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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科34巻6号

1979年06月発行

雑誌目次

特集 これだけは知っておきたい手術の適応とタイミング—注意したい疾患45

食道アカラシア

著者: 平島毅

ページ範囲:P.783 - P.787

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 教室では長年にわたり食道アカラシアの成因,病態生理,診断及び治療について研究をすすめてきている.過去30年に教室の外来を訪れた本症患者は366例を数え,そのうち231例に各種の外科的治療を行なつている.本症の主要症状である通過障害は初発症状としてあり,外来を訪れるときは既に数年を経過している場合も多く,本症において外科的適応が難かしく,また手術のタイミングも内科医と論争のあるところである.ちなみに教室を訪れた本症の病悩期間をみると,366例のうち病悩期間1年未満のものは83例22.7%,1年以上5年未満は126例,34.4%さらに5年以上のもの149例40.7%,不詳8例2.2%となつている.このように初診時までの病悩期間が以外に長いことは本症の診断の困難性もあるが,本質的に一旦,通過障害が起きてもその後の経過が比較的緩慢な為でもあろう.
 本症の定義としては食道疾患研究会において統一的に定められた「下部食道接合部の弛緩不全による食物通過障害と食道の異常拡張がみられる機能的疾患」と考えるのがよく,本症の成因について種々の報告がみられるが,病理組織学的には食道の内在神経の変性の事実,中枢より末梢にまでの自律神経系の失調によるものと考えられている.ここで最も本質的な点は本症が機能的食道疾患であること,従つて手術などの機会を失すれば致命的な病変の進行状態となることの危惧はないことである.要は食事がなかなか胃に収まらないが,これによつて死亡するようなことがないことである.

逆流性食道炎

著者: 籏福哲彦

ページ範囲:P.789 - P.792

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 一口に逆流性食道炎といつても,その成因は極めて多岐にわたるため一律に論ずることは容易でない.逆流性食道炎の成因を強いて2つに分けるとすれば,疾患自体によるものと術後のそれに分けることができよう(表1).
 疾患自体によるものとしては滑脱型の食道裂孔ヘルニアが第一に挙げられる.本症の手術適応として,逆流症状や狭窄を中心とした自覚愁訴の強い場合,および他覚的検査で逆流が著明であり,かつ,食道ファイバーによつて高度の食道炎が認められる場合は文句なく手術の適応とされて然るべきであろう.

食道憩室

著者: 遠藤光夫

ページ範囲:P.793 - P.795

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 消化管憩室のなかで食道憩室は決して珍らしいものではないが,自覚症状がなく,何かの機会に行なつたX線検査で,たまたま発見されることが多い.急性炎症のある場合以外,内科的治療の適応となる疾患ではなく,外科治療の適応も,気道との瘻孔形成,強い憩室炎をみるもの以外では,その発生部位によつて,相対的に外科治療の適応が考えられている.
 食道憩室は,その発生部位からほぼ,
 a)咽頭食道憩室
 b)中部食道憩室(気管分岐部付近)
 c)横隔膜上憩室
の3種類に分けられるが,それぞれ少しずつちがつた発生状況もし,また相対的な外科的適応も異なつている.a),c)の成因は,圧出性の因子が強いとされ,一応手術の適応も考えられるが,b)は牽引性と考えられるものであつて,5年以上の経過を追求した報告でも殆んど増大もせず,合併症がなく,愁訴が余りみられない限り内科的に経過をみる場合が多い.

食道静脈瘤

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.797 - P.803

■早期に恒久的な止血手術を
 食道静脈瘤破裂による大量出血は門脈圧亢進症の致命的な合併症の一つであり,また原疾患の増悪因子となるので注意が必要である.したがつて食道静脈瘤出血に対しては直ちに何らかの止血処置が必要であり,さらに出血の再発を防ぐためにできるだけ早期に恒久的な止血手術が必要である.
 しかし,外科的治療はあくまで静脈瘤出血の対症的な治療であり,原疾患の根治療法とはなりえないので,止血手術の適応,術式の選択と手術のタイミングは,原疾患の病態と臨床経過などを十分に検討した上で慎重に決定する必要がある.

胃潰瘍

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.805 - P.809

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 衆知のように消化性潰瘍の1つである胃潰瘍は瘢痕を作りながら治癒し易いものであるが,一方大変再発を繰返し易いものでもある.
 近年,診断技術の著しい進歩により胃潰瘍と胃癌の鑑別が容易かつ確実となり,胃潰瘍を胃癌と思つて手術することは極めて稀となつて来た.そのため,治癒しても一たび再発のみられた胃潰瘍にはその後の経過の中でほとんど再々発を繰返すことが知られているにも拘らず,出血,穿孔,狭窄などという合併症のない限り内科側では手術を奨めないのが一般的傾向である.当然患者も合併症のない限り,よほどひどい症状の持続でもなければ手術を希望しない.
 内科的治療が長期に亘り施行されるようになつた結果,胃潰瘍の手術例数は20年前の1/2〜1/4に減少して来た.これは大変結構なことであるが,出血や穿孔のため運びこまれ緊急手術を施行しなければならない患者数はそう減少していない.極端な例であるが,再発潰瘍のため内科病棟に入院加療中,それまで潰瘍合併症をみたことがなかつたのに,急に穿孔し外科に転科,緊急手術をうけたという症例もある,ところで現在,他の疾患を合併していない限り,胃潰瘍で待期手術を行なつた場合の手術死亡はほとんどない.手術死亡が見られるとすれば緊急手術を必要としたり潰瘍合併症の起きたときである(もつとも緊急手術例だけに限つてみても手術死亡は2.0%以下という低率ではあるが).

—いま,内科では—内科からみた胃潰瘍

著者: 石森章

ページ範囲:P.809 - P.811

胃潰瘍の臨床的位置
 胃潰瘍は発生病理,病理形態,臨床的特徴などからみて十二指腸潰瘍と同様に消化性潰瘍に属し,胃液の強力な消化力が潰瘍病巣の経過すなわち発生,慢性化,再発に大きな影響を及ぼしているものと考えられる.しかし何れにおいても潰瘍病巣は限局性病変であり,単発であることが多く,したがつて潰瘍病巣の発生部位を決定する他の因子αの関与を考慮しなければならない.α因子は主として胃および隣接消化管粘膜の防御力を低下する各種の要因,例えばアスピリンによる粘膜障害あるいはストレスによる局所血管の痙攣にもとずく粘膜血流障害などに相当し,その結果胃液による組織侵襲が限局性に起こるものと考えられる.このように考えてくると,胃液分泌の如何は潰瘍病巣が発生しうる範囲すなわち環境をととのえる前提条件であると考えることができる.
 ところで胃潰瘍においては,潰瘍病巣は常時胃液の存在する胃腔内に発生するので,十二指腸潰瘍のように特に胃液分泌亢進を必要とすることはなく,事実症例によつては却つて胃液分泌低下の認められることも多い.このことは胃潰瘍においては発生病理上胃液の消化力に対してα因子の比重が極めて大きいことを示している.

胃ポリープ

著者: 中村卓次

ページ範囲:P.813 - P.817

■胃ポリープの治療が論議の対象になるのはなぜか
 胃ポリープが出血源となつたり,腹痛の原因となつたりすることで治療の対象となることは殆んどない.また最近では胃ポリープの胃癌の前駆病変としての立場は著しく低く評価されるようになり,この方面からの治療の必要性も限られたものとなつてきている.最近20年間のX線診断や内視鏡技術の進歩は多数の胃ポリープ症例に関する病理組織学的研究ならびに臨床経験を可能にした.胃ポリープの本態に関する認識とそれに関連した治療の考え方はこの期間の研究を通じてほぼ解決したかのようにも考えられる.それでもなお特集"治療に関し「注意すべき疾患」"の1つとして取上げられるのは何故であろうか.何がcontroversyとして残されているのであろうか.
 まず胃ポリープという疾患名の曖昧な所がその原因の1つと考えられる.我々は胃ポリープと聞いただけで直ちに1つのイメージが脳裏に浮ぶ.しかし厳密に説明を求められればその答えは必ずしも容易ではない.ポリープという用語は元来肉眼的形態に基づく名称であるにもかかわらず病理組織学的見解を除外しては成立しない.形状は"ポリープ様"ということで似ていても"根つからの癌"はポリープとは呼ばれない.また平滑筋腫などの非上皮性腫瘍は除外されているし,上皮性の腫瘍でも迷入膵はあくまで迷入膵であつてポリープの仲間入りはさせて貰つていない.こうした考え方は昔の誰かが,あるいは筆者が無理に定めたものでもない.筆者の研究も欧米の論文を読むことから始まつたが,Borrmann Konjetznyの頃から既にそのようになつていたし,その後のそれ程多くない欧米の胃ポリープに関する論文でもやはり同様に取扱われており,平滑筋腫や迷入膵が胃ポリープとして記載されているのを見ていない.

ストレス潰瘍

著者: 西村和夫

ページ範囲:P.819 - P.823

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 最近,重篤災害受傷の増加や,手術適応の拡大による過大手術侵襲後にストレス潰瘍がよく経験される.ストレス潰瘍の名称はHans Selye(1936)がはじめて医学の分野に用いた言葉であり,以来広く使われている.ストレス潰瘍の概念は,その発生機序が十分に解明されていない今日,正確に述べることは困難で,情操的ストレスから災害などによるストレスまで,雑多なストレスがあり,人により概念に多少の差があることは止むをえない.しかし,一般に,何らかの有害刺激(ストレス)が生体に加えられると,主として胃十二指腸に発生する急性潰瘍性病変と解釈されている.
 古くから脳疾患,脳手術後のCushing's ulcer熱傷後のCurling's ulcerはその代表例としてよく知られている.本症の特徴はいずれも胃十二指にエロジオン,潰瘍が急速に発生するので,心窩部痛,嘔吐,吐下血などの症状が急激に発症する.さらに多くは悪条件下で,速やかに診断し,速やかに適切な処置をする必要がある.臨床上ストレス潰瘍でもつとも問題となるのは大量吐下血と穿孔であるが,穿孔は発生数が少なく,また外科的処置のほかに救命処置がなく,いまさら述べる必要がないので,以下出血例について述べる.

—いま,内科では—ストレス潰瘍の治療

著者: 並木正義

ページ範囲:P.823 - P.825

精神的ストレスによる胃粘膜変化
 ストレス潰瘍といつても,内科と外科とでは取扱う対象が異なる.筆者らのように,各科における消化管出血例のすべての内視鏡検査を依頼されるところでは,いろいろなかたちのストレス潰瘍をみているが,一般に内科でよく遭遇するのは精神的要因に基づくストレス潰瘍である.これは外科で取扱われる手術侵襲によるストレス潰瘍とはいささか趣を異にするので,両者を同じものとして論ずるわけにはいかない.それはともかくここでは内科の立場から精神的ストレスによつて起こるストレス潰瘍を中心に述べることにする.
 精神的ストレスによつて起こる胃粘膜変化としては,①白苔を有する浅い急性の潰瘍性変化の多発するもの,②出血性エロジオンの多発するもの,③び漫性の粘膜出血だけをみるもの,の3つの基本的なタイプがあるほか,④これらが混在する例もある.①がヒトにみられる典型的なストレス潰瘍のかたちであり,②,③は潰瘍という表現は妥当でないと思われる変化であるが,一応これらも含めて潰瘍性変化としている.そしてこれらの変化は比較的短時日に消失するのも特徴的である.①の変化は多くの場合2〜3週くらいで消失する.少しく深い潰瘍では2カ月前後ということもあるが,むしろめずらしい.②のかたちは1週間以内に,また③などは1〜2日くらいで消失してしまうことが多い.問題となる出血(吐血・下血)にしても,精神的ストレスによるものでは,一般に比較的その量が少なく,輸血を必要としたのは252例中14例(5.5%)に過ぎない.したがつて,精神的要因によるストレス潰瘍においては,早まつて手術をしないことである.たとえすさまじい変化であつても,また一見悪性所見のように見えても(こういうことはよくある),それが精神的ストレスによると思われるときには,まず2週間経過をみるとよい.そうすればその潰瘍は良性の顔付を呈するようになる.

Mallory-Weiss症候群

著者: 渡部洋三 ,   宮城伸二

ページ範囲:P.827 - P.831

 ■なぜ内科治療とのControversyになるか Mallory-weiss症候群(以下M-W症候群)は,1929年病理学者のMalloryと内科医のWeiss1)によつて記載されたのが最初である.すなわち彼等は頻回の嘔気,嘔吐をくり返した後で大量吐血をきたした剖検例を詳細に検索し,4例に食道胃接合部から噴門部にかけて縦走する幅2〜3mm,長さ3〜20mmの数条のlacerationを認め,この部からの出血死として報告した.当時M-W症候群はきわめて稀な疾患と考えられ,その診断は剖検あるいは手術時に行なわれ,多くは救命し得ない疾患と考えられていた.しかし1955年Whiting & Baron2)が本症候群を術前に診断し,外科的に救命し得た最初の例を報告して以来M-W症候群に対する外科的治療の意義は増大した.このように術前診断が困難で,大部分の症例が緊急手術時あるいは剖検時に診断されていた当時,M-W症候群は大量出血→緊急手術という概念でとらえられていたとしても不思議ではない.
 その後Hardy3)が,M-W症候群を最初に内視鏡によつて診断して以来症例も増加し,ことにpanendoscopeによる緊急内視鏡検査の普及により,ここ数年の間に激増している.このように内視鏡検査によつて比較的容易に本症候群が診断されるようになつてからは,それまでチェックされなかつたような少量の出血のみで終る軽度のM-W症候群の占める割合が増加し,内科的治療で治癒する例も多くなつてきた.竹内4)が1977年に行なつたM-W症候群の全国集計によると,症例は216例で不明を除いた194例中,内科的治療を行なつたのは140例(72.2%)と約7割を占めている.またその死亡率は,内科的治療で11%,外科的治療で20%と外科的治療の方が高い死亡率である.外科的治療より低いとはいえ,内科的治療後の死亡率がかなりあることは,この中に手術適応例が含まれている可能性が大である.

十二指腸潰瘍

著者: 長尾房大 ,   青木照明

ページ範囲:P.833 - P.837

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 1.病因および病態生理の解明不十分
 消化性潰瘍,なかんずく十二指腸潰瘍の病因については,古くから,政撃因子としての酸・ペプシン分泌の神経性過剰が指摘され,防御因子としての粘膜抵抗の弱い"継ぎ目"に潰瘍発生をみることがいわれており,概念的には,その病因,病態は容易に理解され得ている.そして,それらの知見に立脚した理論的根拠にもとづいて各種減酸手術が外科治療に導入され,治療の実際においても極めて優秀な成績をあげている.しかし,こうした総括的概念において異論はあまりないとしても,個々の症例において,どこまで保存的に治療可能で,どのような病態を呈したら外科的に治療すべきか,保存的治療から外科的治療への移行点は極めてあいまいである.これは一重に,病因,病態生理の解明が未だ不十分で疾患自体のlife cycle起承転結の全貌が必ずしも明らかとされていないため,個々の症例での予後の予測が困難でいることによると思われる.

—いま,内科では—十二指腸潰瘍

著者: 西沢護

ページ範囲:P.837 - P.839

消化性潰瘍に対する外科と内科の論争点
 消化性潰瘍に対する外科と内科の論争点の最たるものは,長尾論文にも述べられているように手術適応の見解の相違にあるといつてよい.
 内科側は,症状がひどくならないと患者が手術をしたがらないという心情的なものを含めて,生命に危険がなく日常生活をいとなめるものなら,なるべく内科的に治療しようと思うし,外科側からみれば,手術予後の成績などから内科側の手術時期のおくれを不満とする.

Crohn病

著者: 白鳥常男

ページ範囲:P.841 - P.845

■手術のタイミングを中心に
 Crohn病について私どもも種々1,2)述べて来たが,今回は手術のタイミングに焦点を当て論ずることにする.したがつて,手術のタイミングを考えるに必要な手術適応,手術の方針,目的,手術術式の選択,術後再発,手術死亡率などにも触れて見る.
 手術適応を絶対適応と相対的適応とに分けて考えてみる.

—いま,内科では—Crohn病の治療

著者: 笹川力

ページ範囲:P.845 - P.847

1975年までのわが国におけるクローン病の治療と予後の実態
 1)治療の内訳 1975年までのわが国におけるクローン病確診例256例の治療は,表1のように内科的治療のみは36例(14%)で,219例(86%)は外科的治療をうけている.
 2)外科的治療選択の動機 その手術例の内訳をみると,表2のように緊急手術28例(13%),診断不明で(診断確認のため)手術したもの97例(44%),クローン病と診断のうえ手術して確認したもの75例(34%),クローン病と診断のうえ手術して他疾患であつたもの15例(7%)である.

Blind loop症候群

著者: 小山真 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.849 - P.856

 ■なぜ内科治療とのControversyになるか
 今日,いわゆるblind loop syndrome(以下BLSと略す)に関して2つのcontroversyが存在する.
 一つは臨床症状に関するもので,小腸内での異常な細菌の増殖による栄養障害のみを本症の病態とする立場と,これに対し後述するように本症の大部分を占めるsurgical BLSに多くみられる腹部症状も本症の主要症状とすべきであるとする意見がみられる.このような見解の相違が更に内科的治療法がよいか,外科的治療法かという第2のcontroversyを生ずる大きな理由となつているように思われる.

癒着性イレウス

著者: 脇坂順一 ,   溝手博義

ページ範囲:P.857 - P.862

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 イレウスとはいろんな原因によつて,腸管の内容が通過障害をきたした場合をいう.その症状として全身的症状のない腹痛,腹部膨満,排便・排ガスの杜絶,悪心,嘔吐などの腹部症状があげられる.本症は早期に適切な処置と治療を開始しなければその予後は極めて不良である.
 イレウスは衆知のように,機械的イレウスと機能的イレウスに分けられ,機械的イレウスの原因となるもののうちで最も頻度が高いのは術後の癒着性イレウスであり,イレウス全体の約半数を占めるようである.抗生剤や麻酔の進歩によつて,開腹術が安全となり,その症例数も増加しているが,これと平行して開腹術後の癒着性イレウスの症例も増加してきている.教室の統計1,2)でも,機械的イレウスのうち,先天性イレウス,腸重積症を除くと,その91.3%は開腹術後の癒着によるものであつた(表1).

ベーチェット病

著者: 馬場正三 ,   神谷隆

ページ範囲:P.863 - P.867

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 ベーチェット病は内科的にも外科的にもなお治療法の確立していない難治な疾患である.
 内科的治療の限界,手術すべき症例かどうかと言う適応の問題,手術時期の問題いずれを考えてみても未だ確立した定説を見ていない.

潰瘍性大腸炎

著者: 土屋周二

ページ範囲:P.869 - P.873

 ■なぜ内科治療とのControversyになるか
 潰瘍性大腸炎は保存的治療が原則で,一部の重症・難治例が手術の対象となる.その頻度は全症例の10〜20%程度である.手術は(1)救急または緊急(準救急)手術と,(2)待期手術があり,表1に示すようにおよその適応が定められている.救急・緊急手術は絶対適応とみなされ,全身状態が重篤なものに施行される場合が多い.すなわち,感染,貧血,低蛋白血症,ステロイド剤長期連用後状態などの不利な条件を備えているものが多く,これに大腸全摘出術などが行なわれるため,時期を失すると手術死亡が少なくなかつた.このことはまた内科側が大腸全摘出術や人工肛門造設が行なわれることをためらい,効果がないのに内科治療に固執し,全身状態が極度に悪化してはじめて最後的手段として,止むなく外科へ転送する傾向があつたことも一因となつていた.これはまた,手術成績をますます悪くする結果を生み,外科側は手術時期の遅延を内科の責に帰し,内科側は手術の効果を信じないということにもなつた.しかし,近年,本症全般に対する治療法が進み,内外両科の連繋も緊密となつて来たので,保存的治療の限界を超える重症例の早期手術の必要性についての両科の間のcontroversyは余りなくなつて来た.さらに治療の進歩により,救急手術が必要となるまで重篤化する症例も減少して来たようである.
 待期手術は比較的適応であり,全または亜全大腸罹患型で症状著明,発作が持続または反復し,保存療法の効果の少ないものが対象となり,全身または局所の著明な合併症のあるもの,発育遅延を示す小児症例などもこれに入る.このような症例に対し,患者の一生について将来を予見し,必要ならば早く手術した方が得策であり,とくにこれに危険がなく,人工肛門が必要でないものが多いのであれば,外科側は手術を積極的にすすめたい所である.しかし,保存的治療を合理的に行なえば,かなり重症でも何とか日常生活が送れるようになるものもあり,根治性があるからといつて性急に手術にふみきれない場合も多い.とくに人工肛門が必須となると手術を躊躇する患者や内科医が多い.一方,本症は良性疾患で,気長に合理的に保存的治療を続ければ社会復帰のできる症例が多いとはいえ,一部には手術の効果が大きく患者に大きな利益を与える場合があるのは事実である.このような症例をえらび,外科側も長期的見通しをたてつつ,機能保持と疾患の治癒という両面をなるべく満足させるような手術を,よい時期に,周到な準備のもとに行なうべきである.

—いま,内科では—潰瘍性大腸炎の治療

著者: 吉田豊

ページ範囲:P.873 - P.874

内科医は外科的な,外科医は内科的視野を
 潰瘍性大腸炎の患者を診る場合,内科医はもつと外科的な視野で,外科医はもつと内科的な診かたで,とまず強調したい.本症はもともと内科と外科の境界領域の疾患であつて,とくに重症型では内科医と外科医が一緒になつて経過をみるのが望ましいのである.内科医は,今日の進歩した内科療法をもつてしてなお10〜20%は手術適応であり,とくに全大腸重症型では少なくとも50%は手術を余儀なくされる事実を認識しなければならないし,逆に外科医は80%以上の症例は内科医に十分コントロールされるものであり,治療の原則はなお内科療法にあることを知る必要があろう.かくして,内科で治療が長過ぎたために手術のタイミングを失したとか,手術の適応を広げすぎたといつたことがきかれなくなることと思う.以下,手術適応と手術のタイミングについて内科医としての私見を述べてみたい.

大腸憩室症

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.875 - P.879

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 元来,大腸憩室症は,無症状の場合は治療の対象とならず,症状がある場合でも,内科治療が主役で,手術適応は,合併症を起こした場合,および,癌との鑑別が難かしい場合にのみ生ずるとされてきた.しかし,その後,憩室炎が反復して生ずる場合は,その間歇期に手術した方がよいという考えが現われ,現在はその考えが,かなり支配的になつてきた.その他に,憩室炎の過程の中で,進行したもので,合併症を未だ起こしていなくても,いつ起こすかわからぬといつた,いわば境界部に相当する時期があり,このときに,保存的治療を続けるべきか,外科手術に踏み切るべきか判断に迷う場合,またはその時期の治療に関して,医師にょり考えが違う場合などが生じてこよう.
 1.大腸憩室症のうちでも症状を起こすのはたかだか20%位とされ,そのうちでも最も多い症状は,軽い腹痛,下痢,便秘などを主とした,いわゆる過敏性大腸症候群と似た症状である.大腸憩室症が症状を起こすのは,憩室炎を起こすためであるというのが,従来の考え方だつたが,上述のような症状のものには,必ずしも炎症の所見の認められないものが多く含まれていることがわかつてきた1).炎症症状のはつきりしないようなものに対しては,手術適応はないということに関しては見解の違いは認められない.

大腸ポリープ,ポリポーシス

著者: 今充 ,   村上哲之 ,   大内清太

ページ範囲:P.881 - P.887

 ■大腸癌取扱い規約からみた大腸ポリープ,ポリポージス
 ポリープという用語は形態的な名称であつて,大腸癌取扱い規約1)(1977)でも,肉眼的に粘膜面に認められる限局性隆起の総称であつて,組織学的な性格を規定するものではないとしている.したがつてその質的診断はとくに大腸において,悪性化という問題を踏んまえ非常に重要なことは衆知のことである.
 またポリープとポリポーシスとの区別はポリープの数のうえからの検討を加えないわけにいかない.槙(1966)はadenomatous polypに関して単発性のものはポリープ,2個以上のものが比較的限局して存在する場合を多発性ポリープ(multiple polyps),広く結腸全体に発生しているものをびまん性ポリポーシス(diffuse polyposis)と呼称するのが妥当でないかと記しており,簡単で当を得ていると思われる.しかし大腸全体に発生する場合もその数が問題となり,ポリポーシスの場合,Buss-eyは約100個をその指標として取り上げ(図1),本邦における大腸癌取り扱い規約(前述)1)でも,大腸腺腫症を大腸に多数の腺腫が存在し,主として家族性に,時に非家族性にも発生すると述べ,多発性腺腫と腺腫症との区別は腺腫の個数をもつて明確にすることは必ずしも可能でないが,約100個を指標とすると記し,個数の上ではBusseyの意見をとり,宇都宮ら(1975)の全国集計の成績からも同じ結果を得ている.大腸の場合この数が非常に重要な意味をもつものであり,数が多いからということで同じく大腸ポリーポシスという診断は下し得ても100個以上の場合は遺伝性素因をもつた全く別の考えのもとに取り扱われなければならぬ疾病となるからである.

痔瘻・痔核

著者: 小金澤滋

ページ範囲:P.889 - P.896

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 痔瘻,痔核の発生する肛門管は,排便およびその機能の保持,気体・液体・半個体を識別して排泄するという,複雑にして精巧・微妙な機能を有する1).しかも現在なお未解決の問題の少なくない,言わば「夢の領域」なのである.従つて痔瘻・痔核の治療にあたり,局所解剖と生理を熟知し,デリケートな肛門機能をできるだけ損傷しないよう,目的にかなつた手術を選ぶようにしたいものである2,3)
 正しい治療はその病気の概念をしつかりと把握してこそ,初めて可能である4)

肝血管腫

著者: 葛西洋一

ページ範囲:P.897 - P.901

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 肝血管腫は肝の良性腫瘍のなかでは,もつとも一般的にみられる中胚葉起源の腫瘍であるが,組織学的構造の差異によつて,今日では,海綿状血管腫cavernous hemangioma,血管内皮腫he—mangioentlotheliomaおよび毛細管性血管腫ca—pillary hemangiomaなどに分類5)される.肝にもつともふつうにみられるのは海綿状血管腫であるが,新生児,乳児では血管内皮腫が多いのが特長である.
 本症は元来が良性疾患であり,また放射線に感受性がたかく,切除不能な肝血管腫も放射線療法によつて1/6に縮小させることができるというRay8)の報告以来,外科的治療に疑問をもたれる面もある.

肝内結石症

著者: 菅原克彦 ,   河野信博

ページ範囲:P.903 - P.908

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 肝内胆石症(以下本症と略)は肝の内外の胆管の形態異常が原因して胆汁が円滑に消化管内に排泄されないために胆管に胆汁がうつ滞し,大腸菌を主とする感染症が加わり誘因となつて次第に発症して行く.もちろん胆汁異常dyscholiaも原因としてあり得ると思われる.本症は各施設により病型が分類されているが,教室では胆石の大部分が肝内胆管に存在しているものを甲型とし,胆石が主として肝外胆管に存在するものを乙型とした.胆石はビリルビン系石が大部分である.ある病期の本症の症状は上腹部痛,発熱,黄疽などが主であるが特徴的なものはない.
 本症の保存的治療は現在の治療技術ではその病態からみてきわめて困難である.

急性胆嚢炎

著者: 中山文夫

ページ範囲:P.909 - P.911

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 急性胆嚢炎は,胆石症に起因するものが殆んどを占め,胆嚢頸部ないしは胆嚢管に結石が嵌頓すれば,胆汁うつ滞,胆嚢内圧の亢進により,胆嚢壁の血流は障害され,胆汁中の胆汁酸,レシチンの分解産物であるリゾレシチン等の刺激により,最初は化学性炎症をきたし次いで,細菌感染が加わって,発症する.85パーセントの例で胆石は自然に移動し病状は寛解するのが普通である.しかしながら,次第に進行すれば,次の合併症を起こす(図1).

胆石症

著者: 佐藤寿雄 ,   高橋渉

ページ範囲:P.913 - P.916

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 胆石症の内科的治療の目標は,胆石の安全確実な排出または溶解と生成の予防につきるが,このような方法は未だ確立されていない.近年,cheno—deoxycholic acidまたは,ursodeoxycholic acidの優れた胆石溶解効果が確認され,コ系石の経口溶解剤に曙光をみいだしつつある.近い将来,より有効な薬剤の出現に希望をあたえるものではあるが,現段階でその恩恵をうける症例は全胆石症の10%(せいぜい20%)とされている.したがつて,胆石症の根治療法は,今日でもなお,理論的には外科的療法が主体であることに変わりはないものと考えている.
 しかし,実際に手術適応を考えるとなると内科側と外科側には若干,見解の相違がみられる.内科側で手術に否定的な立場にたつものは,かつては手術死亡率も高く,また,胆摘後困難症のような術後障害も多く,外科手術に対する危惧の念が依然強く,症状のない胆石症が将来発症する頻度はそれほど高くないとしている.一方,外科側は急性期の手術成績は間歇期にくらべて悪いこと,無症状であつたものが急激に重篤な急性胆のう炎を発症することがあり,とくに高齢者でこの傾向が著しいこと,などを理由に積極的に手術適応を考えている.

—いま,内科では—胆石症

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.916 - P.917

 胆石症の診療にあたつては,つねに手術適応の問題を考え,手術の場合の障害となる因子を,可及的少なくするよう努めねばならない.したがつて,外科の立場から記載された佐藤寿雄教授らのご意見に原則的に賛成である.
 ただ,問題は,silent stoneあるいは症状のきわめて軽い胆嚢内コレステロール系石で,胆嚢,胆石の状態も良好な症例についても,40〜69歳であればすべて積極的に手術をするべきかどうかという点にしぼられよう.これは,生涯silent stoneのまま経過する例も50〜60%にありうること,胆石の自然消失例が7%程度はありうること,さらにまた胆石溶解剤の効果が検討されていることなどについて,どのような評価を下すのかと関連している.これらが手術適応の方針に関して意見の相違がみられる問題点でもある.

急性膵炎

著者: 宮崎逸夫 ,   小西孝司

ページ範囲:P.919 - P.923

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 急性膵炎の本態は活性trypsinをtriggerとする一連のchemical autolytic processによる膵の組織破壊である.かくして一旦,膵炎が初発すると,trypsin,lipase,phospholipase A,lysole—cithin,kallikrein,bradykinin,elastase,plasminなどの各種のtoxicな物質が血中に逸脱し,他臓器を障害し,一層重篤な症状へと進展させる.従つて,その臨床経過,臨床症状,臨床検査所見は極めて多彩となるが,これら症状や所見と膵の組織的所見との間には必ずしも平行せず,古来,各病態に応じた各種の治療法が提唱されている所以でもある.
 膵炎の治療の歴史的変遷をみ顧るに,1940年頃までは,膵被膜切開,膵実質切開およびドレナージなどの積極的な早期手術が行なわれていた.しかし,高い死亡率のため1950年以降は,膵外分泌抑制剤,膵酵素活性抑制剤,輸液,抗生剤の投与を主体とした保存的治療が推奨されてきた.ところが,麻酔の進歩や術後の患者管理の進歩が著しくなつた昨今では,積極的保存療法で改善の兆しが見られない症例に対しては,むしろ早期の外科的療法の必要なことが再認識されるようになつて来た.

—いま,内科では—急性膵炎の内科治療の実際と手術適応

著者: 石井兼央

ページ範囲:P.923 - P.924

 上腹部激痛,悪心,嘔吐を訴える患者を診てまず注意することはショック症状の有無である.ショック状態であれば血液生化学(肝機能,腎機能,電解質,血清アミラーゼ),末梢血(白血球,赤血球,ヘマトクリット)の検査のための採血をし,輸液(リンゲル液,生理食塩水,ラクトリンゲル液など1日500〜1000ml点滴静法)を行ない,強心剤,昇圧剤,呼吸賦活剤を加える.輸液量が多いと膵浮腫を助長するおそれがあるので1日1lくらいにとどめる.貧血が著明であれば輸血(1日約200ml)にする.同時に鼻孔ゾンデによる胃液吸引を行なう.鎮痛剤として塩酸ペチジン(1回25〜50mg静法)を投与する.硫酸アトロピン(1回0.5mg皮法)を併用すると膵液分泌抑制と鎮痛効果の増強が期待できる.モルヒネ剤はOddi活約筋を収縮させる作用があるので悪心,嘔吐を起こしやすく膵病変を悪化させるので禁忌である.またモルヒネ剤を投与すると約3割の頻度で血清アミラーゼ高値をきたすので最初にモルヒネ剤を投与し血清アミラーゼの測定を行なうことは避けるべきである.やむをえずモルヒネ剤を投与するときはオピアト,オピスコを用いるか,硫酸アトロピンを併用する.疼痛が中等度であれば合成鎮痛鎮痙剤(1日4〜6回皮注)でよいだろう.二次感染を防ぐために広範囲抗菌スペクトルの抗生物質の静注も行なう.以上の保存療法に加えて抗トリプシン,抗カリクレン作用を有するトラジロールやFOYなどの抗酵素療法を行なうことも治療効果を向上させることが多い.FOYは最近開発された分子量約417の合成蛋白分解酵素阻害剤である(1日200〜300mg点滴静注に加える).

慢性膵炎

著者: 土屋凉一 ,   西村柳介

ページ範囲:P.925 - P.929

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 慢性膵炎の本態である膵の線維化は不可逆性であつて,如何なる治療によつてもそれを消失させ,元の健康な膵組織に戻すことはできないと考えられている.それゆえ慢性膵炎の保存的治療はそれを根治させるのが目的ではなく,腹痛や下痢など慢性膵炎の愁訴をできるだけ軽減させようとする対症的性格のものである.具体的には,アルコールの禁止や脂肪の制限などの食事療法,腹痛に対する鎮痛剤の投与,外分泌機能低下による消化不良に対して消炎酵素の投与,糖尿病のコントロールなどである.
 一方,慢性膵炎に対する外科的治療ももつぱら慢性膵炎の最大の愁訴である疼痛の寛解が大きな目的とされており,手術の遠隔成績も疼痛の寛解を一つの指標として論じられることが多い.しかし外科手術によつて常に疼痛の寛解が得られるとは限らないことは,諸家の手術成績をみても明らかであるので,手術の効果に確信をもてない場合も少なくない.また慢性膵炎は本質的には良性疾患であり,膵癌とか他の合併症を伴う特殊な場合は別として,一般的には手術の絶対的適応であるというよりは相対的適応となる疾患と言えよう.

—いま,内科では—慢性膵炎の治療

著者: 中澤三郎

ページ範囲:P.929 - P.930

 慢性膵炎は膵の外分泌機能の低下とともに間質結合織の増生を主体とする疾患で,一旦病態が確立されると原因あるいは増悪因子を除去しても,なお,進行すると考えられ,遂には膵の石灰化,膵機能の荒廃がおこる厄介な疾患である.本疾患は急性増悪を反復する再発性慢性膵炎と慢性に経過する慢性膵炎とに分けられるが,その間,膵嚢胞,胆道狭窄,黄疽や内分泌障害などの諸症状が発生してくるので各々に対して適切な処置が必要である.その臨床症状も嘔気,食欲不振,下痢,るいそう,その他多彩であるが,しかし,何といつても中心となるものは疼痛である.疼痛には上腹部痛や背部痛などがあるが,その程度もほとんど無症状のもの,軽度のものから頑固に持続し社会活動が困難なものまで様々である,従つて,内科的療法にしても疼痛に対する治療が根本であり,特殊な場合を除いては外科的手術療法との関連においてもこの疼痛対策が問題となる.
 本疾患の治療は本来,内科的治療が原則であり,まず膵障害の原因および増悪因子を除くことが必要である.主要なものにはアルコール,胆石などがあるが,中でもアルコールは最も重要で大酒家が過半数を占めており,経過不良例の半数も飲酒が原因であることから禁酒は不可欠の処置である.また,胆石による膵炎は,程度も軽く予後も良好であるが,膵炎発現に直接関係するので除去する必要がある.

膵嚢胞

著者: 水本龍二 ,   五島博道

ページ範囲:P.931 - P.934

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 膵臓嚢胞1)は組織学的に嚢胞内面が上皮細胞によつて被われているか否かによつて,真性嚢胞と仮性嚢胞の2種に大別され,さらにその原因を考慮して次のごとく分類される.
 1.仮性嚢胞:炎症性,外傷性,特発性,腫瘍や寄生虫によるもの.

インスリノーマ

著者: 伊藤漸

ページ範囲:P.935 - P.938

■診断が確定すればすぐに外科治療を
 insulinomaはその診断が確定すれば手術的にinsulin分泌腫瘍を摘出する以外には適切な治療法はないので,本症を内科的に治療することは病状を悪化させるだけである.従つて,内科治療とのcontroversyは起こり得ない.それ故,insulinomaの項に限り,本症の診断,外科治療の特殊性などを重点的に解説する.

腹壁瘢痕ヘルニア

著者: 村上治朗

ページ範囲:P.939 - P.943

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 私は,本症は,一般的手術適応を厳密にすれば内科とのcontroversyを問題にする程のことのない疾患と考える.発生を発見次第,早期に根治手術をすべきと信じる.

結節性甲状腺腫

著者: 伊藤國彦

ページ範囲:P.945 - P.948

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 結節性甲状腺腫はとかく用語的に混乱がある.本来はびまん性甲状腺腫に対する甲状腺腫の所見の名称である.すなわち甲状腺の腫瘍性の疾患を総称したものと考えるべきである.さて内科治療とのcontroversyになる結節性甲状腺腫瘍は当然良性疾患である.ところが甲状腺の腫瘍性疾患ではしばしば術前診断が手術時診断や組織診断と相違するので,結節性甲状腺腫を呈する疾患全般にわたつてみることが必要である.
 甲状腺の腫瘍性疾患を分類すると表1のようになる.この中で腺腫様甲状腺腫は真の腫瘍ではなくて過形成であるが,腫瘍との鑑別は困難である.

下肢静脈血栓症

著者: 阪口周吉

ページ範囲:P.949 - P.953

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 下肢静脈血栓症に対し,今日なお,原則的に
 (1)血栓摘除術を行なう
 (2)抗凝固剤,線溶療法を含む保存療法を行なう,の2つの意見がある.まずその各々の根拠を明らかにすると

下肢閉塞性動脈疾患

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.955 - P.958

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 四肢の閉塞性動脈疾患について手術適応とタイミングを論ずる場合,急性閉塞と慢性閉塞とに分けて考えなければならない.
 急性閉塞は症状も激烈で急速に発現し,放置しておくと肢の機能障害を生じたり,壊死をきたして肢喪失の原因となる.したがつて,急性動脈閉塞が疑われる場合には早期に診断を確定し,可能であれば速かに血行再建手術を行なうべきである.

バセドウ病

著者: 岩浅武彦 ,   降旗力男

ページ範囲:P.959 - P.962

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 今日バセドウ病の治療法は抗甲状腺剤による内科的治療,131I治療,そして外科的治療があるが,いずれの治療法にも長所,短所があつて治療法の選択についてはいまだ一定の基準がない.本稿は主に内科的治療と比較した外科的治療の特徴と,手術適応について述べる.
 抗甲状腺剤治療は,薬剤の投与量の調節により不可逆的な機能低下を招かず,入院の必要もなく手軽に治療できるなどの大きな長所をもつている.しかし,抗甲状腺剤治療では一時的な寛解は得られるが治癒に至る効果が不確実で,永久的な治癒率は大体30〜40%とされている.また,一定期間治療を行なつて投薬を中止した場合,果して治癒するかどうかを予測することが困難である.このように,バセドウ病の内科的治療は抗甲状腺剤の投与中止時期の決定が難かしく,投与さえつづけていれば寛解が得られるため,つい漫然と投薬をつづけることになりがちである.

腹部大動脈瘤

著者: 多田祐輔 ,   和田達雄

ページ範囲:P.963 - P.967

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 腹部大動脈瘤に限らず,どの部位の動脈瘤でも,内科治療によつて,退縮したり,治癒することはあり得ず,従つて動脈瘤は純粋に外科的疾患といえる.ただ内科領域と対立して常に問題となる点は,腹部大動脈瘤の大部分が動脈硬化によるもので,多くの場合,他の部位の合併動脈硬化症を潜在的,あるいは顕在的に持つていることである.即ち,腹部大動脈瘤が全身動脈硬化症の一分症であり,これに対する外科治療そのものが,いわば姑息的な手段に過ぎない.従つて,他に死因として重要な合併症を共存するにもかかわらず,あえて危険を冒して破裂に頻してもいない動脈瘤に手をつけることはないではないかという意見である.このため,内科医は一般的に動脈瘤の手術に対して消極的であり,高血圧や合併動脈硬化症の治療の過程で,動脈瘤が破裂したり,急に増大したり,動脈瘤による種々の症状が出現した段階で,はじめて外科に送る場合が通例である.一方外科側は,腹部大動脈瘤の種々の状況により,破裂の可能性が異なることは多くの統計的検討によつて明らかではあるとしながら,なおどのような動脈瘤でも破裂に至る可能性があり,個々の症例で,この点を確実に予測し難いため,たとえ全身動脈硬化症の一分症であつても,重要な死因の一つとしてこれを除去するというのが原則的な立場である.
 もちろん,個々の症例の手術適応については,合併疾患の重篤度と手術の危険度との関連などによつて,様々に修正されるのは当然のことである,つまり,すべての腹部大動脈瘤が外科治療の対象として内科側から容認されるためには,なお外科側として解決すべきいくつかの点が残されている.即ち①手術直接死亡が,動脈瘤の破裂頻度に比して著しく低いこと,②手術によつて,既に存在する合併動脈硬化症を増悪させることがないこと,③手術に伴う晩期合併症の発生頻度が個々の症例で見込まれる破裂頻度に比して著しく低いこと,④遠隔成績からみて,手術による延命効果が明らかであること,などである.

脾腫と摘脾

著者: 高橋豊

ページ範囲:P.969 - P.975

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 脾臓の機能について,今日においていまだ知識のおよばない所が残されているにもかかわらず,脾臓は生命の維持に不可欠の臓器ではないとみなされがちであつたために,かなりの摘脾に関する経験の累積があつて,この経験的事実から摘脾の是非が論ぜられる部分が多いようである.摘脾は,急迫した苦悩があつてこれを取り除く目的で行なわれる場合はむしろ少ない.それだけに,術前においてなされる病態の把握と術効果の予測の正確さが要求されるわけであるが,このあたりにまず患者と医療側との間に認識の相違を生じるだけでなく,医療側間にcontroversyを生じる所があるように思われる.脾臓はいうまでもなく重要な造血臓器の一つであるので,摘脾の適応に血液学的観点が占める比重が大きい.以下の記述も主にこのような観点に立つ事をあらかじめお断りしておく.摘脾の適応を血液疾患に限定しても多岐にわたるため一括して記述する事は困難であるので,以下のように大別し,代表的疾患に限定して記述する.
 摘脾の適応は以下に整理されよう.

上皮小体機能亢進症

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男

ページ範囲:P.977 - P.980

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 上皮小体機能亢進症は,大きく原発性と続発性とに分けられる.3次性という分類もあるが,広い意味では続発性に含まれる.従来は,いずれも比較的稀な疾患と考えられており,その治療方針が論議されることはほとんどなかつた.しかし,最近10年間にそうした考え方が急速に変つてきた.
 まず,原発性上皮小体機能亢進症については,これまで全身の骨病変や繰り返し起こる腎結石などの典型的な臨床症状を有する患者でしか本症の診断がつかず,こうした患者では病的上皮小体を摘除する以外に治療法はないので,手術適応の問題点が存在する余地はなかつた.しかし,今日では,血清Ca値上昇の面から本症の患者が発見されるようになり,その頻度は一躍上昇してきた.これらの中には骨病変や腎結石を有する典型例が少なからず含まれるが,そのどちらの病変も有しないいわゆる不顕性型(生化学型)のものもかなり多くある.不顕性型とよぶものの中には,特異な高Ca血症状を有するものと,それもない全く無症状群の両者がある.この不顕性型にしても,他の型の原発性上皮小体機能亢進症と同様に手術以外に根治的療法はないが,ただその自然経過がまだよく判明していないので,手術適応の決定規準をどうするかが問題となつている.

腹腔内膿瘍

著者: 秋田八年 ,   丸古臣苗

ページ範囲:P.981 - P.984

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 横隔膜下腔よりDouglas窩腔に至る腹腔内で,種々の病因により発した化膿性腹膜炎が,次に述べる要因により限局し貯溜した滲出液が自然にまたは人工的に管腔か外表に誘導される道がなく,膿瘍化した状態が腹腔内膿瘍といえる.

心筋梗塞

著者: 鈴木章夫

ページ範囲:P.985 - P.991

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 心筋梗塞の外科で最も論争の焦点となるのは陳旧性心筋梗塞よりも,むしろ急性期の心筋梗塞の外科であろう,これに関して,内科との間に意見のくいちがいがあるのはまず第一に急性期における心筋梗塞の外科治療の手術死亡率が現在までの所高い事である.手術死亡がなく,外科治療によつて冠血行を再建し,虚血の範囲をちぢめ,左室機能の悪化を防止できるならば,急性期の心筋梗塞の外科治療に対して誰も反対するものはない筈である.しかしながら,内科治療をいかに強力に続けても反応を示さない心筋梗塞もある.その多くの場合には広範性の心筋梗塞であり,特にan—terolateralの心筋梗塞である.これらの広範な前側壁の心筋梗塞は,いかに完備したCCUに入院したと言えども,その死亡率は58%に達すると言われている.また心筋梗塞を起こして更にショック症状を呈するものは,その死亡率は80〜90%に達する.従つて,これらの内科治療に反応しない心原性ショックを呈する例,あるいは,内科治療に頑固に低抗する不整脈を呈するものは手術によつて救命する以外に方法はなく,このような患者が外科にまわり手術死亡率も高くなるのはある程度やむを得ないことである.第二に内科側のもうひとつの反論は,遠隔成績についてである.すなわち,急性心筋梗塞患者を内科的に治療した群と,外科的に治療した群とを比較して見ると,その遠隔成績または年間平均死亡率では両者にその差があまり認められないというような報告がみられることである.しかしながらこれは非常に細かな1〜2mmの直径を有する血管をあつかう外科であり.十分な設備とすぐれた外科チームと,更に十分な診断をくだし,選択的冠状動脈造影を一定の時間内に施行しうる内科チーム,更に麻酔,ICU.CCU.の多大の協力なくしては良い成績をだす事は不可能に近い.これらの条件を満している施設は数少なく,従つて,各施設によつて,その成績はまちまちであり,これを一概に統計上の成績ももつて全般を論ずるのは当を得ていないと考えられる.いかに,内科側の急性心筋梗塞治療が進歩したとは言え,今だ多くの心筋梗塞患者が事実CCUに於て死亡しているのである.いつも著者が言うように,ひとつの疾患に対して最高の治療法はひとつであり,内科的に治療すべきものは内科的に,外科的に治療すべきものは外科的に治療すべきである.従つて,内科側と外科側がお互いに協力してその適応を決め正確な手術をほどこし,完壁な術後管理を行なうならば,これらの手術死亡をmi-nimumにする事ができ,また遠隔成績をも向上させ更には左室機能の改善をも伴い,心筋梗塞後,外科治療によつて,患者の社会復帰は完全となり,社会的損失も少なくなるものと考えられる.

—いま,内科では—心筋梗塞症の治療

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.991 - P.992

はじめに
 心筋梗塞症の内科治療を論じる場合に急性心筋梗塞症と陳旧性心筋梗塞症に分けて論じる必要がある.

胸部大動脈瘤

著者: 和田寿郎 ,   橋本明政 ,   上原吉三郎

ページ範囲:P.993 - P.998

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 胸部大動脈瘤(解離性を含めて)の死因には,破裂による大出血や心タンポナーデ,大動脈弁閉鎖不全合併による進行性心不全,大きな分枝血管の閉塞による重要臓器の梗塞などがある.
 このような危険が切迫した時,薬物では治療できず,かつ致死的なので,早急な手術が絶対的適応である.

自然気胸

著者: 益田貞彦

ページ範囲:P.999 - P.1002

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 治療対象の大部分は,肺尖部や肺門部より離れた胸膜下にできる限局性の気腫性嚢胞(ブレブ,ブラ)の破綻によつて発生する若年型の自然気胸である.これらは開胸によつて明らかな穿孔が,多数例の嚢胞に確認されている.一方,肺に既存の呼吸器疾患を有し,患側に気胸の発生するものを続発性気胸としているが,これらは高年層に多く,全気胸例のほぼ10%にあたる,今までに肉芽腫性疾患(結核,Sarcoidosis,Histiocytosis X),肺気腫,肺癌,転移性肺腫瘍,蜂巣肺(肺線維症,過誤腫性肺脈管筋腫症,Marfan症候群),肺硬塞,肺炎などに伴つた症例が報告されている.しかしこの場合,直接原疾患が肺を破綻するのか,原疾患によつて生じた気腫病変によるのか,併存している気腫病変の破綻によるのか不明である.例えば,肺癌開胸例の多くに観察される如く,癌に近接して気腫病変が存在する場合と,全く癌とは独立した気腫病変が存在する場合とがあるからである,さらに近年注目されている気胸に,横隔膜や肺に子宮内膜症を有する月経随伴性気胸(catame—nial pneumothorax)がある.これは通常右側に発症し,横隔膜に多数の裂孔を生じている疾患である.以上の症例を対象としてその治療を考えて行くが,主として大多数を占める若年型の自然気胸を中心にまとめてみる.
 気胸の治療の基本は,保存的にしろ外科的にしろ,肺を膨張させて再発を防止することであり,穿孔部位の修復と胸膜間に癒着をおこさせることはいずれにも共通した方針である.最近の治療方針は入院治療を原則としている.虚脱の程度によるが,first choiceは穿刺脱気もしくは胸腔ドレナージ後にHeimlich flutter valveを装着させている.胸水貯溜例には水封式ドレナージを行なう.これらの方法で膨張が得られない場合に低圧持続吸引を追加しているが,膨張したところで再び水封式に変え,再虚脱するかを見たり,適宜交互に使い分けている,しかしこれらの脱気療法は,いずれも肺の再膨張を計るにすぎず,直接穿孔部位を修復するのではなく,短時間内におこる自家修復機転に期待しているにすぎない.従ってこの疾患の特徴である再発を防止することはできない.初回吸引療法後の再発率は30%であり,再発回数を増すごとに同じ方法で治療を続けると,ほぼ50%が再発を繰返す結果を得ている.このことを逆に考えれば,保存療法でも約半数が治癒するということであり,さらに40歳を境に発病が減ること,小さな病巣の割に開胸という大きな侵襲を加えることなどの点が論争を起こす所以である.そこで次段階として胸膜の癒着を意図して,タルク溶液,ブロンカスマ・ベルナ,自家血,高張糖液などの注入療法が考えられるが,この方法でも試みた症例の20〜30%に再発を見ている.最も一般的に行なわれているタルク溶液注入では,発熱,胸痛,肉芽腫形成に加えて,最近,肋膜中皮腫が発生したという報告があり,やむを得ぬ症例を除いて積極的な注入療法にも限界を感じている.

—いま,内科では—自然気胸の治療

著者: 田村昌士

ページ範囲:P.1002 - P.1003

内科医の一般的考え方
 自然気胸は他に重篤な合併症がない限り,元来必ずしも死に至る病ではない.したがって内科医はできれば外科的侵襲を加えずに,安静,穿刺脱気,胸腔ドレナージ,胸膜刺激剤注入などの保存的療法をまず考えるだろう.これは大方の内科医が考えることだろうし,患者自身の願望にも沿うことにもなる.しかし現実にはどうしても内科的な保存的治療では満足すべき結果をもたらさない症例があることも事実である.自然気胸に対し外科的治療を行なうべきか否かについて内科医と外科医の考え方が必ずしも一致しないことがある,それでは内科医と外科医の考え方の接点はどのへんにあるだろうか,少なくとも本症に対する根治的手術の絶対的適応もしくは禁忌に関しては両者に意見の差があろう筈がない.そこで両者に意見の差があるとすれば,手術の相対的適応ということになろう.相対的適応を考える際,自然気胸の臨床像を十分把握する必要がある.たとえば発症年齢の分布が2峰性を示すこと,左右の発症時点に差があるにしろ両側発症が比較的多いこと,(自験例で24.3%)若年期と老年期で発症原因に差があることなどが本症を治療する時の重要な問題を含んでいる.
 ここでは,主として外科的治療の適応を中心に内科側から考えをのべてみたい.

巨大肺嚢胞症

著者: 川上稔 ,   仲田祐

ページ範囲:P.1004 - P.1008

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 巨大肺嚢胞症の定義,分類,成因については,現在,見解が統一されていない.ここでは本症を,成因,基礎疾患に関係なく,check valve mech—anismあるいは不明の原因によつて腫大した含気性の嚢胞が1側胞腔の3分の1以上を占め,隣接肺組織を圧排,萎縮させ,時にはこのために呼吸障害を起こすこともある病態をさすことにする.巨大肺嚢胞症をこのように定義すると,本症はほぼ全年齢層に分布し,乳児の時期に見られる先天性肺嚢胞,小児,成人の肺感染後の巨大肺嚢胞,壮年,老年の嚢胞性肺気腫はいずれも本症に発展しうる,成因がどうであれ本症には,①壁の破裂による気胸,②肺組織が圧迫されて起こる低肺機能あるいは呼吸不全,③嚢胞内の感染,出血,④嚢胞内感染より波及する胸膜炎,肺炎などの合併症の可能性が絶えず潜んでいることを前置きとし,以下,他科との問題点に触れる.
 まず小児科との場合,稀とはいえ,乳幼時の先天性肺嚢胞(congenital air cyst of the lung)がある.一側胸腔の大部分を占め,呼吸困難のために,生後3週で左肺の摘除が行なわれた報告もある1).症状は原因不明の呼吸困難,チアノーゼを呈し,病側胸郭が打診上極度の鼓音を呈し,呼吸音が消失,心および縦隔が対側に押しやられ,自然気胸と誤まつて外科に廻されたり,時には横隔膜ヘリニア,気管支異物によ無気肺,先天性閉塞性肺葉性肺腫(congenital obstructive lobar emphysema)との鑑別が困難で悩される.

重症筋無力症

著者: 石川創二

ページ範囲:P.1009 - P.1013

■なぜ内科治療とのControversyになるか まず,重症筋無力症という疾患は,反復する運動,あるいは動作によつて筋力が低下し,著しい疲労が現れ,休息すると筋力が回復するという特徴がある.このmechanismについては,神経筋接合部の刺激伝導障害と理解されており,presynaptic regionに,impulseが伝わる際に遊離するacetylcholineが,acetylcholinesteraseによつて分解されて,postsynaptic regionに正しく伝わらないためと考えられている.最近のFambrough1)らの研究では,synaptic regionに存在するacetylcholine receptorの減少も本疾患の重要なfactorであるといわれる.しかし,その本態は未だ明らかでなく,現在本症の病因として,基本的には,自己免疫の関与によつて起こる自己免疫疾患であることは確実であるが,本症の治療に当つて,次の5つの項目の関与も見逃すことの出来ない重要な事項である.即ち,
 (1)胸腺腫の合併
 (2)胸腺異常の合併
 (3)甲状腺機能亢進症の合併
 (4)副腎皮質不全の関与
 (5)筋炎の合併
 個々の重症筋無力症例が,いずれの項目(複数の場合もしばしばありうる.)に関与するかを検討し,それによつて治療方針を立てることが重要である.しかし本態が不明なだけに,種々の異論が生ずるのはやむをえない.そこで,著者は自らの経験と報告例をもとにして,重症筋無力症の治療としての胸腺摘出術の適応とタイミングについて,考察してみたい.

膿胸

著者: 飯田守 ,   瀬在幸安

ページ範囲:P.1014 - P.1022

■膿胸治療をめぐる最近の概況
 膿胸の外科的治療にあたり,成人と幼小児では病態を異にするところがあり,成人でもその菌腫,時期により,また肺の状態等々,種々の条件によつて,種々の術式を単独にあるいは組合せて行なう必要があり,一定のpatternを作つての手術は不可能で,個々の症例によつて最も良い方法を行なうべきで,非常に難しいものとされている.
 最近ではまた,小児の膿胸が増加の傾向にあり,治療および手術のタイミングが問題と思われる.したがつてここに成人と小児とにわけて述べてみたい.

気管支拡張症

著者: 早田義博 ,   船津秀夫

ページ範囲:P.1023 - P.1026

■なぜ内科治療とのControversyになるか
 気管支拡張症は果して保存的療法でよいか
 われわれの教室に入院する気管支拡張症は年々減小しつつある.同時に手術例も最近では年に数例経験するにすぎない.数年前日本胸部外科学会が福島で開かれた時,気管支拡張症の手術適応が取り上げられた.その時,内科医の意見として気管支拡張症は外科療法の対象となる例はない.内科療法で症状の改善がみられるので,その施設では外科には全くまわさないという討論があつた.しかしわれわれ胸部外科医としてはそれでは納得ができない.気管支拡張症といえども病巣の拡がり,形態,症状に種々な程度のものがあり,患者側にとつては保存的療法のみでは満足することのできないこともある.よつてわれわれ胸部外科医としては従来の気管支拡張症は外科療法が主体であるという考えはすてたが,やはり一部には外科療法の適応もあるという結論を下した.また私たちも現在その考えはもつている.

先天性肥厚性幽門狭窄症

著者: 秋山洋

ページ範囲:P.1027 - P.1031

 ■なぜ小児科治療とのControversyになるか
 肥厚性幽門狭窄症は幽門筋層の肥厚,筋腫様過形成により,多くは出生後2〜4週の間に発症し,噴水状吐乳を主訴とする新生児期もしくは幼若乳児期における疾患であり,現在では小児外科における代表的疾患とされている.本症に対する確立されたRamstedt手術は1912年1)に報告されているが,わが国における小児外科医療の歴史的背景からみて,若年児手術が安全に行なえるようになつたのは10数年来のことであり,それ以前における本症の治療はかなり内科的治療にかたむいていた.しかし,近年の小児外科治療の進歩に伴つて,その治療方針は一変し,外科的治療がほぼ絶対的適応として理解されるようになつてきている.
 本症の幽門筋層の肥厚による内腔の狭窄は永久的なものではなく,ある時期を過ぎれば自然に消退するものと考えられ,その間の吐乳にる栄養障害,脱水,電解質異常をコントロールしうれば,内科的治療のみによつて治癒せしめることができる.事実,幽門筋の肥厚が軽度の症例には内科的治療の意義は大きくその効果を期待することができる.かつてわが国の成書には幽門痙攣症(pyloric spasmus)という診断名があり,内科的治療によつて治癒するものも多いとされ,幽門狭窄症(py-loric sterosis)との鑑別が重要であるとのべられているが,現在では幽門痙攣症と幽門狭窄症は同一疾患で,幽門痙攣症は幽門筋肥厚が軽度のために腫瘤が触知されないものを指していると理解され,軽症例の内科的治療が有効である場合も少なくない.内科的治療には十二指腸へたくみにゾンデを誘導し,栄養補給を行なう特殊的なものもあるが,その殆んどはアトロピン,ウインタミン,プリンペラン等の内服により,幽門狭窄に随伴しておこる胃蠕動亢進及び逆蠕動を抑制することによつて噴水状嘔吐を防止することにあるが,症例の大多数は長期間を必要とし,たとえ治癒するにしても体重減少が著明となり,高度の栄養障害におちいる例も少なくなく,常にこのような状態におちいることを考慮しなければならない.これに対し,外科的治療は手術法も簡単であり,治療期間が短かく,術後は殆んど嘔吐をみずに極めて急速に正常体重増加に復する点,内科的治療に比し有利な点が多いために,現在では外科的治療が優位にたつている.しかし,本症のなかには明らかに腫瘤を触知するにもかかわらず,嘔吐の回数も少なく,内科的治療のみによつて体重増加がみられていく症例を経験することがあり,かかる症例に対してあえて外科的治療を優位として老える必要はないであろう.

—いま,小児科では—先天性肥厚性幽門狭窄症の治療

著者: 加藤英夫

ページ範囲:P.1031 - P.1032

はじめに
 最近数年間に私どもが行なつてきた本症の内科的治療について私見を述べたいと思う.
 数年前にある小児科医のお孫さんが幽門狭窄症にて当科に入院した.私ども教室員はご家族の希望もあり,手術をしないで内科的に治療しようと考えた。その後約50例の幽門狭窄症を内科的に治療し,一応見るべき成果を得たものと考えている.

停留睾丸

著者: 木村茂 ,   友岡康雄

ページ範囲:P.1033 - P.1037

■なぜ泌尿器科治療とのControversyになるか
 停留睾丸を下降固定しようとする手術は,1820年Rosenmerkelにより始められ,1899年Bevanが発表した術式が,現在の睾丸固定術の基礎をなすものと認められている,停留睾丸の治療については,ホルモン療法の可否,手術時期,術式,および,停留睾丸の悪性化に対する見解など,現在でも多くの意見に分かれている.これらの点について検討を加え著者の考えを発表する.

—いま,泌尿器科では—停留睾丸の治療

著者: 寺島和光

ページ範囲:P.1037 - P.1038

はじめに
 停留睾丸は小児の泌尿器科領域では重要な疾患であり,症例数も多く,神奈川こども医療センターでは毎年70〜80例の手術が行なわれている.本疾患の,主として治療について泌尿器科医の立場から考え方をのべる.

腸重積症

著者: 澤口重徳

ページ範囲:P.1039 - P.1043

■なぜ内科治療とのControversyになるか
治療に関する基礎的事項
 腸重積症は腸管の一部が隣接腸管内に嵌入することによつておこる一種の絞扼性イレウスで大多数は生後3月から2歳までに発生する(表1).原因不明のものが大部分で特発性腸重積症とよばれている.腸ポリープ,Meckel憩室,重複腸管,腫瘍,腸壁リンパ組織肥大などの器質的原因を有するものは2%からたかだか8%にすぎず,これら症例の大多数は2歳以上である.腸重積の95%以上は回盲部に発生し,小腸重積症は稀である.
 特発性腸重積症は一般に栄養のよい元気だつた子供に突然発症するが,時に上気道感染などの前駆症状がみられる.嘔吐,腹痛,啼泣,不機嫌,顔面蒼白などで初発し,可動性腫瘤をふれ,発病数時間後には血便が認められる.進行例はX線撮影で水準面形成像を呈する.以上から診断は比較的容易である.発病後12〜24時間までに治療処置が行なわれることが強く望まれ,またこのことは実行可能な筈である.

臍ヘルニア

著者: 堀隆 ,   金子道夫

ページ範囲:P.1044 - P.1048

■臍ヘルニアとは,その理解と把握
 臍ヘルニアについてのわれわれの知識はきわめて乏しい.それは本症が自然治癒のかなり多い疾患である上,嵌頓などの重篤な合併症がごく稀であるため,医師および家族の注意をひくことが少なかつたからである.
 本症の手術適応についてのべる前に,本症についての概略をのべておきたい.

カラーグラフ

Color AngiogramによるPTCとの併用法

著者: 渡部脩 ,   前川武男 ,   宮川忠昭 ,   松本俊彦

ページ範囲:P.778 - P.779

□血管造影と胆管造影との併用法
 われわれは閉塞性黄疸例でPTCドレナージからの胆管造影と血管造影との同時併用法を行なつている.診断するだけなら各検査所見を総合的に判断すればよいのであるが,病変の位置的関係を一致させることが難かしい場合もある.
 とくに胆道疾患では胆管の閉塞部位と血管造影の所見との位置関係を把握することは術前のオリエンテーションをつけるためにも有効である.

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まえがき

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.781 - P.782

これだけは知つておきたい
 手術の適応とタイミング--注意したい疾患45
 手術は治療手段の一つであるが,同時に生体にとつては大きな侵襲となる.手術という人為的な生体侵襲が治療手段として許されるのは,生体にとつてさらに有害な疾病の原因が手術によつて取り除かれ,あるいは少なくとも改善されるからに他ならない.したがって,外科医は手術を治療法として選択するにあたつては,それがはたしてその患者にとつて最善の治療法であるかどうかを常に考えていなければならない.手術によつて患者が受ける利益と,手術によって患者が蒙る損失とを秤にかけることは勿論,手術の効果が最大に発揮されるように,また手術による侵襲を最小に留めるような配慮が必要である.
 このような意味からは,手術治療は良性疾患においてはつねに次善の策である.手術のように生体を傷つけることがない,より侵襲の小さい治療法が他にある場合には,いさぎよく道を譲らなくてはならない.このようなことを十分に考慮した上でなお一般的には手術が最良の治療手段であると判断された場合には手術が必要である.しかし,この場合にもさらにもう一度個々の患者について,手術の適応とタイミング,そして術式とを慎重に検討しなければならない.疾患は同一であつても,病人は一人一人が別々である.画一的な治療方針,定型的な術式は治療をある一定の水準に保つ上には効果があろうが,個々の患者にとつての最善の治療には繋らない.手術にあたつては"tailored operation"を心掛けるべきであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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