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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科39巻11号

1984年11月発行

雑誌目次

特集 胃癌—最近の話題

胃癌の壁内進展範囲と深達度の画像診断

著者: 井田和徳 ,   奥田順一 ,   森田豊 ,   松井亮好

ページ範囲:P.1508 - P.1513

はじめに
 胃癌の進展範囲と深達度の診断は,切除範囲の決定,術式の選択にきわめて重要であるが,最近では胃癌の内視鏡下治療1,2)も試みられるようになり,一層その正確さが求められるようになつてきた.
 胃癌の画像診断には,従来のX線,内視鏡に新たに超音波検査,血管造影なども加わつてきたが,ここでは色素を応用した内視鏡検査による進展範囲と深達度の診断について述べ,あわせて最近実用段階に入つた超音波内視鏡についてもふれてみたい.

胃癌の胃外進展の画像診断

著者: 木村健 ,   山中桓夫 ,   寺田友彦

ページ範囲:P.1515 - P.1519

はじめに
 胃癌の診断は,現在,X線検査,内視鏡検査によつてほぼ完全な状態といえる.また,これらの検査を定期検診に応用したり,スクリーニング検査として活用している現在,早期癌の時期に診断する機会も増えている.いずれにせよ,胃癌の診断が確定した場合,最も有効な治療法として胃切除術が考慮される.この際,胃癌の壁内進展・深達度の診断,あるいは胃外性進展の状態を可能な限り正確に術前に把握することは,手術の適否,術式決定あるいは患者の予後を測る上できわめて重要なことは論を俟たない.したがつて,従来より種々の方法による術前の胃癌進展度診断が行われているのは当然のことであろう.
 本小論では,胃外進展の画像診断に焦点を絞り,従来より行われている画像診断について概説し,さらに最近の新しい診断技術を紹介する.

胃癌リンパ節転移のエコー診断

著者: 万代恭嗣 ,   伊藤徹 ,   高見実 ,   大西清 ,   田中洋一 ,   出月康夫 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.1521 - P.1524

はじめに
 胃癌とくに進行胃癌患者において,正常構造物以外に円形または類円形の低エコー域がしばしば描出されることから,私どもはこれらを胃癌のリンパ節転移と考え,その描出率につき報告してきた1,2).その後,同様の報告もいくつかみられる3,4).しかし,術前超音波検査にて描出された円形の低エコー域が,はたして術中に認められた腫大リンパ節に一致するのか,あるいは組織学的転移を有するリンパ節に一致するのかが,完全に証明されたわけではない.これまでの検討における証明方法は,まず術前超音波検査で描出された低エコー域の部位を判定し,超音波で判定したと同じ部位から摘出されたリンパ節に,肉眼的もしくは組織学的転移があれば,これを正診としていた.これは超音波による部位判定が正しいとの前提条件に立つており,もしこの前提がくずれれば,術前超音波所見と摘出標本の対比検討は何ら意味をなさないことになる.
 低エコー域がリンパ節の転移を表わすことを証明する,より直接的な方法として,水浸超音波像による検討が考えられる.しかし図1に示すように,生体内における像と水の中における像とでは,リンパ節に関する限りその態度を異にするようである.転移の有無にかかわらず,いずれも低エコーを示す傾向がみられ,水浸法では,低エコーすなわち転移巣であるとの証明がしにくい.

噴門部癌における下部胸腔,縦隔内リンパ節郭清

著者: 粟根康行

ページ範囲:P.1525 - P.1527

はじめに
 下部食道噴門癌の手術成績向上のために種々の努力がなされてきた.切除断端に癌の遺残をなくし,また安全に吻合を行うために必要な手術野と到達路が開発され,すでに十分検討されたといつてよい.つぎに解決を迫られているのが下部胸腔内リンパ節郭清をめぐる諸問題である.
 20年前,前田1)が先駆的な研究報告を行つて以来,千葉大第2外科2),癌研外科3)などの研究報告が続いた.いずれも下部胸腔内リンパ節の転移状況を検討した上で,下部食道噴門癌根治手術におけるこの部位のリンパ節郭清の必要性を強調している.しかし多施設による追試もしくは検証は十分なされているとはいえない.

脾門,脾動脈幹リンパ節郭清—膵温存,脾摘術式

著者: 丸山圭一 ,   北岡久三 ,   平田克治 ,   岡林謙蔵 ,   菊池史郎

ページ範囲:P.1529 - P.1533

はじめに
 胃癌手術の根治性を高めるためには,術式は拡大される傾向にある.一方,臓器欠損によるde—meritも指摘され,不必要な切除は避けるべきである.主占拠部位Cの進行胃癌での転移は10番(脾門リンパ節)が21.0%,11番(脾動脈幹リンパ節)が19.2%と頻度が高く(図1),全摘が行われるような高位の胃癌では郭清のうえで重要なリンパ節である.10番郭清のための脾摘が,抗腫瘍免疫の上で不利ではないかと言う考えもあるが,免疫パラメーターや生存率のうえで明らかなde—meritは証明されていない1-4).そこで,脾摘せずに10番を郭清することが困難なことを考慮すれば,根治性がある例では脾摘をすべきであろう.11番郭清に際して,われわれの提唱する膵温存手術5,6)(図1)の目的は膵尾合併切除による糖尿病の発症・増悪,これにともなう呼吸循環不全や感染症,または膵切断端からの膵液瘻などの諸合併症を回避することにあり,この手術によつて膵脾合併切除と同等の郭清ができるならば,膵温存手術が選択されるべきであろう.
 本手術の根治性に関しては,(1)膵脾合併切除を行つた切除標本のlymphogramにおいて,膵実質内のリンパ節は造影されず,胃からのリンパ流は漿膜下や膵周囲の結合組織中のみを流れていることから,転移は膵実質内には生じないと考えられた.

脾門,脾動脈幹リンパ節郭清—膵体尾部脾合併切除術式の意義

著者: 宮下薫 ,   武藤輝一 ,   佐々木公一 ,   田中乙雄 ,   梨本篤 ,   吉川時弘

ページ範囲:P.1535 - P.1538

はじめに
 胃癌の手術成績向上には,近年めざましいものがある.上部胃癌において脾門リンパ節(No.10)や脾動脈幹リンパ節(No.11)を完全郭清するため,膵体尾部切除と脾切除を合併する術式が提唱され,著者らの施設でも進行癌の多い上部胃癌に対して胃全摘に膵体尾部脾合併切除を加える術式を積極的に行つてきた.しかし,脾摘の合併についてはリンパ節郭清と宿主の免疫学的観点などから賛否両論が未だ多く,意見の一致をみていない.本稿では,脾門・脾動脈幹リンパ節転移の実態を中心に検討し,同術式の意義について述べる.

胃癌手術における脾摘の是非

著者: 吉野肇一 ,   熊井浩一郎 ,   浅沼史樹 ,   石引久彌

ページ範囲:P.1539 - P.1542

はじめに
 胃癌に対する広範囲のリンパ節郭清を伴う拡大根治手術が確立したのは1960年代の中頃であり,それとともに膵体・尾部,脾合併切除術が普及した.この際,リンパ節郭清のために脾の臓器機能は全く顧みられなかつた.しかし,1970年代後半より腫瘍免疫の考え方が拡がり,免疫との関係の深い脾の臓器機能を無視することに疑義が持たれ,胃癌手術の際の脾摘に対する再検討1,2)が始まり,以来約10年間,この問題は未だ明快な解決をみることなく検討され続けている.

制癌剤のtargetingによる胃癌化学療法—特に活性炭吸着制癌剤によるリンパ節転移と腹膜播種性転移の化学療法

著者: 高橋俊雄

ページ範囲:P.1543 - P.1545

はじめに
 近年,癌化学療法を効果的に行うため制癌剤を,標的とする癌病巣や転移巣に選択的に分布させようとする試み,すなわちtargeting化学療法が行われ,臨床的にも従来の全身投与に比しかなりの成果が得られている1).われわれもリンパ節転移,腹膜播種性転移,局所再発などをtargetとして,それぞれエマルジョン,活性炭吸着制癌剤,5—FU坐薬など,主として制癌剤の剤形を工夫することによるtargeting化学療法を行つてきた2).今回はこれらのうちわれわれが最近開発した胃癌リンパ節転移と腹膜播種性転移に対する活性炭吸着制癌剤によるtargeting化学療法について述べてみたい.

免疫化学療法の治療成績

著者: 服部孝雄

ページ範囲:P.1547 - P.1550

はじめに
 胃がんの免疫化学療法といえば,手術可能なものから,再発胃がんまで広く対象となるが,再発胃がんについては別の章でとりあげられるので,ここでは胃がんのadjuvant therapyとしての免疫化学療法に限つてのべてみたい.

胃スキルスの内分泌化学療法

著者: 北岡久三

ページ範囲:P.1551 - P.1554

はじめに
 癌の内分泌療法は,外科的に依存ホルモン分泌腺を切除するか,依存ホルモンに対し拮抗または競合ホルモンを投与し,宿主の内分泌環境を作りかえ,癌の増殖を抑制するものである.
 抗エストロゲン剤であるtamoxifen(Nolvadex)が登場して以来,乳癌の内分泌療法は外科療法から内科療法に変わりつつあり,単独あるいは化学療法との併用により,その有用性が立証されつつある.

胃癌の経内視鏡的レーザー治療

著者: 鈴木博昭 ,   渡辺豊 ,   神山正之 ,   長尾房大

ページ範囲:P.1555 - P.1559

はじめに
 レーザー光が消化器内視鏡の臨床の場で広く応用されるようになったのは1973年Nath,Kiefhaberらがファイバースコープの鉗子孔を通るflexibleな石英ファイバーを開発して以来である.1975年頃からFrumorgen1)(アルゴンレーザー)やKiefhaber2)(Nd-YAGレーザー)らが消化管出血に対する止血の臨床に取組み,1980年には各各294例と663例の臨床例を経験し90%以上の高止血率であつたと報告した3)
 著者4)は1979年4月からの半年間西独Marburg大学外科に滞在し,16例の上部消化管出血に対する内視鏡的Nd-YAGレーザー止血法を経験し,その治療成績を日本消化器内視鏡学会誌に報告した.本邦では1980年の第22回日本消化器内視鏡学会総会で「Laser Endoscopy」3)のシンポジウム(司会・竹本忠良,並木正義)が行われ,また,1981年には第4回国際レーザー外科学会5)(会長・渥美和彦)が東京で開催されて,いわゆるLaser(New light)feverが到来した.

根治手術後の再発例からみた手術方針の再検討

著者: 岩永剛 ,   古河洋 ,   市川長

ページ範囲:P.1561 - P.1566

はじめに
 胃癌の手術法を選択するための考え方として,(1)リンパ節転移率,再発率などの数値を基礎にしてその方針を決める数値理論,(2)症例報告のように1例〜数例の経験から,このような方法を行うべき,あるいは行つてはいけないという経験論,(3)理論的にこのような方法をとれば,完全な手術が行えるという観念論がある.この中では,(1)が最もよい方法と考えられるが,その基礎となる数値の算出法には十分な注意を払わねばならない.
 ここでは,胃癌根治手術後の再発死亡例を検索し,再発率あるいは再発部位別の頻度から手術法を検討してみたい.

再発胃癌の治療

著者: 古賀成昌 ,   前田廸郎

ページ範囲:P.1567 - P.1569

はじめに
 胃癌の治療成績は早期癌症例の増加,広範リンパ節郭清,あるいは術後の補助化学療法などにより向上してきているものの,胃癌手術後の再発症例も決して少なくなく,これらに対しては,いわゆる集学治療として制癌化学療法,免疫療法などの併用がなされている.本稿では胃癌の再発状況と,その中でも最も高頻度にみられる腹膜再発に対する治療について概述する.

残胃癌の病態と治療

著者: 島津久明 ,   小堀鷗一郎 ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.1571 - P.1574

はじめに
 残胃癌に関するterminologyはなお十分に統一されていないが,著者らは従来より何らかの胃切除後の残胃に発生した癌をすべて残胃癌と解釈し,これを初回手術の対象が胃・十二指腸潰瘍を中心とする良性疾患であつた場合の残胃初発癌と胃癌の場合の残胃再発癌の2つに大別して検討を加えてきた1,2).それぞれにおける癌発生にはさまざまな機序の関与が推測されるが,とくに前者は残胃が1つの前癌状態であるか否かをめぐつて重大なテーマを提供している.しかし,これらの問題に関する臨床的検討には,初回手術から残胃癌発生までの長い時間経過のために,初回手術時の所見の詳細な分析や的確なfollow upが困難なことが大きな障壁となり,とくに初回手術が他施設で行われている一部の症例では,その正確な分析がさらに困難になる.以上の状況を踏まえたうえで,標題の課題に関するこれまでの知見を自験例の成績を含めて要約し,併せて今後の問題点を明らかにしたい.

カラーグラフ 臨床外科病理シリーズ・21

比較的早期のVater乳頭部癌

著者: 板橋正幸 ,   加藤昌子 ,   森永正二郎 ,   廣田映五 ,   尾崎秀雄 ,   森谷冝皓

ページ範囲:P.1504 - P.1505

 最近診断学の進歩と共にVater乳頭部の比較的早期の癌の診断,手術がなされるようになつたが,しかしそのような症例はまだ少ない.ここではVater乳頭部に発生しその浸潤が大十二指腸乳頭部粘膜下層までに限局したいわゆる比較的早期のVater乳頭部癌を供覧する.
 症例 63歳,男性

文献抄録

定性的および定量的フローレッセン螢光法による腸管viabilityの判定

著者: 福田健文 ,   安藤暢敏

ページ範囲:P.1575 - P.1575

 腸管の虚血障害後において,術中腸管viabilityの判定は長い間外科医の難問であつた.strangulation解除後やacute mesenteric ischemia後にしばしばviabilityのあやしい部分が残る.viabilityのある腸管を切除しすぎるとshort bowel syndromeを起こす可能性があるし,non-viableな腸管を残すことは,さらに致命的である.術中の肉眼による勘のみにたよつた判定法では信頼性に欠けるので,様々な判定法が推賞されてきたが,一般的に受け入れられたものはない.最近興味をもたれているのはドップラー法と肉眼的(定性的)フローレッセン法である.残念ながら,これらの正確度は実験モデルにより異なる.最近Silvermanらは虚血組織の血流判定に定量的フローレッセン法を利用した報告をしている.今回の実験では犬の虚血性腸管を用いて,肉眼的判定法,定性的また定量的フローレッセン法の信頼性を比較した.われわれのモデルは臨床的にはacute mesenteric arterial occulsion with early revascura—rizationを想定した.これはSMAの急性閉塞の症例が増加しているためである.

Report from Overseas

経胸腔・腹膜腔切開排膿術による細菌性肝膿瘍の治療経験

著者: 李成日 ,   姜惟龍 ,   許光根 ,   李乃新 ,   崔東煥

ページ範囲:P.1576 - P.1578

はじめに
 近年,感染性疾患の予防・治療対策の改善によつて,延辺地区の細菌性肝膿瘍発病率は過去より著しく減少した.超音波検査とアイソトープによる肝シンチグラムは肝の局所性の病変の診断に有力な手段となつている.CT検査も肝膿瘍部位,膿瘍の大きさ,膿瘍数の診断ならびに経皮挿管部位の選択の目的に応用されている2-4).細菌性肝膿瘍を治療する際,もし手術適応があれば,私達はほとんど経胸腔・腹膜腔の経路による切開ドレナージを施行したが,体腔内の汚染は見られず,良い治療成績を得た.
 1966年より1982年末まで,当科において経胸腔・腹膜腔切開ドレナージにより治療した細菌性肝膿瘍は55例である.本稿ではその臨床データによる治療経験を述べるとともにいくつかの問題点について検討してみたい.

画像診断 What sign?

Gallstone ileus

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.1579 - P.1579

 胆石イレウスgallstone ileusは胆嚢と胃,あるいは十二指腸の間に形成された瘻孔を通じて消化管に排出された胆石による腸管の機械的閉塞であり,50歳以上の女性に多くみられる.閉塞のレベルは回腸が最も多く十二指腸がそれに続く.腸の内腔を閉塞する胆石の大きさは"くるみ"大以上のことが多い.症状は通常の小腸閉塞と変わらないが,腹部単純X線像より術前診断が可能な場合がある.
 腹部単純X線所見は,①小腸閉塞所見,②腹部石灰化結石陰影(50%),③胆道および瘻孔中の異常ガス像,が特徴的である.

腹部エコー像のPitfall・4

腹腔内リンパ節腫脹のエコー上の鑑別点

著者: 松田正樹 ,   井上健一郎

ページ範囲:P.1581 - P.1584

この患者の診断は?
症例1
25歳,男性
 頸部リンパ節腫脹および下痢で当科受診.頸部に7×5cmの弾性硬,可動性良のリンパ節を,腹部では臍右に10×15cmの硬い腫瘤を触知し,腹部超音波検査を行つた(図1,図2).

臨床研究

巨大肺嚢胞に合併した原発性肺癌の検討

著者: 西亀正之 ,   奥道恒夫 ,   江崎治夫

ページ範囲:P.1585 - P.1588

はじめに
 われわれは1970年以来,21例の巨大肺嚢胞を経験した.そのうち20例に何らかの手術を行つて来た.これらの症例に対する手術成績を述べ,最近報告例が増加している肺癌の合併について報告する.21例の巨大肺嚢胞症例のうち6例,29%に原発性肺癌が合併していた.組織型は3例が扁平上皮癌,腺癌,小細胞癌,大細胞癌が各1例であつた.これらの症例につき文献的考察を加え報告する.

連関測度γを指標とした胃癌のリンパ節転移パターンと郭清法の検討

著者: 中島聡総 ,   高橋知之 ,   吉田行一 ,   太田博俊 ,   大橋一郎 ,   高木国夫 ,   久野敬二郎 ,   梶谷鐶

ページ範囲:P.1589 - P.1597

はじめに
 胃癌根治手術におけるリンパ節郭清術式は胃周辺のリンパ節のGRADING(N-number)と郭清程度(R-number)の規定が導入されることにより,概念的にはきわめて整然と施行されるようになつた.今日,早期癌といえども,R2の郭清をすべきである点で大方の意見が一致しているように思われる.こうした定型手術は過去の膨大な経験にもとついてその妥当性が支持されている.しかし,現実にはさらに病期が進行して,R3以上の郭清を必要とする場合や,反対にきわめて早期の状態でR2以下の郭清でよい場合もあろうかとおもわれる.癌の手術も理想論をいえば,癌の進展程度にたいして,過不足のない範囲にとどめるべきであろう.こうした個個の症例に応じて郭清範囲を同定する方法は術前および術中のリンパ節転移の情報が増えることにより,次第に可能になつてくるであろう.
 そこでわれわれは転移のない早期癌症例をのぞく治癒手術症例において,リンパ節転移をパターンで認識することを検討した.このことにより血管を温存して徹底した郭清をすることが困難な脾門部(⑩),脾動脈幹部(⑪)リンパ節の郭清適応や,さらに遠位の肝十二指腸間膜内(⑫),膵後部(⑬),腸間膜根部(⑭),傍大動脈(⑯)リンパ節の郭清の適否を判定する上で若干有用な結果を得たので報告する.

機械的小腸イレウスに対する腹腔鏡の意義

著者: 中川隆雄 ,   中島清隆 ,   久米川和子 ,   小野田万丈 ,   鈴木忠 ,   倉光秀麿 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.1599 - P.1604

はじめに
 機械的イレウスを診断するうえで,最も重要で緊急を要する点は,単純性イレウスと絞扼性イレウスを鑑別することにあるが,発症初期には鑑別困難な場合が稀ではない.
 われわれは,最近,針状腹腔鏡が開発されたのに着目し,1982年1月より,イレウスを含めた急性腹症に腹腔鏡を施行してきた.その結果,特に機械的小腸イレウスにおいては,単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別,および手術適応の有無を迅速に判断するうえで極めて有用な診断法と考えられたので,腹腔鏡の手技,得られる情報,および機械的小腸イレウスに対する腹腔鏡の意義等について述べてみたい.

境界領域

前頭洞・篩骨洞・脳内異物の8例

著者: 吉村陽子 ,   中島龍夫 ,   上敏明 ,   加藤一 ,   中西雄二 ,   米田敬 ,   佐野公俊

ページ範囲:P.1605 - P.1610

はじめに
 交通事故の多発により,いわゆるフロントグラス損傷を取り扱う機会は多い.救急処置として,顔面の創の縫合に先立ち,多数のガラス片や土砂などの異物を取り除かねばならないこともしばしばである1).しかし,初期治療においては,前頭洞・篩骨洞・眼窩・脳内などの深部にある異物は見すごされやすい.われわれは,これらの部位の異物が初期治療の際気付かれず,後日その存在に気付いて手術を行つた症例を8例経験したので,診断・治療上の留意点などに若干の考察を加え報告する.

臨床報告

Gastroesophageal asthmaを伴つた食道裂孔ヘルニアの1例

著者: 田中千凱 ,   伊藤隆夫 ,   操厚 ,   国井康彦 ,   西脇勤

ページ範囲:P.1611 - P.1614

はじめに
 食道裂孔ヘルニアあるいは食道アカラシア症例などでGastroesophageal refiux(GER)により胃内容が食道,咽頭を経て気道に入り,急性あるいは慢性の肺疾患,特に肺炎や気管支炎などを高率に引き起こし,さらには気管支喘息の原因となることが報告されている.
 最近われわれもGERによる気管支喘息を合併した滑脱型食道裂孔ヘルニアの1例を経験した.この症例に対して逆流防止を目的としたHill手術変法を施行したところ長年にわたる咳嗽発作が消失したので報告する.

同一患者において2回摘除術を行つた細小肝癌の1例

著者: 佐藤康満 ,   山崎泰男 ,   下間信彦 ,   永松正明 ,   鈴木裕之 ,   栗谷義樹 ,   高野一彦 ,   小松寛治 ,   盛合範彦 ,   中目千之 ,   佐藤和一 ,   佐々木雅佳 ,   丹野尚昭 ,   山崎日出雄 ,   花田稔 ,   川村義宏 ,   渡辺公伸

ページ範囲:P.1615 - P.1620

はじめに
 本邦においては,原発性肝細胞癌の70〜80%に肝硬変症が伴うとされており,肝硬変症と診断された症例に対しては,肝細胞癌の発現をできるだけ早期にとらえるためのスクリーニング法を実施する必要がある.今回われわれは,肝硬変症の経過観察中α-fetoprotein(以下,AFPと略す)の上昇が契機となつて細小肝癌が発見され,術中超音波ガイド下に腫瘍摘除術を行つた後,約1年半経過して再度AFPの上昇を契機に細小肝癌が発見され,術中超音波ガイド下に2度目の腫瘍摘除術を行つた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

仮性膵嚢胞内出血の1治験例

著者: 佐藤和広 ,   今野哲朗 ,   佐野文男 ,   佐野秀一 ,   五十嵐究 ,   大村孝志 ,   長渕英介 ,   中西昌美 ,   葛西洋一 ,   藤沢純爾 ,   宮森祥八郎 ,   種田光明

ページ範囲:P.1621 - P.1624

はじめに
 仮性膵嚢胞は膵炎,外傷などに続発し,最近の画像診断の進歩に伴ない,遭遇する機会が多くなつたが,嚢胞内出血の合併は極めて稀であり,本邦で21例の報告をみるにすぎない.仮性膵嚢胞内出血の診断は必ずしも容易ではなく,治療上は出血と嚢胞の処置の両面からの配慮が必要である.
 最近われわれは仮性膵嚢胞内出血の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

十二指腸の完全閉塞をきたした胆嚢性十二指腸周囲炎の1例

著者: 広田有 ,   日高直昭 ,   細野英之 ,   鈴木聰 ,   古川勇一 ,   岩佐真 ,   世古口務 ,   井ノ口健也

ページ範囲:P.1625 - P.1629

はじめに
 成人において十二指腸狭窄をきたす疾患としては,十二指腸潰瘍,輪状膵や慢性膵炎などの良性疾患,あるいは胃,膵,胆道の悪性疾患の浸潤によるものが大部分である.最近われわれは術前に胆嚢癌の十二指腸浸潤との鑑別が困難であつた胆嚢性十二指腸周囲炎による十二指腸下行脚の閉塞の1例を経験したので,その原因や治療法などにつき若干の考察を加え報告する.

原発性大網捻転症の1例

著者: 大谷吉秀 ,   三田盛一 ,   牛島康栄 ,   宮北誠 ,   島津元秀 ,   朝戸裕 ,   三方淳男 ,   黄聰乾 ,   上野恭一

ページ範囲:P.1631 - P.1634

はじめに
 Leitner1)によれば,大網捻転症は1858年にMarchetteによつて最初に報告され,本邦では,1933年に栗本2)により第1例が報告されて以来,1981年までに59例3,16,18-20)が報告されている.
 一方,腹腔内および大網に原因となる器質的病変が認められず,大網の捻転のみが存在する,いわゆる"原発性"大網捻転症は,1981年にBasson4)が欧米例223例を集計しているが,本邦では,1953年の辻5)の報告以来これまでわずかに13例を数えるのみで,きわめて稀である.

原発性小腸間膜平滑筋肉腫の1例

著者: 森元秀起 ,   西庄勇 ,   東山聖彦 ,   古川順康 ,   中村勉 ,   門田尚武 ,   安田青児 ,   岡崎茂

ページ範囲:P.1635 - P.1639

はじめに
 腸間膜に原発する腫瘍は稀であり,特に平滑筋肉腫の診断を下されたものは内外合わせて6例の報告をみるにすぎない.最近われわれは,小腸間膜に原発したと考えられる平滑筋肉腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え,報告する.

異時性に両側発症した閉鎖孔ヘルニアの1例および本邦報告例の統計的検討

著者: 宮田潤一 ,   米山桂八 ,   固武健二郎 ,   原彰男 ,   林亨 ,   吉井昭夫 ,   古明地智

ページ範囲:P.1641 - P.1644

はじめに
 閉鎖孔ヘルニアは,高齢のやせた多産婦に好発する比較的まれな疾患である.術前診断が困難で,嵌頓による腸閉塞のため緊急手術を行い,はじめて診断される例がほとんどであり,手術死亡率も高い.
 本症は,1724年De Ronsil1)により初めて報告され,本邦においては,1926年川瀬2)の初例報告以来,約200例の報告がなされている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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