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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科36巻11号

1981年11月発行

雑誌目次

特集 迷切後の諸問題

消化管ホルモンの変化

著者: 杉山貢 ,   土屋周二

ページ範囲:P.1689 - P.1701

はじめに
 近年,国内外において,消化性潰瘍に対して迷走神経切離(断)術(以下:迷切と略す)が次第に普及し,臨床的にも評価されつつある.すでに1922年Latarjetにより,十二指腸潰瘍に対して迷切により胃分泌を抑制して,潰瘍を治療しようという試みが行なわれた.しかし,この方法が普及するようになつたのは,1943年にDragstedt & Owensが全迷切の有効性を提唱してからである.しかし,全迷切だけでは術後障害が多すぎるので,これにドレナージ手術が附加され,その結果,治療効果も高まつた.かくして迷切術は欧米で広くうけ入れられ,その後Harkins,Griffith,Nyhus,Smithwick,さらにはHart,Holle,Am—drup,Johnstonらにより迷切の術式の改良がなされ,殊に十二指腸潰瘍に対する最も一般的手術法となつた.迷切自体も,全迷切,選択的胃迷切(以下:選迷切)さらには選択的近位迷切(以下:近位選迷切)などと各種の迷切術が相次いで考案された.
 一方,わが国では,広範囲胃切除術は早くから安全で,治療効果が高いという評価を得,消化性潰瘍の標準的手術として広く普及した.その後胃切除術にもいくつかの問題点があり,ことに胃切除後に発生するダンピング症状,小胃症状,代謝栄養障害などが指摘されるようになつた.そこでこれらの諸問題をはじめとして,いろいろの術後障害を避けるため,わが国でも迷切術が徐々にとり入れられ,1960年には選迷切兼小範囲切除術の有効性が報告されて以来,各所で迷切術が行なわれるようになり,特に最近では,前述した壁細胞領域だけの迷切である近位選迷切が導入されて,その治療効果も確かめられてきた.一般に迷切術は理論的に治療の目的に叶うばかりでなく,胃を大きく切除しないという点で,はなはだ魅力的ではあるが,その反面,未解決な点も多い手術である.例えば,迷切術は潰瘍発生に対して攻撃因子の一つである胃酸分泌を抑制するが,これと同時に消化管における分泌・運動機能に対する体液性調節機構に何等の変動がおこると推定される.しかしこれについては未解決の点も多く,現在各方面より研究が進められているのが現状であろう.

潰瘍の再発

著者: 松原要一 ,   奈良井省吾 ,   若桑正一 ,   高桑一喜 ,   田宮洋一 ,   鰐渕勉 ,   松尾仁之 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1703 - P.1708

はじめに
 慢性胃・十二指腸潰瘍,いわゆる消化性潰瘍に対する外科治療は,主として胃酸分泌を適度に減少させることにあるが,これにはできるだけ潰瘍の再発をおこさせないようにしながら,できるだけ胃機能を温存させ,術後障害を少なくさせることが要求される.そのため最近では,潰瘍を含め幽門側の胃を約2/3切除する広範囲胃切除術(conventional partial gastrectomy,以下,広胃切と略す)だけでなく,潰瘍の位置,胃酸分泌能,成因など各症例の条件に応じて迷走神経切離術(vagotomy,以下,迷切と略す)が小範囲の胃切除術との併用ないし単独で施行されるようになつた.しかし迷切は胃機能を温存した分だけ潰瘍再発の危険が大きいわけで,その適応と術式について今後も検討しなければならないと思われる.
 ここでは著者らの教室の各種手術成績を述べ,迷切の適応について再発の面から検討を加えたい.

術後の愁訴および障害

ダンピング症候群

著者: 池内準次 ,   秋元博 ,   青木照明 ,   山口吉康 ,   長尾房大

ページ範囲:P.1709 - P.1714

はじめに
 胃手術後(切除術)の術後愁訴のうちの大きな問題点の1つにダンピング症候群がある.本症候群は原疾患が悪性疾患のときは余り大きな問題とはされていない.しかし,良性疾患として,消化性潰瘍のごとき場合の本症候群の発現は,術後愁訴として大きくとりあげられる.これらの考え方は原疾患よりみて当然といえよう.
 良性疾患,消化性潰瘍の術式の選択の規準として,術後の死亡率,潰瘍再発の問題,術後愁訴など総合的に判断して,術式を求めるべきことは極めて当然である.少なくとも本邦においては胃潰瘍の場合の術式は,幽門側胃部分切除術(広範囲切除術)が標準的なものとされている.しかし,十二指腸潰瘍においては,胃切除術か迷走神経切離術か,いずれがbetterか論議が多い.ここで両術式の優劣を論ずる必要もないが,十二指腸潰瘍において,迷切術式が胃切除術より優るという論拠は,胃分泌機構の動態,消化管ホルモンの研究よりみて,酸分泌抑制作用が,胃切除術より生理学的に理論的であるという考え方から成り立つているようである.また迷切術は胃切除術より術後障害の面でも,とくにダンピングの発生頻度が低いという利点が迷切術支持者から強調されている.

胃内容停滞

著者: 渡部洋三 ,   近藤慶一郎 ,   加藤弘一

ページ範囲:P.1715 - P.1721

はじめに
 1943年,Dragstedt1)によつて広められた迷走神経切離術(以下,迷切術)は,幾多の先駆者2-10)によつて術式の改良が行なわれ,現在施行されている迷切術は,選択的胃(選胃)迷切術兼胃半切術,選胃迷切術兼幽門洞切除術(幽切術),選胃迷切術兼幽門形成術(幽成術)および選択的近位(選近)迷切術±幽成術などである.これら迷切術のうち術後に胃内容停滞をきたすのは選近迷切術を除いた例である.迷切術は消化性潰瘍に対して行なわれているが,胃癌に対する幽門側胃切除術のうち,1番のリンパ節廓清が行なわれた例は全幹迷切術となることが多いので胃内容停滞をきたす可能性がある.しかし残胃が小さい例が多いためその頻度は極めて小さく,本稿ではとり上げない.
 今回は1977年から1981年6月までに教室で行なつた選胃迷切兼幽切術67例および関連病院で行なつた19例計86例を中心に,文献上の成績も加えて胃内容停滞の病態,予防および治療について述べる.

下痢,消化吸収障害

著者: 白鳥常男 ,   中谷勝紀 ,   村田省吾

ページ範囲:P.1723 - P.1728

はじめに
 消化性潰瘍,特に十二指腸潰瘍に対する外科的治療として,迷走神経切離術(迷切と略す)が広く施行されるようになつて来たが,一方,術後の愁訴や障害についても,検討を加える必要がある.
 迷切の方法は,1943年のDragstedt以来,全迷切が行なわれていたが,術後の下痢の発生頻度が高く,これは肝枝や腹腔枝を切離するためであるからとの考え方から,これらを温存する選択的迷走神経切離術(選迷切と略す)がHarkinsらにより行なわれるようになつた.しかし,選迷切においても胃運動の低下がみられるので,胃運動機能を温存する目的の下に選択的近位迷走神経切離術(選近迷切と略す)が行なわれるようになつた.

アカラジア様症候

著者: 吉野肇一 ,   片桐誠 ,   山藤和夫

ページ範囲:P.1729 - P.1735

迷切後のアカラジア症候とは?
 1947年にMosesが初めて迷切後に生じた著名な嚥下困難をアカラジアとして報告した1).それは44歳の男で,十二指腸潰瘍で行なわれた胃切除後に発生した吻合部潰瘍に対し,横隔膜上で行なわれた迷切後10日目に発症したもので,腹腔神経節ブロックで治療された例である.その後,迷切後の嚥下困難の臨床症状やX線所見(図1)が,食道アカラジア(噴門痙攣,噴門無弛緩症)によく似ているところから,迷切後のアカラジア,またはアカラジア様症候と呼称されている2,3),この際の嚥下困難の程度はさまざまで,食物の食道内下降が遅延する感じに始まり,やがて固型物の嚥下が困難になり,さらに数日後には液体も通過困難となるのが典型的とされている4)
 われわれは本症を,迷切後1〜2週に発症するがん固な嚥下困難症で,その程度は術直後は可能であつた経口摂取がほとんど不能となる程高度のもので,そのために輸液療法,さらには入院期間の延長を要するものとして取扱つている.迷切以外でも食道下部,噴門部を操作する手術,例えば胃全摘,噴門部切除,あるいは噴門部のリンパ節郭清を徹底的に行なつた幽門側胃部分切除などのあとでも,患者によくたずねてみると,多かれ少なかれ,食物のつかえ感を訴えることが多い.これらは症状の強さや存続期間から本症とは区別して取扱つている.

グラフ Conference 総合画像診断のすすめ方・10

縦隔腫瘍

著者: 宗近宏次 ,   古瀬信 ,   相原敏則 ,   福島鼎 ,   三沢吉雄 ,   大阪顕通 ,   松岡緑郎

ページ範囲:P.1679 - P.1687

 〔症 例〕58歳の男性.既往歴に42歳時,胆嚢切除術.家族歴に特記すべき事項なし.
 1979年3月頃より労作時に顔面と頸部のflushingに気付く.同年7月頃より背部痛が加わり,胸部X線で異常陰影を指摘された.同年9月に自治医大病院に紹介され,以後,経過観察されていた.1980年1月頃より,起床時の顔面のむくみ,労作時の顔面,頸部のflushingと前腕の腫脹が増強し,同年4月に入院する.

寄稿

十二指腸潰瘍に対する壁細胞領域迷走神経切離術—特に,10年遠隔成績について

著者: ,   Søren ,   ,   榊原幸雄 ,   蔵本守雄

ページ範囲:P.1737 - P.1741

はじめに
 十二指腸潰瘍の外科的治療法としては,未だに多くの異なつた術式が行なわれている現状にある.
 胃切除BⅡ法術式は,長年に互つて広く用いられてきた方法であるが,その遠隔成績はこのような良性疾患に対するものとしては必ずしも許容し得るものではない.すなわち,術後,十分な満足度を示すものはほぼ60%にすぎず,致死率は3〜5%とされている.また,重症後遺症の発生率は5〜10%を示し,その半数はダンピング症候群と下痢であり,しばしばこのための病弱者をも作るようになり,このような患者は長期間に亘つて外科医や内科医を悩ますことになる.そして,これらの患者に対し種々の治療法が試みられてもきたが満足な成績は得られず,現在のところ,重症ダンピング症候群に対する治療法としては,適応は限定されるもののSawyers & Herrington15)による逆蠕動性空腸分節挿入法が最良の方法であろう.

わが教室自慢の手術器具・23

私の使つてみたい手術器具の考案

著者: 古味信彦

ページ範囲:P.1744 - P.1745

 門外不出,教室独自の手術器械器具の紹介ということで投稿を依頼されて久しい.この欄の趣旨は良く理解できるし,有意義な企画として敬意を表したいが,ここには私が使つてみたい手術器具のideaをまず示し,手術器械をつくつていられる方に「ideaを売ります」という意味の原稿もあつてよいのではと考え,どなたかこのような器械をつくつて試用させては下さいませんかと呼びかけてみたいと思う.
 この図に示したのは直腸前方切除用古味式圧挫器である.現物がわが教室にあるわけではないので,使用経験を述べることはできないが,試作してくれる方にはこの種の器械器具のお願いをして,出来たものについてはまず動物実験から始め,改良を加えて臨床に実用化させてゆく機会を与えてほしいと念願している.

学会印象記

欧米における迷切術の現況と展望—International Symposium;Verdict on Vagotomy(1981年2月19日〜21日,於・スイス)に出席して

著者: 青木照明 ,   秋元博

ページ範囲:P.1749 - P.1753

はじめに
 1972年1月"Vagotomy on Trial"というsymposiumがRotterdamで開かれ,Cox, A. Alexander・Williams, J.らによつて出版された.あれから9年,確かに欧米においてはもちろん,わが国でも迷切術に関する臨床的,実験的研究が精力的に重ねられ,最も新らしい考え方あるいは手術方法とされてきた選択的近位迷走神経切離術(以下,選近迷切術)でさえ,広く臨床応用がなされるようになつてから十年余を経ており,Vagotomyそのものに対して,ある評決あるいは"判決"(Verdict)を下すにたる時期に達しているものと思われる.
 ところで,今回のsymposiumでも話題の焦点となつた選近迷切術であるが,わが国では"臨床応用"の創始者であるHolle教授に敬意を表して,彼等の命名であるSelective Proximal Vagotomy=SPVと呼ぶのが一般的であるが,周知のごとくHolle教授の唱えるSPVは,すべてdrainageを付加する手術であり,1957年Griffth-Harkinsによる実験的Partial Gastric Vagotomyの真のmeritはwithout drainageにあり,その"臨床応用"はAmdrup-JohnstonらによるHighly Selective Vagotomy=HSVであるとする考え方から,SPVとHSVを区別して使う傾向があるようである.すなわち,SPVといえばwith drainageを意味し,HSVといえばwithout drainageを意味するとするものである.しかし,その中間をとり,Proximal Gastric Vagotomy=PGV(±drainage)と呼ぶ人達もいる.さしづめ,わが国における選近迷切術の現況からすると,PGVに相当するニュアンスかと思われる.

座談会

迷切研究会10年をふりかえつて—1981年4月9日,於・東京プリンスホテル

著者: 榊原幸雄 ,   山岸三木雄 ,   田北周平 ,   江崎治夫 ,   石川浩一

ページ範囲:P.1755 - P.1762

研究会発足10年の概観
 石川(司会)第10回迷切研究会に当たり,お世話役の江崎治夫先生から,迷切研究会10周年記念に研究会10年の歩みについて座談会をするようとのことでございます.
 発足当時にとくにご努力いただいた山岸三木雄先生と田北周平先生のお2人を中心にしてお話しいただきたいと思います.すでに第1回迷切研究会について「胃の迷切をめぐつて」と題して「臨床外科」第27巻第9号,10号に掲載していただきましたので,そのご縁で,この第10回についても「臨床外科」に掲載していただくことになりました.

臨床研究

菌血症症例におけるDIC発生に関する臨床的検討

著者: 田中孝也 ,   安井達 ,   中川佳己 ,   浅尾寧延 ,   引間正彦 ,   千代孝夫

ページ範囲:P.1763 - P.1767

 はじめに
 近年,重症感染症の起炎菌はグラム陰性菌がその主体をなし,従来のグラム陽性菌感染とはかなり異なつた病態を呈してきている.このグラム陰性菌はエンドトキシンを産生するため高率にショックを合併してくる.しかもエンドトキシンは血管内凝固症候群(DIC)を発生させる大きな誘因因子とされている.したがつて敗血症,菌血症にDICを合併すれば,その病態はさらに複雑多岐となり,その予後は極めて重篤なものとなる.
 私どもの施設では各科に亘る重症救急患者の収容,治療にあたつているため重症感染症例に多々遭遇し,しかもおのずとDIC発生症例も多くなる.DICは種々の基礎疾患に各種の誘因が加わり発症してくるものの,そこには宿主側の要因も大きく関与してくる.今回,私どもは菌血症症例におけるDIC発生およびその予後の重篤度等を検討した.

肝膿瘍の超音波診断—とくに鑑別診断および超音波穿刺術について

著者: 渡辺栄二 ,   水谷純一 ,   田代征記

ページ範囲:P.1769 - P.1776

はじめに
 従来より肝嚢胞,肝膿瘍などの肝の嚢胞性疾患の診断には超音波検査法は有用な診断法とされており,とくに最近のリアルタイム超音波診断装置,臓器穿刺用探触子の登場により肝膿瘍に対しては診断のみならず治療まで行なえるようになり,本症に対する超音波検査法はきわめて有力となつてきた1)
 今回われわれはアメーバ性肝膿瘍の2例と細菌性肝膿瘍3例の計5例を経験し,肝膿瘍の超音波診断,とくに鑑別診断,超音波穿刺術について二,三の知見を得たので,各症例を供覧し,若干の文献的考察を加えて報告する.

腸重積症を起こした転移性小腸腫瘍について

著者: 豊島宏 ,   板東隆文 ,   井上雅晴 ,   田中勲 ,   太中弘 ,   松井泰夫 ,   武村民子

ページ範囲:P.1777 - P.1781

はじめに
 成人の腸重積症は比較的稀なものであるが,腸疾患の鑑別診断には常に念頭においておかなければならない.成人では腫瘍が原因になることが多いが,転移性腫瘍による症例は本邦では極めて少なく,わずか4例の報告をみるに過ぎない.著者らは転移性小腸腫瘍による腸重積症の3例を経験した.血管内皮腫の転移1例,肺癌の転移2例であるが,この3例にはいくつかの共通した特徴が認められた.今後,肺癌の増加などに伴つてこのような症例も増加し,臨床面でもいろいろと問題になると考えられるので,自験例を報告し,本邦報告例と合わせてこの特有な病像について検討する.

臨床報告

201Tlシンチグラフィーで描画された上皮小体腺腫の1治験例

著者: 高野邦夫 ,   畠山勝義 ,   大坂道敏 ,   岩渕真 ,   伊藤正毅 ,   小田野幾雄

ページ範囲:P.1783 - P.1787

はじめに
 術前201Tlシンチグラフィーで陽性に描画された上皮小体腺腫による原発性上皮小体機能亢進症の一治験例を経験治癒せしめえたので若干の考察を加えて報告する.

胃へ転移した悪性黒色腫の1例

著者: 水本清 ,   鎌迫陽 ,   小酒浩 ,   金島新一 ,   小松健治 ,   山代昇

ページ範囲:P.1789 - P.1792

はじめに
 悪性黒色腫は,小さな原発巣でも短期間に全身へ転移をおこす予後の悪い疾患である.悪性黒色腫の消化管への転移も,最近の消化管診断技術の向上により診断されるようになつたが,その予後はきわめて悲観的である.今回,われわれは原発巣切除後3年目に胃転移をきたし,胃切除術により術後2年間生存しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えこれを報告する.

先天性胆嚢欠損症の1例

著者: 北野正義 ,   宇佐見訶津夫 ,   神谷厚 ,   水野孝 ,   谷本典隆 ,   小谷彦蔵 ,   稲熊秀樹

ページ範囲:P.1793 - P.1796

はじめに
 先天性胆道奇形は比較的多く,剖検例の約1割に見られると言われているが,このうち先天性胆嚢欠損症はきわめて少なく,外国での報告によると0.01%1)〜0.09%2)であり,本邦では泉雄らの調査3)により,0.045%と報告されている.今回われわれは,上腹部痛を主訴として来院し,諸検査の結果胆石症と診断され開腹するに,先天性胆嚢欠損症であつた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

長期にわたり特異なbehaviorを示したGrawitz腫瘍の1手術例

著者: 黒柳弥寿雄 ,   加古健 ,   藤田治樹 ,   壺井孝良 ,   安江満悟

ページ範囲:P.1797 - P.1800

はじめに
 腎細胞癌に対する腎摘出術の予後は転移がいつ,どこに起こるかによつて決定される.一般に10年生存率でみると18〜23%である1-3).ところが原発不明の転移巣は腎癌を疑えといわれるように初発症状が転移巣のものであとになつて原発巣が発見される症例もかなり多い4).一方においては腎摘出術によつて遠隔転移巣が消失,縮小することが従来より知られており,また腎細胞癌のなかには非常にゆつくりした経過をとるものや,腎摘後多年の間隔をおいてから転移巣が発見されるような報告もあつて,そのbehaviorは極めて多彩である5-11).本報告は発症から腎摘出術までに14年,腎摘後4年半と11年目にそれぞれ孤立性の肺転移が発見され,いずれも摘出が可能であつた全経過25年に及んでいるslow gro—wing typeの腎細胞癌の一例について報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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