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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科32巻4号

1977年04月発行

雑誌目次

特集 ヘルニア再検討

乳幼児鼠径ヘルニアの扱い方

著者: 石田正統 ,   堀隆 ,   本名敏郎

ページ範囲:P.433 - P.439

はじめに
 人の腹壁のうちで腱膜も筋肉もない部分は鼠径部のHesselbach's三角部であり,人類が起立歩行したために生じた唯一の弱点であるという見方もある14)
 約100人に1人はあるといわれる本症の治療は実際上極めて重要であり,Appe.にならんで今日最も数多い手術に属する.しかしながら本症の外科手術は一般外科医の常識をもつてすればこと足りるものがほとんどであり,成書に見られる多くの術式のいずれに従つても大過なくすぎるので特に注目をひかないのが実状であろう.見方によれば,数多くの先達の努力の賜ともいえる.

成人鼠径ヘルニアに対する術式とその選択

著者: 牧野永城 ,   佐藤光史 ,   木村光博 ,   伊藤正幸

ページ範囲:P.441 - P.448

はじめに
 従来鼠径ヘルニアの術式として挙げられてきたものは実に数多い.鼠径ヘルニア手術に近代化の扉を開いたBassini(1890)以降だけでも新しい術式として発表されたものは枚挙にいとまがない.しかしそのうちには1つの術式に多少の修飾を加えたものにすぎぬものも多く,そしてそれぞれの術式に発表者の名をつけて,Marcy,Michel-Bankes,Czerny,Lucas-Championiére,Ferguson,Halsted,Kocher,LaRoque,Stetten,Andrews,Gallié,Hackenbruch,Potts,Zimmerman,McVay,波多腰,木本法などと呼ばれてきた.外科医にとつてはその1つ1つを憶えるのも大変であるし,その各種術式のどれを選択してよいのかもわからず,とかく混乱の原因となつてきたといつてよいだろう.
 実際,外科医がこれら術式のすべてを記憶したり,その手技を会得する必要は毛頭ない.われわれの所では,外科レジデントの卒後研修として,もつぱら手術治療の原理の理解を基本にして,各症例についてその原理に応じた手術法の選択を行なわせ,そのために代表的な術式をせいぜい数種習得させることにしている.

大腿ヘルニア—診断上の盲点と治療

著者: 村上治朗

ページ範囲:P.449 - P.457

はじめに
 鼠径大腿ヘルニア(Groin Hernia)の内で,その数が絶対的に多いのは外鼠径ヘルニアで,大腿ヘルニアの発生頻度はその2%前後に過ぎない.しかし,鼠径大腿ヘルニア罹患率が国民の3%以上に及ぶので,大腿ヘルニアもまた日常の臨床で遭遇する外科的疾患の地位からはずれるものではない.
 本症の頻度等に関する統計的報告は患者の種族,病院の種類等によつて違うので,一率に言うことはできないが,白人の本症罹患率(4〜6%)は本邦人に比べて高いようである.私どもの病院の20年間6,000例の鼠径大腿ヘルニアではその1.8%(108例)を本症が占めていて,都立墨東病院の3%(2126例中65例)に比べて少ない.原因は私どもの病院のヘルニア患者年齢層バランスが墨東病院よりも小児層寄りに傾いている結果であろう.性別では女性に多く,男性に少ない(私どもの病院では6:1)のは世界共通の現象である.その原因は骨盤上口(Apertura pelvis)の広さに起因する鼠径靱帯の延長またはCooper靱帯へのAponeurosis transversus abd.とFascia trans—versalis付着部狭小が大腿輪(Femoral ring)の拡大を招来し,腹圧もここにかかりやすくなる骨格上の特色に求める学者が多く,また妊娠は腹圧を助長するとともに,妊娠による鼠径靱帯,恥骨靱帯の二次的弛緩も本症発症の誘因と考える人もいる.腹圧が広い大腿輪に腹膜前脂肪織,さらに腹膜をおしこんで,腹膜憩室の橋頭堡(ヘルニア発生素因)を造り,これがやがて大腿ヘルニアに発展すると考えられているのである.本症が女性でも経産婦で,50歳以上の高齢者に多い事実がこの推定を裏付けしている.

腹壁瘢痕ヘルニアの予防と処置

著者: 陣内傳之助 ,   明石明

ページ範囲:P.459 - P.467

はじめに
 鼠径ヘルニア,臍ヘルニアを除き,前腹壁より脱出するヘルニアを腹壁ヘルニアという.腹壁ヘルニアは,白線ヘルニア(正中腹壁ヘルニア),半月状線ヘルニア(側腹壁ヘルニア)および腹壁瘢痕ヘルニア(incisional hernia)の3種に大別される.ここでは日常臨床においてしばしば遭遇する腹壁瘢痕ヘルニアについて,その予防と処置に重点をおき若干の知見を加えて概説する.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・21

小腸鏡

著者: 平塚秀雄 ,   後町浩二

ページ範囲:P.430 - P.431

 1970年6月,われわれは世界に先駆けて初めて小腸鏡1号器を試作した.以来,町田製作所がファイバー小腸鏡fiber intestino scope(FIS),オリンパス光学社が小腸ファイバースコープsmallintestinal fiberscope(SIF)と名付けて,両社のみによつて開発,改良が続けっれている.その開発過程は,push方式,sonde方式,ropeway方式などの各種内視鏡挿入法に見合うべくそれぞれ研究が進められているが,いまだに完壁な方法は完成されておらず,挿入法に関してはなお五里霧中といつたところであろうか.しかし,われわれの考案したropeway法は腸ひも挿入という前処置のわずらわしさはあるが,経口的にも経肛門的にも全小腸へ確実に挿入され,観察,撮影は勿論のこと,あらゆる部位で必要に応じた鉗子生検が可能であり,小腸内視鏡検査の役割を十二分に発揮しているといえよう.
 小腸鏡検査の適応は,小腸ファイバースコープの出現以前の直視下観察の全く考えられない数年前までは専ら機能的なびまん性病変を対象に,消化吸収の病態生理の解明が中心であつた.すなわち,比較的欧米に多いsprue,celiac,malabsorption syndrome,disaccharidase deficiencyなどのびまん性疾患の診断に対し盲目吸引生検法が広く普及していた.しかし,小腸ファイバースコープによる直視下観察,直視下生検が出現するや否や,小腸の癌,肉腫などの悪性腫瘍.またCrohn病,あるいは特異的,非特異的な小腸の潰瘍性病変の報告例も漸次増加の傾向にある.

トピックス・ニュース

英国医療機器展開かる EMI・ディスポーザブル製品に関心/目でみる科学史 "ゲツチンゲン文庫"公開さる

ページ範囲:P.439 - P.439

 英国医療機器輸出協会の主催による英国医療機器展がさきごろ,東京・北の丸公園の科学技術館で開かれた.
 今回は定評ある英国医療機器メーカー41社が出品,評判を呼ぶコンピューター制御のX線システムEMIスキャナー(whole body)の展示のほか,英国医療のきめ細かな福祉の側面を伝える身障者用各種機器(各種杖および歩行器)あるいは新規の麻酔器,滅菌装置が展示された.

座談会 明日の外科医を考える2

外科卒後教育と研修病院

著者: 吉友睦彦 ,   伊藤篤 ,   北川晃 ,   大同禮次郎

ページ範囲:P.468 - P.483

 本誌32巻1号(1977年1月号)に掲載した"明日の外科医を考える"は,外科医をとりまく種々なSurroundingを克明に分析,その問題点を描出してみせた.それを総論と言うならば,今回は第一線の臨床医であると同時に外科医の養成に尽力する指導医でもある研修病院の外科部長が,その実績を背景に語る,各論その1"外科卒後教育と研修病院".vividな現場からのレポートとして,日常,その労苦を共にしている指導医には共通の訴えとして,また若い外科医にとつては無上の勉励として,そしてなにより,よりよき明日の外科医を望む大方に,その再考を促すものとして読者の参考に供したい.

外科教育を考える・4

外科卒後教育トレーニング・プログラム—神戸市立中央市民病院の場合

著者: 吉友睦彦

ページ範囲:P.485 - P.488

はじめに
 日本の外科卒後教育は現在研修医の養成という形で行なわれているが,その期間,内容,方法などについては未だ一定したものはなく,大学では教室の一員として従来通りの教育をうけ,また地方病院では多忙などのためほとんどスタッフとして日常の業務に追われて系統的な教育をうけるのがきわめて困難なのが実情と思われる.しかし研修医の立場にたつて外科医の将来を考えれば,やはり教育体制の確立ということが急務であり,最近各方面で真剣に討議されている.そして系統的教育,修練という点からもトレーニングプランというかカリキュラムのようなものが必要と思われる.もちろん先にものべたように研修の目標が決まつていない現状ですから結局は当事者の考え方によると思いますが,われわれも種々のプランを検討し,また病院の実情をもふまえてわれわれなりに昨年からカリキュラムを作成して実行している次第で,以下にその内容を報告し御参考に供したいと思います.

Practical Postgraduate Seminar・1

患者の評価の仕方

著者: 相馬智 ,   小野美貴子

ページ範囲:P.489 - P.495

主な内容
 I.病歴の聴取をどのようにするか—循環器系から肝機能系までの既往歴,生活歴—
 II.これだけはしたい術前のスクリーニング検査—ベッドサイドでできる諸検査からデータの正しい評価まで—

臨床研究

外科手術にともなう血液凝固線溶系変化—とくにFDPの変動を中心として

著者: 石丸新 ,   山田充 ,   劉崇信 ,   古川欽一 ,   高橋雅俊 ,   金子文子 ,   馬場百合子

ページ範囲:P.497 - P.502

はじめに
 外科手術に際して突然止血困難なoozingに遭遇することは臨床医の誰もに経験されることであり,これが時として致命的な結果に結びつく場合もある.また術後における血栓症の発生は本邦においてはまだ少ないとはいえ重要な合併症のひとつとして注意が払われている.これら出血と血栓という一見相反する現象が外科的侵襲を契機として発生するということは興味のあることであり,その原因については主に血液凝固学的な立場からの検討が成されてきた.
 一方,1937年Mac Farlane9)は外科手術によつて線溶現象が引き起こされることを指摘し,以来外科手術にともなう線溶系の異常についてはその測定法の進歩とともに各方面から追究されるようになり,これが術後凝固異常の一因として重要視される傾向となつている.しかし,現在広く行なわれている線溶系検査法は測定方法が繁雑で,結果の判定までに時間のかかることから一般検査としては難点がある.したがつて実際の臨床においては迅速な情報を得ることが困難な場合も少なくない.

転移性脳腫瘍の臨床病理学的研究—剖検所見よりみた治療法の検討

著者: 榊三郎 ,   尾藤昭二 ,   本崎孝彦 ,   郷間徹 ,   大西俊輝

ページ範囲:P.503 - P.507

はじめに
 一般に,脳神経外科clinicにおける全脳腫瘍の中に占める転移性脳腫瘍の比率は4〜5%とされている5,10).しかしながら,剖検例の統計にみられるように転移性脳腫瘍の実際の発生頻度ははるかに多く12),このことは,従来の脳神経外科の臨床でとりあつかわれていた転移性脳腫瘍は限られた症例であつたと言える.
 近年,悪性腫瘍に対する診断技術の向上はもちろん,治療の分野においても,手術療法を中心に,放射線療法,化学療法が向上し,進行癌に対する治療も積極的に行なわれている.いきおい,脳神経外科を訪れる転移性脳腫瘍の数は急速に増加し,本症に対する適切な治療指針の確立が要求されている.

縦隔腫瘍の臨床的観察と手術成績および予後の検討—自験45例について

著者: 猪苗代盛貞 ,   瀬田孝一 ,   佐藤雅夫 ,   神俊一 ,   石田茂登夫 ,   斎藤盛夫 ,   江村耀章 ,   島田克巳 ,   日下純夫

ページ範囲:P.509 - P.514

はじめに
 縦隔腫瘍は近年急速に増加しつつあるといわれる.正岡ら1),寺松ら2)の集計によると,本邦縦隔腫瘍例は1955年以前は173例であつたものが,1956年〜1960年が494例,1961年〜1965年が1,245例,1966年〜1970年9月が2,052例,1970年10月〜1974年6月が1,485例と階段状に増加している.葛西3),正岡1),寺松2)らの報告を集計すると,1974年6月までの本邦縦隔腫瘍例は5,583例である.このような症例数の増加は大学付属病院以外の病院において著しい現象であると報告され1),縦隔外科が広く普及してきたことを示している.
 われわれの教室においても1953年から1975年までに45例の縦隔腫瘍を経験した.これは同時期入院患者総数15,574人の0.3%である.しかし症例の増加は1964年の8例をピークに漸減し1972年以降は年間1例を経験するのみである.われわれはこの45例について臨床および病理所見を検討し,患者の予後調査の結果と併せ,若干の知見を得たので文献的考察を加えて報告する.

臨床報告

下行結腸リンパ管腫の1例

著者: 伊藤隆夫 ,   村上哲之 ,   塩谷晃 ,   伊東恭悟 ,   井上茂章 ,   伊藤誠司 ,   今充 ,   大内清太 ,   棟方昭博

ページ範囲:P.515 - P.518

はじめに
 リンパ管腫は身体各部に発生し得るが,腸管に発生するものはまれであり,ことに大腸に発生したリンパ管腫は,欧米の文献を渉猟し得た範囲でも21例1-21),本邦報告例はわずかに3例22-24)を数えるのみである.
 われわれは下行結腸ポリープの診断にて経腹的ポリープ切除術を行ない,組織学的に本症の診断を得た1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

Sipple症候群の1例

著者: 田中忠良 ,   宮原義門 ,   森重一郎 ,   佐藤智城 ,   大石省三 ,   近藤導弘

ページ範囲:P.521 - P.527

はじめに
 近年,ホルモン定量法の進歩によつて内分泌疾患が注目を浴びているが,2種以上の内分泌腺腫瘍を合併する多発性内分泌腺腫瘍Multiple endocrine neoplasia(MEN)もその1つである.甲状腺髄様癌と副腎褐色細胞腫の合併はSipple症候群1)あるいはMEN,type22)と呼ばれ,とくに甲状腺髄様癌はその臨床病理学的な特長と相まつて,血清カルチトニンのradioimmu—noassayによる早期診断が可能となつたために関心を集めている疾患である3)−5).本邦での報告例はきわめて少なく,われわれは本邦第16例目の家族性発生と思われるSipple症候群の1例を経験したので報告する.

副血行路閉鎖手術により改善した猪瀬型肝脳症の1例

著者: 萩原優 ,   出月康夫 ,   尾形正方 ,   田村仁信 ,   金杉和男 ,   渡辺弘 ,   岡部和彦

ページ範囲:P.529 - P.532

はじめに
 門脈—下大静脈系シャントの存在により,周期的に意識障害をきたす猪瀬型肝脳症1)の治療は困難であるが,肝自体の病変の軽い場合には,外科的にシャントを閉鎖することにより,脳症の軽減が期待できる.
 門脈圧亢進症に対する門脈—下大静脈シャント後に頻発する,いわゆるportal systemic encephalopathyが,シャントを閉鎖することによって改善されることが報告されているが,われわれは,最近脾機能亢進を合併した猪瀬型肝脳症に対して,シャント閉鎖術及び脾摘を行ない,脳症の著明な改善をみた1例を経験したので報告する.

急性気腫性胆嚢炎の1例

著者: 柳郁夫 ,   青木博美 ,   井出裕雄

ページ範囲:P.533 - P.536

はじめに
 1901年,Stolz1)が始めて報告した急性気腫性胆嚢炎はガス産生菌による胆嚢ガス像を特徴とする極めて稀な疾患で,1966年,Sarmiento2)は世界の文献上,わずか105例を認めたにすぎず,本邦でもわれわれの蒐集した限りでは7例をみるのみである.
 今回,われわれは急性気腫性胆嚢炎の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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