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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科34巻11号

1979年11月発行

雑誌目次

特集 熱傷治療のトピックス EDITORIAL

熱傷治療最近の動向

著者:

ページ範囲:P.1655 - P.1656

 In the past few years there have been remarkable changes in the treatment of serious burn injuries.Mortality and morbidity have decreased;hospital stay has been shortened;and, perhaps most important of all from the patient's point of view, the functional and cosmetic results of burn treatment have strikingly improved. These improvements have been brought about not by a series of isolated advances but, for the most part, are related to two major developments in burn treatment: first, substantial control of burn wound sepsis in the initial two to three weeks following injury with the use of topical antibacterial agents; and second, the successful application of prompt excision of burn eschar and immediate wound closure with split thickness skin grafts as the primary form of treatment for patients with extensive burn injuries. This ability to excise and close the burn wound in the first few days after injury has brought the treatment of the burn wound to a level comparable with the effectiveness of immediate debridement of dead tissue and wound closure practiced so successfully for all other traumatic wounds. Although the application of these surgical principles to the extensively burned patient has not provided basic information leading to a solution of the septic, metabolic or organ failure problems seen so often as causes of death in burned patients, it has been successful in frequently avoiding them by early wound closure and restoration of the normal function of skin.
 The idea of early primary excision and wound closure is not new but has been explored in the past without clinical success except for relatively small, well demarcated, full thickness burns. The recent practical success of these principles, it is important to add, is not based on new techniques of excision or grafting but on the extensive amount of physiologic information produced by basic and clinical research in the biologic sciences over the past 30 years. Armed with this information, it is possible to safely excise burn eschar of 70 or more percent of the body surface in staged operations and close the wound with viable autograft and allograft within the first week of injury. As a result, patients who have suffered deep burns to 80 or even 90 percent of their body survive today in ever increasing numbers. Hospital stay is now more often reckoned in terms of weeks as opposed to months for serious burns, and normal hand function is amost a certainty for all deep hand burns, except those where the initial thermal injury directly destroys tendons and joints. Early excision and the longterm use of pressure over the newly healed wound have greatly reduced the scar contracture and hypertrophic sear problems, and patients are able to return to work or school considerably earlier than in the past. This overall picture, therefore, is one of satisfaction for what has been accomplished and optimism for what will be possible in the future.

熱傷ショック期の治療

新しい輸液療法;HLSとGIK

著者: 島崎修次 ,   小林久 ,   吉岡敏治 ,   杉本侃

ページ範囲:P.1657 - P.1664

はじめに
 広範囲熱傷のショック離脱の輸液は,血漿成分の体内・外への喪失による機能的細胞外液量(func—tional extracellular fluid volume,f-ECFV)の減少を補うことが中心となる.
 この不足した細胞外液を補うため輸液が行なわれるが,輸液をすればするほど全身の浮腫は増強し,しかもf-ECFVがなお減少している事態となっている.この浮腫は生体にとつて少なくとも次の2点で重要な脅威となる1)

熱傷ショックの薬物療法

著者: 吉岡敏治 ,   小林久 ,   大橋教良 ,   澤田祐介 ,   杉本壽 ,   杉本侃

ページ範囲:P.1665 - P.1671

はじめに
 熱傷時の激しい体液変動や循環動態の変化をもたらす原因としてhistamineやbradykinineなどの各種kmine類,prostaglandine,MDF(Myocardial depressant factor),さらには熱傷トキシンの存在を示唆するものまで数多くの物質が提唱されている.これらに対応して種々の薬剤によるショック軽減や浮腫の抑制が試みられて来たが,その多くは現在までのところ概ね否定的である.以下現在までに数多くの実験的研究がなされ,臨床的にも一時期評価されたステロイド,抗ヒスタミン剤,ヘパリン療法,GIK療法等について解説する.

熱傷の局所療法

最新の局所療法剤

著者: 木下栄一 ,   八木義弘

ページ範囲:P.1673 - P.1678

はじめに
 熱傷は日常一般にみられる疾患であるが,その病態や経過によつては直接生命にかかわるような重篤な状態を呈するものもあり,その治療法も,ショックに対する治療からplastic surgeryまで,経過に従つて多岐に亘つている.そのため病期に応じた適切な治療をすることが大切である.しかし深くまた広範囲な熱傷においては,創面の壊死組織の付着ならびに広範囲の皮膚欠損のため,創面の上皮化まで長時間を要することになり,この間の感染の危険の増大は,栄養の低下と免疫不全による生体防御機構の障害と相まつて,重篤な合併症でもある敗血症にまで発展する危険がある.本稿では,最新の局所療法剤にふれつつ熱傷の局所療法について述べてみたい.

Biological Dressingと人工皮膚

著者: 難波雄哉

ページ範囲:P.1679 - P.1685

はじめに
 皮膚は生体防御にとつて欠くことのできない器官であり,広範囲にこれが失われることは,それだけで致命的な侵襲である.したがつて,失われた皮膚を代償するためのdressing材料についての工夫は古くから行なわれてきたが,広範囲な皮膚欠損創が問題になるのは,主として熱傷の場合であり,一時的にもせよ,dressingに失われた皮膚の代償効果を期待することになる.
 本稿では,現在用いられているdressing材料をbiological dressingと人工皮膚に分けてのべる.

植皮のタイミングと実際

著者: 井沢洋平 ,   青山久

ページ範囲:P.1687 - P.1692

はじめに
 当科に熱傷センターが併設されて,熱傷患者が沢山集るようになつてからつくづく思うことは,いかに多くのものがただ保存的局所治療に終始し,とりかえしのつかない状態になつているかということである.このことは,熱傷治療における植皮の重要性が十分認識されていないだけでなく,植皮術という手技そのものが,大変むずかしく考えられていることも重要な側面ではないかと思われる.
 わが国には熱傷患者発生数に対する正確な統計がないが,米国における年間発生数の約223万人,133万人以上が医療施設を訪れているという統計1)より推定すると,わが国にも年間100万程度の発生があり,5〜60万人が医療施設を訪れていると考えられる.

熱傷後の全身性変化とその治療

代謝の変化と栄養補給

著者: 相川直樹 ,   山本修三 ,   石引久弥 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1693 - P.1698

はじめに
 個体が損傷を受けると様々な生体反応が起こるが,このうちでも内分泌系の反応とそれに伴う代謝の変化は特徴的であり,臨床的には代謝の亢進,糖代謝異常,窒素平衡の陰性化や体重の減少として問題にされている.これらの反応は合目的的に考えれば,損傷を受けた個体が自力による摂食が出来ない期間,生存ならびに創修復に必要なエネルギー源やアミノ酸を個体内より確保しようとする反応と考えられている.
 特に広範囲熱傷の後では著明な代謝の変化が起こることが知られており,熱傷に特有な病態としては,熱傷創よりの多量の血漿成分の喪失や,創面における水分の蒸発時に蒸発熱として失われる熱の喪失があり1),また熱傷ショックによる循環不全,感染の合併や,植皮・栄養補給などの治療により代謝異常の病態は様々に修飾される.熱傷患者の治療上特に問題となるのは,熱傷初期にみられるストレスに関連した糖代謝の異常2)と代謝の亢進3),およびショック期以降創が閉鎖されるまでの長期間にわたる創面からの熱および蛋白の喪失による高度の栄養不全状態である.本稿では,熱傷患者の管理にあたつて理解されるべき熱傷後の代謝障害の病態について述べ,その対策としての熱傷患者の栄養補給の問題にふれてみたい.

重要臓器の障害とその治療

著者: 石引久弥 ,   小林米幸 ,   入久巳 ,   山本修三 ,   相川直樹

ページ範囲:P.1699 - P.1705

はじめに
 熱傷は熱エネルギーによる直接損傷をうけた部位の局所的な病変に限局される疾患ではなく,多くの臓器機能の相互関連性を背景にもつ,全身性疾患として把握することが,病態の理解,治療方針の決定に極めて重要である.熱傷後の病態の面から,臨床的に病期は受傷後数日間のショック期及びショック離脱期(初期),その後の感染期及び回復期(後期)の2つにわけて考えられ,熱傷を直接うけない全身諸臓器の病変もこの病期を考慮する必要がある.本来,この分野の研究にはヒト熱傷例の検討が中心になるが,動物実験成績をも加え,主要臓器における病態,臨床的意義を中心に述べる.

カラーグラフ 癌の典型的内視鏡パターン・2

食道癌の深達度診断

著者: 小野澤君夫 ,   鍋谷欣市 ,   本島悌司

ページ範囲:P.1642 - P.1643

 私たちが診療する食道癌は,近年,壁深達度の浅い症例も多くなつてきたが,それでも粘膜・粘膜下層にとどまるもの8.3%,筋層にとどまるもの12.8%にすぎず,胃にくらべて壁深達度の深い症例が多い〔昭和51年度食道癌全国集計(食道疾患研究会)〕.
 今回,食道癌のうち,陥凹性病変の深達度診断について,症例を呈示し述べてみる.

グラフ 外科医のためのX線診断学・18

消化管血管造影

著者: 甲田英一 ,   平松京一

ページ範囲:P.1645 - P.1654

〔消化管血管解剖—上部消化管〕
〔血管解剖変則例〕
 写真は腹腔動脈造影である.左胃動脈よりReplaced left hep—atic A.が認められ,さらに胃十二指腸動脈が分岐している.Replaced left hepatic A.は12%に,Aberrant left hepatic A.は25%に認められる.

座談会

熱傷治療におけるControversy—私はこうしている

著者: 八木義弘 ,   相川直樹 ,   青山久 ,   鵜飼卓 ,   難波雄哉

ページ範囲:P.1706 - P.1720

 熱傷治療の最近の進歩は,ショック対策と輸液,全身状態の変化と代謝,栄養補給等,全身性疾患としての面に目が向けられるようになり,加えて,局所療法剤や輸液処方にも続々新たなものが関発され,飛躍的な治療成績の向上をもたらしております.
 折しも本年5月10日,11日の両日,第5回日本熱傷学会が長崎で開催され,最新の知見をもとに,現時点での熱傷治療のトップレベルの論議が展開されました,そこでこの期に学会の主要メンバーであり,第一線の熱傷治療で活躍されておられる先生方にお集りいただき,一般の外科医のために,具体的な局面に即した最新の熱傷治療と考え方につき討論していただきました.

外科医の工夫

"松葉ゾンデ"による経十二指腸乳頭括約筋形成術

著者: 菱田泰治

ページ範囲:P.1721 - P.1725

はじめに
 経十二指腸乳頭括約筋形成術を,安全且つ技術的に容易に行なうために,文献にみられるもの以外にもいろいろな工夫が行なわれているものと思われる.筆者は,松葉の二本の針葉の先端を接着した形の金属ゾンデを作製し,これまで見聞したり,行なつてきた方法と比較してはるかに便利と感じているので,このゾンデを紹介し,あわせて,筆者の行なつている術式の概略を述べたいと思う.このゾンデを私共のところでは松葉ゾンデ(Pine—needle sound)と呼んでいる.

Emergency Care—Principles & Practice・6

ショック—(その1)ショックの考え方

著者: 川嶋望 ,   馬場尚道 ,   前田滋

ページ範囲:P.1730 - P.1737

ショックの概念と定義
 ショックとは如何なる病態を示すものかという概念を把握する
 ショック患者に対する治療の足がかりを見出すためには,種々の原因で生じるショックの様々な病態を正しく理解しなければならないが,そのためには,
 ① ショックという病態がどんなものか.
 ② ショックという病態に対して,生体が如何なる防御機構をもつているのか.
 ③ 治療のためには,その病態に対応して,いつ,どんな手段を用いればよいのか.
 というショックの概略を把握しておかなければならない.今回は,2症例を中心に,ショックという病態のとらえ方と治療方針について,マクロ的に考えてみたい.

臨床研究

前脛骨区画症候群12例の検討

著者: 伊藤勝朗 ,   生駒義人 ,   提嶋正 ,   山本文雄 ,   須江秀一 ,   中村和夫

ページ範囲:P.1739 - P.1743

はじめに
 前脛骨区画症候群(anterior tibial compartment syndrome)とは,前脛骨区画における内圧の異常な上昇にもとづく二次的な組織損傷ないしは,それによる一連の症候群と定義される.
 この前脛骨区画とは,下腿の前側方に位置し,脛骨,腓骨,骨間膜,前筋間中隔および筋膜によつて強固に取囲まれた閉鎖腔であり,従つてこの腔が伸展拡大する余地は殆んどない.この腔の大部分を占めるのは前脛骨筋をはじめとする下腿伸筋群で,この他に前脛骨動静脈,腓骨神経などをいれている(図1).

術後急性腎不全時における自由水クリアランスの意義

著者: 上甲幸夫 ,   玉木芳郎 ,   豊永文雄 ,   清水英範 ,   藤石慎二 ,   木村茂

ページ範囲:P.1745 - P.1750

はじめに
 術後管理はきわめて重要であり,術後合併症は常に外科医を悩ませるものである.特に急性腎不全(acuterenal failure以下ARFと略す)は,その診断と治療が遅れると,予後はきわめて悪い.従来のARFの診断基準1)とされている尿量,BUN,血清クレアチニン,血清K値などの測定の結果,ARFと診断された時には腎機能障害はすでにかなり進行している場合が多い.その理由として,BUN,血清クレアチニンは,普通,腎機能の70%以上が障害をうけたときはじめて上昇するからである.
 1956年,Smith2)がFree water cleatrance(以下CH20と略す)なる概念を発表し,1973年,Baek3-5)らは,ARFの予知ならびに予後にCH20がきわめて有用であると報告した.

手術手技

癒着性腸閉塞症に対するわれわれのNoble術式変法

著者: 小林真佐夫 ,   松川泰廣 ,   山口孝之 ,   倉科彰夫 ,   増田和人 ,   倉塚均

ページ範囲:P.1751 - P.1756

はじめに
 癒着性イレウスに対する治療法は古くて新しい問題であり,その治療に依然として外科医は日常苦労を重ねているのが現状であろう.手術療法としても,腸管剥離はどの程度まで行なうのか.腸管剥離後はそのまま腹腔内へ腸管を還納するのか,あるいは,intestinal splinting法を採用するのか,あるいは,Noble変法を採用するのか議論の多いところである.
 われわれは過去の苦い経験から,1969年以降現在に至るまで,後述するような田北変法を簡素化したNoble術式変法を,その適応を厳格にし,22症例に施行し,術後癒着性イレウス再発例はなく,良好な結果を得ているので報告する.

臨床報告

膝窩動脈破裂を伴つた膝窩動脈外膜嚢胞の1例

著者: 西沢直 ,   鈴木一郎 ,   松沢邦夫

ページ範囲:P.1757 - P.1760

はじめに
 下肢の動脈閉塞症による間歇性跛行はBuerger病や動脈硬化性が主なものであるが,最近本症を呈する疾患の一つとして,外国では1954年Ejrup及びHiertonnによりCystic adventitial degeneration of the po—pliteal arteryとして初めて報告1)され,本邦では1960年石川らにより報告2)されて以来,本疾患は極めて稀なものであるが,注目されている.
 われわれは最近内膜破裂を伴つた本症を経験し,著者らが調べ得た文献では本症の内膜破裂合併症は本邦第1例と思われるのでここに報告する.

VATER associationの1例

著者: 友岡康雄 ,   宝道勝 ,   中村資朗 ,   高島成光 ,   林正泰

ページ範囲:P.1761 - P.1764

はじめに
 食道閉鎖や鎖肛には,種々の奇形が高頻度に合併することは広く知られている.
 最近,VATER associationとよばれる多発奇形を持つ症例の報告1,2,7)が欧米文献に散見されるようになるとともに,本邦でも橋本3),及川4),蔵本5,6)らの報告がみられている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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