icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科34巻12号

1979年12月発行

雑誌目次

特集 噴門部癌の特性と外科治療

診断上の問題点—X線の立場から

著者: 杉野吉則 ,   熊倉賢二

ページ範囲:P.1799 - P.1805

はじめに
 胃X線検査体系がほぼ完成した現在でも,噴門部ではほかの部位にくらべて,早期癌やそれに準ずる小さな癌の症例が少ないように思われる.
 過去5年間の慶大の胃癌手術症例でも,胃癌取扱い規約1)で規定されている噴門部,すなわち食道胃接合部から約20mmの範囲の胃の部分に限局した早期癌は2例しかなかつた.また,それを少しこえる程度の小さな癌で,われわれがX線検査を行ない,他院で切除された1例を加え,3例について噴門部の早期X線診断について検討してみた.

診断上の問題点—内視鏡の立場から

著者: 小黒八七郎

ページ範囲:P.1807 - P.1815

はじめに
 近年,胃を含めた各種上部消化管用ファイバースコープの開発に伴い,上部消化管の内視鏡検査法と診断学は長足に進歩してきている.しかし,噴門部の内視鏡検査と診断は上部消化管の中における難かしい部位の一つであつて,慎重を要しなければならない.

術後成績の検討

著者: 佐藤博

ページ範囲:P.1845 - P.1850

はじめに
 現在,噴門部癌の定義に関しては確立したものはない.胃癌取扱い規約によれば「食道噴門接際部から約20mm範囲の胃の部分を噴門部と称する事に規定する」と記載されている.
 しからば噴門部癌は此の部にその発生母地があると考えられるものを称するのか,あるいは此の部に癌が占有されているものを称するのかあまりはつきりしていない.一方食道癌取扱い規約によれば食道胃接合部癌として食道胃接合部に跨がる癌腫のうち「口側はEの範囲に,肛門側はCの範囲以内にとどまるもの」とし,これをEC,E=C,CEに区分している.従つて噴門部癌と称するものの中にはいろいろの解釈がありいろいろの病型があると思う.すなわち此の部では主として癌腫の組織型は腺癌が多くなるが稀には扁平上皮癌も入つて来る.でこれに対する根治手術も多岐にわたる訳であるが,今回は胃癌を中心として癌腫がC領域を占めるものの手術成績とその遠隔成績について述べ,さらに食道胃接合部癌における扁平上皮癌と腺癌の遠隔成績の差を論じてみたい.

病理よりみた噴門部胃癌(腺癌)の特徴

著者: 加藤洋 ,   菅野晴夫 ,   中村恭一

ページ範囲:P.1851 - P.1856

はじめに
 噴門(Cardia)とは胃の入口部のことであり,噴門部(Cardiac portion)とは,通常,食道と胃の接合部を含む狭い部分を漠然と指す.従つて,噴門部癌と言えば,食道最下部および胃最上部の癌を含み,組織学的には扁平上皮癌を含みうる.しかしここでは,粘膜面より見て,食道胃接合線(E-G junction)より2cmまでの胃部分に注目し,ここに病巣の中心がある腺癌を噴門部胃癌として,その病理統計学的特徴について他領域の胃癌と比較しながら検討する.また,胃噴門腺は幽門腺と同様粘液腺であり,幽門腺領域に通常起こり易いとされる腸上皮化生は胃噴門腺領域にも起こり易い.すなわち,噴門腺領域と幽門腺領域は胃癌発生の背景がよく類似している.従つて,両領域の胃癌を組織発生の立場から比較することも大変興味あることと思われる.

手術術式の選択

到達法をどうするか:左開胸開腹法

著者: 古賀成昌 ,   岸本宏之 ,   西村興亜 ,   前田迪郎

ページ範囲:P.1816 - P.1820

はじめに
 食道と胃は組織学的に扁平上皮と腺上皮とによつて明らかに境界されており,この境界部は食道胃接合部,すなわちesophagogastric junction(E-C junction)と呼ばれている.このE-C junction付近に中心を持つた癌を噴門部癌,食道胃接合部癌あるいは下部食道噴門部癌などと呼んでいる.食道胃接合部は解剖学的にも生理学的にも複雑な部位であるため,この部の癌の特異性についての問題が最近提起されるようになり,第30回胃癌研究会でも種々論議されたところである1).噴門部癌は一般に進行したものが多く,また高齢者が多いため,出来るだけ手術侵襲が少なく,安全な術式が望まれる反面,食道口側断端における癌遺残,胸腔内リンパ節郭清などのため,手術侵襲が大きくなる開胸の問題が必然的に起こつてくる.本稿では教室噴門部癌手術例の成績を中心として,開胸の適応と,われわれが通常行なつている左開胸開腹による到達法について,その大要を述べたい.

到達法をどうするか:胸骨縦切開

著者: 片柳照雄 ,   粟根康行 ,   北村正次 ,   伊藤一二 ,   昌子正実

ページ範囲:P.1821 - P.1827

はじめに
 胃癌の食道浸潤例に対してわれわれは進展距離,肉眼型(限局型か浸潤型か),組織型(分化度)等を参考にしてアプローチの選択,即ち胸骨縦切開法と開胸法のいずれを選ぶかを決定している.今回のテーマである"噴門部癌の手術術式の選択—approachをどうするか:胸骨縦切開法—"について本到達法施行症例45例の経験に基づき,本法の適応,術式,成績について見解を述べたい.なお,われわれは胸骨縦切開および横隔膜切開により後縦隔にアプローチしているので,"胸骨縦切開,経縦隔法"を正式の呼称と考えているが,本稿では胸骨縦切開法と略称する.

リンパ節郭清と切除範囲をどうするか

著者: 武藤輝一 ,   田中乙雄 ,   川口正樹 ,   曽我淳 ,   佐々木公一

ページ範囲:P.1829 - P.1835

はじめに
 いわゆる噴門部癌は腫瘍局在の特殊性から胸腔内下部食道に沿つてのリンパ節転移が起こりうるし,肉眼的にみられる腫瘍の口側縁からさらに数cmにわたり食道壁に沿つて浸潤している場合が少なくない.胃癌取扱い規約1)によれば食道胃接合部から2cmの範囲の胃の部分を噴門部と称するように規定されているが,実際には食道胃接合部を含めてもう少し広いやや漠然とした範囲をさすことが多く,西ら2)は食道胃接合部から上下それぞれ2cmまでの範囲を境界部癌と呼ぶことを提唱している.
 現在食道胃接合部を越えない上部胃癌の手術方針に関してはほぼ一致した意見がえられており,リンパ節郭清のために膵脾合併切除を行なうか,あるいは脾や膵脾の両者を温存しながらリンパ節郭清を行なうか,Appleby手術はどのような条件で行なうかなどに関し意見の相違がある.従つて今日なお問題が多いのは食道胃接合部にかかつている癌である.本稿では著者らの施設における食道胃接合部癌の成績を中心にリンパ節郭清と切除範囲について述べることとする.

再建法をどうするか

著者: 岡島邦雄

ページ範囲:P.1838 - P.1844

はじめに
 噴門部癌を西1)は食道・胃境界線上より上下それぞれ2cm以内に中心を有する癌と規定し,上部胃癌,下部食道癌と区別して考えその特殊性を検討している.
 また噴門部癌については第30回胃癌研究会(1978年1月28日,鹿児島,指宿,世話人,西満正教授)のテーマとしてとりあげられ,診断,病理,治療の3部門が討論され,次のごとき特長を有するものとしてその輪郭が明らかにされた.すなわち,(1)高齢者の男性に多い,(2)進行癌では分化型,限局型が多い,(3)早期癌では隆起型(Ⅰ,Ⅱa型)が多い,(4)食道への進展は浸潤層は粘膜固有層と粘膜下層の共進例が最も多い.(5)食道浸潤の肉眼判定と組織判定の差は限局型で90%が1cm以内,浸潤型で90%が2cm以内であるため肉眼的腫瘍縁から口側切離線は限局型2cm,浸潤型4cm離せば安全である.

カラーグラフ 癌の典型的内視鏡パターン・3

胃癌の典型的内視鏡像

著者: 高木国夫

ページ範囲:P.1786 - P.1787

 胃癌の典型的内視鏡像はまず,胃癌の肉眼形態に基づく所見を基本にして,病変の内視鏡所見を捉えるのが重要である.胃癌の肉眼形態については,古くからBorr—mannによる分類がなされて,今日でもその分類が用いられている.わが国では,胃癌研究会編の「外科・病理胃癌取扱い規約」では,以下の如き分類が用いられている.
  O型:表在癌
  1型,2型,3型,4型:Borrmann分類に準ずる
  5型(unclassified):以上の何れにも属せしめ得な    い型

グラフ 外科医のためのX線診断学・19

肝血管造影

著者: 磯部義憲 ,   平松京一

ページ範囲:P.1789 - P.1797

〔肝動脈と肝静脈の解剖学的関係〕
 肝の脈管構造はちようど肺の脈管構造に類似しており,肝動脈一気管枝動脈,門脈—肺動脈,肝静脈—肺静脈の関係がある.従つて肝動脈,門脈と肝静脈は両手を組み合せたような形になつており,肝静脈の各主幹はほぼ肝区域の域を走つている.すなわち,右肝静脈主幹は肝右葉前区と後区とを境し,中肝静脈は右葉と左葉中間区域とを境している.肝区域枝および肝静脈枝の解剖学的理解は,今後,早期肝癌の術前診断および術式の決定の際により重要となつてくる.従つて血管造影の読影も肝区域,脈管構造を十分理解した上で進めていくべきものである.

Practical Postgraduate Seminar・24

外科外来における処置と小手術のポイント—その1

著者: 池永達雄 ,   樋上駿 ,   沢田寿仁

ページ範囲:P.1861 - P.1866

はじめに
 外来通院で小手術の適応となる疾患は,体表面またはその直下におきた外傷性,炎症性または腫瘍性病変であることが多く,なかには現在では皮膚科,整形外科,形成外科領域に属する疾患と考えられるものも少なくないが,それぞれの医療施設での各科の役割分担についての慣習なり,患者の側の既成概念によつて,専門分野が分化している現在でも,外科外来で行なわれる小手術は,はなはだ多方面にわたり,これらの疾患を正しく処置するには,広い範囲の正確な知識が要求される.

Emergency Care—Principles & Practice・7

ショック—(その2)ショックの本態・生体反応と治療とのかかわり(附・電解質の補正)

著者: 川嶋望

ページ範囲:P.1868 - P.1875

はじめに
 ショック時には,生体内でさまざまな連鎖反応が生じるが,表1はその結果に見られる現象の一部である.
 今回は酸素欠乏による細胞の病変・ショック時の末梢循環動態・内分泌ホルモンを中心とする細胞組織代謝の調節機構を示しながら,なぜショック時に表1のような現象が生じるのかを考え,そしてその現象がショックの治療とどんなかかわりをもつているのかを☞で示しながら述べてみたい.

臨床研究

閉塞性黄疸患者のhyperdynamicな循環に関する臨床的検討

著者: 斎藤英昭 ,   玉熊正悦 ,   磯山徹 ,   杉浦有重 ,   浅野哲 ,   山本登司 ,   近藤良晴

ページ範囲:P.1877 - P.1882

はじめに
 肝は生体における代謝の中心的役割を占め,かつ門脈系という特有な血管系で送血される特徴から,肝障害のさいに生化学的,解剖学的変化を介して他臓器に新たな病態を惹起することがある.その代表として肝性脳症,肝腎症候群はよく知られているが,また肝疾患に出現する循環動態異常も古くから注目されていた1)
 肝疾患のうち,とりわけ肝硬変症に関してはKow—alskiら2)の報告以来,その全身循環の特徴にhyper—dynamic stateがあげられ,この臨床的意義や発生機序の研究がなされている3).一方,閉塞性黄疸については,このさいしばしばみられる低血圧と徐脈発症を主に胆汁酸の作用で解明する試みがされ1),また最近では感染を合併した閉塞性黄疸にみられるhyperdynamic st—ateがsepsisあるいはendotoxemiaとの関連で興味をもたれている4)

総胆管切開適応因子の検討—「林の数量化第Ⅱ類」による判別分析

著者: 河野保 ,   川崎繁 ,   鈴木豊 ,   三品寿雄 ,   平尾雅紀 ,   森谷尚行 ,   畑中恒人

ページ範囲:P.1883 - P.1887

はじめに
 経皮経肝胆道造影法,逆行性胆道造影法等,直接性胆道造影法の進歩により,胆管内の結石の存在を診断する事は比較的容易になつて来ているが,胆嚢摘出術における遺残結石(unexpected stone)は4〜20%,平均5%内外に及ぶといわれており1-8),限られた臨床データにもとづき,あらかじめ(直接性胆道造影施行前,術前,総胆管切開前)胆管内の結石を科学的に予測する事は一般臨床上依然として重要な課題である.
 また,従来より結石の存在を予測させる因子(黄疸歴,胆管炎,総胆管径の拡張,胆嚢内小結石,胆嚢管の拡張等)について数多く検討されて来たが1,9-16),それらは各因子のみの分析に終始する傾向が強く,各因子の関連性まで考慮し,総合的に検討され,結石の存在の予測にまで至つたものはほとんど見あたらない.

尺骨動脈閉塞と指血行障害

著者: 平井正文 ,   河合誠一 ,   塩野谷恵彦

ページ範囲:P.1889 - P.1892

はじめに
 一般に,四肢動脈閉塞性疾患において,尺骨動脈は橈骨動脈に比べ閉塞をきたす頻度の高いことが報告されており1),しばしば無症状にもかかわらず,Allenテストや血管撮影にて尺骨動脈の閉塞が確認される2,3).つまり,尺骨動脈の閉塞は,必ずしも指阻血症状を発生させるとは限らないが,現在まで尺骨動脈閉塞例における症状発生機転について詳しい検討がなされていない.また,このような無症状な尺骨動脈閉塞の臨床的意義についての報告もなされていない.
 すでに私たちは,四肢動脈閉塞性疾患においては,指血圧の低下が症状の発生に不可欠な条件であり,全指血圧測定の有効性について報告している4).今回は,尺骨動脈閉塞例と橈骨,尺骨両動脈閉塞例とにおいて,手関節,指収縮期血圧,血管撮影所見を比較することにより,尺骨動脈閉塞例における指阻血症状の発生機転について検討を加えた.

臨床報告

外傷性腹部大動脈—下大静脈瘻

著者: 武藤庸一 ,   森山正明 ,   古山正人 ,   牧野純造 ,   家守光雄 ,   草場昭 ,   井口潔

ページ範囲:P.1893 - P.1896

はじめに
 腹部大動脈に対する直達外傷は致命的なことが多く,受傷後仮性動脈瘤あるいは大動脈—下大静脈瘻を形成し,長期間生存することは稀である.われわれは最近,腹部大動脈直達外傷後約18年を経過した外傷性腹部大動脈—下大静脈瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

巨大潰瘍を形成した胃アニサキス症の1例

著者: 草島義徳 ,   片山外一 ,   小島靖彦 ,   藤田秀春 ,   宮崎逸夫 ,   吉村裕之 ,   近藤力王至

ページ範囲:P.1897 - P.1900

はじめに
 アニサキス幼虫を包蔵する海産魚類の生食によつて発症するアニサキス症については,近年多数の症例報告や実験的研究があり,発症の本態も徐徐に解明されつつある.
 一般に胃アニサキス症は臨床的に急性型と慢性型に分類されており,いずれの場合にもその局所反応の特徴的所見は好酸球肉芽腫や好酸球蜂窩織炎である.しかししばしば他の臨床例にみられる本症と胃潰瘍との因果関係については,必ずしも明らかにされていない.ここに報告する症例は,アニサキス幼虫が,巨大潰瘍を形成し,さらに虫体がここを穿通して大網に穿入して異所寄生をみとめた珍しい症例である.動物実験ではアニサキス幼虫は比較的容易に消化管を穿通しうるが,人体におけるこのような症例はわが国ではこれまで5例にすぎない.ここに本症例の臨床所見の概要をのべ,考察を加えたい.

腸間膜腫瘤を思わしめた腸結核の1例

著者: 野浪一道 ,   内田満国 ,   笹原寅夫 ,   石原信彦 ,   上塚高弘 ,   須古修二

ページ範囲:P.1901 - P.1906

はじめに
 腸結核は現在では比較的遭遇することの少ない疾患とされているが,岡1)によると病理学的には肺結核患者の92.7%に本症は存するといわれている.一方肺に結核性病変の認められない孤立性腸結核の例も報告されている.われわれは術前の諸種の検査で腸管壁の圧排像のみの所見で,腸管壁には何ら異常所見を認めず腸間膜腫瘤を思わしめた孤立性腸結核の症例を経験したので報告する.

--------------------

「臨床外科」第34巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?