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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科33巻9号

1978年09月発行

雑誌目次

特集 食道癌手術の近況

胸部上・中部食道癌の手術

著者: 鍋谷欣市 ,   小野澤君夫

ページ範囲:P.1231 - P.1237

はじめに
 最近の外科学の進歩により,胸部上・中部食道癌の手術成績は格段の改善がみられる.
 その手術術式,特に再建術式には幾つかの方法があり,術者によつても異なるが,また同一術者でも癌の進行度,併存疾患の有無により異なる術式を採用している.術式の選択にあたつては,術前検査所見と手術所見とを総合して合理的にのぞむべきであると考えている.以下,術式の選定に際してのわれわれの考えと,日常行なつている標準的な術式について,とくに再建術式を中心に述べてみたい.

胸部上・中部食道癌の手術

著者: 飯塚紀文

ページ範囲:P.1239 - P.1244

手術の前に
 胸部上・中部食道癌の手術を行なう場合,切除範囲や手術術式の決定にあたつては,病巣の占居部位,広がりや,リンパ節転移について十分に考慮しなくてはならない.第一に問題になるのが腫瘍の占居部位である.気管,気管支との位置的関係が問題である.胸廓は上部では狭くなつており,この狭い場所を食道は気管の後壁,更に左主気管支の後壁の膜様部に接して下降する.従つて腫瘍が食道の前壁にあり,外膜より外側に浸潤している時には気管,気管支と容易に剥離できるか如何かが問題になる.X線写真で腫瘍の広がり方を十分に把握しておかなくてはならないし,必要に応じて気管支鏡検査も行なわなくてはならない.切除手術の適応の決定にとって非常に重要なことである.肺外科において近年,気管,気管支成形手術の技術が非常に進歩したが,現在,食道の切除と同時に気管,気管支の切除,吻合が安全に行なえるかどうかには問題が残つている.
 また,食道癌症例の約20%に壁内転移が存在する.上・中部食道癌の切除範囲の決定に大きな影響を及ぼすので,X線写真および食道鏡で,壁内転移の検索を十分に行なう.

胸部下部・腹部食道癌の手術—胸骨正中切開による切除の可能性について

著者: 和田達雄 ,   丸山雄二 ,   片山憲恃 ,   小西敏郎 ,   高浜龍彦 ,   山村卓也

ページ範囲:P.1245 - P.1252

はじめに
 食道壁内の脈管系は,縦軸方向にきわめて豊富な吻合をもって連絡されている.したがつて,食道癌の壁内浸潤やリンパ節転移は縦軸方向に進展しやすい.
 食道癌の根治的切除に当つては,これらの浸潤や転移を除去するために,できるだけ縦軸方向に広い範囲の切除や廓清を行なわなければならないことは周知の事実である.たとえ,主病巣が下部食道や腹部食道を占居する場合であつても,癌がある程度進行した例では,胸部食道の全摘,胃の噴門側1/2を切除するとともに,縦隔内,腹腔内のリンパ節はもちろんのこと,頸部リンパ節まで廓清しなければ根治的な切除が不可能な場合がある.

胸部下部・腹部食道癌の手術

著者: 石上浩一 ,   根木逸郎 ,   長島正明 ,   村上卓夫 ,   安本忠道 ,   村上通治 ,   水田英司 ,   三井俊明 ,   岡正朗

ページ範囲:P.1253 - P.1260

はじめに
 食道胃接合部にまたがつて,口側はE,肛門側はCの範囲内にとどまる癌を食道胃接合部癌と定義するが,下部食道噴門癌にはこれよりやや広い範囲の癌が含まれる.教室の食道噴門癌を含めた広義の食道癌219例のうち,切除例は178例であり,これを病巣の占居部位別にみると,CePh 18例,Iu 6例,Im 75例,Ei 22例,ECまたはCE 57例となる.以下,胸部下部食道Eiおよび腹部食道Eaの扁平上皮癌の手術について述べる.

食道癌切除不能例に対する術式の選択

著者: 西満正 ,   加治佐隆 ,   松野正宏 ,   末永豊邦 ,   福元俊孝 ,   四本紘一

ページ範囲:P.1261 - P.1269

はじめに
 食道癌の診断治療の進歩は最近めざましいが,早期癌あるいはStage I,IIの症例はまだ少ない.大半がStage III,IVで,このような症例には低栄養,脱水を伴う高齢者が多いこともあつて,根治手術が望めない場合が少なくない.教室では食道癌に対して,切除可能な症例には一期的切除再建を第一とし,場合によつては切除優先の分割手術を行なつている.切除不能な症例に対していかなる治療を行なうかは,切除再建の可能な症例に対するよりも悩みが多い.根治性はなくとも,切除不能でもいかにして延命をはかるか,経口摂取の喜びを与えるか,苦痛をやわらげるかなど苦慮するところである.ここでは最近6年間の教室非切除食道癌症例を示し,われわれの行なつている治療法,術式についてのべる.

食道癌に対する術前合併療法

著者: 藤巻雅夫 ,   伊藤博 ,   田沢賢次 ,   斉藤寿一 ,   眞保俊 ,   川口正樹 ,   佐々木公一 ,   田中乙雄 ,   曽我淳

ページ範囲:P.1271 - P.1278

はじめに
 食道癌に対する手術成績の向上は,特に麻酔法の発達,術前,術後の管理技術の進歩などにより刮目すべきものがあるが,その遠隔成績は他臓器の癌腫のそれに比較するとまだまだ不良で,その向上のためにたゆまぬ努力がはらわれている.遠隔成績が不良である原因としては,患者が高齢者で,しかも進行癌が多いことや,癌腫切除に際しての解剖学的特殊性などがあげられるが,最近では,食道癌そのものの"悪性度"(1つの例をあげれば,食道癌のskip lesionなど)が,種々の治療手段に抵抗する大きな因子として注目されるようになつてきている.
 われわれも,食道癌患者に対する治療成績を少しでも向上させるために,1968年(昭和43年)11月以降,食道癌患者にブレオマイシン(BLM)を積極的に切除を前提とした術前投与を目標として投与してきた1-5).ここでは,新潟大学医学部外科学第1講座において切除された89例のBLMと照射の術前併用症例に対する成績を中心に述べてみたい.

食道癌術後管理のポイント

著者: 森昌造 ,   葛西森夫

ページ範囲:P.1279 - P.1285

はじめに
 かつて食道癌手術の直接死亡率は20〜30%程度の高率であり,また遠隔成績も良好とはいい難く,消化器癌の外科治療のうちでは最も困難なものの一つとされていた.近年,手術手技や術前術後管理の進歩によつて,国内の主な施設での直接死亡率は10%以下となり,5年遠隔成績も20%以上と著しい向上が認められてはいるものの,なお治療上の多くの困難性を含んでいる領域である.本稿では,われわれが通常行なつている手術に近接する術後管理の方法をのべると共に,若干の問題点について考察を加えることにする.

巻頭言

食道癌取扱い規約と治療の趨勢

著者: 佐藤博

ページ範囲:P.1225 - P.1230

はじめに
 食道癌の歴史は古く,外国では頸部食道癌に関しては,1877年Czerny,1886年Mickuliczの切除報告,胸部食道癌では,1913年のTorek,噴門癌では1908年のVoelckerの報告以来,食道癌に対する研究は進められてきた.日本でも1932年の瀬尾,大沢の食道外科の宿題報告を契機として,中山,桂,赤倉などの努力により,著しい進歩を示した.
 但し,この食道外科分野を更に著しく向上発展させるためには,この問題に最も熱心な人達が集まり,共通なテーマで意見を交換する場が必要であるとして,1965年,中山教授を筆頭にして食道癌研究会が発足した.と同時に,食道癌の記載なり報告が一定の規約のもとに統一されなければならないことが痛感され,ここに"食道癌取扱い規約"を作成することが発案された.そして,私を委員長として規約委員会が発足し,色々の問題点もあるが,曲がりなりにも,1965年第1版の"食道癌取扱い規約"の発行となつた.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・38

胃スキルス

著者: 磨伊正義 ,   秋本龍一 ,   中川原儀三 ,   渡辺騏七郎

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 進行性胃癌の中でもスキルス(linitis plastica ca., diffuse ca.)は特異な進展形式を呈するため,診断並びに治療上の盲点として今後に残された問題が多い.佐野,下田らは浸潤形式の差異によりスキルスには巨大皺襞型と粘膜萎縮型の2通りの肉眼像が存在することを指摘している(図①).巨大皺襞型は癌の深部浸潤による壁硬化のため2次的に肥大性変化を来したものであり,粘膜萎縮型はリンパ行性に粘膜内に癌が浸潤,広範な粘膜内浸潤を来たすもので,粘膜ひだは消失し,平坦な肉眼像を呈する.前者はより若年者で,慢性胃炎の程度の少ないものに,後者はより高齢者で胃炎性変化の高度のものにみられる傾向がある.
 図②は巨大皺襞型の1例で,体部大彎にメネトリエ病でみられるようなgiant foldsを認め,著明に肥厚する粘膜ひだ間の小潰瘍よりの生検により癌と診断された.

グラフ 外科医のためのX線診断学・9

上部消化管造影—胃癌

著者: 五十嵐勤 ,   福原捷雄 ,   渡部重雄 ,   寺内紀男

ページ範囲:P.1217 - P.1223

 胃ルーチンX線検査のみつけだし診断能は,病変の病型と部位にかなり影響される.例えば,同じ大きさのIIc型早期胃癌では,粘膜ひだ集中があるものより,ないほうがめんどうである.また部位では,前壁と胃体上部とくに大彎側の病変はめんどうである.
 現在のルーチンX線検査は,表面型早期胃癌(IIa,IIc)では,10mm位の小さなものまでひろい上げることが目標となつている.にもかかわらず,もつと大きな病変が,みのがされかかつたりする.進行胃癌では,小さなBorrmann II型である.

座談会

外科医教育のアイデア—現状と将来の展望

著者: ,   ,   広田和俊 ,   植村研一 ,   小高通夫 ,   堀原一

ページ範囲:P.1286 - P.1298

 本誌では,これまで"外科教育を考える"というシリーズで,外科卒後教育における新しい試み,また新しいプログラムにとりくんでいる例を紹介してきた.今回,本年の干葉での消化器外科学会に来日されたMayo医科大学のKelly教授,Hawaii大学のTanaka助教授を中心に,主にアメリカにおける外科教育のアイデアを紹介していただきながら,日本におけるこれまでの外科教育に内在する問題点,さらに現実に進んでいる新しい医科大学の外科教育のアイデアを話し合つていただいた.

講座 皮膚縫合の基本・7

創傷の治癒と瘢痕

著者: 田嶋定夫

ページ範囲:P.1310 - P.1315

□縫合創の創傷治癒
 創傷の第1期的治癒first intentionと第2期的治癒second intentionとの相違は,創縁間の幅,表皮化までの日数,形成される瘢痕量などの相対的相違であり,絶対的な相違ではない.
 皮膚縫合創における創傷治癒の過程は,表皮の連続性の確保と真皮層以下における瘢痕形成の段階である.

Practical Postgraduate Seminar・15

Surgical Pharmacology—α,β刺激薬および遮断薬について

著者: 大竹一栄 ,   諏訪邦夫

ページ範囲:P.1316 - P.1323

主な内容
カテコールアミン・レセプターレセプターの概念,カテコールアミン・レセプターの種類,カテコールアミン・レセプターのモデルカテコールアミンの化学構造—活性
相関
レセプター遮断薬α遮断薬,β遮断薬薬剤各論と主な適応薬剤投与の鉄則モニター,点滴セット,病態の把握

臨床研究

Levamisoleによる癌免疫療法

著者: 三輪恕昭 ,   折田薫三

ページ範囲:P.1325 - P.1331

はじめに
 Mathéら1)の白血病に対するbacille Calmette-Gu—érin (BCG)の活用に初まり,各種の免疫刺激剤を用いる癌の免疫療法が広汎に行なわれ,かなりの臨床効果が報告されている2).われわれは従来の免疫刺激剤と趣きを異にし,細胞性免疫能の低下した例にのみ作用し,それを賦活,正常化する作用を有するとされる3)Leva—misoleを消化器癌患者に投与してその細胞性免疫能の変化をみ,Levamisoleが低下した細胞性免疫能を賦活,正常化する作用を有することを報告してきた4,7)
 今回は,Levamisoleの抗腫瘍効果をみることを目的とし,表1のようなscheduleで主として消化器癌患者に手術前よりLevamisole投与を開始し,最長1年6ヵ月にわたつてその臨床効果を検索し,Levamisoleが消化器癌患者の6ヵ月,1年生存率で,進行した例にほど高い生存率の上昇効果をもたらすという興味ある結果を得た.この成績は動物実験での既報の成績8)と奇しくも一致した.

食道裂孔ヘルニアと胃幽門部粘膜脱の合併例に関する検討

著者: 吉野肇一 ,  

ページ範囲:P.1333 - P.1338

はじめに
 食道裂孔ヘルニア(Hiatushernie,以下HHと略す)は胆石をはじめとする他病変との合併が多いのでその治療においてHHの修復は勿論のこと,合併する病変を正確に診断し治療することが必要である.Braunschw—eig市立病院一般外科における1970年より1974年の5年間に行なったHH手術の194例を合併疾患を中心に検討したところ,胃幽門部粘膜脱(Schleimhautprolaps ad Pylorum,以下SaPと略す)の合併が決して稀でないことが判明した.噴門と幽門との関連性はこれ迄も種々の文献が散見されるがHHとSaPの合併例については認められなかったので報告する.更に胃内視鏡検査による噴門および幽門部の精査により,両者間にある種の関連性を想定させる所見が得られたので合わせ報告する.

体外循環におけるHaemaccelの使用経験

著者: 信岡亘 ,   横山繁樹 ,   小西理雄 ,   谷俊男 ,   北林正樹 ,   浅妻茂生

ページ範囲:P.1339 - P.1344

はじめに
 開心術に欠くことのできない人工心肺を用いる体外循環法も種々の面で進歩がみられ,その充填液に関しても輸血事情,輪血肝炎はもとより微小循環系への影響を考慮して,その組成にも各方面から検討改善が加えられてきた.その充填液の一つであるゼラチン製剤の一つとして,Haemaccelが挙げられる.即ちHaemaccelは,小牛の純粋なゼラチンから得られたpolypeptideをdiisocyanateと反応させて結合した製品で,平均分子量35,000で抗原性はなく,3.5%溶液として用いられ,他にNaCl,KCI,CaCl2が適当量混合されている.さてわれわれは,Lactated Ringer Solution(以下LRSと略す),低分子Dextran加LRS等の人工心肺用充填溶液について種々の検討を加えて報告してきたが,今回はHaemaccelについて,その基礎的実験ののち臨床的検討を行なつたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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