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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科35巻6号

1980年06月発行

雑誌目次

特集 最近の呼吸管理法をめぐるQ&A

外科領域での呼吸不全

著者: 藤井千穂 ,   鈴木幸一郎

ページ範囲:P.833 - P.839

 ○本稿では外科領域の呼吸不全ということで,おもに急性呼吸不全について述べていく.
Q1 呼吸不全,ARDS,ショック肺とは?
 1.呼吸不全(respiratory insuMciency or  failure)
 呼吸不全の普遍的な定義はまだ確立されたものはない.呼吸不全とは「動脈血ガス分析値に異常をきたし,そのために生体の正常機能が障害された揚合で,循環不全に対応するもの」といわれている1〕.そしてPao2<60mmHgまたはPaco2>49mmHg(Campbell2)),Pao2<50mmHgまたはPaco2>50mmHg(Filley3))をその境界値としている.もちろんPao2については,年齢などの因子を考慮しなくてはならない.
 一方,肺(機能)不全(pulmonary insuMciencyor failure)という言葉もある.これは心不全に対応して用いられ,肺を中心とした呼吸器系の機能が障害され,生体の要求に応じられない状態をいう.このように呼吸不全と肺不全との間には必ずしも明確な区別はなされていない.

外科的疾患と肺

著者: 斉藤英昭 ,   玉熊正悦

ページ範囲:P.841 - P.847

Q1 敗血症と呼吸不全の関連は?
 化膿性腹膜炎や重症胆道感染症などの敗血症が呼吸不全を発生しやすく,かつ,このさいの呼吸不全がこれら症例の予後を左右する重要な因子であることは周知の事実である1,2).すなわち急性呼吸不全例の80〜90%は敗血症がその原因疾患で,逆に敗血症例の50〜80%が重篤な肺障害を発症するといわれ,とくにこの場合,"septic lung"とよばれる.自験腹部重症感染症例の極期肺シャント率をみても,非感染性疾患にくらべ有意に増加していた(図1).

術後の予防的人工呼吸

著者: 勝屋弘忠 ,   岡元和文 ,   八田泰彦

ページ範囲:P.849 - P.855

Q1 予防的人工呼吸とは?—そのメリット,デメリット
 上腹部手術後に,肺炎などの明らかな肺合併症がなくとも低酸素血症が起こり,回復するのに数日から1週間かかることは昔からよく知られている.このいわゆる術後低酸素血症が起こるメカニズムについてはいくつかの考え方がある.この中でも,術後には表1に示すような機能的残気量(FRC)減少あるいはclosing volume(CV)増加を来す病態がしばしばみられ,そのため正常のFRC>CC〔Closing Capacity(closing volumeと残気量の和)〕の関係が逆転してPO2低下を来すメカニズムが重要と考えられる.
 近年,手術手技,麻酔学の進歩などで,従来は手術適応とならなかつたような症例にも手術が行なわれるようになつた.その結果,肺合併症を含む術後合併症の頻度は相変らず決して低いとはいえない状況にある.特に術前より心肺機能に異常を有する高齢者とか,あるいはリスクの良い患者でも長時間の開胸・開腹術など侵襲の大きな手術後は,かなり高率に無気肺や肺炎などの肺合併症を起こしやすい.これは当然低酸素血症をさらに増悪させる.

人工呼吸の実際

著者: 江端範名 ,   吉川修身

ページ範囲:P.857 - P.863

Q1 気道確保の方法とその管理は?
 人工呼吸管理上の気道確保の方法には,3つの方法があり,おのおの,長所,短所があるので,それを考慮して,その適応を選ぶべきである(表1).意識下気管内挿管1)や,気管切開術の手技は,成書を参考されたい.ここでは,各々の気道確保にあたつての注意点について触れてみる.
 気管内挿管で筋弛緩剤を使用したい時,低酸素血症などにより,心臓の被刺激性が亢進している場合は,SCCの使用は危険であるから,非脱分極性筋弛緩剤を使うのが良い.(脊髄損傷,重症熱傷,腎不全患者等でも同様である).その場合,意識をとるには,Diazepam 10〜25mgを,血圧などに応じて静注する.意識下挿管でも,Morphineを5mg単位で,血圧をみながら,総量20mg位の範囲で静注すると,やりやすい.但し,胃内容の逆流が予想される時は,その限りでない.経鼻挿管は,余裕をもつて,鼻腔内の出血や消毒に留意する.4%キシロカインを,鼻粘膜によく噴霧し,2〜3分待つて,綿棒4〜5本にて鼻腔内をマーゾニン消毒する.すでに経口挿管されている症例では,口腔内を,イソジン含漱水で洗浄消毒しておく.ついで,Phenylephrine20mgを綿棒にひたして,鼻粘膜に塗布する.その後挿管を施行する.

Weaningの実際

著者: 瀬戸屋健三

ページ範囲:P.865 - P.871

Q1 Weaningとは?
 器械による人工換気は,ある程度の時間継続しなければ重篤な呼吸障害のため生命の維持が困難である場合に適応されているものの,人工気道によつて気道を確保し間欠的に陽圧を加えて肺を膨張させることは,調節呼吸であれ補助呼吸であれ,それ自体はきわめて非生理的なことである.
 したがつて適応が可逆的病変であるかぎりは,呼吸障害が改善されつつあり自分の筋力で需要量にみあつた呼吸仕事量の継続が可能となつた時期に,できるだけすみやかに器械をとりはずし,自力で生理的呼吸を始めるようにすべきでありこの過程をWeaningという.

カラーグラフ トピックス・2

Cryosurgeryの内視鏡応用

著者: 山崎忠光 ,   堀江健司 ,   鈴木正明 ,   佐藤真 ,   望月智行 ,   市川純二 ,   辻本安雄 ,   奥山輝之 ,   菊嶋慶昭 ,   横田広夫 ,   城所仂

ページ範囲:P.822 - P.823

はじめに
 この治療法の適応としては,(1)止血,(2)ポリープや良性腫瘍の除去,(3)ATPや小さな悪性腫瘍の除去,(4)手術不能進行癌のpalliation等が挙げられる.
 (1)については,oozing様の出血に対して,かなり有効であることがわかつている.(2),(3)に関しては,total biopsyができるという意味を含めると,polypectomyの方に利点があると考えられる.

グラフ 外科医のためのX線診断学・24

CTスキャン—胸部

著者: 石川徹 ,   築根吉彦

ページ範囲:P.825 - P.831

□胸部CTの解剖および注意事項
 CT像はwindow,centerなどの設定の違いによつて全く異なつた情報をもつ画像ができあがるので,"見た目の美しい"画像より,何を描出するかによつて厳しい条件で画像を作り出すことが大切である.われわれの施設におけるwindowの1例を紹介する.縦隔および腹部の場合は150〜200,肺野では400である.
 縦隔の場合は心臓の動きや,肺野との濃度の違いが大きいためartifactが生じやすいので注意を要する.artifactを縦隔の石灰化と誤診することがしばしばみられる.小さな肺野の病変の濃度を測定するときは,その病変の周辺は空気であるので,partial volume phenomenonのため実際より低い値がでることが多いので気をつけるべきである.

histoire de la chirurgie アンブロアズ・パレの世界—400年前の大外科医をめぐつて・5【最終回】

パレの生地をたずねる旅

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.873 - P.877

□Montpellier(モンペリエ)1971年
 Ambroise Paréが全集に追加して旅行記を書いたのは,すでに述べたように,彼に対する批判に反発するためであつた.
 Paréの全集に因んで,私も旅行記でこの連載をしめくくろうとするのだが,これにはParéのような意図があるわけではない.ただ一臨床外科医が「Ambroise Paréの世界」に足をふみこむようになつた経過を,年代や地名と共にタネ明しをしておくべきだと考えたからである.

わが教室自慢の手術器具・7

バルーン付カテーテル,屍体内臓器灌流装置

著者: 本多憲児

ページ範囲:P.878 - P.879

 私の恩師武藤先生は手術は腕で行なうものであり器械で行なうものではない故,新しい器械等は必要なく,何でもそこにあるもので手術すればよいというご意見であつた.私も先生の教えが正しいと考えておるので残念ながら教室自慢の手術器具はないと自慢している.
 但し私は人の生命は神より与えられたものであり,生命の果つるときは神がお召しになると考えているので,神は生きている人の生命を健やかに育てるには神の御召にあずかつた人の一部でも生きている人のために役に立てば神の御心に従うものと考えている.この意味に於て神に召された方の臓器を神により生命を与えられている人のために移植することが許される.しかし「脳死」が法的に認められていない日本においては完全なる古典的死後臓器の提供をうける.しかし,ここで問題なのは温阻血時間(Warm Ischemic Time, WIT)である.すなわち死の宣告より臓器摘出までの時間である.日本の慣習よりすれば「只今おなくなりました」と宣告して直ちに臓器摘出では「死の尊厳」の冒涜となりまた遺族の心情を害することにもなる.このことは屍体臓器移植の大きなネックであつた.教室では家族が死者との別れをおしむ死後数時間は開腹することなく屍体をそつとして屍体内臓器を新鮮に保存する方法がないかと考えバルーン付カテーテル及び屍体内臓器灌流装置を考案した.本装置により既に4遺体より8腎の提供をうけ,8人の受腎者に腎を移植,非常に良好な成績を得た.以下その構造等について説明する.

シリーズ対談《死を看取る》・2

臨終宣告はSocialなことを加味して

著者: 近藤臺五郎 ,   相馬智

ページ範囲:P.883 - P.892

 相馬 本日は「死を看取る」という命題の第2回目でございますが,早胃検理事長の近藤臺五郎先生においでいただきまして,内科医の立場から見た死の看取り方というお話をおうかがいしてみたいと思います.
 死を看取ると申しましても,いわゆる臨終の瞬間のみのことではなくて,そこに至るまでのいろいろな過程を踏まえた上での人間の終わりを看取るということを,内科の立場からお話しいただければと思つております.

Emergency Care—Principles & Practice・11

外傷総論

著者: 川嶋望

ページ範囲:P.893 - P.897

はじめに
 外傷患者の診療にあたつては,受傷部位に応じた重症度・緊急度を判断し,必要があれば専門医に協力を求めると共に,簡単な創傷処置,包帯・副木法を実施し,かつそれぞれの部位における外傷の予後を推定する能力が必要である.
 自損・他損や受傷機点の如何を問わず,外傷患者に対しては,
 1.救命救急処置
 2.器官の機能保持
 3.正しい創傷処置
を行なうことを念頭において対応すべきであり,救命救急処置のみにとらわれてはならない,また,多発外傷では脳神経外科・整形外科をはじめ,境界領域の合併損傷や突然搬送された外傷患者が重篤な内科的基礎疾患を有することが考えられることもあり,それだけに広い知識が必要となる.また,外傷の重症度が高いが故に,四肢や顔面の創傷処置をおろそかにして良いと言う理由はない.

臨床研究

各種胃手術術式と胃内容排出能の検討

著者: 長堀順二 ,   榊原幸雄 ,   江里口健次郎

ページ範囲:P.899 - P.904

はじめに
 胃手術後にみられる胃部膨満感,もたれ,嘔気,嘔吐などの各種の愁訴は胃内容排出能に関与する場合が多く,このことは手術術式とも密接な関係を有するものである.
 このような術後消化器症状の発現と術式の関係を追及する目的で,われわれは従来よりアイソトープ法によるgastric emptying-timeの測定を試みてきた1).そこで,われわれの行なつているGastric Emptying Test (以下,GEと略す)の方法や胃内容排出線に対する解析ならびに消化性潰瘍を中心とした各種の胃手術術式と胃内容排出能の関係についての成績を報告する.

膵嚢胞の臨床

著者: 秋山守文 ,   浅石和昭 ,   戸塚守夫 ,   早坂滉

ページ範囲:P.905 - P.911

はじめに
 膵嚢胞は欧米においても比較的まれな疾患とされ,その主な成因はアルコールによる膵炎であるが,本邦ではアルコールによる激症の膵炎は少なく,従つて膵嚢胞もまれな疾患といえるが,最近では真性嚢胞に比し仮性嚢胞が増加しつつある1,2)
 われわれは現在までに膵嚢胞18例を経験したので自験例を中心に分類,成因,症状など,文献的考察を付加しつつ述べたいと思う.

非観血的胆道遺残結石除去法に関する1考察

著者: 宇山幸久 ,   浜口正伸 ,   西山文夫 ,   井上光郎 ,   角田悦男 ,   北村宗夫 ,   藤原晴夫 ,   森一水 ,   中井義弘 ,   原田邦彦 ,   三木啓二

ページ範囲:P.913 - P.917

はじめに
 今日,経皮的胆管造影法あるいは内視鏡的逆行性膵胆管造影法の進歩により術前に胆管結石の存在部位や個数の判明することが多く,外科医は結石の存否に関しては不安なく手術の遂行が出来る場合が多くなつた.それにもかかわらず,なお遺残結石は術後の5%前後に存在すると言われ1-3),胆道外科における問題点の1つである.
 術後T-tubeからの胆管造影により,結石遺残が判明した場合,本疾患が良性疾患であるための再手術の困難性があり,最も憂慮すべき術後合併症の1つである.このため,非観血的に結石除去を試みようとする種々の方法がみられる.

臨床報告

原発性虫垂癌の4例

著者: 猪野満 ,   武内俊 ,   千葉宏俊 ,   田中隆夫 ,   藤田正弘 ,   宮城島堅

ページ範囲:P.919 - P.926

はじめに
 原発性虫垂癌は比較的稀な疾患と言われているが,われわれは過去5年間に4例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

多発骨折後脂肪塞栓症候群の1剖検例

著者: 林純一 ,   松沢秀郎 ,   江口昭治 ,   石原法子

ページ範囲:P.927 - P.930

はじめに
 脂肪塞栓症候群については,未だその病因,治療等について未解決の問題が多く残されているが,病態像の解明にしたがい,acute respiratory distress syndrome(以下ARDSと略す)との関連で興味ある問題が提起されている.本邦では欧米に比し脂肪塞栓症候群の臨床報告例,動物実験報告が少なく,この疾患の病態,治療等を評価する基準は確立されていない.更に近年の強力な呼吸管理法の進歩に伴い,他の急性呼吸障害を呈する疾患と病態の類似性が指摘され,この疾患の独立性についても疑いをもつ向きも出てきている.今回,筆者らは比較的急速に進行した多発骨折後脂肪塞栓症候群の1例を経験したので,特にその肺における病態に考察を加えて報告する.

胸腔内迷走神経より発生したschwannomaの1治験例

著者: 松浦雄一郎 ,   田村陸奥夫 ,   山科秀機 ,   肥後正徳 ,   藤井隆典 ,   福原敏行

ページ範囲:P.931 - P.935

はじめに
 胸腔内迷走神経より発生する腫瘍は,非常に稀なものとされており,本邦ではわずかに数例の報告を散見するに過ぎない.
 今回,わたしどもは左胸腔内迷走神経より発生したschwannomaの1例に遭遇,外科的に摘出したのでここに簡単に症例報告することとする.

腹壁に穿通した後腹膜嚢腫の1例

著者: 高橋正二郎 ,   高松正之 ,   小川将

ページ範囲:P.937 - P.940

はじめに
 後腹膜腔に発生する腫瘍中嚢腫性のものは比較的報告例が少ない.われわれは最近20年に亘る長い経過をとり更にこの嚢腫が腹壁に穿通して二連球型腫瘤を形成した例を経験し手術的に治癒せしめ得たのでその概要を若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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