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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科38巻6号

1983年06月発行

雑誌目次

特集 吻合法—目でみるポイントとコツ 消化管吻合法

縫合糸の種類とその使い分け

著者: 小林寛伊 ,   都築正和

ページ範囲:P.735 - P.740

縫合糸選択の基準
 縫合材料は手術器材のうちで最も基本的かつ重要なものの1つであり,適応する組織ならびに手術手技に適した縫合糸を選択しなければならない.
 表1に本邦で市販されている主な縫合糸を示すが,それぞれが特徴を有しており,その選択使用に当つては次のような諸点を考慮しなければならない.

消化管吻合法の種類とその特長

著者: 丸山圭一

ページ範囲:P.741 - P.751

 消化管吻合術の基礎を短いページでまとめることは大変難しい.ここでは,吻合部の創傷治癒,吻合法の種類,代表的な吻合法の特長,結節縫合と連続縫合,縫いしろと縫合間隔,端々・端側・側々吻合,吻合部癒合に影響する因子について簡潔にのべることとする.

食道摘除術—食道胃管吻合

著者: 渡辺寛

ページ範囲:P.753 - P.756

 食道の臓器特異性には,①漿膜を欠くこと,②粘膜の厚さに比べ筋層が極端に厚いこと,③粘膜層と筋層間の移動が激しいこと,④?離あるいは切断により容易に短縮すること,⑤粘膜がうすいことなどがある.以上の特異性を考えると,食道を吻合する適切な操作としては,①粘膜を確実にとらえる操作,②厚い筋層全層に糸が確実に通る操作とが要求される.
 以上の理由から,私が常用する食道胃吻合法は,①層々(2層)吻合,②断端吻合,③結節縫合である食道胃断端層々(2層)吻合術である.そして食道の2層の内容は粘膜と筋層との移動を制限し,粘膜の損傷を最少限にすることを満たすために,内層は粘膜上皮,粘膜下層そして内輪筋の1/2層の構成となり,外層は内輪筋の1/2層と外縦筋層としている.

食道摘除術—食道空腸吻合

著者: 葛西森夫 ,   西平哲郎

ページ範囲:P.757 - P.759

適応
 教室では,胸部食道全摘後に空腸を再建用臓器として選ぶ場合,図1に示すごとく,胸骨後経路頸部食道—胃間有茎空腸間置術を施行している.従来,分割手術の2次手術での再建用臓器として空腸を利用する場合が多いが,癌巣が腹部食道に及んでいる場合や,噴門リンパ節に転移があり胃壁に直接浸潤している症例など,近位胃切除を行つて胃管による再建が困難な場合などには一期的手術としての適応がある.すなわち,頸部で食道—空腸吻合を行い,腹部で空腸と胃体前壁あるいは近位胃切除口側端とを吻合する.ビルロートⅡ法胃切除既往例でも図2のように,胃切時の胃空腸吻合部をとりはずし,この輸出脚の一部を空腸片として用いることが可能である.

食道摘除術—食道結腸吻合

著者: 和田達雄

ページ範囲:P.761 - P.763

 消化管を吻合するさいには,粘膜・粘膜下層および漿膜・筋層の断端を正確に密着させることが,吻合部の治癒にとつてもつとも有利な条件と考えられる.
 したがつて,筆者はすべての消化管の吻合を原則として,層々で二層に縫合することとしている.食道と結腸を吻合する場合も,例外ではない.ただし,食道には漿膜がなく,結腸の粘膜・粘膜下層は胃や小腸に比較して脆弱であるから,両者の吻合にさいしては細い糸を用い,できるかぎり細かく丁寧な縫合を行う必要がある.

食道離断術—経胸法

著者: 杉浦光雄 ,   渡辺勇 ,   榛沢隆

ページ範囲:P.765 - P.767

 著者が行つている経胸食道離断術は,広汎な血行遮断と食道離断が骨子である.血行遮断後の食道離断と再縫合を記載する.

食道離断術—経腹法

著者: 土屋凉一 ,   野田剛稔 ,   山口孝

ページ範囲:P.769 - P.771

 経腹的な食道離断術として,教室では従来は手嶋らのいう経腹的食道粘膜離断を施行してきたが,手術機器の開発に伴い近年ではもつぱら消化管吻合器械を用いた方法を行つている.
 本法は用手離断に比べて明らかな手術時間の短縮と出血量の減少が認められるため,基礎疾患に肝硬変を伴つている事の多い食道静脈瘤の患者にとつては比較的安全に行える手技である.

胃全摘術—食道空腸端々吻合

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.773 - P.775

 著者らの施設では胃全摘例のうち術前の全身状態が比較的良好なものには端端吻合を行い,全身状態が良好でないものには端側吻合を行うこととしている.なお食道・空腸端々吻合を行うとき下の方の吻合に関しては空腸間置手術かRoux-en-Y吻合を行つている(図1).ここでは食道・空腸吻合だけについて述べる.

胃全摘術—食道空腸端側吻合

著者: 杉町圭蔵 ,   夏田康則 ,   井口潔

ページ範囲:P.777 - P.782

 胃全摘後の再建術式は多種多様であるが,これらを大きく分けると,(1)食道・十二指腸吻合術,(2)食道,小腸吻合術(いわゆるBillroth Ⅱ型吻合法やRoux-Y法など),(3)食道十二指腸間腸管置法(小腸間置法や大腸間置法など)に分類することができよう.本稿では(2)の中でも代表的な,いわゆるBillroth Ⅱ型吻合法とRoux-Y法について述べてみたい.

胃全摘術—食道空腸β吻合

著者: 鍋谷欣市

ページ範囲:P.783 - P.785

□概要および適応
 胃全摘術後の再建術式には種々の方法が行われている.それぞれ一長一短があるが,β吻合法は吻合部が少なく,poor risk例にも安全かつ容易な術式である.われわれは逆流性食道炎防止などのため,その変法を行つている(完成図:図6).β吻合原法との相違点は,各吻合間の距離,β係蹄作成時の空腸切離,食道空腸吻合とそこでのHis角形成,それに新たな空腸瘻の造設などである.

胃全摘術—食道空腸ρ吻合

著者: 菅原克彦 ,   関川敬義 ,   江口英雄

ページ範囲:P.787 - P.790

 胃全摘後の再建術式は安全性と術後に発生する無胃症候群を防止するため各種の術式が考案されている.Roux-en-Y法により挙上した小腸,有茎の横行結腸や回盲部がそれぞれの根拠により胃の代用臓器として用いられている.一般的に行われる小腸利用による術式には中山,友田,大内,光野らの方法が有名である.著者らは先人にならい挙上した空腸でρループを作製して切離した食道下部と端側吻合する術式を採択しており,重篤な食道空腸吻合部の縫合不全はなく逆流性食道炎の防止や食物の貯留能の改善に有用であり術後愁訴もきわめて少ない.

胃切除術—胃上部切除術における食道胃吻合法

著者: 山本貞博

ページ範囲:P.791 - P.793

 胃上部切除術の目的は,出血の原因になる食道胃静脈瘤の完全な消滅であつて,構成はまず静脈瘤に向う供血系路遮断のための脾摘除(短胃静脈系),胃上部周囲血行郭清(左胃静脈系,無名静脈群)と,次に静脈瘤の局所処理のための下部食道胃上部の区域切除と再建を基本とする.付随的に幽門形成を加えるが,奇静脈半奇静脈に排出する下流側血行は温存する.
 胃上部切除術における下部食道胃上部切除後の再建は,静脈瘤直達手術のすべての術式に共通した矛盾点,すなわち,縫合不全を生じない吻合法で,しかも,術後静脈瘤再発にはたらく血行再建を妨げるという両条件に対応できなければならない.さらに,肝障害,脾機能亢進があり,高い門脈圧に支えられた側副血行路が海綿状とも言う程に発達し,浮腫をともなつて,もろい組織となつた局所に的確に対処しなければならない.

胃切除術—胃・十二指腸吻合 Billroth Ⅰ法

著者: 佐々木公一 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.795 - P.797

十二指腸の切離
 切除する胃の遊離操作(省略)が完了した後,幽門輪を越えた十二指腸の切離予定線をはさむように2本のLister鉗子を並べてかけ,その間をメスで切離する(図1).それぞれの断端面には生食水で濡らしたガーゼをあて,周囲への汚染を防ぐようにする.

胃切除術—胃・空腸吻合 Billroth Ⅱ法

著者: 佐々木公一 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.799 - P.802

 十二指腸潰瘍による高度の瘢痕性変化や十二指腸の授動(Kocher)を行つてもB-I吻合が不可能のときに胃・空腸吻合(gastrojejunostomy)が行われる.
 B-Ⅱ法には結腸前吻合(gastroenterostomia antecolica)と結腸後吻合(gastroenterostomia retrocolica)とがあり,通常は結腸前吻合でよいが,輸入脚が長くなり過ぎるような場合には結腸後吻合を行う.輸入脚と輸出脚との間に側々吻合(Braun吻合)を併施する必要はない(図1).

胃切除術—胃・空腸Roux en Y吻合

著者: 佐々木公一 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.803 - P.805

 胃と空腸を図1のように吻合した場合,吻合部潰瘍が発生し易いということは古くからよく知られている.すなわち,十二指腸内容(十二指腸液,胆汁,膵液など)が直接に下部腸管へ流れることになり,胃空腸吻合部での胃液と十二指腸内容との混合による中和作用が低下するため,強い胃酸の消化作用によつて吻合部潰瘍が発生する,といわれている.
 したがつて,このような吻合術式は胃酸分泌区域の大部分を切除する胃亜全摘術で,しかも,何らかの解剖学的制約のために他の吻合法を行うことができないような極めて特殊な症例にのみ許される術式といえる.

胃切除術—胃・胃吻合

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.807 - P.811

 このような形で吻合が行われるのは多くは分節胃体部切除術(segmental gastrectomy)と幽門保存胃切除術(pylorus preserving gastrectomy)とである.

胃切除術—幽門形成術

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.813 - P.815

適応
 幽門形成術は,十二指腸潰瘍に対する各種迷走神経切断術とともに行われるが,選択的近位迷走神経切断術では,幽門狭窄症状が著明のものにのみ付加する.このほかに,先天性幽門輪肥厚症や噴門側胃切除術,食道胃管吻合術など幽門輪の機能障害が予想される場合には適応となる.
 幽門の器質的変化による通過障害が考えられる場合に,幽門形成を施行すべきかどうかの判断は困難なこともある.とくに潰瘍にともなう一時的な狭窄により狭窄症状が出現することがあるからで,迷走神経切断術による減酸の結果,潰瘍の治癒にともなつて狭窄症状が改善されることがある.当教室の切除胃における幽門輪の計測では,胃潰瘍,十二指腸潰瘍で狭窄症状の全くなかつたものは,直径18.5から19.5mmであり,狭窄症状の強かつたものは15.0mmであつた.Waltonによる術中測定の結果では,正常が18mmから22mm,軽度狭窄が15mmから18mm,高度狭窄が15mm以下としており,いずれにしても,直径15mm以下では幽門形成術の必要があると考えられる.開腹時の判定の方法としては,胃前壁切開により,金属チップのサイザーを挿入して測定してもよいが,簡単な方法としては,栂指と示指の双合診で幽門輪の大きさを判断してよい.この場合は,栂指と示指の一部が幽門輪をこえて接するようであれば,形成術は必要なしと判断する.

胃・空腸吻合術

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.817 - P.819

適応
 幽門側の進行胃癌や膵胆道系の悪性腫瘍のため幽門部から十二指腸部までの閉塞ないし高度狭窄症状あり,切除再建の不可能な症例に対し適応される.

小腸・小腸吻合

著者: 阿曽弘一 ,   高橋俊毅 ,   大谷剛正 ,   工藤庸生

ページ範囲:P.821 - P.824

 小腸—小腸吻合のうち,血流や口径の差を考慮する必要の少ない側々吻合や端側吻合には,盲のう症候群の発生があり,端々吻合が原則である.われわれも多くの場合,手縫いのAlbert-Lembert法の端々吻合を行うので,以下主としてこれについて述べる.

大腸切除術—回腸結腸,結腸結腸吻合

著者: 西尾剛毅 ,   牧野永城

ページ範囲:P.825 - P.828

 消化管の縫合に関しては古くから種々な方法が提唱され,その各々に一長一短があり,どれが一番良いとは言えず,各外科医が慣れ親んだ方法が最も良い方法であると考えている.

大腸切除術—回腸直腸吻合

著者: 土屋周二

ページ範囲:P.829 - P.832

適応
 潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や大腸腺腫症に対して全結腸摘出術が行われ,そのさい回腸—直腸吻合術が行われる.炎症性腸疾患では直腸の病変が比較的軽く,直腸壁も丈夫で吻合操作に耐えるものとする.直腸をのこすとこれらの全大腸を冒す疾患では病変の範囲を著明に減少しほぼ治癒するが,温存直腸には病変が残るため,術後長期の監視を必要とする.なお,全身状態不良のものや合併症のための緊急手術には回腸,直腸吻合は行わない.

大腸切除術—結腸直腸吻合

著者: 土屋周二

ページ範囲:P.835 - P.840

適応
 直腸癌に対する手術で骨盤腔内で吻合するいわゆる低位前方切除術が主な適応である.S状結腸癌における腹腔内直腸との吻合は高位前方切除術である.

大腸切除術—人工肛門造設術および閉鎖法

著者: 矢沢知海

ページ範囲:P.841 - P.844

単孔式S状結腸瘻(Miles手術)(図1)
 ⅰ) S状結腸は胃腸縫合器にて,血管の走行を考慮し,栄養されていることを確認した部位で切断され,その口側断端を人工肛門とする.
 ⅱ)部位は,左下腹部,臍と上前腸骨棘との中央部よりやや上方で,腸直筋側で,上前腸骨棘より少なくとも5cm以上はなれた位置が装具をつける際に便利である.

器械吻合—消化管器械吻合器の種類

著者: 中山隆市 ,   青木明人 ,   岡芹繁夫

ページ範囲:P.845 - P.850

 消化管吻合器は,1)吻合せんとする消化管臓器の接合,2)接合部のステイプル吻合,3)吻合部の内腔打抜き,の3段階を経て消化管の連続性を確保することを目的としている.従つて,現在はそれぞれ各消化管の内腔に適したピストル型,大小の吻合器が普及してきている.
 吻合器には直軸,または彎曲軸があり,その重量は500〜800gm程度である.それらの吻合用ステイプルはステンレス製が主で,13本〜32本,1列あるいは2列の配列構造となつているがステイプルと内腔打抜き機構の円筒刃に関し交換用と完全なデイスポ・タイプがありここに一吻合あたりの経費が¥150〜¥40,000となる差が生じている.現在この価格差と術後合併症としての縫合不全発生率には有意差は報告されていない.

器械吻合—食道空腸吻合

著者: 遠藤光夫 ,   高崎健

ページ範囲:P.851 - P.853

器械
 現在われわれが臨床に用いている食道用腸管吻合器(TKZ-F 3000)(図1)は,その原理はソ連製の腸管吻合器(アンドロゾフ式PKS−25,SPTU)であるが,臨床面における多少の欠点を改良した国産のものである.器械の全長は40cm,吻合部口径は26mmである.先端頭部は,手許のネジ操作で本体から押し出されたり,引き戻されたりする.先端頭部の本体と接する面の外周にはクリップの受け溝があり,その内側にビニール製の円形の板を装着する.これは,本体からの円形刃を受けるマナ板の役をしている.本体先端部の外周には,12本のクリップを装着し,手許のハンドルを握ると,ロッドにより,クリップと円形刃が本体より押し出され,頭部との間に挾んだ腸管を切離し,同時にクリップで内飜縫合することになる.クリップは,幅4mm,足高4.5mmで,平板型のタンタルム合金製である.
 器械での吻合は,誰がやつても同じようにいくのが特色であるが,器械吻合を完全にうまくいくようにするためには,少なくとも術者が自分で点検しておくことが大切である.自験例でうまくいかなかつた以前の症例をみて気づいたことは,(1)クリップのカートリッジを正確に本体にはめこんでいるか,つまり,目印がきちんと一致しているかを確かめる.これは,少しづれても,クリップが頭部の受け皿に正確に入らず,クリップが内側に屈曲せず,きちんと縫合されないからである.

器械吻合—食道離断術

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.855 - P.859

適応
 食道離断術(経胸法,経腹法)は手縫い法,器械吻合のいずれでも実施することが出来るが,自動吻合器の利用は経腹法においてとくに有用である.
 消化管自動吻合器としてわが国では米国製(EEA),ソ連製(STPU型),国産(中山式)の3種類が使用されている.いずれの吻合器も食道離断術に使用することが出来るが,本稿ではわれわれが常用しているEEAによる経腹的食道離断術について述べる.

器械吻合—胃・空腸および小腸の器械吻合

著者: 葛西洋一 ,   中西昌美 ,   山下邦康

ページ範囲:P.861 - P.865

 器械吻合に用いる器械は,当初は切断器型のものであつたが,現在はピストル型のものが開発され,消化管の再建手術に用いられている.
 管腔臓器吻合用の器械は,1964年にソ連のKaliniaにより開発され,その後アメリカにおいて改良されたEEAが広く用いられるようになった.EEA(end-to-end anastomosis) Staplerは最初,低位前方切除に使用されたが,その後Ravich,Steichenらにより種々の応用方法が紹介され,あらゆる消化管再建に利用されている.すなわち,end-to-end or end-to-side esophago-jejunostomy,end-to-end colostomy,end-to-end ileocolostomy,gastroeso-phagostomy,Roux-en Y cholecysto-jejunostomyなどの場合に使用されてきたが,多くの場合,吻合部の口側または肛門側に器械の本体を挿入するための切開孔が必要となり繁雑で,これをさらに閉鎖する操作が加わる.

器械吻合—結腸直腸の器械吻合

著者: 北島政樹 ,   三宅純一 ,   相馬智

ページ範囲:P.867 - P.870

 器械吻合は手術時間の短縮,吻合の確実性などの利点を有するが,最大の利点としては手縫い吻合が困難な小骨盤腔などの吻合が容易に行えることである.特に下部大腸癌の吻合に際し,器械吻合を用いることにより低位のものでも括約筋温存術が可能となる.

胆管吻合術

著者: 羽生富士夫

ページ範囲:P.871 - P.875

 胆管吻合法を必要とする胆道再建術(この用語についての明解な定義はまだ無いといえるが)の対象となる疾患は,極めて多種多様であり,手術例も近年急速に増加している.良性疾患では,胆管結石症,肝内結石症,先天性胆管拡張症,膵胆管合流異常症,良性胆管狭窄,術中胆管損傷,慢性膵炎などであり,悪性疾患では,胆管癌,胆嚢癌,乳頭部癌,膵癌などが対象となる.
 胆道再建術の術式そのものも多種多様であり,最も単純な形の,胆管胆管吻合術から,胆管十二指腸吻合術,胆管空腸吻合術,まれには,胆管胃吻合術などが行われているが,さらに肝門部胆管空腸吻合術,肝切除兼肝内胆管空腸吻合術といつた手術も施行される.膵頭十二指腸切除や膵全摘も胆管吻合法が必須の手術であり,時には,血管合併切除,拡大肝右葉切除兼膵頭十二指腸切除といつた極限的な術式も行われるようになつた.ここでは,胆管吻合法を中心に,胆道再建術の要点と問題点,縫合糸のえらび方,吻合法の実際を述べる.

胆管吻合術—肝管空腸吻合法

著者: 小野慶一 ,   大沼裕行 ,   奥寺大

ページ範囲:P.877 - P.879

 胆道再建のひとつの手段として肝管空腸吻合術があげられるが,本法を安全に実行するため,著者は留意すべき3原則として,1)縫合不全,2)術後狭窄,3)上行感染をそれぞれ防止することを強調したい.そのためにはRouxen-Y方式による端側吻合術が効果的であろう.この方法であると吻合部の緊張が完全に回避され,従つて粘膜相互の確実な接着が可能であり,また腸内容の肝内胆管への上行汚染がかなりの程度防止されるからである.また肝門部という狭い手術野での操作が主体となるため,後壁は全層一層で行つた方が確実に粘膜の相互接着が実現され術後狭窄を防止できるように思われる.以下ステップをふんで解説してみたい.

胆管吻合術—総胆管十二指腸吻合法

著者: 中山和道

ページ範囲:P.881 - P.884

 総胆管末端部病変に対する附加手術,内胆汁瘻造設術は実地臨床上重要な術式であり,肝外胆道を用いる術式のなかでは総胆管十二指腸吻合術は,胆管空腸吻合術(Roux-Y),十二指腸乳頭括約筋形成術(乳頭形成術)などに比べ,手技も簡単で侵襲の少ない手術である.今回は総胆管十二指腸吻合術(側々および端側吻合)について,手術適応,手術手技についてのべる.

胆管吻合術—Longmire法及びSoupault法

著者: 宮崎逸夫 ,   泉良平

ページ範囲:P.885 - P.888

 肝門部胆管癌や胆嚢癌による上部胆管閉塞の手術成績は,PTCDや肝切除術などによつて向上しつつあるが,姑息的手術を余儀なくされる場合も少なくない.姑息的手術には外胆汁瘻造設術や,Longmire法,Soupault法とよばれる肝内胆管空腸吻合による内胆汁瘻造設術がある.これらの肝内胆管空腸吻合術は逆行感染の頻度が高く,決して良好な手術とはいえないが,切除不能な胆管癌でも比較的長期の生存をみることがあるので,肝内胆管空腸吻合術はそれなりの意義を有するといえよう.

膵管吻合術—膵空腸吻合

著者: 鈴木敞 ,   戸部隆吉

ページ範囲:P.889 - P.893

 教室では,膵頭十二指腸切除に際し生理的再建法を原則としている.すなわち,口側より胃空腸吻合,膵空腸吻合,胆管空腸吻合の順にBillroth I法方式で再建し,ブラウン吻合は一切付加しない.その結果,膵空腸吻合は端側吻合となり,その吻合部を全食事塊が通過する.本吻合操作は胃空腸吻合を終了してのちそれより約5cm肛側で後結腸性に施行され,そして膵管チューブは残胃前壁か空腸側壁を経由して体外に誘導される(図1).以上をふまえ,われわれの試みている門脈温存下の膵頭十二指腸切除時の膵空腸吻合手技を述べる.

膵管吻合術—膵管空腸吻合

著者: 佐藤寿雄

ページ範囲:P.894 - P.896

 膵管と空腸との吻合術は,膵頭十二指腸切除術後の消化管再建術の一つとしての膵管空腸吻合術のほかに,慢性膵炎に対する膵管減圧手術としてのものがある.慢性膵炎に対するものとしては,膵管空腸側々吻合術と膵尾側膵管空腸吻合術があるが,今回は紙数の関係上,膵管空腸側々吻合術について述べる.Puestowら(1958)の原法は,膵尾部を切除して膵体部の一部を空腸内に挿入し,頭側の膵管と空腸との側々吻合を行う方法であつたが,その後多くの人によつて改変が加えられながら今日の術式に至つている.この術式は,膵管のほぼ全長にわたつて膵管を縦に切開し,結石がある場合にはできるだけこれを摘出したのち,膵管と空腸との側々吻合を行うものである.通常side-to-side Pancreaticojejunostomyといわれるが,lateral pancreaticojejunostomyあるいはlongitudinal pancreaticojejunostomyともいわれる.この術式の適応は,膵病変がび漫性にあり,膵管の狭窄が多発性にあつて,膵管が不規則に拡張している場合である.膵臓が萎縮硬化し,膵管の拡張がない場合には適応とはならない.以下,著者らの行つている方法を中心に,この術式について述べてみたい.

血管吻合法

手術器械と縫合糸

著者: 三島好雄 ,   久米進一郎

ページ範囲:P.897 - P.900

縫合器械
 血管に直接侵襲を加え操作するという特殊な目的のために,血管内膜を損傷せず,微細な操作に適するように種々の工夫された器具や材料が用いられており,一般外科手術器械を不用意に流用することは避けるべきである,あつかう血管の大小,性状,露出の程度,術野の深さなどにより,適当な大きさ,形,把挾部の構造の器具を選択する必要がある.

基本的吻合法—動脈

著者: 浅野献一

ページ範囲:P.901 - P.904

 動脈系の吻合といつても大動脈,中,小動脈では自ずと吻合技術が異なり,使用する縫合材料も術者の好みがあるので本稿では著者が日常行つている術式について述べる.

基本的吻合法—静脈

著者: 阪口周吉

ページ範囲:P.905 - P.907

基本事項
 静脈の吻合は,基本的には動脈の吻合と異ならない.しかし次の点を留意しておく必要がある.
 (1)血管壁がうすい
 これは吻合には極めて有利で,その点,静脈吻合は動脈のそれよりも遙かに容易である.と同時に,縫合その他の操作により裂けやすいという欠点もある.

基本的吻合法—A-Vシャント

著者: 太田和夫

ページ範囲:P.909 - P.911

A-Vシャントの種類
 A-Vシャントは血液透析に用いられることが最も多いが,そのほか高カロリー輸液路としても重要である.最近,この分野は急速に展開しており,それにつれて手術もカニューレを挿入する外シャント,動・静脈を直接吻合する内シャントから,代用血管を使う内シャントや動脈表在化なども行われるようになり,全体をカバーするものとしてブラッドアクセスという新しい名称が一般的になりつつある,ここではその代表として,内シャントを取りあげ説明したい.なお,適応については使用目的によつて相違するので一般的に述べることはできないが,慢性腎不全例では血清クレアチニン値が10mg/dl前後に達したときということができよう.

器械吻合

著者: 井口潔 ,   草場昭

ページ範囲:P.913 - P.916

 井口式血管吻合器(A型)で吻合できる血管口径は1.5mmから5.0mmまでである.血管壁に硬化,肥厚,炎症などの病変のない血管の吻合に威力を発揮する.

微小血管吻合法

著者: 玉井進

ページ範囲:P.917 - P.920

 手術用顕微鏡を用いて,6〜40倍に術野を拡大して血管吻合をおこなう手技を「微小血管吻合法microvascular anastomosis」と称する.本法の開発以来すでに20数年を経た今日では,外径0.2〜0.3mmの血管を吻合することも可能である.通常は外径3.0mm以下の血管を対象とするが,太い血管に応用すればより正確な吻合が可能で,開存率も一段と向上する筈である.

尿路系・他

尿管・尿管吻合

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.921 - P.923

 尿管吻合における基本的な対処法は消化管と同じであるが,尿管は腸管ほど位置的自由度がないこと,細くて内腔の狭い臓器であること,尿の流れる臓器であること,および左右2本の系が独立していることが異なる.
 尿管相互の吻合法の様式には,尿管端々吻合と,交叉性尿管端側吻合の2つの方法がある(図1).

尿管・膀胱吻合

著者: 大島一寛 ,   田原春夫 ,   坂本公孝

ページ範囲:P.925 - P.927

 尿管膀胱吻合術を必要とする疾患は,その病因,病変の程度および範囲によつて,それぞれ異つた方法を選択しなければならない.周知のとおり,尿管・膀胱吻合法にも幾つかの術式があるが,ここでは紙数の関係もあるので粘膜下トンネル法による逆流防止式尿管・膀胱吻合術についてのみ述べる.

尿管・腸吻合

著者: 田崎寛

ページ範囲:P.929 - P.931

 尿管・腸吻合の歴史は古く1851年Simonによる尿管・直腸吻合,1903年Müllerによる尿管・S状腸吻合,1904年Goldenberyによる遊離回腸・尿管吻合を用いた回盲部導管などに始まつたが,Bricker(1950)の回腸導管造設術まで実用化には至らなかつた.その後もHeitz-Boyer法,Loseley-Johnson法などの直腸利用の尿路変更法も行われたが,結局現時点で実際の評価を得ているのは回腸導管造設術と尿管・S状腸吻合術である,結腸導管造設術も限られた症例には適応となるが,尿管・腸吻合の手技からすれば前述の2手術について述べれば足りるものと考える.

精管再吻合

著者: 石神襄次

ページ範囲:P.933 - P.935

 精子輸送路の再開通をはかる目的で行われる.避妊を目的とした両側精管結紮(切断)術後あるいはその他の手術時誤まつて精管に通過障害をきたした場合の他,精管,副睾丸などの局所性炎症後の閉塞例も適応となる.閉塞の部位によつて,精管—精管,精管—副睾丸,精管—睾丸,副睾丸—睾丸などの吻合法が用いられる.いずれの方法でもその目的は,精路の通過性を回復して,射精液内に活動性精子を再現せしめ,授精可能の状態に導くことにあるため手術適応としては少なくとも次の条件にかなつていることが要求される.
 1)吻合側睾丸が十分造精機能を保持していること,そのためには睾丸側断端よりの滲出液中に多数の精子が存在していることが前提となる.

卵管吻合術

著者: 伊藤博之

ページ範囲:P.937 - P.939

□適応と診断
 卵管不妊に対する手術療法のコツは,適応の選択にあるといえよう.そのためには術前に,病変部の確認,原因疾患の発見に勉める.とくに必要な検査は子宮卵管造影法で,これによつて大体の病態を把握できる.そのほか,ラパロスコープやクルドスコープも参考になる.
 原則として,一側卵管に通過性が認められれば,本手術は行わない.そのほか患者年齢(40歳以上は妊娠しにくい),原因疾患(結核性病変は除外する)も考慮する必要がある.その結果,対象となる患者は,40歳以下の卵管不妊手術後の復元希望者,卵管妊娠の保存手術,峡部の結節性卵管炎などが主となる.

胸部外科

A-C Bypass手術における吻合法

著者: 杉村修一郎

ページ範囲:P.941 - P.944

 冠動脈の血行再建手術には種々の方法があるが,本稿では静脈片を導管とする大動脈・冠動脈間バイパス作製術について吻合の手技をのべる.かなり細かい血管吻合であるので2〜3倍の拡大ルーペを用いるのが有利である.

鎖骨下動脈・肺動脈吻合術

著者: 中江純夫

ページ範囲:P.945 - P.947

 近年,乳幼児期の肺血流量減少型心疾患に対する寛解手術として鎖骨下動脈・肺動脈吻合術が再評価されている.大動脈弓と対側における鎖骨下動脈・肺動脈吻合術はBlalock-Taussig手術の名で広く知られているが,最近は種々の工夫が考案され,左側での本吻合術がわが国では盛んに行われている.ここでは,Blalock-Taussig吻合法を中心に,また最近工夫されている左側での吻合法を示す.

気管・気管支吻合術

著者: 橋本正人 ,   武岡哲良 ,   田辺達三

ページ範囲:P.949 - P.952

 人工気管が臨床応用されはじめているとはいえ,まだ信頼するにたるものでなく,肺移植も全く実用化されていない現在,気管・気管支病変に対する唯一の治療法は切除再建にあるといえよう.われわれの現在行つている方法の実際を紹介し,本法施行上の留意点について述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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