしながら,一般には横行結腸とS状結腸は長い腸間膜をもつているし,また,腸間膜のほとんどない盲腸や上行結腸,下行結腸は右あるいは左の腹腔背面にあるため,隣接臓器とくに後腹膜臓器の副損傷は比較的稀である.しかしpoor riskの患者や緊急手術で,炎症,癒着,癌浸潤などのある場合には予期せぬ術中の合併症に遭遇し,その対策に苦慮することがあるばかりでなく,ひいては患者の生命をもおびやかすことにもなる.このような副損傷を避けるために,日常注意している事項や実際に副損傷が起こつてからどのように対処するかなどについて私どもの経験をもとにしてのべてみたい.

直腸手術における副損傷—特に直腸癌について

著者: 西満正 ,   大山満 ,   長野稔一 ,   大塚直純 ,   金子洋一

ページ範囲:P.801 - P.805

はじめに
 副損傷を防ぐために大切なことは①局所解剖に精通すること,②いろいろなvariationを知つていること,③自分の目で確かめながら手術を進めること,④手術操作部が直視下に(掌の中に指さすが如く)あるように皮膚切開,患者の体位,術者の位置,とくに目の高さ,鉤の長さ,形,かけ方,⑤明るいdry fieldをうること,などを工夫することである.
 これら手術の要点は直腸の手術にあたつても極めて大切なことである.

腎臓手術における副損傷

著者: 井上武夫

ページ範囲:P.807 - P.810

はじめに
 腎の手術は泌尿器科領域においては非常に頻度の高い手術である.この手術に熟練することは,泌尿器科医にとつてはまことに大切,有用である.腎剔出術は,悪くすれば一瞬にして患者の生命を奪う手術で,最近10年間に身近かに2例を聞いている.こうすればよかつたと反省したことを中心にのべる.反省用のノートをひもとき,失敗を主とし,独断的と叱られるのも敢て承知の上である.良い所のみ吸収していただき,初心者,外科医に少しでも役立ては幸いである.

甲状腺手術における副損傷

著者: 宮川信 ,   降旗力男 ,   牧内正夫 ,   川村信之

ページ範囲:P.811 - P.819

はじめに
 甲状腺はホルモン産生臓器であることと,近接臓器として上皮小体,気管,食道,血管,神経など重要なものがあるので,その手術は慎重を期して行なわなければならない.甲状腺手術の適応となる疾患には,悪性甲状腺腫,単純性結節性甲状腺腫ならびに甲状腺機能亢進症がある.これらのなかで,良性の単純性結節性甲状腺腫の術式はおもに核出(enucleation)であつて,副損傷はほとんどないといつてよい.これに対し悪性甲状腺腫や甲状腺機能亢進症に対する手術は侵襲が大きいので,副損傷を起こす危険性がある.
 本稿では甲状腺手術と副損傷について検討し,これらの予防対策ならびに発生した場合の対策について考察を加えてみたい.

乳腺手術における副損傷

著者: 阿部令彦 ,   榎本耕治

ページ範囲:P.821 - P.823

はじめに
 乳癌根治手術は腹部の手術より十分良い視野が得やすいので,基本的事項を忠実に守れば副損傷は起こりにくい.しかし,対象が癌であり,進行した症例ではリンパ節転移が腋窩静脈に癒着していることもあり,また,胸骨旁リンパ節転移の症例で胸膜の肥厚,癒着があるような場合では胸膜の損傷も起こりかねない.今回,ここにとりあげたのは,そのような進行期癌の症例ではなく,ごくありふれた乳癌根治手術を行なつて,不注意というか,技術の未熟というか,ちよつとした動機で副損傷を起こしてしまいそうな点をとりあげ列挙した.
 副損傷として,(1)皮膚,(2)血管,(3)神経,(4)その他(筋肉,胸膜等)があるが,術式の手順に従つて述べる.

脳動脈瘤(直達)手術における副損傷

著者: 相羽正

ページ範囲:P.825 - P.835

はじめに
 脳動脈瘤に対する手術に関しては,極めて多くの手術法が考案されているが1),大別して,①頭蓋内直達手術direct intracranial attacksと②頸動脈または椎骨動脈結紮術cervical carotid orvertebral ligationとにわけることができる.前者は開頭術により脳動脈瘤に直達し,その頸部を閉鎖したり(chpping or ligating aneurysms),あるいは瘤壁を補強して(wrapping or coatinganeurysms)再出血防止をはかるもので,今日最も一般的に行なわれている手術法である.これに対し後者は,頸部において頸動脈ないし椎骨動脈を結紮閉鎖する方法で,現在では頸動脈結紮術が,内頸動脈瘤や内頸動脈・海綿静脈洞瘤に対し単独で,または頭蓋内内頸動脈結紮術と併用するcombined extra-and intracranial trappingとして行なわれることがあるに過ぎない.このような手術の内容からいつて,両者の間に手術による副損傷の起こり方,内容,頻度等について大きな相違が生じてくるのは当然である.今回は紙数の関係で,今日最も一般的に行なわれる頭蓋内直達手術に限つてこれらの問題を検討することとしたい.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・36

乳腺悪性腫瘍の諸相—手術材料の病理解説 VI.肉腫(2)

著者: 広田映五 ,   佐野量造

ページ範囲:P.780 - P.781

 乳腺肉腫のうち前回は悪性リンパ腫を取上げたので,今回け他の肉腫症例を供覧し,「乳腺悪性腫瘍の諸相」の稿を終りとする.
 1)悪性葉状嚢胞腺腫(malignant cystosarcomaphyllodes)

グラフ

肝機能障害時におけるサーモグラムとエコーグラム

著者: 佐藤次良 ,   石引久弥 ,   中津喬義 ,   津村整 ,   久本寛 ,   大村敏郎 ,   牛島康栄 ,   青木道夫 ,   白木滋光 ,   八十島久子

ページ範囲:P.783 - P.789

 われわれは約20例の肝機能障害患者についてサーモグラムとエコーグラムの検査結果を組合わせることにより,これらの補助診断的意義の検討を試みた.

外科医のための生理学

十二指腸・小腸—分泌の生理

著者: 土屋周二 ,   福島恒男

ページ範囲:P.841 - P.843

 小腸粘膜の構造と分泌
 小腸粘膜は高さ1mmの絨毛と深さ0.3〜0.5mmのLieberkühn小窩から成る.絨毛は吸収細胞に覆われ,小窩底部の未分化細胞から発生した新しい細胞が順次絨毛の頂点に達してここで脱落し,約2日で交代するといわれる.吸収細胞の間には杯細胞が介在し,粘液を分泌する.小窩にはこのほか,機能の不明なPaneth細胞や内分泌機能を持ついくつかの細胞が存在する.また十二指腸には特殊な形態を持つBrunner腺がみられる(第1図).
 小腸の主な機能は,これを覆う細胞のうちもつとも多数を占める吸収細胞による栄養分の吸収であるが,ここでは同時に大量の液体の外分泌と再吸収が行なわれている.また特殊な細胞の機能による内・外分泌がみられる.とくに内分泌については近年加えられつつある多くの知見が注目される.

臨床研究

食道離断術術後における高カロリー輸液

著者: 長山正義 ,   笠井孝洋 ,   中尾昭治 ,   奥野匡宥 ,   紙野建人 ,   梅山馨

ページ範囲:P.845 - P.851

はじめに
 食道静脈瘤を有する肝硬変症などに対してわれわれの教室では,食道離断術,剔脾,Devascularizationを行なつてきたが,これらの症例はもともと肝機能障害に基づく種々の代謝異常や門脈圧亢進などを有し,さらに術後の肝機能の増悪ならびにcatabolic state,絶食による栄養低下などが加わり,腹水貯溜,縫合不全,肝性昏睡などの発生のため,術後の管理に苦労することも少なくない.この様な合併症の発生因子として,当然,術前の肝機能の状態が最も重視されるべきものと考えられるが,術後の栄養低下もまた重要な因子であると思われる.近年,経口摂取不能な患者の栄養低下に対して高カロリー輸液が行なわれ,その臨床的有効性はすでに認められている1-5).しかし,肝疾患における高カロリー輸液については,Host,Zumtobelら以外には総合的な報告がほとんどみあたらない7,8)
 肝障害時には,種々の代謝異常のため,投与するカロリー源や窒素源の種類および質については問題の存するところであるが,今回われわれの,肝硬変症などで食道離断術,剔脾,devascularizationを行なつた7例に,カロリー源として果糖とブドウ糖を併用した術後の高カロリー輸液を施行し,その臨床経過並びに成績について検討したので報告する.

重症筋無力症と胸腺のgerminal center—特にその陰性例に対する考察

著者: 山根巌 ,   荒木威 ,   尾崎修武 ,   岩永幸夫 ,   長健

ページ範囲:P.853 - P.857

はじめに
 myasthenia gravisは神経終末におけるacetylcholineの合成,あるいは貯蔵の障害による横紋筋の易疲労性を主徴とする疾患であるが,胸腺との関係については,古くは胸腺腫瘍に合併した本症が注目された1,2).一方Sloan(1943)はmyasthenia gravisの胸腺には多数のリンパ濾胞が見られることを指摘し,Castlemanet al.(1949)はmyasthenia gravis with thymoma10例中7例に非腫瘍性の残存胸腺組織を認め,そのうち6例にgerminal centerを認め,またmyastheniagravis without thymomaの25例中19例にgerminalcenterを認めた.その頃からInyasthenia gravisに対する胸腺摘出の有効性が指摘され多数例についての検討がなされた5,6).本症の発生機序に関してGoldstein(1966)は自己免疫性胸腺炎の概念を提唱した.即ち本症の胸腺に見られるlymphoid germinal centerの出現,胸腺髄質のリンパ球並びに形質細胞浸潤などの所見は胸腺髄質における自己免疫反応の結果であると考え,その自己免疫性胸腺炎がmyasthenia gravisに特有な神経筋遮断作用をもつ体液性の物質を遊離させると論じた.実験的裏付けも試みられた8,9).さらにmyastheniagravisに対する胸腺摘出手術が次第に普及するにつれてその病理組織学的検索も盛んになり,germinal centerに関する報告,特にその出現頻度が高率であるとの報告が増して来た(第1表).われわれがこれまで取り扱つた全症例についてre. trospectiveにその組織像を再検討し,germinal centerの出現の有無と術前の放射線照射の関係を検討し,myasthenia gravisの病因解明への一つのアプローチとして意義があると考えられるので報告する.

吻合病の臨床—術後成績と治療方針について

著者: 戸塚守夫 ,   時田捷司 ,   石山勇司 ,   井村勝之 ,   近藤益夫 ,   早坂滉

ページ範囲:P.859 - P.864

はじめに
 腸管の側々または端側吻合術後に生ずる障害としてのいわゆる吻合病についての研究は,最近ようやくその病態生理面での解明が緒につきつつあるのが現状である.吻合病の定義,病態生理については1935年Henschen1)がAnastomosenkrankheitなる名称を提唱して以来,多くの研究者によつてそれぞれの立場から論ぜられ,またいささか混乱もあるが,われわれは1959年来その発生病理,臨床像などについて報告を続けている2-15).われわれは吻合術という手術操作により生じた障害であることから,局所性,全身的因子を含めて
 ①消化管相互の短絡吻合により生ずる悪循環(cir-culus vitiosus)
 ②曠置部腸管(盲管)における腸内容の逆行性鬱滞
 ③側々または端側吻合によつて生ずる腸管盲端の盲嚢形成とその内容鬱滞なる状態に起因する自他覚的障害であると定義づけている3,5,9).したがつてごく軽度の障害以外では外科的治療が唯一の根治法である.しかし吻合病の報告や集計は多数あるが9,16,17),その術後長期遠隔成績については,まだ報告をみない.そこでわれわれの教室において,1958年1月から1972年12月まで過去15年間に経験した吻合病64症例について,その臨床像,術後成績を集計し,その治療方針について若干の検討を加えたので報告する.

虫垂炎,特にリンパ濾胞腫大型虫垂炎の手術適応

著者: 田中忠良 ,   下井利重 ,   水田英司

ページ範囲:P.865 - P.869

はじめに
 いわゆるカタル性虫垂炎の手術適応に関しては議論の多い所であるが,軽症虫垂炎の中でもリンパ濾胞腫大型(以下リ—腫大型と略す)については,小児期の生理的現象とするもの1)と慢性虫垂炎の特徴的所見とするものがある2,3).このリ—腫大型と非特異性陽間膜リンパ節症との関連についてはすでに本誌に発表し,この型の虫垂炎が手術の適応であることを報告した4).その報告では病理組織学的検索を中心に述べたが,本論文では,これらの症例のアンケート調査で術後成績が満足すべきものであるかどうかを検討し,手術適応の可否をretrospectiveに論じてみたい.さらに臨床所見との関連についても言及し,症例を供覧する予定である.

臨床報告

肺過誤腫の3治験例

著者: 陣内森之祐 ,   倉岡三郎 ,   猪口嚞三

ページ範囲:P.871 - P.874

はじめに
 近年,肺癌に対する一般の関心が高まるにつれて,これと鑑別診断がつきにくい肺の良性腫瘍に対する手術症例も増加の傾向をみている.われわれは最近肺の良性腫瘍のうちでは比較的頻度の高いものとされている肺過誤腫の3例を経験したので若干の文献的考察を加えてみた.

総胆管良性腫瘍の1例

著者: 友田信之 ,   小林重矩 ,   中山和道 ,   谷村晃

ページ範囲:P.875 - P.878

はじめに
 肝外胆管に発生する良性腫瘍は極めて稀で胆石症,胆道悪性腫瘍に比べ臨床的にはほとんど関心がもたれていない.
 最近われわれは.総胆管良性腫瘍の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

脂肪肉腫の4例

著者: 大道吉男 ,   原田七夫 ,   斎藤勝彦 ,   森本忠興 ,   田中雅祐 ,   伊井邦雄

ページ範囲:P.879 - P.884

はじめに
 脂肪肉腫は軟部組織悪性腫瘍のなかで横紋筋肉腫と並んで頻度が高く,適切な診断と治療を行なえば比較的良好な生存率が期待できる.ただその組織像は複雑で,臨床経過も予測しがたい面があり,病理学的にも臨床的にも多くの問題が残されている.著者らは稀な胸腔内脂肪肉腫の症例を含めて自験例4例を集計し,臨床病理学的に検討したので若干の考察を加えて報告する.

Behçet症候群にみられた消化管穿孔

著者: 浜田国弘 ,   西本政功 ,   上原従正 ,   板谷博之

ページ範囲:P.885 - P.888

はじめに
 Behçet症候群の治療法には決定的なものはなく,その経過中に致命的な合併症を伴うことも稀ではない.最近われわれは本学内科において,本症の診断で副腎皮質ステロイドにて治療中,はじめは十二指腸ついで回腸と2回にわたり突然穿孔をきたしたが,いずれも緊急手術により救命しえた1例を経験したので報告する.

直腸平滑筋腫の1例

著者: 佐々木公一 ,   佐藤錬一郎 ,   高橋浩

ページ範囲:P.889 - P.892

はじめに
 直腸の平滑筋腫は欧米ではVander Espt1)(1881),本邦では菅2)(1923)が第1例を報告して以来,内外の文献に若干の症例が散見される程度で,最近の菱田ら3)の本邦集計でも40例を数えるに過ぎず,稀な腫瘍の1つとされている.
 また,病理組織学的に"良性"と考えられたものが,再発や転移をきたした報告にもみられるように,腫瘍の良性,悪性の判定基準についても種々の問題点を含んでいる.そのため外科的治療に際しても慎重な術式の選択と術後長期間のfollow-upが要求されることになる.

巨大な虫垂粘液嚢腫の1例

著者: 松本公毅 ,   和田和代史 ,   大沢直 ,   板谷博之

ページ範囲:P.893 - P.895

はじめに
 最近,われわれは比較的稀な,しかも巨大な虫垂粘液嚢腫の1例を経験し,治癒せしめえたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

3年10ヵ月観察された胃潰瘍切除後残胃ポリープ様癌の1例

著者: 山際裕史 ,   大西長昇 ,   国島睦意

ページ範囲:P.897 - P.899

はじめに
 胃癌の発生については,人体例ではその詳しいme-chanismは現在ほとんど解明されていない.一方,発生した癌がどのように進展,生長してゆくのかについてもよくわかつていないのである.おそらく,隆起型のものと,陥凹型のものとでは異なるであろうし,同じtypeのものでもその成長速度は必ずしも同じではないであろう.年齢やホルモン,免疫的条件等といつた個体の側の条件との関連も無視することが出来ない.
 本稿では,胃潰瘍手術時に噴門下部に残存していた有茎性ポリープが徐々に大きくなつてゆく過程が観察された稀有な例であるので,若干の考察を加えて報告する.

稀有な急性腹症の1例:胃野兎病—本邦第1例

著者: 一戸兵部 ,   一戸るみ子 ,   吉岡岑生 ,   杉本博洲 ,   石川惟愛 ,   佐藤光永

ページ範囲:P.901 - P.906

はじめに
 野兎病(Tularemia)は人獣伝染病の1つである.悪寒,高熱,リンパ腺腫脹をきたす一種の伝染病で1921年E.Francisにより,さらに,1924年大原八郎が,それぞれまつたく独立に発見し精細に研究している.本邦では東北を中心に中部,北陸,関東,北海道で発見され風土病と考えられており,野兎病菌に感染した野兎に触れ,あるいは料理する際人が感染し,肘,腋窩のリンパ腺の腫張,疼痛を主訴として発症し,まれにはチフス様症状を呈するといわれ,今までに本邦では,内臓系,特に消化器系に発生することが極めて少ないとされ,わずかに大原らの野兎病性腹部大動脈瘤の1例4)(本症例においては組織診断のみ菌培養されず)が報告されているにすぎない.ここにわれわれは,本邦初めての胃型野兎病の1例を報告する.

単発性小肝癌(直径2cm)破裂による腹腔内大出血の1例

著者: 神谷喜八郎 ,   白川洋一 ,   三条健昌 ,   新井正美 ,   河野保 ,   青木幹雄

ページ範囲:P.907 - P.911

はじめに
 原発性肝癌は,アジア人,アフリカ人に多く見られ,欧米人では少ないと言われている.
 剖検例における原発性肝癌の頻度は,日本で1.75%1),台湾で3.10%2),アフリカで1.9〜2.6%3),アメリカで0.20〜0.44%4,5),ドイツで0.22%であり,その悪性腫瘍に対する頻度は,日本で5.3%1),台湾で21.8%2),アフリカで301)〜50%3),アメリカで3.01%5),ドイツで1.53%1)といわれている.

消化管カルチノイドの2例—直腸ならびに早期胃癌と溶血性貧血を伴つた十二指腸カルチノイド

著者: 太田陽一 ,   富川正樹 ,   泊康男 ,   瀬尾廸夫 ,   万見新太郎 ,   高田孝 ,   北川正信 ,   村田敏夫

ページ範囲:P.913 - P.918

はじめに
 カルチノイドはfunctioning tumorとして関心を惹くようになり,カルチノイド症候群にみられる多彩な症状と種々の合併症を伴うことが多い.われわれは早期胃癌と溶血性貧血を伴つた十二指腸カルチノイドと悪性直腸カルチノイドの各1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

乳房Paget病の4例

著者: 渋谷智顕 ,   堀部廉 ,   高井清一 ,   三輪勝 ,   伊藤隆夫 ,   名和正 ,   田中千凱 ,   島田脩 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.919 - P.924

はじめに
 1840年にVelpeauは乳頭の湿疹様病変が長い経過を経て表皮の破壊を起こす疾患をPaget病と呼んだのが本疾患の最初の記載である1).1874年にJames Pa-get2)は乳頭および乳輪の慢性湿疹様皮膚変化が存在すると乳腺に癌腫が発生する症例を報告し,乳頭の湿疹様変化と乳腺の癌腫と密接な関係のあることを初めて報告した.以後,乳房Paget病は一つの特異な病型として認められ,今日までPaget病と呼ばれている.その本態についても病理組織学的に種々の議論はあつたが,今日ではほぼ一定の結論に達しており,Paget病は乳管癌の乳頭表皮内への浸潤であるとの結論に達している.しかしながら本病が臨床的ならびに病理組織学的に,きわめて特異な像を示すことから,その定義および治療方針については研究者により考え方の違いもあり,また臨床的にその診断が困難で,乳頭の単なる皮膚疾患として取り扱われることが多く,種々の問題を含んでいる.わが国では病理組織学的に管外浸潤の著しいtype,即ち臨床的に乳腺腫瘤を伴うものを乳房Paget病から除き別個に取り扱う傾向があるが,われわれは乳腺腫瘤を伴う型も乳房Paget病に含めて論ずることにした.
 今回われわれは1964年から1973年までの最近10年間に乳癌患者115例を取り扱い,乳房Paget病4例を経験したので,通常型乳癌と比較検討し,若干の文献的考察を加えて報告する.

若年者に発生した巨人膝窩動脈瘤の1治験例

著者: 石丸新 ,   松延正之 ,   本郷勉 ,   古川欽一 ,   仲本嘉見

ページ範囲:P.925 - P.929

はじめに
 膝窩動脈瘤は下肢動脈瘤の中で大腿動脈瘤に次いで多く,比較的高齢者にみられ,梅毒および動脈硬化がその成因の大半を占めている.近年血管外科の進歩により,本疾患に対する血行再建術を中心とした積極的な治療が行なわれるようになつてきたが,わが国における報告は少なく,1939年より1973年までの35年間に報告された膝窩動脈瘤は42例であり,このうち血行再建術施行例は22例となつている,教室の末梢動脈瘤の症例は21例あるが,膝窩動脈瘤はわずか1例と頻度は低い.われわれは最近,比較的若年者(24歳)に発生した非特異性炎症による巨大な(15×10×10cm)左膝窩動脈瘤に対し,動脈瘤切除,健側大伏在静脈移植による血行再建術を行ない,良好な結果を得たので報告すると共に過去35年間(1939〜1973年)の本邦における膝窩動脈瘤報告例につき文献的考察を行なつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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