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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科34巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

特集 Elemental Diet

EDの特性と適応

著者: 小越章平 ,   佐藤博

ページ範囲:P.457 - P.462

はじめに
 Dudrickらによって,経中心静脈栄養法(IVH)が紹介されて以来,早や10年の歳月が流れた.静脈栄養だけで小児が成長し,成人の体重は増加し,傷がよく治癒するということはそれ以前考えられなかつたために,全世界から驚きの目で迎えられ,それ以来,外科栄養のブームをつくるきつかけとなつたことは衆知のとおりである.経口,経腸栄養でなしとげられなかつた高熱量投与が,経中心静脈にカテーテルを挿入することにより可能となつたために,この高熱量投与の効果はいろいろな疾患において,大きな臨床効果をもたらした.わが国においても,本法は広く一般化されるようになつたが,このはなばなしい静脈栄養法のかげにすつかりかげを潜めた形となつていた経腸栄養法も,Elemental diet(ED)として再び大きく脚光を浴びるようになつた.もし,IVHと同様に高熱量投与が経腸的に可能ならば,合併症も少なく管理面でも,またこれらの強性栄養法をやられる患者側からいつても非常に楽な方法には違いない.本特集はEDについての現況をいろいろな面から考察されると思われるが,ここではEDの意義,製品,その特性,適応などについて述べる.

ED投与方法の実際

著者: 小山真 ,   相場哲部 ,   山岸良男 ,   吉川和子 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.463 - P.469

はじめに
 EDはアミノ酸のみでも生長,発育,維持が得られると言うRose一派の業績に端を発しており,従つて蛋白源としてアミノ酸混合物(または蛋白水解物)を含むことが条件である."消化を必要とせぬもの"との考え方は,その後の改良の結果,アミノ酸以外は消化を必要とするものも一部含まれるようになり,chemical defined dietと定義が拡大されている.
 初めて臨床的に長期のED投与を行なつたのはWinitzら1,2)(1965)であるが,以来数種のEDが開発され広く用いられている.しかし本邦においては個々の施設で入手し細々と用いて来たにすぎず,著者らの教室でも小腸広切例等の治療上の必要で入手を試みたが果さず,1973年頃より止むを得ずアミノ酸混合物に電解質剤を加えて使用し,著しい効果を認めていた3).その後はこれに更にグルコースやビタミン剤を混じて日常の臨床に用いて来たが,先頃千葉大,第2外科とVivonexの特許を取得した"味の素"KKが協力してED—ACを試作,検討が開始され,近く広く用いられるような機運にあるのは誠に幸いである.このようなED投与に関しては,最近,小越ら4-6)の一連の報告がみられるが,ここでは主としてED—ACを用いた自験例での経験を中心に投与法の実際について述べてみたい.

消化器外科におけるED

著者: 大柳治正 ,   浜野武史 ,   関田幹雄 ,   光野孝雄

ページ範囲:P.471 - P.478

はじめに
 外科領域の術前術後の管理において,栄養状態の保持,改善は中心命題の一つである.最近の高カロリー輸液(以下,TPN)の発達はこの点に画期的な成果を挙げた.しかし,TPN施行にもとづく合併症,特に敗血症など致命的なものの発生も決して皆無とはいえず1-4),またその管理も繁雑である.
 1957年にGreensteinやWinitzらの一派5)によりwater soluble,chemically defined dietとして初めて報告されたelemental diet(成分栄養食)は純粋のL-アミノ酸6)と糖質を主体とした完全な合成食7,8)であり,その使用法はTPNに比較して,より生理的でかつ副作用に関しても致命的なものの発生はほとんどなく7,9-12),簡便に扱える.更に,elemental dietは消化を必要とせず13),また消化管に対する刺激性も少ないことから,最近ではenteral hyperalimentation11)として経腸栄養法を再認識させ,漸次TPNと同様の地位を占めつつあるに12,14-18).しかし,elemental dietをはじめとする経腸栄養についても,下痢などの副作用19)とも関連して,その投与部位や投与方法20,21),またその利用や代謝に及ぼす影響などにも未だ解明されていない点も多く残されているのが現状である.

小児外科におけるED(成分栄養)

著者: 中條俊夫 ,   小方卓 ,   橋都浩平 ,   横森欣司 ,   島田宗洋 ,   宮坂勝之 ,   吉武克宏 ,   三瓶直子

ページ範囲:P.479 - P.488

はじめに
 成分栄養は経口的 または経腸的高カロリー輸液といわれるように,高カロリー輸液に用いられるとほぼ同様の内容を消化管内に投与し,消化をほとんど要せずに吸収させることにより,種々の病的状態において栄養を補給し,未消化食品投与で得られなかつた効果を得ようとするものである.
 今回は国立小児病院での経験例をもとに,小児における成分栄養の効果と適応について検討していきたい.

EDか,Hyperalimentationか

著者: 岡田正 ,   山本裕 ,   坂本嗣郎

ページ範囲:P.489 - P.492

EDかHyperalimentationか
 最近における患者の栄養管理技術の進歩は著しく,各種疾患,病態の生存率の向上,治癒期間の短縮など,着実にその成果が挙がりつつあるが,高カロリー輸液(IVH)及び成分栄養(ED)の急速な発展に負う所極めて大である.
 さて今回与えられたテーマはIVH及びED両栄養法の比較であるがいずれの栄養法,特にEDに関しては未だ発展途上にあり未解決の問題点も数多く含んでいる.ここでは両栄養法が比較的よく用いられている疾患あるいは病態を挙げ,主として効果面よりその比較を行なうに留め,最後に外科栄養法の将来像について若干考える所を述べてみたい.

カラーグラフ 内視鏡的色素シリーズ・3

胃癌

著者: 鈴木茂 ,   村上平 ,   橋本忠美 ,   長谷川利弘 ,   川田彰得 ,   鈴木博孝 ,   榊原宣 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.446 - P.447

 胃癌内視鏡診断の補助診断手技として色素を用いる方法はすでに古く,多くの業績がみられるが,ここでは最近著しい発展を遂げてきたメチレンブルー染色法による胃癌診断について写真を中心に解説する.
 手技はメチレンブルー150mgを封入したカプセルを蛋白分解酵素溶液(プロクターゼ200mg+ガスコン10倍稀釈液30ml)で内視鏡施行2時間半から3時間前に服用させる.最初10分は臥位で時々体位を変換させ,その後内視鏡施行15分前まで自由にさせる.15分前より右側臥位として胃内に貯留せる色素液の排出を促進せしめ,通常の前処置で内視鏡を挿入する.なお,腸上皮化生や小腸粘膜の染色にはこのような準備は必要でなく直接に直視下にメチレンブルー液を撒布すればよい.

グラフ 外科医のためのX線診断学・14

注腸造影—炎症

著者: 狩谷淳 ,   西沢護

ページ範囲:P.449 - P.456

〔はじめに〕
 大腸X線検査にはさまざまな方法がある.多彩な変化を呈する大腸の炎症性疾患のX線診断には,先ずmucosal detailをうつし出すことが前提である,このためには,前処置として腸洗を行なわない前処置法と,撮影方法はone stage methodによる二重造影法の組み合わせが最もよいと考えられる.これによって大腸小区とも称すべき,いわゆるfine network patternを一つの診断基準としうるX線像がえられ,それによつて粘膜面の微細な変化をとらえうるからである.従って重複をいとわず,上述の方法を簡単に述べ,本稿の導入としたい.次に大腸の炎症といっても,実に多種多彩であつて,与えられたスペースでその全てにふれることは不能である.そこで,特に外科との関連において,特異的な大腸の炎症の代表として結核を,非特異的なものの代表として潰瘍性大腸炎とクローンをとりあげて図説し,最後にまとめを述べたい.

座談会

Elemental Dietの実際

著者: 加固紀夫 ,   大熊利忠 ,   谷村弘 ,   遠藤昌夫 ,   小越章平

ページ範囲:P.494 - P.508

 邦語では成分栄養と訳されているElemental Diet(ED)の歴史は比較的新しい.1977年に成分栄養研究会が発足以来,第三の栄養法として急速にその研究と普及の度合いが増している.
 元来の宇宙食から病態栄養法への応用への過程を着実に進むEDはIVHとならんで栄養状態の改善を要する患者にとって大きな福音となることは他言をまたない.国内での製品開発も漸く軌道にのりつつあり,各施設から陸続として有効治験例が発表されている.今回の座談会はEDに早くから着目,独自な研究を進められてきた先生方にお集りいただき,臨床医のためのpracticalなお話を開陳していただいた.

Spot

Elemental Diet;その歴史と展望

著者: 酒井忠昭

ページ範囲:P.509 - P.512

はじめに
 Elemetal Dietは各栄養素の基本となる比較的単純な化合物を,栄養学的に理想のバランスに配合してつくつた完全合成食といえる.わが国でも近年,第三の栄養法として脚光をあび,1977年3月には全国的規模でEl—emental Diet研究会が発足し,日本人の手による,この種のDietの開発が進められている.元来,欧米において開発されたものだが,その歴史をふり返つてみると二十世紀の生化学の歴史の大きな部分を占めていることがわかる.

Emergency Care—Principles & Practice・1【新連載】

救急医療の実施にあたつて注意したいこと

著者: 川嶋望

ページ範囲:P.518 - P.523

この講座のねらい
 医師国家試験に合格した時点においては,プライマリーケアーに対処する医学的知識に不足はない.しかし,医学教育が教科書や講義を中心にし,検査資料に基づく診断学が主流であつたとすれば,救急医療はもちろん,小外科的救急処置さえおぼつかない.
 救急患者の初療においては,詳細な問診・緻密な診察・検査資料の収集による診断学的構築を行なう前に,静脈確保・気道確保・心肺蘇生などの治療行為を初めなければならないことがある.しかしこのとき,医師が反射的に救急医療に対処する知識や技能をもたずに患者に接するとすれば,患者や家族を前にただ戸惑うにすぎないだろう.

Practical Postgraduate Seminar・20

老人の手術—これだけは注意したい術前・術後管理

著者: 橋本肇 ,   山城守也

ページ範囲:P.524 - P.531

主な内容
術前検査と術前処置
 術前検査として何をすべきか
 循環器系の術前評価
 呼吸器系の術前評価
 代謝と栄養の術前管理
老人の手術の原則
術後管理と合併症

臨床研究

膵嚢胞11例の手術経験

著者: 蔵田裕彦 ,   児玉求 ,   佐々木伸博 ,   福田康彦 ,   山根修治 ,   田中一誠 ,   松山敏哉 ,   田村泰三 ,   西亀正之 ,   土肥雪彦 ,   江崎治夫

ページ範囲:P.533 - P.538

はじめに
 膵嚢胞は比較的まれな疾患で一施設としての多数例の治験報告も少ない,外科治療に関してもすべての症例に最善の成績をあげ得る共通した術式がなく,個々の症例に応じて種々の術式を選択しているのが現状である.
 われわれの教室では1964年以来,仮性嚢胞8例,真性嚢胞3例,計11例の膵嚢胞を経験した.これらの症例をもとに手術術式の選択および内瘻造設後の膵嚢胞の運命について検討を加え報告する.

顎下腺腫瘍の検討—自験16例を含む本邦報告例について

著者: 山下健東 ,   曽和融生 ,   冬広雄一 ,   北村輝男 ,   吉本隆行 ,   長山正義 ,   梅山馨

ページ範囲:P.539 - P.545

はじめに
 一般に,睡液腺腫瘍は外科,耳鼻咽喉科および口腔外科領域で扱われている疾患であるが,その組織学的特徴,生物学的特性,治療などについて未だ十分に確立されているとは言い難い.特に,顎下腺腫瘍に関しては,欧米では多数例での臨床的検討が行なわれているものの1-5),本邦では未だ症例報告の域を出ず,確立された治療体系もないのが現状である.そこで,われわれは骨転移を伴う巨大な顎下腺悪性混合腫瘍の治療経験を機に,教室での過去11年間の16例および比較的記載の明らかな本邦過去10年間の報告例50例,過去5年間の本邦剖検例27例を集計し,若干の文献的考察を加えて報告する.

われわれの処方した成分栄養の臨床経験

著者: 大熊利忠 ,   井上吉弘 ,   後藤平明 ,   大塚憲雄 ,   多田出 ,   横山育三

ページ範囲:P.547 - P.553

はじめに
 1967年Dudrickが開発した完全静脈栄養法(以下IVHと略す)は著しい発展をみせ現在ではことに消化器外科領域ではかかせない栄養管理法として確立されてきた1).しかしこの方法も成人においては大静脈にまでカテーテルを挿入しなければならずそのための手技上の合併症や管理中その他の合併症も多く,一般に行なえる方法ではない.一方1957年Greensteinらによつて開発されたchemically defined diets(成分栄養,elementaldiets)は化学的に限定された成分の分つた栄養分を経腸的に投与する方法で成分的にはIVHと似ている2-4).しかし経腸的投与のためIVHのように無菌的操作の必要性もなく手技的には非常に簡単で合併症も少ない.しかし本邦ではIVHのめざましい普及に比すれば成分栄養(以下EDと略す)はあまり行なわれていない.1977年に成分栄養研究会が発足し比較的関心が高まりつつあり少数の施設では臨床応用を行なつている5).また最近千葉大2外科を中心とした研究グループが「ED-AC」なる製品を開発し治験段階である6).われわれは1977年12月よりわれわれ独自の方法で処方したEDを作成し臨床応用を試みた.

臨床報告

直腸癌手術時に発見された空腸クローン病の1例

著者: 伊藤誠司 ,   村上哲之 ,   原田正夫 ,   唐牛忍 ,   森田隆幸 ,   今充

ページ範囲:P.555 - P.559

はじめに
 最近,われわれは無症状に経過し,直腸癌手術時に偶然発見された空腸クローン病の1例を経験したのでクローン病と癌の併存,クローン病の癌化などに関して若干の文献的考察を加えて報告する.

緊急手術で救命しえた特発性血気胸の1症例

著者: 岩崎一教 ,   高尾健 ,   西村正也

ページ範囲:P.561 - P.563

はじめに
 自然気胸という病態は,肺胸膜の破裂の結果起こる,一種の内開口気胸であり,若い男性に特別の誘因もなく突然発生し,時折出血を合併し,特発性血気胸を呈する事がある.
 今回われわれは,自然気胸に大量胸腔内出血を合併した特発性血気胸を緊急手術によつて治癒せしめた症例を経験したので報告する.

胃の腺癌と平滑筋肉腫の衝突腫瘍の1例

著者: 磯本徹 ,   佐野開三 ,   重本弘定 ,   遠藤正三郎 ,   堀谷喜公 ,   山本康久 ,   青山栄 ,   小堀迪夫

ページ範囲:P.565 - P.569

はじめに
 2つの悪性腫瘍が,胃においてほぼ同一時期に発生して衝突する,いわゆる胃衝突腫瘍は,重複腫瘍のうちでも特異な存在である.その中でも,癌腫と肉腫の衝突腫瘍の報告は極めて少なく,本邦において未だ11例を数えるにすぎない.最近われわれは,胃において腺癌が平滑筋肉腫を取り囲み,両腫瘍が衝突する,極めて奇異な形態を呈した胃衝突悪性腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋外内頸動脈瘤の1治験例および本邦報告例の検討

著者: 中山富太 ,   繩田泰生 ,   野並芳樹 ,   江里健輔 ,   八牧力雄 ,   藤原茂芳

ページ範囲:P.571 - P.577

はじめに
 頭蓋外の頸動脈瘤は稀な疾患で,本邦での報告例は40例余にすぎない.血管外科の進歩した現在でも,術中の頸動脈遮断による脳虚血が原因となる合併症の予防手段は必ずしも確立されていない.最近,われわれは原因不明の右内頸動脈瘤を低体温下に切除し,人工血管移植を行ない,治癒せしめたので報告し,併せて本邦報告例に対し考察を加えた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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