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文献詳細

雑誌文献

臨床外科32巻5号

1977年05月発行

特集 非癌性乳腺疾患の外科

乳腺炎—取扱い方と鑑別

著者: 高橋勇1

所属機関: 1東京都立駒込病院外科

ページ範囲:P.563 - P.568

文献概要

はじめに
 乳腺の疾患を主訴から大別すると,疼痛と腫瘤が挙げられ,このほかに乳頭からの異常分泌や乳房の変形,変色がある.疼痛の代表といえば乳腺炎であろう.とくに急性乳腺炎では相当烈しい疼痛があり,患者の苦痛は大きい.この場合,臨床診断は比較的容易である.しかし,あまり強い痛みではないが,時々思い出したように起こってくる乳腺の痛みがある.このような,中等度から軽度の痛みとして訴えてくる乳腺疾患には,どんなものが考えられるであろうか.まず,軽症の乳腺炎や慢性乳腺炎がこの中に含まれる.このほかに多い疾患としては乳腺症がある.本症は腫瘤を主体とする疾患と考えられているが,疼痛が先行して気付く場合が極めて多いものである.そのため乳腺症を乳腺炎と診断して治療されることがある.また,乳腺線維腺腫も,本来は疼痛の全くないものでありながら,痛みを覚えたと訴える女性が稀にはある.しかし,最も問題になるのは乳癌であろう.一般に,乳癌は無痛性の腫瘤として触知されて偶然に発見されるものが大部分であるが,ある程度進行した乳癌症例の中には,時おり,ちくちくあるいはつきんとする刺すような痛みを感じたと述べる患者が案外多いものである.乳癌が乳腺症とか乳腺炎とか誤診されることがあるのは,このためである.一方,腫瘤を主訴とする乳腺疾患の代表は乳癌が考えられるが,他の非癌性疾患として頻度の高いものに乳腺線維腺腫や乳腺症がある.さらに,乳腺炎も,腫脹,硬結の状況を考えると,腫瘤を主訴とする疾患だともいえる.このようにしてみると,乳腺炎は,良性疾患の1つではあるが,疼痛と腫瘤の両面から,他の非癌性乳腺疾患のみならず,最も重要な乳癌との鑑別に意を注ぐ必要のある疾患といえる.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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