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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科32巻5号

1977年05月発行

雑誌目次

特集 非癌性乳腺疾患の外科

乳腺症—本態と治療

著者: 妹尾亘明

ページ範囲:P.553 - P.561

はじめに
 乳腺症(fibrocystic disease, cystic disease, mastopathy)は中年婦人の乳房に発生する"嚢胞性疾患"として発見され,本態について種々の説があるが,現在本症を発生させるホルモン機序の詳細はなお不明である.そして本症のしめす種々の病理形態像は増殖・化生・退行性変化の複雑な組合せよりなるとされる.その一つ一つは本症によるものか,あるいは他の原因によつて起こつたものかは,ときに必ずしも明確さをかくことがある.将来本症に関与するホルモンとそれらの相互関係と形態学が相関するとき本態が解明されることであろう.ここでは現在までに本症についての病理形態学の所見を中心に私感をまじえて本態をのべる.また最近では治療法の概念も乳腺症としての一括した疾患に対するよりも,それを構成する病変を中心に行なわれ,ことに"嚢胞"に対する治療は大きく変りつつある.一方本症と乳癌の関係も多くの歴史を積重ねたにもかかわらず,解明されていない.最近再び関心がもたれ種々の方向から見直されようとしている.それは微小乳癌の発見が可能となりつつあるからである.

乳腺炎—取扱い方と鑑別

著者: 高橋勇

ページ範囲:P.563 - P.568

はじめに
 乳腺の疾患を主訴から大別すると,疼痛と腫瘤が挙げられ,このほかに乳頭からの異常分泌や乳房の変形,変色がある.疼痛の代表といえば乳腺炎であろう.とくに急性乳腺炎では相当烈しい疼痛があり,患者の苦痛は大きい.この場合,臨床診断は比較的容易である.しかし,あまり強い痛みではないが,時々思い出したように起こってくる乳腺の痛みがある.このような,中等度から軽度の痛みとして訴えてくる乳腺疾患には,どんなものが考えられるであろうか.まず,軽症の乳腺炎や慢性乳腺炎がこの中に含まれる.このほかに多い疾患としては乳腺症がある.本症は腫瘤を主体とする疾患と考えられているが,疼痛が先行して気付く場合が極めて多いものである.そのため乳腺症を乳腺炎と診断して治療されることがある.また,乳腺線維腺腫も,本来は疼痛の全くないものでありながら,痛みを覚えたと訴える女性が稀にはある.しかし,最も問題になるのは乳癌であろう.一般に,乳癌は無痛性の腫瘤として触知されて偶然に発見されるものが大部分であるが,ある程度進行した乳癌症例の中には,時おり,ちくちくあるいはつきんとする刺すような痛みを感じたと述べる患者が案外多いものである.乳癌が乳腺症とか乳腺炎とか誤診されることがあるのは,このためである.一方,腫瘤を主訴とする乳腺疾患の代表は乳癌が考えられるが,他の非癌性疾患として頻度の高いものに乳腺線維腺腫や乳腺症がある.さらに,乳腺炎も,腫脹,硬結の状況を考えると,腫瘤を主訴とする疾患だともいえる.このようにしてみると,乳腺炎は,良性疾患の1つではあるが,疼痛と腫瘤の両面から,他の非癌性乳腺疾患のみならず,最も重要な乳癌との鑑別に意を注ぐ必要のある疾患といえる.

乳腺線維腺腫—診断と処置

著者: 渡辺弘 ,   金杉和男 ,   牛込新一郎 ,   広田映五

ページ範囲:P.569 - P.574

はじめに
 乳腺の良性腫瘍で最も頻発するのが線維腺腫である.主として単発し,若い女性に好発し,乳癌との鑑別診断の際,ときに困難を生ずることがあるが,ほとんど悪性化はみられず,病理組織学的には性ホルモンの変化に伴う乳腺組織の不規則性増殖反応とも考えられ,また腺増生症や乳頭腫症を認めることがあることから,乳腺症の一特異型であるとも考えられている.本稿では,聖マリアンナ医大第1外科および国立がんセンターで取扱つた乳腺生検材料より,乳腺疾患中に占める線維腺腫の割合,年齢分布,病悩期間などにつき検討し,次にその診断法と処置につき詳述する.

乳腺葉状嚢胞肉腫

著者: 深見敦夫 ,   今田敏夫 ,   坂元吾偉

ページ範囲:P.575 - P.581

はじめに
 この疾患はJohannes Müller (1838)によつてはじめてcystosarcoma phyllodesの名称で報告された.肉腫の概念は,悪性を意味して通常使用されているため,誤解と混乱を招くが,Müllerは巨大な腫瘍といつた意味で使用したもので,良性の経過をとるものと考えていた.現在までに本症に対し50を越える多くの名称が与えられており,その中には,本腫瘍の概念により適切と思われるものも多いが,著者等は,慣用されている葉状?胞肉腫,悪性のものは悪性葉状嚢胞肉腫の名称を用うることとする.この疾患の概念,発生,組織学的特徴,治療法など,未だ解明されない部分も多い.その大きな原因の1つは,本症が比較的稀で,遭遇する機会の少ないことと関係がある.とくに本邦における報告例は少ない.しかし,Müller以来140年を経過し,次第にその知見も増加し,概念も変化をとげて来ている.Lee and Pack(1931)16)は自験の6例を加えた111例について報告し,その中に組織学的に悪性とみられる症例を記載した.この1例は本症に悪性例のあるという最初の報告であつた.その後White (1940)32)は,対側乳房,前縦隔と肺へ転移した症例を報告した.Kessinger (1972)14)は,自験例1例を含めて,66例の転移性の本症を英文文献で集計し,本症の悪性例についての知見の増加に貢献している.本腫瘍の診断は,現在組織学的所見からなされるが,とくに良性と悪性の鑑別は,治療方針を立てる上からも重要な問題である.しかし,Treves andSunderland (1951)30),Lester and Stout (1954)17),Norris and Taylor (1967)23)等によつて指摘されているが,この腫瘍の組織学的な悪性所見と転移を起こす生物学的な悪性度との問のくい違いは,なお最終的な結論を得ていない.

乳頭の異常分泌—処置と問題点

著者: 榎本耕治 ,   伊藤三千郎 ,   安村和彦 ,   浅越辰男 ,   須田厚 ,   竹下利夫 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.583 - P.591

はじめに
 乳頭の異常分泌には,授乳の際みられる白色の乳汁が授乳期以外に分泌される異常分泌と,乳管拡張等の際に陥没乳頭の乳管開口部にみられるコンデンスデミルク状のもの,及び乳管内乳頭腫,乳腺症や乳癌等にみられる血性或いは漿液性の乳頭分泌がある.授乳期以外の白色乳汁分泌は脳下垂体をはじめ全身的な検索が必要な場合が多く,それ相応の対処が必要である.乳管拡張症に伴う白色乳汁分泌は,厳密には,分泌というよりも,脱落上皮をはじめとした乳管内の蓄積物であり,放置しておくとコレステリン結石等を形成し,乳管周囲を刺激して炎症を起こし,しばしば膿瘍形成する.従つて,炎症のない時期には湿布ガーゼ等で清拭しておく必要があり,時には陥没乳頭の整形手術を要することもある.膿瘍を形成したものには乳暈と皮膚の境界部で半円周状に切開し,排膿を行ない,Juxtaareolar fistulaとし,時期をみて瘻孔切除(fistelectomy)及び乳頭形成術を行なつている.
 血性或いは漿液性乳頭分泌物の場合は,大部分が乳管内乳頭腫或いは乳管内乳頭腫症であるが,乳癌であることも稀でない.特に早期乳癌のうち,腫瘤をふれない乳癌T0の約70%は,この血性或いは漿液性乳頭分泌が来院時の主訴であることを考慮すると,如何に取扱うか慎重を要する1).また,この血性或いは漿液性乳頭分泌を来たす症例の切除標本には良・悪性の鑑別のむずかしい症例が多々あるので,慶大外科で1967年から1974年の間に取り扱つた血性或いは漿液性乳頭分泌のあつた症例に基づいて種々の問題を検討する.

乳房異物—障害と処置

著者: 久保完治

ページ範囲:P.593 - P.597

はじめに
 本稿における乳房異物とは,整容の目的をもつて,乳房実質ないしその周辺に,注入あるいは挿入された液状の物質を意味することとする.第二次世界大戦後,本邦においても,いわゆる豊胸術なるものが一部で流行してきた.
 古くは,乳房の著明なasymmetryに悩む婦人に,大量の皮下脂肪を皮膚とともに,当該乳房部位まで移動し,形成の目的を達することが行なわれた.しかし,これらの方法(Gillies法,Rein—hard法など)では,数次に分割して手術を行なう必要もあり,患者,医師とも苦労が多く,時間もかかるので,次第に行なわれなくなつてきた.

比較的稀な非上皮性乳腺腫瘍

著者: 泉雄勝

ページ範囲:P.599 - P.603

はじめに
 近年,わが国における,ホルモン環境,食事などを含む生活様式の欧米化にともなつて乳癌の漸増傾向がみられることは,わが国の癌対策上の重要な問題の一つであろう.
 そこで本特集の趣旨としては,乳癌の鑑別診断上に上つて来る非癌疾患の適切な取扱いが,逆にいえば乳癌の正しい診断,治療につながるという所にあると思われる.本稿では,臨床的に遭遇する頻度は多くはないが乳癌との鑑別上問題となる非上皮起源の腫瘍の特徴の概略を述べるが,日常の乳腺の診療に際して,稀にはこのようなものにも遭遇するという可能性を念頭においておくことも有意義であろうと思う.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・22

大腸の炎症性病変—その1

著者: 武藤徹一郎 ,   上谷潤二郎

ページ範囲:P.550 - P.551

 大腸の炎症性病変を2回に分けて提示したい.感染性大腸炎が減少した現在では,潰瘍性大腸炎が大腸炎の中に占める割合が増加している.潰瘍性大腸炎の活動期から緩解期に至る様々な内視鏡像を記憶しておくことが,大腸の炎症性病変の内視鏡的鑑別診断の基礎になる.

クリニカル・カンファレンス

乳腺のしこりをどうするか

著者: 榎本耕治 ,   藤田吉四郎 ,   冨永健 ,   広田映五 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.604 - P.618

《症例》
 患者 48歳,自営業.
 Pemphigus foliaceusのため,1975年10月24日以来現在まで皮膚科治療中(副腎皮質ホルモンを使用せず,steroid外用を主とした治療を施行した.1976年10月より,D.D.S.内服を開始している).経過は極めて良好であつた.

講座

ハリ麻酔—⑫ハリ麻酔の副作用

著者: 神山守人

ページ範囲:P.622 - P.623

 ハリ治療やハリ麻酔は治療効果は大きくない場合もあるが,比較的安全性が高いため多用されてきている傾向にある.しかし,ハリ療法それ自体のもつ危険性も十分知つておかねばならない.不十分な教育をうけている素人ならいざ知らず,少なくとも医学教育をうけた者がそれを扱うには,次のことに留意しなければならない.

Practical Postgraduate Seminar・2

術前・術後・1:一般的な患者の取扱い方

著者: 小山真

ページ範囲:P.626 - P.634

主な内容
手術前後の患者管理に最も必要なことはなにか
 I.術前の患者管理の実際—患者に対する説明から手術室まで—II.術後の患者管理の実際—術後の回復過程の見方から,術後の薬剤投与,栄養補給の行ない方まで—

手術手技

非開放性一層断端吻合によるわれわれの大腸吻合法

著者: 松林冨士男 ,   土屋喜哉 ,   佐藤薫隆

ページ範囲:P.635 - P.639

はじめに
 われわれはほとんどの消化管に著者等の創案した,非開放性の一層端断吻合を行ない,良好な成績を納めている.本法を大腸の吻合に行なう場合,特に細菌の多い下部消化管内容に汚染されぬばかりか,血管の豊富な粘膜下組織面を確実に合わせる吻合が可能であるので,従来の二層吻合よりも縫合不全も少なく,吻合の技術的な面では,狭小な骨盤腔内での吻合にも便利である.

臨床報告

転移が臨床的に先行した甲状腺癌症例—いわゆるoccult cancerについて

著者: 富田正雄 ,   柴田紘一郎 ,   古賀保範 ,   鬼塚敏男 ,   迫田耕一朗 ,   綾部公懿 ,   永野信吉 ,   川崎正名 ,   中村譲 ,   辻泰邦

ページ範囲:P.641 - P.645

はじめに
 甲状腺は頸部の体表に近く存在するため,甲状腺の異常に対しては自覚しやすいことから,比較的早期に治療されることが多いとされている.しかしながら,甲状腺腫に関しては悪性良性の判定が困難であるばかりでなくBasedow病の甲状腺腫でも微小癌の潜在することも報告されている1)ことから,甲状腺腫に対する診断には慎重を要するものと考えられている.また,結節性甲状腺腫は悪化率が高いことも認められているため,長期の観察も必要となる.
 一方,甲状腺の原発巣は明らかな臨床所見を示さず,転移リンパ節の腫脹が臨床的に注目される症例もあり,aberant thyroid cancerの名称で呼ばれ,臨床的興味が持たれたが,病名の上では適当でなく,その後,甲状腺自体には異常を認めない甲状腺癌はsilent diseaseとして取扱われるようになつた.

十二指腸潰瘍を合併したdouble pylorusの1手術経験

著者: 松木久 ,   山下芳朗 ,   鰐淵勉 ,   曽我淳 ,   武藤輝一 ,   田代成元

ページ範囲:P.647 - P.651

はじめに
 Double pylorusは,SmithとTuttleが1969年に報告して以来,欧米でわずかの文献発表がみられるにすぎず,本邦においてはまだその経験報告を見ないようである.
 著者らは,最近,術前の胃内視鏡およびX線検査により本症と診断し,手術によりこれを確認した1例を経験したので報告するとともに,その成因等に関し若干の考察を加える.

肺癌の腸管転移—下血を来たした多発性小腸転移の1手術治験例

著者: 中川公彦 ,   福沢正洋 ,   辻本雅一 ,   亀頭正樹 ,   岡田正 ,   佐谷稔 ,   正岡昭 ,   曲直部寿夫

ページ範囲:P.653 - P.656

はじめに
 近年本邦においても全悪性腫瘍中に占める肺癌の数は増加して来ており1),その診断,治療,転移再発,予後に関して多くの報告が見られる.最近われわれは小腸に多発性転移を来たした肺癌患者を手術治療する機会をえた.従来より肺癌が胃腸管等の腹腔内臓器へ遠隔転移することは知られていたが,その頻度からして決して好発部位とは言えず,しかもほとんどの報告例が剖検によるものであり,今回の症例のごとく手術的に治療しえたという例はほとんど見られない.本稿では若干の文献的考察を加えて報告する.

乳糜性腹水を主症状とした後腹膜細網肉腫の1例

著者: 安村忠樹 ,   児玉博行 ,   岩本稔 ,   落合準三 ,   南里一亮 ,   辻康裕 ,   飯田優 ,   中村充男 ,   服部隆則

ページ範囲:P.657 - P.660

はじめに
 乳糜性腹水は本邦では現在までに約90例の報告があり,比較的まれな症候である.一方後腹膜肉腫はかなり多くの報告例があるが,これらはいずれも腫瘤触知,腹痛,胃腸症状等を主症状としている.著者らは,最近乳糜性腹水を主症状とした後腹膜細網肉腫症例を経験した.本症例は確定診断に苦慮し試験開腹により初めて診断を下し得た症例であるが,ここに2,3の文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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