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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科33巻2号

1978年02月発行

雑誌目次

特集 消化性潰瘍と迷切術

胃迷切術の変遷

著者: 村上忠重 ,   星和夫

ページ範囲:P.171 - P.175

迷切術のはじまり
 迷切の歴史は,1814年Brodie1)が犬の迷走神経を頸部で切ると,胃酸が減少することを発見したのに始まるといわれており,その後にPavlov2)が行なつた有名な仮性食事実験に際してもすでに迷切を加えた研究がなされている.
 ヒトに対して初めて迷切術を行なつたのは,Jabouley3)(1889)であるが,彼は脊髄癆の患者の腹痛発作を抑える目的で胃迷走神経腹腔枝を切断したのである.その後1910年,Exnerら4)は脊髄癆のほかに潰瘍患者にも迷切術を行なつたが,これも主目的は鎮痛であつた.迷切術の減酸効果を利用して,これを潰瘍治療に初めて用いたのはLatarjet5)(1922)で,彼はこれを6例の患者に施行して胃酸の低下をみたと発表している.その後はKlein6)(1929),Pieri7)(1930),Bircher63)(1931)らがこの術式を追試報告しているが,未だ一般的に広く行なわれる術式となるには到らなかつた.

迷切術の根拠

著者: 相沢勇 ,   伊藤漸 ,   中村卓次

ページ範囲:P.177 - P.183

はじめに
 消化性潰瘍に対する迷切術の理論的根拠について述べることは胃酸分泌に対する迷走神経の役割について述べることになる.しかし本特集の標題にも示されている通り,迷切術そのものが全て解決されておらず,更に消化性潰瘍の原因を胃酸にのみ求めるのは妥当でないという根本的問題もある.たしかに迷切術は高酸症に起因すると思われる十二指腸潰瘍には有効であるが,当初胃酸分泌抑制にのみ片寄つた結果,さまざまな副作用があらわれて来て,その解決に対して近年いろいろな工夫がなされるようになつている.こんなことを考え合わせると,問題は極めて複雑化し一冊の単行本にも収容しきれない量となる.本稿では,限られた紙面の中で,現在行なわれている各種迷切がどのように発展して来たのか,またそれぞれの術式にはどのような意味があるのかをわかり易く説明することにした.それゆえ,高酸でもないのに消化性潰瘍ができる場合があるように,必ずしもすべてが解明されていない問題も一応no acid,no ulcerの線に沿つて説明することにした.一層詳しい説明は他の成書等にゆずる.

迷切術の適応

著者: 渡部洋三

ページ範囲:P.185 - P.192

はじめに
 従来より本邦においては,消化性潰瘍に対する手術術式として広範囲胃切除術が広く行なわれてきている.この術式は壁細胞稠密区域の除去と,ガストリン産生の場である幽門腺領域の除去により著明な減酸効果が得られ,潰瘍再発が少ない.しかし術後の長期追跡例が多くなるにつれて,消化吸収障害,胃切後貧血,骨軟化症などの代謝異常例が問題となつてきた.このため十分な減酸効果が得られ,しかも胃を大きく残す小範囲胃切除術に対する関心が高まつてきた.
 このような情勢のもとで脚光をあびたのがDra—gstedt1)によつて広められた迷走神経切断術(以下迷切術)である.Dragstedtは胃液分泌の生理学的機構から考え潰瘍発生の二元説を唱え,胃潰瘍のそれは幽門洞性胃液分泌が主体をなし,十二指腸潰瘍のそれは迷走神経性胃液分泌が主体をなすとした.このような理論的根拠にたつと,十二指腸潰瘍に対しては迷切術を,胃潰瘍に対しては幽門洞部切除術(以下幽切術)を行なうのが最も合理的な手術法であるとした.彼はその後多数の十二指腸潰瘍症例に単独全幹迷切術を施行したが,その遠隔成績は必ずしも良くなかつた.以来幾多の先駆者2-10)によつて術式の改良が行なわれ,現在行なわれている迷切術は,選択的胃(選胃)迷切術兼幽門成形術(幽成術),選胃迷切兼幽切術,選胃迷切兼胃半切術および選択的近位(選近)迷切術などである.このように一口に迷切術と言つてもその種類が多く,胃切除術を併施する方法から胃に全く外科的侵襲を加えない方法まであり,術式の選択が問題となつてくる.また迷切術は当初十二指腸潰瘍に対して適用されていたが,胃潰瘍に対しても用いられるようになつてきたので,今回は消化性潰瘍に対する迷切術の適応ならびに術式の選択についてのべる.

迷切術の適応

著者: 榊原幸雄

ページ範囲:P.193 - P.200

はじめに
 消化性潰瘍の外科的治療として,胃酸分泌を抑制し減酸効果を得る方法としては, 1.胃酸分泌領域の切除 2.迷走神経切離術(以下,迷切と略す)による 胃酸分泌機序の抑制が挙げられる.
 すなわち,前者では胃酸分泌に対して促進的に働くガストリン産生領域である幽門洞ならびに直接胃酸分泌を行なう壁細胞の稠密分布領域を含む広範囲の胃切除(約2/3胃切除)を必要とする.このような広範囲の臓器欠損にもとづく代謝や機能異常は,術後の小胃症状やそれに伴う体重減少,また鉄欠乏性貧血,牛乳不耐症,ダンピング症状などの原因としての問題が残されている.さらに,広範囲胃切除後の再建にあたり,残胃の壁細胞領域と十二指腸の吻合を行なう場合には,幽門洞という緩衝部位を欠如するため十二指腸は術前にくらべ相対的抵抗減弱部位となり,術後代謝障害の一因になるともみなされている.しかし,広範胃切除後の減酸効果は永久的であり,かつ,容易な術式として胃潰瘍,十二指腸潰瘍を問わず,一律に標準術式として広く用いられてきた.他方,最も基本的な問題である必要にして十分な減酸効果を得るための壁細胞領域のdenervationは,幽門洞gastrin分泌能を正常に温存する以上,TV,SVの場合よりもさらに十分注意深く完全を期す必要がある.すなわち,噴門部・腹部食道周辺(upper limits of denervation)さらには,His角周辺,高位後壁,大彎側など,TV,SVの標準手技とされていた手法よりはるかにextensiveなdenervationが必要である.

選択的近位胃迷切術のコツ

著者: 長尾房大 ,   青木照明

ページ範囲:P.201 - P.204

はじめに
 選択的近位胃迷切術Selective Proximal Vagotomy(以下,選近迷切術SPV)は,欧米ではhighly selective vagotomy,parietal cell vagotomy,proximal selective vagotomy,proximalgastric vagotomy…その他種々の名称がつけられている.本邦でも初期には,近位選択的胃迷切,選択的噴門側胃迷切術などとも呼ばれていたが,現在ではほぼ上記の呼称に統一されてきているようである.
 本術式の意図するところは,消化性潰瘍,とくに十二指腸潰瘍に対し,一定の減酸効果を期待しながら,なおかつ,全胃を形態的に保存し,その胃排出能をも温存しようとするもので,幹迷切(TV)選胃迷切(SV)との大きな相違点は,この胃運動能すなわち胃排出能の温存にある.したがつて,理論的にはTV,SVでは必須,不可欠とされたドレナージ術(幽門形成その他)の付加も幽門の狭窄程度によつては必ずしも必要としない.また,理論的,概念的には,迷走神経幽門洞枝の温存によつてその目的は達せられるとしても,実際の手技上,迷走神経幽門洞枝をどこまで温存するか,あるいは肛側へ切り込むか(lower limitsof denervation)によつて当然幽門洞部の運動能にも差がでてくるであろうし,したがつて幽門形成付加の必要性の度合も若干異なつてくる.

選択的近位胃迷切術のコツ

著者: 武藤輝一 ,   松木久 ,   野沢晃一 ,   奈良井省吾 ,   田近貞克 ,   高桑一喜 ,   磯部茂 ,   佐々木広憲 ,   鰐渕勉 ,   田宮洋一

ページ範囲:P.205 - P.212

はじめに
 選択的近位胃迷切術は最近本邦においても多くの施設で施行されるようになつた.Griffith & Harkins(1957)により,実験的に試みられ,Holle(1964)により臨床的に施行されるようになつた術式1)であるだけに歴史も浅い.本邦では田北(1970)2)による発表が始めてである.潰瘍の再発率は広範囲胃切除など従来の術式と比べやや高いが,愁訴は最も少ない.再発を防ぐにはより確実な手術操作が要求される.
 著者の一人,武藤は1972年Holle(ミュンヘン大学),Burge(西ロンドン病院)のもとで4〜5例ずつの助手をつとめ,またClark(ロンドン大学)の手術を見学する機会があつた.従つて1973年春より当教室において施行し,術式についても発表して来た3,4).また榊原5)の図と写真による詳しい発表もある.自ら経験してきた手術よりも丁寧確実な手術を行なつているにも拘らず,十二指腸潰瘍例で術後の胃潰瘍発生1例と十二指腸潰瘍再発3例を経験するに到つた.現在これらの反省をもとに教室で施行している十二指腸潰瘍での手術手技のキーポイントについて述べる.

迷切後の遠隔成績

著者: 土屋周二 ,   杉山貢

ページ範囲:P.213 - P.221

はじめに
 欧米では消化性潰瘍,とくに十二指腸潰瘍に対して古くから迷走神経切断(離)術が行なわれたが,これは胃切除術はかなり危険性が高く術後愁訴の多い手術と考えられたからである.はじめは幹迷切が単独に行なわれたが,これでは往々にして障害が多すぎて結果がよくなかつた.後にドレナージ手術が附加されるようになつて治療効果も高まり,広くうけいれられ,十二指腸潰瘍に対して最も一般的な手術となつた.さらに迷切の術式にもいろいろの変遷が加わり今日では選択的胃迷切(選迷切),近位選択的胃迷切(選近迷切)も相当行なわれているようである.わが国ではこれに反して広範囲胃切除術が早くから安全で治療効果が高いものという声価を得,広く定着した.しかし胃切除術にも若干の問題点があり,これをさけたいという目的で欧米を模して迷切術が徐々にとりいれられ,1962年頃からだんだんと各所で施行されるようになつた.しかし胃切除術にくらべればはるかにその歴史が浅く,また一部を除いてはわが国ではまだそう多くは採用されていないという現状である.また迷切術という手術は理論的にはすぐれ,胃を大きく切除しないというような点で良性疾患である潰瘍症の治療には甚だ魅力的であるが,その反面未解決な問題も多い手術である.このような現状で,わが国における迷切の遠隔成績を他と比較して論ずるには観察期間や資料がまだ不十分かも知れないが,われわれの外科では山岸三木雄前教授が1960年に迷切兼幽門洞切除術を施行して以来,かなり積極的な態度で迷切を採用し今日に到つており,10年経過例も相当数有しているので,これをもとに長期遠隔成績について以下のべてみたい.なお,近年問題になつている選切迷切の症例も1971年以来の自験例が80例に達したのでこれとの比較もあわせて行なうこととしたい.

迷切の合併症およびその対策

著者: 島津久明 ,   小西富夫 ,   山岸健男 ,   谷昌尚 ,   高橋忠雄 ,   朝隈貞雄 ,   井原悠紀夫 ,   平田忠 ,   武部嗣郎

ページ範囲:P.223 - P.229

はじめに
 近年,本邦においても胃・十二指腸潰瘍に対する1つの手術術式として迷走神経切離術(以下,迷切と略す)が次第に広く普及し,その術後成績や術後の病態生理に関して多くの検討が加えられるようになつている.多数の症例を対象とした術後長期の遠隔成績はなお十分に集積されるに到つていないが,現段階においてその総合的な成績はほぼ満足すべきものと考えてよいようである.侵襲の少ない保存的な術式であるために,術中・術後に重大な事態が生ずることは稀であるが,本質的に良性の疾患を対象としているので,その実施に際しては,とりわけ細心の注意を払つて安全・確実に行なうべきことはいうまでもない.しかし,それにも拘らず,一部の症例の術中や術後にいろいろな偶発症や合併症が発生することが知られている.そこで本稿では,これらに関する主な問題とその対策について,自験例における経験と文献上の知見に基づいて述べることにしたい.
 なお迷切術式には,これを単独または幽門形成を付加して行なう術式と何らかの胃切除と併用して行なう術式の2つがあるが,ここでは両者に関するものを含めて論ずることにする.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・31

十二指腸・吻合部潰瘍

著者: 相馬智

ページ範囲:P.162 - P.163

 吻合部潰瘍はanastomotic ulcer, jejanal ulcer, mar—ginal ulcer, reccurrent peptic ulcer, stomal ulcerなど色々な名称でよばれている.最近では広範囲切除に加えて,迷切などの種々の術式が行なわれるようになつてきたので,術式の如何をとわず,recurrent ulcerをふくめてstomal ulcerとよぶ人もある.筆者は広範囲切除後に小腸側であれ,胃側であね吻合部付近に新しくできたものを吻合部潰瘍とよんでいる.
 本症の頻度は報告者によりまちまちで,本邦では0%(村上)〜0.65%(横田)といわれ,欧米では,2%以上といわれる.しかしこれは,内視鏡のあまり行なわれなかつた時代の報告であるので,今後は頻度が高くなる可能性はある.

グラフ 外科医のためのX線診断学・2

胸部X線像(2)

著者: 平松慶博

ページ範囲:P.165 - P.169

 読影の際に各解剖学的チェックポイントを順番に見て行くことは前に述べたが,特に左右を見較べて,左右差の有無あるいは,その度合から正常と異常を判別するものがある.それらは,肺野の明るさ,肺門の高さ,横隔膜の高さである.
 肺野の明るさは普通は左右が同じであるが,特に腕の筋肉をよく使う職業あるいはスポーツのために,その利き腕の側の前胸筋がよく発達していて,そのためにその側の肺野が他側にくらべて少し暗いことがある.同じ様な原因で左右差が生ずるものとして,乳房切除術がある.特に乳房があまり発達していない女性の場合には,すでに一側の乳房が切除されていても,案外それが見落されることがある.この場合には切除された側の肺野が他側より明るいが,健側の肺の異常が疑われることもある.乳房陰影の有無のほか,とくに根治的乳房切除術の場合には,腋下のリンパ節廓清術が行なわれるために腋下から上腕の軟部組織の変化が見られる(図1).

座談会

消化性潰瘍に対する迷切術をどうするか

著者: 青木照明 ,   関根毅 ,   渡辺英生 ,   松木久 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.230 - P.244

 消化性潰瘍に対する迷切術はDragstedt,Owensの手術から僅か30年足らずの間に急速にその普及がなされてきた術式のひとつである.
 とくに日常,消化性潰瘍に遭遇するケースの多い本邦の外科医にとつては,多くの利点を有するこの手術への関心は高い.しかしその適応や手技をめぐつて微妙な意見の相違があるのも事実であり,今なお極めて今日的な課題でもある.この座談会では,さらに発展,研究途上にある迷切術をめぐつて文字どおりこの領域の第一人者に御参加いただき最も新しいstanding pointからその所見を開陳していただいた.

外科教育を考える・6

麻酔科研修—Ⅱ.腹部緊急手術の麻酔

著者: 西岡克郎 ,   斉藤浩太郎

ページ範囲:P.245 - P.249

I麻酔前患者の評価
 一般病院の緊急手術は,外傷に伴う腹部内臓損傷,腸閉塞,胃十二指腸潰瘍の穿孔または出血,嵌頓ヘルニア,急性虫垂炎およびこれらの手術後の腹膜炎,帝王切開,子宮外妊娠の破裂,卵巣嚢腫の軸捻転等が多い.すなわち腹部の緊急手術がその大部分を占めているといえよう.これらの疾患は,術後の再開腹を除いては,外からまたは他科から紹介されることが多く,時間的にも日中より夕方,夜間に片寄つている.また全身状態が不良であるにもかかわらず,麻酔の選択や施行に必要な検査は不十分のことが多い.検査が行なわれていても,患者の全身状態は刻一刻と変化しているので,その検査を施行した時と,麻酔を施行する時との時間的ずれを考慮して検査成績を評価する必要がある.患者は不安,苦痛または疼痛のため,麻酔科的問診のみで十分な情報を提供してくれることは少ない.したがつて前回の麻酔前回診時の重点項目の他に,家族,主治医,前主治医などからも情報を引き出す努力が必要である.すなわち体重の変化,経口,非経口水分摂取の状態,嘔吐の回数とその性状,血液や電解質のバランス等である.その他最終の食事や水分摂取の時間とその内容を知つておくことも大切で,緊急手術を要する外傷および急性疾患の患者においては,心因性に胃の排泄運動が停止し,内容が停滞していると考えてよい.

外科医の工夫

Whelan-Moss T-tube

著者: ,   山川達郎

ページ範囲:P.250 - P.251

 遺残胆管結石は,胆石症手術後困難症の内,最も頻度の高いものであり,また再手術による合併症発生率は,初回手術のそれに比し2倍も高いとされている事実などからしても,遺残胆管結石が発見されたときには外科医としても,でき得れば非観血的に再手術を行なうことなく結石を除去したいと考えることは当然のことである.1973年Burhenneは,遺残胆管結石の非観血的治療を試みるためにsoft steerable catheterを考案,良好な成績1,2)を収めたことを報告しており,1976年10月,日本においてもその有用性につき講演3)している.著者ら4-6)は,改良型胆道fiberscopeを用い,術後3週間後に行なうT-tube cholangiographyの補助診断法として,T-tube抜去後の瘻孔を介して行なう術後胆管内視鏡検査法を開発し,殊に本法が,遺残胆管結石の診断と非観血的治療上,直視下に行なうことができるために,安全性および的確性においてBurhenne's techniqueに優るものとして報告してきた.
 著者の一人は,すでに54例の遺残胆管結石症に遭遇し,この内T-tube抜去時,幸いにもT-tubeとともに結石が瘻孔や乳頭形成術施行部を介して外部に,または十二指腸に自然排出してしまつた2例を含む52例において非観血的な結石摘出術に成功しているが,これらの症例は再手術をまぬがれたばかりでなく術後の経過も全く順調であつた.

講座 皮膚縫合の基本・2

切開線の選び方

著者: 大塚寿

ページ範囲:P.254 - P.259

切開線・到達法の指標
今回は切開線の選び方について述べる.
 図1はよくみられる気管切開後の瘢痕である.大抵こういう場合strap musclesは側方に移動し表面の皮膚が瘢痕組織を介して直接気管に癒着し,嚥下や深呼吸時の運動制限を認める.図2は我々が口腔内血管腫手術に先立ち横切開による気管切開術を行なつた例である.初めに横切開で入ろうが縦切開で入ろうが,手術時間,手術の難易度に甲乙はつけがたいのを著者は経験している.挿管による気道確保が普及している今日,一刻を争う気管切開術が要求される場合は少なく,従って縦切開で気管切開術を行なう理由は少ないといえる.

Practical Postgraduate Seminar・10

酸・塩基平衡の理解

著者: 斉藤滋 ,   相馬智

ページ範囲:P.260 - P.267

はじめに
 酸・塩基に関して理解し難い原因の一つは「明確な定義」と「分類上の命名法」の混乱にあるとAstrupは指摘している.そこでNew York Academy of ScienceのAd Hoc委員会は,検討をかさね考え方や術語の使い方を整理して1966年に発表した.今日これが広く受け入れられている.
 酸塩基平衡(acid-base balance or equilibrium)という言葉を使用したのはHenderson L.J.(1909)が最初である.彼は血漿中の陽イオン(cation,当時はbaseforming or basylous element)濃度の総和と陰イオン(anion,当時はacid formng or acidulous element)濃度の総和が相等いことを認め,これに対して酸塩基平衡とよんだわけである.

臨床研究

食道癌の発育形式についての検討

著者: 塩崎均 ,   寺島毅 ,   水谷澄夫 ,   岡川和弘 ,   神前五郎

ページ範囲:P.269 - P.275

はじめに
 ヒトの食道癌は,X線透視・内視鏡検査等の診断技術の向上した今日においても,早期発見されることが少なく,その初期像は明らかにされていなかつた.ちなみに1975年に食道疾患研究会において,鍋谷の集計した本邦の早期食道癌は58例にすぎなかつた.今回,これらの58例に,その後に集計した得た15例を加えた73例について,組織学的に検索し,その発育形式を検討した.さらに,これら73例の早期癌と,癌浸潤は粘膜下層までにとどまるが,リンパ節転移のみられた表在癌15例を比較検討し,リンパ節転移を起こす要因についても考察を行なつた.
 一方,われわれは,N-MethylbenzlamineとNaNO2を使用し,ラットに実験的に食道癌を作成し,その発癌過程について報告してきたが,これらラットの実験的食道癌にみられた発育形式と,ヒト食道癌の発育形式について検討を行なつた結果を報告する.

臨床報告

難治性下腿潰瘍を伴つた分節的下部下大静脈閉塞症の1治験例

著者: 金子博 ,   白川洋一 ,   十九浦敏男 ,   近藤宜雄 ,   奥森雅直 ,   紺野進 ,   岩井武尚

ページ範囲:P.277 - P.281

はじめに
 最近われわれは,開腹術後に下大静脈下部が分節的に閉塞し,両下肢腫脹及び難治性下腿潰瘍を主訴に来院した1例を経験し,外科的治療を行なつた.一般的に下大静脈閉塞に対して外科的根治手術を施行することは困難であり,またその予後も不良であるため,保存的療法にとどまるのが通常であるが,われわれの症例では保存的療法に抵抗し,また術前より閉塞部位が限局していることなどから外科的根治手術が可能と思われたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

小児外傷性空腸遷延性破裂の1例について

著者: 牟田博夫 ,   下田穂積 ,   酒井敦 ,   太田英樹 ,   石橋経久 ,   清水輝久 ,   浜崎啓祐 ,   三浦敏夫 ,   調亟治 ,   辻泰邦

ページ範囲:P.283 - P.287

はじめに
 近年,交通事故の増加に伴い腹部外傷の症例も増加し,損傷臓器も他の外傷に比べ多彩を極めている.小児外科領域においても同様で交通外傷による症例の増加も著明である.小児は成人と異なり,胸廓,横隔膜,腹壁,脊椎,骨盤など腹腔を形成する組織の発達が未熟であり,外力の大小にかかわらず腹腔臓器損傷を伴う可能性が強い.
 小児の場台は外傷の状況を問診により聞き出すことが不正確であり,受傷後起こる腹部症状も成人に比較して乏しく,外見上異常を認めないような腹部外傷が腹腔内の臓器損傷を伴つていることが多く,日常の診療において,早期診断,治療が必ずしも可能ではなく,重篤な合併症を惹起することが少なくはない.

心膜嚢腫自験例の検討

著者: 猪口嚞三 ,   武田仁良 ,   北里誠也 ,   篠原誠 ,   則松俊一

ページ範囲:P.289 - P.292

はじめに
 心膜嚢腫は心嚢性嚢腫ともよばれ,縦隔腫瘍の中でも比較的まれなもので,本邦での報告例も私どもの症例を含め文献的に39例を見出すに過ぎない.最近私どもは本症の好発部位である右心横隔膜角部,また発生部位としては比較的頻度の低い左肺門部と大動脈根部に発生した計3例の心膜嚢腫を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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