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文献詳細

雑誌文献

臨床外科36巻7号

1981年07月発行

文献概要

特集 上部消化管出血—保存的止血法のトピックス 内視鏡を用いた止血法

レーザー

著者: 並木正義1 水島和雄1

所属機関: 1旭川医科大学第3内科

ページ範囲:P.1075 - P.1080

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内視鏡的レーザー止血法の歴史と現況
 内視鏡的レーザー止血法の歴史は,1970年Go—odale1)らがイヌを用いて実験的に胃に出血性びらんをつくり,これに硬性内視鏡を通してCO2レーザーを照射し,止血を試みたのに始まる.その後,1973年にNath2)らが石英ガラスによるfle—xibleなレーザーガイドファイバーを開発し,消化管へのレーザーの応用が可能になつた.臨床例への使用は1975年のFrühmorgen3,4)に始まる.そして1976年以降から臨床におけるレーザー止血法に関する発表がさかんになりだした.いまあげたFrühmorgen5)をはじめ,Kiefhaber6),Dw—yer7),Silverstein8,9)その他による臨床報告があいついでなされ,1970年代後半の欧米はまさにレーザー止血法の時代に入つた感があつた.一方,わが国におけるレーザー止血法の臨床例の発表は,1978年,教室の原田10)によつて初めてなされた.その頃,ごく限られた数カ所の施設において基礎的研究がなされていたにすぎなかつたが,最近ではレーザー装置を有する医療機関が30カ所をこえ,これについての基礎的,臨床的研究の論文発表11-17)も次第に増加し,遅ればせながらわが国でもようやくレーザー止血法を主体としたlaser endoscopyのささやかなブームのきざしがみえてきた.このようにレーザー止血法に関しては,日本はまだ初期の段階であり,各施設の経験例も,欧米に比べると,あまりにも少なく,桁が違う.この方面の第一人者であるFruhmorgen や Ki-efhaberらの豊富な経験例数をみると,その開きの大きさを痛感する.もちろん早くから手がけているので症例数が多いのは当然であるし,救急医療体制が進んでいること,また上部消化管出血例が日本より実際に多いのかもしれないが,しかしこれらの症例が,はたしてレーザーでなければ止血し得なかつたものであるかどうかは疑問である.外国の報告にケチをつけるつもりは毛頭ないが,高価な装置を用いたレーザー止血法によらなくとも,もつと簡単で,安価な方法により止血できれば,それにこしたことはないし,現実にそういう場合もかなりある.また日常の臨床において消化管出血というものは,一般的な止血対策と適切な患者管理によつて止血する例が意外と多い.
 筆者らもレーザーによる止血例の経験を積むため,関連病院その他の医療機関と密接な連絡をとり消化管出血の患者を送つてもらうことにしているが,実際のところ運び込まれた吐血例にレーザー治療を行なおうと思い,様子をみているうちに,その必要もなく止血してしまう例が少なくない.だいたい出血例の80%は適切な内科的治療と慎重な経過観察でそのまま止血する.生体というものは,そのへん実にうまくできているといえよう.レーザーによる止血の経験例を増やそうと思えば,運び込まれた出血例について,直ちにレーザー治療を行なえばよいわけだが,いかに研究途上であるとはいえ,症例数を増やすことが目的ではないし,そのような行為は真の臨床家としてとるべきではない.パイオニアはいろいろな例にためしてみることはもちろん必要であろうが,初期の段階が過ぎれば,やはりレーザーでなければならない絶体的適応はどのような例か,またどんな場合かを慎重に吟味し,その目安を具体的に決めることが大事であろう.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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