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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科35巻3号

1980年03月発行

雑誌目次

特集 血管カテーテルの治療への応用

先天性心疾患に対する充填術

著者: 渡部幹夫 ,   鈴木章夫

ページ範囲:P.373 - P.378

はじめに
 先天性心疾患の診断のうえで,心臓カテーテル法,心血管造影法の寄与したところは多大なものがある.一方,カテーテル法を用いて直接先天性心疾患の治療を行なう試みも比較的早期より試みられて来たことは注目に値いする.完全大血管転位症(TGA)に対するBAS法(Balloon Atrial Septotomy)がRashkindにより発表されたのは1966年であり1),この方法によつてTGAやその他の一部の重症なチアノーゼ性心疾患の治療体系は大きな進歩をみた.同年,東ドイツのPorst—mannにより,非開胸的動脈管閉鎖術(Porst—mann氏法)がはじめられている2,3).この方法はその後日本の数施設で症例が重ねられており,その成績は非常に良好である4-6).しかし,この方法が必ずしも全世界的に,多くの施設で行なわれているとはいいがたく,その理由も存在するはずであり,Porstmann法の現況をのべるとともに,その他の先天性心疾患に対するカテーテルによる充填術の試みを紹介して,今後の発展の可能性をさぐつてみる.
 表1にカテーテル法による先天性心疾患治療のこころみの歴史を提示した.

泌尿器悪性腫瘍に対する化学塞栓療法

著者: 加藤哲郎 ,   根本良介

ページ範囲:P.379 - P.386

はじめに
 癌病巣の支配動脈に挿入した血管カテーテルから患者自己組織や異物を注入する腫瘍動脈塞栓法が,各種悪性腫瘍に対するadjuvant therapyとして広く利用されている1,2).当初本法は癌病巣からの出血防止や手術時の出血対策を主な目的としていたが3),最近では腫瘍組織の梗塞壊死を目的とした悪性腫瘍に対する積極的な治療法として位置づけられようとしている.しかし,現在一般に用いられているようなgelfoamやoxycelによつて物理的に腫瘍支配動脈の血行を遮断するだけでは,十分な抗腫瘍効果が得られるかどうか疑問が残るところである.悪性腫瘍に対する腫瘍動脈塞栓法をより満足のいくものにするためには,他の局所治療法を併用して抗腫瘍効果を増強する必要がある.
 一方,高濃度の抗癌剤を長時間にわたつて癌病巣に選択的に接触させ,抗癌剤の腫瘍組織内濃度を高めるとともに,循環血中濃度を出来るだけ抑えて全身性副作用を妨ぐことは癌化学療法の最終目的といえる.一般的におこなわれている静脈内投与や経口投与では,癌病巣の抗癌剤濃度を高めるためには全身循環血中濃度を増す必要があり,結局正常組織に対する毒性が生じて重篤な副作用を招くことになる.これに対処するため癌病巣の支配動脈を用いて高濃度の抗癌剤を選択的に動脈内に注入する方法がとられるようになつたが,単に動脈内注入するだけでは投与薬剤の大部分が癌病巣を経由して静脈から全身循環へ流出することになり,静脈内投与とほとんど同じ結果となる.ここで既存の抗癌剤の剤形を工夫することにより,人工的に選択性と持効性を与え腫瘍組織内に長時間停滞させることが出来れば強力な化学療法が可能となる.

Percutaneous Transluminal Angioplasty

著者: 久直史 ,   平松京一

ページ範囲:P.387 - P.392

はじめに
 Percutaneous Transluminal Angiopla—sty (PTA)は,1964年にDotterらによつて発表されたのが最初である.Dotterらの方法は,狭窄した動脈に対してまずガイド用の細いカテーテルを通過させ,その上からco-axial methodを用いてより太いカテーテルを挿入する事によつて狭窄部位を拡げようとするものであつたが,1974年になつて,ZürichのGrüntzigにより,新しいballoon dilatation catheterによるreca—nalizationが行なわれるようになつて以来,ことに大きな注目を集めるようになつてきている.この方法は,Dotterらの最初の方法に比べ合併症を起こす危険性が少なく,優れた臨床効果が得られるとあつて,ここ数年,症例数も急激に増加しつつある.われわれも最近,2例の腎動脈狭窄に対してPTAを施行し非常に良い結果が得られたので合わせて報告したい.

血管塞栓術(transcatheter embolization)

出血治療;食道静脈瘤塞栓術

著者: 中尾宣夫 ,   杉木光三郎 ,   高安幸生 ,   京明雄 ,   朱明義 ,   岡本英二 ,   宮井満久 ,   石川羊男

ページ範囲:P.303 - P.309

はじめに
 血管造影の手技を用いて治療の目的でカテーテルより血管塞栓物質を注入するいわゆるtrans—catheter embolization法が消化管出血にも応用され,動脈性出血のみならず食道静脈瘤破裂による大量出血に対しても有効で,より確実性の高い止血法としてclose upされてきた1-5).1974年,Lunderquistら6)が始めた本法は,経皮経肝的に肝内門脈にカテーテルを挿入し,静脈瘤への主な副血行路である胃冠状静脈や短胃静脈などに血管塞栓物質を注入する方法(Percutaneous Trans—hepatic Obliteration of Gastroesophageal Va—rices,以下PTOと略す)で,筆者らもこれを用いて胃・食道静脈瘤57症例に延べ73回の塞栓術を行つたので,その方法を中心に塞栓術後の観察結果,問題点などにつき報告する.

出血治療;上部消化管動脈出血の治療

著者: 有山襄 ,   池延東男 ,   炭田正孝 ,   白田一誠 ,   島口晴耕 ,   三隅一彦 ,   禿陽一 ,   白壁彦夫

ページ範囲:P.311 - P.317

はじめに
 消化管の動脈からの出血例に,カテーテルを介して異物を注入し,動脈を塞栓して止血に成功した報告は,1972年,Rösch1)に始まる.この方法はtranscatheter embolizationとよばれ,欧米では本法による消化管出血の治療の有効性について,多数の報告がある.
 消化管出血は本邦でもよく遭遇する疾患で,出血源の診断,重症度の判定および内科的,外科的治療についての報告は多いが,血管造影による治療の報告は少ない.この原因はまず第一に,医療態勢にある.消化管出血はいつ発生するか予測ができないが,血管造影で治療を行うためには,24時間,血管造影が施行できることが必要である.しかし,本邦ではそのような施設は少ない.第二の原因として血管造影による消化管出血治療法が内科医や外科医に十分理解されていないことがあげられる.

肝腫瘍に対する栄養動脈塞栓術

著者: 山田龍作 ,   水口和夫 ,   中塚春樹 ,   中村健治 ,   佐藤守男 ,   伊丹道真 ,   小野山靖人

ページ範囲:P.319 - P.324

はじめに
 血管カテーテル術は造影診断のみならず各種疾患の治療に応用されるようになり,著者らも血管カテーテルを通じ塞栓物質を注入するTranscatheter arterial embolization therapy(以下,embolization)を経験し報告してきた1-3).さらに,著者らは原発性肝細胞癌に対してもembolizationを行ないその良好な成績について報告してきたが1,2,4),現在まで原発性肝細胞癌に対するembolizationの報告は稀れで5-8),その報告例数も少なく,系統的検討はなされていないのが現状である.今回は26例の原発性肝細胞癌に対し行なつたembolizationの治療効果を報告するとともに,本法の肝機能に及ぼす影響や適応についても検討したので報告する.

薬剤の注入

消化管出血に対して

著者: 石川徹 ,   佐藤豊 ,   大迫章生 ,   石田有世 ,   川端正義 ,   白神圭由 ,   今西好正

ページ範囲:P.325 - P.333

はじめに
 1963年,NusbaumおよびBaumが毎分0.5ml以上の消化管出血があれば,それを選択的血管撮影で描出することができることを証明して以来,血管撮影は不可欠の検査となつて来ている1),一方,出血部位の診断と同時に,そのカテーテルを利用して薬物注入あるいはembolizationを行なうことにより出血をコントロールしようとする試みは米国において極めて盛んになり2,3),その臨床的効果については高く評価されて来ている.わが国においては,とくに,embolizationによる治療の発展は特にめざましいものがある.しかし,歴史的にもバゾプレッシンなどの薬物を注入することで始つたこの治療法が全く発展せず,一足飛びにembolizationのみ盛んになつてしまつたわが国の現状は理解に苦しむことである.今回は薬物,とくにバゾプレッシンの持続注入による止血法を詳細に述べ,その有用性を強調したいと思う.

悪性腫瘍に対して;肝癌

著者: 鈴木敞 ,   眞辺忠夫 ,   戸部隆吉

ページ範囲:P.335 - P.342

はじめに
 投与された制癌剤が抗腫瘍性効果を発現するためには,まず一定濃度以上の薬剤が病巣に到達することが大前提である.そのために薬剤は担癌臓器に流入する血管内により,局所性に注入されるほど大なる効果が期待できる.しかし反面,注入臓器の正常機能自体も,高濃度薬剤の影響を受けて,増悪する可能性を考慮せねばならない.例えば,肝硬変随伴肝癌に,強力な局所動注療法を施行し,腫瘍は縮小したが,急速に肝障害が進行して死を早めるごとき場合である.
 周知のごとく肝癌は肝動脈血により支配されるので,肝癌の局所化学療法は,肝動脈内への薬剤投与が一般的である.これら制癌剤による肝癌の動注療法につき,主としてヘパトームを対象として,動注手技や血中α—fetoprotein値の推移からみた抗腫瘍性効果などを中心に述べ,併せてその問題点に言及したい.

悪性腫瘍に対して;乳癌

著者: 小山博記 ,   和田富雄 ,   寺沢敏夫

ページ範囲:P.343 - P.348

はじめに
 制癌剤の動脈内注入療法は,その領域内の薬剤濃度をいちじるしく上昇せしめることができるが,そのわりには全身的な副作用を少なくすることができるという大きな利点がある.これまでに頭頸部,肺,肝,四肢などの悪性腫瘍の治療法の1つとして用いられ,すぐれた効果が認められている.この動脈内投与法は,上記のように支配動脈が割合はつきりしている臓器の癌には施行しやすく,乳癌でもしばしば試みられるようになつてきた1-3,5).われわれはこの方法を局所進行乳癌に対する術前療法として利用してきたが,局所効果,予後ともに一応評価すべき結果が得られている.本稿では乳癌の動脈内化学療法の実際について述べてみたい.

悪性腫瘍に対して;四肢の骨・軟部悪性腫瘍

著者: 赤星義彦 ,   武内章二

ページ範囲:P.349 - P.356

はじめに
 悪性骨腫瘍とくに骨肉腫,Ewing肉腫は10〜20歳に発生するきわめて悪性度の高い腫瘍であり,しかも四肢の場合は罹患肢の切断あるいは関節離断術により,確実に腫瘍の完全摘出が可能であるにもかかわらず,その生命に関する予後は他の臓器癌と比較すると著しく不良である.これは骨肉腫そのものが癌腫に比較してより増殖能の強い未分化型のものが多く,血行性播種がきわめて早いことが大きな要因と考えられるが,その早期診断は現在の段階ではほとんど不可能に近く,われわれがX線診断を下し得る時期には,すでに腫瘍の骨髄内浸潤と破壊はかなり進行しており,癌腫でいえば進行癌に匹敵する段階にあると考えられる.
 また,骨肉腫の好発年齢である10〜20歳代の骨髄は重要な造血器官としての機能を営んでおり,腫瘍細胞の一部は常に血中に遊出する機会を有している.しかも血中に遊出したいわゆる"loose tumor cells"とその肺栓塞は環境の変化によつて肺転移巣形成を来す可能性を有しているにかかわらず,現在の肺X線診断では,この病態を正確に把握することは困難である.
 したがつて,骨肉腫の治療にあたつては,その全経過において全身性疾患としての要素を念頭におくべきであり,局所腫瘍の根治手術に際してはつねに術前・術後の化学療法の併用が必要である.

潰瘍性大腸炎に対して

著者: 馬場正三

ページ範囲:P.357 - P.364

はじめに
 潰瘍性大腸炎はなお原因が明らかでない難治な疾患である.特に重症例は外科的治療と内科的治療の境界領域にあり,その手術適応の決定がむずかしく,諸家の報告により成績が異なる.
 近年手術成績は向上しているが,白鳥ら1)の本邦集計例でも待期的手術の死亡率は6%であるのに比べ,緊急手術例では33%と高く,Goligher2)の報告でもほぼ同様の成績が報告されている.これは良性疾患の手術死亡率としては非常に高いもので,その原因はいろいろ考えられるが,1)全身の栄養状態が極度に悪化している.2)長期ステロイド大量投与例などが多く,感染に対する抵抗性の減弱,創傷治癒の面でも好ましくない状態にある.3)手術侵襲が大きい,などが挙げられる.

血栓症に対する血栓融解剤持続注入療法

著者: 元田憲 ,   追分久憲 ,   川崎英 ,   安田紀久雄 ,   竹田亮祐

ページ範囲:P.365 - P.371

緒言
 近年,血栓性閉塞疾患に対する血栓融解療法が広く臨床応用されており,わが国でも幾多の検討がなされている1-8).この血栓融解剤として世界的にはUrokinase(UK),Streptokinase,一部では,Fibrinolysin等が使用されているが9-15),わが国ではUrokinaseを用いている例が圧倒的に多く,血栓融解療法すなわち,UK療法といつても過言ではない.また,これ程一般化したUK療法ではあるが,その療法に対する未解決の問題も多く,なお,万人が認める安全,確実な療法が完成されていないのが現況である.その最大の理由は血栓融解剤であるUKの投与量をどの臨床検査成績をもとに,コントロールするかが未解決であり,従来の抗凝固療法にみられるごとき,"Heparin療法のコントロールは凝固時間をもつて危険域を知り,経口抗凝固剤投与のコントロールは,トロンボテスト,プロトロンビン時間で行う"等の安全なコントロール方法が確立されていないことに基因している.
 それ故,著者等は従来より安全,確実な療法として局所持続注入療法の検討を行なつてきたが,以下その自験例を中心に血栓融解療法(UK)の実際について考察を試みる.

カラーグラフ 術後内視鏡・1

残胃

著者: 相馬智

ページ範囲:P.290 - P.291

 残胃といつても種々であるが,本項では一般に最も多く行われている幽門側部分切除あるいは亜全摘後の残胃についてのべる.吻合に関しては通常の方法,すなわち切除線の小彎側を縫縮して,大彎側で吻合を行うGastrojejunostomia oralis inferiorについてのべる.
 残胃の観察にあたつては非切除胃と解剖学的にもかなり趣きを異にすること,一番多くみられる疾患や部位を頭に入れて検査の順序を計画しておくと要領よく手ばやい検査が可解である.次のごとく区分して考えておくと便利である.
 1)残胃にとり残された病変,あるいは残胃に新しく発生した病変
 2)縫合線上の病変
 3)吻合口周辺の病変
 4)十二指腸あるいは小腸側の病変

グラフ 外科医のためのX線診断学・22

骨盤内血管造影

著者: 毛利誠 ,   平松京一

ページ範囲:P.293 - P.302

 □後腹膜の動脈(図1)
 骨盤内臓器枝は後腹膜を通じて上方の動脈と吻合しており,後腹膜腫瘍に対してはこれらの吻合動脈から栄養されることも多い.
 子宮動脈は卵巣動脈と吻合し,上膀胱動脈は,下尿管動脈をだし,中直腸動脈は,下腸間膜動脈から派生する上直腸動脈と吻合する.

histoire de la chirurgie アンブロアズ・パレの世界—400年前の大外科医をめぐつて・3

パレとわが国の外科

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.394 - P.397

 □Paré全集とその飜訳
 Paréの論文が,早くから他の言葉に飜訳されて広まつたことは前回にふれた通りである.最初の鉄砲傷の処置に関する論文(1545年)は2年後の1547年にすでにオランダ語で出版されている.その他数々あるが,Paréが,自分の仕事の集大成として発表した"全集"は1575年に初版が出た.医学部医達の反論や中傷をのりきつて,1582年にはラテン語版が出る.それまでのParéの論文は,いずれも正規の医学用語とされていたラテン語には飜訳されていなかつたのである.訳したのはParéの弟子であるJacques Guillemeau(ジャック・ギユモー)であつた.Paréは分娩に関するフランス語の本の最初の著者であり,その伝統をついだのか,Guillemeauは産婦人科医として後に有名になる.しかし,このラテン語訳はあまりよい飜訳ではなかつたのだそうで,それを種本にしたドイツ語版と英語版には内容にひずみが出ていると指摘する人もいる.ドイツ語版は1594年にPeter Uffenbach(ペーター・ウッフェンバッハ)の訳で,また英語版はずつとおくれて1634年にThomas Johnson(トーマス・ジョンソン)の訳で出版されている.
 英語・ドイツ語版がフランス語の初版をもとにしたラテン語版経由の本であるのに対して,オランダ語版は1585年に出た第4版のフランス語版から直接訳されている.この第4版には先に述べているように,"弁明と旅行記"という補章がついていて,Pareの思想や学問の背景となる状況がしるされている.ラテン語版・ドイツ語版にはこの章がなく,おくれて出た英語版にはこの部分はフランス語版から収録されている.またこの部分だけを出版したものもイギリスには多い.オランダ語版の訳者はCarolum Battum(カロルム・バットム)で,現在のベルギーの市Ghent(ゲント)生れの医師で,プロテスタント移住で,オランダのDordrecht(ドルドレヒト)へうつり,そこで1592年に出版する.このオランダ語版はその後数々の版を重ねるが,1627年版と1649年版が,江戸時代の日本に到着している.ドルドレヒトの町は江戸の末期に日本からオランダへ送り出された留学生達が,努力の日々を送つたゆかりの地である.

Emergency Care—Principles & Practice・9

吐血・下血—(その2)上部消化管出血の手術

著者: 川嶋望 ,   古川正人 ,   中田俊則 ,   伊藤新一郎 ,   岩本勲 ,   前田滋

ページ範囲:P.402 - P.411

上部消化管出血の手術適応基準
 すべての救急外科疾患と同様に上部消化管出血においても,状態の把握が不十分なために,手術時期を遅らせたり,失血を恐れるあまりに,手術適応を早まつたりしてはならない.
 ちなみにわれわれが取扱つた出血性胃十二指腸疾患手術症例の来院から手術までの時間を出血状況別にみると表1のごとく,吐血のみで24時間以内に緊急手術を行なつた症例は少ない.また,吐下血患者の緊急内視鏡施行例の経過をみると(表2),約80%が一応止血している.従つて表3に掲げた手術適応基準は手術時期決定の参考事項であつて,患者各々の病態を加味して判断せねばならない.

わが教室自慢の手術器具・2

十二指腸乳頭形成術用ブジー

著者: 中山文夫

ページ範囲:P.413 - P.413

 1952年,Jones,Smith等による十二指腸乳頭形成術Sphincteroplastyは従来の十二指腸乳頭切開術Sphincterotomyに比して,オツジ括約筋が完全に離断されるため,十分な総胆管末端部開口が得られ,かつ開口が持続する利点がある.この手術術式においては,総胆管粘膜と十二指腸粘膜が確実に縫合される事が要求される.しかしながら十二指腸乳頭部はKocherの十二指腸授動術を行なつてもかなり深部に位置し,手術野が狭く,操作に多大の困難性を経験する事が多い.この際教室では従来,上十二指腸総胆管切開supraduodenal choledochotomy開孔より,尿道ブジーを挿入し,ブジー尖端を総胆管の十二指腸開口部に位置させ,ブジーを総胆管内に引き込みながら,縫合切開操作を繰り返して来た.しかしながら尿道ブジーの尖端は半円形をなし,縫合針刺入に際してかなりの不便を感じていた.著者は数年前より尿道ブジー尖端に,図1のごとく彎曲溝を作製し,それに沿つて縫合針を刺入(図2)結紮し,左右の結紮糸の間を十一時の方向に切断し,確実に総胆管粘膜と十二指腸粘膜を縫合するようにしている.この際,ブジーを少しずつ後退させ,縫合切断を繰り返し,得られた開口が拡張せる総胆管径と同じ位になったところで,開口の最深部に縫合針を刺入,結紮する.この中山式十二指腸乳頭形成術用ブジーを用いると総胆管粘膜と十二指腸粘膜との縫合が確実かつ容易に行なわれるため,切開線が総胆管十二指腸部を通過して,腹膜腔内に到達しても,胆汁の腹膜腔内漏出の危険を防止することができ,かつ縫合針刺入が簡単であるため,手術操作が極めて迅速に行なえる利点がある.

臨床研究

下肢動脈閉塞に対する血管カテーテルによる治療—Grüntzig balloon catheterによるPercutaneous Transluminal Angioplastyの経験

著者: 佐藤守男 ,   山田龍作 ,   山口真司 ,   伊丹道真 ,   中村健治 ,   中塚春樹 ,   水口和夫 ,   津村昌 ,   山田正 ,   大野耕一

ページ範囲:P.415 - P.419

はじめに
 動脈硬化性閉塞疾患は,従来欧米において頻度が高い疾患であつたが,近年本邦においても増加の傾向をたどつている.本疾患の非外科的治療法の一つとしてPercutaneous Transluminal Angioplasty(以下,P. T. A)がDotterらにより初めて報告されたのは1964年であり1),さらに1974年にGrüntzigらは,本法に特殊なballoon catheterを用いて良好な治療成績を報告するに到つた2).すなわち,P. T. Aとは,血管閉塞もしくは狭窄部に,経皮的にSeldinger法に準じて挿入した血管カテーテルで内腔を再開通させ,血流を改善する治療法である.外科的治療法の血栓内膜除去術,血行再建術に比し,侵襲が少なく,安全で反復可能で診断即治療を容易に行ない得る.また,外科的治療が困難とされる膝窩動脈より末梢動脈の閉塞の治療にも応用範囲が及ぶ利点もある.
 今回,われわれは,Grüntzigが開発したballoon catheter(図1)を用いて下肢動脈閉塞疾患6例にP. T. Aを試みたのでその経験ならびに成績について報告する.

閉塞性動脈硬化症の血行再建成績—とくに四肢動脈病変について

著者: 田辺達三 ,   川上敏晃 ,   太田里美 ,   横田旻 ,   安田慶秀 ,   本間浩樹 ,   杉江三郎

ページ範囲:P.421 - P.426

はじめに
 近年,平均寿命の高齢化,食生活の向上,社会生活の複雑化,喫煙などと関連して,動脈硬化性疾患が増加してきている.動脈硬化性病変は全身の血管に一様にみられるわけではなく,また欧米例と異なり,われれが扱う症例は四肢動脈の閉塞例がきわめて多く,冠動脈,頸動脈,腎動脈,腹部内臓動脈などの病変例が少ないことは一般に認められている.表1は過去18年間にわれわれが経験した慢性閉塞性動脈硬化症症例213例であるが,四肢動脈の閉塞は164例,77%を占める.
 四肢動脈病変例も検索が詳細になされるにつれ,増加のほか病変が複雑,広範囲,重篤なものを多く経験するようになつてきている.したがつてその外科治療にあたつては,全身的な患者の評価と局所病変の詳細な把握にもとづいて手術適応を決定しなければならない1-5).ここでは四肢慢性閉塞例についてわれわれの経験を述べてみたい.

臨床報告

腹腔動脈起始部圧迫症候群の1例

著者: 稲田正男 ,   重松宏 ,   団野誠 ,   三島好雄 ,   草間悟

ページ範囲:P.427 - P.430

緒言
 本症候群は1963年Harjola1)が初めて報告して以来,欧米では多くの臨床報告例がある.特徴としては,不定の腹痛,心窩部での収縮期雑音,側位大動脈造影での腹腔動脈起始部の狭窄所見などが挙げられている.また,これとは反対に,本症候群の存在を疑う報告もある7).今回,教室で本症候群の一例を経験したので若干の考察を加えて報告する.
 なお,文献上,本邦では本症例が最初の臨床報告例と思われる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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