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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科31巻10号

1976年10月発行

雑誌目次

特集 肝切除の術式

―巻頭言―肝切除に想う

著者: 本庄一夫

ページ範囲:P.1261 - P.1262

 部分的肝切除の臨床報告は,すでに17世紀頃から散見されるが,1911年にWendelによりはじめて肝門部脈管処理による肝広汎切除の成功例が報告されるにいたつた.しかし,その後30年余はかかる肝内脈管系の走行を考慮しての大切除はあまり行なわれていない.1950年前後になり肝広汎切除に関する知見が各方面で報告されるようになつた.すなわち,Hjortsjö(1948),Healey & Schroy(1954),Couinaud(1954)らにより肝内血管分布による肝区域segmental anatomyの概念が提示され,他方,臨床的にはWangensteen(1949),本庄(1950),Lortat-Jacob(1952)らの右葉切除経験例をはじめとし,Pack,Quattelbaum,Brunschwig,Longmire,McDermott,三上,Wilsonらによる報告が相次ぐにいたつた.これらの報告例はいずれも肝内脈管の分布状態を多少とも意識して行なわれたものであり,その意図するところは切除面からの出血のすくないこと,残存肝の血行が確保されることに要約される.
 肝動脈と門脈,さらに胆管の肝内の走行分布はだいたい相似の関係にあり,これに肝静脈系のそれを考慮して,臨床上,実施される切除様式は,今回の特集欄の各項目でもとりあげられているように,外側区域切除,左葉(左半)切除,右葉(右半)切除,さらには拡大右葉切除に分けられる.

肝左葉外側区域切除術

著者: 土屋凉一 ,   原田昇

ページ範囲:P.1263 - P.1269

はじめに
 肝切除の問題を考えるとき,残存肝の機能,再生の問題を切りはなしては考えられない.残存肝の機能を最良に確保する最も重要なことは最少限度の肝切除と同時に残存肝の血流および胆汁流出を不必要に阻害しないことである.このためには肝内脈管分布に基づく肝区域に従つた肝切除を行なうことが最も合理的と考えられる.肝左葉外側区域切除は肝鎌状靱帯より左側の肝切除で,従来解剖学的肝左葉切除と言われたものである.今回は当教室における肝左葉外側区域切除術式を中心にその周辺の問題点について述べる.

肝左葉切除術

著者: 都築俊治 ,   尾形佳郎 ,   中村達 ,   飯田修平 ,   大塚秋二郎 ,   細田洋一郎

ページ範囲:P.1271 - P.1279

はじめに
 肝切除術はすでに半世紀以上の歴史を有する手術であるが,なお普及した手術になつているとは言い難いのが現状である,一方,肝切除術の対象である肝癌はわが国では胃癌,肺癌についで多い癌であり,また最近は肝外傷の増加につれて肝切除の必要性が高まつており,その普及は時代の要請でもある.この意味で1976年4月日本外科学会においてシンポジウム「肝切除」が行なわれ,引き続いて本特集が企画されたのは当然である.筆者に与えられたテーマは左葉切除術であるが,われわれのこれまでの経験を基礎にして左葉切除術の概略と問題点を述べてみたい.
 われわれが最近3年間に経験した肝切除例は14例で,その内訳は左葉切除8例,右葉切除3例,拡大右葉切除3例である.各症例の原疾患,切除量,出血量,合併症および転帰は表1のごとくである.左葉切除は右葉切除に比べて一般的には容易であるが,困難なものもあり,各症例について工夫が要求される.

肝右葉切除術

著者: 葛西洋一 ,   佐々木英制 ,   玉置明

ページ範囲:P.1281 - P.1289

はじめに
 肝右葉切除は肝切除のなかでは,左葉切除(狭義の解剖学的左葉切除)についで適応の多い手術であるが,その手術法の内容と名称は古典的な解剖学と新しい肝区域の適用とで混同されている面もある.
 また,手術手技についてもいわゆるfingerfracture法や肝鉗子の適用などが有名になるにしたがつて,肝右葉切除の標準的な方法はどういうものかという疑問もある.著者らがこの手術を行なつたのは,1952年であるが,当初は開胸腹切開で,Wendel(1911)20)の説にしたがつて,肝門部で右肝動脈結紮のみを行ない,肝切離線の内側に肝集束結紮intrahepatischen Ligaturen in fortlaufender Reiheをかけてから,その外側で肝切離を行なつていた.

拡大肝右葉切除術

著者: 岡本英三

ページ範囲:P.1291 - P.1296

はじめに
 肝切除の歴史は決して新しくないが,手技上ならびに,術後管理上の多くの困難性のために,永らく姑息的手術にとどまつてきた.肝広範切除が可能となつたのは事実上ようやく今世紀中頃からであり,肝内の脈管構造の解明による肝区域liver segmentの概念確立に負うところが大きい.今日ではこの肝区域に準拠し,肝門部において,切除側のグリソン系脈管を先行処理するいわゆる系統的広範肝切除(systematic lobectomyあるいはcontrol method)が標準的術式に定着した.一見,肝区域を無視しているかに見えるfingerfracture法(Lin)1)も,肝内の脈管分布を熟知していればこそなしうるものである.
 解剖学的には,鎌状靱帯の肝付着部を境に左右葉に分けられているが,肝内脈管の構築から見ると,真の肝左葉右葉は胆嚢床と肝背面の下大静脈中央を結ぶ線上にある(Cantlie氏線)2).さらに,右葉は前後2区域に,左葉は内,外2区域に分かたれる.つまり,肝臓は脈管構築上4つの独立した区域(segment)から成り,これが肝切除に際して基本的単位(surgical unit)となる訳である3,4,5)(図1).

非定型的肝切除術

著者: 水戸廸郎 ,   関口定美

ページ範囲:P.1297 - P.1304

はじめに
 定型的(typical),非定型的(atypical)なる形容詞が肝切除術に付け加えられたのは,1950年以降のことであるが,これらの言葉は肝内脈管構築に基づく肝区域の概念が設定されるにおよんで,名づけられたものである.しかし,当初の両者の定義づけは僅か20余年の時代の歩みとともに漸次,変化を余儀なくされ,あるいは名称それ自体に疑義をいだくものもある.
 したがつて,まず,現況では"非定型的"とは如何なる場合に呼称するかを述べた後に,編集者が著者らに求められている手術法,適応およびその予後,問題点などに言及することにする.

一般的な肝切除手技の基本問題

著者: 長谷川博 ,   三輪潔

ページ範囲:P.1305 - P.1314

はじめに
 肝癌という疾患に対し,また肝切除という手術手技に関し,多くの外科医はどちらかといえば消極的,悲観的あるいは臆病である.つまり肝癌は,外科的にも,制癌剤的にも,放射線的にも極めて手強い病気であり,幸運にも手術の適用があるとしても,身ぶるいするような勇気と決断を要する病気であるといえよう.このような印象がなぜ普及しているかといえば,1つには成人例には肝硬変合併例が多く,それだけでもメスを加えること自体に問題があるからであろう.また,もう1つには肝が血管の塊のような軟かくて脆い臓器であるという印象が,普及しているからであろう.
 しかし,今やこのような印象は徐々に拭い去られるべき時代に入つたといえよう.つまり,これらの印象をくつがえすような技術と事実が着々集積しつつあるからである.それは,すなわち,1つには血管撮影技術が進歩し,術前に肝動脈はおろか,門脈も,さらには下大静脈を含めた肝静脈枝全部がpanhepatic venographyにより個々の症例で立体的に把握できるようになつた.つまり数年前までは細かい地図のなかつた魔の山に,詳細な地図,さらには航空写真的な立体地図ができた.したがつて,思いがけない崖崩れが現場で起こらない限り山登りは安全になつたからである.2つには,われわれを勇気づけるような小児肝癌における手術成績の良さが蓄積してきたことである.すなわち,耐術者の40%は永続治癒している.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・15

胃陥凹性病変の良・悪性の鑑別—その3

著者: 相馬智

ページ範囲:P.1258 - P.1259

□IIc内部の粘膜隆起
 IIc内部の異常な粘膜隆起の存在は,1つの肉眼的特徴であると同時に,深達度を知る1つの目やすでもある.
 ①および②は胃角上部小彎上の典型的なIIcの内視鏡と切除胃を示す.明瞭に全周性に追跡できるIIc面内に3個の島状隆起をみとめる.この症例は深達度mの癌で,島状隆起は,組織学的に非癌組織で,いわゆる"とり残し粘膜"である.

クリニカル・カンファレンス

肝切除の術前・術後管理をどうするか

著者: 中村達 ,   河野信博 ,   照井頌二 ,   島野毅八郎 ,   長谷川博

ページ範囲:P.1316 - P.1334

《症例》
患者  47歳男性建築業
家族歴 特記すべきものなし

外科教育を考える【新連載】

外科卒後教育—あるレジデントの4年間の研修実績

著者: 鰐渕康彦 ,   尾本良三

ページ範囲:P.1337 - P.1341

 従来,わが国における外科卒後教育は大学病院を中心にして行なわれてきたために,いわゆる医局制度のなかで必然的に発生せざるを得なかつた多くの矛盾に対する厳しい批判が,一連の学園紛争の発火点となつたことは衆知の事実である.これに対して,市中にある一部の公立あるいは民間の病院では,早くから外科卒後教育,とくに臨床トレーニングの改善に関心を示し,主としてアメリカのレジデント制度にならつた種々のプログラムが試みられてきた.しかしながら,そのいずれもがわが国における保険診療体制という枠の中に閉じ込められていることと,何らかの形での大学病院の暗黙の支配から脱し切れずにいるために,トレーニングの実質的内容においてアメリカのそれとの間に格段の差があることは否めない事実であろう.われわれも,総ベット数400床足らずの民間病院ではあるが約5年前より理想的な外科卒後教育を求めて独自のプログラムを実施してきたが,本年に入り,やつとこのプログラムの中で育ち4年間のトレーニングを完結したレジデントが出るに到り,その実質的内容においても一応の成果を挙げ得たと思われる.ここに,1人のレジデントのサンプル・データを発表し,この方面に関心を持つ多くの人々の参考に供するとともに,わが国の現状においても,実のある卒後教育を実施することは決して不可能ではないことを示したい.

臨床研究

大腸癌切除における吻合部位よりみたドレナージの必要性

著者: 樋上駿 ,   池永達雄

ページ範囲:P.1345 - P.1351

はじめに
 大腸の吻合は,最も縫合不全の多いものの1つであつたが,最近では,吻合手技の改良などにより,その率は低下しつつある.
 一方,大腸癌手術において,リンパ節廓清は拡大される方向にあり,腹膜などの欠損部が大きくなる傾向にある.それに対し,drainageなどの対策が必要になつてくる.このdrainageは,術中の貯溜に対してはもちろん,術後必ず貯溜することを見越してdrainを挿入するという積極的な意味で,therapeutic drainageをさす.よつて,出血や縫合不全の発生を知るためのinformation drainageや,縫合不全を起こした場合に役立つという,消極的な意味でのprophylatic drainageとは異なる.

臨床報告

外傷性腹部大動脈・下大静脈瘻の1治験例

著者: 松本和久 ,   古賀保範 ,   馬場尚道 ,   内田象之 ,   中田俊則 ,   岩本勲 ,   前田隆美 ,   川嶋望 ,   藤井秀治

ページ範囲:P.1353 - P.1357

はじめに
 腹部大動脈・下大静脈瘻を伴つた大動脈瘤は,1931年にSymeがSyphilitic aorto-caval fistulaを報告1)して以来,極めてまれな疾患とされ,1935年,Lehmanが梅毒性腹部大動脈・下大静脈瘻の手術を行なつたが,術後,15時間目に出血のため死亡させている2).1945年にいたり,Barkerが外傷性大動脈・下大静脈瘻の手術を試み,世界で初めての手術成功例として報告した3).以来,欧米で約80例,本邦で4例の症例が紹介されている.このうち,外傷性腹部大動脈・下大静脈瘻については,欧米では約10例の報告をみるが,本邦ではその例を見ないようである.著者らは,外傷性腹部大動脈瘻に続発したと推定される「腹部大動脈・下大静脈瘻」を経験し,手術により治癒せしめたので,文献的考察を加えて報告する.

長期にわたる十二指腸と傍乳頭部憩室との間の異物により黄疸とOddi氏筋閉鎖不全を合併した1症例

著者: 林章彦 ,   大井正俊 ,   菅正純 ,   寺内尚志 ,   倉田達明 ,   植木剛一 ,   中村浩一

ページ範囲:P.1359 - P.1362

はじめに
 従来胆石症による閉塞性黄疸は極めて多いが,十二指腸乳頭部または胆道内異物が原因で発黄した症例は数少ない1,2,9).また同時に乳頭筋閉鎖不全症も臨床的にはまれで本邦では今までに21例の報告例をみるにすぎない2-9)
 今回われわれが,十二指腸と傍乳頭部憩室との間に異物が嵌屯し,閉塞性黄疸とOddi氏筋閉鎖不全を合併した極めてまれな症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

慢性腎不全(血液透析患者)における腹部大動脈瘤切除手術例

著者: 富野哲夫 ,   竹内正気 ,   中江世明 ,   入江昭 ,   伊藤昌平 ,   丁栄市 ,   橋本明政

ページ範囲:P.1363 - P.1366

はじめに
 心臓血管外科の手術手技の進歩に伴い,大動脈瘤の手術は広く行なわれるようになつてきた.その中でも腹部大動脈瘤の外科治療は合併症のない場合には手術危険度はかなり低いが,大動脈瘤が腎動脈に及ぶものでは手術手技も複雑となり,手術危険率はさらに高くなつて外科手術の適応外とされることもあるようである.さらに,慢性腎不全におちいり,すでに人工透析を受けているような患者に対し,腹部大動脈瘤切除術を行なうことは,手術前後の患者の管理,出血傾向に対する対策等が問題となり,手術は困難なものとされている.
 一方,人工腎臓による透析管理の医学が進み,この恩恵に浴する慢性腎不全の患者が増加するにしたがい,腎不全患者に対する外科手術法や,手術前後の管理法に関しての検討が必要になつている.術前,術中,術後にわたる細心綿密な治療計画と管理を行なうことにより,腹部大動脈瘤切除あるいは一般に心臓,大血管外科手術も可能となりつつあると考えている.最近われわれは慢性腎不全で,腹部大動脈瘤を合併した患者に,手術中および術後の管理を目的として,人工透析を開始し,しかる後に腹部大動脈瘤切除人工血管置換手術を行ない良好な結果を得た.症例の報告とともに,腎不全患者における手術前後の透析管理法について述べ,これに関して若干の考察を加えたい.

旁十二指腸ヘルニアの2例—本邦報告例の検討

著者: 里見昭 ,   畑尾正彦 ,   徳永剛 ,   呉屋朝幸 ,   濃沼信夫 ,   高橋勝三

ページ範囲:P.1367 - P.1371

はじめに
 内ヘルニアは,比較的稀な疾患である.本症の部位別の頻度は,本邦および欧米における集計によると,旁十二指腸ヘルニアが過半数を占めている.Treitzが,旁十二指腸窩(十二指腸空腸窩)の病理解剖学的関係を詳細に研究し,1857年に報告して以後,また本邦では,三宅教授1)が1902年に第1例を報告して以来,旁十二指腸ヘルニアについて,多くの報告がなされている.われわれも最近2例を経験したので報告する.

Colitis Cystica Profunda

著者: 猪野満 ,   杉山譲 ,   千葉昌和 ,   今充 ,   菊地惇 ,   田中隆夫

ページ範囲:P.1372 - P.1375

はじめに
 Colitis-cystica profundaは直腸および結腸の粘膜下に粘液を含有した嚢腫を形成する非腫瘍性良性疾患で,本邦における報告例は少ない.
 著者らは最近,病理所見でcolitis cystica profundaと診断された1例を経験したので,本症についての若干の文献的考察を加え報告する.

ビ系石の形成機序を示唆する胆石症の1例

著者: 杉田太一 ,   端野博康 ,   頼文夫

ページ範囲:P.1377 - P.1381

はじめに
 われわれは最近ビ系石とともに,その形成途上のいわゆるCoazervateと思われるゼリー状物質が多数存在する胆石症の1例に遭遇し,胆石の外殻生成説を示唆する興味ある症例と考えられるので,各種分析結果とともに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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