icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科38巻9号

1983年09月発行

雑誌目次

特集 肝硬変と手術

肝硬変のnatural history

著者: 長島秀夫 ,   山田剛太郎

ページ範囲:P.1275 - P.1280

はじめに
 肝硬変は慢性肝疾患の終末像として,その形態学的特徴を中心に古くから検討が加えられてきたが,死因統計上は欧米と同様わが国でも漸増傾向を示し,1980年には死亡者総数に対する割合も2.3%,死亡順位で第8位を占め,医学的にも社会的にも重要な疾患となつている1).病因でもB型肝炎ウイルスの発見とともに慢性肝炎から肝硬変への進展例が多数追跡され,一方ではアルコール多飲による肝硬変も増加している.診断方法の進歩さらには,その病態に応じた内科的および外科的治療法の進歩とともにその生存率も改善してきた.また,肝硬変の死因としては,肝細胞癌の合併死の増加が報告されており,肝癌に対する治療法の確立が肝硬変の予後を改善する上で重要となつてきている.
 本稿では,はじめに肝硬変の疫学統計を全国と岡山地方の両方について紹介し,さらにその病因,臨床像および経過予後について文献的考察を加えると共に教室例につき検討した成績も示し,肝硬変のnatural historyの現状を紹介してその責を果たしたい.

術前のrisk判定

著者: 山本正之 ,   青山英久 ,   松本由朗 ,   菅原克彦 ,   小沢和恵 ,   戸部隆吉

ページ範囲:P.1281 - P.1287

はじめに
 硬変肝においては肝の機能的予備力が著しく障害されており,侵襲の小さい姑息的手術でさえも術後肝不全を発症し,死に至ることがあり,硬変併存肝癌や食道静脈瘤の手術に際しては,術前の正確なrisk判定のもとに適切な術式を選択する必要がある.
 機能予備力を考えるにあたつては,一般に肝細胞の機能および網内系の機能の予備力について考慮すべきである.また,肝が代謝における中枢臓器であり,他の末梢臓器へのエネルギー産生に必要な基質の供給の調節,蛋白合成,老廃物代謝,有害物質の解毒等の諸機能を有することを理解して肝硬変の病態を全身疾患として把握すべきである.

術前のrisk判定—硬変合併肝癌を中心に

著者: 葛西洋一 ,   中西昌美 ,   柿田章

ページ範囲:P.1289 - P.1296

はじめに
 原発性肝癌に対する手術的治療は,早期症例の増加,手術方法および術前・術後管理の進歩により長期生存を期待できる現況となつてきた.
 近年の画像診断の進歩,血清AFP検査の普及などによつて,慢性肝炎あるいは肝硬変にて経過観察中に比較的早期の肝癌が発見される機会が多くなり,併存する肝病変と肝機能の評価が肝切除適応をきめるうえでもつとも重要な因子となつた.すなわち,肝切除後の残存肝がどの程度の再生能と機能を有するかを,術前に評価する必要性が高まつてきたのである.これらの観点から,いわゆる肝予備能を評価する幾多の指標が開発され,実験的・臨床的検討がなされてきた.

術前・術後の管理—一般的手術;栄養法を中心に

著者: 吉田奎介 ,   新国恵也 ,   高木健太郎 ,   武藤輝一 ,   松原要一

ページ範囲:P.1299 - P.1305

はじめに
 肝硬変症自体の予後が改善され,手術を要する他臓器疾患を併発した症例にもまま遭遇するようになつた.また肝硬変症例には胃十二指腸潰瘍や胆石症の発生頻度が高いことも知られている.表1は最近3年間にわれわれの教室で手術を行つた肝硬変(確診)を持つ消化器疾患症例である.肝障害を承知の上で手術を行うということで,緊急度の高い疾患すなわち消化器癌,出血性胃潰瘍,イレウスなどが中心となつている.これらの症例の術前・術後管理としては,食道静脈瘤への直達手術の場合を基本として,それぞれの基礎疾患と手術術式に応じて工夫を加えて行くわけである.ここでは特に頻度が高く,また緊急度,侵襲の大きさなどの面で最も困難が大きいと思われる胃癌や食道癌症例の栄養管理を中心に述べる.

術前・術後の管理—肝切除術

著者: 山崎晋 ,   長谷川博 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.1307 - P.1312

はじめに
 肝硬変では,健全な生体がもつ各種の防御機構が障害されており,平常では代償機能がギリギリのところでもちこたえていても,手術という侵襲が加わると破綻を来し,従来の外科学総論の知識をもつてしては,回復不能なことがある.肝切除では一般的手術侵襲に加え,肝機能量の減少,門脈床の減少という他の手術には見られない特異的な,かつ肝硬変にとつては極めて影響の強い変化が起きる.肝切除によつて肝硬変は確実に悪化することはあつても決して改善はしない.手術侵襲を克服したとしても,長期的には肝不全,門脈圧亢進を促進する因子として残る.
 国立がんセンターでは,1976年に肝硬変合併肝癌の切除第1例を行い,爾来96例を経験した.図1には当科の年次別肝切除数を示してある.肝硬変,肝炎合併例は最近急増し,原発性肝細胞癌(成人)の70.5%を占めている.この群の手術成績は術死が6/96(6.25%)である.このような実績を背景とした当科の現在の術前・術後にわたる管理方法について述べる.

術前・術後の管理—食道静脈瘤手術

著者: 小山研二 ,   菊地淳一 ,   大内清昭 ,   佐藤寿雄

ページ範囲:P.1313 - P.1318

はじめに
 食道静脈瘤の治療は,手術の他に内視鏡的硬化療法や経門脈性栓塞法などの開発進歩により極めて多彩となつた.そして,重症肝硬変例には非手術的治療法を行うことにより,本症の治療成績は著しく向上しつつある.しかし,治療の確実性,永続性の点では手術が最もすぐれており,予後を十分考慮したうえで手術を安全にし,かつその適応を拡大することは依然として重要な課題である.そのためのriskの判定,術前・術中・術後の管理について自験例を中心にのべたい.

麻酔

著者: 高橋成輔 ,   吉武潤一

ページ範囲:P.1319 - P.1324

はじめに
 肝循環系を構成している肝動脈系と門脈系のうち,総肝血流量はその35%が肝動脈系,65%が門脈系から供給されている1).門脈圧は通常5〜10mmHgであるが肝門脈系に循環異常が生じ上昇してくると門脈圧亢進症が発生する.門脈圧上昇が生じると食道粘膜下,直腸粘膜下,前腹壁,腹膜,左腎静脈など低圧系の静脈灌流量が増加し,最終的には食道静脈瘤などの発生をみる2).門脈圧亢進症に対する外科治療の目的は主としてこの食道静脈瘤の破裂による出血防止にある.原疾患としては肝前性門脈閉塞症,特発性門脈圧亢進症および肝硬変症がある.食道静脈瘤からの出血を来す症例の70〜80%は肝硬変症由来のものであり,重篤な肝機能障害を伴つていることから予後不良なものも多い3)
 ここでは肝硬変症による食道静脈瘤からの出血防止または大量出血時救急手術における麻酔管理および術中輸液輸血管理の要点について述べる.

カラーグラフ 臨床外科病理シリーズ・8

早期胃癌—Ⅱcと腺腫併存例

著者: 廣田映五 ,   太田惠一朗 ,   板橋正幸 ,   北岡久三 ,   小黒八七郎

ページ範囲:P.1272 - P.1273

 症例(0-28352)75歳,男性.生来健康で特記すべき自覚症状はなかつたが,老人検診にて胃に異常のあることを指摘され,当院外科外来を受診,上部消化管X線検査および内視鏡検査(図7),生検・病理診断(図8 —a,b)等により,Ⅱc型早期胃癌と腺腫合併例と診断され,当院外来にて胃切除術が施行された.

文献抄録

大腸の血管異形成

著者: 柵瀬信太郎 ,   西尾剛毅

ページ範囲:P.1327 - P.1327

 大腸からの出血の原因,部位の診断にはバリウム注腸法,大腸ファイバースコープなどが用いられてきたが,これらの診断法ではつきりとした出血の原因がみつからず困難することがある.近年までは右半結腸の憩室症が出血の原因であろうと考えられてきたが,血管造影法が出血時ならびに止血後にも行われるようになり,大腸出血の原因として粘膜下の血管異形成が注目をあびるようになつた.著者らは大腸血管異形成による出血を3例経験し,その成因,診断,治療について報告している.
 この疾患は後天的な大腸粘膜下の血管の異形成であり,いわゆる先天的な動静脈奇形arteriovenous mal-formationとは全く異なつた疾患である.

新形影夜話・8

臨床医学の本旨

著者: 陣内傳之助

ページ範囲:P.1328 - P.1329

 30年も前の話である.脳腫瘍かもしれないが痙攣発作をもつ10歳くらいの男の子の父親が相談にやつてきた.当時は脳の手術といえばかなり危険性があつたので,その死亡率についても話したが,よほどの決心だつたのであろう.この父親の職業は検事であつたが,言われることがふるつている.「あなたのお仕事も私の仕事も人を死に落し入れる点ではよく似ていますね.しかしあなたは何とかして助けようと思つてなさるんだからよろしいけれども,私どもは意識して死刑を求刑するのですから,それは辛いですよ.だからそんなときにはいつも,自分の背後には1億の良民が居て,自分達の平和のためにどうかこの悪人をこの世から抹殺して貰いたいという悲壮な叫びを思い浮べ,その声援に勇気づけられて死の求刑をすることにしてるんですよ」と語つてくれた.
 またそのあと続けてこんな話をされた.「私どもの考え方からいえば,なるべくその罪を罰して人を罰せずという態度でありたいのです.ただし悪事は決してさせないようにせねばなりません.いまお酒を飲んだら決つて犯罪を犯す者が居るとするなら,シァナマイドなどの抗酒剤を飲まして酒が飲めなくなるようにしてやるとか,また万引を常習とするスリは何度ひつとらえて牢に入れても出てくると必ずまた万引をするもので,何度牢に入れても何にもならない.

ここが知りたい 臨床医のためのワンポイントレッスン

特発性気胸の手術適応は?

著者: 中江純夫 ,  

ページ範囲:P.1331 - P.1331

 A; 自然気胸は一般に特発性気胸と続発性気胸とに大別される.特発性気胸はいわゆる自然気胸または自発性気胸ともよばれており,その発生原因は胸膜直下に発生した限局性の気腫性嚢胞(ブラ,ブレブなど)の破裂によると考えられている,しかし,胸膜直下にある気腫性嚢胞の破裂に関する機序はいまだ確定していない.ブラやブレブの好発部位は肺尖部とS6部位である.特発性気胸は20歳台の男子に多く,次いで30歳台と10歳台の男子に発生する.気胸は右左ともほぼ同頻度にみられ,約10%の症例において,発生時期は異なるが,両側に気胸がおこる.
 特発性気胸の手術適応を決定するさい,年齢,合併疾患,胸部X線所見,肺機能,その他の因子などを総合的に検討することが大切である.なお,胸部CTスキャンは胸部X線にて発見し得ない気腫性嚢胞を描出するので,手術適応を決定するのに大変有用であることを付記しおく.前述のように特発性気胸の発生は青年層に多いことから,患者の全身状態や肺機能は良好であり,手術に支障をきたさない例が多い.一般に特発性気胸症例は開胸手術に先立ち,安静,穿刺排気,胸腔ドレナージ,閉鎖性Pleurodesisのいずれかの治療が行われることが多い.筆者は胸腔ドレナージ挿入法を第一選択としている.気胸の初回発症例に開胸術が適応となる例は少ない.

画像診断 What sign?

The bulbous bowel segment

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1335 - P.1335

 先天性小腸閉鎖に際して閉塞部位に近い口側の腸管は最も著しい拡張を呈し"bulbous" bowel segmentと称される."double-bubble" sign(図1)で呼ばれる十二指腸閉鎖の際の十二指腸球部の拡張もその一例であるが,さらに遠位の小腸閉鎖においてもこの拡張腸管が観察される(図2).これは胎生期に発生した閉塞の近位の腸管に腸液,腸上皮の剥離片,胆汁などが貯留し,亢進した腸内圧により同部位の壁肥厚を伴つた拡張が起こるものと考えられている.
 一方,中腸軸捻やmeconium ileusなどの新生児期にみられる後天的小腸閉塞の症例においてはこの"bulbous" segmentがみられないことから,これらの病変との鑑別に役立つ.

外科医のためのマイコン・ガイド・2

術前・術後の輸液輸血メニュー—1.貧血の原因と輸血量計算

著者: 進藤勝久

ページ範囲:P.1337 - P.1343

1.目的
 術前術後の輸液・輸血管理は外科医にとつて日常茶飯事である.毎日の検血や血清電解質のデータをみて,それらの異常を是正すべく一定の計算式を用いたり,外科医としての経験や勘に頼つて輸液輸血を行つている.手術という急激な変化に伴う血液や電解質の移動は激しく,それを補正せんがため「慌てる」ことがある.そういう時マイコンの前に座つて冷静に且つ速やかに対処できる方法をプログラムしてみる.

Report from Overseas

急性壊死性膵炎の外科的治療

著者: 許光根 ,   李成日 ,   姜惟龍 ,   李乃新 ,   崔東煥 ,   申瑢碩 ,   李柱日 ,   刘在文 ,   孫桂栄 ,   郎国栄

ページ範囲:P.1345 - P.1347

はじめに
 急性壊死性膵炎の多くは重症例で,症状進展が迅速であり,変化も複雑で,臨床検査所見も極めて多彩となり,しかも本型と浮腫型・出血型との鑑別には特異的な試験方法が無いため,その確定診断を得ることが必ずしも容易だとは言えない.その理由としては,いろいろな症状や所見と膵臓の病理組織的所見とが必ずしも平行していると言えないからである.最近,急性膵炎に対して積極的保存療法で改善の兆が見られない場合にはむしろ早期手術を施行しようと主張する傾向も見られるが,急性壊死性膵炎の術後死亡率は比較的高く35〜47%1-5)に達している.当科において1961年より1981年までに外科的治療を行つた急性壊死性膵炎は42例である.本稿では,その自験例を通して得た経験を若干述べてみたい.

臨床研究

CTよりみた気管内径

著者: 横山和子 ,   益田律子 ,   野本宏 ,   中沢広重

ページ範囲:P.1349 - P.1352

はじめに
 非常に多くの気管内麻酔が毎日行われているにもかかわらず,麻酔科医のほとんどは各症例に適正と思われる気管内チューブサイズを使つていないのが現状である.
 不適正な気管内チューブサイズを使用することの弊害は,(1)小児の場合など,カフなしチューブを使用する際は,チューブ周囲からのガス漏れが多くなる.(2)カフ付きチューブでは,気管内径に比して細いチューブを使用すると,気道をブロックするためにカフ内容量が増加し,それがカフ圧を高くし,特に笑気を使用すると,笑気と窒素の拡散率が違うため,笑気が速くカフ圧に取り込まれ短時間で著明な圧上昇をきたす1-5),などである.

開心術における血小板輸血の臨床的検討—自己血小板輸血の試み

著者: 青木啓一 ,   日月裕司 ,   許俊鋭 ,   井野隆史 ,   鰐渕康彦 ,   古田昭一 ,   大谷五良

ページ範囲:P.1353 - P.1356

はじめに
 近年,心臓外科手術成績の向上は,体外循環法の進歩に負う所が大であるが,体外循環後の血液凝固不全による術後の大量出血は,患者の予後を左右する重篤な合併症の一つである.特に,体外循環後の血小板数の減少は,術後出血のひとつの要因となつていると考えられる.
 従来,われわれの施設では,術後止血の目的で,体外循環終了時に当日採血した新鮮血(いわゆる"生血")輸血を行つてきたが,供血者が多数必要であり,術前検査,当日採血などの手間がかかり,繁雑であつた.1980年より供血者を少なくする目的で,濃縮血小板血(Pla—telet Concentrate=PC)を体外循環終了時に輸血することを試みてきた.また,患者より,濃縮血小板血を採血し,体外循環終了後に輸血する自己濃縮血小板輸血も同時に試みてきたので,その臨床成績を比較検討するとともに,その問題点について論じる.

いわゆる触知不能乳癌の乳房X線像による検討

著者: 岡崎正敏 ,   松江寛人 ,   村松幸男 ,   七沢武 ,   山本浩 ,   板橋正幸 ,   広田映五

ページ範囲:P.1357 - P.1362

はじめに
 乳房撮影(M.M.G.)や乳管造影(D.G.)が乳癌の早期発見に有用であり,とりわけ触知不能乳癌の発見に威力を発揮することはよく知られている.しかし,触知不能乳癌におけるM.M.G.像やD.G.像の詳細な報告は少ない.
 過去6年間に国立がんセンターで経験した触知不能乳癌34症例(35病巣)のM.M.G.像及びD.G.像を中心に,その臨床的意義について述べる.

高齢者における膵頭十二指腸切除術の検討—とくに膵外分泌能を中心に

著者: 児玉求 ,   田中恒夫 ,   清光六郎 ,   竹内仁志 ,   原田光雄 ,   伊藤信昭 ,   児玉治 ,   江崎治夫

ページ範囲:P.1363 - P.1366

はじめに
 平均寿命の延長,それに伴う老人人口の増加により,高齢者に対する腹部手術も増えてきた.そして術前,術後の管理,麻酔法の進歩により手術適応も次第に拡大され,最近では80歳を越える高齢者の腹部手術も稀ではなくなつてきた.高齢者の定義についてはまだ一定したものはないが,術前,術後の合併症,死亡率の検討から一般に70歳以上を高齢者とするものが多い1,2).また第65回日本外科学会シンポジウムでは65歳以上を老人外科の対象とする提案もなされている.
 膵頭十二指腸切除術(PD)は腹部外科の中でも最も大きな手術の1つであり,しかも対象例の大部分が膵頭部領域癌であるため肝障害,膵障害を伴うことが多い.そのため現在でも70歳以上の高齢者に対するPDは比較的めずらしい.今回,われわれは65歳以上を高齢者として取り扱い,その手術成績,膵外分泌機能の面より検討を加えた.

臨床報告

血液透析患者における腹部大動脈瘤手術例

著者: 岡本好史 ,   粟津篤司 ,   小野恵司 ,   中山健吾 ,   山田公弥

ページ範囲:P.1367 - P.1369

はじめに
 今日,腎機能荒廃患者に対する血液透析の進歩は著しく,多数の患者の社会復帰を可能にした.しかしこのような患者に対する外科手術に関しては多くの問題を有している.腹部大動脈瘤の外科治療は合併症のない場合は手術危険率はかなり低いが,慢性腎不全におちいり,すでに人工透析を受けている患者では綿密な術前・術中・術後の管理を必要とし,手術も慎重でなければならない.
 最近,われわれは血液透析を受けている患者に合併した腹部大動脈瘤の手術に成功したので報告する.

尾状葉より発生した肝嚢胞腺腫の1治験例

著者: 沖本俊明 ,   長田栄一 ,   井川澄人 ,   村松秀幸 ,   広橋一裕 ,   成山多喜男 ,   木下博明 ,   酒井克治 ,   小林庸次

ページ範囲:P.1371 - P.1375

はじめに
 最近における超音波検査やCTなどの診断技術の進歩により,肝の嚢胞性疾患は容易に発見されるようになつたが,肝嚢胞腺腫(以下,本症)は肝嚢胞腺癌とともにきわめて稀な疾患であると考えられる.われわれは最近,肝尾状葉より肝外性に発育した嚢胞腺腫の1治験例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

成人の原発性後腹膜奇形腫の1治験例

著者: 土井隆一郎 ,   今井史郎 ,   谷口亭一 ,   原慶文

ページ範囲:P.1377 - P.1381

はじめに
 原発性後腹膜奇形腫は稀な疾患であり,そのほとんどは小児期に発生する1,2).成人例は1937年にMecray3)が報告して以来31例の報告をみるだけであり4),本邦においては数例の報告が散見されるにすぎない.われわれはMirizzi症候群を有する胆石症を合併した成人の原発性後腹膜奇形腫の1例を手術的に治療したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

初発巣として両側大腿部筋膜下に発生した悪性リンパ腫の1例

著者: 炭山嘉伸 ,   中村集 ,   金親正敏 ,   横山隆捷 ,   鶴見清彦 ,   直江史郎 ,   跡部俊彦 ,   島田長也

ページ範囲:P.1383 - P.1385

はじめに
 悪性リンパ腫の腫瘍細胞が,リンパ節以外に発生する主な部位は,骨,肺,消化管,皮膚等であり,骨格筋に初発巣として触れる例は稀である.最近われわれは,両側大腿部筋膜下大腿四頭筋に発生した悪性リンパ腫というきわめて稀な症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

孤立性大腿深動脈瘤の4例

著者: 瀧本幹之 ,   東上震一 ,   前部屋進自 ,   土橋重隆 ,   榎本克巳 ,   横井秀樹 ,   鈴木淑男 ,   岡田浪速

ページ範囲:P.1387 - P.1391

はじめに
 血管外科学の発達にともない各種人工血管が開発され,近年四肢の血管病変に対する外科的治療が盛んに,かつ安全に行われるようになつてきている.外科的治療の対象としては,何といつても症例数の多い閉塞性動脈疾患が中心となつているが,四肢には動脈瘤の発生も決して稀ではない.大多数の動脈瘤は,総大腿動脈または膝窩動脈に発生するため早期に発見され,処置されることが多い.大腿深動脈に発生した動脈瘤は稀であり,早期に発見され難いためか,破裂してはじめて発見される場合もある.四肢の動脈瘤は大動脈瘤に比べると,その発生頻度ははるかに少ないが,血栓形成による四肢の血行障害や破裂に伴う出血死等を起こす可能性があるので早期に外科的に処置することが望ましい.本論文では,非常に稀とされている大腿深動脈瘤について,私達の経験した症例を中心としてさらに内外の文献上に報告された症例を検討し,その病像,病因,手術方法及び予後等について考察する.

膝窩動脈外膜嚢腫の1治験例—本邦報告例の検討

著者: 岸本弘之 ,   水本清 ,   谷田理 ,   周藤秀彦 ,   渡辺俊一 ,   提嶋一文

ページ範囲:P.1393 - P.1396

はじめに
 膝窩動脈外膜嚢腫は,膝窩動脈の外膜と中膜の間にガングリオン類似の内容物を有する嚢腫を形成し,その圧迫によつて下腿の循環障害を来たす稀な疾患である.われわれは最近,右膝窩動脈に発生した本症で,手術により治癒した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?