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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科36巻7号

1981年07月発行

雑誌目次

特集 上部消化管出血—保存的止血法のトピックス 内視鏡を用いた止血法

バルーンタンポナーデ法

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.1053 - P.1060

はじめに
 盲目的に行なわれる手術操作や処置は不確実であり,危険が伴う.種々の操作や処置は直視下に行なうのが原則であり,また安全かつ確実である.部位によつてこれがどうしても不可能な場合には,次善の策として,X線,内視鏡,超音波などを利用して直視下に近い条件を実現することにより,安全性と確実性を向上させることができる.
 食道および噴門部静脈瘤破裂に対する緊急止血処置として従来から実施されてきたバルーンタンポナーデ法は,誰にでもできる簡単な方法であり,またバルーンによる圧迫が適切に行なわれれば確実に止血することが可能である1).しかし①出血部位を正確に確かめずに,②盲目的に圧迫がなされるために,止血に失敗することも多く,またこの方法による合併症の報告も少なくない1〜4,10)

Injection Sclerotherapy

著者: 高瀬靖広 ,   岩崎洋治

ページ範囲:P.1061 - P.1067

はじめに
 食道静脈瘤に対して内視鏡的に薬剤("硬化剤")を注入する治療法には,1939年Crafoord, C. ら1)によつて報告された食道静脈瘤内注入法と1960年Wodak, E. 2)による食道静脈瘤周囲注入法があり,ともにこれまで食道静脈瘤出血に対する止血および手術不能例に対する保存的治療法として試みられてきた.われわれは1977年10月より食道静脈瘤内に薬剤を注入する方法を試みており,注入薬剤にはJohnston, G. W. ら4)が採用した5%Ethanolamine oleate(以下5%E. O. と略)を用いているが,第一義的に食道静脈瘤内の血栓形成を目的としている.食道静脈瘤周囲注入法は,注入薬剤による食道静脈瘤の圧迫,注入薬剤によつて引き起こされる炎症による組織の硬化を目的としているが,食道静脈瘤によつては炎症によつて血管自体が破壊されることも考えられる.いずれにしても,方法や手技を問わず,近年食道静脈瘤に内視鏡的に薬剤を注入する治療法は"Injection sclerotherapy"として一括して総称される傾向にあり5),わが国では"硬化剤注入法","硬化療法"などと称されている.したがつてわれわれの方法もInjection sclerotherapy(注入硬化療法)に属しているが,食道静脈瘤内に血栓を形成させ血管内を閉塞するという立場を具体的に表わすために"Endoscopic embolization(内視鏡的栓塞療法)"と仮称している6).以下,われわれの方法による食道静脈瘤出血に対する緊急止血について手技的事項を中心に述べる.
 われわれが行なつている食道静脈瘤に対する食道静脈瘤内注入法による治療の要点は,確実に血管内に十分な量の5%E. O. を注入することである.図1はわれわれの方法のシェーマで原則としてX線透視下で施行しているが,本治療法には以下の装置,器具,薬剤を必要とする.
 1.食道内視鏡検査に必要な器具一式.
 2.付属器具(図2,3)
  1)20G食道静脈瘤穿刺針.
  2)口側balloon(Scopeに装着)
  3)肛門側(止血用)balloon
 3.薬剤
  1)5%E.0. 40ml
  2)48%Angiografin 20ml=65% Angiografin 15ml十注射用蒸溜水5ml.
  3)Thrombin 1000単位:注射用蒸溜水5〜6mlに溶解.
 4.X線透視撮影装置.Over tubeのtypeの方がよい.

焼灼法

著者: 上田治 ,   平塚秀雄 ,   檜山護 ,   長谷川充輝 ,   内山喜一郎 ,   高橋亨

ページ範囲:P.1069 - P.1073

はじめに
 救急医療としての対応のせまられる患者を目前にした場合,われわれ臨床医は何かひとつの得意の技倆を発揮し,適切な治療を施し,もしそれが救命に直結したならば,それは臨床医としての誇りであり,また常日頃そのような診療体系づくりに努力しなければならない.上部消化管出血はまさにこうした対応にふさわしい消化管系のem—ergencyの疾患群であり,その対策の新しい技術の開発は目ざましい.
 内視鏡的止血法の主なものをとりあげてみると,高周波電流による内視鏡的直視下凝固止血法をはじめとして,クリッピング止血法,薬剤撒布による止血法,薬液局注による止血法さらにはレーザー止血法など,それぞれ画期的な方法として注目をあびているのが現状といえよう.

レーザー

著者: 並木正義 ,   水島和雄

ページ範囲:P.1075 - P.1080

内視鏡的レーザー止血法の歴史と現況
 内視鏡的レーザー止血法の歴史は,1970年Go—odale1)らがイヌを用いて実験的に胃に出血性びらんをつくり,これに硬性内視鏡を通してCO2レーザーを照射し,止血を試みたのに始まる.その後,1973年にNath2)らが石英ガラスによるfle—xibleなレーザーガイドファイバーを開発し,消化管へのレーザーの応用が可能になつた.臨床例への使用は1975年のFrühmorgen3,4)に始まる.そして1976年以降から臨床におけるレーザー止血法に関する発表がさかんになりだした.いまあげたFrühmorgen5)をはじめ,Kiefhaber6),Dw—yer7),Silverstein8,9)その他による臨床報告があいついでなされ,1970年代後半の欧米はまさにレーザー止血法の時代に入つた感があつた.一方,わが国におけるレーザー止血法の臨床例の発表は,1978年,教室の原田10)によつて初めてなされた.その頃,ごく限られた数カ所の施設において基礎的研究がなされていたにすぎなかつたが,最近ではレーザー装置を有する医療機関が30カ所をこえ,これについての基礎的,臨床的研究の論文発表11-17)も次第に増加し,遅ればせながらわが国でもようやくレーザー止血法を主体としたlaser endoscopyのささやかなブームのきざしがみえてきた.このようにレーザー止血法に関しては,日本はまだ初期の段階であり,各施設の経験例も,欧米に比べると,あまりにも少なく,桁が違う.この方面の第一人者であるFruhmorgen や Ki-efhaberらの豊富な経験例数をみると,その開きの大きさを痛感する.もちろん早くから手がけているので症例数が多いのは当然であるし,救急医療体制が進んでいること,また上部消化管出血例が日本より実際に多いのかもしれないが,しかしこれらの症例が,はたしてレーザーでなければ止血し得なかつたものであるかどうかは疑問である.外国の報告にケチをつけるつもりは毛頭ないが,高価な装置を用いたレーザー止血法によらなくとも,もつと簡単で,安価な方法により止血できれば,それにこしたことはないし,現実にそういう場合もかなりある.また日常の臨床において消化管出血というものは,一般的な止血対策と適切な患者管理によつて止血する例が意外と多い.
 筆者らもレーザーによる止血例の経験を積むため,関連病院その他の医療機関と密接な連絡をとり消化管出血の患者を送つてもらうことにしているが,実際のところ運び込まれた吐血例にレーザー治療を行なおうと思い,様子をみているうちに,その必要もなく止血してしまう例が少なくない.だいたい出血例の80%は適切な内科的治療と慎重な経過観察でそのまま止血する.生体というものは,そのへん実にうまくできているといえよう.レーザーによる止血の経験例を増やそうと思えば,運び込まれた出血例について,直ちにレーザー治療を行なえばよいわけだが,いかに研究途上であるとはいえ,症例数を増やすことが目的ではないし,そのような行為は真の臨床家としてとるべきではない.パイオニアはいろいろな例にためしてみることはもちろん必要であろうが,初期の段階が過ぎれば,やはりレーザーでなければならない絶体的適応はどのような例か,またどんな場合かを慎重に吟味し,その目安を具体的に決めることが大事であろう.

動脈塞栓療法

transcatheter embolization

著者: 有山襄 ,   池延東男 ,   白田一誠 ,   島口晴耕 ,   三隅一彦 ,   須山正文 ,   白壁彦夫

ページ範囲:P.1081 - P.1087

はじめに
 1972年,Röschはvasopressinの動脈内持続注入で止血できなかつた胃潰瘍からの出血例に,患者の自家凝血を血管造影のカテーテルを介して動脈内に注入し,出血動脈を塞栓して止血に成功した1).以後,消化管出血の動脈塞栓術による治療の報告が多数,発表された.本法は消化管出血の治療に有効な方法である.出血動脈径に関係なく止血が可能で,一般状態の悪い患者にも施行できる.合併症もほとんどない.
 われわれは過去6年間,血管造影による消化管出血の治療を行なつてきたので,その適応,施行方法および効果について報告する.

緊急止血のための薬物療法

ピトレッシン

著者: 草野正一 ,   真玉寿美生 ,   辻光昭

ページ範囲:P.1089 - P.1096

はじめに
 脳下垂体後葉からの抽出ホルモンであるバソプレシン(商品名ピトレッシン)は,1956年Kehneら1)によつて食道静脈瘤破裂患者の止血治療薬としてはじめて臨床応用されている.ピトレッシン10〜20単位を5%ブドウ糖液100〜200mlに溶解して約20分間で点滴静注する.この大量静注法は,静注をやめるとすぐ再出血することが多く,かつ繰り返して大量静注するとだんだん効果がうすれる過耐性のあることもわかり,わが国においても臨床家の期待を少なからず裏切る結果となつた.
 しかしながら,1968年Nusbaum,Baumら2)がセルジンガー法で経皮的に上腸間膜動脈に留置したカテーテルからピトレッシン毎分0.2〜0.4単位を,動注用ポンプ(筆者らが使用している装置は,アトム社製輸注ポンプ又はエクストラコーポリール社製ホルターポンプ)を用いて持続的に注入する,ピトレッシンの微量持続動注法の有用性を指摘してから,この止血法が北米を中心に追試され,止血成績も輸血,輸液などによる保存療法と比較すると満足しうる結果がえられ,かつまた重篤な合併症も少なかつたことから食道静脈瘤破裂患者に対する止血治療法として広く受け入れられるようになつた.この方法は,その後間もなく動脈性出血に対しても応用され3),出血性胃炎,マロリー・ワイス症候群,浅い出血潰瘍などに対してすでに確立された止血治療法となつている.

サイメチジン

著者: 武藤輝一 ,   田宮洋一 ,   松原要一

ページ範囲:P.1097 - P.1100

はじめに
 ヒスタミンに似た構造式をもつburimamide や metiamideは実験的かつ臨床的にかなりの胃酸分泌抑制効果をもつことが明らかであつたが,強い副作用がみられたため,やがてcimetidine(サイメチジン)が作られた.cimetidineにも多少なりと副作用がないわけではないが,慢性胃・十二指腸潰瘍に対する治療効果には著しいものがあり,欧米ではTagametと呼ばれ広く使用されている.cimetidineなど一連のhistamine H2receptor antagonistは強い胃酸分泌抑制作用とともに慢性及び急性胃・十二指腸潰瘍からの出血に対して止血効果を有することが知られている.本邦でもいくつかの施設で使用されその効果が報告されている.市販される日も近いと思われるので文献上の報告に著者らの経験を加え概要について述べたい.なお,cimetidineよりも胃酸分泌抑制効果が強いといわれるrantidineも検討されつつあるが,上剤の上部消化管出血に対する治療効果についての報告は稀である.またcimetidineの性格から胃・十二指腸潰瘍を合併しない食道静脈瘤破裂による出血に対して使用されることはない.ここでは慢性胃・十二指腸潰瘍からの出血とストレス潰瘍や急性胃粘膜病変(AGML)と呼ばれるものを一括した急性胃・十二指腸潰瘍からの出血に対するcimetidineの効果について述べる.

グラフ Conference 総合画像診断のすすめ方・6

十二指腸平滑筋肉腫

著者: 宗近宏次 ,   斉藤和彦 ,   笠原小五郎 ,   天目純生 ,   普天間朝夫 ,   森岡恭彦 ,   酒井秀朗

ページ範囲:P.1043 - P.1052

 〔症例〕 29歳の男性.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.
 〔現病歴〕1980年8月に動悸,息切れ,タール様便を主訴に某病院を受診し,貧血を指摘された.このとき,消化管出血が疑われ,バリウム消化管検査が施行され,十二指腸の異常が発見された.さらに精査を目的に本学消化器内科を紹介され9月26日入院し,10月28日に本学外科にて手術となる.

特別寄稿

中西医結合治療Buerger病121例の臨床観察

著者: 魏正明

ページ範囲:P.1103 - P.1106

はじめに
 閉塞性血栓血管炎は四肢動静脈,まれに内臓動静脈の分節的炎症性閉塞性疾患で罹患部血管全層の瀰漫性・炎症性・増殖性・非化膿性変化とその部の血栓性閉塞を特徴とする.その末梢部は乏血を来たし,潰瘍,壊疽を来たすことは少なくない.おもに青壮年男子にみられる.

わが教室自慢の手術器具・19

本庄氏甲状腺消息子

著者: 水本龍二 ,   小倉嘉文

ページ範囲:P.1108 - P.1109

はじめに
 1976年9月以来,われわれは三重大学第1外科教室で,特に肝・胆・膵の外科を主体とした診療,研究に日夜意欲を燃して取り組んでいるが,手術成績を向上させるために大切なことは局所解剖学的知識はもちろんのこと,手術時の所見を正しく理解し,その病態を十分把握した上で,如何に手術に取り組むかであり,通常,一般外科領域の手術に際しては,特殊な手術器具はあえて必要とせず,従来から広く用いられている外科手術器具のみで十分その目的を達しうるものと考えている.
 しかし,手術手技の熟練は外科医にとつて極めて大切であることも言をまたない.特に剥離手技は,いわゆる手術のコツともいうべきものであり,これが熟練されていれば無用に組織を挫滅することがなく,また他臓器を損傷することもなく,出血も少なく,手術時間ははるかに短縮される.従つて,著者は特に慎重な剥離を必要とする場合や肝・膵の切除などを円滑に遂行するために,「本庄氏甲状腺消息子」を愛用しており,これを「わが自慢の手術器具」として紹介する.

外科医のための臨床MEの知識・3

Swan-Ganzカテーテルの患者管理への応用とその問題点

著者: 横手祐二

ページ範囲:P.1111 - P.1114

はじめに
 中心静脈圧(CVP)モニターは,今日一般外科領域でも広く用いられ,輸液方針の決定をはじめとして,術前後の循環動態の管理上,きわめて有用である.しかし,特殊な状況下,たとえば,熱傷や重症感染症など循環動態のきわめて不安定な患者や,心筋梗塞をはじめとする,左心不全を呈する心疾患の合併する患者,あるいは高齢者における開胸・開腹時などには,循環動態のモニターとしては,左心系の圧により近似する肺動脈楔入圧や,肺動脈圧の測定が重要であることは,良く知られている1).また最近では,全身の循環状態維持のためには,末梢の動脈圧のみを保つことよりは,むしろ,心拍出量の維持が大切であることが認められ,時には,末梢の血管抵抗をさげて,すなわち,末梢動脈圧を犠牲にしてすら,心拍出量を維持しようとする治療が行なわれる.このような意味で,経時的に心拍出量を測定して,循環動態管理に用いる機会が増えてきている.
 Swan-Ganzカテーテルは,末梢の静脈から肺動脈へ比較的容易に挿入でき,左心系の圧を反映する肺動脈楔入圧や肺動脈平均圧を随時測定できる.しかも,熱稀釈法を用いた心拍出量(Cardiac Output CO)を同時に測定でき,この応用は一般外科領域でも,しだいにひろがりつつある2-4)

臨床研究

PTCD症例の検討—特に合併症とその対策について

著者: 磯田義博 ,   佐藤泰雄 ,   大塚康吉 ,   小野監作 ,   古谷四郎 ,   大森義一 ,   辻尚志 ,   森山重治

ページ範囲:P.1115 - P.1122

はじめに
 近年閉塞性黄疸症例に対する減黄措置として経皮経肝的胆管ドレナージ(以下PTCDと略す)の有用性が広く認められるようになつた1-6).われわれも最近4年間PTCDを閉塞性黄疸に対する第1選択として用いてきたので,その経験を主として合併症について検討する.

微小甲状腺癌の臨床および病理学的検討

著者: 野口昌邦 ,   松葉明 ,   高橋信樹 ,   広沢久吏 ,   小島靖彦 ,   木南義男 ,   宮崎逸夫 ,   水上勇治 ,   松原藤継 ,   三輪晃一

ページ範囲:P.1123 - P.1126

はじめに
 甲状腺癌はその大部分が増殖速度の緩やかな分化癌であり,また頸部の体表近くに存在し異常を自覚しやすく比較的早期に診断治療されるなどのため一般にその予後は良好であるが,進行した甲状腺癌は今日でも根治手術が難しく,腫瘍による気道圧迫,遠隔転移,さらに未分化癌化などのため死に至る症例も少なくない1).従つて甲状腺癌も他の臓器の癌と同様に早期発見,早期治療が重要と考えられる.
 しかし甲状腺の癌病巣が微小な,すなわち最大径10mm以下のものは触診,甲状腺軟線撮影,超音波およびスキャンなどの諸検査によつて診断が極めて困難な現状にある.この甲状腺癌病巣の最大径が10mm以下のものを転移の有無にかかわらず,微小甲状腺癌と定義する傾向にあるが2),これは他の臓器の早期癌に相当するとも考えられる.以前よりこの微小甲状腺癌は剖検症例や甲状腺癌以外の疾患で甲状腺切除を受けた症例の甲状腺組織を組織学的に精査するとかなり高率に発見されることが指摘されていたが3,4),最近,臨床上においても微小甲状腺癌に注目し始めたこともあり,その症例が増加する傾向にある.

開心術後の呼吸管理中に経験した気道狭窄治験例の検討

著者: 信岡亘 ,   横山繁樹 ,   小西理雄 ,   浅妻茂生 ,   谷俊男 ,   宇根郁夫 ,   西村武重 ,   伊達敬一

ページ範囲:P.1127 - P.1130

はじめに
 心臓外科領域における術後の呼吸管理は,重症例では複雑且つ長期に及び,その疾患の予後を左右する重要な部分である.過去5年間に肺合併症等のため34例に対して気管切開を行なつて呼吸管理を行ない3例に気道狭窄を経験したが幸い全例治癒せしめ得たので報告する.

膵頭十二指腸切除後の内因性セクレチン分泌

著者: 山崎軍治 ,   黒田吉隆 ,   竹下八洲男 ,   小西孝司 ,   倉知圓 ,   永川宅和 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1131 - P.1135

はじめに
 1902年Bayliss & Starling1)は自律神経切除犬を用いて,十二指腸内に塩酸を注入すると膵液の分泌が亢進することを発見し,塩酸によつて十二指腸粘膜から賦活されて放出する,膵液促進物質をセクレチンと命名した.これが歴史的にみる最初の消化管ホルモンの発見であり,これを契機としてガストリン,パンクレオザイミンなどの多くの消化管ホルモンが発見されるようになつてきた.
 ところで,これらの消化管ホルモンの宝庫である胃前庭部,十二指腸および空腸上部が膵とともに切除される膵頭十二指腸切除(以下PD)では,術後にこれらの消化管ホルモンの脱落による代謝障害の出現が懸念される.とくにセクレチンは膵外分泌,胆汁分泌を刺激するとともに,糖代謝にも関与していることが明らかにされつつあるgut hormoneであるが,PDではその分泌母地のみならずtarget organである膵も一部切除されるので,術後にセクレチンがいかなる推移を示すのかについては,いまだ不明の点も多い.そこでわれわれはPD後の血中セクレチン分泌動態を塩酸負荷により検索し,さらに残存膵の外分泌能についても検討を加え若干の知見を得たので報告する.

吐下血を呈して発見された早期胃癌の検討

著者: 板野聡 ,   大西信行 ,   小淵欽哉 ,   大西長久 ,   合地明 ,   後藤精俊 ,   山際裕史 ,   吉村平 ,   富山浩基

ページ範囲:P.1137 - P.1142

はじめに
 早期胃癌症例の臨床症状や診断動機などについては,これまでにも多くの報告がある1-5).今回著者らは,多くの臨床症状(表1)のうち,吐下血,幽門狭窄,穿孔の3つの症状をきたして発見された早期胃癌症例を対象として,臨床病理学的に検討した.
 本論文では,合併症のうちでとくに吐下血により発見された症例について検討し,若干の考察を加えることとした.

臨床報告

胸部中部食道(Im)に発生した原発性腺癌の1例

著者: 𠮷中平次 ,   末永豊邦 ,   馬場政道 ,   田辺元 ,   松野正宏 ,   福元俊孝 ,   小田原良治 ,   加治佐隆 ,   西満正 ,   田中貞夫

ページ範囲:P.1143 - P.1148

はじめに
 1978年10月の第25回食道疾患研究会の全国集計(表1)1)によると,食道の原発性悪性腫瘍11,782例のうち,扁平上皮癌が11,527例とその大部分を占め,腺癌は59例(0.5%)にすぎない.adenoacanthoma,mucoepi—dermoid carcinomaなどの類腺癌を含めた広い意味での原発性腺癌は117例で約1.0%であり最近の外国の報告1〜2%と同様その頻度は少ない.
 われわれは,食道固有粘液腺に原発したと考えられる胸部中部食道の腺癌1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

十二指腸壁内血腫—1治験例ならびに文献的考察

著者: 村岡幸彦 ,   長田信洋 ,   五関謹秀 ,   山内英樹 ,   羽生丕 ,   波多野誠 ,   吉田雋 ,   毛受松寿

ページ範囲:P.1149 - P.1154

はじめに
 わが国における外傷性十二指腸漿膜下血腫の報告は比較的まれであり,その手術適応に関しても,必ずしも一定の基準は確立されていない.最近われわれはその1例を経験し,外科的に治癒せしめ得たので,若干の文献的考察を加えて報告すると共に,手術適応についても検討を加えた.

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雑誌「SURGERY」最新号目次

ページ範囲:P.1107 - P.1107

SURGERY—Contents, June 1981 Vol.89, No.6 ©By The C. V. Mosby Company
 今回,米国Mosby社の御好意により,世界的な外科雑誌"Surgery"の最新目次を,日本の読者にいち早く,提供出来るようになりました。下記の目次は,発売前にファックスで送られてきたものです。この雑誌"Surgery"御購読は,医学書院洋書部(03-814-5931)へお申込み下さい。本年の年間購読料は,施設\22,100,個人\15,600です。雑誌は,ST. LouisのMosby社より,直送いたします。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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