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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科34巻1号

1979年01月発行

雑誌目次

特集 ショックをめぐる新しい話題

血液ガスと酸塩基平衡の診かたと対応

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.23 - P.32

はじめに
 呼吸抑制,肺ガス交換異常のチェックに動脈血PO2,PCO2,pH,これより〔HCO3〕,BEを測定することが血液ガスの一方の主要な役割である.他方糖尿病アシドーシス,尿細管性アシドーシスの判定など酸塩基平衡異常の定量化に血液ガスを測定し,〔HCO3〕,BEを求めることも重要である.
 この血液ガス測定はショックの病態生理の解明および治療上の指針としても次のような理由で非常に重要である.ショック肺などの呼吸異常の判定および人工呼吸,PEEPなどの治療手段がいかに有効に働くかをみるのにはPaO2は非常に有効である.さらにRVO2(混合静脈血酸素分圧)は末梢に運ばれた酸素量の大小,末梢での酸素消費量の多寡を反応してくれるもので,すなわち主に心拍出量の低下の度合いを反映してくれると考えてよい.

血液連鎖反応系(凝固系,キニン系,補体系)の測定値とその意味するもの

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.33 - P.38

はじめに
 生体内には重要な連鎖反応系がいくつもあつて,生体の恒常性維持の上で生化学的あるいは免疫学的機作によつて防御的に作動し合つている.ショックにおいてもこれら連鎖反応系は当然作動して,様々な病態を醸しだす.中でも凝固線溶系,キニン系そして補体系の三つは最も活発に作動する反応系であるといえよう.これら三反応系が活性化するのは何もショック時にのみ起こるわけではないが,相互に関連するところが多く,従来のように血管内凝固線溶(DIC)とか,エンドトキシンショック時の補体代行回路の活性化とか,膵炎時のキニン系活性化とかいうように別々に考え,診断と治療の方針をたてるよりも総合的に三反応系を考えてゆくことは必要なことであろう.
 こういつたことに,すでに多くのショック研究者は気付いており,ショック時の測定項目に血小板やフィブリノーゲンのみではなく,FDP,補体(主としてC4とC3),そしてキニンやキニノーゲンが加えられ,普通に測定されるようになつてきている.著者はこの小文を通じてショックの診断と治療においてこの三大反応系のバランスのとれた考察が,治療成績をもう一息向上させるために大切であることを強調したい.

術後敗血症からみた細菌性ショックにおける嫌気性菌の問題

著者: 石引久弥 ,   相川直樹 ,   安藤暢敏 ,   篠沢洋太郎

ページ範囲:P.39 - P.46

はじめに
 外科領域で従来とりあげられてきた嫌気性菌感染症には破傷風,ガス壊疽,放線菌症があるが,最近になつて,病原性が臨床上問題にされていなかつた無芽胞嫌気性菌による感染症が注目されるようになつてきた.その理由の第1は手術適応の拡大に伴い,感染防御力の低下している条件,基礎疾患をもつ患者や,低下させる治療,処置をうけている患者を対象とする機会が増加してきたこと.第2は新しく開発され臨床応用されている合成ペニシリン,セファロスポリン,アミノ配糖体系抗生物質は好気性グラム陰性菌にすぐれた抗菌性を示すが,嫌気性菌に効果を期待しうるものが少ないため,これらの薬剤投与により,菌交代現象として嫌気性菌が浮び上つてきた点も考えられる.第3は臨床細菌学の進歩により,遊離酸素の存在下では増殖できない嫌気性菌の培養に適した簡便で確実な培地,培養法が関係者の努力により普及したためである.
 このような嫌気性菌による感染症でも他の菌種によると同様に重篤な場合には細菌性ショックが発生するので,典型的な術後敗血症例の検討を通じて,嫌気性菌による細菌性ショックの問題点にふれたい.

心・血管系薬剤の選択と使い方

著者: 塩沢茂

ページ範囲:P.47 - P.54

はじめに
 循環管理には呼吸管理におけるレスピレーターのように有効な機器はまだ存在しない.
 従つてショックにおける循環管理は,的確な呼吸管理と輸液療法のもとでの注意深い心血管系薬剤の投与に頼らざるを得ない.心・血管系薬剤投与の目的は,心ポンプ作用の増強,重症不整脈の治療,および末梢血液灌流の改善である.この観点から心・血管系薬剤を,昇圧薬(血管収縮薬を含む),降圧薬(血管拡張薬を含む),抗不整脈薬,強心薬,冠血管拡張薬,副腎皮質ホルモンに分けて,その選択の基準,使用法などについて,主として心原性ショックを対象にして述べることにする.

ショック肺と呼吸管理

著者: 高橋徹 ,   神納光一郎

ページ範囲:P.55 - P.62

はじめに
 ショック肺との術語は簡明でわかりやすそうな語感を持つている.しかしショック腎といわれる急性尿管壊死のごとく単一の病因で説明される疾患単位ではなく,一般にARDS(Adult Respiratory Distress Syndrome)といわれる症候群と同一の広い意味で使われ,必ずしもショックと関係のないことがある.この点に関しては用語の混乱も見られるが病理学的所見,X線所見及びレスピレーターを用いての呼吸管理の共通性から,漠然とはしているがARDSとの呼称の方がより適切であるように思われる.しかしながらこの症候群の中でも,明らかに病因の異なるものがあり,そのそれぞれについて病因に基づいた予防と治療が必要なことはいうまでもないことである.これはきわめて重要なことであるが,往々にして忘れられがちでショック肺の治療,すなわち呼吸管理との短絡は避けなければならない.
 もともとショック肺shock lungとの言葉はベトナム戦争時の戦時重度外傷に伴つてみられた急性呼吸不全1)からきており,この10年余りの間に実に多くの呼称でよばれながら2),病態及び治療につき相当の進歩がみられたが依然として不明な病因が残されている.ここでは現在までに解明されてきたショック肺の病因になりうるものを列記し,それぞれの予防と治療についてまず述べたい.さらに病態の把握や予後の推定につき,急性呼吸不全の状態の評価としてのRespiratory Index(RI)等に言及する.またレスピレーター等を用いての呼吸管理は,ショック肺の予防に努めても一旦急性呼吸不全が生じてしまつてからは共通した治療法であり,症例を挙げてその要点を解説したい.

Swan Ganzカテーテルの応用

著者: 元木良一 ,   井上仁 ,   松井隆夫

ページ範囲:P.63 - P.70

はじめに
 循環系の状態を知る上で右心カテーテル法は極めて有力な手段であるが,従来は重症患者の術前術後に施行することなどは思いもよらぬことであり,また心内にカテーテルを数日間であつても留置しておくことも常識では考えられぬことであつた.
 一般外科医にとつて長い間の夢であつたこうした検査がSwanら1)の開発したflow directed catheterを用いれば簡単に実施できるようになり,著者の教室では各種外科疾患患者200余例にいて測定した成績を報告2-5)してきたが,開心術,食道癌手術は胸部外科学会,ショック,術後合併症などは外科学会あるいは救急医学会などを中心に発表してきた.その間,会場での質問やご批判も少なくなかつたが,著者はこのカテーテルを有効に使うならば,患者管理の上で利すること大であると信じている.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・42

小腸悪性腫瘍

著者: 平塚秀雄 ,   後町浩二

ページ範囲:P.10 - P.11

 小腸は悪性腫瘍の発生頻度が極めて稀で,また臨床症状も不明確なため,常に本疾患の存在を念頭におかない限り診断は困難である.
 最近,小腸X線検査もたんにバリウムを追いかけるだけではなく,全小腸を二重造影によりくまなく描出しうる方法が確立され,かなり的確な小腸診断法も行なわれるようになつてきた.X線検査により異常が指摘された場合は,内視鏡検査で病巣の存在部位と質的診断を確認しなければならないが,小腸鏡が開発された現在といえどもそう簡単に検査が行ないうるとは考えていない.

グラフ 外科医のためのX線診断学・11

低緊張性十二指腸造影

著者: 大久保忠成

ページ範囲:P.13 - P.22

 〔手技〕 有管法と無管法とがある.
A.有管法
 1.早期禁食.十二指腸ゾンデを十二指腸上部まで挿入する.Bilbao-Dotter tubeを用いるとよい.

座談会

ショックをめぐる新しい話題

著者: 奥秋晟 ,   黒岩宏 ,   石山賢 ,   井田健 ,   玉熊正悦

ページ範囲:P.72 - P.87

 昨秋,盛況を呈したシンポジウム"ショック治療の新しい工夫"(第6回日本救急医学会)に誌上で呼応する形で,この領域でのエキスパート5人の先生方にお集りいただいた.
 ショックは外科医のみならず各科の医師が大いなる関心をもつ分野のひとつであろう.

Spot

"ショック"で最近考えること

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.89 - P.92

□ショックの定義
 歴史的にみてショックの定義はいろいろの説が示された.生体が侵襲をうけた際の反応を重視した立場がLaboritらフランス学派により強調されたし,マクロの血行動態の異常,さらには微小循環での異常を重視した考えも示された.これらをまとめて"急激な重要臓器の灌流低下"とすることができるが,組織はこのための重篤な酸素欠乏とアシドーシスという異常環境にさらされてくるが,これを修飾しようと中枢神経系,内分泌系機能の変化もみられる.すなわちショックは綜合して"neuro-endocrine-vasculo-cellular concept"と定義することが最も適していよう.防御反応として交感神経,副腎髄質よりのアドレナリン,ノルアドレナリンの分泌増加,視床下部—下垂体—副腎皮質系によるコルチコステロンの上昇があるが,これらも過剰反応となると生体には有害となるのである.
 このショックを進行させる最も有力な因子としてカテコールアミンを重視する人は,血管収縮による組織灌流の低下によるanoxiaの増悪と,代謝面でのgluconeogenesis,glycogenolysisの亢進,lipolysis亢進による代謝性アシドーシスの発生,これを引き金とするスラジング進行,微小循環阻害となる過程をとりあげている.

講座 皮膚縫合の基本・11

陳旧創に対する処置

著者: 波利井清紀

ページ範囲:P.98 - P.104

 外傷後,一次的に創閉鎖が可能な時期,golden hour(外傷後8〜10時間以内とされていたが,近年抗生物質が発達し,この期間をすぎても感染の危険が少なく創閉鎖が可能である)を過ぎた開放創を陳旧創と呼んでいる.
 遅れている上皮再生について明確な期間は定められないが,本項では,受傷後3〜4週間以上経過してもなお上皮化が遷延している創の処置について述べる.

臨床研究

胃癌・胃肉腫重複についての考察

著者: 霞富士雄 ,   高木国夫 ,   加藤洋 ,   馬場保昌 ,   堀越昇 ,   吉川静

ページ範囲:P.105 - P.115

はじめに
 同一胃に癌と肉腫が重複してみられることは非常に稀なことである.われわれは胃原発の悪性リンパ腫に対し胃切除後,残胃にボルマンⅠ型及びⅡc型早期胃癌の2多発癌の重複がみられためずらしい症例の治験例を得たので報告すると共に,文献的検索並びに胃癌・胃肉腫重複の意義についての考察を行なつた.

下肢動脈閉塞性疾患における光電式指先容積脈波の応用

著者: 平井正文

ページ範囲:P.117 - P.121

はじめに
 末梢動脈閉塞性疾患の診断は,冷感,チアノーゼ,間歇性跛行,脈拍の消失や減弱,血管雑音聴取などの臨床所見により比較的容易であるが,疾病の程度や予後判定,治療効果判定などには,さらに他覚的,定量的な診断が必要である.四肢血管撮影法は,閉塞部位の確認には最も信頼できるものであるが,反復施行には不適当であり,また,側副血行量を含めた血行動態把握は困難で,このような目的には種々の脈波の分析,皮膚温,血圧,血流量測定などの機能的診断法1)が用いられる.なかでも光電式指先容積脈波は,取り扱いが簡単で,被検者への侵襲が少なく,どこででも行ないうるという長所があるが,室温や精神緊張などにより容易にその波形や波高が変化し2-4),再現性に乏しいといわれている.
 私たちの教室では,光電式指先容積脈波を用いて四肢収縮期血圧を測定し,末梢動脈閉塞性疾患の診断,血行再建術などの治療効果判定などに応用しているが5),本論文では,正常肢と下肢動脈閉塞肢とにおいて,趾先脈波と足趾血圧とを記録測定し,両者の診断率,再現性のちがいを検討した.また,脈波と血圧との臨床応用における意義について考察を加えた.

臨床報告

胸腔内甲状腺腫の4症例

著者: 速水四郎 ,   長谷川晴彦 ,   高本滋 ,   中神信男 ,   石川覚也 ,   福田巌 ,   古田環 ,   竹内栄二 ,   鈴木裕 ,   山内晶司 ,   宮田完志 ,   宇仁田卓 ,   宇野裕 ,   鈴木幸三

ページ範囲:P.123 - P.127

はじめに
 胸腔内甲状腺腫の定義・分類及び呼称に関して多くの報告があるが未だ一定の見解がなく,臨床上甲状腺腫の最大部または最大径が胸腔上口以下にあるものをintra—thoracic goiterとし,そのうち全体が胸腔内にあるものをcompleteまたはtotal,他をincompleteまたはpartialとするものが多い9,15).その他,解剖学的な位置関係を加味したCurtis1)や原等3)の分類,迷入甲状腺腫を分離したRives12)の分類などがある.
 著者等は甲状腺疾患患者1,159例,結節性甲状腺腫(以下結節腫と略)患者486例の中,頸部甲状腺腫に連続し胸腔上口以下に最大径を有する不完全胸腔内甲状腺腫(以下不完全胸腔内腫と略)の4例(癌腫2例,腺腫2例)を経験したので,その概要を報告すると共に胸腔内腫本邦集計例と頸部結節腫自験例の臨床像を比較検討した.

乳房の顆粒細胞性腫瘍の1例

著者: 森本忠興 ,   北村宗生 ,   角田悦男 ,   小柴康 ,   園尾博司 ,   藤原晴夫 ,   長崎彬

ページ範囲:P.129 - P.131

はじめに
 顆粒細胞性腫瘍granular cell tumorは1926年Ab—rikossoff1,2)にょり顆粒細胞性筋芽細胞腫granular cell myoblastomaの名称で最初に報告された比較的まれな腫瘍である.その発生部位は舌その他の耳鼻咽喉科領域に多く,四肢や躯幹の発生頻度がこれに次いでいる.まれには呼吸器,消化器,泌尿生殖器などの内臓にも見られ,身体の到るところから発生することが知られている.乳房における本腫瘍の報告はまれであり,わが国におけるものは私どもが調査し得た限りでは5例にすぎない.本腫瘍の肉眼的性状が乳癌のそれに似ていることから,乳癌との臨床鑑別が重要であるが,本腫瘍は組織学的検査により初めて診断されるものである.
 最近,私どもも乳房に発生した本腫瘍の症例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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