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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科38巻7号

1983年07月発行

雑誌目次

特集 鼠径・大腿ヘルニアの話題

鼠径部のsurgical anatomy

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.971 - P.976

はじめに
 鼠径・大腿ヘルニアの手術を正しく行うために最も重要なのは,鼠径部の正確な解剖の知識である.一般の外科医が本人はよく知つているつもりでも,実はよくわかつていないことが多いのも鼠径部の解剖である.鼠径部の解剖に,かなり難解な部分が多いことは欧米のヘルニアの専門家といわれる学者達の間で,いまなお意見の違いがあつて論議の続いていることでもわかることであろう.鼠径ヘルニアは,おそらく外科手術のうち最も数多い手術であり,その手術には外科医たる者,すべてに熟練が要求される.その最も基本になるのが解剖の知識なのである.その解剖も結局は指導医の下に実地の修練を重ねて得られるもので,本だけで得られるものではないのだが,ここではその習得にいくらかの助けにでもなればと思い,成人外鼠径ヘルニア手術の手順を追う形で解説を試みてみたい.

小児鼠径ヘルニア

麻酔—再発予防と外来手術の面から

著者: 岩井浩

ページ範囲:P.977 - P.981

はじめに
 小児そけいヘルニアは,全身麻酔を要する小児疾患の中で最も頻度の高い疾患のひとつである.ある幼稚園での疫学的調査では,全園児の5.1%が何らかの全身麻酔を経験しており,そのうち約20%がそけいヘルニアであつた1)
 そけいヘルニアを手術するとき,中小病院では専門麻酔医を得がたいため,殊に新生児や幼児では外科医が不安を抱きながら麻酔をかけるか,出張麻酔医を得られたとしても術者は遠慮しながら執刀するのが現実であろう.

手術の適期

著者: 堀隆

ページ範囲:P.983 - P.985

はじめに
 今日のように小児外科が発達する以前おいては,小児鼠径ヘルニアの手術は1歳未満は行わないのが原則であつた.しかし実際に嵌頓を起こして問題になるのは1歳未満がほとんどで,小児手術,小児麻酔の普及,欧米での成績に刺激されて手術年齢は下り,ついに発見し次第手術するといわれるようになつた.そして小児科から1ヵ月前後の幼若例もどんどん小児外科に送られて来るようになつたのであるが,生後1〜2ヵ月(3ヵ月未満)の手術は,それ以上の月齢のものに比べて格段に難しいと感じさせられる.最近では小児病院の専門家の中からも3,4ヵ月までなるべく待つという意見も聞かれる.一つの反省期に入つているとも考えられる.このような情勢の中で,自例をもとに,手術の適期についてわれわれの考えをのべてみたい.

単純高位結紮切断—内鼠径輪縫縮をめぐつて

著者: 梶本照穂

ページ範囲:P.987 - P.991

術式の移りかわり
 外鼠径ヘルニア(以下,鼠径ヘルニア)が成立するには,小児に限つて言えば,胎生時に伸長してきた腹膜鞘状突起が開存したままで残つていることが前提となることは,すでに疑いをはさむ余地がない.そしてこの発生病理に適合した術式である単純高位結紮法が日本で採用され始めたのは,近々20年ばかり前のことでしかない.その術式は普及し,優秀性が国内で次第に知られるようになつたが,それは日本小児外科学会の力に負うところが大きい.
 図1は,日本の主要小児外科施設(1964年度は外科施設)に小児の鼠径ヘルニアにどの術式を常用しているかをアンケートでたずねた結果をまとめてみたものである1-3).日本で採用されている主要ないくつかの術式が年を追つて消長するさまは,大変興味深い.そのなかでもつとも目につくのは,Bassini法の著しい没落(しかしそれでも0にはなつていない)と単純高位結紮法(Lucas—championniere法,Potts法)の急成長の2点である.次いで注目されるのが,波多腰法の消長で,1972度には2割の施設で採用されていたものが1979年度は1割に減つてしまつた.これには内輪縫縮法も含められている.このようにして高位結紮法はようやく過半数の52%の採用率となり,主流的術式とはなつたが,残るおよそ半数の施設は,依然としてそれ以外の術式で行つていることに着目したい.

滑脱ヘルニアの処置

著者: 今泉了彦 ,   平田彰業 ,   野沢博正

ページ範囲:P.993 - P.995

はじめに
 鼠径ヘルニアの場合,ヘルニア内容となる臓器(盲腸,結腸,膀胱,子宮および付属器など)の腹膜被覆のない部分が脱出し,ヘルニア嚢の一部を形成するものを滑脱型ヘルニアと呼んでいる.小児にも滑脱型ヘルニアはあるが,その大部分が卵管,卵巣の滑脱であり,全女児鼠径ヘルニアの20〜30%程度にあるとされている1).稀れに盲腸,虫垂が滑脱することもある.
 小児の鼠径ヘルニアは,腹膜鞘状突起の閉鎖不全が原因であり,外科治療はヘルニア嚢の高位結紮が標準術式とされている.しかし滑脱型ヘルニアでは,単純な高位結紮が困難であることから治療に対する考えは必ずしも統一されておらず,手技においてもさまざまな工夫がなされている.問題点を整理しながら私どもの行つている術式を紹介する.

片側症例における対側手術について

著者: 秋山洋 ,   佐伯守洋 ,   小方卓

ページ範囲:P.997 - P.1000

はじめに
 小児外科及び小児麻酔の進歩にともない鼠径ヘルニアの手術は極めて安全に行われるようになり,手術適応に関しての年齢制限はほとんどなくなり,発症後比較的早期に行われるようになり,年少児の手術例が急増してきている.この年少児の手術例の増加にともなつて,就学前後を目標に手術が行われてきた時代に比し,片側症例において術後に反対側が出現してくる確率が高くなり,このような症例における対応が問題視されるようになつてきた.今回は片側症例に対して対側出現に関する考え方を中心にしてのべる.

「一日入院」システム

著者: 角田昭夫 ,   西寿治

ページ範囲:P.1001 - P.1006

はじめに
 神奈川県立こども医療センターにおける鼠径ヘルニア手術の入院日数の変遷は次の通りである.すなわち開所(1970年)当時は手術前日入院し,術後2泊する3泊4日であつた.しかし間もなく術後1泊でも問題ないことが確かめられ,2泊3が当分続いた.1978年頃より前日入院のdemerit(主として母子別離による手術までの児の精神的疲労及びそれに対する看護力)が内部で論議されるようになり,また清瀬小児病院など他施設の方法を参考にし1),手術当日入院し翌日退院させる1泊2日が一般的となつた.
 その後,さらに国立小児病院における外来手術2)や,経済性も一つの理由としている欧米における"Day care surgery""Day stay surgery"などを参考にし,鼠径ヘルニア手術を中心とする「一日入院システム」を検討中であつた.たまたま昨1982年,当施設における唯一の閉鎖病棟が脳外科を中心として開棟される機会を利用し,「一日入院システム」がスタートした3).以下,現状を概説し,現在までの実績を分析してその存在意義について考察を加えた.

成人鼠径ヘルニア

種々の鼠径管後壁補強法とその特徴

著者: 黒須康彦 ,   森田建

ページ範囲:P.1007 - P.1010

はじめに
 鼠径管後壁の補強は,内鼠径ヘルニアの場合にはこれが治療の主体をなし,外鼠径ヘルニアの場合には,特に鼠径管後壁が脆弱となつている症例で,将来発生することが予想される内鼠径ヘルニアに対する予防的処置となる.
 以下,本稿では,誌面の関係もあり,まず,鼠径管後壁を補強する際に特に関係の深い鼠径部の局所解剖について簡単に記し,次いで,これまで数多く報告されている補強法のなかで最近特に話題になつているものを選択し,それらの概略を述べてみたい.

Bassini法における問題点

著者: 中村卓次

ページ範囲:P.1011 - P.1014

はじめに
 鼠径部ヘルニアの手術に横筋筋膜が重要視されるようになったのは,Henry O. Marcy1)に負う所が大きい.彼は1871年に既に横筋筋膜による内鼠径輪の修復が解剖学上理論的であることを発表した.Bassiniが彼自身の手術方法を論文2)として発表する16年前である.Marcyが紹介した横筋筋膜についても,またBassiniの論文についても筆者は長い間,正確な知識を持たず,また積極的に勉強しようとさえしなかつた.成人鼠径ヘルニアの手術は昔,東大第1外科で先輩から教わつたBassini法が唯一無二の方法と考え,また長い間それで大過なくすごして来た.筆者が信じて疑わなかつた先輩から教わつたBassini法には問題があることが数年前にやつとわかつた.まことに恥しいことである.こうしたことが動機となり,第692回外科集談会(1979)で筆者が世話人をつとめた際,シンポジウム「高齢者ヘルニア」を企画した.その機会に外科集談会に加入している関東地区の大学や病院にアンケートをお願いし,94施設から5年間(1973〜1978)の鼠径部ヘルニア3,710症例について回答をいただいた3).そのうち外鼠径ヘルニア2,748例の75.9%はBassini法で手術されている.Bassiniの原著(1890)に忠実な方法であつたかどうかは,その際確めることはしなかつた.

ヘルニア手術における精索または子宮円靱帯の処理

著者: 伊藤隆夫 ,   田中千凱 ,   操厚 ,   松村幸次郎 ,   竹腰知治 ,   木田恒 ,   梶間敏彦 ,   国井康彦

ページ範囲:P.1015 - P.1018

はじめに
 鼠径ヘルニア手術とはいえ,minor surgeryとあなどると,思わぬ合併症をまねく.成人鼠径ヘルニアの根治術としては,ヘルニア嚢の高位結紮切断のみでは再発防止の面からみると不十分であつて,腹横筋膜Fascia transversalisを用いた内鼠径輪の縫縮と鼠径管後壁の補強が必要であることの認識が一般化している1-4)
 ここでは根治術施行にさいしての精索および子宮円靱帯の処理を含む諸操作についてのべ,当科での術後アンケート調査による再発および愁訴について言及する.

嵌頓ヘルニア手術のポイント

著者: 大谷五良

ページ範囲:P.1019 - P.1022

鼠径部嵌頓ヘルニアの症状と診断
 咳,長時間歩行,怒責など急な腹圧上昇をきつかけとし,鼠径部の腫瘤が不還納となり,次第に腫瘤の大きさが増大,また緊満性となるので,多くは自分で異常に気付く.腹痛および局所の疼痛が次第に強くなり,ショック状態になることもある.初期には悪心の他,嘔吐をすることがある.もちろん嵌頓ヘルニアの多くは絞扼性イレウス状態になるので,発症後時間が経過すれば,腹満,腹痛,腸内容の嘔吐,腹膜炎症状などを併発してくる.
 鼠径部に緊満性の腫瘤をふれ,上記の症状があれば診断は容易であるが,嵌頓つまりヘルニア内容(多くは腸管)の血行障害がおこつているのか,単なる非還納性ヘルニアであるのかは初期には鑑別が困難である.

再発ヘルニアの原因と治療法

著者: 大沢二郎 ,   小菅貴彦 ,   白石隆祐 ,   東出俊一 ,   矢田貝凱 ,   篠田正昭

ページ範囲:P.1023 - P.1025

はじめに
 わが国全体で鼠径ヘルニア手術後の再発率が何%ぐらいであるかは興味ある問題である.過去8年間に当外科で扱つた成人再発鼠径ヘルニア手術例は63例で(表1),同期間における鼠径ヘルニア手術例は497例であるから,約13%の再発ヘルヘルニアを手術していることになる.再発のため他医より紹介されてきた患者もいるので少し片寄つた数値と考えるが,それでも10%前後の再発率を予想させる.
 再発ヘルニア例を手術して感じることは,まず内腹斜筋を鼠径靱帯に縫着している症例が多いこと,そしてこれらの症例の大多数においてその縫着部がほとんど用を足さないまでに断裂していること,次に外鼠径輪部を中心とし,陰嚢に向う間違つた皮切にはじまる症例ではヘルニア発生の源であり,ザック処理の最も重要な部位である内鼠径輪にはほとんど手術操作が加つていない事実に印象づけられる.

高齢者鼠径ヘルニアの問題点

著者: 日野恭徳 ,   山城守也 ,   中山夏太郎 ,   橋本肇 ,   野呂俊夫 ,   高橋忠雄 ,   平島得路 ,   上田光久

ページ範囲:P.1027 - P.1029

はじめに
 医療を受ける高齢者の増加に伴ない,鼠径ヘルニア症例においても老人特有の種々の併存疾患(合併症)を有する場合や,再発例に遭遇する機会も増加している.
 高齢者鼠径ヘルニアの臨床に関し,手術適応,手術手技上の問題を中心に述べる.

大腿ヘルニア

診断上の盲点と手術の要点

著者: 柵瀬信太郎 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1031 - P.1037

はじめに
 大腿ヘルニアは女性,特にその高齢者に多く見られ,嵌頓をきたしやすいことでよく知られている.しかし実際その診断は決して容易なものばかりではなく,報告では25%もの症例が術前誤診されたまま手術を受けているという7).また手術に関しても種々の問題点が残されている.

カラーグラフ 臨床外科病理シリーズ・6

早期胃癌—多発胃潰瘍との併存

著者: 廣田映五 ,   太田惠一朗 ,   板橋正幸 ,   北岡久三 ,   小黒八七郎 ,   吉田茂昭

ページ範囲:P.968 - P.969

 胃潰瘍の診断の下に,長期経過観察中に発見された,比較的小さい早期胃癌の例を呈示する.
 症例(0-28179),61歳,男.14年前,空腹時痛があり,当院を受診し,上部消化管X線検査,並びに内視鏡検査により胃体中部後壁の潰瘍と診断された.その後,上記検査にて経過観察されていた.約1年前に,問題の病変とは異なる部位に,すなわち,幽門部前壁大彎寄りに異常が指摘され,Ⅱc型早期胃癌の疑いとされた.しかし,生検は施行されず,決定的悪性所見を見なかつたため,その後,約1年経過したところ,同部にヒダ集中を伴う小さい陥凹性病変が発見された(図7).生検を施行したところ,分化型管状腺癌の組織片が得られた(図8).直ちに当院外科に入院し,胃幽門側部分切除およびR2リンパ節郭清術が施行された.

新形影夜話・6

手術に上達するための要素

著者: 陣内傳之助

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 手術に上達するためにはいろんな要素がいる.術前に周到な準備をして,自分自身の力と経験に応じた適応範囲内で最適の手術方法を選んで行うことが先決問題であることはいうまでもないが,ここでは手術中における問題のみに絞つて話してみたい.
 第1の要素は注意力である.

文献抄録

単純な裂創に対する予防的抗生剤の価値

著者: 窪地淳 ,   石引久弥

ページ範囲:P.1042 - P.1042

 単純な裂創の縫合閉鎖に引き続いて予防的抗生剤投与をつけ加えることは広く行われているが,これを支持する成績はほとんどない.術前に適切な組織内濃度をうるための抗生剤早期使用という確立された外科的原則に反して,閉創後の経口用抗生剤投与は続けられている.この研究はこのような抗生剤による予防対策の有効性を検討するために実施された.
 1980年5月から10月までのParkland Memorial Hospital救急部における499名の小裂創患者を無作意に2群に分け,第1群にはcephalexin 250mg 1日4回3日間投与(11歳以下の小児には1日25mg/kgを4分割投与),第2群は抗生剤非投与対照群とした.汚染創は肉眼的に異物を認めたものとし,受傷後8時間以上経過した創,咬創,口腔内創,手術室での閉創を要した症例,糖尿病やステロイド,化学療法剤投与例,セファロスポリンアレルギー患者は除外した.裂創は局所麻酔後,ヨード剤で清浄化し,異物除去,鋭的デブリドマンを行い,生理食塩水で洗浄した.皮下組織はPGA糸で,必要ならば皮膚はナイロン単線維糸で縫合した.感染の判定は抜糸または感染のため来院した時点の蜂巣炎,排膿,化膿,創哆開を指標とした.

ここが知りたい 臨床医のためのワンポイントレッスン

術後イレウスの予防法と起こしてしまつたらどうするか

著者: 馬越正通 ,  

ページ範囲:P.1043 - P.1043

 A; 術後イレウスは,術後5〜6日の極めて早期に発症するものから,10年以上の長期間を全く無症状に経過していて突然に起こる場合もある.その原因として,術後の麻痺性イレウスや,手術そのものに関係したものもあるが,腸管の癒着によるものが大部分を占めている.
 従つて,術後イレウスの予防としては,手術の際,術後癒着を起こさないように手術操作に注意することが重要である.

画像診断 What sign?

Intramural gas

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1047 - P.1047

 腸管壁に異常ガスが貯留する状態であり,正確な本態は不明であるが腸管内圧の亢進と腸管壁の脆弱化が原因であろうと考えられ,更にガス産生菌による腸壁の感染による場合もある.臨床的に自然消失をみる良性の経過をとるものと重篤疾患を示唆するものに大別される.良性のものは一般にpneumatosis cystoides intestinalisと称され,成人にみられ糜爛あるいは潰瘍などにより脆弱になつた腸管の内圧が亢進した場合,内腔ガスが壁内に嚢胞状に浸入するものと考えられる.白血病に対するステロイド治療中にみられるものは,腸壁のリンパ組織の急激な退縮により腸壁に内腔ガスが侵入するものと考えられ,また慢性閉塞性肺疾患では縦隔気腫が腹腔に進展し,更に胃あるいは結腸に壁内気腫を生ずる場合がある.悪性の経過をとるものでは,虚血性腸炎,白血病にみられ回盲部に好発する壊死性腸炎(typhlitis),新生児にみられるnecrotizing enterocolitisなどが挙げられ,これらの疾患では腸管穿孔の逼迫を示唆し,血管拡張剤動注あるいは開腹など積極的な治療の対象になる場合が多い.
 放射線所見は特徴的であり,腸管壁に沿つて板状あるいは嚢胞状の透亮像が観察される.また壁内ガスが腸管膜静脈を経て門脈に到達し,肝門部から樹枝状に分岐する透亮像としてみられることもあり,一般に重篤な予後を示唆する所見とされる.

座談会

外科とマイコン

著者: 進藤勝久 ,   桜井健司 ,   中村清吾 ,   藤正巌 ,   前谷俊三

ページ範囲:P.1048 - P.1060

 現在日本では,マイクロ・コンピータが爆発的に普及している.ある私立医大で学生にアンケートをとつたら,パソコンを持つている;20%,自分でプログラムを作りあげることが出来る;50%との集計が出た.本のかわりにコンピュータを持つ時代に入つたかと思わせる.外科領域でも例外でなく,臨床の場で応用しようとする気運が生まれてきている.今回積極的にマイコンにとり組んでおられる先生方にお集りいただき,失敗例を含めて,その現状と将来につき話合つていただいた.

臨床研究

乳腺嚢胞症に対するα-トコフェロール療法

著者: 泉山隆男

ページ範囲:P.1061 - P.1064

はじめに
 乳腺腫瘍の中で嚢胞を形成する疾患の多くは乳腺症及び乳頭状嚢胞性管内線維腫などであるが1-3),これらの嚢胞性疾患の中にはいわゆる前癌状態といわれるものもあり,嚢胞性疾患の患者はほとんどが摘出手術をうけているのが現状である.著者はこれらの嚢胞性疾患の患者に対してα-トコフェロールの経口投与を行い,その経過を超音波断層撮影によつて経時的に観察し,また一部の患者についてはその腫瘍を手術的に摘出して,摘出組織について,過酸化脂質濃度とフリーラジカル強度の検討を行い,興味ある結果を得た.

胸部食道癌のための新しい術前検査—経食道的縦隔超音波断層法(食道エコー法)による縦隔リンパ節転移の診断

著者: 蔵本純一 ,   広崎晃雄 ,   西平哲郎 ,   北村道彦 ,   豊田統夫 ,   大森典夫 ,   平山克 ,   阿部力哉 ,   葛西森夫

ページ範囲:P.1065 - P.1071

はじめに
 悪性腫瘍の外科治療において,主病巣の進行度,遠隔転移の有無の診断は,治療法の選択,決定に極めて重要である.これらの診断は,現在かなり正確に,術前に得られるようになつたが,リンパ節転移の有無や,転移リンパ節の部位などの情報は,極めて不足している現状にある.
 食道癌においては,最近になり頸部リンパ節,腹部リンパ節については,術前にある程度の情報が得られるようになつたけれども,縦隔リンパ節に関しては,現在なおほとんど有用な診断の方法がない.

末梢閉塞性動脈疾患に対する血行再建術—成績と失敗例に対する検討

著者: 松原純一 ,   太田敬 ,   平井正文 ,   塩野谷恵彦 ,   伴一郎

ページ範囲:P.1073 - P.1077

はじめに
 末梢閉塞性動脈疾患に対する血行再建術症例が増え,術後追跡期間も長くなるにつれて,経過不良症例も多くなつてくるが,それら順調にいかなかつた症例を検討することは,疾患の本態を知り,かつ今後の成績向上のために極めて重要である.今回名大分院外科における症例をもとに検討を加えたので報告する.

ドナー血輸血を行つた生体腎移植5例の経験

著者: 三浦俊治 ,   岡崎肇 ,   高橋寿 ,   石崎允 ,   小熊司郎 ,   神保雅幸 ,   田口喜雄

ページ範囲:P.1079 - P.1083

はじめに
 生体腎移植の前にdonor血輸血(Donor-specific blood transfusion,以下DSTと略す.)を行うことにより移植腎生着率が著しく改善されることはSalvatierra他諸家により近年報告されている1-5).われわれは1981年5月よりリンパ球混合培養法(Mixed lymphocyte culture,MLC)にてStimulating index(S. I.)が高値を示す生体腎移植予定者に術前計画的にDSTを行つてきた.1982年5月11日までに5例のDST施行生体腎移植症例を経験したが,いずれも良好な腎機能を保持している.われわれの用いたDSTの方法は岡崎ら6,7)のマウスの実験結果をもとに,輸血効果の有効成分はリンパ球に存在する,という観点から全血ではなくbuffy-coat分画(白血球を含む血小板液)を使用していることに特徴がある.今回この5症例について報告する.

臨床報告

食道狭窄を伴つた進行性全身性硬化症の1例

著者: 樋口章夫 ,   服部泰章 ,   吉富錠二 ,   田辺賀啓 ,   国立裕之

ページ範囲:P.1085 - P.1088

はじめに
 進行性全身性硬化症(Progressive Systemic Sclerosis以下PSS)は多彩な臨床症状を呈する自己免疫疾患といわれており,皮膚硬化,関節拘縮の他,消化器症状,呼吸器症状等を主症状とする.消化器症状として食道狭窄を合併することはよくみられるが高度の狭窄のため食道再建手術を施行した症例報告はきわめて少ない.最近,著者らはPSSの経過観察中に食道狭窄を発症し次第に進行したため,下部食道噴門切除,食道再建術を施行した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

成人にみられた後腹膜悪性奇形腫の1例

著者: 三崎三郎 ,   北陸平 ,   宮本新太郎

ページ範囲:P.1089 - P.1093

はじめに
 成人の後腹膜悪性奇形腫は後腹膜腫瘍の中でも比較的稀とされている.われわれは術前CEAが高値を示し,組織学的所見にて三胚葉由来の組織を含み,気管支類似の上皮に腺癌がみられた成人後腹膜悪性奇形腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

膵原発性神経鞘腫の1例

著者: 勝田仁康 ,   菅英育 ,   猪飼伊和夫 ,   宮田恭子 ,   野口雅滋 ,   上田耕臣 ,   星野英明 ,   斎藤信雄 ,   長嶺慎一 ,   内藤行雄 ,   静木厚三

ページ範囲:P.1095 - P.1098

はじめに
 膵原発の非上皮性腫瘍は,きわめて稀である.著者らは,最近,腹部腫瘤を主訴として来院し,摘出標本の組織学的検索にて膵原発の神経鞘腫(schwannoma)と診断された症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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雑誌「SURGERY」最新号目次

ページ範囲:P.1039 - P.1039

SURGERY—Contents, June 1983 Vol.93, No.6 ©By The C. V. Mosby Company
 今回,米国Mosby社の御好意により,世界的な外科雑誌"Surgery"の最新目次を,日本の読者にいち早く,提供出来るようになりました。下記の目次は,発売前にファックスで送られてきたものです。この雑誌"Surgery"御購読は,医学書院洋書部(03-814-5931)へお申込み下さい。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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