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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科35巻12号

1980年12月発行

雑誌目次

特集 癌と栄養

担癌動物の栄養と制癌剤

著者: 岡田正 ,   長谷川順吉

ページ範囲:P.1653 - P.1656

はじめに
 現在行なわれている癌治療は手術治療,制癌剤治療,放射線治療,免疫治療の4種に大別される.これらのいずれを行なう上においても栄養障害の存在が治療を遂行する上で極めて悪影響を与え,これが従来その治療範囲を著しく狭めて来たともいえる1).高カロリー輸液の導入は癌治療に新しい展望をもたらした2-4).本輸液により経口経管栄養の不十分な患者に対する栄養補給が初めて可能となり,栄養不良のために積極的な癌治療ができない,あるいは制癌剤,放射線治療の副作用のために衰弱が強く治療を打切らざるを得ないといつた場合が明らかに減少したのである.現在高カロリー輸液は各施設に取り入れられ,次第に一般化されつつあるが,癌治療においては,ある種の患者において,時に著しい効果を認めたという報告はみられるものの未だ散発的であり,その効果・適応に関しては一定の見解は得られていない.これは臨床例においては取扱う癌症例自体が多種多様であり,また制癌剤の種類,使用量も一定でない事が多く,さらに効果判定が極めて困難である事が要因を占めていると思われる.癌治療における高カロリー輸液,さらには制癌治療併用の意義を明確にするには,一定条件下での比較検討が可能な動物実験が必須であるのは以上の事実より考えて当然の事であろう.そこで本稿では今までに高カロリー輸液の実験モデルを用いて行なわれた担癌生体および腫瘍自体に対する栄養効果,あるいは制癌剤に対する反応などについての研究成果を概観し,更に今後の進むべき方向についても述べてみたい.

消化器癌手術前後の高カロリー輸液

著者: 遠藤昌夫 ,   青木克憲 ,   山藤和夫 ,   安藤暢敏 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1657 - P.1664

はじめに
 消化器疾患の外科領域における栄養は,常に古くて新しい問題を含んでおり,外科臨床栄養学の進歩は消化器の手術成績向上において,その一翼を担つて来た.特に栄養摂取と直接に関係する上部消化器疾患手術後の栄養問題は,古くから注目され,われわれの教室でも食道手術後の栄養管理などに工夫を凝らして報告している1).一方,Studley2),Rhoads3)らにより術前の栄養不良状態が,術後の死亡率,感染症の増大と密接な関係を有すると報告されるなど,術前の栄養状態改善の重要性も唱えられている.最近10年間の経静脈栄養補給(TPN)の普及は手術前後の栄養管理に画期的進歩をもたらすとともに,栄養状態の評価方法も,見直されるようになつた.消化器癌患者では良性の消化器疾患に比し,単なる経口栄養摂取不良による以上の栄養失調症状を示すといわれ4),消化器癌患者における術前後の栄養管理の重要性は論を待たない.
 本稿では,特に術前の栄養状態と手術成績が関連を有する食道癌患者に対する手術前後のTPN管理を中心に,われわれの経験を主として論じたい.

消化器癌手術前後の経管栄養

著者: 碓井貞仁 ,   小越章平 ,   佐藤博

ページ範囲:P.1665 - P.1671

はじめに
 高カロリー輸液法は消化器癌の術前術後管理に必須の治療法として定着し,最近は術前術後管理だけでなく,癌化学療法との併用療法としてきわめて有用であることが報告されている3,5,7,18).一方,経管栄養法は古くから行なわれてきた栄養法で外科手術前後の栄養管理に大きな役割を果してきたが,高カロリー輸液法の出現以来,外科栄養法の主役の座を奮われ注目をあびることもなくなつていた.しかしながらGreensteinら6)のchemically defined dietに端を発したElemental Diet(ED)の研究はその後space dietとして発展し23),1968年にVivonex®として製品化された.1976年Kaminski8)はparenteral hyperalimentation(経静脈高カロリー輸液法)に対してenteral hyperalimentation(経腸的高カロリー栄養法)なる概念をうち出してEDによる経腸的高カロリー投与が可能であることを述べ,高カロリー輸液法の陰に隠れていたかの感があつた経管栄養法はEDの臨床応用を契機として再び脚光を浴びる所となつた.経管栄養法はEDを主体として,手術前後になくてはならない栄養法として高カロリー輸液法とともに現在広く用いられているが,本稿では経管栄養法の概要と手術前後の投与法の実際ならびに癌化学療法における経管栄養法の意義について述べてみたい.

切除不能癌に対する制癌剤と高カロリー輸液の併用

著者: 酒井忠昭 ,   小野寺時夫 ,   森武生 ,   冨永健 ,   北村正次

ページ範囲:P.1673 - P.1681

はじめに
 癌がごく進行した状態であつたり,切除後再発して切除不能であつた場合,従来,姑息手術や対症療法にとどまることが多かつた.近年,制癌剤や癌免疫療法の発展はめざましいが,悪液質に陥つた患者にたいするこれらの治療法にも限界がある.多くは症状を軽減せしめ,あまり長くない寛解期間をうるのがせいぜいであつて,癌にたいする治療効果の基準としての生存率を論議しえないのが現状である.
 1967年,Dudrickら1)により高カロリー輸液法(IVH)が確立され,以来その成果はとりわけ外科領域においてめざましい.進行癌患者の多くは低栄養状態にあり,IVHによる栄養の補給はそれ自体患者の一般状態の改善に有効であるが,さらにIVHに制癌剤を併用する方法が注目され,進行癌にたいする治療法の一つとしてその可能性が模索されつつある2,3)

小児外科における制癌療法と高カロリー輸液

著者: 大沢義弘 ,   松原要一 ,   筒井光広 ,   岩渕真 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1683 - P.1689

はじめに
 最近悪性腫瘍の治療において,高カロリー輸液(以下,IVHと略)を併用した制癌療法により治療効果を認めたとする報告が多数みられつつある1-5)
 また近年,小児悪性腫瘍の外科的療法の進歩に伴い,従来切除不能とされていた症例にも積極的に手術療法が試みられつつある.一方術後の制癌療法も重要であり,より強力な制癌療法の併用により良好な予後を期待しうると考えられる.しかし大きな手術侵襲と強力な制癌療法により,殊に小児では体力の低下も著しく,しばしば,制癌療法の中止を余儀なくされる例が多い6).これに対してわれわれは,術後IVHを併用することにより,小児悪性腫瘍進行例に対しても積極的に手術,制癌療法を行ないうることを経験している.
 本稿では,われわれの教室で経験した症例を紹介し,小児悪性腫瘍の術後制癌療法におけるIVH併用の意義と問題点につき述べてみたい.

癌治療におけるアミノ酸インバランスの応用

著者: 畑埜武彦 ,   日置紘士郎 ,   山本政勝

ページ範囲:P.1691 - P.1700

はじめに
 発癌およびその増殖に対する栄養条件の影響を検討した研究は,実地臨床の立場からも重要な課題であるが,今日までのところ十分に解明されておらず,古くて新しい問題である.TannenbaumおよびSilverstoneは自然発生癌,化学発癌,移植腫瘍について系統的研究をなし1-9),これの総括的結果を述べている10).とくに腫瘍発生およびその増殖に対するカロリーの影響についてはWhi—te11)はこれに関する諸研究を集め,総説を述べている.その総説によれば,一般に投与カロリー量の増加にともなつて腫瘍の発育も促進される傾向にあり,逆に低カロリー状態下では宿主の発育低下と共に腫瘍の発育も遅延する傾向がみられるとしている.Tannenbaum12)はハツカネズミの3,4-benzpyreneによる皮膚腫瘍の誘発に対する投与カロリーの影響を検討した結果,腫瘍誘発期,腫瘍増殖期を通じて高カロリー補給を行なつた群では発癌率も増殖も著しく促進されたと述べ,また各時期で投与カロリー量の高低を交換した結果では腫瘍増殖期の方が投与カロリー量に左右され易いとしている.癌の増殖に必要な栄養素材についてはJ. F. Henderson及びG. A. LePage13)が多数の文献的考案をしているが,その結果は摂取栄養素との関係は無視し得ないとしている.
 発癌および増殖に対する栄養条件の影響——つまり発癌および増殖を飼料によつてコントロールしようとする試みは古くから研究されており,カロリー源である蛋白質,糖質,脂質の三大栄養素が問題となるが,ここでは蛋白質,なかでも特にアミノ酸インバランスについて著者らの実験的事実と若干の文献的考察を加えると共に,最近の高カロリー輸液下におけるアミノ酸インバランスの臨床的応用の可能性についても言及したい.

巻頭言

癌と栄養

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1650 - P.1651

 生体に癌ができると生体の栄養状態が悪くても癌は生体から栄養をとり,どんどん増殖進展してゆき,やがて生体の死とともに癌も消滅することが知られている.従つて,癌患者の栄養状態を改善するために十分な栄養素を投与しようとすると癌の増殖を促進することになるのではないかという心配がある.実際に担癌動物に十分な栄養素を投与すると腫瘍の増殖は著しく促進される.しかし,このとき制癌剤投与を平行すると腫瘍の増殖はおそくなるかみられなくなる.
 消化器癌患者では,癌が存在するということのほか経口摂取が制限されたりするため手術前後に十分な栄養補給を行なわないと吻合部の縫合不全や腹壁創の哆開などがみられる.ところで栄養補給だけでは前述のごとき心配がないではないが,たとえば食道癌患者ではブレオマイシンあるいは5-flurouracilの投与と照射を術前治療として併用しても,もし高カロリー輸液を行なつていたり,nasojejunal tubeやcatheter jejunostomyの部を介してelemental dietsやその類似のものによる経腸高栄養法が行なわれていれば,この術前治療の間に栄養状態は悪化することはないし,むしろ3〜10kgの体重増加のみられることが多い.従つてそれだけ術後の創治癒も心配が少なくなる.同時に制癌剤投与や照射療法による患者の免疫能の低下も阻止され,中には改善のみられるものもある.

カラーグラフ トピックス・7

胃の隆起性異型上皮の拡大内視鏡像

著者: 岡田利邦 ,   西沢護

ページ範囲:P.1646 - P.1647

 胃拡大観察の対象は,胃小区を構成する微小単位であるSP や areolaなどであり,各々,組織切片ではgast—ric pit,covering epitheliumに相当する(図1).著者らは,拡大内視鏡に先立つて,各種の胃隆起性病変のSP.areolaの変化を観察し,それが,背景にある病理組織学的変化を示唆している事実に注目した.即ち俯瞰図が組織像を類推するのに有用である事を意味する.表1は,それに基づく分類であり,表2は各パターンの特徴を示している.過形成ポリープは,主にⅠ,Ⅱ,Ⅲのパターンを,また,分化型癌はⅤのそれを示す.いわゆる境界領域病変の拡大像は過形成ポリープと分化型癌との中間的な変化ではなく,寧ろ,分化型癌の像に共通性を見出す事が注目される.拡大内視鏡像も,原則的には,実体顕微鏡像に従うものと思われる.扁平隆起を呈する異型上皮の拡大像は,概括的には,2種類の変化によつて特徴づけられるようである.第一の変化は,異型上皮のSPが正常のそれと比し細小化する傾向にあり,その配列は不整である,この不整な‘きめの細かい溝状構造’は,変化の程度が穏やかなもの(図3,図4)から,激しいもの(図5,図6)まで,異型上皮の範疇で,段階が認められる.第2の変化は,異型上皮のareolaが大小不同と形態の多様化を示し,それを構成する輪郭は,不規則なやや硬い線分からなつている(図7,図8).異型上皮の実体顕微鏡観察例14症例と拡大内視鏡観察例15症例の拡大像に基づいて判断すると,‘きめの細かい溝状構造’を呈する前者の変化が異型上皮を代表する拡大像と推定される.これは,分化型癌のb.Microditch Patternと類似性が強く,拡大像上,両者の鑑別に興味が持たれる.正常粘膜との懸隔を明瞭にするためにSPの拡大内視鏡像を図2に示した.図3および図4は,先に述べた第一の変化の中,穏やかな例の実体顕微鏡像,拡大内視鏡像である.SPの配列の変化は,極めて穏やかである.図5および図6は,SPは細小化して著明な不整配列を呈し,激しい列の実体顕微鏡像,拡大内視鏡像である.図7および図8は,先の第二の変化の実体顕微鏡像,拡大内視鏡像である.areolaの大小不同,形態の多様化,硬い輪郭が認められる.
 異型上皮は分化型癌との鑑別上,病理組織学的にも問題をはらむ領域であり,拡大観察においても,両者の間に明確な一線を引き得ない事は当然と言える.それに比して,異型上皮と過形成ポリープの鑑別は拡大像でも容易である.異型上皮の拡大像の特徴を,概括的に二つの異なった典型に求めた.臨床病理学的立場から,拡大像と病理組織との,この分野における関連性の解明が望まれる.

鼎談

消化器外科の基本手技—直腸・結腸

著者: 陣内傳之助 ,   今充 ,   西満正

ページ範囲:P.1702 - P.1720

 鼎談「消化器外科の基本手技」の3回目は前回の各論「食道・胃」(本誌33巻12号掲載)に続いて,「直腸・結腸」である.陣内,今,西の3先生に,大腸—結腸から直腸にかけての主な手術の基本手技と,さらに,長い経験と日頃の研鑽で得られた工夫,コツを披瀝し,ディスカッションしていただいた.明日の臨床の一助になれば幸いである.

わが教室自慢の手術器具・13

術中胆道精査用MN式胆管カテーテル

著者: 永川宅和 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1722 - P.1723

 術中胆道精査は胆石症手術における胆石の遺残,再発を予防する上で不可欠のものである.
 私どもは,胆管切開後,胆管の縫合なしに胆道造影や胆道内圧測定ができるMN式胆管カテーテルを作製し,さらに長野八光商事の協力をえて改良に成功し,その使用が便利になつたので報告する.

Emergency care—Principles & Practice・15

意識障害—その診断へのアプローチ

著者: 寺本成美

ページ範囲:P.1725 - P.1732

すばやい診断と処置を要する意識障害
 プライマリ・ケアにおける脳神経外科的疾患では,すばやく診断し,適切な補助診断法の選択,すばやい処置(手術)を必要とする.脳神経外科に特有な病態のなかで意識障害や重積痙攣は,その原因の究明に緊急を要する場合が多い.もちろん脳神経外科的診察の基本は神経学の原則に基づき,神経学的異常所見を的確に拾い出し神経系における病巣の局在を決定することであるが,脳神経外科領域のプライマリ・ケアにおいては,"すばやい診断"と"適切な補助診断法の選択"ついで"救急処置"が要求される.従つて従来の神経学の教科書的な診断法と異なつた機能的流動的な方法が必要である.そこで図1にCT-Scan検査を含めた新しい診断の流れを図で示す.

臨床研究

Elemental Dietによる大腸手術の前処置

著者: 相場哲朗 ,   小山真 ,   福田稔 ,   畠山勝義 ,   山岸良男 ,   吉川恵次 ,   薜光明 ,   広田正樹 ,   吉川和子 ,   武藤輝一 ,   仁田原義之

ページ範囲:P.1734 - P.1740

はじめに
 近年,臨床で盛んに用いられるようになつたelemental diet(以下,EDと略す)は,chemically defined diet(CDD)とも呼ばれるごとく,化学的に成分が明らかであり,ほとんど全ての成分が消化を必要とすることなく,そのままの形で容易に吸収されるという特徴を持つている.そのため,その適応は(表1),intravenous hyperalimentation(IVH)と同様に広範囲に渡り,enteral hyperalimentationも可能である.特にEDの吸収は,大半が小腸上部で行なわれ残渣がほとんどないことより,大腸疾患の術前術後の管理にEDが用いられ著しい効果が認められている.
 今日まで,ED投与による大腸手術の前処置の効果として,糞便量および糞便中細菌数の減少に関し,数多くの報告がみられる.糞便量の減少についてはEDの特徴より異論のないところであるが,糞便中細菌数については減少しないという報告も多く,未だ結論は得られていない.そこで著者らは,ED-AC(表2,味の素KK製造,森下製薬KK販売)を用いて大腸の前処置を施行し,糞便量,糞便中細菌数につき,動物実験および臨床例で検討を加えた.

食道84憩室の形態分類に関する研究

著者: 熊本吉一 ,   城島標雄 ,   富田康彦 ,   天野富薫 ,   後藤久 ,   小泉博義 ,   五島英迪 ,   金正出 ,   有田英二 ,   青木誠孝 ,   金井武彦

ページ範囲:P.1741 - P.1747

はじめに
 食道憩室は特殊な場合を除き,自覚症状も少なく,合併病変もまれであり,また消化管のレントゲン検査の際,偶然に発見されることが多い.本症の発生部位は欧米では咽頭食道に多いとされるが,本邦集計例ではむしろ中部下部食道に発生する場合が多いとされている.またその型分類,成因に関しても未解決の問題を残している.そこで筆者らは84憩室を対象に食道造影,食道内視鏡検査という食道憩室の静的観察に,さらに食道シネ造影をポラロイドカメラを用いて分析をおこなう新しい方法で動的観察を加え,若干の知見を得たのでその成績を報告する.

甲状腺の結節性病変

著者: 野口志郎 ,   村上信夫 ,   野口秋人

ページ範囲:P.1749 - P.1751

はじめに
 甲状腺の結節性病変が良性と考えられる場合にどのような処置を取るべきであるかという点については専門家の間にも意見の一致を見出せない.最も保存的な処置としては,良性と考えられる場合は経過を見るのみに止めるか甲状腺ホルモン剤によつて内因性のTSHの分泌抑制を計るのみでよいとするものがあり1,2),最も積極的な処置としては腫瘍であれば良性悪性の別なく全て切除すべきであるとするものがある3,4).それらの中間的な意見として腫瘍の大きさ,機能,患者の年齢などを考慮して手術症例を選択すべきであるとするものもある.保存的方法を主張する根拠としては一般人口における甲状腺腫を有するものの頻度が比較的高いにもかかわらず,甲状腺癌による死亡率が低いこと,経過観察中にはつきりと癌と分るような変化する症例に出合うことが非常に稀であること,さらに手術の合併症,特に反廻神経麻痺や醜い瘢痕形成の可能性などを考慮して,出来るだけ手術を避けたいとしている.一方,積極的に手術を奨める側の主な根拠は一見良性と思われるものの内に癌の占める割合が比較的高いこと,甲状腺癌は比較的早期にリンパ節および遠隔臓器への転移を来たす可能性があること,良性腫瘍といえども小さい方が大きいものより手術が容易であることなどによつている.しかし甲状腺の結節性病変に占める癌の割合は報告者によつてまちまちであり,4%から30%位にまで及んでいる.ことに良性と思われる症例に占める癌の割合についてはほとんど信頼出来る報告がない.その理由は手術患者の選択の問題と医師の甲状腺癌に対する関心の程度の問題とが関係しているからである.そこでわれわれは甲状腺の結節性の病変を全例手術をする方針で臨み,その結果,手術前に良性と診断した症例の内,どの程度に癌が見出されるかを調査した.

術中出血にたいする全血輸血と赤血球濃厚液輸血の検討

著者: 石川正昭 ,   西田貞之 ,   小林進 ,   竹村隆夫 ,   綿貫喆 ,   益子健康 ,   山崎順啓

ページ範囲:P.1753 - P.1759

はじめに
 輸血は日常の診療においてひろく用いられているが,従来,輸血というと全血輸血により貧血を改善することのように考えられ,手術時の出血にたいしても全血輸血が行なわれてきた.しかし,最近では患者が必要とする血液成分のみを与える成分輸血の意義がみとめられ,術中の出血にたいしても赤血球製剤が用いられるようになつてきた.成分輸血の利点として,ⅰ)必要な血液成分を大量に投与することができる.ⅱ)不必要な成分の輸血によりおこりうる副作用の予防が可能である.ⅲ)血液を有効に利用できることなどをあげることができる.現在用いられている主な赤血球製剤には赤血球濃厚液のほかに,洗滌赤血球浮遊液,解凍赤血球浮遊液などがある.赤血球濃厚液と全血を比べてみると赤血球とヘモグロビンの量は同じであるが,赤血球濃厚液では電解質,アンモニア,乳酸や抗凝固剤などの量が少ないことより副作用を軽減することができるという利点がある(表1).しかし赤血球輸血をうけた患者の血液成分,循環動態の変化や手術時出血にたいし赤血球輸血を行なう時の限界などについては十分に解明されているとはいえない.
 著者らは手術患者を対象として,術中の出血にたいし全血または赤血球濃厚液の輸血を行ない,術前,術中,術後における血液成分,血清電解質の変化および循環動態の変動を観察し比較検討を行なつた.また,赤血球濃厚液のみの輸血で可能な手術,出血量の限界について検討を加え,さらに手術時出血にたいし全血輸血をうけた患者,赤血球濃厚液を輸血された患者,輸血をうけなかった患者の3群の術後の状態についても検索したので報告する.

Im領域食道癌の血管造影

著者: 古寺研一 ,   湯浅祐二 ,   平松京一 ,   安藤暢敏 ,   掛川暉夫

ページ範囲:P.1761 - P.1767

はじめに
 現在一般に行なわれている食道の検査法である食道造影や内視鏡検査などは,あくまでも食道の内腔の変化を診断する手段であり,食道癌の外側方向への進展の程度(深達度)は,食道内腔の変化から間接的に推測しているにすぎない.しかし,食道癌の深達度を正確に診断することは,治療方針の決定や予後の推定のために非常に重要であり,食道癌の外側方向への進展を直接所見としてとらえるための1方法として血管造影が行なわれるようになつてきている.われわれは,1974年6月から1980年5月までの6年間に血管造影を施行し,手術などによつて深達度の確認されたIm領域食道癌68例について,血管造影所見と深達度の相関について検討を加えたので報告する.

臨床報告

残胃悪性リンパ腫の1例

著者: 須藤峻章 ,   白羽誠 ,   河村正生 ,   陳世澤 ,   梅村博也 ,   久山健 ,   橋本重夫

ページ範囲:P.1769 - P.1772

はじめに
 胃に発生する悪性腫瘍の大多数は胃癌であり,肉腫は1〜2%1)であるといわれている.胃良性疾患にて胃切除後,残胃に発生した癌については,欧米では,Sch—warz2)以来数百例以上の集計がなされており,本邦においても,松尾3)以来100例以上の報告がみられるが4),胃良性疾患にて,胃切除後,残胃に原発した非上皮性悪性腫瘍の報告は,本邦では9例をみるにすぎない.最近私達は,十二指腸潰瘍にて胃切除後16年に,残胃に原発した悪性リンパ腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

乳腺原発骨肉腫の一例

著者: 山口明夫 ,   東野義信 ,   小西一朗 ,   石黒信彦 ,   野口昌邦 ,   宮崎逸夫 ,   広野禎介 ,   高柳尹立

ページ範囲:P.1773 - P.1777

はじめに
 乳腺悪性腫瘍の中で,肉腫の占める割合は欧米,本邦とも0.3〜3.0%と報告され,比較的稀である.その中でも乳腺原発骨原性肉腫となると,1979年までに本邦において6例の報告を見るに過ぎず,極めて稀有な疾患である.最近われわれは,乳腺原発骨肉腫の一例を経験したので文献的考察を加え報告する.

結腸の単純性非特異性潰瘍の1例

著者: 鬼頭文彦 ,   石黒直樹 ,   杉山貢 ,   工藤琢也 ,   村田晃一 ,   森田修平 ,   有波敏明

ページ範囲:P.1779 - P.1783

はじめに
 近年わが国では腸管の非特異性潰瘍に対する関心が高まつてきているが,従来の内外の報告では多くの病態が含まれておりその概念は統一性を欠いている.最近,厚生省の特発性腸障害調査研究班において本疾患の概念,分類がこころみられている1).結腸の単純性(原発性)潰瘍は比較的まれな疾患であり,本邦における報告例も少いが,われわれは横行結腸に発生したいわゆるsim—ple ulcerと考えられる一例を経験したので報告し,考察を加えたい.

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雑誌「SURGERY」最新号目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1721 - P.1721

SURGERY—Contents, November 1980 Vol.88, No.5 ©By The C. V. Mosby Company
 今回,米国Mosby社の御好意により,世界的な外科雑誌"Surgery"の最新目次を,日本の読者にいち早く,提供出来るようになりました。下記の目次は,発売前にフアツクスで送られてきたものです。この雑誌"Surgery"御購読は,医学書院洋書部(03-814-5931)へお申込み下さい。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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