icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科32巻8号

1977年08月発行

雑誌目次

特集 上部消化管大量出血

急性上部消化管大量出血の応急対策

著者: 長尾房大 ,   池内準次 ,   曽爾一顕 ,   小野良実 ,   鈴木康治 ,   向島祐 ,   岩渕秀一 ,   稲垣芳則 ,   元永周二

ページ範囲:P.945 - P.951

はじめに
 上部消化管出血は,吐血または下血を主徴とする急性症であり,出血源が胃に由来することが多いため,通称,胃出血ともいわれている.この出血には極めて少量から,致死の大量まで,幅広い出血量が存在する.出血が大量の場合,とくにショック症状が伴つているときは,その応急対策は極めて重大な問題となる.内科,外科のいかんを問わず,第一線の医師として,大量出血の際にはどのような方法で実際に治療していくかを早急かつ適確に決定しなければならない.「大量出血時の応急対策」ということばのなかには,多くの問題を含んでいるが,もつとも端的にいつて救命を第1目標として早期治療を要する対象の選択,治療方針の決定ということがもつとも眼目となるものであり,その面で,緊急手術の適応如何ということが重大なポイントとなる.上部消化管出血に対する対策といつても,その出血程度はさまざまであり,その病態に応じて内科的保存療法ですむ場合と,外科的手術療法が考慮されなければならない場合とが明確に判断されなければならない.とくに大量出血の場合には,内科,外科いずれか一方に偏した目でみることは危険といわなければならない.大量出血であるがゆえに,無差別に緊急手術を行なうという考え方は現在,ほとんどとられていない.大量出血のうち,どの程度の応急対策によつて,緊急と待期手術との2つのグループに選び出すことができるかということが問題といわねばならない.このような点から考えても,外科医,内科医ともに,出血症例に対しては連繋のよい一貫した経過観察を行なつて治療方針をたてるのが原則である.
 とくに本稿においては,著者らの与えられた分担は「急性上部消化管出血の応急対策」ということであるから,総論的な立場から,出血病態の把握,その判断処置,治療方針の立て方,治療方法の実際的方法の2,3について述べる.

上部消化管出血源の探索—緊急内視鏡検査

著者: 平塚秀雄 ,   長谷川充輝 ,   後町浩二 ,   石本邦夫

ページ範囲:P.953 - P.959

はじめに
 上部消化管の大量出血では出血性ショックをきたし,適切なしかも迅速な救命処置を講じなければ重篤な状態に陥ることはしばしば経験するところである.こうした緊急事態をのりきるためには,的確な出血源の診断,出血性ショックの管理,緊急手術の適否の決定に直面するが,Palmer1,2)の上部消化管出血の積極的診断法"Vigorous Di—agnostic Approach (VDA)"が,出血源の確認と早急の治療方針をうち立てるためにいかに有効であるかは数多くの文献より知るところである.一方,近年わが国においても川井3),竹本4),筆者5)らは早くより積極的に上部消化管出血例に胃ファイバースコープ検査を行ない,その早期診断の安全性と有用性の検討の努力の積み重ねと,内視鏡器具の改良,開発,技術の進歩と相まつて,緊急内視鏡検査(urgent endoscopy, emergencyendoscopy)の基礎がためがなされてきた.とくに最近はendoscopic treatment, endoscopic sur—geryという言葉で代表されるように,内視鏡診断と同時に直視下止血というdynamicな治療法にまで進歩してきたことは,一層この緊急内視鏡検査を高く評価することができよう.
 この進歩のなかで緊急内視検査の意義並びにいくつかの問題点について述べてみたい.

上部消化管出血源の探索—X線検査

著者: 白壁彦夫 ,   池延東男 ,   有山襄 ,   高木直行 ,   大橋計彦 ,   白田一誠 ,   早川尚男

ページ範囲:P.961 - P.964

はじめに
 上部消化管出血に対する緊急X線検査は,1937年Hampton1)以来,評価されている.内視鏡検査も1952年Palmer2)ら,1956年Jones3)らが出血源を直視下に確診した報告をしてから多くの報告がある.
 今までに,X線検査がよい4),内視鏡検査がよい5,6),とに分れた論があるが,今のところ,内視鏡を第1に,という人が多い.われわれはX線がよいという小数派に属する.

上部消化管出血源の探索—その他の検査;選択的動脈撮影法など

著者: 佐々木常雄 ,   伊藤勝基 ,   加藤信夫

ページ範囲:P.965 - P.969

はじめに
 吐血あるいは下血を訴える消化管出血の場合,出血巣の部位,原因を探求することは従来からいろいろな方法で行なわれてきている.すなわち,消化管のバリウム造影検査,内視鏡検査,開腹手術などの方法により発見されてきている.しかし,かなりの症例において出血部位不明のままの場合もある7).Crohnによればこのような症例102例において20例は出血巣不明であり,胃のX線検査により発見しうる出血巣は68〜81%程度といわれている10)
 消化管出血は時としてその出血部位の診断,出血の成因診断が困難であり,いたずらに輸血を繰返しているためにDIC (Disseminated Intrava—scular Coagulopathy)を起こしたり,また試験開腹を行ない,出血点不明のまま盲目的に胃切除を行なつて,術後も継続出血があつたり,再出血を起こしたりすることが多い9).従つて出血点を見出すことはその治療及び予後に対し重要なきめ手となる.このような見地からみると,従来のようにいたずらに対症療法だけで過し,時機を失することなく,その急性期に積極的に内視鏡的検索を行なつたり,選択的血管造影,RI検査を行なつて出血点の診断を行なうことが必須不可欠な治療上のポイントとなる.

上部消化管大量出血源不確実の場合の対策

著者: 大久保高明 ,   杉山貢 ,   西山潔 ,   福島恒男 ,   土屋周二

ページ範囲:P.971 - P.980

はじめに
 上部消化管大量出血は,日常しばしば経験するものであり,時期を失することのない迅速,適確なる診断と適切な処置を必要とする.ことに外科医にとつて,その出血源の確認は,手術時期の決定と同じく,その予後を左右する重大な因子である.近年,緊急内視鏡の著しい進歩,発達と,他の診断法の工夫改良により,その診断率は著しく向上し,早期診断,手術適応の決定に重大な役割を果している.従来X線的に診断し難かつた急性出血性胃びらん,ストレス潰瘍,浅い小潰瘍,Mallory—Weiss症候群や,他合併疾患存在時における出血源の発見も容易となつて来た.出血源が不明のまま外科的治療にゆだねられる場合は,少なくなり,一昔前のblind resectionもほとんど行なわれなくなつてきた.出血源の確実な診断があつてこそ,確実な治療を行なうことが出来るからである.
 しかしながら実際,臨床上なんらかの理由で出血源の確診をつけることが不能であつたり,反覆検査施行が可能でないときや,状態不良のため検査が出来ないことも少なからず遭遇することも事実である.手術時期の決定は,その予後を大きく左右するので,実際には100%これを確診せずとも,なんらかの治療,あるいは極端な場合,手術的操作により,診断,治療せざるを得ない場合もあり,その対策に苦慮する場合も少なくない.

上部消化管大量出血の手術をめぐる問題点—食道静脈瘤

著者: 磯松俊夫

ページ範囲:P.981 - P.986

はじめに
 上部消化管出血のうち食道静脈瘤出血は,その70%以上がショックを伴い最も重篤なものということができる.食道静脈瘤破裂は出血が大量におよぶというだけでなく,その基礎にある肝臓の状態が予後に大きく影響を与えてくるもので,この両者はたがいに関連しあう.つまり大量出血による循環血液量の減少は肝硬変などの基礎疾患があれば,肝amoxiaから容易に肝不全が出現し,また肝不全が増強すれば大量出血が起こり易くなる.したがつて,われわれが日常かかる患者に遭遇したとき,いかにして予想される肝不全を予防しながら出血に対処していくかということにかかる訳である.
 同じ食道静脈瘤の出血であつても,その予後は門脈圧亢進を起こした原因によつて夫々異なるものである.いまわれわれが最近経験した食道静脈瘤の待期手術100例について,夫々病態別に吐血歴および待期手術を受けるまでの経過月数を分類してみたのが表1で,その内訳は肝外門脈閉塞16例,特発性門脈圧亢進症17例,巨脾性肝硬変症42例,非巨脾性肝硬変症25例である.

上部消化管大量出血の手術をめぐる問題点—胃・十二指腸潰瘍

著者: 松木久 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.987 - P.992

はじめに
 上部消化管出血の原因として,胃・十二指腸潰瘍は,日常最もしばしば遭遇する疾患である.しかしながら,大量出血という悪条件下でこれを正しく診断し,適切に処置するのは,必ずしも容易なことではない.
 本稿では,胃・十二指腸潰瘍大量出血について,はじめに頻度や特徴について簡単にふれたのち,手術の適応や時期の決定,さらに手術方法やその選択などを中心に述べてみたい.

上部消化管大量出血の手術をめぐる問題点—ストレス潰瘍

著者: 島津久明

ページ範囲:P.993 - P.997

はじめに
 急性の大量出血を起こす上部消化管の原因疾患には様々なものが含まれるが,そのなかでストレス潰瘍は治療上きわめて厄介なものの1つで,保存的治療あるいは外科的治療のいずれによつてもその成績が一般に甚だ不良であることが知られている.この原因には,これらの症例における潰瘍発生の背景に多くの重篤な全身的要因が存在し,またこの場合の潰瘍病変が多彩な発生様式をとることが大きく関与している.
 本稿の主題はこれらの症例に対する手術適応と手術時期の問題であり,複雑な病態生理をもつストレス潰瘍について,これらの点を客観的に明快に論ずることは容易ではないが,これまでに当教室で経験した症例と文献上の知見を参照して著者の見解を述べることにしたい.なおストレス潰瘍に関しては,従来より多数の臨床的あるいは実験的研究の報告や論説があるが,ここでも一応その臨床的事項を概説し,しかるのちに主題の問題について述べることにする.

上部消化管大量出血の手術をめぐる問題点—胃癌

著者: 西満正 ,   加治佐隆 ,   野村秀洋 ,   川路高衛

ページ範囲:P.999 - P.1004

はじめに
 上部消化管の出血には何の前ぶれもなく突如としておこる吐血,下血などの顕性出血から,貧血に気付き糞便の潜血反応で証明される潜在性出血まで,種々な程度のものがある.
 大量出血は吐血や下血によつて発見される緊急事態の1つである.この種の出血は患者に非常な不安を与え,多くの場合出血性ショックを伴い,適切迅速な救急処置が要求される.

上部消化管出血の非観血的止血法

著者: 竹本忠良 ,   榊信広

ページ範囲:P.1005 - P.1011

はじめに
 突如としてはじまる上部消化管からの大量出血に対して,いまのところ非観血的療法は無効のことがしばしばで,頼りになるものではないが,さりとて外科的治療といえども完全に満足できるものはない.と最初から書きはじめると,あるいは消化器外科医からなにを生意気なとお叱りをうけるかもしれない.しかし,上部消化管大量出血例においては全身状態不良で,心,肺,腎などに慢性疾患があつたり,あるいは重症糖尿病に罹患していたりする高年者であることが決して少なくない.また最近急速に関心がたかまつている急性胃・十二指腸潰瘍(ストレス潰瘍)では上部消化管大量出血で発症する以前に火傷とか中枢神経系のひどい外傷をうけているものもしばしばあるわけである.ややふるい文献であるが,Hallら1),Fosterら2),Kirtleyら3)によれば,ストレス潰瘍の30〜95%という高い入院死亡率が,現在の外科治療が決して満足できるものでないことを端的に物語つている4).大量出血を起こしたストレス潰瘍を早期に積極的に手術するという傾向もみられるが,はたしてそれがもつとも良い治療法なのかどうか明々白々な成績はないようである.Menguyら5)のように,衰弱した多発性のストレス胃潰瘍患者に全摘に近い手術を行なつて,再出血例がなく,死亡率も20%であるという報告もあるが,この数字は低すぎるという批判もある4).迷切+幽門形成術では死亡率はもつと低いが,15%あるいはそれ以上に再出血があるという4). このような理由で上部消化管出血を遅くさせたりストップさせる非外科的な方法が多年にわたつていろいろ試みられてきた.安全で効果的な非観血的止血法はとくにpoor surgical risk患者に必要である.胃冷却法にはじまり,最近では消化管内視鏡および血管造影法の発達によつて,上部消化管の大量出血の診断と治療の両面において可能性を拡大しつつある.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・25

肝硬変の内視鏡分類

著者: 島田宜浩

ページ範囲:P.942 - P.943

 硬変肝の表面には結節状に再生した実質と結節相互間の谷間に当る結合織帯がある.結節の直径は2mm以下の小さいものから数mmさらに1cm以上の巨大なものまであり,結合織帯にも結節が互に接触して結節間の結合織が非常に狭いものから数cmに及ぶ広い結合織帯を認める症例まである.腹腔鏡検査は肉眼大ないし3〜4倍の拡大で肝表面を広く観察出来るので,上記の結節や結合織帯の観察には最適の検査法であるといえる.またカラー写真により所見の記録も出来る.
 肝硬変症の分類には,病因が明瞭な特殊型を除き,一般型には形態学的分類が用いられ,わが国では長与の甲乙分類と,その後報告された三宅の甲甲’乙乙’分類が有名である.その基準について,甲型肝硬変では急性ないし亜急性肝萎縮症後に残存肝細胞より再生結節が作られるものとされ,幅広い結合織帯の中に大小不揃いの偽小葉を認める.乙型では間質性肝炎に由来すると考えられてきたが,現在ではウィルス肝炎が主要病因であると考える学者が多い.通常大型で複小葉性の偽小葉が相接して結合織の幅が非常に薄いことが特徴である.甲’型は乙型ほど輪状構造が平等でなく,甲型よりも間質の幅が狭いが所々に広い幅の間質を認めるもの,乙’型は中結節性の肝線維症であるが,乙型のように偽小葉の令域を線維がつつむにいたらないものとされている.

クリニカル・カンファレンス

上部消化管大量出血をどうするか

著者: 政信太郎 ,   池内準次 ,   渡部洋三 ,   高橋俊雄 ,   小林迪夫 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1012 - P.1024

《症例》
 患者 41歳,女性.
 主訴 吐血

Spot

光ファイバー・レーザーメス

著者: 桜井靖久 ,   菊地真

ページ範囲:P.1026 - P.1029

レーザー・メス
 レーザー光線は魔法の光といわれ,産業,宇宙,軍事用などの各方面において,通信,測距,レーダー,分光,加工,核融合,エネルギー伝送などの応用が試みられている1-4)
 レーザーの医学的応用も診断,治療,検査などの各方面で試みられており,そろそろ実用へ開花せんとしている5-9).それらの技術の中には生きた細胞を生きたまま分別するという,レーザーならではの画期的な検査法もある10).治療面では眼科用の網膜光凝固装置がレーザー応用機器として普及しているが,そのほかに皮膚の母斑などをパルスレーザー光で治療する方法も報告されはじめてきた11)

講座

ハリ麻酔—⑬ハリ麻酔からハリ治療へ(最終回)

著者: 神山守人

ページ範囲:P.1030 - P.1032

はじめに
 ハリ麻酔は多くの点で学問の進歩に拍車をかけたことは否めない.その1つは,一時の疼痛治療に用いられるハリの電気刺激による和痛が手術に耐えうるものであることを証明した.また,ハリ麻酔は,よく言われるように痛みの研究を刺激した.しかし実際の臨床についてみると,本邦では全身ならびに局所麻酔が比較的完成に近い状態で使用されているため,これらよりもハリ麻酔が著しくすぐれている点はそう多くはなく,したがつて現在ハリ麻酔は一時熱狂的に受け入れられたにしてはそれほど大きな臨床の場を持つてはいない.むしろ臨床対象はせばめられつつあり,それよりもこのハリ麻酔器を利用して,その交流波形による電気刺激をもつぱら痛みの治療に利用する方法が行なわれている.
 痛みに対するハリ治療としては留置針,捻針などの機械的刺激と,いわゆる"良導絡"と称する200μA程度の直流を通電する方法があるが,ハリ麻酔器を利用すると同じ電気刺激ながら著しく効果の高いものが得られる.したがつて最近では,もつぱらこの方式のものが用いられる傾向がある.

Practical Postgraduate Seminar・5

救急蘇生法

著者: 森岡亨 ,   宮崎久義

ページ範囲:P.1034 - P.1040

主な内容
 蘇生法の実際 気道確保.人工 呼吸(呼気吹きこみ,ポケットマスク,バッグ—マスクの利用など).有効な心マッサージの仕方.すぐ役に立つ薬物とその使用法.
 これからの蘇生法研究の方向脳機能回復,no-reflow ph—enomenonへの対策について.

臨床研究

Vater乳頭部癌と他臓器重複癌—自験3例と本邦報告例の検討

著者: 成末允勇 ,   岡島邦雄 ,   藤井康宏 ,   曽我部興一 ,   荒木京二郎 ,   石川純

ページ範囲:P.1041 - P.1047

はじめに
 近年,Vater乳頭部癌は,低緊張性十二指腸造影,経皮的胆道造影,十二指腸内視鏡およびこれによる膵胆管造影,さらには直視下生検などによりかなり診断が容易になり,比較的早期の段階で根治手術がなされるものが増え,その手術成績も次第に向上してきている.しかしながら,稀ではあるが,十二指腸乳頭部以外の臓器にも癌の重複がみられることがあり,その治療にあたつて留意すべきことと思われる.われわれは最近14年間に乳頭部癌26例中3例に他臓器重複癌を経験したので,本邦の文献集計とあわせて報告する.

腓骨動脈再建術

著者: 伊藤勝朗 ,   生駒義人 ,   山本文雄 ,   須江秀一 ,   中村和夫

ページ範囲:P.1049 - P.1053

はじめに
 1960年初頭から始められた下腿動脈再建術はmicro—surgeryの技術発展と相まつて近年著しい発展を示し,なかでも後脛骨動脈再建術はもはや確立された手術術式の観がある.しかし,前脛骨動脈および腓骨動脈に関しては技術上なお多くの問題点が未解決のまま残されており,ことに腓骨動脈再建の歴史はまだ日が浅く,未開拓の分野といえよう.
 腓骨動脈に関しては,従来ともすれば,その機能ないし臨床的価値を無視されがちであつたが,近年に至つてこの動脈が脛骨動脈,ことに骨間膜を貫いての前脛骨動脈との豊富な側副血行路を形成することが発見されるに及んで,ようやくその価値が見直されてきた1,2).たとえば腓骨動脈は下腿3動脈の中で最も閉塞性病変に侵され難い血管,あるいは最後に侵される血管であり3,4),本動脈の再建は,肢切断の危険がさし迫つた重症下肢阻血症例にとつて残された唯一の治療手段となることが多い.

臨床報告

前縦隔に発生した嚢腫性リンパ管腫

著者: 猪口嘉三 ,   倉岡三郎 ,   則松俊一 ,   西村寛

ページ範囲:P.1055 - P.1058

はじめに
 縦隔腫瘍の中でのリンパ管嚢腫の発生頻度は極めて少なく,0.1〜1.6%前後でしかない.本邦での報告例は未だ33例を数えるに過ぎない.私共は最近放射線治療により陰影縮小を来たした25歳の女性の前上縦隔腫瘍摘出を行ない,術後の病理組織像により嚢腫性リンパ管腫であることを確かめ得た症例を経験したので,2,3の文献的考察を加え報告する.

Insulinoma 9例の検討

著者: 竹田力三 ,   岸本宏之 ,   田中公晴 ,   井上淳 ,   川口広樹 ,   宮野陽介 ,   古賀成昌 ,   宗像雅丈

ページ範囲:P.1059 - P.1063

はじめに
 Insulinomaは膵ラ島β細胞の腫瘍であるが,その臨床症状から精神病あるいは脳血管障害と誤診されて治療を受けていることが多く,長期にわたると低血糖による不可逆的な中枢神経障害をきたすので,早期発見ならびに外科的治療を必要とする疾患の一つである.
 1924年Haris1)はhyperinsulinismの概念を提唱,1927年Wilderら2)はhyperinsulinism症例を剖検し,腫瘍組織から大量のインスリン様活性物質を証明,1929年HowIandら3)は腫瘍の外科的摘出による治験例を発表し,Laurentら4)によれば1965年までに約1,300例の報告がなされている.本邦においても,1933年の三宅ら5)の剖検例,1935年の棟方ら6)の臨床治験例をはじめとして,診断技術の向上とともに報告例が増加しており,黒田ら7)(1973)は122例を集計している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?