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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科38巻2号

1983年02月発行

雑誌目次

特集 脾摘をめぐる話題

脾臓と免疫能

著者: 折田薫三

ページ範囲:P.179 - P.184

はじめに
 脾臓の免疫学的な位置づけは必ずしも明らかではない.胸腺や骨髄,リンパ節が,それぞれ中枢性,末梢性リンパ組織としての位置を不動のものにしているのに比べ,中枢性リンパ組織に生じたT,Bリンパ球が分化と移住を続けて成熟した末梢リンパ球となるための単なる里親として脾が考えられ,脾自体の免疫学的特性に関して研究された論文は比較的少ないようにみえる.一外科医の私にとつてはあまりにも大きいテーマであるが,癌免疫外科を志す者へ課せられた命題として,あえて脾臓と免疫能について考えてみたい.

胃癌と脾摘—リンパ節郭清の見地から

著者: 川口正樹 ,   武藤輝一 ,   梨本篤 ,   宮下薫 ,   田中乙雄 ,   佐々木公一

ページ範囲:P.185 - P.188

はじめに
 近年,癌の手術療法において,その成績の向上と安定化,さらに抗癌補助療法の開発にともない,臓器機能温存の立場から縮小手術の適応が検討されてきた.胃癌においても,その免疫機能を考慮して根治手術にともなう脾摘の是非が話題になつている.そこで,根治切除に際し膵体尾部・脾合併切除が行われる上部胃癌について,リンパ節郭清の面からみた脾摘の意義について述べる.

胃癌と脾摘—免疫の立場から

著者: 吉野肇一 ,   浅沼史樹 ,   熊井浩一郎 ,   露木建 ,   久保田哲朗 ,   石引久彌 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.189 - P.194

はじめに
 従来,胃癌の手術の際に脾摘が比較的,安易に行われてきた.その理由として下記のことが考えられる.
 Ⓐ 脾の臓器機能は無視できるものとされていたこと

脾摘と感染

著者: 関川敬義 ,   ,   菅原克彦

ページ範囲:P.195 - P.202

はじめに
 1919年Morrisら1)により脾摘後には感染症が増加する可能性が示唆され,1952年KingとShumacker2)は,小児の先天性溶血性貧血(以下,CHAと略す)に対して脾摘を施行した100例中重症感染が原因した2例の死亡例を報告した.これらは何れも脾摘後に,細菌感染に対する生体防御能の低下をきたす危険性があることを指摘している.以後,脾摘後の生体感染防御能について多くの論議がなされてきた.
 すなわち,小児においてはもちろん,成人においても,血液疾患やHodgkin病などのため,脾摘した後では感染率が高いという報告が多い3).しかし,外傷のために脾摘せざるを得ない症例での長期観察例の報告は未だ少なく,感染症のほか,免疫能の低下さらには最近にいたり発癌の危険性についても多くの論議がなされている.

門脈圧亢進症と脾摘

著者: 磯松俊夫

ページ範囲:P.203 - P.207

はじめに
 門脈圧亢進症の研究の歴史は,脾臓から始まつた.そして将来は脾臓におわるであろうと言つても過言でないほどに,門脈圧亢進症と脾臓は常に密接して論議されてきたし,また今後もされていくであろう.このような背景をふまえたうえで,門脈圧亢進症の外科治療が歩んできた道を,脾摘の問題に焦点をしぼりふりかえるとともに,著者が今まで治療を行つた門脈圧亢進症症例をもとに,門脈圧亢進症の外科治療における脾摘の意義ならびにその位置づけについて述べてみたい.

外傷性脾損傷—脾摘の是非

著者: 前川和彦

ページ範囲:P.209 - P.214

はじめに
 脾臓は肝臓,腎臓と並んで鈍的外力により最も損傷を受けやすい腹腔内実質臓器の一つである.また,腹部手術に際しての偶発的脾損傷(副損傷ともいう)は,稀ではあるが目新しいものでもない.偶発的脾損傷の多くは小さな脾被膜の剥離傷であつて,経験のある外科医ならば一度ならず圧迫によつて止血を試みたことがあるはずである.しかし一般的には,外傷性脾損傷,偶発的脾損傷の治療には脾臓摘除術(以下,脾摘と略す)が遍く行われてきたし,現在も行われている.1979年版の外傷外科学の教科書においてもなお"Splenec—tomy remains the only acceptable treatmentfor splenic injury"と記されている1)
 一方,1952年KingとSchumacker2)が乳児期の脾摘とその後に起こる重症敗血症の関係を指摘して以来,多くの所謂脾摘後敗血症(post-splenec—tomy sepsis)症例が報告され,外傷外科医の間では脾摘に伴う危険性が認識されるようになつてきた.昨今では損傷脾温存が,外傷外科領域の一大トピックとなつている.

カラーグラフ 臨床外科病理シリーズ・2

Barrett食道に合併した多発腺癌

著者: 板橋正幸 ,   廣田映五 ,   飯塚紀文 ,   平嶋登志夫

ページ範囲:P.176 - P.177

 Barrett食道とは,粘膜が円柱上皮で覆われた下部食道を意味し,食道潰瘍・狭窄に伴うことが多いとされている.1950年Barrettが最初に記載したが,当時は先天性食道短縮により篏頓した胃粘膜と考えられた.しかし,その後食道自体の粘膜として再認識されている.一方,食道の悪性腫瘍のうちで腺癌は稀であり,国立がんセンター食道悪性腫瘍切除例1,346例中6例に相当する.さらにBarrett食道とそれに合併した腺癌例という報告は,日本では極めて稀である.しかし,欧米では,Barrett食道は,日本以上に高頻度に認められるようで,癌の前駆病変(precancerous condition)として注目されつつある.その意味で本症例は一見の価値があろう.
 症例:71歳,男性,主訴・粘血便

文献抄録

腸球菌敗血症—臨床的意義と死因

著者: 棚橋達一郎 ,   相川直樹

ページ範囲:P.219 - P.219

 Enterocococcus(Streptococcus faecalis)は,臨床上,しばしば分離されるが,その病原性については,疑問視する向きもある.このため,その治療についても,全く無視してよいという意見と,種々の抗生剤の併用を推奨する意見があつた.著者らは,2つの病院の全科の患者のうち過去5年間に,血液培養にてEnterococcusの証明された114例について,臨床的検討を加えた.患者の平均年齢は57歳,男性78例,女性36例で,対象の46%は,手術前後の症例であつた.

ここが知りたい 臨床医のためのワンポイントレッスン

ヨード系造影剤使用のX線検査におけるショック対策は?

著者: 平松慶博

ページ範囲:P.221 - P.221

 A;経静脈性尿路造影(いわゆるIVP),その他の尿路造影,各種の血管造影に限らず,近年CTの普及に伴いヨード剤を使用する機会がさらに多くなつて来ている.IVPや血管造影の際には,とくに充分準備した上で検査を施行するのが常であるが,CTにおいては,比較的安易に造影剤を注射しているのを見かける.
 ヨード剤に対する反応の機序は,いまだ充分解明されていない.単なるアレルギー反応ではなく,複雑な免疫作用とも関連している様であるが,心理的な因子を強調する学者もある.

新形影夜話・2

心の平静を保つこと

著者: 陣内傅之助

ページ範囲:P.222 - P.223

 外科医が手術をするときには,体調の上からも精神的にも常に自分をベスト,コンディションにするように心掛けていなければならない.
 手術前夜は十分な睡眠がとれるよう日頃から訓練しておくべきで,むつかしい手術だからといつて気になつて眠れないようであつては,まだその手術をする資格はないといつてもいいだろう.もちろん,前日までに,以前まごついて困つたことのある手術の手順や,思わぬ異型に遭遇しても困らぬよう局所解剖の勉強をしておくことは当然であるが,これをすませたらあとは熟睡できるように日頃から癖をつけておくべきである.酒飲みの外科医の中には,このような場合には前夜十分お酒を飲んでぐつすり熟睡すると,朝早く目が覚めても頭がすつきりしているという人もある.こんな習慣の人はその方がいいだろう.要は翌朝の状態をベストに持つてゆくことである.

外科医のための臨床輸液問答・12【最終回】

症例による電解質の見方〈その3〉

著者: 長谷川博 ,   和田孝雄

ページ範囲:P.227 - P.232

糖尿病とアチドージス
 和田 アチドージスが次々と続き,いままでわりとClに関係があるものが多かつたんですけれども,今度は糖尿病性のケトアチドージスですね.これは昏睡寸前の電解質正常例ですか.
 長谷川 これは10数年前の症例ですが,口渇,多尿と体重減少を主訴としてきまして,胃の具合が悪いんだというんで,胃のほうを一生懸命調べたけれども,異常がない.入院する1週間前からとにかく身体の調子がものすごく悪い.それで,入院直後からうとうとし始めて昏睡的になつてきたんです.血圧も別に上がっていない.

画像診断 What's sign?

"double wall" sign

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.233 - P.233

 "foot ball"signと並んで背臥位正面の腹部単純撮影で腹腔内遊離ガスの存在を発見するために役立つsignである.すなわち,胃あるいは腸管などの管腔臓器の壁が,管腔内のガスと腹腔内の遊離ガスとに狭まれることによつて一層の輪状あるいは線状影として観察される.1941年Riglerにより"double wall" signとして報告された1)
 その他,腹腔内遊離ガスの所見として,臍動脈(索)や腸間膜が観察される場合もある.臍動脈陰影は臍部を頂点に左右の内腸骨動脈に向う逆V字形("invertedV" shaped)の線状影としてみられる.

座談会

ショックの薬物療法をどうするか

著者: 上嶋権兵衛 ,   藤崎真人 ,   伝野隆一 ,   望月英隆 ,   山本修三

ページ範囲:P.234 - P.245

 ショックの病態の複雑さに加えて,新しい治療薬の開発,患者管理の進歩などにより,最近ショックの治療は見直しの時期にきていると思われる.今回はそのうちの薬物療法のトピックに焦点をあてて,薬の使い方の基本,副作用,使用上の注意など,具体的な症例をもちより,討論していただいた.

臨床研究

甲状腺腫診断における201TICI delayed scanの有用性—手術標本との対比について

著者: 杉本寿美子 ,   渡辺幸康 ,   川上憲司 ,   篠崎登 ,   児玉東策 ,   勝山直文 ,   多田勝彦 ,   赤沢章嘉

ページ範囲:P.247 - P.253

はじめに
 201Tl-chloride(以後,201TlClと略)が腫瘍シンチグラフィーとして有用であると報告されて以来1,2,結節性甲状腺腫の質的診断に201TlCl甲状腺シンチグラフィーが用いられている.最近ではその質的診断を向上させる目的で,201TlCl delayed scanも行われている3).しかしそれに対する反論も多く4),一致した見解はいまだ得られていない.今回われわれは,結節性甲状腺腫の質的診断の面から,201TlCl delayed scanの有用性を手術標本との対比をまじえて検討したので報告する.

小児期における重度鈍性胸部外傷例について

著者: 中江純夫 ,   松田博青

ページ範囲:P.255 - P.258

はじめに
 小児期において,胸部外傷の発生頻度は一般に少ないと考えられているが,胸部外傷は小児外傷患者の死因として重要な位置を占めている.小児の胸部損傷は成人とは異なる病態を示すことが多く,診断と治療の上で種々の問題点を提起する.本稿では,われわれが経験した小児の鈍性胸部外傷症例に関し検討し,また種々の問題点を述べる.

小児腸重積症—手術適応について

著者: 秋山泰広 ,   石橋健治朗

ページ範囲:P.259 - P.263

はじめに
 小児の腸重積症は,比較的一般的な小児救急疾患の1つである.しかも小児の急性腹症として最も重要な疾患の1つであり,小児外科の対象疾患として以前より重視されている.小児の本症は,器質的原因のない,いわゆる特発性といわれているものが大部分をしめていることは周知の事実である.また手術をせずに治るという最大の利点があるが故に,本症の治療は原則的には,非観血的整復を試みるというのが諸家の一致した意見である.
 しかしながら,非観血的整復の限界をどこにおくか,すなわち手術の適応規準となると,諸家の報告はまちまちである.そこで,過去5年間にわれわれが経験した自験例150例について,臨床的検討を加え,手術適応の規準について考察を行つたので,若干の文献的考察と共に報告する.

臨床報告

高熱が持続し,大量下血をきたしたCrohn病(急性電撃型)の1例

著者: 中山真一 ,   坂門一英 ,   武井信介 ,   吉田浩樹 ,   北川晋二 ,   黒岩重和

ページ範囲:P.265 - P.269

はじめに
 Crohn病に対する外科治療は,主にその合併症に対するものであり,従つて待期的手術が大半を占めている.われわれは最近,下痢,下腹部鈍痛などを訴え来院し,入院後高熱が持続し,大量の下血を発症したために,緊急手術を余儀なくされた電撃型と思われるCrohn病の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

Pasteurella感染症2例

著者: 一戸兵部 ,   吉岡岑生 ,   星信 ,   品川範昭 ,   石川惟愛

ページ範囲:P.271 - P.276

はじめに
 最近,比較的稀と思われるPasteurella菌を,臨床にて分離同定したので,本邦文献とともに報告する.

直腸バリウム肉芽腫の1例

著者: 山森積雄 ,   三尾六蔵 ,   渡辺祥 ,   青木敦

ページ範囲:P.277 - P.282

はじめに
 直腸のバリウム肉芽腫は造影剤である硫酸バリウムが粘膜下に侵入した時に発生する肉芽腫である.現在,バリウムを使用した注腸造影検査が行われているが,今回われわれは注腸造影検査時に使用したバリウムが無痛性に管外漏出し,直腸後隙にバリウム肉芽腫を形成した非常に稀な例を経験した.本例のバリウムの粘膜下への侵入過程について述べるとともに若干の文献的考察を加えて報告する.

いわゆるMirizzi症候群を呈した胆嚢管癌の1例

著者: 白倉外茂夫 ,   矢嶋嶺 ,   岸田敏博 ,   浅岡善雄

ページ範囲:P.283 - P.287

はじめに
 胆嚢管癌は胆嚢管に限局していなければならないとするFarrar1)の診断基準を満たす胆嚢管癌はそのごく初期のものに限られ2,3),従つて臨床的に極めて稀れなもので偶然に発見されることが多い.
 一般に肝外胆道系の癌は手術時に原発部位の不明のものが多く,胆道癌取扱い規約4)によればその主たる占居部位を原発部位として取扱うという考え方を優先させると述べられており,今後それにそつて報告される胆嚢管癌の症例は増えるものと思われる.

両側腎に発生したAngiomyolipomaの1例—本邦103例の検討

著者: 岩佐真 ,   世古口務 ,   日高直昭 ,   細野英之 ,   鈴木聡 ,   古川勇一

ページ範囲:P.289 - P.297

はじめに
 腎の血管筋脂肪腫Angiomyolipomaは比較的稀な疾患とされていたが,近年腹部血管造影,腹部CT scan,腹部エコー等の診断技術の向上に伴い,その報告例は増加しつつある.最近われわれは本症の1例を経験し,さらに1980年12月までに報告された103例について検討を加えたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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