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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科32巻7号

1977年07月発行

雑誌目次

特集 甲状腺機能亢進症—外科医の役割

甲状腺機能亢進症のホルモン動態

著者: 鎮目和夫 ,   前田美智子

ページ範囲:P.813 - P.819

はじめに
 甲状腺機能亢進症hyperthyroidismは,甲状腺ホルモンの過剰により引き起こされる.頻脈,動悸,手指振戦,多汗,やせ等の症状群,あるいはその症状群をもつ患者全体を指しており,この中にはバセドウ病(グレーブス病)の他,Plummer病,異所性甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍(胞状奇胎,悪性繊毛上皮腫),亜急性甲状腺炎の初期,Hashitoxicosis,甲状腺剤中毒症,TSH産生腫瘍(非常に稀)等が含まれる.しかしながらバセドウ病と完全に同意語として用いられることも多く,以下も最も重要なバセドウ病を中心にそのホルモン動態について述べることにする.甲状腺ホルモンにはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があること(図1),T3はT4に較べ速効性でT4の数倍もの生物活性を持つていることは20年以上も前から報告されていたが,T3の血中濃度はT4の1〜2%前後と非常に低く化学的測定法では測定不可能なため,T3の生理的役割については長い間明らかにされなかつた.しかし近年radioimmunoassayなどの測定法の進歩により血中濃度が比較的容易に測定されるようになり,T3の生理的意義の重要性が指摘されてきた.さらに1970年1)甲状腺の全くない患者すなわち自分では全くT3を分泌できない患者にT4だけを投与しても血液中にT3が出現することから,甲状腺以外でも肝,腎,結合組織等の末梢組織においてT4がT3へ転換(conversion)される事実が報告された(図2).また甲状腺機能正常者では全身に存在するT3のほとんど大部分はこのT4からの転換により生成されたものであることが明らかにされ,T4は単にT3を供給するためのprohormoneにすぎず末梢でT3に転換されて初めて生理的作用をあらわすのではないかという考えもある.しかし一方T4それ自体にもホルモン活性が存在するとの報告塗,あり,甲状腺ホルモンの生理的意義,作用機序を考える上で非常に興味のある問題ではあるが,現在のところはつきりした結論は出されていない2-6)
 また,甲状腺ホルモンは血中で血清蛋白と結合して運搬され,実際に活性を発揮するのは結合していない遊離型(free)であるが,特にT4は結合が強く,free T3が約0.4%であるのにくらべfree T4は0.04%にすぎないなどの特徴がある.

甲状腺機能亢進症診断上のアプローチ—最近における進歩

著者: 福地稔

ページ範囲:P.821 - P.826

はじめに
 甲状腺機能亢進症は甲状腺におけるホルモン合成分泌の病的亢進により,末梢血中において活性型ホルモンである遊離型甲状腺ホルモン量が高値持続することにより惹起される病態である.そのほとんどは,いわゆるバセドウ病であるが中毒性結節性甲状腺腫であるプランマー病,TSH過剰分泌を伴う下垂体腫瘍,それに甲状腺ホルモン結合蛋白異常などによつても同様の病態は起こりうる.
 甲状腺機能亢進症の診断には他の疾患におけると同様,その臨床症状の適確な把握が重要となることは論をまたない.特に典型的例では臨床症状のみで診断が可能な症例も少なくない.しかし,核医学診療の最近の発展はめざましいものがあり,これに伴い放射性同位元素を用いた甲状腺検査法も画期的な進歩をとげた.これら新しい臨床検査法の導入により甲状腺機能亢進症の病態把握もきわめて精細となり,その診断精度も一段と高いものとなつている.従来ともすると甲状腺機能の高低のみの指標とされてきた甲状腺機能検査法は,より深くより立体的に甲状腺の病態生理を解明把握できるまでに充実し,これら検査法の活用は,かくされた病態の発見や治療法の選択とその効果の判定,予後の推測など多岐にわたる恩恵をもたらしつつある.

甲状腺機能亢進症治療法の選択と規準—131I療法の適応と禁忌

著者: 松井謙吾 ,   飯尾正宏

ページ範囲:P.827 - P.833

はじめに
 正常の甲状腺は放射線に対して感受性が低いが,甲状腺機能亢進症における甲状腺組織は上波細胞の増殖とリンパ球の浸潤が見られ,これらが放射線感受性の高いことから1900年頃よりX線による照射治療が,そして間もなくラジウムによる治療も行なわれるようになり現在に至つた.また最近ではベータートロンやライナックによる電子線治療も行なわれている.
 一方1937年Fermiが放射性ヨードを発見し,1941年にはHanilton, Lawronceらによつてサイクロトロンによる131Iの臨床応用がなされ,戦後間もなく原子炉により大量製造供給されるようになつた131Iによる甲状腺機能亢進症の治療は急速に普及し,その組織親和性を利用した131Iから放出されるβ線の組織内照射と言う理想的な治療法として本疾患の治療に不可欠のものとなつたのである.

甲状腺機能亢進症治療法の選択と規準—抗甲状腺剤による治療法の適応と限界

著者: 橘敏也

ページ範囲:P.835 - P.841

はじめに
 1882年,Reverdinによつて,初めてヒト甲状腺腫の手術が行なわれ甲状腺疾患における外科手術療法の道が拓かれた.
 Basedow病の治療においては,長い間この外科療法が主な治療法であつたが,1942年になつて,131Iによる放射線療法が可能となり,同じ頃薬物療法も試みられるようになり,ことに1943年にはMckenzie, Astwoodらによりチオ尿素系の薬物が導入され,次々と安全な抗甲状腺薬が誘導されて薬物療法は飛躍的に進歩した.

甲状腺機能亢進症治療法の選択と基準—最近の手術療法

著者: 原田種一 ,   松土昭彦

ページ範囲:P.843 - P.848

はじめに
 1920年代のはじめに,Kocherにより甲状腺の手術手技が進歩し,1923年,Plummer1)が,甲状腺機能亢進症の手術に,Lugol液の術前投与を推奨して,その安全性が増加して以来,手術がほぼ唯一の本症に対する正統的な治療法であつた.しかし,1943年Astwood2)が,抗甲状腺剤を開発し,また前後して放射性ヨードが使用されるようになると,甲状腺機能亢進症に対する外科医の役割は急激に減少した.
 しかしながら,これらの新しい治療法も,長らく臨床的に使用してみると,種々の欠陥が次第に明らかとなつてきた.すなわち,抗甲状腺剤による治療が,極めて長期間を必要とし,その治療期間中に,はたして抗甲状腺剤で治癒せしめられるか否かの判定が困難であり,服薬中止後再発することが多く,真の治癒率が低いことや,あるいは放射性ヨードによる治療の,逐年増加する予想外に多い甲状腺機能低下症の発現の事実などから,再び手術の短期間の治療日数と,その成績の優秀さ,確実さが見直される時期となつた.われわれも現在,その線に沿つて,外科的治療の枠を拡げつつあるが,筆頭著者の元勤務していた伊藤病院の本症に対する選択基準と比較しながら,われわれの手術の適応に対する考えを述べてみたい.

甲状腺機能亢進症術後後遺症

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.849 - P.853

はじめに
 そもそもバセドウ病患者に手術を行なつて術後後遺症が起こるようなことがあつてはいけない.バセドウ病に対する治療法は手術以外にもあるわけであるから,極端ないい方をすれば,術後後遺症が起こるくらいなら手術をしないで他の治療法を選べばよかつたとも言えるわけである.しかし抗甲状腺剤投与で難治のものが全バセドウ病患者の50%前後はあること,放射性ヨード療法にしても術後の甲状腺機能低下症発現の問題があり,手術療法の利点があらためてみなおされてきた今日の情勢にかんがみ,われわれ外科医は何とか術後後遺症を起こさないように手術を行なうコツを習得しなければならない.
 術後後遺症にはいろいろなものがあるが,輸血による血清肝炎の問題などは手術全般に関係したもので,ここでは,省略することにし,主に手術手技に関係して起こる術後後遺症について具体的に記し,その予防法,また不幸にして生じた時の処置法についてのべてみたいと思う.

カラーグラフ 消化管内視鏡シリーズ・24

大腸ポリポージス

著者: 宇都宮譲二

ページ範囲:P.810 - P.811

 大腸ポリポージスはMorsonに従うと次のように大別される.
○腫瘍性:大腸腺腫症(家族性大腸ポリポージス,Gardner症候群,Turcot症候群)
 ○過誤腫性:Peutz-Jeghers症候群,若年性ポリポージス,
○炎症性:炎症性ポリポージス(潰瘍性大腸炎,Crohn病,結核,住血吸虫症によるもの).良性リンパ性ポリポージス
○その他:化生性(過形成性)ポリポージス,Cronkheit—Canada症候群,腸管嚢腫様気腫,など
 このうち私どもの経験したものについて,主に直腸鏡写真像を紹介する.

誌上シンポジウム

腹部手術における術前・術後の抗生物質をどうするか

著者: 品川長夫 ,   横山隆 ,   中村輝久 ,   元木良一 ,   石引久弥

ページ範囲:P.854 - P.871

症例
 症例1 67歳,男子,57kg
 9ヵ月前,胃癌(S1N1P0H0,R2,B-I再建)手術をうけ経過良好であつた.1週間前より食欲不振,便秘や悪心出現,経過観察し絞扼性イレウスと診断し,開腹したところ,回腸末端約50cmにわたる小腸壊死を伴う絞扼性イレウスであつた.小腸はほぼ全長にわたり拡張,肥厚,発赤あり,膿苔多量に附着,壊死腸管切除,腸内容除去を行なつた後,端々吻合を行なつた.

Practical Postgraduate Seminar・4

術直後のCare—I.C.U.における管理

著者: 美濃部嶢

ページ範囲:P.878 - P.885

主な内容
手術の成否を決める術後管理
Ⅰ.手術終了よりRecovery Room, I.C.U.への移送
Ⅱ.術直後の一般的Careどんな全身状態の変化も見逃さぬことが肝要

臨床研究

血行再建術後の早期・晩期閉塞に対する再手術

著者: 塩野谷恵彦 ,   伴一郎 ,   仲田幸文 ,   平井正文 ,   河合誠一

ページ範囲:P.887 - P.890

はじめに
 血行再建部の閉塞性合併症の予防と治療は血管外科の中心的課題である.わが国の末梢血管外科の対象の大半を占める,Buerger病(TAO)と閉塞性動脈硬化症(ASO)における血行再建術後の,早期ならびに晩期閉塞に対する再手術の問題点について検討を加えたい.

リンパ球幼若化率による消化器癌患者術後病態の長期検索

著者: 三輪恕昭 ,   折田薫三

ページ範囲:P.891 - P.896

はじめに
 癌患者の病態を免疫学的レベルで解析する試みが数多くなされ,それらの結果より担癌宿主の主として細胞性免疫能により癌の進行が予測できることが知られてきている1,2).この事実をふまえて,現在種々の癌免疫療法が行なわれ,良好な成績も出始めている3)
 われわれは,1972年以来癌の進展を知る目安として担癌患者の細胞性免疫能の中でも非特異的免疫反応を主体として検索を行ない報告してきた.その結果,癌患者の癌進行度,治癒切除可能度,予後判定,再発予知には非特異的免疫反応中でも特に末梢血リンパ球のPHA(phytohemagglutinin)に対する幼若化率(以下幼若化率)が最も有用であり,DNCB反応,PPD反応がそれをよく補佐することがわかつた2).術前幼若化率の有用性については既に報告したので,今回は幼若化率の術後の変化を中心に検索し,癌患者のfollow upへの意義について報告したい.

虫垂炎を契機とした頻回開腹術例の臨床的検討

著者: 中尾実 ,   鎌迫陽 ,   長石泰一郎 ,   尾崎行男 ,   井上雅勝 ,   来海秀和

ページ範囲:P.897 - P.902

はじめに
 虫垂炎の診断のもとに施行された初回の開腹術を契機として生じた種々の合併症や腹部愁訴に対し,しばしば多数回の開腹術が行なわれることが多い中で,polysur—geryへ進展する症例がある.このpolysurgeryは,腹部外科領域においては最も取扱い困難な開腹術後後遺症の1つである.
 今回,われわれは虫垂炎手術を契機とした頻回開腹術例およびpolysurgery症例を分析検討したので,その成績を報告するとともに,若干の文献的考察を加えてみたい.

臨床報告

乳腺Paget及びPaget様病変4例の経験

著者: 高橋正二郎 ,   小田正博 ,   高松正之

ページ範囲:P.903 - P.906

はじめに
 乳腺Paget病の最初の報告は1840年Velpeau1)が乳頭部の特異な病変を認める2例を報告したのに始まる.その後1874年James Paegt2)が乳頭および乳輪の長期にわたる湿疹様変化が癌腫発生と密接な関係のあることを述べ,以来かかる症例をPaget病と称するようになつた.種々の議論を経て現在は「乳頭及び乳輪部の表皮内浸潤を特徴とする癌で乳管内ないし軽度の管外性浸潤を示すものとする」との結論に達している.またPagetに由来し乳腺内に腫瘤として癌腫を認める場合Pegetoidとして取扱われている.われわれは過去約8年間に本症の4例を経験しておりその概要と若干の考察を報告する.

内視鏡下に摘出した直腸脂肪腫の1例—本邦報告例の検討及び文献的考察

著者: 大山廉平 ,   東泉東一 ,   安藤幸史 ,   落合正宏 ,   加勢田静 ,   笠原正男

ページ範囲:P.907 - P.911

はじめに
 消化管脂肪腫は,欧米において1844年Huss1)により,初めて報告されて以来,Pemberton & McCormack(1937)2)と報告がつづき,最近では,D'Javid(1960)3)274例,C. W. Mayo(1963)4)119例の大腸脂肪腫の症例が集計報告されている.
 本邦における消化管脂肪腫は,1909年熊谷5)の報告にはじまり,1968年山際6)の統計では73例である.

腹部大動脈高位閉塞症の臨床

著者: 岡本好史 ,   山中浩太郎 ,   田苗英治 ,   渡辺裕 ,   松田光彦

ページ範囲:P.913 - P.917

はじめに
 腹部大動脈分岐部のatherosclerosisと血栓症による閉塞は,その特異な臨床症状より,Leriche症候群と呼ばれている1).欧米では多数例が報告されているが,本邦では比較的報告が少ない.
 閉塞は,初めは分岐部付近に限局してみられるが,緩慢な経過をたどつて次第に上方に波及し,まれには腎動脈分岐部にも及ぶことがあり,high aortic occlusionあるいはhigh Leriche syndromeと称される重篤な腎機能不全にいたる.

陳旧性消化管損傷に対する自家遊離腹膜パッチの効果—実験成績と臨床1治験例

著者: 八板朗 ,   中村輝久 ,   夏田康則 ,   上尾裕昭 ,   杉町圭蔵 ,   井口潔

ページ範囲:P.919 - P.923

はじめに
 交通外傷による腹部損傷は,非開放性で実質臓器の損傷が多いのが特徴であり,なかでもハンドル損傷では,十二指腸,膵などの後腹膜臓器の受傷が多いといわれる.かかる場合の十二指腸後壁破裂の診断はなかなか困難なことが多く,しかも24時間以内に診断して手術しなければ予後不良といわれている.
 最近われわれは,ハンドル損傷による十二指腸後壁破裂と中結腸動脈根部の破綻によつて感染性の後腹膜血腫があつたにもかかわらず,2週間近く確定診断がつかないまま姑息療法に終始し,当科にて緊急手術により救命しえた1例を経験した.十二指腸破裂は術後縫合不全の危険性が高く,その対策として損傷部の補強と十二指腸内腔の減圧が要求される.われわれは数年来,食道再建時,食道胃吻合部の縫合不全防止に,吻合部の周りに自家遊離腹膜片を縫着する腹膜パッチ法1,2)を考案,約50例で効果を認めているので,この症例に対しても本法を適用したところ陳旧創にもかかわらず無事治癒させることができた.消化管の汚染陳旧創に対しても腹膜パッチが有効かどうかということは実地臨床上興味深いことと思われるので,若干の実験的検討を加えて報告する.

巨大な非機能性膵島細胞腫の1例

著者: 高嶋成光 ,   福田和馬 ,   芳村剛 ,   三好恵一 ,   森脇昭介

ページ範囲:P.925 - P.928

はじめに
 膵島細胞由来の腫瘍として,低血糖発作を主徴とするInsulinoma,難治性消化性潰瘍を伴うZollinger-Ellison症候群,WDHA症候群などの機能性島細胞腫が知られている.
 一方,組織学的には機能性島細胞腫と相違は認めないが,特徴的な臨床症状を欠く症例があり,非機能性島細胞腫と分類されている1).このような症例は巨大な腫瘤を形成するか,悪性化して全身症状を呈するもの以外は,臨床的に発見される機会は少ない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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