icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科33巻8号

1978年08月発行

雑誌目次

特集 老年者の手術—併存疾患の診かた・とらえ方

呼吸機能障害がある場合—私はこんな点に注意している

著者: 仲田祐 ,   新田澄郎

ページ範囲:P.1081 - P.1087

はじめに
 悪性腫瘍の発生率の増大により,好発層である老齢者の罹患が年々増大しているが治療法として他に信頼し得る手段のない現在,必然的に外科療法の対象もまた老齢化せざるを得ない.他方,近年の慢性呼吸不全,特に気道閉塞性障害者の増大は加齢に伴う肺機能低下と相俟つて,しばしば手術施行に際して原疾患の手術適応とは別に肺機能上の手術適応の問題を提起する.

心臓血管系障害がある場合—私は開腹術の前後でこんな点に注意している

著者: 林四郎 ,   小山省三

ページ範囲:P.1089 - P.1095

はじめに
 腹部手術にかぎらず,どのような手術であつてもできるだけよい条件,たとえば局所の病変は早期で,全身状態も良好な患者で手術を行なえれば,それにこしたことはないが,いわゆるpoorriskの患者に対しても必要な手術をどのようにして安全に実施するか,努力することもわれわれの責務であろう.以前には手術の実施が危険視され,何とかして避けたいものと考えられていた老人に対する手術についても,今日ではかなり満足できる成績を得られるようになつた1).しかしこの事実は老人の手術を気楽に行なつてよいと意味しているわけではなく,少なくとも70歳台,とくにその後半以後の老人に対しては特有な手術前後の病態を十分に理解し,手術の適応決定2,3),術前から術後にかけての管理などについて,それ相応の配慮が必要であり,心臓・血管系に異常がある老人に対する手術について,筆者の見解を述べたい.

腎機能障害がある場合—私はこんな点に注意している

著者: 太田和夫 ,   狩野司

ページ範囲:P.1097 - P.1103

はじめに
 手術を行なう場合には,常に併存疾患の有無を調べ,適応の決定,予防対策の検討がなされなければならないが,特に腎臓は手術侵襲の影響を強く受けるばかりでなく,麻酔薬の排泄,抗生剤の使用などにも関係が深いので,その機能が低下している場合にはいろいろと配慮しなければならない点が多い.
 一方,腎はいわゆる庇護がかなり有効に作用する臓器であつて,術前,術中,術後のちよつとした処置が明暗をはつきり分けることも決して少なくない.そのため腎機能が低下した患者を取扱う場合,その対策について十分な認識を持つことがこれらの患者の術前,術後を管理する上で極めて大切なこととなつてくる.特に老年者は腎機能の低下している症例が多く,また一旦,急性腎不全に陥つた場合には予後が不良となりやすいため特に注意が肝要となる1)

肝機能障害がある場合—私はこんな点に注意している

著者: 井口潔 ,   小林廸夫

ページ範囲:P.1105 - P.1109

はじめに
 肝障害の存在は,手術侵襲に大きなハンディキヤップをつくることは明らかであるが,肝機能は極めて多岐に亘つており,また,肝の代償能力も大きいので,手術に際してその耐容力を予め正確に察知することはかなり困難である.
 老年者は一般に,生体に生じた変化への対応性が鈍くなつているので,老人の肝障害者に対しては特に慎重な心構えが必要と思われるが,その間の配慮をどのように行なえばよいかを具体的に示すことは一般に困難である.

内分泌機能障害—とくにD.M.—がある場合—私はこんな点に注意している

著者: 赤木正信 ,   木原信市 ,   新田良男

ページ範囲:P.1111 - P.1116

はじめに
 近年における日本人の平均寿命は著しく延長し,その人口動態にも老齢化の傾向がみられている.このような日本の人口の年齢構成の変化に伴つて,診療対象として老年層の占める割合にも増加がみられる.特に外科領域においては,日本人の平均寿命の延長に伴つて老齢者での外科的成人病,とくに癌性疾患への罹患が著しく増加している.
 一方,このような老齢者では,生体反応は低下しているとされており,それだけに老齢者の外科手術にさいしては術前,術後管理に格別の注意が喚起されている.この老人における生体反応低下の要因として内分泌機能低下の介在も考えられる.しかし,実際に測定した老人での各種の内分泌物質の血漿中レベルの低下〜増加は意外に少なく,老人での内分泌,代謝系の障害〜疾患としてあげられるものは,糖尿病,肥満症,甲状腺機能異常,性腺機能低下および更年期障害などで,これらのうち外科領域において最も普遍的に遭遇する合併疾患は糖尿病,性機能低下,更年期障害をあげることができる,しかし後二者の合併症は手術前後の管理と密接に関連した意義を見出し難い.すなわち老齢者の外科的疾患の治療に際して最も多く遭遇する内分泌機能異常は,糖尿病を最も普遍的なものとして指摘できる.

脳神経障害がある場合—私はこんな点に注意している

著者: 光野孝雄 ,   堀公行

ページ範囲:P.1117 - P.1121

はじめに
 本邦で占める死亡率の第1位は,脳血管障害によるものであり,また平均寿命延長の話題がさほど珍しくなくなつて久しい,それにつれ脳神経系の後遺症を有する老齢者を対象とした腹部外科手術の実施が今後増していくものと考えねばならない.これらの脳神経障害患者は,その原病を克服したとしても,巣症状としての四肢麻痺や言語障害等を残して他人の介助を必要とすることが多い.そのうえ老齢に伴うことと,脳神経障害を呈したその背景との脆弱因子を併有しており,腹部手術を実施する場合,その術前後の管理に当つて多くの問題をかかえているものと考えられる.
 本稿では,このような症例の管理について述べることとするが,ここでは老齢者を対象とする以上,その最も多い脳血管障害症例に的をしぼつて述べる.

複合障害がある場合—私はこんな点に注意している

著者: 山城守也

ページ範囲:P.1123 - P.1134

何を合併症と把えるか
 老年者に特定の外科的治療を行なう場合,できるだけ全身の機能チェックを行なうが,検査成績が正常域からはずれていても,それを疾患としてとらえるかどうか難しい場合がある.
 現在,生理的老化度に平行して変化する因子はかなりわかつてきている(表1)1).これらの変化が総合されて,予備的機能の低下,日常生活上の自立機能の低下という老年者の姿となつて反映されてくる.したがつて老年者の疾患といつても,肺炎などの感染症,悪性腫瘍,脳卒中などといつた比較的わかりやすいものと,腎機能低下,心肺機能低下,動脈硬化症,高血圧,耐糖能低下などといつた,老化の一分症(これを病的老化という考え方がある)と把えるべきか,疾患と把えるべきか迷わされるものもある.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・37

Zenker憩室

著者: 小野沢君夫 ,   鍋谷欣市 ,   新井裕二

ページ範囲:P.1070 - P.1071

症例 52歳,女性
 生来健康であつたが,10ヵ月前より頸部の不快感と食後のつかえ感が現われ,1ヵ月前より食物の口内への逆流・嘔吐を伴うようになり,当科を受診した.食道X線検査で,咽頭食道境界部左側後方に大きな憩室を認めた(図①).食道内視鏡検査では,食道入口部直上左後壁に境界明瞭な深い憩室があり(図2・図③),憩室粘膜には萎縮がみられるが,憩室内および憩室周囲の粘膜には潰瘍びらんを認めなかつた(図④).
 Zenker憩室と診断し,手術を行なつた.左胸鎖乳突筋前縁に沿う約8cmの皮切をおき,頸部筋を分けて入り,中甲状腺静脈を結紮切断し,甲状腺左葉を飜転すると,袋状に突出した憩室が認められた.アリス鉗子で憩室をひつぱり(図⑤),憩室頸部を十分剥離し,輪状咽頭筋を約2cm切開し,憩室を切除した.憩室の切断は,狭窄をきたさないように余裕をもたせて行ない,粘膜および筋層を層別に,縦方向にDexon糸で縫合した. 

グラフ 外科医のためのX線診断学・8

上部消化管造影—胃潰瘍

著者: 五十嵐勤 ,   佐藤英典 ,   矢吹孝志 ,   渡部重雄

ページ範囲:P.1073 - P.1080

 胃の下半分が挙上し,胃軸が直角胃のようになつている.そして,前庭部は変形している.しかし,辺縁そのものには,硬直像はみられないし,また陰影欠損の要素はないので,進行癌による変形ではない.では病変は何か,変形の成り立ちは?.
 二重造影像は,辺縁所見を辺縁内所見との関連において読影できる利点をもつている.図1-2の二重造影像は,充盈像と似た変形を呈している.で,図1-2と切除胃の肉眼および組織所見とを対比し,図1-2のX線所見の成り立ちを分析する.そして,その結果を図1-1にあてはめれば,充盈像の成り立ちが了解できることになる.

クリニカル・カンファレンス

老年者の麻酔をどうするか

著者: 永津正章 ,   土谷晃子 ,   茅稽二 ,   橋本肇 ,   諏訪邦夫

ページ範囲:P.1136 - P.1154

 本特集"老年者の手術—併存疾患の診かた,とらえ方—"において患者は手術場では必然的に麻酔医の手を経ることになる.複雑な合併症を有する患者を如何に安全に手術場に迎え,外科医の手に委ねた後,病室ないしICUに送るかという責をもつ麻酔医のご苦労は,患者が合せて高齢という生理的ハンディを有しているだけに大変なことだと思われる.豊富なご経験をおもちの麻酔科お二人の先生に,第一線の外科お二人の先生を配した今回のクリニカルカンファレンスは司会諏訪先生の好リードもあつて,老人の麻酔のpracticeからphilosophyまで談合のもつ利点を十二分に引き出しえたと思う.手術対象も高齢化する昨今,先生方のご参考になれば幸甚である.

Spot

高齢者開腹術の麻酔—100例の経験から

著者: 清水由美子 ,   土谷晃子

ページ範囲:P.1159 - P.1163

はじめに
 東京都養育院付属病院は老人専門病院で,1976年に麻酔科が管理した手術件数457例のうち60歳台が20%,70歳台が44%,80歳台が21%,90歳台が2.6%を占めた.当院で1976年7月から1977年6月までの一年間に行なわれた70歳以上の消化器系開腹術100例について老人麻酔の問題点を検討した.

臨床研究

急性腸間膜血管閉塞症—とくに動・静脈閉塞の相違を中心に

著者: 白水倶弘 ,   杉町利喜雄 ,   岡直剛 ,   小副川武 ,   江崎武春 ,   米村智弘 ,   弘野正司 ,   鶴丸広長 ,   大田英明

ページ範囲:P.1165 - P.1169

はじめに
 急性腸間膜血管閉塞症は,欧米では割合に多い疾患であり,本邦でも最近多くみられるようになつている.
 本症はその診断が困難でもあり,殊に閉塞した血管の種類の鑑別は更に困難なものと考えられてきた.

開心術における大動脈バルーンパンピングの使用とその患者管理

著者: 渡辺寛

ページ範囲:P.1171 - P.1176

はじめに
 ここ数年日本でも大動脈バルーンパンピング(以下IABPと略す)が話題になつてき,いくつかの施設で臨床的に使用され,その効果が注目されてきた.
 著者は1974年1月から1975年6月までの1年6ヵ月間,米国ミルウォーキー市St. Lukes HospitalにてProf. W. D. Johnson(Medical CQllege of Wisconsin)のもとでThoracic and Cardiovascular SurgeryのClinical fellowとしてトレーニングを受け,その間IABP効果のすばらしさに驚嘆した.再び1977年8月ミルウォーキーを訪れ,IABPについての臨床資料をまとめる機会が得られたので,その結果と,IABP下にある患者管理について述べたいと思う.

赤外線吸収スペクトルおよび原子吸光による虫垂結石分析と臨床所見—本邦報告例の集計検討

著者: 石川広記 ,   米山桂八 ,   馬場志郎 ,   花谷勇治 ,   林亨 ,   関谷忠助 ,   酒井美智

ページ範囲:P.1177 - P.1181

はじめに
 虫垂切除に伴う虫垂結石の発見頻度は,5〜10%と言われているが,虫垂結石に関する報告,結石組成分析の成績報告1-4)は多くない.腹部単純X線撮影の機会は多いが,全ての虫垂結石が陽性陰影としてとらえられるものでもない.しかし注意深い読影により結石存在を示唆されることが少なからずある.
 伊勢原協同病院外科において,1971年2月から1976年1月までの5年間に454例の虫垂切除を行ない,そのうち9例1.98%に虫垂結石を経験した.この9例の採取虫垂結石について,赤外線吸収スペクトル,および原子吸光分析を行なつたので,その結果と,2歳11ヵ月女児の稀有な虫垂結石例を経験したので,本邦における既報告49例1-3,5-22,35,36)の虫垂結石症例と共に,臨床的事項について検討報告する.

尿膜管腫瘍性病変の臨床

著者: 松末智 ,   柏原貞夫 ,   倉本信二 ,   前谷俊三 ,   田中英夫 ,   香川嘉宏 ,   青木孝文 ,   中村義徳

ページ範囲:P.1183 - P.1187

はじめに
 尿膜管は発生学的にallantois由来のものか,cloaca由来の膀胱起源のものか,未だ確定的な論拠は示されていない.この尿膜管より発生した腫瘍性疾患はBeggの記載2)以来かなりの数の報告例を見るが,その臨床については,発生病理の特異なこと,診断の困難なこと,治療の問題等実地の臨床外科医にとつて興味ある疾患である.特に尿膜管より発生した悪性腫瘍は報告例も増加してきたが,治療,予後の点については満足できる状態では無い.
 本院で経験したムチン産生性腺癌1例を含む6例の尿膜管腫瘍の検討を行ない,この疾患の臨床面での特徴等につき考察を加えた.

臨床報告

骨形成性脂肪腫

著者: 代田廣志 ,   村山恒幸 ,   小林信也 ,   宮川信 ,   丸山雄造

ページ範囲:P.1189 - P.1192

はじめに
 脂肪腫は,よくみられる非上皮性良性腫瘍で,ことに,頸部,胸部,腹部,背部,四肢の皮下組織に多くみられる.しかし,脂肪組織内に骨形成,骨組織を認めることは稀である.われわれは,右肩甲部に発生した骨形成性脂肪腫(Ossifying lipoma)を,1例経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

乳癌根治手術18年後の脊髄硬膜内髄外転移巣の1例

著者: 片山容一 ,   東裕文 ,   後藤利和 ,   菅原武仁 ,   坪川孝志 ,   森安信雄

ページ範囲:P.1193 - P.1196

はじめに
 脊髄の転移性腫瘍は,全脊髄腫瘍中約30%を占める.しかしその大部分が,まず脊椎ないし傍脊柱組織に転移し,その進展によつて脊髄硬膜外腫瘍としての性質を示してくるものであり,硬膜内に浸潤・発育することは稀である.私どもは,乳癌根治手術18年後に脊髄症状が出現し,補助検査により硬膜内髄外腫瘍を確認,その摘出によつて神経症状の著しい改善をみた転移性脊髄腫瘍の1例を経験したので報告する.

食餌性消化管障害の2例

著者: 寺井武寿 ,   横谷邦彦 ,   中武稔 ,   長嶺慎一 ,   山内陽一

ページ範囲:P.1197 - P.1199

はじめに
 食餌による消化管障害は,摂取された食餌が消化されず一塊となり,胃石とそれに伴う胃潰瘍,イレウス等をきたすことである.食餌そのものに原因がある場合は摂取を中止し,摂取者の状態,条件に原因がある場合は,それらを改善しなければならない.

穿通性化膿性縦隔洞炎を合併した重症Mallory-Weiss症候群の治験例

著者: 岡本晃愷 ,   高橋幹夫 ,   安藤太三 ,   渡辺孝 ,   三枝裕幸 ,   褚賛発 ,   森岡明 ,   星昭二 ,   林正康 ,   桜井護

ページ範囲:P.1201 - P.1203

はじめに
 近年,内視鏡学的検査の進歩により,大量出血を伴う上部消化管疾患の早期確定診断率は増加し,各疾患の死亡率も減少している.しかし,1929年Mallory andWeiss1)により報告されたE-C JunctionのPoste—metic Lacerationを主体とするいわゆる"Mallory—Weiss症候群"(以後,M-W,Synd.と略す)の診断,治療成績は十分といえない.当静岡済生会病院において,1974年4月より1977年8月まで約3年間に,内視鏡学的あるいは手術により確認されたM-W,Synd.は10例であり,男8例,女2例,30歳〜66歳平均48歳で,全例とも治癒せしめ得たが,うち1例は,下部食道穿孔による化膿性縦隔洞炎を伴う重症M-W,Synd.であり,緊急根治手術によつて救命,社会復帰せしめ得たので,その臨床経過,手術所見に若干の文献的考察を加え発表する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?