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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻9号

1975年09月発行

雑誌目次

特集 縫合法—反省と再検討

腹壁の閉鎖縫合法

著者: 脇坂順一

ページ範囲:P.1079 - P.1083

はじめに
 腹壁内の手術操作が完了すれば当然腹壁を閉鎖しなければならないが,その直前に怠つてはならぬことは,腹壁内異物の除去である.異物があれば必ずそこに癒着を生ずるからである.貯溜した血液は完全に吸引排除し,凝血はピンセットやガーゼ,或は用手的に除去する.私共はこれに加えて38℃内外の温い生塩水を500mlずつ注入して腹腔内を洗浄し,血液の赤い色がなくなるまでくまなくこれを繰返している.小ガーゼ片など万一腹腔内に残留していると赤色を呈しているので見逃し易いが,洗浄することによつてその赤味が薄らぎガーゼ片を識別することができて都合がよい.またこの洗浄によつて諸種細菌や癌細胞などが排除されることになるので一石二鳥となる.

胸壁の閉鎖縫合法

著者: 陸川容亮 ,   大畑正昭

ページ範囲:P.1085 - P.1088

はじめに
 手術に関連する胸壁の特性は,解剖学的に手術対象となる諸臓器が骨性胸壁のなかにあり,胸壁諸筋の大部分は肋骨と直角ないし斜走し,女性では前部に乳房が存在し,生理学的には休止し得ない拡張収縮運動を営んでいることなどであろう.手術対象となる臓器または疾患の解剖学的位置関係と,選ばれる手術の種類により胸壁の切開創は多彩であり,ざつとみても第1図のようなものが挙げられる.これらはいずれも胸壁の特性が何らかの形で考慮されており,その縫合閉鎖手技も多様といわざるを得ない.しかしながらもつとも一般的で応用範囲の広いのは後側方切開posterola-teral incisionであるので,私どもが日常行なつている方法に加え,若干の応変の縫合閉鎖について述べ責をふさぎたい.

皮膚縫合法—乳癌手術

著者: 榎本耕治 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1089 - P.1092

はじめに
 乳癌の診断技術の進歩に伴い,早期乳癌の症例も多くなり,乳癌の手術療法として定型的乳癌根治手術のほかにmodified radical mastectomyでも十分効果をあげ得ると考えられる症例も多くなつてきた.従来,慶大外科ではHalstedのmastectomy1)のほかにPateyのmodified radicalmastectomy2)およびVolkmann3)(Auchincloss)4)のmodified radical mastectomyも行なわれてきたが,現在,大部分を占めるのはHalstedのmastectomyを基本とし,われわれなりに多少施行し易く修飾した方法である.ここに乳癌根治手術の縫合方法がとりあげられたのは,Haagensenの提唱するthin flap methodが普及するにつれ,皮膚が術後壊死となり,治癒が遷延することが時折遭遇するためである.この皮膚の壊死はさらに術後上腕浮腫や,肩関節の拘縮,上腕の挙上障害にも影響してくるので,術後合併症の予防という観点からも十分気をつけねばならぬところである.

皮膚縫合法—頭部

著者: 植村研一 ,   牧野博安

ページ範囲:P.1093 - P.1096

はじめに
 外傷による裂創,割創の処置はもとより,手術の仕上げとしても,正しい皮膚縫合手技の重要性はいうまでもない.しかし,一方,「治りさえすれば良い」という安易な気持から,皮膚縫合手技に対する外科医の関心が薄いことも残念ながら事実である.頭部の皮膚縫合も原理的には身体他部と同様であるが,ただ頭皮は硬く,皮下脂肪組織がなく,その代りにgaleaが存在する一方,頭髪という創傷の治癒を妨げるものも存在し,かつ前額部のように,患者の美容上重要な部位も含まれているので,頭皮の解剖をよく理解し,さらに患者の立場に立つての皮膚縫合でなければならない.交通事故による頭部外傷を扱う機会が救急指定を持つ実地外科医に多くなつている現今,本稿がこれら外科医のみならず,患者の役にも立つことを念頭におきつつ,一般外科領域と異なる点を解説することとする.

皮膚縫合法—頸部

著者: 原田種一 ,   松土昭彦 ,   伊藤国彦

ページ範囲:P.1097 - P.1099

はじめに
 頸部の皮膚縫合には,他の部位の縫合と異なつた特殊な技術が特に要求されるわけではない.ただ頸部が,頭部と躯幹とをつなぐ,関節と同様のきわめて運動性の大きい部位であり,また女性の場合は,洋装が普通となつた今日,顔面と同様,美容上重要な露出部位であるが,それにも拘わらず頸部は瘢痕ケロイドを形成しやすい部位であるということをまず念頭におく必要がある.従つて,瘢痕ケロイドの形成をできるだけ避けるように心掛けねばならない.欧米人に比較し,われわれ東洋人は,瘢痕ケロイドの形成が起こりやすいので,特に手術に際し留意すべきである.

皮膚縫合法—顔面

著者: 福田修

ページ範囲:P.1101 - P.1106

はじめに
 顔面における皮膚縫合では,縫合時のcompli-cationをおこさないと同時に,後日,いかに目立たなくするかにも,重大な関心が払われるのは当然である.顔面の皮膚は血行が良く,多少緊張を加えて縫合しても,壊死になつたり,離開することは非常に少ないから,むしろきれいな瘢痕を得ることにわれわれの主な努力がある.ここでは,そういう見方で縫合法を紹介してみたい.ただし,ここに述べる考え方は,決して形成外科だけのものではなく,外科総論そのものであり,すべての外科的縫合にあてはまるものであろう.

血管縫合法

著者: 杉江三郎

ページ範囲:P.1107 - P.1110

血管縫合の指針
 1.血管の縫合および吻合の基本の前段階として血行を遮断するための血管鉗子の装着があり,血管鉗子の要件としては,血管壁を挫滅することのないサテインスキー鉗子,あるいはブルドック鉗子などが適正に使用される(第1図).
 2.内膜,中膜,外膜の3層をそなえている血管の縫合の基本は,全層を通し,しかも内膜と内膜が密着するごとく,辺縁がやや外翻するように縫合することである.外膜がまくれ込まないように縫合部位および吻合断端の外膜は剪除し除去しておく.

尿路縫合法

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.1111 - P.1113

はじめに
 縫合は,創傷治癒という生体反応を最良の条件で遂行させるための1つの手段にすぎない.物理的に縫い合せるという単純な処置も,それぞれの器官や目的に応じた正しい方法によつて自然治癒力を最大限に引き出せるであろうし,逆に不適当な手技によつて創傷治癒を妨害することにもなろう.
 尿路の縫合を考えるときもつとも重要なことは,創傷が単に治癒すること以上に機能的な治癒が要求される点である.これは消化管縫合においても同じであろう.しかし尿管が解剖学的に消化管よりはるかに細小で,かつ深い位置にあることを考えれば,腸管より微妙な技術が要ることは想像に難くない.

腱縫合法

著者: 矢部裕

ページ範囲:P.1115 - P.1119

縫合の指針
 腱の使命は筋の強い収縮力を停止部まで伝えることにある.そのため腱縫合法には縫合部離開が生じることなく癒合が完成するだけでなく,周囲と癒着を生じることなく滑走するという2つの要請がある.
 かつて行なわれてきた腱縫合法は,確かに縫合時の物理的抗張力が強く,縫合部の離開が生じる危険性は少ないが,traumaticであり,瘢痕形成が強く,周囲との癒着が生じやすい.アキレス腱等周囲が比較的粗な結合織からなつている部においては,この癒着は徐々にとれ,腱は再び滑走をもつようになるが,手指掌側等においては,腱周囲が骨と靱帯性腱鞘であるだけに癒着の解離はほとんどない.

神経縫合法

著者: 広谷速人

ページ範囲:P.1121 - P.1124

はじめに
 末梢神経損傷の修復に際して,その断端を接合させて縫合することは,古く19世紀以来広く用いられてきたところであるが,その縫合成績は必ずしも満足すべきものではなかつた.
 神経縫合術の成績に関与する諸要因は第1図に示すように多数あげられるが,これらは末梢神経損傷自体に関係したものであつて,末梢神経の解剖あるいは損傷に対する反応から,容易に理解できるところである.

最近の縫合材料の知見

著者: 秋山太一郎

ページ範囲:P.1125 - P.1129

はじめに
 外科手術そのものが生体に大仕掛けな手術侵襲をあたえることになるので,その後仕末的な糸があたえる障害などはささやかなものであるとしている傾向がないでもない.しかし,形成外科のように創の仕上りを重視するところでは,糸から縫合法までかなり吟味しているが,一般外科としては体内用人工物1)(補てん材,人工臓器)の研究の場から見ると,縫合糸に対する感覚はまず大雑把なように受けとられる.例えば絹糸,またクロム化した腸腺などでは,はつきり為害性を見越して使つている.一方の体内用人工物の是非を判定するには免疫学的,また周囲組織,細胞の動態などきわめて神経質になつてあさっているが,縫合糸の方は縫えさえすればいいというなど無神経ではないにしても,それなりの根拠はある.絹糸,クロミック腸線は多少為害性はあつても,それが合目的であること,長い間の使用経験から許しうる範囲のものであることなど,かなり妥協的なように見える.しかし糸のホストである生体システムの仕組みは,今日生体高分子の構造や機能だけを見ても大部あかるみに出てきたとはいうものの,大勢はまだまだ不明の点が多い.このように十分につかまえきれていないホストを相手にするのだから,いつ,何がおこるか予測できないというのが本当であろう.したがつて糸としては材料学的な立場から現代高分子学の手の及ぶかぎりの最大限をつくした上で,さらに時間をかけ,生体内の挙動をじつくりと調べあげ,例えば第1図のように,確実なものをつかまえるという態度が必要であろう.この点最近相次いで現われる縫合糸をみていると,かなりこうした感覚で扱つているように思える.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・2

内視鏡的乳頭括約筋切開術

著者: 相馬智

ページ範囲:P.1076 - P.1077

 筆者らは,遺残胆道結石に対する非手術的療法として,内視鏡的乳頭括約筋切開術を開発し20例の臨床例に施行し好結果をえた.本稿はその実際の概略と適応につきのべる.

クリニカル・カンファレンス

腸管吻合をどうするか

著者: 鍋谷欣市 ,   秋山洋 ,   出月康夫 ,   岩佐博 ,   四方淳一

ページ範囲:P.1132 - P.1142

 四方(司会)今日は「腸管吻合をどうするか」というテーマで皆さんにお集りいただきました.問題になりますことはいろいろあるかと思いますが,complicationとしてはleakageと狭窄とが挙げられるので,その対策を考えながらディスカッションを進めたいと思います.
 この腸管吻合は抗生物質のない時代から今日に至るまでいろいろ工夫されているのですが,ここにお集まりの先生方もいままでの間にいろいろご苦労なさつたこともおありと思います.一般外科をやられている方は腸管吻合をやられるチャンスが多い.

外科医のための生理学

大腸の生理

著者: 吉雄敏文

ページ範囲:P.1145 - P.1147

□はじめに□
 最近わが国でも,大腸疾患の頻度が増加しつつあり,当然外科医の手術対象となる機会が多くなつてきた.大腸の広範囲切除や直腸などの生理学的機構上重要と老えられる部位の手術後には,機能脱落症状が問題となつてくる.その意味で,外科医が大腸の生理に関する知識をある程度もつことは必要であり,筆者も不十分ながら勉強をしつつある.その中から外科医に必要と考えられる事項を簡単に紹介する.詳細に関しては,末尾に掲載する文献を参照して載きたい.

臨床研究

ACD保存血液による体外循環

著者: 岡本好史 ,   松田光彦 ,   林真 ,   西村和典 ,   渡辺裕

ページ範囲:P.1149 - P.1153

はじめに
 近年,心臓,大血管手術の成績の向上は目ざましい.これは手術手技の長足の進歩によるものであるが,一方人工心肺による体外循環法の普及,安全性にも負うところが大きい.体外循環には新鮮ヘパリン血が最良であるが,入手が容易ではなく,またしばしば遭遇する緊急手術にも難点がある.これらの対策として,人工心肺装置の小型化,無血充填あるいは稀釈体外循環法が試みられてきた.われわれはACD保存血を体外循環に応用することにより心臓外科の普及をさらに発展させるため検討を重ね,1967年より臨床に使用してきた.
 1941年,LoutitらがACD抗凝固剤を完成し,血液の保存を可能にし輸血学は多大な発展をとげた.しかしながら大量の保存血を使用する場合は問題がある.現在の保存血の有効期間は21日と短かく,この間にpHの低下,高カリウム血症,保存による溶血,血小板数の減少,あるいは種々の凝固因子の変動が各保存日数に応じてみられる.

術後一過性に上昇する血清amylaseについて—isoenzyme分析の結果を中心として

著者: 池永達雄 ,   樋上駿 ,   秋山洋 ,   林幸子 ,   原田紀久子 ,   北村元仕

ページ範囲:P.1155 - P.1160

はじめに
 今までわれわれは手術後に血清amylase活性の上昇を認めると,直ちに術後膵炎と診断し,治療してきた.行なわれた手術が胆道系のものであつたり,さらに直接膵に侵襲の加わつた手術であつた場合には,なおさら術後の血清amylase活性の上昇は,術後急性膵炎として心配されてきた.しかしながら手術患者の血清amylase活性を丹念に追跡すると,正常値の上限を越えて上昇する症例はかなり多く,しかも血清amylase活性値が高値を示した症例でも,そのほとんどが急性膵炎の症状を示さず,膵炎に対する特別な治療を行なわなくても術後経過に異常はなく,高値を示していた血清amylase値もほどなく正常域に戻つてくるという事実のあることがわかつた.そして高値を示した血清amylaseのisoen-zyme分画像を検索すると,その大多数の症例において膵由来でないamylaseの増量していることが示され,術後に血清amylase活性が上昇しても,直ちに術後膵炎とは即断できないことを知つた.この興味深い事実をわれわれはすでに2,3の機会に発表してきたが1-3),今回はその後の症例を含め,得られた知見をまとめて考察を加えたい.

噴門部一食道移行部胃癌の臨床病理学的検討

著者: 山際裕史 ,   石原明徳 ,   浜崎豊

ページ範囲:P.1161 - P.1165

はじめに
 胃癌は組織発生学的には,主として腸上皮化生と関連する分化型癌と,非化生部由来の低分化型癌に大別して老えられつつあることは,周知の通りである.このこと自体は,胃内における発生部位のちがいにかかわらず,一部を除くとほぼ恒常的な事実である.しかしながら,低分化,分化型といいつつ,これを臨床的あるいは疫学的にみた場合には,幽門腺域,体部腺域によつて異なつていることはすでに他の論文に報告済である.
 今回は,胃噴門で,腫瘍口側には胃粘膜を欠き,食道扁平上皮であるものについて検討し,他部位のものとの比較を行なつた.

胃・十二指腸潰瘍に対する迷切合併手術の成績

著者: 松木久 ,   新田洋 ,   中村康夫 ,   李奎鉉 ,   野沢晃一 ,   奈良井省吾 ,   田近貞克 ,   高桑一喜 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1167 - P.1172

はじめに
 Dragstedt(1943)により提唱された消化性潰瘍に対する迷走神経切断術(以下迷切術と略す)が,わが国においても一時追試されながら本格的にとり上げられる迄に至らなかつた背景には,当時,本術式に関するドレナージや減酸効果等について必ずしも十分な認識がなされず,それゆえ胃切除術に比して優れた術後成績を収め得なかつた事実を指摘できる5)6)15).しかしながら,その後第62回日本外科学会総会において,堺16),山岸20)両教授は,保存的術式としての幽門洞部切除+迷切術のわが国における成績を公表し,その優れた減酸効果と術後状態の早期回復性についてふれ,それまで広範囲胃切除術一辺倒ともいうべき状態であつたわが国の潰瘍外科領域において,迷切術が新たな脚光をあびるきつかけをなした.今日,わが国でも迷切を伴う手術はかなり普及し,一部遠隔成績をも含めて各方面より術後成績の検討がなされつつある現状であるが,その評価にあたつては,迷切の種類はもちろん,これに合併する小範囲胃切除ないし幽門成形の種類についても十分考慮する必要があり,一律に論ずるわけにはいかない.
 われわれの教室における迷切合併術式の採用は,現在2つの場合に大別できる.すなわち,胃角部以下の胃潰瘍ないし十二指腸潰瘍に対する迷切兼幽門洞部切除術もしくは迷切兼幽門成形術の採用と,高位胃潰瘍に対する分節胃体部切除ないし噴門側胃切除と迷切との合併術式の採用である.もちろん,これら手術法は時を同じくして一勢に開始されたものではなく,したがつて現在すべての術式について遠隔成績を論じ得るわけではないが,われわれの潰瘍手術において,迷切合併術式の施行例数は着実に増加しており,教室における選択的手術の歴史と迷切術とは,切つても切れない関係にある7)9).以下これらの術後成績を分析検討し,われわれが迷切術に期待したものとその効果との関連,また,どういう時に迷切術を応用すれば広範囲胃切除術に勝る成績が得られるかなど,胃迷切術の意義について考えてみたい.

胆道系癌の術前術後における輸液管理の重要性

著者: 後藤洋一 ,   長谷川正義 ,   高杉信男 ,   工藤正純 ,   手戸一郎 ,   小川勝比古 ,   田辺文彦

ページ範囲:P.1173 - P.1178

はじめに
 胆道系癌の外科的治療は手術術式や各種診断技術の進歩に伴い,その成績は次第に向上しつつある.しかし本疾患群は解剖的に複雑な部位に発生し,潜在性に進展し,かつ閉塞性黄疸を伴うため,他部位に発生した癌以上に治療上の制約が多い.
 正しく診断され,正しい手術が行なわれても,黄疸,循環障害,肝膵の機能低下,各種の代謝異常,栄養障害などによる重大な合併症が起こりやすく,手術適応の拡大と直接予後の向上はかならずしも容易でない,われわれは本疾患に併発しやすい各種の合併症の中で特に重大な体液代謝不全,循環障害,縫合不全,膵瘻などの治療と予防のために高カロリー栄養輸液法を応用して,本疾患群の治療成績を向上させるために非常に有効であつたので考察を加え報告する.

小児そけいヘルニアの手術成績

著者: 長尾桓 ,   金子信俊 ,   金高伸也 ,   水田哲明 ,   岩月淳 ,   須崎巌

ページ範囲:P.1179 - P.1181

はじめに
 小児のそけいヘルニアに対し,古くより種々の手術術式が検討されてきたが,各術式の優劣についてはいまだに議論が絶えない.1973年の小児外科学会でもシンポジウムとしてとりあげられている.当院では,主としてsimple herniorrhaphy(Lucas-Championniere法,Potts法)を施行し,手術操作の主眼をヘルニアのうの高位結紮,切離においてきた.今回,アンケートおよび外来診察を併用して,術後成績とくに再発,睾丸異常,対側発生の問題を中心に追跡調査し,検討したので結果を報告する.

臨床報告

褐色細胞腫の1治験例

著者: 古賀淳 ,   北野亀三郎 ,   佐藤和洋 ,   麻生哲郎 ,   井上強 ,   大多和泰憲 ,   山本洋南

ページ範囲:P.1183 - P.1187

はじめに
 褐色細胞腫は禍色細胞すなわちクローム親和性細胞から発した腫瘍である.この腫瘍はcatecholamineを大量に産生するので,腫瘤形成による圧迫症状の他に分泌されたcatecholamineによる内分泌症状としての血圧亢進を伴うのが特有である.
 われわれは43歳女子において,右副腎より発生した巨大な禍色細胞腫を診断し,硬膜外麻酔およびGOによる全身麻酔のもとに腫瘍を摘出し術中,術後ともに良好な経過をとった症例を経験したので報告する.

虫垂癌の1例

著者: 井戸俊夫 ,   西岡健次

ページ範囲:P.1189 - P.1192

はじめに
 原発性虫垂癌は,極めてまれなものであるが,われわれは最近,急性虫垂炎と診断して開腹し,組織学的検査によつて本症であつた1例を経験したので報告し,あわせて文献的考察を若干加えてみた.

盲腸に瘢痕性狭窄をきたした日本住血吸虫症の1例

著者: 更科広実 ,   樋口道雄 ,   古山信明 ,   佐藤英樹 ,   千見寺勝 ,   橘川征夫 ,   小林裕夫 ,   奥井勝二 ,   野本一夫 ,   狩谷淳 ,   林学 ,   山田公三 ,   西沢護 ,   小林茂雄

ページ範囲:P.1193 - P.1197

はじめに
 日本住血吸虫症(以下日虫症と略)は,広島,山梨,佐賀地方に広く分布し,経皮的に感染した日虫セルカリアが門脈内で発育し,血管内で直接に産卵するため,肝臓や消化管に各種の病変を惹起することが知られている1)2).消化管では潰瘍,ポリープ,腫瘤および癌性変化などがみられるが,下部消化管,とくに大腸にその頻度が高く,しばしば外科的治療の対象となる3).われわれは最近,盲腸に瘢痕性狭窄をきたした日虫症の1例を経験したので,最近10年間に報告された大腸の外科的日虫症を集計し,若干の文献的考察を加え報告する.

直腸カルチノイド,胃癌,胃潰瘍を合併した1症例

著者: 中村達 ,   尾形佳郎 ,   島伸吾 ,   秋里和夫 ,   林郁夫 ,   梅園明 ,   渡辺陽之助 ,   出口修宏 ,   有森正樹

ページ範囲:P.1199 - P.1203

はじめに
 カルチノイドは1907年Oberndorfer1)が,発育が緩徐で転移し難く,癌より良性の経過をとることから,癌から区別することを提唱して以来報告が多くなつた.本腫瘍は主として胃より肛門までの消化管に発生し,少ないが膵臓,卵巣,気管等にも発生する.またセロトニンを分泌し,循環器系に影響を及ぼし,種々の症状を生じるためfunctioning tumorとして注目されるに至つた.
 われわれは最近直腸カルチノイドと噴門癌および胃潰瘍を同時に合併した症例を経験したので検討を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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