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文献詳細

雑誌文献

臨床外科34巻6号

1979年06月発行

文献概要

特集 これだけは知っておきたい手術の適応とタイミング—注意したい疾患45

心筋梗塞

著者: 鈴木章夫1

所属機関: 1順天堂大学医学部胸部外科

ページ範囲:P.985 - P.991

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■なぜ内科治療とのControversyになるか
 心筋梗塞の外科で最も論争の焦点となるのは陳旧性心筋梗塞よりも,むしろ急性期の心筋梗塞の外科であろう,これに関して,内科との間に意見のくいちがいがあるのはまず第一に急性期における心筋梗塞の外科治療の手術死亡率が現在までの所高い事である.手術死亡がなく,外科治療によつて冠血行を再建し,虚血の範囲をちぢめ,左室機能の悪化を防止できるならば,急性期の心筋梗塞の外科治療に対して誰も反対するものはない筈である.しかしながら,内科治療をいかに強力に続けても反応を示さない心筋梗塞もある.その多くの場合には広範性の心筋梗塞であり,特にan—terolateralの心筋梗塞である.これらの広範な前側壁の心筋梗塞は,いかに完備したCCUに入院したと言えども,その死亡率は58%に達すると言われている.また心筋梗塞を起こして更にショック症状を呈するものは,その死亡率は80〜90%に達する.従つて,これらの内科治療に反応しない心原性ショックを呈する例,あるいは,内科治療に頑固に低抗する不整脈を呈するものは手術によつて救命する以外に方法はなく,このような患者が外科にまわり手術死亡率も高くなるのはある程度やむを得ないことである.第二に内科側のもうひとつの反論は,遠隔成績についてである.すなわち,急性心筋梗塞患者を内科的に治療した群と,外科的に治療した群とを比較して見ると,その遠隔成績または年間平均死亡率では両者にその差があまり認められないというような報告がみられることである.しかしながらこれは非常に細かな1〜2mmの直径を有する血管をあつかう外科であり.十分な設備とすぐれた外科チームと,更に十分な診断をくだし,選択的冠状動脈造影を一定の時間内に施行しうる内科チーム,更に麻酔,ICU.CCU.の多大の協力なくしては良い成績をだす事は不可能に近い.これらの条件を満している施設は数少なく,従つて,各施設によつて,その成績はまちまちであり,これを一概に統計上の成績ももつて全般を論ずるのは当を得ていないと考えられる.いかに,内科側の急性心筋梗塞治療が進歩したとは言え,今だ多くの心筋梗塞患者が事実CCUに於て死亡しているのである.いつも著者が言うように,ひとつの疾患に対して最高の治療法はひとつであり,内科的に治療すべきものは内科的に,外科的に治療すべきものは外科的に治療すべきである.従つて,内科側と外科側がお互いに協力してその適応を決め正確な手術をほどこし,完壁な術後管理を行なうならば,これらの手術死亡をmi-nimumにする事ができ,また遠隔成績をも向上させ更には左室機能の改善をも伴い,心筋梗塞後,外科治療によつて,患者の社会復帰は完全となり,社会的損失も少なくなるものと考えられる.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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