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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科33巻4号

1978年04月発行

雑誌目次

特集 術後呼吸障害とその管理

呼吸障害からみた手術のリスク

著者: 浅井淳 ,   森岡亨

ページ範囲:P.471 - P.479

はじめに
 麻酔学や全身管理の進歩により手術が安全化した反面,術前から高度の呼吸機能低下のある人や,気道,胸部,呼吸に関連ある脊髄や中枢神経系に異常のある人などに積極的な外科療法が加えられるようになつてきた.こういう患者が術後心肺機能危機に見まわれがちなことは当然であるが,呼吸器系とは関係ないはずの一般手術のあとでも呼吸器系合併症がおこれば術後患者の生命を脅かす可能性がある.
 呼吸障害は手術的療法に際し,依然として忘れてならないリスクファクターのひとつである.本稿では麻酔科医の立場から呼吸障害と手術のリスクについて論じてみよう.

急性呼吸障害

著者: 高橋徹 ,   桂田菊嗣

ページ範囲:P.481 - P.488

はじめに
 術後に起こる呼吸機能の障害には,種々の原因がありその予防には十分な注意が払われねばならない.特に術前より慢性肺疾患がある場合には,手術を引き金として急性増悪により呼吸不全におちいる危険も考慮する必要があることは当然である.一方,これとは別にもともと肺機能には全く異常をみとめていないのに,大手術後や重度外傷のあと24時間から数日にかけて急に著明な呼吸機能障害を呈する症候群が最近10年たらずの間に注目されるようになつた.手術や重度外傷にかぎらず,敗血症をはじめ一般の疾病に伴い出現してくることも認められる.この場合,原因の如何をとわず,肺自体の病理学的所兄および治療法の共通性により,これをARDS(Adult RespiratoryDistress Syndrome)と呼ぶことが一般的になつてきた.
 ショックやショック様状態に伴い直接生命をおびやかす他の疾患として,血管内凝固症候群(DIC)や急性尿管壊死(ATN)がそうであつたように1)ARDSも命名学的には実にさまざまな名称を与えられてきた(表1).

高齢者呼吸障害患者の術後管理

著者: 坂下勲 ,   佐々木公一

ページ範囲:P.489 - P.497

はじめに
 近年胸部および消化器外科領域で手術手技,術前術後管理の向上,麻酔の発達などにより高齢者やpoor risk患者にも必要に応じ手術の適応を拡大し,かつ術後合併症発生を最小限におさえるため手術侵襲が生体諸臓器機能へおよぼす影響に検討が加えられ,肺機能も例外でない.
 わが国でも平均寿命の延長は欧米の水準に達し,必然的にこれら高年齢層で悪性腫瘍を含め各種の疾患が増加し,外科手術が生体に加えられる場合には,諸臓器の機能低下,ことに心肺機能の低下は無視できず,一見健全のようでも予備力が低下していることを十分認識する必要がある.

術後の血液ガス異常

著者: 吉竹毅

ページ範囲:P.499 - P.507

はじめに
 臨床上,治療面で通常測定する血液ガスは酸素(O2)と炭酸ガス(CO2)である.O2は生体内のmitochondriaに運搬され,エネルギー基質を酸化することにより発生する自由エネルギーを化学的エネルギーに変換し,生体維持およびその機能発現のため消費されるので,外界より細胞内へのO2の運搬,その化学反応は生命の根源である.このO2を外界より取り込む第一の関門は肺である.O2は肺の膜を通して拡散により血液に移行し,受取られ,さらに血液より細胞に運搬される.
 細胞で物質の酸化の結果CO2が生産される.この代謝終末産物であるCO2は,主として血液によりO2とは逆方向に運搬され,肺より呼出される.このO2の摂取,CO2の排出が肺において障害されると,生命に直結した危機を生ずることとなる.したがつて,肺での呼吸障害を検索するためには,O2とCO2は性質が異なるため,障害機序も異なることとなり,両ガス各々の測定が必要である.

レスピレーターの使用法とその注意

著者: 塩沢茂

ページ範囲:P.509 - P.514

はじめに
 術後の呼吸管理の中でレスピレーターによる人工呼吸は最も重要であり,最近その頻度は増加の傾向にある.表1は東北大学ICUにおける1968年より1976年までの9年間のレスピレーターによる人工呼吸実施症例の成績を示している.その実施率は年々増加の傾向にあるが,その死亡率は年々減少しつつある.
 最近の人工呼吸の成績の向上は機械,器具の改善もさることながら,患者管理の進歩によるところが多いと考えられる。以下これらの臨床経験1,2)を基にして,レスピレーターの使用法とその使用上の注意点について述べることにする.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・33

大腸結核の内視鏡所見

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.462 - P.463

 大腸結核の好発部位は,回盲部,上行結腸てあるから,内視鏡検査(結腸ファイバースコープ)を行なうときには必ずX線所見を参考にする.図①,②は近年よくみられる大腸結核のX線所見である.この例では,病変は盲腸部から横行結腸中部にまて拡がつているが,図にみられるように,活動性の病変があるのは肛開側端の横走潰瘍のみで,他の大部分の病変はいわゆる「潰瘍瘢痕をともなう萎縮帯」である.この「萎縮帯」には,ふつう,大小不同の炎症性ポリープが散在する.
 筆者の考えでは,このような結核病変の診断はX線所見のみで十分であり,内視鏡所児は必要ないように思う.内視鏡検査を行なえば生検標本を採取できるという利点もあるが,結核に関する限り,肉芽腫が見つかる頻度はきわめて低いから,生検の利点もあまり役立たない.したがつて,内視鏡検査の意義は,X線所見を確認し,これを内視鏡的に記録することにあるとでもいえるであろうか.

グラフ 外科医のためのX線診断学・4

腹部単純X線像—急性腹症

著者: 平松慶博

ページ範囲:P.465 - P.470

 急性腹症の腹部単純撮影は,立位と臥位の正面像が基本である(図1,2).よく立位一枚のみを撮影しているのを見る.腹部単純撮影とは立位で撮るものと,誤解されている傾向がある.腹部単純は,臥位が基本であるが,腸管の穿孔を疑つて,フリーエアーの存在を確認したいとか,あるいは閉塞性イレウスを疑つて腸管内ガスの状態を見たいとかいう場合には,立位を撮ることが多いが,この場合も,立位のみではなく,立位と臥位を撮るべきである,これ以外の場合には,もし一枚撮るとすれば臥位のフィルムの方が情報量が多い.
 立位の場合は,必ず横隔膜を含むことが必要である(図1).臥位では骨盤腔を十分含むようにすると(図2)腹部全体を見ることができる.

座談会

術前・術後の呼吸管理をどうするか

著者: 浅原廣澄 ,   吉竹毅 ,   三川宏 ,   長谷川博 ,   牧野永城

ページ範囲:P.516 - P.530

 開胸手術は言うに及ぼず,開腹手術でも術中,術後の肺機能の低下はその予後に大きく影響する.
 また高齢者手術の適応拡大,あるいは小児喘息既往者の増大もあり,そのCareのニードはますます外科医必須のものになつている.

外科医の工夫

Bird MK−8 Respiratorの改造による間歇的補助呼吸(Intermittent Assisted Ventilation)の試み

著者: 木村壮介 ,   浅原廣澄 ,   古田昭一

ページ範囲:P.533 - P.539

はじめに
 外科的技術や,術前術後管理の進歩による手術適応の拡大は,症例の高齢化,重症化,また他疾患を基礎に持つ症例の増加となつて近年特に目立つている.この様な傾向の中で呼吸管理はすでに欠く事のできない重要な要素となつており,respiratorの使用もますます多くなつているが,長期呼吸管理例と同時に,major surgery後の呼吸器合併症を予防する意味で行なうover-night程度の呼吸補助症例が非常に増加しているという印象を受ける.しかしながら一方では,respiratorによる呼吸補助はそれ自体非生理的であり,一度時期を失うと長期化してrespiratorによる合併症を招くことはよく言われている1-6)
 間歇的補助呼吸(Intermittent Assisted Venitlat—ion,またIntermittent Demand Ventilation以下IAV.)はこの様な状況の中で,術後の呼吸補助あるいはweaningのための,より生理的な呼吸補助手段として考えられて来たと言える7-10)

Practical Postgraduate Seminar・12

凝固障害による出血傾向

著者: 大城孟 ,   村上文夫

ページ範囲:P.542 - P.550

はじめに
 一般に手術が安全に行なわれるためには少なくとも次のような前提が満足されなければならない.すなわち患者は麻酔薬に対しアレルギー反応を示さないこと,損傷部の毛細血管出血は自然に止血すること,手術創は容易に治癒し閉鎖することである.ところで多くの患者はこうした前提をおおむね満足しているために,われわれ外科医は平素たいした問題にも直面せず安心して手術を施行しているが,ある種の患者ではこの前提が必ずしも満足されず大きなトラブルを引きおこす.この前提のうちわれわれ外科医が比較的経験するものは凝固障害に起因する毛細血管からの出血傾向である.
 ここではとくにこの問題を取り上げ,われわれ外科医にとつて関連の深い疾患を中心に,凝固障害患者の鑑別および出血傾向発現の機序,その治療について述べる.

講座 皮膚縫合の基本・4

無血手術に近づく効果的止血法

著者: 大塚寿

ページ範囲:P.552 - P.556

止血のための工夫
 良い手術をするためには術野への出血が少ない方がよく,望むらくは無血状態に近い程よい.一般に行なわれている効果的な出血対策には,1)止血帯の利用,2)血管収縮剤(アドレナリン)の利用,3)主要血管系の結紮または一次的閉塞(クランプ),4)その他がある.

臨床研究

術後乏尿患者におけるDopamineの利尿効果—その利尿機序に関して

著者: 須磨久善 ,   山口佳晴

ページ範囲:P.557 - P.563

はじめに
 DopamineはEpinephrine,Norepinephrineと共に自然に体内に存在するcatecholamineの一種であるが,Dopamineは他のamine類とは質的に異なる各種薬理学的作用を有し,その特異な効果を利用してショックの治療に用いられるようになつてきた.すなわち,心臓に対しては直接β受容体を刺激することにより,また間接的にNorepinephrineを放出させることにより,心拍量,心収縮力を増加させ1)2),さらに,これに伴つて冠血流量を増加させることが知られている3).また,末梢血管系に対しては大腿動脈,頸動脈など一部の血管をα作用により収縮させ,腎及び腸間膜血管床に対しては,Goldbergらのいうspecific dopamine receptorを介して著明な血管拡張をもたらす4,5).以上のごとく,Dopamineの各臓器に対する影響は一様ではなく,しかもDopamineの投与量によつてもその効果は異なる6).即ち,多量投与により昇圧効果を得ることができるが,α作用が前景に立つため腎血管拡張作用は減弱し利尿効果は減少する4).一方,少量投与した場合には血圧,脈拍数に影響を及ぼすことなく著明な利尿効果を得られることが報告されている7,8).今回われわれは,少量投与による利尿効果を期待して,乏尿患者に対する利尿剤としてのDopamineの作用に関して検討を試みたので報告する.

閉塞性血栓血管炎(Buerger病)に対する血行再建成績と合併症の検討

著者: 田辺達三 ,   川上敏晃 ,   太田里美 ,   横田旻 ,   安田慶秀 ,   前田喜晴 ,   本間浩樹 ,   杉江三郎

ページ範囲:P.565 - P.571

はじめに
 慢性動脈閉塞において最も多くみられる疾患は血栓閉塞性血管炎(TAO)と動脈硬化性閉塞(ASO)である.その外科治療法としては血栓内膜摘除術やバイパス移植術などの直接的血行再建術が望ましく,膝窩動脈より高位の中枢性病変に対しては広く応用され,その成績も良好で安定してきている.ところがTAOでは低位の末梢動脈に広範囲のびまん性閉塞を示すものが多く,直接的血行再建術を施行しがたく,その成績も良好ではないとされている1).厚生省ビユルガー病研究班報告でもTAOに対する血行再建施行率は18%にとどまつており,バイパス移植術では退院時70%,遠隔時40%,また血栓内膜摘除術ではそれぞれ50%,10%の開存成績である2).したがつて本症に対する血行再建術の応用に疑問をもつものもあり,今後とも慎重な検討を要する課題といわれている3)
 われわれは一般に交感神経節切除術では阻血病変に対して確実性と永続性の点から満足すべき成績がえられないため,本症に対してできる限り病態を的確に把握できるよう血管造影検査を施行し,末梢血行が多少でも維持されている症例に対しては積極的に血行再建術を応用する方針をとつてきた4,5).ここではTAOおよびASOに対する血行再建例を比較しつつ,TAOに対する血行再建の有効性と合併症について検討してみた.

いわゆる肛門直腸痛(Proctalgia)40症例の分析

著者: 高野正博 ,   松田保秀 ,   武田孝之

ページ範囲:P.573 - P.576

はじめに
 肛門—直腸の疼痛が,裂肛,痔核,cryptitis,肛囲膿瘍などの肛門疾患の症状として現われることはもちろんであり,さらに進行癌などの直腸疾患の一症状ともなつていることは衆知のことである.
 しかし,これらのはつきりした肛門,直腸疾患の症状として見られる疼痛とは別に,肛門の奥で,直腸壁の外部,すなわち骨盤内面の痛みを訴える患者群のあることが分かつた.

高カロリー輸液施行時における血清トランスアミナーゼの変動とその意義について

著者: 碓井貞仁 ,   小越章平 ,   坂本昭雄 ,   山室美砂子 ,   坪井秀一 ,   岩佐正人 ,   佐藤博

ページ範囲:P.577 - P.582

はじめに
 高カロリー輸液法は,消化器外科領域の術前術後管理にきわめて大きな役割を果たしており,とくに縫合不全1),急性壊死性膵炎2)などの治療には効果的である.
 一方,高カロリー輸液中にかなりの頻度で肝機能異常が出現する.肝機能異常が出現した場合,糖質,アミノ酸,脂質などの投与量を減量したり,脂肪乳剤の投与中止などの処置を行なうことが多いが,投与量を減らすことなく高カロリー輸液を継続できる例も経験する.

膵石症の外科的治療

著者: 小西孝司 ,   泉良平 ,   小山文誉 ,   村俊成 ,   船木宏美 ,   吉田通章 ,   古戸俊郎 ,   倉知圓 ,   永川宅和 ,   西田良夫 ,   木南義男 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.583 - P.590

はじめに
 膵石症は慢性膵炎の末期像と見做されているが,慢性膵炎から膵石症への発症機転や膵石形成機序については,いまだ十分に解明されていないのが現況である.著者らは実験的に膵管狭窄を目的に不完全膵管結紮犬を作製し長期観察の結果,ヒト膵石と同一成分を有する膵管内結石の作製に成功し,その病態の解析を試み報告してきた1-3)
 ところで,膵の石灰化には膵管内に石灰沈着を見るtrue stoneと膵の実質壊死巣に石灰沈着をきたすfalsestoneとがあるが4),その石灰形成機序は異質なものであることより外科的治療に際しては両者の鑑別が必要となる.この点から内視鏡的膵管造影は,腹部巣純X線像からのみでは困難であつた両者の識別を容易とし,われわれ外科側にとつては手術術式の選択に大いに役立つところである.

Flail Chestの管理

著者: 田頭勲 ,   辺見弘 ,   黒川顕 ,   金沢正邦 ,   大塚敏文 ,   西邑信男

ページ範囲:P.591 - P.598

はじめに
 Flail chestに対する治療法として1956年Averyら1)によつて紹介された人工呼吸法が普及するに従い,その有効性が高く評価されるようになり,現在では気管内挿管とレスピレーターによる治療が主流であると言つても過言ではない.その後PEEP(Positive End Expiratory Pressure);呼気終末時陽圧呼吸)やIMV(Intermitteint Mandatory Ventilation;間歇的強制換気)法が採用されるにつれてflail chestの死亡率はますます減少するようになつてきた2,3)
 一方その病態生理面からの解明を計つたDuffら4)およびSankaranら5)また本邦における大阪市大胸部損傷グループを始めとした総合的な報告等6,7)は主として呼吸管理面からの追求を中心としたものである.

臨床報告

四肢先天性動静脈瘻

著者: 山家武 ,   中林正人 ,   山崎順彦 ,   伊東経雄 ,   湯浅浩

ページ範囲:P.599 - P.603

 はじめに 四肢に発生する先天性動静脈瘻は比較的まれな疾患であり,また臨床像も多彩な型をとり,手術報告例も多くはない.
 われわれはiliofemoral systemに発生した動静脈瘻,および,瘻より末梢側に動脈瘤を伴う上腕動静脈瘻のきわめてまれな2症例について手術を施行した.そこで,本症の成因,分類,診断および治療の問題点を自験例について文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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