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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科31巻6号

1976年06月発行

雑誌目次

特集 早期大腸癌の外科

早期大腸癌の定義について

著者: 太田邦夫

ページ範囲:P.713 - P.715

「早期癌」の病理学的位置
 特殊な例外を除いて一般に,上皮性腫瘍は既存の成熟上皮の位置から発生し,一方では上皮の表面に沿つて水平的に拡大し,他方ではそれと垂直方向に上皮下間葉層に侵入増殖すると考えられる.前者は上皮内癌(carcinoma in situ)と呼ばれ,後者は初期浸潤癌と名づけられる.
 上皮は管腔に面し,その正常の表面被覆機能はその場に最も適応したものと仮定することが許されるならば,その位置を占める癌腫性の上皮の被覆機能は正常より劣る可能性が大であり,自発的な剥落の他,その場の外力に耐えないで分離しさる機会も多いはずである.これに概当する組織所見としての癌性糜爛,小潰瘍はしばしば見出されている.

早期大腸癌の診断―X線診断

著者: 吉川保雄 ,   勝田康夫 ,   織田貫爾 ,   佐々木輝男 ,   小笠原隆 ,   若林芳敏 ,   白壁彦夫 ,   狩谷淳 ,   水野幸一 ,   別府良彦 ,   高木正隆 ,   間山素行 ,   田沢浩 ,   長浜徴 ,   中島孝晃 ,   市川勝基 ,   山口一紘

ページ範囲:P.717 - P.724

はじめに
 本邦における早期大腸癌の頻度は,早期胃癌に比べて極めて少ない.この理由として,従来,1)大腸X線検査は胃X線検査のように手軽にできないこと,2)胃に比べて発生頻度が少ないこと,3)癌の早期発見に効果的な大腸X線検査法が確立していないこと,などが挙げられている.しかし,現在では,WelinおよびBrownらの努力によつて大腸X線検査法は大幅に改良され,苦痛の少ない,より簡便な二重造影法が大腸X線診断の主体となつた.
 また,早期大腸癌には現在のところ,早期胃癌に多くみられる表面陥凹型や表面平坦型が発見されていないので,性状診断は早期胃癌ほどの多彩性がなく比較的単純である.茎の有無も性状診断の決め手にならない.したがつて,早期大腸癌の診断にもつとも重要なことは,効率のよい,手技の簡便な二重造影法を駆使して,もれなく"大腸ポリープ"をひろい上げることである.そして,ポリープの大小にかかわらず,また,茎の有無にかかわらず,組織診断で悪性の有無を確めることである.

早期大腸癌の診断―内視鏡診断と生検

著者: 武藤徹一郎 ,   上谷潤二郎 ,   石川浩一 ,   池永達雄 ,   山城守也

ページ範囲:P.725 - P.732

はじめに
 近年,わが国の食生活の西欧化にともなつて,大腸癌の頻度は増加の傾向にある3).それとともに,早期大腸癌は関心が寄せられ,その診断に多くの努力がはらわれているのは当然の成り行きであろう.早期大腸癌の術後成績は早期胃癌に比べてはるかに良好であり,その診断成績の向上は治療成績の向上をもたらすに違いない.しかしながら,同じ消化管臓器であつても,胃と大腸とでは早期癌の性状,形態は必ずしも類似しておらず(むしろ非常に異つている!),診断に至るアプローチ,手順はかなり異つてくることが少なくない.本稿ではわれわれの経験を通して,早期大腸癌の生検を含めた内視鏡診断の実際と限界について述べたいと思う.なお,早期大腸癌の定義は,早期胃癌に準じて,癌が粘膜内および粘膜下層にとどまるものとした.

大腸ポリープへの対策

著者: 田島強

ページ範囲:P.733 - P.739

はじめに
 ポリープとは,肉眼形態上限局性に隆起したものの総称であり,大腸ポリープといつてもその中には性質の異なる種々のものが含まれている.その分類も諸家により異なり一定していないが1-5),Morson5)は表1の如く分類している.本稿では,このうち腺腫性ポリープ,若年性ポリープ,家族性ポリポージス,Peutz-Jeghers症候群についてその対策を述べる.

早期大腸癌の治療—とくに直腸sm癌の対策

著者: 土屋周二 ,   松田好雄 ,   犬尾武彦

ページ範囲:P.741 - P.749

はじめに
 大腸においても粘膜(m)または粘膜下層(sm)までの癌を早期癌と規定して取扱う趨勢にあり1,7),近年飛躍的にこのような早期癌の発見数が増加している.これを臨床的に取扱うにあたりとくに問題となるのは次の2点である.まず大腸粘膜の隆起として発見された病変が早期癌であるかどうかを確実に決定するにはどうしたらよいかという問題であり,つぎに早期癌であればどのような治療的処置がもつとも合理的であるかという問題である.m癌とわかれば転移のおそれはきわめて少なく,局所的切除でよいという考えはほぼ定説1,3,8)であるが,sm癌に対しては問題がのこる.Dukes Aの直腸癌にMiles手術のような廓清をともなう手術を施行した時の成績はきわめてよいことがわかつているが,sm癌のすべてにこのような手術が果して必要であろうか.このような疑問は,誰でも持つであろう.sm癌には少数ながらリンパ節転移があり1-10,15),術前に転移の有無が確かめられない以上,リンパ節をできるだけ廓清して完全を期するのが,外科治療の常道にもつともかなうところであろうが6-7,9-10),一方において局所切除のような縮小手術の効用と限界を明らかにして行く努力も必要となつてきた.以下自験例を中心にこれらの問題について考察を加えてみたい.まだ経験も浅く,不備の点も多いが,ご批判いただければ幸いである.

早期大腸癌の遠隔成績

著者: 高橋孝

ページ範囲:P.751 - P.756

はじめに
 何をもつて大腸の早期癌と定めるかという大腸早期癌の定義は未だ確立されていない.しかし,1975年2月,東京において開催された第2回大腸癌研究会において,大腸の早期の癌としていかなるものを考えるかということが論じられた際には,胃癌の場合と同様に,粘膜下層までの深達の癌を大腸早期癌と考えるという意見が大勢を占めていた.
 一方,早期癌として定義づけをする際に,その基準となる条件を考えてみると,これには2つの条件がある.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・11

食道潰瘍

著者: 遠藤光夫 ,   吉田操 ,   林恒男

ページ範囲:P.710 - P.711

 食道潰瘍は稀な疾患とされたが,食道鏡検査例からみて,10年前は0.8%であつたが,昨年の統計では2.3%と増加している.原因として,多く,胃液の逆流によると思われる消化性のもので,食道裂孔ヘルニア,短食道を合併するが,なかには,特殊性炎,器械的原因など消化性以外の原因とされるものもある.
 食道潰瘍は,X線上,下部食道の狭窄,壁の硬化,不整など,癌類似の所見を示すが,ニッシェを証明することはむずかしく,間接所見で診断しなければならず,狭窄部肛門側に胃粘膜を証明,食道裂孔ヘルニアをみつけることが,診断上の手掛りになる.

クリニカル・カンファレンス

大腸ポリポージスをどうするか

著者: 八尾恒良 ,   今充 ,   宇都宮譲二 ,   渡辺英伸 ,   西満正

ページ範囲:P.758 - P.771

《症例》
家族性大腸ポリポージス(密生型)の治療経験
 症例1
 患者:(T78,III−4)20歳女性,大学生,東京都在住
 病歴;姉が大腸ポリポージスのために治療を受けたので家族調査により罹患者であることが発見された.1年前より下痢と便秘があるほかは正常の社会生活を送つていた.

講座

ハリ麻酔—⑤ハリ麻酔の具体例

著者: 許瑞光

ページ範囲:P.773 - P.775

 何回かにわたつて,ハリ麻酔の理論について述べてきたので今回は,ハリ麻酔の具体例について麻酔のチャートを付して述べてみたい.
 そして,何回もくり返して述べているように,血圧,呼吸数,脈数が安定していることに注意していただきたい.最初ハリ麻酔を始めた時には,リハーサルを行なつたが,ハリ麻酔のテクニックになれるにしたがつて,リハーサルは行なわずに,手術を施行するようになつた.ハリ麻酔の適応その他についてはあとでのべるが,ハリ麻酔をどのようにして始めて行なつたのか,自検例を中心にして挙げ,併せて批判を頂ければ幸いである.

Spot

直腸鏡集団検診

著者: 棟方昭博 ,   相沢中 ,   吉田豊

ページ範囲:P.776 - P.778

はじめに
 近年胃集団検診の普及化などにより胃癌の訂正死亡率は減少の傾向を示しはじめつつあるのに対し,大腸癌では食生活の西欧化や診断能の向上などにより発見が増加しつつあり,訂正死亡率も上昇傾向にある1)。然るに最近大腸早期癌が注目され,数多くの症例が報告され,予後が良好であり,その能動的な発見が期待されるようになつた.
 教室での早期癌の経験から,早期癌発見には多数のポリープを発見し積極的に内視鏡的ポリペクトミーを行なうことが極めて重要であると思われた.最近大腸癌・大腸ポリープ発見のために,直腸鏡検査による地域集団検診をはじめたので,その概要を報告する.

手術の周辺

グルタールアルデヒド液による医療器具とくに麻酔器具の迅速消毒

著者: 古橋正吉 ,   宮前卓之

ページ範囲:P.781 - P.787

はじめに
 グルタールアルデヒドはホルムアルデヒドに比べて8〜10倍の殺菌力をもち,特に一般消毒薬では作用しない細菌芽胞に対しても殺菌力が強いため最近注目されている殺菌剤である.
 グルタールアルデヒド(以下G.A.と略)は構造式CHO-CH2—CH2—CH2—CHO,分子量100.12で示される化合物で,分子の両端のアルデヒド基が細菌を構成するスルフヒドリルまたはアミノ基と敏感に反応あるいは蛋白合成,DNA合成の阻害によつて細菌を死滅させるとされている1,8,9)

臨床研究

多核巨細胞の出現する慢性化膿性乳腺炎—自験例の臨床的,細胞学的,組織学的所見とその病因発生に関する考察

著者: 松本英世 ,   長尾和治 ,   松本忠 ,   近藤浩幸

ページ範囲:P.789 - P.793

 久留等2)は慢性化膿性乳腺炎は徐々に進行し,乳腺内の不規則な硬結を主訴に組織検査の対象となることが多いとのべている.私どもも最近,限局性腫瘤を形成する慢性乳腺炎の3例を経験したがこれらの組織学的検索で多核巨細胞の出現が多いことに気付いた.
 一方形質細胞乳腺炎5,10)とよばれる特異な乳腺炎の存在が報告されている.この場合浸潤細胞に形質細胞が多いのは名称の示す通りであるが,その外多核巨細胞の出現がよく記録されており,ここにも慢性化膿性乳腺炎と形質細胞乳腺炎の接点をみいだすわけであるし,久留等2)もまた形質細胞乳腺炎は広い意味で慢性化膿性乳腺炎に含めるとしている.

臨床報告

甲状腺癌を随伴し直腸癌を合併したGardner症候群

著者: 高橋真二 ,   奥野豊 ,   中村朗 ,   神俊一 ,   小野雄司 ,   篠村達雅 ,   桑田雪雄 ,   瀬田孝一

ページ範囲:P.795 - P.800

 大腸ポリポージスは種々の随伴病変を惹起し,これら随伴病変は一定の遺伝学的背景のもとに発生するといわれ,とくに大腸ポリポージスに骨腫,軟部腫瘍,類上皮嚢腫の随伴した疾患はGardner症候群として知られている1-2).さらにGardner症候群に甲状腺癌3),副腎皮質腺腫4-5)など内分泌臓器の腫瘍を随伴した報告がみられ,大腸ポリポージスにみられる随伴病変の探索はGardner症候群の臨床遺伝学的研究と相俟つて興味ある問題を提起している.
 われわれは甲状腺癌を随伴し,さらに直腸癌を合併したGardner症候群の症例を経験したのでその概要を述べ,とくにGardner症候群と甲状腺癌との臨床病態について文献的検討を加えたので報告する.

左乳嘴部に発生した悪性血管外皮腫の1例

著者: 谷村晃 ,   林逸郎 ,   小松良治 ,   秋本嘉雄

ページ範囲:P.801 - P.803

はじめに
 血管系より発生する悪性腫瘍は血管の分布する部はいずれの部にでも発生をみるが,乳腺部に発生をみた報告例は極めて稀である.
 最近,われわれは81歳の男性の左乳嘴部皮下に発生した悪性血管外皮腫の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

外傷後肺内血腫と思われる1例

著者: 生駒夏彦 ,   伊藤基 ,   宮原豊明 ,   越川卓 ,   室谷民夫 ,   国島和夫

ページ範囲:P.805 - P.808

はじめに
 古くは戦争による爆発損傷,今日では急増する交通事故による外傷のうち6〜8%に胸部外傷が認められる.外傷後肺内血腫は胸部外傷後数日してレ線上肺内に限局性円型陰影を呈する疾患であり,比較的稀なものとされている.また肺癌など他の円型陰影を呈する疾患との鑑別診断に際しその存在を知る必要があると思われる.われわれは近年その1例を経験したので,文献的考察と共に報告する.

急性壊死性膵炎における高カロリー輸液法

著者: 小越章平 ,   碓井貞仁 ,   坂本昭雄 ,   武藤護彦 ,   竹内英世 ,   劉崇正 ,   田畑陽一郎 ,   竹島徹 ,   川村功 ,   原輝彦 ,   平島毅 ,   佐藤博

ページ範囲:P.809 - P.812

はじめに
 最近わが国でも膵疾患に大きな関心が寄せられ,内視鏡的あるいは生化学的な診断法は著しく進歩し,腹部臓器のうち最も遅れていた部門に光明をあて,その成果が続々と発表されている.急性膵炎の確立診断は必ずしも容易ではなく,治療面でも以前からいわれていた程には外科的な侵襲を加えることは少なく,抗トリプシン剤などによる待期的療法が優位と思われる.しかし急性壊死性膵炎は発症の激烈さはもとより,時にいわゆる膵膿瘍等に発展し,早期のドレナージ手術が有効であるばかりか時期を失するために死に落し入れる可能性もいまだ低いとはいえない.
 ショックの場合はもちろんのこと,嘔気嘔吐,疼痛高熱等のために食事摂取制限は強く,この疾患に特有な電解質の異常もみられる.

腎結石の経過中に発症した老人のHereditary Spherocytosisの1手術例

著者: 中尾実 ,   長石泰一郎 ,   滝田昌宏

ページ範囲:P.813 - P.817

はじめに
 特異な赤血球の形態を呈し,小児期から高齢期のどの時期においても発症する遺伝性球状赤血球症hereditaryspherocytosis(以下HSと略す)は,その臨床所見およびある種の検査所見に特徴を有する遺伝性の血液疾患である.
 最近,われわれは腎結石の経過中にはじめて発症したと思われる老人のHSの1例を経験し,摘脾によつて臨床および検査所見を著明に改善しえたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷を機に発症したBochdalekヘルニアの1例

著者: 小島誠一 ,   菅野久義 ,   太田潤 ,   芳賀隆

ページ範囲:P.819 - P.821

はじめに
 近年小児外科学の進歩に伴つて,先天性横隔膜ヘルニアは緊急手術の対象として重要な疾患の1つとなつてきた.なかでも胸腹裂孔ヘルニア(pleuroperitoneal her-nia)はBochdalekヘルニアとも呼ばれ,他の先天性横隔膜ヘルニアに比して発生頻度が高いため,外傷性横隔膜ヘルニアと共に一般外科医にとつても重要な疾患の1つとなつている.
 最近当科において,外傷を機に発症した先天性胸腹裂孔ヘルニアの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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