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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科36巻10号

1981年10月発行

雑誌目次

特集 膵炎診療のControversy 鑑別診断をめぐる問題点

Q & A

著者: 中沢三郎

ページ範囲:P.1523 - P.1527

 Q.急性膵炎の確定診断はいかにして下せるか? 急性膵炎は上腹部激痛,発熱,嘔吐などを訴えて来院することが多く,その診断は比較的容易であるが実際には腹膜炎,胆嚢炎,虫垂炎や心筋梗塞などと誤認されることもあり鑑別は時に難渋する.しかも,一刻を争つて治療を開始せねばならない重篤な症例が多いことから本症の確診は急を要する.本症の診断に必須なのは短時間に実施される血清アミラーゼの測定である.アミラーゼは膵炎による実質障害や膵管閉塞が起こると門脈系およびリンパ管を通じて血流中に出現する.膵炎発生後,2〜3時間で血清アミラーゼは上昇し始めるが3〜4日で正常化し,これに代わつて尿中にアミラーゼが出現し,しかも長期にわたつて異常高値が持続する.また白血球数,血沈,CRPなどとも相関するので経過観察にも利用される.尿中単位時間排泄量測定が信頼性があり筆者らは一週間連続法を行なてついる.しかし,アミラーゼの上昇は病状の程度と一致しないことがあり,また,膵癌,胃穿孔,腸閉塞,子宮外妊娠破裂,肝炎,巨大アミラーゼ血症さらには多飲時にも上昇することがあるので各々の鑑別を必要とするが具体的には他書を参考にされたい.また重篤な場合には却つて低下することもあるのでやはり,一般臨床症状や血液生化学的検査,ECG,胸腹部X線撮影などの諸検査成績を参考にすべきである.以上,血清や尿アミラーゼは急性膵炎の特異的診断法ではないがスクリーニング,経過観察の判断には有用である.
 腎障害時にはアミラーゼ排泄も不良となり血清で高値を尿中で低値を示すことがあるが,血液,尿と腎との関連を表わしたのがACCRである.正常値は2〜3%で急性膵炎になると5〜6%にも上昇するので高アミラーゼ血症の鑑別に応用される.自験例100例の検討では明らかに臨床症状からも膵炎発作と考えた5例では4.9〜6.4%と異常高値を呈したが,軽症と考えられた膵炎例では3%前後が多い.また,胃潰瘍例,肝障害例でも2.5〜6.9%,1.6〜7.1%と異常値を示す例もあり,やはり本法のみでは急性膵炎の確診が得られない.

Q & A

著者: 斉藤洋一 ,   関田幹雄 ,   杉原順一 ,   田中龍彦 ,   宇佐美真

ページ範囲:P.1529 - P.1537

 Q.急性膵炎の(確定)診断におけるアミラーゼ測定の意義は?
 膵病変によつて血液や尿中に出現あるいは増減するもののうち,傷害膵から血中に逸脱する膵酵素は膵病変の存在を示唆する一つの指標となる.Wohlgemuthの業績により血液,尿のアミラーゼの測定が比較的簡便に行なわれるようになり,以来アミラーゼは膵疾患の診断に繁用され,急性膵炎や慢性膵炎の急性増悪にさいして欠かすことの出来ない検査法となつている.

Review

著者: 竹内正

ページ範囲:P.1539 - P.1544

はじめに
 膵疾患の診断のさい,既往歴,現症の経過を含め,臨床症状から膵疾患の可能性を考えて,諸検査をすすめてゆくことが重要であることはいうまでもない.
 膵疾患が疑われたならば,それが急性膵炎や慢性再発性膵炎の急性再燃のごとき急性疾患であるか,慢性膵炎ないし,膵癌のようなものであるかによつて検査法は異なつてくる.

急性膵炎の手術適応とタイミング

Q & A

著者: 中野哲 ,   蜂須賀喜多男

ページ範囲:P.1547 - P.1554

 Q.重症度の判定と手術適応の決定を如何に行なうか?
 急性膵炎は上腹部の激痛発作と悪心,嘔吐等の腹部症状を伴うことが多く,これらに血液am—ylaseの著明な上昇がみられた場合,本症と診断されることが多い現状である.しかし,無痛性の急性膵炎1)もあり,最も重視されている血液am—ylaseの異常上昇は,病期によつてはみられなかつたり(false negative),あるいは,膵以外の病変で見られたり(false positive)するので2),上記の条件を満たしても必ずしも急性膵炎と診断するには問題がある.
 本症の重症度判定を論ずるにあたり,まず本症の正確な診断が前提になるので,われわれが臨床的に急性膵炎と診断した症例のなかで,開腹手術によつて膵の肉眼的所見を確認したものか剖検で本症と診断がつけられたもの以外はすべて除外するという厳しい診断のクライテリアを満たす症例のみをretrospectiveにみて急性膵炎の重症度判定の資料に供し検討して来た3).一方,逆に開腹あるいは剖検例のみを検討すると,開腹せず内科的治療で治癒した本症の軽症例が検討から落ちる可能性があるが,重症度の判定基準の検討であるから,あくまで確診例のみをとりあげた4)

Q & A

著者: 香月武人 ,   小牧文雄

ページ範囲:P.1555 - P.1562

はじめに
 急性膵炎は,自然治癒し得る軽症急性浮腫性膵炎から,きわめて高い死亡率を示す急性壊死性出血性膵炎に至るまで,種々の重症度を呈する.また,急性膵炎の症状に何がしかの特色はあつても決して特異的ではなく,的確な早期診断は必ずしも容易でない.一般的には,急性膵炎は,嘔気・嘔吐を伴い,急速に漸増する上腹部痛で発症し,背部痛を伴うが,突発する疝痛発作で発症することはほとんどない.また,重篤な印象にもかかわらず,腹部の理学的所見が乏しい.さらに,発熱に先立つて頻脈が出現することが多いが,shockの発現は発症16〜24時間後といわれ,早期にshockを発症した場合は壊死性出血性急性膵炎の可能性が強い.これらの手がかりをもとに,血中・尿中amylaseの高値を確認して急性膵炎の診断がほぼ確定される.
 急性膵炎が確定されると,輸液,胃液の吸引排除,抗蛋白分解酵素剤,抗生剤の投与などで治療され,ほとんどの症例が24〜48時間以内に軽快の兆しを示すが,約10%の症例では,これら初期の姑息的治療で改善がみられず,救急手術を行なうという治療方針が従来の合意であつた18).しかし,high riskな症例に関しては,早期の手術治療が有効であるとする報告が最近相次ぎ,high riskの判定と,手術の時期に関心が強い.

Q & A

著者: 宮崎逸夫 ,   小西孝司

ページ範囲:P.1563 - P.1568

はじめに
 急性膵炎は活性化した数多くの膵酵素によつて引き起こされる疾患であり,大多数の症例は単に局所的な膵のみの炎症にとどまらず,全身の諸臓器も障害され,重篤な病状を呈する.
 その治療法の変遷を顧みると,1940年頃までは早期手術が盛んに行なわれていたが,死亡率は高かつた.1950年代になると,抗生剤,抗酵素剤,輸液療法の進歩によつて,むしろ,内科的療法が主流を占めるようになつた.近年では麻酔の進歩や,術前術後の患者管理の向上から,保存的療法で改善の兆しがみられぬ症例は,早期に外科的療法を行なうべきと再認識されだした.さらに最近では,重症例に対しては,もはや内科的治療では限界があり,積極的な外科的治療の必要性が強調されるようになつてきている.

Review

著者: 水本龍二 ,   日高直昭

ページ範囲:P.1569 - P.1575

はじめに
 急性膵炎に対する治療法は今世紀当初から,外科的治療の手術死亡率が高く保存的治療が良い成績を示したことや,膵炎病態生理の本態は間質浮腫から膵炎の増悪,全身諸臓器の障害に至るまで膵酵素を中心とした一連の悪循環にあることなどから,輸液,膵外分泌の抑制,抗ショック療法を中心とした積極的保存療法が本症治療の原則となつている.
 一方最近の強力な患者管理のもとでは急性膵炎の症例に手術を行なつても死亡率は増加しないといわれており,また出血性壊死性膵炎などの重症型膵炎では強力に保存的治療を行なつても死亡率に改善がみられないことなどから再び外科的治療法がみなおされてきている.

慢性膵炎の手術適応と術式の選択

Q & A

著者: 佐藤寿雄

ページ範囲:P.1577 - P.1582

Q.手術のタイミングは?
 慢性膵炎の手術適応に関する諸家の見解は,内科的治療の無効なもの,および種々の合併症を有するものということに要約される.内科的治療の無効なものにはじまり,腫瘤や嚢胞形成のみられるもの,黄疸や胆道疾患を合併するもの,膵管閉塞および癌が疑われる場合などのほか上部消化管出血,重症糖尿病,脾静脈の狭窄,十二指腸狭窄あるいは前回手術の失敗例などがあげられている.著者らは,(1)疼痛が著しく内科的治療の無効なもの,(2)膵嚢胞,膵膿瘍や膵瘻を合併するもの,(3)胆管狭窄や胆道疾患を伴うもの,および(4)膵癌合併あるいはその疑いがあるもの,を手術適応と考えている.
 一方,内科的治療との関連,すなわち手術の時期が問題となる.外科の立場では形態学的,機能的に障害の少ないものでは手術後に膵機能の改善がみられるものがあることから,早期の手術を主張するものが多い.しかし内科側の見解としては,疼痛が消失,軽快したり,終始無痛のものは約80%にみられることから,合併症のない慢性膵炎のほぼ80%は内科的管理が可能であり,早期に発見して適切な治療を行なえば膵炎の進展を阻止することが可能であるとの報告もある.外科側のいう早期とは膵管の拡張も高度でなく,機能障害も軽度のものと考えたいが,内科側ではこの段階では内科的管理が可能であるという.内科的治療の限界をどの時点に求めるかは極めてむずかしい問題であるが,現在の段階では内科的治療の無効なものを手術適応の一つとして提示している以上,ある程度進展したものを対象とせざるを得まい.著者は頑固な疼痛が反復し,体重が減少しはじめた場合には,糖尿病や石灰化がみられる以前に外科的治療の対象とすべきものと考えている.但し,この場合,膵管が拡張しているという前提がある.しからば膵管の拡張がみられない場合にはどうするか.このような場合,左内臓神経切除術兼腹腔神経節切除術を行なつて疼痛を寛解させ,膵管の拡張を待つとするものもいるが,著者も内科的管理のもとに膵管が拡張するまで手術を延期した方がよいと考えている.

Q & A

著者: 羽生富士夫

ページ範囲:P.1585 - P.1590

はじめに
 慢性膵炎の手術適応や術式の選択を論ずる場合,いわゆる慢性膵炎の基本的な成り立ちをどのように理解するかが第1に重要である.いわゆる慢性膵炎には二つの基本的なタイプが存在する.一つは,膵全体にびまん性に実質の線維化をみるもので,これを膵管造影像からみてみると,主膵管・分枝ともに全体にわたつて多発性で不規則な狭窄と拡張を示すもので主としてアルコール性慢性膵炎に特徴的な所見であり,われわれはびまん型と称している.もう一つは,膵の一部に限局した病変をもち,導管としての主膵管に狭窄あるいは閉塞を来し,その上流膵管および分枝は,均一な拡張を示し,その流域膵実質のみに線維化をみるもので,急性膵炎後あるいは外傷後などにみられるいわゆるupstream pancreatitisというべきもので,われわれはこれを,限局型と称している.勿論,各々の型のなかには軽重があり,また一方の型に他方のなりたち原因が加わることもあり,互いに病像を修飾しあつて複雑な様相を呈する.限局型であつても,主膵管狭窄ないし閉塞が膵頭部すなわち下流に近くあればある程,びまん型同様に終局的には膵全体の実質の荒廃,線維化という運命をたどるものと考えられる.以上のように,いわゆる慢性膵炎を,膵管造影像からみて,びまん型と限局型の二つの基本的なタイプに分けて,その観点から手術適応や術式選択に関する最近の見解を述べてみたい.

Q & A

著者: 早川哲夫 ,   野田愛司 ,   近藤孝晴

ページ範囲:P.1591 - P.1596

はじめに
 慢性膵炎は持続性,進行性の病変であり,経過とともに膵内外分泌機能は次第に低下し,膵およびその周辺臓器に各種の障害が現われる.本症の治療をその目的により分けると,①成因の除去,②膵機能の保全,回復,補填,③鎮痛,④合併症の予防,除去,などが挙げられ,それぞれ内科的あるいは外科的方法がある.
 本稿では慢性膵炎の手術適応と術式の選択について内科の立場から,とくに,本症の経過,予後を内科治療例と対比しながら述べてみたい.

Review

著者: 土屋凉一 ,   山口孝 ,   角田司

ページ範囲:P.1599 - P.1606

はじめに
 PSテストやPFDテストの普及,ERCP,US,PTC,CT-scanなどの発達により,機能的にも形態学的にもわれわれの診断し得る慢性膵炎は増加の傾向にある.
 慢性膵炎の治療法は元来内科的治療が主体であつたが,内科的治療に抵抗する症例の増加や,慢性膵炎の発生機序および病態生理が漸次解明されて来たために,外科的治療の有効性も認められるようになつた.

グラフ Conference 総合画像診断のすすめ方・9

腹部膿瘍

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1515 - P.1522

 腹部膿瘍の臨床症状および各種映像診断法による所見は非常に多彩である.治療の行なわれない症例における致死率は100%に達するという報告もあり,治療の遅れた症例では,合併症あるいは後遺症が高頻度に発生する1).反面,悪性腫瘍と異なり,迅速な診断と適切な治療により完全治癒を期待できる疾患であり,種々の画像診断法を適切に駆使することにより,その存在を確認するとともに有用な治療指針を得ることができる.
 本稿では腹部膿瘍の検索に通常使用される腹部単純撮影,超音波,CT,核医学の各画像診断法の特徴的所見,適応あるいはその限界などについて症例を提示しながら考えてみたい.

わが教室自慢の手術器具・22

腸管吻合器(TKZ-F3000,TKZ-F3002)

著者: 遠藤光夫 ,   高崎健 ,   小林誠一郎

ページ範囲:P.1611 - P.1612

 この腸管吻合器は腸管の円周状の内翻一層吻合を一期的に行ない得る器械として開発されたものである.本器のオリジナルデザインはソヴィエトで製造されたものであり,アンドローゾフ式のPKS-25,PKS-28,SPTU,などがあるが,このオリジナルの器械は多少の欠点があり臨床症例でこれらの器械の作動不良による事故が数例起こつたため,国産での改良型を作成し,現在の型のものとなつた.現在は口径及び長さの異なる2種類の器械がある.食道吻合とか空腸吻合用のものは全長40cm,吻合部口径が26mmであり(図1),直腸吻合用のものは全長30cm,口径32mmである.先端の円垂型の頭部部分は中心幹に連がり,手もとのネジの操作で本体より押し出されたり,引き戻されたりする.この部の本体先端と接する面の外周にはクリップを受け,これを内側に屈曲させる溝が堀られている.そしてその内側にビニール製の円形の板が装着され,これは円形刃を受けるまな板となる.本体の先端部の外周にクリップが装着される(食道用のものは13本,直腸用は17本).その内側に円形刃があり,手もとのハンドルを握ることにより,ロッドによりクリップとともにこの円形刃も本体より押し出される.クリップは幅4mm,足高4.5mmで平板型のタンタルム合金製である.本器による吻合の原理は図2のごとくである.すなわち吻合すべき腸管の内に本器先端部を挿入し,頭部と本体との間で吻合すべき腸管の断端を中心幹に結紮し,この両者間にしつかりとはさみ込む.これは手もとのネジにより行なう.次いでハンドルを握ることによりクリップ縫合とともにその内側の結紮された腸管断端部の切断が行なわれる.本器を用いて現在までに経腹的食道離断術100例,胃全摘術後の食道空腸吻合20例,直腸低位前方切除28例を行なつているが良好な成績である.
 食道離断術においては,胃体部前壁に小さな胃切開をおき,ここより本器を挿入し,先端を腹部食道に透導しこの部で本器の頭部を押し出し,本体との間隙で食道の全周を外側よりしつかりと中心幹に結紮し,腹部食道の離断再吻合を行なうわけである.食道空腸吻合では端々吻合を行なう時にはRoux吻合を行なう部より先端を挿入する.端側吻合時には先端のρ吻合を作成する前に断端より挿入して行なう.直腸低位前方切除後の再建時には,肛門より本器を挿入して結腸又は回腸との吻合を行なう.しかしながらこの腸管吻合器があれば通常の縫合技術のテクニックをマスターしていない者でも完全な吻合が行なえると考えるのは誤まりであり,十分に通常の縫合技術を持つた者が,本器のメカニックを十分に理解した上で用いることにより,はじめて確実な器械吻合を行なうことが出来るわけで,通常の縫合が行ないにくい場所での吻合でも短時間で容易に行ない得るというメリットが生まれるのである.

外科医のための臨床MEの知識・6

観血式血圧モニタの実際とその問題点

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.1615 - P.1619

直接法と間接法
 血圧の測定には二つの方法がある.マンシェットと聴診器および水銀柱によるものと,血管内に,生理食塩水で満たしたカテーテルを挿入し,血圧を体外に導き,血圧トランスデューサで測定するものの二つである.前者は間接法もしくは非観血式と呼ばれ,後者は直接法もしくは観血式と呼ばれる.
 間接法は,道具も手技も簡単であるが,静脈圧は測定できず,ショック状態の異常低血圧時にも測定できなくなる.

臨床研究

慢性膵炎と膵癌の鑑別診断—CTおよびUSによる検討

著者: 鈴木敞 ,   内藤厚司 ,   宮下正 ,   戸部隆吉

ページ範囲:P.1621 - P.1625

はじめに
 "慢性膵炎と膵癌の鑑別"は常に古くて新しい難問を提起しつつ現在に至つてきた.この永遠のテーマに,果して最新の画像診断法がどこまで迫りうるか,CT(コンピューター断層撮影法)とUS(超音波診断法)で懸命模索中のわれわれの成績の一端を披瀝する.
 CTはscan間隔,slice厚を通常1cm,小病変をみるときは5mmとする.Plain studyとcontrast studyの両者を併用比較することが肝要で,とくに後者では十分なる量の造影剤急速注入下に撮影する.それにより病巣描画のみならず,描画された病巣のcontrast gradingをも併せ勘案するのである.例えば,図1A,Bは膵頭部癌同一例のplain studyとcontrast studyによるCT像である.図1Aのplain studyでは膵頭部の一様な腫大をみるにとどまつている.これにcontrast studyを付加すると図1Bのごとく周辺血管と共にはじめて癌病巣が浮き彫りにしえた.とりわけ本例では同一膵の非病巣部に比し癌病巣部は著しい低濃度野として描出されている.われわれのいうcontrast grade 1に属する病巣である.後述するように腫瘤形成型の慢性膵炎病巣ではかかる著明な低濃度に至ることは稀である.かくのごとく膵癌と膵炎の判別にもcontrast studyは不可欠なのである.

腸骨動脈病変に対するFemoro-Femoral Bypassの臨床的検討—特に術後steal現象に関して

著者: 松原純一 ,   平井正文 ,   河合誠一 ,   太田敬 ,   瀬古俊幸 ,   桜井恒久 ,   塩野谷恵彦 ,   伴一郎

ページ範囲:P.1627 - P.1632

はじめに
 血管外科の本筋は,本来の解剖学的形態にのつとるように血行再建をする事であるのは言を待たない.しかし症例によつては種々要因から,直達根治血行再建の不可能な場合も多い.こういつた症例に対して,いわゆるExtraanatomic Bypassを作るようになつてから久しい1-6).腹部大動脈及び腸骨動脈の閉塞・高度狭窄病変に対するExtraanatomic Bypassは,Axillo-Femoral Bypass(以下A-F Bypass)2)及びcross-over Femoro-Femoral Bypass(以下F-F Bypass)1)が代表である.患側でのA-F Bypassにするか,良側よりのF-F Bypassにするかの選択は,A-F Bypassは距離が長いのと圧迫のために,閉塞率が高くなるので,できればF-F Bypassが良い.これら術式にもしかし,種々問題点があり,名古屋大学医学部分院外科における症例をもとに,F-F Bypassに関して,特に術後steal現象について検討を加えた.

乳癌組織にみられる石灰沈着とその診断的意義—とくに早期乳癌の診断について

著者: 大橋俊文 ,   竹村浩 ,   金井忠男 ,   田島滋 ,   土屋周二 ,   戸沢隆

ページ範囲:P.1633 - P.1639

はじめに
 乳癌集団検診の普及や,乳癌に対する一般的な知識の啓蒙により,早期乳癌症例が増加しつつある1,2).われわれの施設においても,過去2年間に手術した乳癌62例のうち,T1 N0 M0の早期乳癌は24例(38%)であり,1977年以前の同期症例21%(23/112)に較べ著しく増加していた.この原因としては,本邦における近年の食生活の変化に伴う,乳癌の発現頻度の増加と3,4),乳癌の各種補助診断法の発達5-8)が考えられる.
 一方,乳癌の治療は,局所的には外科療法や放射線治療が,全身的には免疫化学ホルモン療法が行なわれているが9-12),乳癌を根治し得る治療法は,未だ見出されていない.しかし早期に発見し得た乳癌に外科的治療を行なえば,良好な治療成績が得られることが報告されている13-16).現在,乳癌の治療成績の向上には,乳癌の早期発見と早期治療を実現する事が,最も重要であると考えられる.

血友病患者の手術と補充療法—後腹膜血腫の手術治験例

著者: 小代正隆 ,   竹之下満 ,   富加見章 ,   吉永淳教 ,   野口真 ,   西満正

ページ範囲:P.1641 - P.1644

はじめに
 血友病は凝固因子のⅧ因子(A),Ⅸ因子(E)の欠乏による遺伝性疾患として凝固障害の代表的疾病である.男子10万人につき4〜11人の生存患者がいるといわれている.今日これら血友病患者の治療及びコントロールは,因子製剤の開発により外科手術においても比較的容易となつた.われわれは大きな後腹膜血種により疼痛,水腎症を合併した血友病A患者を手術により軽快せしめたので報告する.

臨床報告

組織学的に悪性所見を呈した食道Granular Cell Tumorの1例

著者: 佐々木哲二 ,   青木春夫 ,   笠原正男

ページ範囲:P.1645 - P.1649

はじめに
 食道に発生したgranular cell tumorの報告は少なく,1980年までに欧米で24例1-19),本邦で3例20-22)の報告があるにすぎない.
 本腫瘍は,良性腫瘍として分類23)されているが,われわれは,下部食道に発生し,組織学的に悪性所見がみられた症例を経験したので報告する.

燕麦細胞癌の像を呈した早期食道癌の1例

著者: 桑野博行 ,   池田正仁 ,   夏田康則 ,   岡村健 ,   杉町圭蔵 ,   井口潔 ,   岩下明徳 ,   遠城寺宗知

ページ範囲:P.1651 - P.1654

はじめに
 早期食道癌は食道癌取扱い規約1)で,「癌浸潤が粘膜下層までにとどまり,リンパ節転移のないもの」と定義されている.この定義に従い鍋谷ら2)は1977年7月までの101例を集計し,このうち7例に癌再発死を認めている.最近われわれは燕麦細胞癌の像を呈した食道の早期未分化型癌で,術後9ヵ月の早期に局所再発をきたした1例を経験したので報告し,臨床的並びに病理学的に若干の検討を加える.

原発性肺クリプトコッカス症の1切除例と本邦報告例について

著者: 中井肇 ,   坂井邦典 ,   笠原潤治 ,   原藤和泉 ,   米花孝文 ,   岡本幹司 ,   卜部貴光

ページ範囲:P.1655 - P.1658

はじめに
 クリプトコッカス症は,Cryptococcus neoformansによつて起こる感染症で,病原体は自然界に広く分布し,汚染された土壌,鳩の巣,鳩の排泄物などを介し,主に気道から侵入し,まず肺に原発巣を作り,次いで全身に播種され,髄膜炎などをおこすことが多いとされている.肺に限局し,他に播種されていない状態のクリプトコッカス症は,原発性肺クリプトコッカス症と定義されている.本症の術前診断は困難で,報告例の多くは,術中あるいは術後の検索で本症と診断されている.われわれは肺癌の術前診断で左上葉切除を行ない,術後,原発性肺クリプトコッカス症と診断された1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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雑誌「SURGERY」最新号目次

ページ範囲:P.1613 - P.1613

SURGERY—Contents, September 1981 Vol.89, No.9 ©By The C. V. Mosby Company
 今回,米国Mosby社の御好意により,世界的な外科雑誌"Surgery"の最新目次を,日本の読者にいち早く,提供出来るようになりました。下記の目次は,発売前にファックスで送られてきたものです。この雑誌"Surgery"御購読は,医学書院洋書部(03-814-5931)へお申込み下さい。本年の年間購読料は、施設\22,100,個人\15,600です。雑誌は,ST. LouisのMosby社より,直送いたします。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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