icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科33巻7号

1978年07月発行

雑誌目次

特集 臓器大量切除と栄養

肝臓広範切除後の栄養管理

著者: 都築俊治 ,   石田元比古 ,   飯田修平 ,   島津元秀 ,   上田政和 ,   松原了

ページ範囲:P.949 - P.958

はじめに
 最近肝臓外科の進歩によつて肝臓の広範切除の症例が急速に増加しているが,手術前後の代謝の変動を踏まえて術後の栄養管理を如何にすべきかについて老察した論文は意外に少ないようである.肝臓は代謝の中枢であるので,この広範切除では種々の代謝の変動があるが,肝硬変合併肝癌の切除の場合には肝硬変による代謝の変動が加わり,この問題が複雑になる.また手術後合併症が発生した場合には,合併症による代謝の変動が加わると共に経口摂取が障害されることが多いので,栄養管理の巧拙によつて患者の運命が決定されることも少なくない.
 栄養投与の方法には一般的に行なわれる輸液の他にhyperalimentation,tube feedingがあるが,これらの方法はいずれも一長一短があり,その特徴を生かして状況に適合した使いわけをする必要がある.

膵臓広範切除と栄養

著者: 高三秀成 ,   佐藤守 ,   金清一

ページ範囲:P.959 - P.965

はじめに
 膵癌に対し膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除が行なわれるが,これらの膵部分切除術後の遠隔成績は他の消化器癌に比べて著しく悪く,近年,より根治性を高めるために膵全切除の必要性が強調されている1-6).その他,慢性膵炎,insulinoma,膵嚢胞,膵外傷,胃癌の膵浸潤などに対しても種種の範囲の膵切除が行なわれる.このような膵全切除を含む膵の広範切除が比較的安全に実施することが可能となつてきた.しかしながら,膵大量切除によつて膵機能の低下・脱落をきたすことも明らかであり,これを十分にcontrolするための対策が必要であり,手術術式自体についてもその適応は慎重に決定されなければならない.たとえば,慢性膵炎に対する95%膵切除を提唱したChildらは,術後の膵機能脱落による影響をすくなくするために切除量について再検討を加えている.内外分泌を営み,全身の各臓器と密接な関係を有する膵臓の役割を考える時,全切除を含む膵大量切除の生体に及ぼす影響は複雑多彩で,臨床上これに対応することはまだまだ容易なことではない.
 一方,膵臓より分泌されたinsulin,glucagonは門脈を経て直接肝臓に達し,その後体循環に入るが,その間かなりの量のホルモンが肝臓によつてtrapまたは分解される.この肝臓にとり込まれたホルモンの影響する代謝過程については未だ未解決の問題が多く,膵全切除を含む膵広範切除が積極的に試みられるためには,肝臓を中心とした代謝研究が急務である.今回は膵大量切除後の栄養について論じるわけであるが,以上のことを念頭において,まず膵切除による外分泌上の問題をとりあげ,ついで糖代謝および肝のエネルギー代謝との関連について述べ,それをもとにして膵疾患患者の膵切除後の問題点について言及したい.

胃全摘後の栄養管理

著者: 榊原宜 ,   矢端正克 ,   菊池友允 ,   小川健治 ,   矢川裕一 ,   大橋正樹

ページ範囲:P.967 - P.972

はじめに
 近年,胃疾患に対する早期診断,早期治療に関心が向けられてきたが,一方,なおわれわれの前に治療を希望してくる患者の中には胃全摘を必要とするものも少なくない.そのため,消化器外科において,胃全摘術もきわめて日常的な,いつでも,どこでも,誰もが行ないうる手術手技となりつつある.手術手技の進歩によつて,胃全摘術が比較的容易に,かつ安全に行なわれ,術後長期生存例を多く経験するようになつたが,一方,この手術のため各種の機能脱落を生じ,いわゆる胃全摘後困難症といわれる一連の症状が問題になつている.すなわち,胃全摘という消化管系にとつては大きな侵襲後の管理,とくに長期生存例における栄養管理もまたきわめて重要な問題となる.

小腸広範切除と栄養

著者: 小山真

ページ範囲:P.973 - P.983

はじめに
 小腸大量切除を受けた患者が長期間幸福な生活を送れるか否かは,短腸症候群short gut syndr—omeといわれるように,短い残存小腸より投与された栄養を吸収出来るかどうかにかかつている.もちろん,切除された小腸の部位や範囲,合併切除の有無,残存腸管の異常の有無や代償能,あるいは術後の腸内細菌叢の変化,下痢の程度や胃酸分泌亢進の有無などの術後経過を左右する多くの因子が関係していることもよく知られている.しかしこのような問題についてはすでに優れた総説1-6)も多く,また自験例についてもしばしば報告7-9)しているので,ここでは栄養投与の問題にしぼって述べることとする.
 なお,すでに報告したように,65〜75%以下の切除(または1m以上の残存小腸)では術後の下痢の発生が起こり易いほかは大した問題はないと考えられているので,ここでは75〜80%以上切除例の栄養投与を中心に考えてみたい.

大腸広範切除と栄養—大腸全摘(亜全摘)術後障害の対策と栄養管理

著者: 村上哲之 ,   今充 ,   遠山茂 ,   大内清太

ページ範囲:P.985 - P.993

はじめに
 近年,わが国では潰瘍性大腸炎,大腸ポリポージス,大腸憩室疾患,大腸クローン病などの疾患を経験することが多くなつてきた.このような情勢のもとに大腸の手術手技の向上と術前・術中・術後管理および麻酔の進歩に伴つて,大腸全摘(亜全摘)が安全にしかも積極的に施行されている.
 大腸全摘(亜全摘)は他の臓器大量切除に比してその術後障害が比較的軽微であるにしても,大腸全摘は大腸機能脱落と肛門括約筋機能廃絶をもたらし,大腸亜全摘は大腸機能低下をきたすことは想像にかたくない.すなわち,大腸の機能喪失や機能低下は術後に水様性下痢を必発し,水分・電解質の異常喪失はもちろんのこと消化吸収,代謝の面で種々なる障害をもたらす.しかしこのような障害は術直後から発生することはもちろんであるが,かかる障害は長くとも数ヵ月の間にみられるのが通例で,一般には回腸末端における代償作用すなわち大腸化(colonization)がみられるためと判断される.

巻頭言

一般大手術と栄養

著者: 葛西森夫

ページ範囲:P.946 - P.947

 生体は組織に損傷をうけた場合に,その修復を何よりも優先させる.自然界の動物はほんの小さい負傷でもきびしい生存競争の中で大きなハンディキャップとなり,餌を得ることが困難になるだけでなく,自らが天敵に喰われる立場にたたされる.天敵から身をかくすのが生命をつなぐ唯一の方法であり,回復するまでは餌はおろか水を飲むことも困難な状況に置かれる.このような状態で生命を維持する為に必要な水分とカロリーは,体内に貯蔵されていた蓄えか,あるいは身体を構成している材料を以つて補給するしかない.その上に創の修復に要するすべての素材も,身体の中で損傷をうけていない組織から供給される.このような絶対飢餓においてさえ創傷治癒機転が進行することは,創傷が治癒しない限り生命の維持が困難な自然界に生きている動物の驚くべき適応反応ということが出来る.
 このことは人間においても同じである.30年前までは,外科患者に輸血も補液も殆んど行なわれず,せいぜい手術前に生理食塩水1,000mlを大腿皮下に注射するぐらいで,手術後には経口摂取が許される迄患者は絶対飢餓に近い状態に置かれていたのである.しかし,このような情況下でも,胃切除患者の過半数は治つていたのである.即ち患者は数日間栄養をとらなくても創傷治癒を完成する力を持つている.このことはしかし,手術患者の栄養補給をいい加減にしてよいことを示すものではない.このような患者では,回復までに10kgもの体重減少があり,健常組織の大きな犠牲によつて,やつと創傷治癒が行なわれていたのである.当時,胃切除死亡率は高く,全身状態のよい若い人でないとその侵襲になかなか耐え難かつたのである.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・36

十二指腸球後潰瘍

著者: 藤田力也 ,   大沢仁 ,   高橋正憲

ページ範囲:P.934 - P.935

 十二指腸球後潰瘍は比較的稀な病変である.十二指腸潰瘍と言えば,その90〜95%は球部内に発生するもので,残り5〜10%が球後潰瘍ということになる.しかし,筆者らの内視鏡検査を主にした経験では,さらに頻度は低い印象をもつている.
 球部と球後部の境界は,図①に示すように,前者はX線学的には長軸に走る襞を有し,内視鏡では空気を十分入れて伸展するとひだを認めないのに対し,後者は,X線学的にも内視鏡的にも輪状襞を認めることで区別できる.解剖学的分類によつてもいわゆる十二指腸第一部は球部と上十二指腸角部(SDAと略)からなつており,第一部と球部は同義語ではない.この部には先天的にもVariationが多いが,Schinz,Prévôt,Bockusの成書にも,球後部潰瘍部位の定義について詳しい記載はない.

グラフ 外科医のためのX線診断学・7

上部消化管造影—食道—その2

著者: 中山隆市

ページ範囲:P.937 - P.945

腐蝕性食道狭窄 —1—アルカリ
 本症は多くのものが強酸あるいは強アルカリを自殺の目的,あるいは誤飲した結果生ずるものであり,アルカリは蛋白質を融解するためその変化は食道の深層に達し酸よりも強いとされている.また酸ではアルカリに比べ胃病変が強いとされている.

Topics

急性汎発性腹膜炎の外科治療—とくに腹腔内超音波洗浄法について

著者: 岡崎武臣 ,   桐田孝史 ,   平林武 ,   木村恒人 ,   倉光秀麿 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.997 - P.1001

はじめに
 消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎は,各種抗生剤の開発や,ショックに対する治療法の進歩した今日でも極めて重篤な疾患であるが,近年その治療成績は大幅に向上している.
 治療成績向上の理由として,救急医療体制充実による患者の早期来院早期治療,麻酔の進歩,術前術後の管理の進歩などがあげられるが,なかでも開腹時に施行される大量の生理的食塩水による腹腔内洗浄は腹腔内汚染物質の根治的除去を可能にしたばかりでなく,早期の上部消化管穿孔による汎発性腹膜炎などには殆んどの症例に,ドレーン挿入を必要としなくなり,それまでのドレーン挿入による癒着や創治癒の遷延化を防ぐという点でも治療成績向上に大きな役割をはたしているものと考えられる.しかし腹腔内大量洗浄に関しては未だその量,成分,温度,洗浄方法などに確立された方法はなく,各施設では術者の"カン"と経験をたよりに大量洗浄のために多くの人手と時間をかけているのが現状であり,夜間緊急時など不完全な洗浄に終る可能性もあるなど多くの問題をのこしている.最近われわれはこれらの点を解決すべく,大量洗浄装置を試作し,適温による短時間の腹腔内大量洗浄を可能にした.また更に洗浄効果を向上させるため,超音波の洗浄作用を腹腔内洗浄に応用すべく,腹腔内洗浄用超音波発振装置を試作し,実験犬により洗浄効果と安全性を確認後,7例の臨床例に応用し好結果を得た.

講座 皮膚縫合の基本・6

術後処置のいろいろ

著者: 田嶋定夫

ページ範囲:P.1006 - P.1012

 皮膚縫合を終了してから術後数ヵ月間までの創の取り扱い方について述べてみたい.どれ1つをとりあげても瑣事に属する事柄と思われるが,少しでも創痕をきれいに,目立たなくするためには不可欠の配慮である.創傷の治癒を物理的に妨害し,過剰な瘢痕組織の形成を招くことがないための手だてである.

Practical Postgraduate Seminar・14

変遷した外科的感染症とその起因菌—治療と予防のための抗生剤の選択とその用い方

著者: 酒井克治

ページ範囲:P.1014 - P.1020

主な内容
外科感染症の変遷外科的感染症におけるグラム陰性桿菌
嫌気性菌感染症
嫌気性菌感染症の治療
抗生剤の選択と用い方
細菌学的検討の行なわれた後の感染症の治療
予防的抗生剤の選択と用い方
L型菌

臨床研究

術後高アミラーゼ血症の検討—アミラーゼ,アイソザイムの分析を中心として

著者: 高見博 ,   尾形佳郎 ,   須藤加代子 ,   菅野剛史

ページ範囲:P.1021 - P.1025

はじめに
 術後のamylase活性の一過性の上昇は従来より術後膵炎と考えられてきたが1),近年のamylase isoenzymeの分析の進歩に伴い,amylase活性の上昇は主に唾液腺由来のamylaseによるという事実が判明してきた2,3).しかし,その上昇機序についての検討は殆んどなされていないのが現状である.われわれは,術後,経時的にamylaseのisoenzyme分画の検索を行ない,amylaseに対する膵臓の神経性,体液性調節機構と,所謂術後膵炎の病態生理に関し,考察を加えて報告する.

乳腺腫瘍の血管造影所見

著者: 沢田敏 ,   小林昭智 ,   深谷徳幸 ,   小林聰

ページ範囲:P.1027 - P.1032

はじめに
 近年,全身のあらゆる臓器の疾患について血管造影検査が行なわれるようになつたが,乳房を含む前胸壁の病変についての報告は少ない1,3,5-9),その理由は本症が体外から容易に触知可能なことをはじめ,乳房撮影像による確診率が高いことや,試験切除が行ないやすいためであろう.しかし,最近になつて手術前に腫瘍細胞の播種を防止する目的や,Stage IIIの腫瘍群に対する抗癌剤の動注療法が注目され,再びその適応を拡げようとしている9)
 筆者らは,血管造影検査を行なつた46例の乳腺腫瘍について,その血管支配を検討し,検査方法や血管造影所見などについて若干の知見を得たので報告する.

血管造影より見た脾腫を伴う疾患—いわゆるBanti症候群と多発性脾動脈瘤について

著者: 吉田静雄 ,   小澤正澄 ,   小林博徳 ,   大田治幸 ,   伊藤篤 ,   前川利幸

ページ範囲:P.1033 - P.1040

はじめに
 従来,脾腫(Splenomegaly)を伴う疾患の多くは門脈圧亢進症を伴っており,肝硬変によるうつ血性の脾腫とも関連して,いわゆるBanti症候群は門脈系を中心として論じられる傾向にあつた.しかしSeldinger法による動脈系の造影が普及するにつれて,門脈系のみならず動脈系の変化も著しいことが次第に見出されるようになつた6,12,17,18,22,25)
 著者らは過去数年来脾腫を伴う,または門脈圧亢進症を伴う疾患患者の血管造影を分析し,同時にその病理組織所見とも比較検討してきた.対象とした症例は41例で,全例が脾腫を伴う疾患患者である(表1).方法はSeldinger法により選択的腹部血管造影を施行し,手術または剖検にて組織学的検索を行なつた.

臨床報告

大網裂隙内S状結腸嵌入の1例

著者: 山口隆

ページ範囲:P.1041 - P.1045

はじめに
 開腹手術に際し,大網に微細な孔隙が少数ならず存在することは,時に経験することであるが,通常それ自体は臨床的意義を有しない.しかしながらこれら小孔隙が,何等かの機転により腸管の脱出に見合う大きさに拡大された場合,この裂隙を通つて大網を腸管が貫通し,臨床的には腸閉塞としての病態を惹起する.最近,このような原因に基づく極めて稀な老人の症例を経験したので報告する.

大量吐血をきたしたExulceratio simplex(Dieulafoy)の1治験例

著者: 古城昌義 ,   薬師寺貢 ,   秋山吉照 ,   木本哲夫

ページ範囲:P.1047 - P.1050

はじめに
 急性大量胃出血の原因の1つとして,Exulceratiosimplex(Dieulafoy1))は比較的まれであるが,その激烈な経過と術前診断の困難さからみて,今後注目されるべき疾患と思われる.
 本症は,胃上部噴門直下に小さな粘膜欠損が認められ,その底部の粘膜下には通常みられない直径1〜1.7mmの太い動脈があって,これが破綻するために大量出血をきたす疾患で2),Dieulafoy1)の報告以来,欧米においてはかなりその記載がみられるが,本邦においては松原ら3)の報告があるにすぎない.

先天性病因が考えられる上腕動脈瘤の1例

著者: 石塚式夫 ,   鈴木宗平 ,   西田伝 ,   井隼彰夫 ,   関野英二

ページ範囲:P.1051 - P.1054

はじめに
 末梢動脈瘤は胸部,腹部などの大動脈瘤に比べてその報告例は少なく,病因も動脈硬化性,外傷性のものがほとんどである.われわれは病因が先天性と思われる26歳女性の腋窩部上腕動脈瘤を経験し,動脈瘤切除および自家静脈移植により治癒せしめたので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?