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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科37巻9号

1982年09月発行

雑誌目次

特集 Controversy;皮切と到達経路

下部食道・噴門部癌

著者: 西満正 ,   加治佐隆

ページ範囲:P.1321 - P.1325

はじめに
 癌に対する適正な手術を完逐するためには癌巣の完全な切除と十分なリンパ節郭清術,および術後機能のよい安全な再建法が可能な皮切と到達経路を選択しなければならない.
 一般に下部食道噴門部への到達経路は,1)開胸・開腹(別個),2)開腹・開胸(連続),3)開胸・横隔膜切開,4)開腹・単独,5)開腹・横隔膜正中切離(retractor使用を含む),6)開腹・胸骨縦割・横隔膜正中切離,などがあり,開胸に関しては右開胸か左開胸かも選択の問題となる.

〈コメント〉—下部食道・噴門部癌

著者: 粟根康行

ページ範囲:P.1325 - P.1326

 下部食道噴門部癌手術に際し著者らの施設では以下の三通りの到達経路を採用している.
 a)癌が食道胃接合部を越えないもの,また少少越えていても腹腔内の癌進展が極めて高度な場合や,全身状態不良の場合は開腹のみで手術を行う(図1).

〈コメント〉—下部食道・噴門部癌

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1326 - P.1328

 下部食道・噴門癌に対して十分な切除と十分なリンパ節郭清を行うという西教授のお考えには全く同感であり,左開胸斜め胴切り法の皮切を否定するものではない.しかし私共の施設ではこれまでの手術成績をふり返りながら,同じ下部食道・噴門癌でも癌腫の口側浸潤の範囲や癌腫が限局型か浸潤型かなどによつて切除及び郭清範囲を変えている.そのため何種類かの皮切が施行されているのでご紹介したい.なお胃切除および他臓器合併切除に関しては手術中に癌腫の漿膜面露出がある(S1以上)と判定した場合には胃全摘・膵脾合併切除を行うこととしているため噴門側胃切除の施行されることは多くない.なお癌腫の口側浸潤範囲の決定については術前のX線および内視鏡検査所見と術中の漿膜側からの視診と触診から行つている.
 ① 癌腫の口側先進部が食道胃接合部を僅かに越えるていど(5〜6mm)の場合は開腹術のみにとどめる(図1—a).必要に応じ食道裂孔を開大し横隔膜リンパ節(No.111)をあるていど郭清する.

食道静脈瘤

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.1329 - P.1333

はじめに
 食道静脈瘤出血に対する直達手術として,われわれは食道離断術を実施している.食道離断術は1964年(昭和39年)木本教授が本邦では初めて実施されて以来,わが国で最も広く普及しており,1)下部食道と胃上部の血行遮断と2)食道下端における食道の離断とが術式の基本的な構成要素である.これを実施するためには,東大2外法(経胸操作+経腹操作),経腹法,左開胸経横隔膜切開法,胸骨正中切開法など種々のアプローチ法が用いられている.

〈コメント〉—食道静脈瘤

著者: 平嶋毅

ページ範囲:P.1334 - P.1334

はじめに
 近年食道静脈瘤に対する直達手術法の一つとして,本邦においては食道離断術が多く行われている.出月先生の紹介された皮切と到達経路は東大第二外科法として経胸操作と経腹操作のアプローチ法で,現今,本邦において施行されている食道離断術のアプローチ法の原法と考えても差しつかえないと思われる.
 教室では経腹的食道粘膜離断術を標準術式としているが,症例によつては分割手術を行う場合があり,以下著者の経験をもとにして,われわれのアプローチ法の選択,経腹的食道粘膜離断術の皮切と到達経路について述べる.

〈コメント〉—食道静脈瘤手術

著者: 小林迪夫

ページ範囲:P.1335 - P.1336

はじめに
 食道静脈瘤に対する外科治療として,本邦では現在,選択的シャント手術か直達手術のいずれかが行われる趨勢にある.選択的シャント手術のさいの術野への到達経路は専ら経腹的アプローチであるが,直達手術においては,これ以外に経胸,経胸経腹,経胸経横隔膜的アプローチなど種々の到達法が用いられており(表1),それぞれに術者の理論とそれに基づく創意・工夫がなされている.しかし,食道静脈瘤に対する皮切と到達法を論ずる場合,①手技の簡便さ,②術野の展開がすぐれていることなどの一般外科手術に共通する問題の他に,食道静脈瘤手術に特有な③胸壁,腹壁副血行路の損傷をさけ出血を防止すること,④poor risk例に対し手術侵襲,特に肝臓への影響を最小限にとどめることなどについての配慮が必要であろう.
 したがつて,食道静脈瘤手術においては,救急手術・待期手術の相違はもちろん,患者risk,脾腫,腹水の有無,胃病変の合併,手術既往歴,循環呼吸器系合併症の有無など,種々の条件を考慮した手術術式の選択がなされなければならず皮切,到達法もそれにしたがつて個々の症例で選択する柔軟さが必要といえよう.

乳癌

著者: 久野敬二郎

ページ範囲:P.1337 - P.1339

皮膚切開線(図1,2,3,4)
 乳癌の手術には定型乳房切断術と非定型乳房切断術があり,皮膚切開はこの術式による大きな違いはない.切開の全長は,非定型乳切は定型乳切よりやや短くてよい.皮切の型には大きく分けると縦切開と横切開があり,縦切開にはHalsted,Meyer,Kocher,Haagensenなどの型があり,横切開にはStewartの型がある.横切開は美容を考慮した方法であると共に,皮膚弁の血行障害が少なく,皮膚欠損を少なくする方法である.近年は横切開が次第に広く行われるようになつた.いずれの切開でも,切開線が腋窩の真中や上腕に及ばないようにする.乳房外側半の辺縁あるいは内側半の辺縁にある腫瘤の場合は,縦切開は大きな皮膚欠損を作るが,横切開ではこれを防ぐことができる.乳房上部辺縁にある腫瘤では,横切開はかえつて皮膚欠損を作りやすい.乳房内上部の辺縁の腫瘤では,縦切開,横切開ともに大きな皮膚欠損を作るので,内上部から外下部に向う斜切開がよい.

〈コメント〉—乳癌

著者: 渡辺弘 ,   金杉和男 ,   山口晋 ,   福田護 ,   長島隆

ページ範囲:P.1340 - P.1341

 乳癌の基本的手術術式として定型的乳房切断術を最も多く実施している.本法は乳腺,それを被つている皮膚,皮下脂肪組織,筋膜,大小胸筋を切除するとともに腋窩リンパ系をこれらと連結したまま一塊として郭清することを原則としている.皮膚の切除量,切開線と腫瘍縁との距離,皮下脂肪の切除量,手術の適応範囲など細部にわたつて議論されることが多いが,乳癌の根治性を追求する上で最も確実性が高く,信頼し得る完成された術式である.本法の適応は全身状態や年齢による制限は殆んどないといつてもよい.Haagen—senおよびStoutは厳密な適応禁忌を挙げているが,筆者はそれほど制限していない.近年補助的療法の進歩もあり,集学的治療の思想が徹底しつつあり,乳癌治療の成績向上が得られるようになつて,従来適応禁忌とされた症例に対しても,積極的に本術式を施行するようになつてきている.筆者は非定型的乳房切断術に対しては厳密に適応を決めている.すなわち非浸潤癌,Paget病,浸潤癌の場合はT1で外側に位置し,腋窩転移を認めないような症例に対し施行している.以上の観点より定型的乳房切断術を中心に記す.
 皮膚切開線は基本的には乳房の皮膚および皮下脂肪組織の合理的な切除,腋窩リンパ系に対する容易な到達,皮膚欠損部の合理的な形成,上肢機能障害の予防などを考慮して決定する.筆者はHalsted-Haagensen法に準じた縦切開法を多用し,時にStewartの横切開法を用いることがある.腫瘤が外側や内側の辺縁に偏在するときは,腫瘤を皮膚切開線の中心におくことが困難となり,また皮膚欠損部が大きくなるため,Stewartの横切開を変形した斜切開法を行うこともある.本法は皮膚切開線の中心に腫瘤を位置させやすいこと,皮膚欠損を生じる率が少ないこと,皮膚の一次縫合が困難な場合にも腹壁の皮下組織の剝離を十分に行い,減張縫合などを併用すれば,相当な範囲の皮膚の移動が可能となること,手術瘢痕が下方にくるため美容的にも上肢の機能保存にも良好なこと,腋窩部や大胸筋附着部など外側部の操作が容易であることなどの利点があり,患側上肢の下降や運動で創面が圧迫,擦過されることがあり,瘢痕がやや不良となる短所もあるが比較的多く用いるようになつてきている.

〈コメント〉—乳癌

著者: 阿部令彦 ,   榎本耕治 ,   池田正

ページ範囲:P.1341 - P.1342

 皮膚切開線 基調論文に見られるように,Stewartの横切開は,縦切開とくらべて美容上優れているので,私は出来る限り横切開を行うことにしている.胸壁の皮膚欠損部の辺縁は,欠損部の面積が等しければ,左右より上下の方向に縫合すると縫合部の緊張は少なく,従つて創縁の血行障害も縦切開の場合より軽微で,皮膚縫合線部の壊死が起こりにくい.また移植皮膚面もすくなくてすむからである.ここで注意すべきは,基調論文で指摘されているように,横切開が上腕に入らぬようにすることはもちろん,腋窩の中心からなるべく離れるように心掛けることである.私は腋窩中心から少なくとも3横指距離をおいた胸壁皮膚に切開線が入るような皮切を行つている.横切開を行う場合には,リンパ管の走行を考えると,縦切開,斜切開にくらべて,腋窩の方向に走るリンパ管を切離する可能性が高く,理論的にはen bloc dissectonの意味を少なくさせるという議論があつたが,この問題は,皮膚をどの位の厚さで切離するか,その範囲をどうするかなどにかかわつてくる.いわゆる「皮膚薄切」の問題は,乳癌研究会でも話題にのぼり,昭和40年頃からは,皮下脂肪は出来る限りとるような皮弁作製が盛んになつてきたので,近年では局所再発—手術操作の加えられた領域での再発は約4〜10%となつた.非定型的乳癌根治手術の適応症例が増加しつっある今日,皮下脂肪も次第に厚く残す傾向にあるが,横切開では上述の理論的問題を考慮して,バランスのとれた皮膚切離に注意すべきものと考えている.

肝臓

著者: 菅原克彦 ,   梅田裕

ページ範囲:P.1343 - P.1345

はじめに
 一般に外科手術における理想的な皮切および到達法とは,次の条件を満すべきものと考える.
 (1)手術野の視野が十分に得られ,安定した手術野で安全に手術操作ができること.

〈コメント〉—肝臓

著者: 水本龍二 ,   野口孝

ページ範囲:P.1346 - P.1347

皮切法
 基本的にはよく似た手技をとつている.開胸することなく開腹操作のみで肝切除を施行しているが,以下菅原論文との相異点を述べる.まず,菅原論文では腹腔内諸臓器の検索を左右いずれかの肋骨弓下斜切開後に行つているが,われわれは正中切開創で開腹し,ここで腹腔内精査を行つている.すなわち,正中切開における皮切の上線は左右肋骨弓の延長線の正中交点より1cm上方から下線は剣状突起のつけねと臍を結ぶ線の頭側2/3までをまず切開して開腹し,ここで腹腔内精査を行う.剣状突起は切除せずその左右いずれかに沿つて根部まで筋膜を切開している.この方法で剣状突起が術野の妨げになることはない.一方,剣状突起切除後,この部に持続性の疼痛を訴えたり,巨大なexotsosisをきたした症例を経験したことがある.次いで,この正中切開創の下端より右方は右中腋窩線上で肋骨弓より4〜5cm下方の部を結んだ線上を切開して手術創を延長しており,左の場合には左前腋窩線上まで同様に切開している.しかるに左右両葉に病巣が存在する場合には開腹創を両側に延長するが,左側の病巣でも巨大なときには右葉を授動すると肝門部処理が容易となるため左右両側へ延長することがある.また側方切開に際し,菅原論文の肋骨弓下斜切開では腹直筋をリスター鉗子ではさんで切離しているが,われわれは特に鉗子ではさまず電気メスにて切離しつつ,やや太い血管は個々に結紮切離している.また手術野を得るための特殊な牽引器は使用していない.腹壁に4枚ガーゼをあて腹壁を保護しつつ肋骨弓を鞍状鉤を用いて牽引しているが,右葉の脱転に際しては患者の体位を左15〜20°rotationすることにより十分に視野を得ることができる.

〈コメント〉—肝広汎切除の到達路

著者: 葛西洋一

ページ範囲:P.1347 - P.1348

はじめに
 肝切除のための皮切と到達路は,できるだけ広い視野が得られるようにすることである.また,基本的な考え方は菅原らと同様で肝疾患の性状と部位によつてことなるのである.悪性肝疾患では,リンパ節郭清を徹底して行うという必要性から,とくに広い視野が得られる皮切が要求される.したがつて,皮切にともなう体壁の神経,血管,筋肉損傷による障害も,止むを得ないものとしなければならないのであるが,われわれの経験では,予想外に,皮切に続発する障害は少ないのである.
 われわれは,肝広汎切除とくに拡大肝右葉切除など肝右側の手術では,開胸腹到達法を行つた時期もあるが,最近では,ほとんどすべての場合に開腹術のみで行つている.

直腸

著者: 土屋周二

ページ範囲:P.1349 - P.1353

はじめに
 直腸の手術は病変の部位,種類により一様ではないが,もつとも重要な直腸進行癌に対する根治手術を中心に述べる.

〈コメント〉—直腸

著者: 安富正幸

ページ範囲:P.1353 - P.1354

 皮膚切開は病巣への到達が容易で,しかも十分な手術野がえられることが最も重要な条件である.直腸は骨盤内臓器であり直腸に到達する経路には経腹的,経会陰的および経仙骨的の3つがある.上部および下部直腸の一部では経腹的な経路が基本であるのに対し,下部直腸や肛門管に対しては経腹経路のほか,経会陰あるいは経仙骨経路が用いられる.開腹術として私は原則として臍の左側を通る中下腹部正中切開を用いている.臍の左側の利点は肝円靱帯を切離しないことと,左側結腸の授動に際して有利なことである.欠点は人工肛門に近いために創感染の恐れがあることであるが,実際には創感染はほとんど問題はない.
 皮切の大きさは臍上5横指から恥骨結合直上までである.しかし上部直腸に限局した手術では臍以下の下腹部正中切開も用いる.この他の開腹法としてはBabcock切開,左側旁正中切開,下腹部弧状切開などがある(図1).私は正中切開に次いで旁正中切開を用いる.旁正中切開の利点は腹壁のヘルニアが少ないことであるが,開腹・閉腹操作が正中切開より煩雑であること,人工肛門に近いことなどの欠点がある.下腹部弧状切開は下腸間膜根部の操作が困難なこと,腹壁創と人工肛門が近いことなどの欠点がある.開腹後,手術野の展開をえるために小腸をintestinal bagで包んで,腹腔外に脱転する方法と,小腸を2枚ガーゼに包んで上腹部に圧排する方法とがあるが,大きな皮切では前者を,大きくない皮切では後者を用いる.もちろん小腸全体をintestinal bagに包んで腹腔外に脱転する方が良好な視野がえられるが,小さな皮切では小腸の脱転ができないからである.術者の位置は砕石位とした患者の右側に立つて,皮切から骨盤内病巣と肝転移の検索,左右のS状結腸間膜の切離,尿管の走行の確認,下腸間膜動静脈の結紮切離,左側結腸の授動,S状結腸の切離までの操作を行う.次いで,患者の左側に移動して骨盤内の操作を進めるわけである.腹腔内の手術操作は右側に立つ方が手術野がよく,操作がやりやすいという利点がある.骨盤内における操作については土屋教授と大差はない.

〈コメント〉—直腸

著者: 山本恵一

ページ範囲:P.1354 - P.1355

 本領域の最高権威者のひとりであられる土屋周二教授のご高見に対し,愚見を付議する機会を与えられ,まことに光栄に存ずる.

カラーグラフ・8

急性膵炎様症状で発症した無黄疸の早期膵頭部癌

著者: 高木國夫 ,   竹腰隆男 ,   大橋計彦 ,   丸山雅一

ページ範囲:P.1313 - P.1317

 膵癌の早期発見には,膵内に限局した膵癌そのものを直接発見することは,容易でないが,癌による主膵管の狭窄や閉塞にもとずく末梢膵の二次的膵炎をアミラーゼ高値,胃X線検査における胃外性圧排像や超音波検査による主膵管拡張によりチェックし,ERCPによつて膵内の異常を見出すことが肝要であることを症例をあげてのべてきた.主膵管の狭窄による二次的膵炎が臨床的には胃部不快感や,上腹部の軽度疼痛等の上腹部愁訴によるものが多いが,時に二次的膵炎が急性膵炎様の症状を呈することがある.急性膵炎はERCPによつて増悪することが危懼されて,ERCPの禁忌とされているが,急性膵炎が軽快した時点で,膵内の状態をチェックすることがなおざりにされている傾向がある.急性膵炎例に対して,軽快した時点で血管造影をまず施行する必要をのべている報告があるが,急性膵炎が膵癌によつてひきおこされた場合のあつたことが考慮されていたものであろう.
 急性膵炎の原因には,種々あるが,その中に膵癌による主膵管の狭窄によるものがあることを銘記したい.

histoire de la chirurgie 外科史外伝—ルネッサンスから"外科の夜明け"まで・8

殺菌,滅菌以前の外科

著者: 大村敏郎

ページ範囲:P.1357 - P.1360

□足ぶみの弁
 このシリーズの初めの頃は1月毎に50年ずつ時代が進んできたのだが,19世紀に入つてから時の流れが前へ進まなくなつてしまつた.革命を境に外科医も内科医と同じ教育をうけた者がなり,もはや手による技だけの世界にとじこめられることなく,大きな飛躍をとげるし,医学全体も病院という密度の濃い力を発揮する場を得たことによつて,初めは上流社会の利用者は少なかつたが,ここで医学と医療がしつかり結びつくようになつてきた.そうなると新しい考え方・新しい技術が次々に生まれ,今日われわれが行つている医療のルーツとなるさまざまな事象が積み重ねられて,書きとめておきたいことが多くなつてくるのである.
 そこで,時代を細分して,それぞれの時期の進歩を追いかけていくよりも,多少時代を前後してもテーマ別にひとまとめにした方が理解しやすいと思われる.前回,医療の場としての病院について書いたので,今回は技術として19世紀初頭はどのようなことが行われていたのか,いくつかの例をあげてふりかえつてみたい.その後に人物を中心にまたは学問を中心に角度をかえて検討してみようと考えている.

REPORT FROM OVERSEAS

米国における超音波診断(その2)—胆道系の手術への応用

著者: 町淳二 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1365 - P.1371

はじめに
 外科医は,手術中に,病変の存在部位やその大きさ,あるいは,周囲組織との関係などの手術を進める上で必要な情報を得るために,tissue dissectionやmanipulation(術中の触診)などによつて,術野内にて病変などのexploration(探索)を施行する.このことは,手術時間を延長するとともに,時には,手術の合併症や死亡率などのriskを高めることにもなる.しかし,術式を決定するためとか,病変へいかにアプローチするか確定するためのより充分な情報を得るためには,この探索は,術中にはさけられない操作でもある.
 これに対し,胆道系の手術においては,これらの術中に必要な情報を得ることを目的とした画像診断法を併用することによつて,不必要な術中の探索,操作を減らすことができる.胆道系の手術で,現在,最も広く使用されている画像診断法としては,主に総胆管結石の有無を検査するために行われている術中の胆道造影法がある.この方法は,胆石の手術で,総胆管の探索(common bile duct exploration=CBD exploration)の必要性を決めるために不可欠の検査となつている.術中にこの胆道造影による検査を行うことによつて,総胆管のnegative explorationの率は低下して来てはいるが1),この率が,いぜんとして高いという報告もある2).また,総胆管へのcannulationや総胆管の穿刺による合併症,および,造影剤やレントゲン照射による副作用も予測される.

Review of the controversial surgery

食道アカラシア

著者: 島津久明

ページ範囲:P.1373 - P.1378

□Questions in the controversy
1.その成因に先天性あるいは遺伝性因子が関与するか?
2.内圧測定試験における特徴所見とそのほかの運動機能失調性疾患との鑑別点は?
3.拡張療法(dilatation therapy)か? 手術的筋切開(surgical myotomy)か?
4.手術的筋切開は,どのようにおくべきか?
5.著明な拡張を示す高度進行症例に対しても筋切開でよいか?

外科医のための臨床輸液問答・7

輸液に関するテクノロジー

著者: 長谷川博 ,   和田孝雄

ページ範囲:P.1379 - P.1385

1.テフロン針の功罪
 和田 次に,輸液のもつと実際的な話で,輸液のテクニックについてもう少し論じてみたいと思います.先ほども細かい針の刺し方とか,いろいろなことが出てきたんですけれども,先生の論文を私,拝見していて,針の太さとか材質とかいうことを詳細に論じておられましたが,これのへんをもう一度,ご披露いただきたいと思います.
 長谷川 テフロンの針を血管の中に刺せば凝血ができない,という迷信がありますね.これは全くの迷信だと思うんです.

臨床研究

術後疼痛に対する経皮的神経電気刺激装置の使用経験

著者: 定月英一 ,   西原寛 ,   近藤芳夫 ,   小嶋邦昭 ,   竹添和英 ,   山田忠義 ,   石井好明

ページ範囲:P.1387 - P.1390

はじめに
 1965年にMelzack1)らは疼痛の伝達についての新しい考え方としてgate control theoryを発表した.この仮説は,経皮的に末梢の太い有髄線維を刺激すれば痛みを抑制できる可能性を示唆している.つづいて1967年,Wall2)らは経皮的に神経電気刺激を行い,疼痛の緩和に成功している.Gate control theoryは,その後概ね否定されるところとなつたが,Wallらの成果は,疼痛緩和の為の新しい方法である経皮的神経電気刺激(Tralns—cutaneous Electrical Nerve Stimulation,TENS)のその後の発展に寄与するところとなつた.すなわち,1972年Shearly,Long3,4)と相次いで慢性疼痛に対するTENS使用が試みられ,その効果が認められた.1973年にはHymes5)らにより,手術後の疼痛緩和に始めてTENSが使用された.
 その後,VanderArk6)Cooperman7),Ledergerber8)Solomon9)らも,外科手術後の疼痛に対してTENSを使用し,鎮痛剤として用いられる麻薬の使用量を大幅に減少させ,その副作用を軽減する有効な手段としてTENSを高く評価している.

内視鏡を利用した食道癌の診断と治療—特に,食道粘膜下造影とRIリンフォシンチグラフィーについて

著者: 川口忠彦 ,   曾我須直 ,   橘正人 ,   鯉江久昭

ページ範囲:P.1391 - P.1396

はじめに
 現在,食道ファイバースコープによる食道鏡検査は,食道癌の診断に欠くべからざるものである.すなわち,「食道癌取扱い規約」での食道癌の内視鏡分類に示される如くの観察面及び生検を中心として,その他,表在癌の診断や癌の浸潤範囲の判定等にも,食道鏡が駆使されている1).われわれの教室でも数年来,日常診療に食道鏡を用いているが,本稿では,食道鏡を利用した食道粘膜下造影,RIリンフォシンチグラフィー,及び,免疫療法剤による局所治療の手技と成績について述べてみたい.

治癒切除不能膵癌に対する徐放性制癌剤の使用経験

著者: 真辺忠夫 ,   戸部隆吉 ,   嘉悦勲 ,   吉田勝

ページ範囲:P.1397 - P.1403

はじめに
 最近,CT,echo等の画像診断技術が向上するに従つて,比較的初期の段階で診断され手術される膵癌例が多くなりつつあることは喜ばしいが,他の消化器癌に較べると,膵癌の手術切除率は依然低く,とくに膵の解剖学的位置の関係から治癒切除を行いうる症例は少ないのが現状である.進行膵癌例の中には門脈合併切除を伴つた広範膵全摘により一応肉眼的治癒切除を行いうる症例もあるが,実際開腹してみると,癌が上腸間膜動脈根部に高度に浸潤しているために切除不能に終るか,あるいは,ほとんどの癌病巣は切除し得ても血管周囲に癌の遺残を余儀なくせざるを得ない場合が少なくない.一方では膵癌患者はその癌固有の高度な疼痛に悩まされることが少なくない.現実には治癒切除不能例に対して臨床症状の改善を含め何らかの処置をせざるを得ない.
 このような状況の中で東京女子医大消化器病センターの羽生ら1)は,日本原子力研究所・高崎研究所,東京女子医大医用工学研究所との共同研究により低温放射性重合により制癌剤を高分子担体中に複合含有させることにより,徐放,持効性の制癌剤を作る技術を開発した.今回,われわれは東京女子医大消化器病センターを中心とした徐放性制癌剤研究会に参加し,徐放性マイトマイシンC(MMC)カプセルを教室における治癒切除不能膵癌に対して使用する機会を得,満足すべき臨床効果を得たので若干の考察を加え報告する.

胸骨縦切開en bloc法による拡大乳切について

著者: 野口昌邦 ,   佐々間寛 ,   松葉明 ,   木下元 ,   三輪晃一 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1407 - P.1412

はじめに
 近年,乳癌の手術は早期乳癌の増加と相俟つて国際的にPateyの非定型乳切が広く行われるなど縮小化傾向にあることは周知の如くである1).しかし縮小手術は早期乳癌に限られるべきである.乳癌が乳腺と領域リンパ節に留まる段階ではまだ局所病であり手術的に治癒しうると考える以上,遠隔転移のない進行乳癌にはやはり根治性の高い手術が選ばれるべきであると考えられる.現在,拡大乳切は定型乳切と比較して成績の向上が望めないとする意見が強いが1),依然,拡大乳切の有効性を認める意見も少なくない2,3).更に従来の手術と異なる新しい拡大乳切により成績の向上を計る余地は現在もなお残されていると考えられる.
 私どもは胸骨傍リンパ系の完全郭清を計る目的で胸骨縦切開en bloc法による拡大乳切を開発し施行している4-5).本手術は乳癌手術の根治性を高める上で有用であり,しかも安全な手術と考えられるので,その手術と施行症例について紹介し,若干の考察を加える.

外科医の工夫

切除不能膵頭部癌に対するわれわれの行つている減黄手術について

著者: 山下勝之 ,   宮本正樹

ページ範囲:P.1413 - P.1418

はじめに
 各種診断法の目ざましい進歩により,比較的早期の膵頭部癌の発見も容易になつた昨今ではあるが,一般に膵頭部癌は他臓器に比べ,癌病巣切除症例は極めて低く,これに対し,種々の姑息的手術即ち黄疸軽減手術がなされているのが現状である.しかし,これらの術式も一長一短があり,結果的には不満足な経過を辿ることが多い.そこでわれわれは,切除不能膵頭部癌に対し,小野ら1-2)の方法に若干の変法を加えた総胆管・空腸連絡形成術を考案し,5例に本法を施行し満足できる結果を得たので術式を中心に報告し,大方の批判を仰ぎたい.なお,総胆管・空腸連絡形成術の語源は,小野ら1)が最初に"胆管・空腸連絡形成術"を発表していることより,術式はやや異なるが,これを引用したものである.

臨床報告

早期十二指腸癌と十二指腸カルチノイドの併存した1例

著者: 関雅博 ,   津田基晴 ,   龍村俊樹 ,   山本恵一 ,   古屋正人 ,   古屋忠

ページ範囲:P.1419 - P.1423

はじめに
 原発性十二指腸癌はかなり稀な疾患であり,発生母地上,膵管あるいは胆管由来のものとの区別が明確でない,いわゆる乳頭部癌を除外するとさらに報告は少なくなる.また,その発生頻度,部位,症状発現時期などからみて,従来早期発見は困難なことが多く,進行した症例の予後はとくに不良であるといわれる.しかし,その病理形態により治癒の可能性は異なり,さらに最近,内視鏡診断技術の向上普及とともに早期癌の報告例もみられるようになつた.
 われわれはポリープ状に発育し,かなり巨大ではあるが深達性に乏しく,組織学的にも粘膜内にとどまる乳頭上部十二指腸癌を経験した.この症例はさらに十二指腸球部にカルチノイド腫瘍をも併存しており,この両者の併存は極めて稀で,いまだ本邦での報告はみられない様である.本文ではこの症例の提示に若干の考察を加えて報告する.

腎血管性高血圧を再発した両側腎動脈線維筋異形成の1例

著者: 上山武史 ,   龍村俊樹 ,   関雅博 ,   石坂伸太郎 ,   藤田恭子

ページ範囲:P.1425 - P.1428

はじめに
 腎血管性高血圧症はその原因が線維筋異形成のみならず,動脈硬化や大動脈炎であつても両側腎動脈に狭窄病変を生ずることが多く1,2),血行再建にさいし一側手術を行うか,両側同時手術を選択するか困惑することが多い.私どもは29歳の時,両側腎動脈に狭窄を認めたが,病変強度な右側腎動脈に大動脈—腎動脈バイパス作製,順調に経過していた女性が3年3ヵ月後に高血圧発作の再発を認め,造影により左腎動脈狭窄の進行を認め,パッチ拡大により治癒せしめた例を経験したので,両側病変をもつた線維筋異形成例の外科治療につき検討する.また,本例で腎動脈以下の腹部大動脈において節状狭窄の進行があり,腹部大動脈の線維筋異形成と思われるので呈示する.

成人腸重積症の3例

著者: 成末允勇 ,   細羽俊男 ,   向井晃太 ,   見市昇 ,   高橋侃 ,   小林敏幸 ,   小笠原長康 ,   坂本昌士 ,   田中早苗

ページ範囲:P.1429 - P.1433

はじめに
 成人の腸重積症は小児の腸重積症に比べて,比較的稀な疾患で器質的原因の明らかなものの多いことがその特徴とされている1,2)
 われわれは最近逆行性に横行結腸まで重積したS状結腸ポリープ癌症例,順行性に重積した盲腸癌症例,胃全摘・有茎空腸移植術による再建後に発生した空腸重積症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Behçet病に合併した両側膝窩動脈瘤の1例

著者: 山田武男 ,   岩井武尚 ,   佐藤彰治 ,   五関謹秀 ,   井上賢二 ,   滝口透 ,   杉原国扶 ,   畑野良侍 ,   毛受松寿 ,   滝沢登一郎 ,   松本誠一

ページ範囲:P.1435 - P.1440

はじめに
 Behçet病は口腔粘膜の再発性アフター,外陰部潰瘍,結節性紅斑皮疹・毛嚢炎様皮疹などの皮膚病変とブドウ膜炎を主とする眼症状を4主徴とするほか,多彩な副症状を有し,増悪と寛解をくり返して慢性に遷延する経過をとる全身性炎症性疾患である.そのうち血管病変を伴うものはAngio-Behçet(浦山)またはVasculo-Behçet(清水)と呼ばれている.最近われわれは,Behçet病患者に両側膝窩動脈瘤が異時性に発症した症例を経験し,外科的治療を加えたので報告する.

末梢型肺動脈瘤の1治験例

著者: 中橋恒 ,   吉田猛朗 ,   本広昭 ,   桑野博行 ,   古川次男 ,   安元公正 ,   井口潔 ,   石田照佳

ページ範囲:P.1441 - P.1444

はじめに
 肺動脈瘤は稀な疾患で,1947年Deterlingら1)の調査では剖検例109,571例中8例と報告している.しかし近年心血管系検査の発達・手術手技の進歩に伴いその診断も比較的容易となり,手術施行例の報告もあり,肺動脈瘤の報告が増加の傾向を示している.
 今回われわれは,胸部X線写真上,腫瘤陰影を呈した症例に対して開胸術を施行して肺動脈瘤である事を確かめ,肺葉切除にて摘出した1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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