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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科34巻8号

1979年08月発行

雑誌目次

特集 術中・術後の出血

出血を起こしやすい要因とそのチェック—開腹術を中心として

著者: 林四郎 ,   石曾根新八 ,   清水公男 ,   清水幹男

ページ範囲:P.1203 - P.1210

はじめに--手術と確実な止血の必要性--
 腹部の手術でも他の部位の手術でも何らかの出血を伴い,その防止や確実な止血が手術の成否をきめる要因となつていることには異論がない.もちろん出血のすべてを防ぐことは不可能であるし,必要以上の止血操作も避けなければならない面もある.たとえば肝などの実質臓器や胃腸管壁の切離,切開にあたつて,実質性出血や毛細血管からの出血を絶無にすることはできないし,またいちいち結紮しなくても自然に止血する.しかしこの自然止血の機構としては,血管因子,血小板の作動,血漿凝固系の活性化の3者が完全に働いていることが必要であるし,このいずれかの因子に欠陥があつたり,凝固系に拮抗的に作用する線溶系に異常亢進などがあると,手術創から止まることを知らないような,じくじくとしみ出す毛細管出血oozingが出現し,巨大な血腫の形成,感染,創傷治癒の遅延などを招き,場合によつては失血のために致命的な結果を招くこともありうる.このような不測の事態は術前から出血性素因を備えている場合に発生するだけでなく,術中・術後の異常な線溶亢進,あるいは大量輸血や抗凝固剤などにょつても招来されるし,また術中の止血操作の適否にも関連する.以下の各項で,術中・術後に出血を起こし易い要因とそのチェック法について,重要な点を総括的に述べよう.

臓器切除と出血

食道

著者: 秋山洋 ,   宮薗光 ,   鶴丸昌彦 ,   川村武 ,   樋上駿 ,   沢田壽仁 ,   池永達雄

ページ範囲:P.1211 - P.1216

はじめに
 手術に際し,術前の貧血があれば補正し,出血量に見合つた輸血を行なつて手術を無事終了させることは,当然のことであるが,食道切除,とくに食道癌切除術においては,術中出血量をできうるだけ減少させることは,とくに重要と思われる.一般的に,出血量が増大するという時には次のようなことが考えられる.(1)余分のtraumaが加えられたことを意味する.不要の組織損傷は,出血という,そのものの現象のみならず,出血点を見いだすために更に派生的な組織損傷を起こし,さらに不要の感染源をつくる可能性もある.例えば,血腫が感染源になつたり,後述のように粗暴な胸膜癒着剥離が,出血量の増大のみにとどまらず,air leakを伴う修復しがたい肺損傷により,術後の気胸,膿胸,肺炎という合併症につながる危険性がある.(2)出血によつて視野がさまたげられることは勿論,本来ならばavascularの粗鬆結合組織で,orientationがよくわかる部位でも,それを失なつてしまうことが多い.ひいては,これが,次の損傷や出血にもつながることであろう.また,出血そのもの及び,視野不良等により,不快な気分になるとすれば,手術の全体の流れと,その成否にも関係することであり,避けなければならない.(3)出血をきたすということは,止血をはじめ,組織損傷に対して修復を行なう作業を伴う,したがつて,時間的にも,まことにlossの大きいことである.一方では,こまかい無用な操作による手術時間を短縮するためと結果的に出血を減少させるため,ある程度の一時的な出血を辛抱して一気に操作する揚合もあるが,あくまでも,操作する臓器や組織の状態によることであり,その場,その場で適正に判断することほかないと思われる.基本的には,出血は手術時間の増大につながると解釈して,丁寧な手術をえらぶべきであろう.(4)少量の出血は別としても,大量の出血は,出血時にはもちろん修復したとしても,重要臓器予備能力の低下した老人をとりあつかう食道外科にとつては,循環動態上また諸種の術後合併症発生の可能性からみて,好ましいことではないと思われる.逆に出血量のすくない手術は,そのために多少の時間の延長にはなつても,終始確実な操作で終始するため,安定した術後経過が得られ,最少の合併症ですむことが約束されよう.

著者: 米山武志

ページ範囲:P.1217 - P.1223

はじめに
 肺切除術の対象は炎症性疾患から悪性腫瘍へと移行した.肺切除の手技は肺結核症の外科で確立され,その基本術式は肺癌肺切除においても同一であるが,術中出血に注目した場合,いくつかの特異点があげられる.
 炎症性疾患で遭遇する胸膜止血処置の困難性は,肺癌の場合には少ないが,後者の場合は肺門部病変の完全郭清や胸壁・心嚢・横隔膜の合併切除などの操作が要求され,高年齢者の組織脆弱性と相俟つて,不測の血管損傷を惹起する危険が高まる.また,術後病態に与える出血の影響も大きい.

胃・十二指腸

著者: 佐々木英制 ,   水谷哲夫

ページ範囲:P.1225 - P.1231

はじめに
 胃・十二指腸は腹腔内では表在性の管腔臓器であるため,術中の出血制御は比較的容易な部類に属するといえる.しかしながら,胃はきわめて血流に富む臓器で,多方面から血管が分布するほか,膵・脾・肝などの実質臓器と近接しているので,これらの臓器との間に癒着,癌浸潤などがある場合には胃十二指腸の切離に際して思わぬ出血をみることがある.したがつて本稿ではまず胃・十二指腸に分布する血管の解剖に触れたのち,主として胃切除における術中出血の対策を述べる.

直腸

著者: 安富正幸 ,   福原毅

ページ範囲:P.1233 - P.1239

はじめに
 直腸はせまい骨盤腔にあり,前面は泌尿生殖器に接しているばかりでなく後方に隣接する仙骨前面から側方にかけては著明な静脈叢が発達している.したがつて直腸の手術では,手術操作が難かしいばかりでなく,視野の展開が不十分になりやすく,周囲臓器の副損傷や大出血をおこすことがある.
 直腸手術の対象となる疾患は悪性腫瘍,良性腫瘍,炎症性疾患,先天異常,そのほか後天的直腸狭窄,直腸脱など多数の疾患がある.なかでも直腸癌手術は日常遭遇する機会が多く1),手術侵襲も大きく,大出血をきたしやすい手術である.本稿では主として直腸癌に対してわれわれが行なつている手術を中心に,術中,術後の出血とその対策についてのべる.

肝臓

著者: 岡本英三 ,   京明雄

ページ範囲:P.1241 - P.1246

はじめに
 肝臓は豊富な血液で充満したspongeにたとえられ,従来"do not touch me organ"の一つとして,永い間外科医の触つてはならない臓器とされてきた.この臓器に対する不用意な外科的処置は極めて不愉快な,また容易に止血し難い出血を引き起こす.
 今日の如く肝広範切除が可能になつたのはせいぜい今世紀中頃からである.肝切除が可能となつた陰には,手術手技,麻酔,輸血の進歩など外科学全般の進歩は勿論であるが,最も大きく貢献したのは肝のもつ膨大な代償能,再生能の認識と肝内脈管構築の解明に基づく肝区域の概念である.

胆道

著者: 久次武晴

ページ範囲:P.1247 - P.1253

はじめに
 ここでは肝内胆道系は別項にゆずり肝外胆道系について述べる.肝外胆道系としては胆嚢,左右肝管分岐部,総肝管,総胆管,十二指腸乳頭部が含まれる,手術を安全かつ正確に遂行するためには解剖学に精通する必要がある.とくに胆嚢管や胆嚢動脈は走向異常を示すことが多く不慮の副損傷やそれに伴う大出血を起こすことがある.
 胆嚢動脈の起始,走向については
 ⅰ)右肝動脈より出るものが最も多く
 ⅱ)左肝動脈より出て総胆管の前を通るもの
 ⅲ)左肝動脈より出て総胆管の後を通るもの
 ⅳ)肝動脈の左右分岐部より出て総胆管の前を   通るもの
 ⅴ)固有肝動脈より出て総胆管の前を通るもの
 ⅵ)固有肝動脈より出て総胆管の後を通るもの
 ⅶ)胃十二指腸動脈より出るもの
がある.また胆嚢動脈が主血管より分れて胆嚢壁に達するまでの距離が極めて短いと胆嚢動脈剥離結紮の操作中に主血管の方を損傷することがある.
 胆嚢管の走向異常1)は図1に示すように左右肝管,右副肝管ならびに総胆管との位置関係でさまざまであり,これらと胆嚢動脈の走向との組合せを考えておく必要がある.
 出血も手術操作中の腹腔内へのものと,胆道内出血との二つの観点より慎重に考慮すべきであろう.

膵臓

著者: 水本龍二 ,   五島博道

ページ範囲:P.1255 - P.1261

はじめに
 膵臓手術では病巣部を十分に露出し,視,触診によつてその病変を的確に把握するとともに,解剖学的構築にもとづいて特に重要血管を損傷しないよう剥離をすすめることが必要である.それには術前の選択的腹腔動脈撮影や上腸間膜動脈撮影により動脈の走行及び腫瘍や病変による血管の圧排,侵蝕,中断像等を検索するとともに,静脈相では門脈,上腸間膜静脈,脾静脈などの走行や圧排,浸潤などの変化についても熟知しておく必要があり,血管造影により術前に切除の範囲あるいは局所切除の可能性について十分検討しておかねばならない.膵臓の動脈分布1)は比較的一定しており,膵頭部は前ならびに後アーケードからなり,前アーケードは胃十二指腸動脈から分岐する前上膵十二指腸動脈ならびに上腸間膜動脈から分岐する前下膵十二指腸動脈,後アーケードは胃十二指腸動脈から最初に分岐する後上膵十二指腸動脈ならびに上腸間膜動脈より分岐する後下膵十二指腸動脈によつて構成される.上膵十二指腸動脈の胃十二指腸動脈からの分岐はほぼ一定しており,後上膵十二指腸動脈を分岐した後に前上膵十二指腸動脈を分岐する.前・後下膵十二指腸動脈の分岐は不規則であつて,多くは共通管としての総下膵十二指腸動脈となり,あるいは2本が別々に上腸間膜動脈より分岐するが,空腸動脈と共通管となつて上腸間膜動脈の左壁からでることもある.膵背動脈は頸部を養う.これは通常,脾動脈から分岐するがときに腹腔動脈,上腸間膜動脈,総肝動脈などから分岐することがあり左右枝にわかれる.右枝は,前上膵十二指腸動脈の左枝とともに膵頭部を横切り,前膵動脈アーケードを構成する.膵横動脈が膵臓の背下面にみられ,これは膵背動脈の左枝であることが多い.膵大動脈及び膵尾動脈は脾動脈より分岐して膵体部及び膵尾部を栄養する.なお上腸間膜動脈より膵頭部背面を通る.aberantの右肝動脈が出ることがあり膵切除の際注意を要す.膵臓の静脈分布については膵体部静脈は主として脾静脈が関係するが,そのほか左胃大網静脈,上腸間膜静脈,下腸間膜静脈などに流入するものがある.脾静脈は脾門部に始まり,全経過にわたつて膵体尾部背面を走るが3本ないし10数本の短い静脈が膵体尾部から不規則な間隔で流入している.時には上腸間膜静脈下腸間膜静脈,左胃大網静脈の近位端近傍に流入していることもある.膵十二指腸静脈は膵頭部ならびに十二指腸からの血流をうけるが,普通比較的大きいものが2〜3本あつてそれぞれ上腸間膜静脈あるいは門脈の右壁に流入している.脾静脈と上腸間膜静脈は膵頭部背側でほぼ直角をなして合流し門脈となり右上方にすすみ十二指腸の後側を通つて肝門部に達する.下腸間膜静脈は脾静脈,門脈起始部,上腸間膜静脈などにほぼ同頻度で合流する.

脾臓

著者: 都築俊治 ,   石田元比古 ,   中西泉 ,   平松京一 ,   磯部義憲 ,   毛利誠

ページ範囲:P.1263 - P.1268

はじめに
 脾摘は胃切除のように日常頻繁に行なわれる手術ではないが,外科臨床上,脾摘が必要とされる疾患がいくつかあり,外科医はこれらの場合に安全に脾摘を行なわなければならない.脾摘には手技的に比較的容易なものから困難なものまで種種の段階があり,また合併する門脈圧亢進症,血液凝固異常にも配慮を要し,無計画に手術を行なうと合併症を招くのみならず患者を死に追いやることさえある.そこで過去8年間に教室で行なわれた症例を基礎にして脾摘の実際について述べてみたい.

カラーグラフ 内視鏡的色素シリーズ・6

小腸色素内視鏡検査の応用

著者: 平塚秀雄 ,   後町浩二 ,   飯塚邦雄 ,   大坂渥巳 ,   橋爪洋平 ,   長谷川充輝

ページ範囲:P.1190 - P.1191

 小腸は経口的に摂取された物質の吸収の場である.吸収能を効率よく営むために特有な分化がみられるのもこのためである.すなわち,小腸内腔には輪状ひだのケルクリング皺襞が発達し,その表面には,無数の絨毛さらには微絨毛単位となり,小腸をたんに円筒と考えた場合には,吸収面積は実に600倍という級数的な拡がりをもつているという.このような背景にたつて内視鏡的に形態と機能を論ずる場合には,少なくとも絨毛レベルでの内視鏡的観察を必要とする.
 そこでわれわれは拡大小腸ファイバースコープ(FIS—ML)を開発し,図①に示すような拡大観察法を考案した.これは実体顕微鏡下の低倍率観察法にヒントを得て,点滴水流中,斜行照明観察がその特長である.絨毛は10〜30倍に,しかも通常観察での"ねた状態"の絨毛は"生き生き"と明瞭にダイナミックに描出できる.

グラフ 外科医のためのX線診断学・16

胸部・頸部血管造影

著者: 隈崎達夫 ,   西川博 ,   佐藤雅史 ,   鈴木次夫

ページ範囲:P.1193 - P.1201

 胸部及び頸部領域で選択造影の対象となる血管については図1に列挙したが,この中で特に重要と考えられる動脈・静脈とそれぞれの造影法のポイントを表に示した.ちなみにカテーテルの付号は便宜上われわれが使用しているSurgimed社のcodeを記載したものであるが,術者によつては異なる規格を使用することも当然あり得よう.以下これらについて簡単に解説する.
 甲状腺は図1(a)に示すように上・下甲状腺動脈によつて栄養されている.上甲状腺動脈造影の際には選択を無理に行なおうとすると総頸動脈内のatheromatous plaqueを剥離したりspasmを起こしたりする危険性もあるので注意を要する.選択造影が行ない得ない場合には総頸動脈造影のみでも読影は可能である.一方下甲状腺動脈の造影は甲状頸動脈の選択造影なくしては殆んど不可能である.本動脈では右が左に比較してやや選択困難な場合があり,このような例では後述する内胸動脈造影と同様の操作が行なわれる.

Spot

外科手術施行前における2次診断制度の重要性について

著者: 松元輝夫 ,   草場昭

ページ範囲:P.1269 - P.1273

はじめに
 外科手術を必要とする患者には,大別して2つのタイプがある.第1のタイプは,交通事故患者などのように緊急手術を要する症例で,患者は,生命の危機,あるいは四肢切断の危機にさらされている.第2のタイプは,ヘルニア根治手術などのような待期的手術が可能な症例である.
 外科手術を行なう場合に要求される最も重要なことは,不必要な手術を避け,もし手術が必要な場合には,その安全性と確実性を確保することである.したがつて,外科手術は,X線診断部門,麻酔科,ならびに外科領域に熟練した専門医が常勤しており,種々の治療・検査部門の設備が完備している病院で行なわれるべきである.患者の立場からすれば,手術を受ける前に,必要に応じて外科専門医による外科2次診断を受け,その手術が本当に必要であるかどうか確かめておくことが大切である.この外科2次診断には2つの利点がある.第1は,患者の生命の安全が保証されること,第2は,不必要な外科手術を未然に避けることによつて,無駄な出費を節約できることである.

Practical Postgraduate Seminar・22

基本的手術手技—糸結び—〈その1,片手法〉

著者: 樋上駿 ,   沢田寿仁 ,   池永達雄

ページ範囲:P.1277 - P.1286

 糸結びは手術手技の中でも最も基本的である.糸結びに紮めが加わると結紮になる.ここでは糸結びに中心を置き,学ぶ立場の筆者らが日頃,糸結びについて抱いている概念を,片手法,双手法に分け,整理してみた.紹介だけに留めたが,参考にしていただければ幸いである.
 糸の持ち方で,最も普通なのは図1aのように,拇指と示指,または拇指と中指で把持する方法である.しかしこの持ち方では,糸を持つたまま他の操作,たとえば出血点を指で把む操作などが必要になつたとき,糸を持つ操作を放棄せざるをえなくなる.よつて筆者らは,それらを解決するため,図1bのように薬指と小指の間に糸を挾むようにしている.この持ち方は一見,抵抗感を与えるかもしれないが,慣れにより自然と糸の方から挾まつてくるようになる.この方法だと拇指,示指,中指を他の目的にも使用できる利点がある(図1c).

Emergency Care—Principles & Practice・4

救急医療に必要な基本的技能と知識—その3 初期循環器管理

著者: 川嶋望 ,   馬場尚道 ,   伊藤新一郎 ,   和尾和彦 ,   前田滋

ページ範囲:P.1289 - P.1296

5.初期循環器管理
 静脈ルートを確保し,輸液・輸血・補助薬剤療法を正しく行なつて,循環器機能を正常に保持するよう努める.
 初期循環器管理を行なうには,体循環・肺循環の病態生理,各種ショック,体液バランスの保持機構,救急治療薬剤の薬理学に関する知識を必要とする.これらの知識を総合した上で,救急患者に対する輸液・輸血の要否を判断し,必要な補充成分を選び出し,時間あたりの補正量を定め,場合によつては補助薬剤を用いて,循環器機能の正常化に努める能力があれば,緊急時の初期循環器管理は果し得るであろう.それ以後の処置は,初期呼吸管理・初期循環器管理・初期緊急検査を行ないながら,上司や専門科医師にコンサルテーションを求めても,間に合うものである.

臨床研究

Limulus testからみた急性腹症の臨床経過について

著者: 高場利博 ,   高尾資朗 ,   帆刈睦男 ,   神谷憲太郎 ,   藤原道夫 ,   石井淳一

ページ範囲:P.1297 - P.1302

はじめに
 Endotoxin血症あるいはそれに伴うショックはグラム陰性菌によつて惹起されるが,近年種々の抗生剤の多用による耐性菌の増加,菌交代現象の出現,免疫抑制剤の使用などから発生の機会が多く,その予後が不良なことから注目をあびている1).外科領域においても高齢者,全身状態不良症例に対する手術適応の拡大などにより,術後あるいは術前からEndotoxin(以下ETと略す)血症のみられるものがある.血中ETの検出も最近Limulus test(以下LTと略す)が導入され,試薬も市販され臨床応用されるに至つている.われわれは最近2年間に経験した急性腹症96例に対して本法による血中ETを測定し,34例にET血症を証明することができた.この血中ET陽性例と陰性例では術後経過,臨床所見に差がみられたので,血中ETの消長とその臨床経過を検討してみた.

乳癌のEstrogen Receptorと臨床との相関

著者: 青木孝文 ,   児玉宏 ,   日笠頼則 ,   柏原貞夫 ,   倉本信二 ,   前谷俊三 ,   香川嘉宏 ,   田中英夫 ,   松末智 ,   中村義徳 ,   山辺博彦 ,   市島国雄 ,   小橋陽一郎

ページ範囲:P.1303 - P.1307

はじめに
 乳癌に対して,外科的治療,放射線治療,癌化学療法,免疫療法等の他に,ホルモン療法が行なわれている.乳癌に対するホルモン療法には,卵巣・副腎・下垂体摘出術,静脈吻合術,卵巣放射線照射,男・女性ホルモン剤投与による薬物療法等があり,進行乳癌の一部に有効であることが知られている.
 乳癌のホルモン依存性については,エストロゲン,テストステロン,プロラクチン,プロゲステロン,コーチゾール,GH,HPL等の関与が知られている1,2).この内,エストロゲンについては,Jensen3)等が3H-Estr—ogenを用いて臓器特異性を示して以来,エストロゲンレセプター(以下ERと略す)の研究がなされていた.ERには細胞質レセプター(8S)核レセプター(5S)とが存在する.エストロゲンは細胞質レセプターと結合し(ER複合体),温度依存性(25〜37℃)にReceptor Transformationを起こして,核レセプター複合体を形成し,更にクロマチンに結合,RNA合成,蛋白合成が促進される(Two-step interaction theory)とされている4-11)

巨大胃潰瘍手術例の検討

著者: 江崎昌俊 ,   徳永剛 ,   畑尾正彦 ,   高橋勝三

ページ範囲:P.1309 - P.1312

はじめに
 本邦では胃潰瘍の大きさに着眼して,その臨床的特徴や治療について検討した論述はあまりみられない.私どもは過去11年間に手術した巨大胃潰瘍33例につき症例の分析を行ない,その臨床的特徴と外科治療上の問題について検討を加えた.

膵頭十二指腸切除術後早期の残存膵機能—とくにP-Sテストとの対比を中心に

著者: 日野原徹 ,   竹内勤 ,   岸清志 ,   岩井宣健 ,   西村興亜 ,   古賀成昌 ,   安達秀雄

ページ範囲:P.1313 - P.1317

はじめに
 膵頭十二指腸切除術(以下PDと略す)は手術手技の進歩によつて,その直接成績も年々向上し,現在ではほぼ安全な術式となつてきた.しかし一方,本手術に伴う主要臓器大量切除による術後障害に関しては,未解決の問題も多く,その病態の把握が術後管理の上からも重要な問題となつてきている.そこで,われわれは術後の消化吸収において,問題となる残存膵機能に関し検討したので,その成績を報告する.

臨床報告

閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 山形尚正 ,   杉山雄一 ,   上田博 ,   鈴木康紀

ページ範囲:P.1319 - P.1320

はじめに
 最近われわれは稀な疾患とされる閉鎖孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.

急性全身性激症型輸入アメーバ症の1例

著者: 須江秀一 ,   伊藤勝朗 ,   生駒義人 ,   岡野一廣 ,   原宏 ,   山根洋右 ,   山崎郁雄

ページ範囲:P.1321 - P.1324

はじめに
 わが国でのアメーバ症は,戦後一時的な増加がみられたが,その後,衛生思想の浸透と共に漸減傾向を示し,近年では非常にまれな疾患となつている.一般にアメーバ症は慢性の経過をとるものが多いと言われているが,南方由来の輸入アメーバによるものは経過が急性で,その上毒性が強いとされている.著者らは最近,腸潰瘍形成および肝膿瘍形成を主とする急性全身性激症型赤痢アメーバ症の一例を経験したが,近年の海外旅行の激増に伴い,このような普段はなじみのない伝染病の輸入が今後,あるいは増加することも当然予想される.
 輸入アメーバ症に対する注意を改めて喚起すると共に,われわれが治療上直面した数々の問題点について若干の検討を加えたので,ここに報告し,諸賢のご参考に供したい.

Cronkheit-Canada症候群の1例

著者: 松本好市 ,   福西茂二 ,   古屋正 ,   油田紘邦 ,   山際裕史

ページ範囲:P.1325 - P.1329

はじめに
 大腸ポリープの分類そのものが,現在のところ,完成されたものではなく,今後,かなり変更の予想される流動的なものであるという問題があり,まず,各々のポリープの本質の究明が急務である.
 本稿では,爪の萎縮,変形,脱毛,胃腸管のpolyp—osisを合併する,いわゆるCronkheit-Canada症候群の1例を,若干の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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