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文献詳細

雑誌文献

臨床外科34巻6号

1979年06月発行

文献概要

特集 これだけは知っておきたい手術の適応とタイミング—注意したい疾患45

腹部大動脈瘤

著者: 多田祐輔1 和田達雄1

所属機関: 1東京大学医学部第2外科

ページ範囲:P.963 - P.967

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■なぜ内科治療とのControversyになるか
 腹部大動脈瘤に限らず,どの部位の動脈瘤でも,内科治療によつて,退縮したり,治癒することはあり得ず,従つて動脈瘤は純粋に外科的疾患といえる.ただ内科領域と対立して常に問題となる点は,腹部大動脈瘤の大部分が動脈硬化によるもので,多くの場合,他の部位の合併動脈硬化症を潜在的,あるいは顕在的に持つていることである.即ち,腹部大動脈瘤が全身動脈硬化症の一分症であり,これに対する外科治療そのものが,いわば姑息的な手段に過ぎない.従つて,他に死因として重要な合併症を共存するにもかかわらず,あえて危険を冒して破裂に頻してもいない動脈瘤に手をつけることはないではないかという意見である.このため,内科医は一般的に動脈瘤の手術に対して消極的であり,高血圧や合併動脈硬化症の治療の過程で,動脈瘤が破裂したり,急に増大したり,動脈瘤による種々の症状が出現した段階で,はじめて外科に送る場合が通例である.一方外科側は,腹部大動脈瘤の種々の状況により,破裂の可能性が異なることは多くの統計的検討によつて明らかではあるとしながら,なおどのような動脈瘤でも破裂に至る可能性があり,個々の症例で,この点を確実に予測し難いため,たとえ全身動脈硬化症の一分症であつても,重要な死因の一つとしてこれを除去するというのが原則的な立場である.
 もちろん,個々の症例の手術適応については,合併疾患の重篤度と手術の危険度との関連などによつて,様々に修正されるのは当然のことである,つまり,すべての腹部大動脈瘤が外科治療の対象として内科側から容認されるためには,なお外科側として解決すべきいくつかの点が残されている.即ち①手術直接死亡が,動脈瘤の破裂頻度に比して著しく低いこと,②手術によつて,既に存在する合併動脈硬化症を増悪させることがないこと,③手術に伴う晩期合併症の発生頻度が個々の症例で見込まれる破裂頻度に比して著しく低いこと,④遠隔成績からみて,手術による延命効果が明らかであること,などである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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