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文献詳細

雑誌文献

臨床外科34巻6号

1979年06月発行

文献概要

特集 これだけは知っておきたい手術の適応とタイミング—注意したい疾患45

先天性肥厚性幽門狭窄症

著者: 秋山洋1

所属機関: 1国立小児病院外科

ページ範囲:P.1027 - P.1031

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 ■なぜ小児科治療とのControversyになるか
 肥厚性幽門狭窄症は幽門筋層の肥厚,筋腫様過形成により,多くは出生後2〜4週の間に発症し,噴水状吐乳を主訴とする新生児期もしくは幼若乳児期における疾患であり,現在では小児外科における代表的疾患とされている.本症に対する確立されたRamstedt手術は1912年1)に報告されているが,わが国における小児外科医療の歴史的背景からみて,若年児手術が安全に行なえるようになつたのは10数年来のことであり,それ以前における本症の治療はかなり内科的治療にかたむいていた.しかし,近年の小児外科治療の進歩に伴つて,その治療方針は一変し,外科的治療がほぼ絶対的適応として理解されるようになつてきている.
 本症の幽門筋層の肥厚による内腔の狭窄は永久的なものではなく,ある時期を過ぎれば自然に消退するものと考えられ,その間の吐乳にる栄養障害,脱水,電解質異常をコントロールしうれば,内科的治療のみによつて治癒せしめることができる.事実,幽門筋の肥厚が軽度の症例には内科的治療の意義は大きくその効果を期待することができる.かつてわが国の成書には幽門痙攣症(pyloric spasmus)という診断名があり,内科的治療によつて治癒するものも多いとされ,幽門狭窄症(py-loric sterosis)との鑑別が重要であるとのべられているが,現在では幽門痙攣症と幽門狭窄症は同一疾患で,幽門痙攣症は幽門筋肥厚が軽度のために腫瘤が触知されないものを指していると理解され,軽症例の内科的治療が有効である場合も少なくない.内科的治療には十二指腸へたくみにゾンデを誘導し,栄養補給を行なう特殊的なものもあるが,その殆んどはアトロピン,ウインタミン,プリンペラン等の内服により,幽門狭窄に随伴しておこる胃蠕動亢進及び逆蠕動を抑制することによつて噴水状嘔吐を防止することにあるが,症例の大多数は長期間を必要とし,たとえ治癒するにしても体重減少が著明となり,高度の栄養障害におちいる例も少なくなく,常にこのような状態におちいることを考慮しなければならない.これに対し,外科的治療は手術法も簡単であり,治療期間が短かく,術後は殆んど嘔吐をみずに極めて急速に正常体重増加に復する点,内科的治療に比し有利な点が多いために,現在では外科的治療が優位にたつている.しかし,本症のなかには明らかに腫瘤を触知するにもかかわらず,嘔吐の回数も少なく,内科的治療のみによつて体重増加がみられていく症例を経験することがあり,かかる症例に対してあえて外科的治療を優位として老える必要はないであろう.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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