レーザーの内視鏡への応用—適応と限界 YAGレーザーによる治療
消化器
著者:
渡辺豊
,
鈴木博昭
,
酒枝俊郎
,
川村統勇
,
神山正之
,
永田卓司
,
高橋宣胖
,
久富沖
,
長尾房大
,
下田忠和
ページ範囲:P.489 - P.493
はじめに
レーザーの医療への応用はかなり早い時期から試みられているが,内視鏡を介した消化器疾患に対するレーザーを利用した治療法はそれよりもかなり遅れてはじめられている.すなわち1960年Maiman9)がはじめてルビーによつてレーザーの発振に成功して間もなくの1963年にはMcGuffがレーザーによつてメラノーマの治療を試みており(Ketcham7)による),さらにその翌年の1964年に行われたFirst Annual Conference on Biologic Effects of Laser RadiatonではKlein,McGuff,KetchamおよびMintonらによつて腫瘍のレーザー治療に関する研究が報告されている(Fed. Proc., 1965より).それにもかかわらずレーザー内視鏡の出現がおくれたのはファイバースコープ用にレーザーを導光する方法がなかなかみつからなかつたからであり,アルゴンイオンレーザーやNd-YAGレーザーをガラスファイバーや水晶ファイバーで導光する方法が開発され,レーザー内視鏡が実用化されるようになつたのはMaimanから15年もたつてからである.
1975年Fruhmorgen3)によつて最初に臨床的にレーザー内視鏡が行われ,以後,Fruhmorgen4)はじめKiefhaber8),Dwyer1,2)およびSilver-stein12-14)らによつて研究が進められてきたがここでわが国は著しい遅れをとつてしまつた.ただし彼等の研究は主として消化管出血に対する止血を主眼としていて消化器腫瘍の治療に関する研究は少なく,また最近になつてはじめられたばかりのようである.わが国のレーザー内視鏡はその出発が著しく遅れ,止血についての実績は欧米と比較して非常に少ないが,欧米で軽視されていた腫瘍の治療に関心が集中してしまい,その面では欧米を追越してしまつたというのが実状のようである.これは欧米と比較してわが国では重症消化管出血が少なく,逆に胃癌が多いという人種的な特殊事情があることと,わが国では胃癌診断について高度の技術をもつている人が多いこととも関連があろう.