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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科33巻5号

1978年05月発行

雑誌目次

特集 乳幼児急性腹症—診断のポイントとfirst aid

臨床症状のとらえ方と重症度の判定

著者: 浅倉義弘

ページ範囲:P.627 - P.632

はじめに
 腹痛,嘔吐,腹部膨満等の症状で表現される,いわゆる急性腹症は乳幼児でも決してまれなものではなく,著者が勤務している,いわゆる第一線病院の小児外科でも,外来患者の約596,入院患者の約10%を占めている.しかし,腹痛,嘔吐などの症状は,小児ではごくありふれた訴えであり,これらの訴えをもつ子供の中から真の急性腹症,いいかえれば緊急に手術等の積極的な処置を必要とする患児をひろいあげることは,それ程容易ではない.この項では,著者の経験をもとに,急性腹症の患児の初診から入院までの取り扱い方を中心にのべたい.

X線像の読み方

著者: 長島金二

ページ範囲:P.633 - P.641

はじめに
 乳幼児急性腹症を乳幼児期に腹痛,嘔吐,血便などを主訴に外来を訪れる外科的急性疾患と解して論をすすめる.だが乳幼児では年齢的に,また特殊な状況下では,痛みを訴えることが出来ないこともあるので,泣き叫んだり,泣き続けるとき,落ちつきがないとき,のたうちまわるとき,下腿を屈曲した姿勢をとるとき,あえぎ呼吸をするとき,食欲不振や拒食がみられるとき,などには腹痛の存在を考えなくてはならない.
 腹痛を伴う疾患は多く,腹腔内の消化管疾患,肝胆道,膵,脾,泌尿器疾患,卵巣などばかりでなく,腹腔外の疾患(心,肺,中枢神経系,血液疾患など)にもみられる.このうちには単純X線写真所見が診断上確定的な意義を有する疾患から,他の諸検査所見(胃腸造影,注腸造影,腎盂造影,胆道造影,胸部X線写真など)とともに総合的に判断され診断される疾患まで含まれるが,単純腹部X線写真上診断の手掛りとなる所見を呈する主なる疾患は,消化管通過障害,消化管穿孔,腫瘤,結石などが主である.

検査の選択

著者: 岡部郁夫 ,   東義治 ,   森田建

ページ範囲:P.643 - P.652

はじめに
 急性腹症の基本的概念は,急に激しい腹痛を訴え,はつきりした疾患診断は下しえないが,緊急に開腹手術が必要と思われる腹部疾患に対する総括的呼称である.しかし小児外科の立場からみると,腹痛の訴えという点に問題はあるが,臨床症状,臨床所見とともに必要な検査を進めていくと,疾患診断のつけられるものが多く,いわゆる急性腹症という診断のみで緊急手術されることは比較的少ないと思われる.
 本特集は,乳幼児の急性腹症がテーマであり,新生児を除く6歳未満児で,急性腹症をきたしうる疾患における検査の選択について述べたい.急性腹症をきたしうる疾患においては,早急に疾患診断を下し,その病態を適確に判断することが要求され,これに答えるためには該当する疾患と類似疾患,および好発年齢などを熟知し,予診,症状,徴候から得られる情報をもとに,適切な検査を選択し,合理的に診断を進めることが重要である.

術前管理のポイント

著者: 勝俣慶三 ,   林奐 ,   横山穣太郎 ,   遠藤昌夫 ,   伊川広道 ,   鎌形正一郎

ページ範囲:P.653 - P.659

はじめに
 小児外科における急性腹症は,新生児期における先天性疾患と,乳幼児期にみられる後天性疾患に大別される.小児外科の専門施設では新生児疾患が大きな比重を占めるが,一般外科医が日常外来でしばしば遭遇し緊急手術の対象となる疾患は,殆んどが乳幼児症例であり,その主なものとして急性虫垂炎,腸重積症,嵌頓ヘルニア,癒着性イレウス等があげられよう.新生児疾患については,新生児の特殊性に関して多くの成書,報告がみられており,術前管理の重要性が強調されている.
 一方,乳幼児症例になると,成人の小型という概念で管理され勝ちなのが現状であろう.しかしながら乳幼児といえども成人とは明らかにその体液生理や病態生理が異なり,乳幼児症例の術前管理については留意すべき点が多々あると考える.

緊急手術の適応—虫垂炎

著者: 秋山洋 ,   中條俊夫 ,   佐伯守洋 ,   橋都浩平 ,   高橋基夫 ,   浅木信一郎 ,   渡辺聖

ページ範囲:P.661 - P.671

はじめに
 小児期虫垂炎は,成人に比較すれば,その頻度は必ずしも多くはないが,小児の急性腹症としては忘れることができない重要な疾患の一つである1).ことは言う迄もない.とくに若年児においては,明らかな訴えがないこと,症状が不定であること,種々まぎらわしい内科的疾患が存在し診断が困難であり,さらに炎症の進行が早く,虫垂壁が非薄で弱いため穿孔性腹膜炎になり易い2)と一般的に言われ,腹膜炎のために脱水,高熱等重篤な症状となつてから手術が行なわれる場合が少なくない.一方逆に,症状が不定のために開腹しても虫垂に殆んど炎症所見がみられないような場合にも遭遇する.従つて,本症を正確に診断し,適確な時期に手術を行なうのが理想であるにしても,特に乳幼児では容易なことではない.ここでは特に診断が困難である若年児虫垂炎について,われわれの経験例をまじえ,文献的考察を加え,診断面を中心にして述べる.
 当然のことながら診断確定後は緊急手術の適応となる.

緊急手術の適応—消化管出血

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.673 - P.679

乳幼児急性腹症と消化管出血
 消化管出血を急性腹症の1つに数える考えはある意味では正しい.疾患によつては開腹のみが診断,治療の解決策となり得るし,また大量出血により貧血,ショックなどを招き,救急治療を要する場合もあり,更に消化管出血が腹痛,消化管閉鎖などの他の急性腹症の症状と合併して起こり得るからである.
 次項でのべるように,小児消化管出血は特定疾患に限定されており,その中で急性腹症の範疇に入るものを探すと,それ程多くはない.腸重積は少量下血に腹痛,嘔吐を伴う代表的急性腹症疾患であるが,本特集では他の著者が別に一文を発表する予定であり,本稿では極く簡単に触れるに留める.出血性Meckel憩室も昔は診断方法がなく開腹診断が是認された疾患であるが,現在アイソトープによる診断が普及し,急性出血期に開腹することは少なくなつた.

緊急手術の適応—腸重積症

著者: 飯島勝一 ,   青木克彦 ,   伊藤正幸

ページ範囲:P.681 - P.691

はじめに
 腸重積症とは,腸管のあるセグメントが他の腸管に望遠鏡様に嵌入し,腸閉塞を起こすことであり,通常回腸が盲腸に嵌入し,さらに大腸にまでおよぶ.いわゆるileo-colic typeのものが多いことはよく知られている.この疾患の歴史は古く,300年も前から医学的記載がみられるとのことであるが78),発生機序は未だ解明されておらず,ポリープ,メッケル憩室,重複腸管,リンパ腫,紫斑病などのleading pointと呼ばれる器質的原因となる疾患は数パーセントにみとめられるのみで2,4,8,10,20,28),残りの大部分は原因不明であり特発性と称せられている所以である.
 新生児に本症を経験することはまずなく,新生児腸重積症は全腸重積症例の0.3%を占めるに過ぎないと報告39)されている位稀であるが,それ以後の乳幼児にみられるイレウスを呈する疾患の中にあつては最も頻度の高い疾患であり,小児専門病院や大学病院を問わず,一般医家や市中病院でもしばしば経験されている.もし24〜48時間見逃されて放置されれば致命的となることはいうまでもないが,本症が緊急の外科的イレウス疾患であるにも拘らず,大部分の症例は非観血的療法にて奏効し,手術を必要とすることが比較的少ないということは臨床的に大変興味ある点である.このようにポピュラーな病気であり,そして小児科と外科との関連領域にある疾患であるだけに,こどもの診療に携わる小児科医も外科医もともに,本症の診断および治療には精通せねばならないと思つている.このような観点から,教科書的な事項や記載は避け,実際的な診断と治療について,われわれの経験を主体として述べることとする.

緊急手術の適応—胆道,膵疾患

著者: 矢野博道 ,   松本英則 ,   吉成元希

ページ範囲:P.693 - P.703

はじめに
 乳幼児期に急性腹症として緊急手術を必要とする疾患は表1に示すように決して稀ではなく,殊に急性虫垂炎,腸重積症,イレウスなどは常に念頭に置くべき疾患であり(頻度が高い),また診断もさほど困難ではない.一方,乳幼児期の急性腹症としての胆道・膵疾患は比較的稀で,かかる症例に遭遇した際にこれらの疾患のあることを失念し,診断が遅延して治療に困惑することが少なくないと思われる.すなわち,乳幼児期の胆道・膵疾患に対しては現在、症例に対する不慣れ(認識の不足),諸検査の不備・非容易性,更に患児の表現の稚拙などによつて,必ずしもその診断は容易ではない(表2).
 本文では小児の胆道・膵疾患の中でも比較的頻度の高い急性胆嚢炎,胆石症,特発性胆道穿孔,先天性胆道拡張症,急性膵炎などについて緊急手術の適応を中心に述べ,更に,自験例を分析して盲点とコツについても触れて,大方のご参考に供したい.

緊急手術の適応—腹部腫瘤

著者: 岸川輝彰 ,   角岡秀彦

ページ範囲:P.705 - P.712

はじめに
 小児期のすべての腹部腫瘤は,少なくとも診断が確定するまでは準急性腹症的に対処しなければならない.ひとつには,小児期腹部腫瘤の約半数は悪性腫瘍であり,しかも,その進行は成人に比して遙かに速く,折角治癒可能な腫瘤を発見していながら,無策に放置したために治癒の時期を失するようなことがあつてはならないからである.因みに,成人の5年治癒に相当するものは小児では一応2年1)とされており,これがそのまま成人と小児の悪性腫瘍の進行速度の相違を示すものではないとしても,これから単純に計算すれば,小児では2.5倍の速さで進行する訳である.次に,たとえ腫瘤が直接生命の予後に関係する悪性腫瘍ではないとしても,殊に小児においては,腫瘤形成の原疾患の進行や合併症を最小限にくいとめなければならないからである.勿論,このことは何も小児に限つたことではないが,ただ,小児は成人と異なつて成長過程にあり,かつ遙かに長い未来が待ちうけているので,人生の幼若な時期から不必要なhandicapを負わせてはならないからである.
 従つて,小児の腹部腫瘤に接したならば,24〜48時間以内に必要最少限の検査を終了し,悪性腫瘍が疑われたならば直ちに手術を施行している施設が多い.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・34

Mallory-Weiss症候群

著者: 奥山山治

ページ範囲:P.614 - P.615

□Mallory-Weiss症候群と類縁病変
 嘔吐や咳などで腹腔内圧が急激に上昇すると,時に食道や胃に種々の病変が生ずるが,中でも多いのは裂創である.裂創の深さは多くの場合粘膜下層までであるが,まれに穿破(rupture)をきたすこともある.食道穿破をきたした場合はBoerhaave症候群として知られている.裂創そのものはMallory-Weiss lesionといわれ,これを出血源として顕出血をみた場合はMallory-Weiss症候群といわれる.図①〜④は胃噴門部の裂創の内視鏡写真で,同一症例を経過観察したものである.図①は出血期,図②は開放期,図③は線状期,図④は瘢痕期である.粘膜筋板の断裂を伴う開放型の裂創は以上のような治癒経過を示す.図⑤は粘膜筋板の断裂を伴おない裂創の内視鏡写真である.Mallory-Weiss症候群の切除胃を検索すると,粘膜下解離や粘膜下血腫がみられることが少なくない.図⑥は裂創の辺縁にみられた粘膜下血腫で,裂創は写真左端にみられる.図⑦のように粘膜裂創を伴わない粘膜下血腫がみられることもある.

グラフ 外科医のためのX線診断学・5

気管支造影

著者: 江口研二 ,   池田茂人

ページ範囲:P.617 - P.626

 気管支造影検査は,呼吸器の特殊検査の中で患者に大きな苦痛を強いる検査であるが,広く一般に普及している.その事実は,この検査が非常に診断価値の高いものである事を示すもので,適切な気管支造影剤がなかなか入手し難くなつてしまつた最近でも,目的にかなう正しい造影を行なえば,豊富な情報を与えてくれる検査法である.ここでわれわれの行なつている気管支造影法を紹介し,この検査法の意義について再考した.
 □方 法 われわれの所では,町田製フレキシブル気管支カテーテルをルーチンの造影検査に利用している.これには径6mmの一般造影用と径5mmの超選択造影用の2種のカテーテルがあり,先端部が屈曲自在なので,TV透視下に手元のハンドルを操作しながら,気管へ挿入し,各区域支,亜区域支に容易に入れることができる.また余分な太い気管支の造影剤を吸引することもできる.まず2%キシロカインで,喉頭麻酔をネブライザーにて行ない,カテーテルを口腔より気管内に挿入する.次にX線TV透視下に患側肺の各区域支を順に,2%キシロカインを注入しながら麻酔する.麻酔量は総計10〜15mlにとめるー造影剤は水性ディオノジールを使用し,あらかじめ断層写真より読みとつた病巣気管支に選択的にカテーテルをウェッジして,造影剤を圧入後,体位を原則として6方向に変えてスポット撮影を行なう.この時,造影剤の注入量に十分注意して肺胞像をつくらぬようにする−肺胞像になつてしまうと病巣気管支の所見は読み難くなる.肺野末稍の微小な病巣の場合には,造影を細気管支レベルまでで1度止め,その所見をスポット撮影後,更に肺胞像あたりまで造影剤を圧入した写真をもう1度撮影してこれらのスポットフィルムを比べると,病巣気管支の所見を正確に読むことが出来る.ルーチンではスポット撮影後更に患側肺全体を原則として造影し,6方向の写真をとる.これにより,局所病巣の変化のみならず,肺全体の病像を正確に把握しうる.撮影中は咳嗽反射をさせぬよう細心の注意を払う必要がある.

クリニカル・カンファレンス

こどもの腹痛をどうするか

著者: 中嶋清隆 ,   東義治 ,   横山穣太郎 ,   佐伯守洋 ,   飯島勝一

ページ範囲:P.714 - P.729

 飯島(司会) 今日は「こどもの腹痛をどうするか」というテーマで先生方にお話していただきたいわけなんですけれども,これは夜間当直にたつさわる機会の多い若い先生方のためのプログラムということですので,これをお読をみになる先生方の日常臨床に直接役に立つようなお話をお願いしたいと思います.
 こどもの腹痛と一口で申しましても,大変範囲が広く漠然としておりますが,腹痛を主訴として救急外来を訪れるこどもは随分多いですし,これらを手際よく鑑別し,入院や手術を必要とするものと,そのまま,家へ帰してもよいものとを,ふり分ける知識や技術を身につけることは極めて大事なことであると思われます.そこで小児救急外来とは,一体どういうものなのか,聖路加病院における去年1年間の実態を調べて下さいました中嶋先生にその内容をお聞かせ願いたいのですが.

手術の周辺

手指消毒法の研究<補遺>

著者: 古橋正吉 ,   宮前卓之 ,   上田伊佐雄 ,   池内宏

ページ範囲:P.733 - P.738

はじめに
 手指消毒の効果判定には各種の方法があるが,私共はserial basiu hand washing test(Price)変法を用いベースン中に脱落した生菌数を定量的に測定する方法で研究してきた.この結果,市販手指消毒薬でブラシ洗いしても,皮膚組織および寄生細菌叢の特殊性からみて,現状ではskin degerminationの範疇にとどまることを報告した(本誌1974年11月,12月).その後,さらに研究を続けた結果,ethyl alcoholの迅速殺菌作用を評価すべきであるという結論に達した.ethyl alcoholは皮膚細菌に対しすぐれた減菌効果がありskin disinfectionの目的にかなうものといえる.ただし,いきなりalcoholを適用するのではなく,まず優れた消毒薬によるブラシ洗いを3分程度行なつた後に,alcohol溶液を手指,前腕部皮膚にすりこむ方法が減菌効果がもつとも良く,手洗い時間の短縮にも役立ち実用的であるという結論を得た.

講座 皮膚縫合の基本・5

Atraumatic Operation

著者: 大塚寿

ページ範囲:P.742 - P.748

 図1はガラスによる左示指の外傷で,受傷後3週半で紹介された症例である.いわゆるno man's land(Zone 2)内の浅・深指屈筋腱断裂であり,数年前までは良好な機能回復が困難とされていた(この場合は指神経断裂も伴つていた).
 手術用ルーペを使用し,針つきナイロン糸を用いて,(浅指屈筋腱の除去後)深指屈筋腱の直接縫合がなされ,同時に2本の指神経吻合も行なわれた.術後1年を経ているが正常な機能回復がえられている.手の外科はやや専門的な領域であり,外科医の方々にとつて直接参考にならない手術であろうが.atraumatic operationの基本を理解するには都合がよい.

臨床研究

脳神経外科領域における高浸透圧性非ケトン性糖尿病について

著者: 篠原明 ,   上野日出男 ,   渡辺学 ,   石井昌三

ページ範囲:P.749 - P.753

はじめに
 1925年,Warberg29)がケトン体の検出を伴わない糖尿病の例を報告したが,1951年,SametとSchmarztら22)が,血糖値1,568mg/dlもありながら,尿中ケトン体をほとんど検出されない症例を報告するまで,高浸透圧性非ケトン性糖尿病の臨床的重要性は注目されることなく経過した.本症の概念は比較的新しく,しかもその発生機序は十分に解明されておらず,また本邦での報告例は100余例にすぎない.特に中枢神経疾患の経過中に本症が併発した例は佐々木21),津田28)の他に数例11,29)あるのみで,脳外科的疾患の併発例として報告されたものは少ない.
 最近われわれは重篤な経過をたどつた,脳神経外科的疾患に高浸透圧性非ケトン性糖尿病を併発した4例を経験した.本症が脳神経外科的疾患の管理上,発生頻度は比較的高いにもかかわらず,併発症として重要視されることが少なく,発見されずに経過する症例も少なくないのではないかと老えられる.本症が高い死亡率を有していること,意識障害のある患者においてその発見が遅れがちなこと,本症の治療と脳浮腫の治療は相反する点のあること,適切な治療により比較的予後の良いこと,また発生機序は不明ながら,その仮説として,視床下部および下垂体機能不全が推測されることなどから,本法は脳神経外科的疾患の併発症として,より重要視される必要があると思われる.

臨床報告

隣接臓器へ高度に浸潤した頸動脈球腫瘍の1治験例

著者: 板野恒之 ,   岡田幸司 ,   板垣文夫 ,   内田發三 ,   関洲二 ,   田中聰 ,   寺本滋 ,   田口孝爾

ページ範囲:P.755 - P.758

はじめに
 頸動脈球腫瘍(Carotid body tumor)は比較的まれな疾患であり,本邦においては現在までに約50例の報告をみるのみである1,2).一般的に腫瘍の発育は緩慢であり,症状としては頸部腫瘤の触知により気づくものが最も多く,巨大になつてくると頸部の神経や血管の圧迫症状を呈するものもある.その治療法は腫瘍の完全摘出が最良の方法であるとされているが,腫瘍は総頸動脈の内・外頸動脈の分岐部に存在し,腫瘍が大きくなるに従い迷走神経,舌下神経,舌咽神経などの隣接臓器に浸潤することがあり,手術にはとくに慎重な操作が要求される.
 われわれは生検にて頸動脈球腫瘍と診断し,その後約3年を経て右側頸部拍動性腫瘤を主訴として来院し,頸動脈造影にて頸動脈球腫瘍と診断し,腫瘍および隣接臓器の摘出とともに自家静脈による総頸動脈・内頸動脈間の血行再建を行なつた症例を経験したので報告し,若干の考察を加えたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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