腎障害を伴う場合の腹部手術後の輸液
著者:
小越章平
,
小高通夫
,
碓井貞仁
,
相馬光弘
,
坂本昭雄
,
山室美砂子
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入江氏康
,
小出義雄
,
野村庸一
,
田畑陽一郎
,
小林弘忠
,
佐藤博
ページ範囲:P.189 - P.195
はじめに
腎障害といつても発生機序はさまざまで,障害されている部位,程度によつて病状はいろいろあることはいうまでもない.したがつて,それに対する管理の方法も変つてくることは当然である.しかし,実際に消化器外科を標傍しているものでも,腎障害を伴う症例に手術侵襲を加えなければならないことや,また手術後に腎不全を起こし治療を迫まられることはけつしてめずらしくはない.腹部疾患,頻回の嘔吐などにより腎障害を起こすものや,逆に消化性潰瘍のごとく,腎機能不全のためますます悪化し,出血等のために緊急手術をしなければならないなど日常多く遭遇する.最近話題にされているnonoligulicあるいはhighoutput renal failure1),すなわち尿量が1,000ml前後ありながら臨床的には急性腎不全の症状を呈するものは,ここではふれず,一般的な腹部手術前後にみられるoligulicの障害のあるものについての管理をとりあげる.oligulic腎不全は,大きく分けて腎毒性のもの(nephrotoxic acute renalfailure)と虚血性のもの(ischemic renal failure)とがある.このうち腹部手術前後にみられるものは,脱水,不適当な水分電解質管理によるもの,あるいは多量出血による虚血性の範疇に入るものが多いが,腎毒性のものとして造影剤,代用血漿製剤,抗生物質,その他の腎毒性薬物によるものがある.その他に両者を加味したようなものもあり,高齢者,極度の衰弱患者,癌悪液質,副腎皮質不全などにみられる腎障害もある.われわれの教室では腎不全患者に対する血液透析あるいは腎移植を以前より行なつており,それぞれの分野で成績を上げているが,このような重症な腎不全患者の管理は,従来の発表にゆずり2-4),これらの経験を踏まえて日常よく経験する腹部手術後の腎障害を伴う患者の管理,とくに輸液の面について最近の高カロリー輸液もあわせのべる.