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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科31巻5号

1976年05月発行

雑誌目次

特集 大量輸血

輸血手技上の注意

著者: 金子正光

ページ範囲:P.575 - P.582

はじめに
 大量輸血の定義は必ずしも明確ではなく,循環血液量の3/4以上の輸血量とか,2倍以上とか,成人では3,000ml以上の輸血の場合とするもの,あるいは4,000ml以上とするもの,また時間的には24時間以内とするものなど様々である.しかし,乳幼児,小児などの症例も考慮すれば循環血液量を指標とするのが合目的であろう.大量輸血を必要とする病態は,外傷などによる出血ショックや,あらかじめ予定された手術ではあるが手術の性質上当然予期し得るもの,術中アクシデントによるものやoozingなど不可抗力と考えられる場合などである.

輸血の量と速度

著者: 二之宮景光

ページ範囲:P.583 - P.587

はじめに
 手術手技の進歩,手術侵襲の拡大に伴つて大量の輸血が必要で,blood bankingの面ではその需要を充たすことが問題であり,これとは逆に輸血そのもののもたらす影響,とくに肝障害の発生を危惧して手術中の出血に対して可能な限り輸血を行なわない方針もとられている.後者は一定の手術において輸血を施行しないですむ許容限度を認定する研究に発展し,実地上は輸液剤によつて対処することが広く行なわれている.
 しかし乍ら,コントロールし難い出血やショックに遭遇して大量の輸血を余儀なくされることは屡々で,従来も対症的に輸血を行なう基準としてヘマトクリット,血圧などが指標として用いられていた.本稿ではこれらの従前の基準について触れるとともに,ショックあるいは大量輸血に対する管理の方式について論じ,さらに最近2,3の報告のあるAutotransfusionについて述べたい.

代用血漿の利用

著者: 砂田輝武 ,   清水信義

ページ範囲:P.613 - P.618

はじめに
 代用血漿(plasma substitute)と呼ばれるものは一般に循環血液量の減少を補う目的で使用されるものであるが,その用途は広く適切な使用で輸血の節減にもなり,輸血に伴う弊害を避けることができ1),さらに血液や他の輸液剤にみられない利点もあり,使い方次第では有用な輸液剤である.
 本稿では代用血漿(plasma substitute)と血漿増量剤(plasma expander)をほぼ同一のものとして取扱つた.本来代用血漿とは血漿の代用として投与されるもので循環血液量の維持が目的であるが,栄養補給の目的をも満すものも含み,血漿増量剤は注輸量以上の血漿増量効果がみられるものをいう.膠質輸液剤(colloidal fluid)は高分子化合物の溶液で,その膠質浸透圧作用で血漿増量効果を期待して投与するものをいうが,本稿ではこれらをほぼ同一の概念で取扱い,現在わが国で使用されている代用血漿の実状について述べる.

輸血に伴う生体反応

電解質変動等を中心として

著者: 藤田達士

ページ範囲:P.589 - P.594

I.ACD保存血は如何なる血液か?
 ショック時に外液が細胞内に移行する証明としてCunninghamら1)は筋肉と同様,赤血球内へのNa移行を認めた.Weltは2)尿毒症の場合に赤血球へのNa移行を認め,この原因として血漿中のMg++高値から赤血球内Mg++の低下によつてNa-K-Mg-ATPase I及びIIの活性が低下するためとしている.また,甲状腺機能亢進症でも赤血球内へのNa取込みが増すことが報告され3),赤血球膜のエネルギー平衡の乱れが原因と老えられている.
 著者もこれを追試し,正常人では赤血球内Na(以下RNaと略す)は恒常的で7.38±1.19mE/L,赤血球内K(以下RKと略す)は105.53±5.29mE/Lであつた4).ショック時にはRNaは著しく上昇し,40mE/Lを越えることがある.

出血性素因;その病理と対策

著者: 神前五郎 ,   今岡真義

ページ範囲:P.595 - P.599

はじめに
 輸血は1665年にRichard Lowerが動物の血液を他の動物に輸注したことに始まる.その後1667年にJean Baptiste DenisとEmmerezがヒツジの血液を人間に輸注するのに成功した.1818年はじめて人間から人間への輸血が行なわれ,1900年には輸血学上画期的な発見がなされた.即ちABO型発見の基ともなるヒト血清がヒト赤血球を凝集させることが見い出されたのである.その後輸血は安全なものとなり数多く行なわれるようになつた.
 現在輸血は安全且つ有効な治療手段であるが,新鮮血液でなく保存血液を大量に輸血すれば種々の副作用が認められ,出血傾向の発現も稀ではない.

血清肝炎;予防とその治療

著者: 菊地金男 ,   舘田朗

ページ範囲:P.601 - P.605

はじめに
 輸血の副作用,特に輸血後4週ないし6ヵ月を経過してから発症するいわゆる血清肝炎が人口に膾炙されてから久しい.血清肝炎はvirus感染によるものと推測しながらも,確証のないままに予防対策が行なわれていたが,1965年Blumberg1)によりオーストラリア(以下Au)抗原が発見され,引続いてPrince2),大河内3)らによりAu抗原とSerum hepatitis antigenとが同一のものであることが報告されて以来,予防と治療法について漸く解決への途が拓かれた.その後も引続き,多くの研究者の不断の努力によりここ数年の問にDane粒子4),core抗原5)の発見が相次ぎ、次第に血清肝炎virusの本態が解決されて来たが.その予防,治療法についてはなお解明されないいくつかの間題が残されている.
 今日まで多くの人々が辿つて来た道を顧みながら血清肝炎の予防を治療法の現況について述べてみたい.

腎障害

著者: 吉岡敏治 ,   寒川昌明 ,   島崎修次 ,   杉本侃

ページ範囲:P.607 - P.612

はじめに
 輸血は外傷,手術,熱傷などによる循環血液量の減少を急速に回復させる必要のある時に用いるのが普通である.したがつて広い意味での外傷性ショックに際してもつとも大量に用いられる.今日ではさらに種々の内科的疾患にも血液成分の一部が投与されるようになり,その効果はなにものにも変えがたい1).ショック急性期の治療は第二次世界大戦の負傷戦士の治療経験をもとに輸液療法が急速に進歩し,いわゆるirreversible shockに陥いることはほとんどなくなつた.その反面、精力的な治療によつてショックをきりぬけた後の種々の合併症の発生が問題となつてきた2).なかでもショック臓器として最初に注目されたのが腎である3).その病因は2つに大別されている.ひとつは腎血流量の減少により尿細管上皮の膨化変性をきたすことであり,今ひとつはhemoglobin,myoglobin等を含む広義のnephrotoxinによる障害である4,5,6).輸血によつて全身の循環動態を保持できるとすれば,それはひいては腎の血流動態も改善すると考えられ,輸血による腎障害は後者に属するものである.
 今回の報告は輸血そのものによる腎への影響を解明しようとするもので,尿中,血清中のureaNの変動を検討し,虚血性変化によるparameterを除外するためにショックの程度とその持続時間による検討もあわせて行なつた.なおショック腎に関する報告は腎血流量の面からの検討,あるいはnephrotoxin投与下の実験的研究がほとんどで,大量同型輸血にともなう腎機能の検討は全くなされていない.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・10

早期食道癌のパターン

著者: 遠藤光夫 ,   羽生富士夫 ,   木下裕宏 ,   井手博子

ページ範囲:P.562 - P.563

 食道の早期癌は「癌の浸潤が粘膜下層までで,リンパ節転移のないもの」と定義され,深達度が同じでもリンパ節転移のある場合,表在癌とよんで区別している.現在まで早期癌22例,この他表在癌8例を経験しているが,早期癌は同時期での食道癌切除数の3%にすぎない.
 内視鏡所見で,術前深達度が粘膜下層までの表在型との予想はある程度可能であるが,早期癌か表在癌かの診断は非常にむずかしい.摘出標本での癌腫の大きさからみて,早期癌では3cm以下の小癌が22例中14例(64%)と多く,因に表在癌では8例中2例(25%),進行癌では284例中30例(11%)である.反面,6cm以上にも及ぶ表層拡大早期癌も14%にみられた.

グラフ

切断手指再接着術の実際

著者: 大塚寿 ,   上石弘 ,   塩谷信幸

ページ範囲:P.565 - P.573

 外径0.5〜1.0mmの微小血管吻合は,最近の器具,縫合糸をもつてすれば,2週間〜1ヵ月の動物実験にて誰にでも修得可能である.
 切断手指における血行再建は血管口径が近似しているので,positionの点でやりずらい母指主動脈以外は割り合い容易である.

講座

ハリ麻酔—④ハリの効果と耳針

著者: 許瑞光

ページ範囲:P.621 - P.623

癌性疼痛とハリ
 いままで理論的なことを述べたが,再び自検例をあげる.ハリが麻酔に利用されてきたことはすでに述べてきたが,このことは痛みのコントロールにハリが関係していることを示している.それで,癌性疼痛にたいしてハリはどのように働くのか,癌性疼痛にハリは効かないといわれているが,乳癌の末期の患者にハリがどのように働いたかを示す.痛みをどのようなindexを用いてこれを表わすかは大きな問題であり,ここではこの問題にふれない.この症例については,客観的なデータとしてハリの施行前,中,後における鎮痛剤の使用量の増減をそのindexとした.このような癌の末期に使用した経験は7例あり,その全例に有効であつたわけでない.まず具体例を示す.
 症例(図1)は末期癌の全身への転移による極めて激しい疼痛を訴えており,入院時よりpentazocineを使用した.pentazocineの投与量が増加したので入院12日目よりハリを施行して,pentazocineの投与量の低下,および減少,ないしは一定化が認められた.12月2日(入院23日目)に極めて激しい腹痛があり,pethidine hydrochlorideを1回使用した.ハリは腰痛,全身倦怠感には有効であつたが,腹痛,とくに,ascitesの増加による膨満感には有効でなかつた.ハリ開始後25日目より,癌性疼痛に効かなくなりpethidine hydrochlorideを再び使用し始め,この時より持続硬膜外麻酔を開始した.pethidine hydrochlorideとpenthazocineの使用量のハリによる減少と末期癌の激しい疼痛による癌末期の使用薬の増加に注意して頂きたい.このような癌性疼痛に使用し,有効であつた自験例を5例もつており(無効例もあつた),それらの小経験から癌による疼痛の全期間を通じて有効でないが,"初期から中期にかけて有効"であると考えている.癌による疼痛にハリ麻酔は無効であると言われているが,自験例から言えば必ずしもそうでなく,全身倦怠感のようなものを含めた痛みに有効であり,ハリと他の薬剤を併用すればかなり臨床的に有用であり,薬剤の投与量を低下し得ると考えている.このことはハリ麻が有効であるとの一つのよい根拠となるであろう.使用したツボは合谷,内関,足三里および外関,耳針を併用した.

Spot

生体管状組織の人工物化の1つの試み(その4)

著者: 秋山太一郎

ページ範囲:P.624 - P.625

 主として消化器系の管状構造物の連結後おこる狭窄は個体差,年齢差,部位差があること.また局所的には結合織の増殖の速度,増殖量によることは知つての通りである.この狭窄の防止対策としては縫合糸,縫合法などキメこまかな配慮から,連結部に狭窄防止用管(図11)を挿入することまで広範な問題がある.ここでは狭窄の問題を挿入管との関係において述べてみたい.これまで挿入管としてはゴム管,ビニール管(ポリ塩化ビニルプラスチックスの意味であろう),ポリエチレンチューブ管,シリコーン管なと比較的手近にあるものが使われてきた.それだからとはいいきれないが,結果的には大した効果がなく,無意味だとする人も少なくないようである.しかし一方,狭窄防止の役割を果すに十分な生物学的根拠をもつたものを使わなかつたからだと反論も成りたっであろう.それではまず生物学的に合理的な挿入管とはどうあるべきかのよりどころとなる問題点をひろつてみると表1になる.この表が集約的に画一的なものに決定することは無理で,症例ごとの最適材料,最適法があるはずである,したがつていろんな種類の挿入管が必要となろう.挿入管の理想像としては,つまるところ生体内で狭窄防止の役目を果したら管自体は自然に消失していくか,排泄しやすいように縮小する形式の材質であろう.この見地から消化性挿入管という意味でポリサッカライド系のものとしてガラクタンの硫酸エステルが主材である寒天質(図12),マンナンが主材であるコンニャクをとりあげた.これは加工処理法を変えることによつて,いろんな性質のものつくりうる.即ち弾性ゴム的なもので伸び率20%,曲げ強さも天然ゴムのように14%加硫物の性質によく似たものができる.膨化についてもその速度,吸収期間,また必要とあれば挿入管の材質の中に抗生物質を含浸させたり,膨化の速度を調節するためシリコーン菲膜を内張り(図13)などすることも可能である.結合織の増殖速度とともに増殖量が狭窄に大きく影響することは前に述べたが,この増殖量を極力小範囲に止める策として挿入管を入れてから同時に外部から長期間吸収性縫合糸(SCS)などで巻きつけておくことはどんなものであろうか(図14).

手術の周辺

消化管吻合における縫合材料の検討—PGAとCatgutとの比較を中心に

著者: 八板朗 ,   杉町圭蔵 ,   嶺博之 ,   奥平恭之 ,   中村輝久 ,   井口潔

ページ範囲:P.629 - P.633

はじめに
 近年,消化管吻合法については再検討されているが,縫合材料についての研究は比較的少ないようである.今回,新らしい吸収性縫合糸PGA(polyglycolic acidsuture)の登場を機会に,われわれの日常よく使用している絹糸,ナイロンといつた非吸収性縫合糸と吸収性縫合糸としてのplain catgut,chromic catgutとこのPGAの計5種類について,(1)組織内埋没抗張力の経時的変化,(2)胃液および胆汁中での抗張力の経時的変化,および(3)消化管吻合時の組織反応,などについて実験的検討を加え,若干の知見を得たので報告する.

臨床研究

食道静脈瘤に対する経腹的食道粘膜離断術の手術適応

著者: 平島毅 ,   原輝彦 ,   川村功 ,   中村宏 ,   竹内英世 ,   武藤護彦 ,   坂本昭雄 ,   桜庭庸悦 ,   坪井秀一 ,   佐藤博

ページ範囲:P.635 - P.639

はじめに
 食道静脈瘤に対する外科的治療法は,本邦においては選択的減圧手術1,2)と直達手術3,4)が行なわれており,とくに最近は後者の報告が多くなつている.そのうちでも食道離断術が広く行なわれつつある傾向である.
 教室では1972年よりWalker5)のmucosal transec—tionに若干の改良工夫を加えた経腹的食道粘膜離断術6,7)を積極的に行なつており,好成績を得ている.今回は本術式とほかに行なつた噴門切除術8)及び経腹的食道離断術の3者の1年未満死亡例を指標として諸検査成績を検討し本術式を中心とした直達手術の手術適応を考察したので報告する.

胃十二指腸潰瘍に対する再手術の問題点

著者: 渡部洋三 ,   宮上寛之 ,   加藤弘一 ,   奥村泰之 ,   塩野潔 ,   清水浩 ,   城所仂

ページ範囲:P.641 - P.644

はじめに
 今日,胃十二指腸潰瘍に対する外科的療法はひろく行なわれており,最近の麻酔,輸液,抗生剤,手術手技,術前術後管理等の進歩により,その手術死亡率は極めて低率となつてきた.しかし,胃十二指腸潰瘍の手術後にはいろいろな障害を伴うことがあり,未だ再手術を余儀なくされる場合も少なくない.
 今回,教室において1961年より1973年までの過去13年間に手術施行した胃十二指腸潰瘍症例1,207例中,再手術を余儀なく施行された症例は34例で,このうち最も問題となる縫合不全,術後出血および吻合部潰瘍に焦点をしぼつて,その問題点を検討してみた.

上部消化管術後縫合不全の治療法としての高カロリー輸液

著者: 小越章平 ,   小出義雄 ,   碓井貞仁 ,   竹島徹 ,   竹内英世 ,   武藤護彦 ,   平島毅 ,   高橋英世 ,   小高通夫 ,   佐藤博

ページ範囲:P.645 - P.649

はじめに
 もし外科医に高カロリー輸液を導入して何が一番ありがたいかと問えば,まず術後縫合不全が良く治ることをあげる人が多いであろう.消化管手術の合併症のうち術後縫合不全ほど外科医が一種の敗北感を味わうことはない.悪性腫瘍など患者のリスクが非常に悪いものをむりして切除した場合など,いくらかあきらめの気持ちで自分自身を慰めてみても消化管外科を標榜している以上,いつかは経験しなければならない宿命かもしれない.縫合不全をつくつて平気でいられるには,相当な経験と年季を必要とするものだろう.食道癌の手術術式などは,一口にいつて縫合不全との戦いで,現在までいろいろ改良工夫が重ねられて来たといつても過言でない.以前は縫合不全について堂々と発表する人は多くなかつた.高カロリー輸液が導入されて結局治癒率が高まつたために発表が増え,それらをみても以前も現在も大体同じペースで縫合不全は起こつていることがわかる.教室でも残念ながら縫合不全の例数は多い.しかし,高カロリー輸液を行なつて以来,救命率は比較にならないほど上がつた.それよりも何よりも根治術後まもなく気ぜわしく造つた縫合不全用の腸瘻を1例もつくらないで済んでいることが大きな進歩といえよう.

臨床報告

甲状腺クリーゼの1治験例

著者: 額田協 ,   知念輝和 ,   舟橋啓臣 ,   松崎正明 ,   永井敏也 ,   柴田明彦 ,   水野茂 ,   立松輝 ,   渡辺晃祥 ,   藤田治樹 ,   加藤健一 ,   加古健 ,   山岡透 ,   余語弘

ページ範囲:P.651 - P.655

はじめに
 抗甲状腺剤の使用が普及してバセドウ病の管理が容易となり,今日では甲状腺クリーゼの発生はきわめて稀となつたが,われわれは最近,Mercazole投与により無顆粒細胞症を発現し,後にはクリーゼにまで陥つたバセドウ病の1症例を経験した.この症例について,甲状腺クリーゼの診断と治療及び外科手術により完治させるまでに幾つかの教訓を得たので,若干の考察を加えて報告する.

Dubin-Johnson症候群を併存した胆石症の1手術例

著者: 柳郁夫 ,   井出裕雄

ページ範囲:P.657 - P.660

はじめに
 1954年,Dubin & Johnson1),Spring & Nelson2)により報告されたDubin-Johnson症候群(以下D-J症候群と略す)は体質性過ビリルビン血症の代表的疾患で,近年,わが国でもその報告例が増加しているが,黄疸,上腹部不定愁訴等を有し,胆嚢造影陰性または不良であることから,内科的疾患であるにかかわらず,かつては閉塞性黄疸と誤られ開腹されることがあつた3)
 われわれは今回,急性胆嚢炎症状で来院したD-J症候群の患者に胆石を併存した症例を経験したので報告する.

重症破傷風の3治験例

著者: 山崎靖夫 ,   松村功人 ,   国吉昇 ,   遠藤久人 ,   蒲谷堯 ,   高興弼 ,   今泉了彦 ,   鎌田哲郎 ,   梶原哲郎 ,   坪井重雄

ページ範囲:P.661 - P.664

はじめに
 破傷風は,現在では非常に少ない疾患になつたが,現在でも一旦罹患すると死亡率の非常に高い疾患である.元来破傷風は免疫により予防すべきものであるが,わが国の現状からすると未だ完全とはいえない.われわれは今までに重篤な神経症状を呈した3例の破傷風患者を経験し,外科的呼吸管理,及び抗毒素,抗生剤,鎮静,鎮痙剤の投与などにより救命し得たので,破傷風の治療について若干の検討を加えて報告する.

直腸Barium Granulomaの1例

著者: 千見寺勝 ,   樋口道雄 ,   更科広実 ,   古山信明 ,   橘川征夫 ,   小川清 ,   奥井勝二 ,   庵原昭一 ,   伊藤健次郎 ,   長尾孝一

ページ範囲:P.665 - P.668

はじめに
 一般に注腸造影は安全な検査法であり,腸管穿孔等の合併症を起こすことは稀であるが,最近われわれは,注腸造影の結果生じた直腸Barium Granulomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

腸捻転を合併した小児腸間膜嚢腫の2例

著者: 里見昭 ,   畑尾正彦 ,   徳永剛 ,   江里口正純 ,   高橋勝三 ,   陳維嘉 ,   有村章

ページ範囲:P.669 - P.672

はじめに
 腸間膜嚢腫は腹腔内腫瘍の中でも比較的稀な疾患で,1507年Benevieni14)が8歳男児の剖検時,小腸間膜に発見したのにはじまり,1880年にはTillaux15)が初めての摘出手術成功例を得たと言われている.以来,内外の文献に報告がみられ,Burnett12)は,1950年,201例を集計し,また1973年にはWalkerが文献上すくなくとも700〜750の報告があると述べている.われわれは最近,あいついで2例の小児の腸間膜嚢による小腸捻転を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

膵嚢胞腺癌の1治験例

著者: 麻生宰 ,   辻秀男 ,   和田浩一 ,   久下衷

ページ範囲:P.673 - P.676

はじめに
 膵嚢胞のうち,仮性嚢胞はしばしば遭遇するのに対し,腫瘍性嚢胞ことに嚢胞腺癌(cystoadenocarcinoma)は稀であり,本邦での報告も少ない.われわれは最近,形態学的にきわめて興味ある特徴を備え,肉眼的に脾嚢腫との鑑別が困難であつた膵尾部嚢胞腺癌の1例を経験し,手術により摘除し得たので,若干の考察を加えて報告する.

細小血管外科の手技を応用した先天性乳房欠損の再建の1例

著者: 藤野豊美 ,   原科孝雄 ,   青柳文也 ,   阿部令彦 ,   榎本耕治

ページ範囲:P.677 - P.681

はじめに
 細小血管外科microvascular surgeryの歴史は,Ja-cobson1)(1960)が,手術用顕微鏡下で血管外径1.4から3.2mmの頸動脈の吻合に100%成功したことに始まる.以来,形成外科領域では,皮弁(有茎植皮)を遊離植皮と同様に,一回の手術で遠位に移植させようとする試みが行なわれ,実験的には,Goldwyn2)(1963)が初めて犬の下腹部の皮弁に一対の動静脈をつけ,これを移植部血管と吻合する試みを行なつたが,同じ方法でKrizek3)(1965)が初めて成功した.本邦では,われわれ4)の追試が初めての報告である.そして臨床的には,浅側頭動静脈の応用が可能であると予報している5)
 藤野,田嶋6)(1970)は,顔面血管腫の症例に,初めてfree groin flapの応用をすべく手術を行なつたが,その症例では適当な静脈をみつけることができず,移植を断念したと手術記事にのべている.臨床的な成功はDaniel7)(1973)によつて,初めて報告されているごとく,細小血管外科の形成外科的応用はごく最近の発展である.

橈骨動脈外膜嚢腫と思われる1治験例について

著者: 杉浦芳章 ,   阪口周吉 ,   三方淳男 ,   張ヶ谷健一

ページ範囲:P.683 - P.686

はじめに
 動脈の外膜嚢腫は稀な疾患であるが,1947年Atki—ns1),1957年Hiertonn2)以来欧米では60余例,わが国では1961年の石川3)以来4例の報告がある.しかしそのほとんどは膝窩動脈に認められたもので,橈骨動脈に発生したものについては1965年Bäckström4)が2例を報告しているに過ぎない,すなわち極めて稀な疾患であるが,筆者らは最近本症と思われる1例を経験したのでここに報告する.

仙骨前に発生したParagangliomaの1手術経験

著者: 福嶋博愛 ,   磯本浩晴 ,   山内胖

ページ範囲:P.687 - P.691

はじめに
 直腸と仙骨の間に発生する腫瘍は,1885年Middel-dorpfの報告を最初とし1),retrorectal tumorまたはpresacral tumorと総称され,その部位的特性からみて様々の組織型の腫瘍が発生する.
 しかしながら同部位での原発性腫瘍の発生頻度は極めて少なく,Whittakerは4万人の入院患者中1人の割に見られるにすぎないと報告している2).本邦においてもその報告は少なく,特にpresacral tumorとしてのParagangliomaの報告はまだ見られない.

鼠径ヘルニア手術にて発見された睾丸性女性化症候群の1例

著者: 横谷邦彦 ,   寺井武寿 ,   竹本正幸 ,   中武稔 ,   長嶺慎一 ,   山内陽一

ページ範囲:P.693 - P.697

はじめに
 睾丸性女性化症候群(testicular feminization synd-rome)とは,最も極端な男性仮性半陰陽で,本来男性であり,したがつて性染色体構成はXYで,睾丸を有しながら外性器は女性の型に分化した奇形である.今回われわれは本症候群の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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