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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科39巻4号

1984年04月発行

雑誌目次

特集 臓器移植の最前線

臓器移植と組織適合性

著者: 渡部浩二

ページ範囲:P.445 - P.456

はじめに
 臓器移植のうち腎移植や骨髄移植は腎不全,骨髄不全の治療法としてすでに確立されて,生着率生存率も年々向上がみられている.肝,心移植なども最近の新しい免疫抑制剤,Cyclosporin A1),などの開発によつて好成績を得,活発に行われる気運が生じている.
 組織適合性抗原検索の歴史は長いが,よい組合わせを得るためのとくに移植免疫に関するその構造と機能の解析が目覚しいHLA-DR抗原系を中心とする免疫遺伝学的研究は,単に移植においてよい組合わせを選ぶ目的のみならず広く個体の重要な免疫応答を分析する一つの有効な武器となつた2,3)

術前輸血とCyclosporin A

著者: 雨宮浩

ページ範囲:P.457 - P.465

はじめに
 臓器移植にとり,拒絶反応は最大の合併症である.しかしながら,この合併症は,むしろ起こることの方が生理的と考えられる反応である.なぜなら,移植臓器は,あくまでもレシピエントにとつて,非自己であり,異物であるからである.生体の長い歴史を振り返つてみれば,異物を体から排除する機構,すなわち拒絶反応こそ,種保存の最も大切な機構であつたとも言える.しかし臓器移植が,致命的な病的臓器を正常臓器に置換することを目的とするからには,例え生理的反応とは言え,拒絶反応は最大の合併症である.
 1936年,Voronoy, V. が,ヒト大腿部に死体腎を移植して以来,治療を目的とした同種臓器移植は驚くほどの進歩をみせ,今や中枢神経を除いた,あらゆる臓器の移植が行われるようになつた.拒絶反応を予防する手段について見ても,1955年,Hume, D. M. らによりヒト腎移植に副腎皮質ホルモンが使われ,1963年にはMurray,J. E. らにより,azathioprine(AZP)が腎移植の臨床に使われた.このAZPとsteroidは,現在に至るまで,臓器移植における免疫抑制剤の根幹をなしている.また,1965年にはVredevoe, D. L. は,ヒト腎移植にとり白血球抗原の適合性,いわゆる現在でいう組織適合性抗原(HLA抗原)の適合性が重要であることを報告し,1967年にはStarzl, T. E. らが,免疫抑制剤として抗リンパ球血清が有効であることを,ヒト腎移植例で証明した.すなわち,今からほぼ15年前には,移植にとつて必要な免疫抑制剤と組織適合性についての知識が,出揃つたことになる.しかし,本稿話題の術前輸血あるいはサイクロスポリンAの出現をみるまでの10年間,移植手術に関する外科的知識の集積によつて,少しずつは成績の向上を見てはきたものの,日を見張るような成績の躍進はなかつたと言つても過言ではなかろう.

腎臓移植の現況と展望

著者: 中根佳宏 ,   岡隆宏

ページ範囲:P.467 - P.474

はじめに
 日進月歩する臨床医学の中にあつて,近年とくに脚光をあびている分野の一つとして,臓器移植をあげることができる.その中でも,とりわけ腎移植は施行された症例数や臨床成績の上で抜群の成果をあげており,今や慢性腎不全の根治療法としての地位を確立するに至つている.とくに最近わが国においては,透析患者が急増し,これが社会的にも経済的にも大きな問題を投げかけるに及んで,腎移植に対する要望がいちだんと高まりつつある.
 しかし、この腎移植に関しては,わが国においてはまだ一般の理解が得られたとは言い難く,多くの患者の希望をかなえるためには,死体腎の提供促進を含めた死体腎移植システムの整備や腎センターの設立など,今後整備していかねばならない問題が多い.また,治療上においても,特異的な免疫抑制剤の開発や拒絶反応,とくに慢性拒絶反応の対策など解決せねばならない問題が数多くあることも事実である.そこで,腎移植の現況と将来への展望を中心に述べてみたい.

肝臓移植の現況と展望

著者: 岩月舜三郎

ページ範囲:P.475 - P.483

はじめに
 1963年3月1日,コロラド大学で世界最初の臨床肝臓移植が行われて以来,世界の症例数は既に500例を遙かに越え,1,000例に近づこうとしている.当時,医学生として,門脈圧亢進症の権威今永 一教授の名講義を毎週欠かさず聴いていた小生は末期肝硬変症に肝臓移植をしてはどうかと質問したことを記憶している.定年に近かつた今永教授のお答えは「門脈下大静脈吻合術は一時しのぎの治療です,君達若い人達がこれから頑張つて肝臓を取り替る様にして下さい.私は草葉の陰からその日を待つています.」であつた.入局後は食道末端胃上部切除術を完成された山本貞博教授をそそのかして,犬で肝臓移植を試みた,山本教授は移植そのものに悲観的であられた.この紙面をお借りして,「治療」としての肝臓移植を両恩師への御報告も兼ね,私の体験してきたことを,明日にも始まろうとしている日本の肝臓移植に役立つ諸問題について語りたい.

膵臓移植の現況と展望

著者: 出月康夫 ,   窪田倭

ページ範囲:P.485 - P.494

はじめに
 若年性糖尿病に対する膵移植も欧米においてはすでに多数の臨床治験が行われ,膵を移植してラ島機能を移人することによつてType Ⅰ糖尿病(Insulin dependent type)が完治しうることが明らかにされている.臨床治験の初期のころには膵移植の対象患者も糖尿病末期の多臓器障害をともなうものに限られ,また免疫抑制手段も現在とらがつて限られていたことから,移植膵の拒絶反応による脱落や感染症などの合併症による死亡例も多く満足すべき成績がえられなかつたが,最近ではCyclosporin Aなどの新しい免疫抑制剤が臨床に導入され,また膵移植の対象となる患者を選択することによつて移植成績は急速に向上してきている.
 この間,膵移植と比べるとrcCipientに対する侵襲がより少ない分離ラ島移植が注目され,1970年から1980年にかけて盛んに研究が行われ,臨床にも応用されたことは周知の通りである,自家移植または同系動物間の移植では良好な移植ラ島の機能が見られており,その臨床応用の結果が注目されたが,同種移植では分離ラ島はきわめて強い拒絶反応を受けることが明らかにされ,現在では同種ラ島移植の臨床例への応用は中止されている.

心移植の現況と展望

著者: 近藤芳夫

ページ範囲:P.495 - P.501

はじめに
 本誌"臨床外科"は昭和43年の23巻5号で特集"臓器移植の可能性"をとりあげ,筆者は"心移植の可能性"について執筆したが,その中で次のように述べている1).「いろいろな角度からの動物実験の成績を綜合して,心臓の移植はむずかしい仕事ではあるが手技的には可能である.移植後の機能,免疫反応等の生物学的問題は肝,腎,肺などと比べてむしろその見通しは明るい.臨床的適応という面でも心移植の将来性は大きい…….取り敢ず残された難問題は,長い間生死を代表する臓器と考えられてきた心臓を,donor,recipientの両者についていかなる時点で,いかなる状態で移植にふみ切るかということであつて,医学的には個体の死という現象に対する再検討が必要であり,さらにはこのような手段に対する社会的認識を深めて,その背景となる法律,倫理,宗教の歩みよりを期待しなければなるまい.」当時は南アフリカのC. Barnardによつて心臓の同種移植臨床第1例が行われた直後であり,筆者は心移植の実験的研究に精魂を傾けていた頃で,自信と希望にあふれてその将来性を論じたものである.
 あれから丁度15年を経過し,この問題からも次第に遠ざかつた今,再び"臓器移植の最前線"から心移植を展望するよう依頼を受けたが,さきに述べた困難性がそのまま今日の問題点として残つているわが国の現実をみるとき,正直いつて大変に気が重い,何事も世界の一流に仲間入り出来た,ないしは出来ると信じている大国日本において,臓器移植だけはその後進性が著しく,なかでも心移植はみすぼらしい.語り得る現況はすべて海外の成果の紹介に終るのは誠に残念であるが,勿論そうなつた責任の一端は筆者自身にもあることであり,若い医師,医学生諸氏のこの問題に対する認識と関心を期待して敢て筆をとつた次第である.

骨髄移植の現況と展望—特に進行固形癌に対する大量化学療法の支持療法として

著者: 隅田幸男 ,   森重福美 ,   桂義元

ページ範囲:P.503 - P.515

はじめに
 はじめにおことわりしておかねばならないことは,固形癌の外科治療の本筋は浸潤を含めて主腫瘤を広範囲に切除することである.また,抗癌剤の効果が判然としている癌は急性リンパ性白血病,Hodgkin病,睾丸腫瘍,胎児横紋筋肉腫,Ewing肉腫,Wilms腫瘍,Burkittリンパ腫,網膜膠腫,絨毛膜癌などであつて,本研究で治療の対象とした癌の中,乳癌,肺癌(小細胞癌を除く),大腸癌,胃癌などの主要臓器の固形癌に対しては抗癌剤の効果はまだ未知数を多く含んでいるためその評価を慎重に模索中なのである.特に,抗癌剤を大量に全身投与する場合はその骨髄ならびに非骨髄性の副作用が強力であるため,何らかの支持療法が行われない限り患者は生命を維持することはできない.支持療法としては血液成分輸血,防御的環境(無菌室,無菌テントほか),全身的および経口的非吸収性抗生剤(特に抗真菌性のもの)の投与などによつて骨髄が中毒症状から回復するのを待つのである,ところが,抗癌剤や放射線照射を強力に行いすぎると,非可逆的な骨髄障害,つまり後天性免疫不全症(AIDS)を生じてしまうので,正常な骨髄機能を回復させるためにはどうしても骨髄移植が必要となるのである.
 移植する骨髄源としては,HLA適合提供者(通常は同胞)または患者自身の骨髄が使用される.前者は同種移植(O'Reilly1983),後者は自家移植である,同種骨髄移植では拒絶反応と移植片対宿主病(GVHD)という巨大な壁が普及を阻んでおり,自家移植では混入癌細胞を患者自身に再輸注する可能性が危惧されている.当然,それぞれの予防処置はが考えられている.同種移植ではmo—noclonal抗体(CAMPATH 1)によるT cellの除去法が目新しい(Hale 1983),同じ方法で癌細胞そのもの除去も行われている(Ritz 1983).
 本稿では159症例の切除不能進行固形癌(表1)に対して行つた,解凍自家骨髄移植を併用した多剤併用大量抗癌剤投与による治療成績を率直に述べ,主として自家骨髄移植に関する国内外の現況を概観しておきたい.

腸移植の現況と展望

著者: 岡田正

ページ範囲:P.517 - P.522

はじめに
 腸切除は日常における消化器外科臨床のうちでも最もしばしば行われるものの一つであるが,時として大量の腸切除を余儀なくされる場合がある.この場合大抵は残つた腸管が経過と共に延長・肥大を来たし,後に何ら障害を残さないのであるが,腸切除の範囲が大量に過ぎ限界を越えると残存腸管のみではもはや機能を充分には発揮できずこのままでは生存不可能となる.腸管大量切除術は成人・小児を問わず古くより消化器外科の大きな課題とされ,その病態生理及び治療をめぐつて数々の検討がなされて来た.
 1960年代後半に臨床応用が試みられ,以後急速な発展を見た静脈栄養法は大最腸切除の予後に大きな光明をもたらした1).のみならず更に,「人工腸管システム」「家庭での静脈栄養法(Home Pa—renteral Nutrition=HPN)」の確立・安全化により,静脈栄養を続けたままでの日常生活,社会復帰すら可能となりつつある2).またこれと共に手術適応例も増え,このような半永久的な静脈栄養を受ける患者数が増加しつつある,米国では既に3,000名を突破する患者数があり,わが国でも我我が昨年医学総会シンポジウムを機会に行つた全国アンケート結果をみても129例を数えており年と共に増加の傾向が見られている(表).

カラーグラフ 臨床外科病理シリーズ・15

小型肝細胞癌

著者: 広橋説雄 ,   岸紀代三 ,   幕内雅敏 ,   山崎晋 ,   長谷川博 ,   高安腎一 ,   森山紀之

ページ範囲:P.442 - P.443

 慢性肝炎・肝硬変患者が肝細胞癌の高危険群として,血清AFP値の測定や進歩した画像診断法で厳密にfollow upされるようになり,小型の肝細胞癌が続々と発見されている.これらの症例は,当然外科的切除の対象となるが,それでも患者の予后は必ずしも良くなく,今後さらななる治療法の改善が待たれる.
 症例 59歳,男性.

この人と15分

"脳死"をめぐつて 竹内一夫先生

著者: 出月康夫 ,   竹内一夫

ページ範囲:P.525 - P.527

 出月 今,脳死の判定基準はどうなつていますか.
 竹内 脳死は,定義からいうと,脳全体が非可逆的に機能を喪失している,つまり死んでいるという状態で,生物学的にはきわめて明確な現象なわけですね.たとえば,いろいろな疾患,病態というもので病理学的にもなかなかつかみにくいという病態が多いわけです.電子顕微鏡まで持ち出さなければわからないとか,他のいろいろな診断方法を使わなければわからないという病気はたくさんあるわけですけれども,脳死というような非常にはつきりした状態は,脳が死んでいるんだからかなり明確な状態だと,だから,そういう脳が死んだ状態というものを医学的に判定するというのは理論的にはそう難しいはずではないわけです.判定基準というものがたくさんあるけれども,それはあくまでも物差しであつて,臨床に携わつているものは脳死を判定するということはそんなに困難ではないんです.

世界の手術室・3

"温故知新"が生きるパリの病院

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.529 - P.531

医学の源流・パリ
 パリではHôtel-Dieu,Necker病院,小児病院(Hopi—tal des Enfants Malades),およびBroussais病院を何度か訪れた.とにかく,パリは中世以降の医学においてヨーロッパのみならず世界の医学の源流であるといつても過言ではない.それほど医学史上に著名な学者の名前がどの病院を訪れても溢れているのである.(大村敏郎氏により本誌37巻1号より数10回連載の外科吏外伝──ルネッサンスから外科の夜明まで──に詳しい)
 日本の医師の大半はアングロサクソン・ゲルマンの文化しか原語では理解できないため,ラテン系の医学が何となくべールに包まれていて,神秘にすら思えることがある.

画像診断 What sign?

"Pseudokidney" sign

著者: 佐藤豊

ページ範囲:P.533 - P.533

 消化管病変の最も直接的な画像診断法は消化管造影検査であるが,消化管壁の肥厚を伴う腫瘍性あるいは炎症性病変においては病巣が腫瘤として触知され,腹部腫瘤検索の一環として超音波検査が造影検査に先立つて行われることも多い.この場合,超音波像は周囲をやや低いエコー帯により囲まれ中央に高いエコー領域を有する,一見,腎のエコー像と類似したいわゆる"pseudokidney" signを呈する.また,この所見は"target"あるいは"bull's-eye" lesionとも称される1,2).周囲の低エコー帯は肥厚した腸管壁,腫瘍そのもの,あるいは腫脹した腸間膜や大網などを,また中央の高エコー領城は腸管粘膜あるいは粘液による所見であると考えられている.この所見は表に示すような種々の病変でみられ,必ずしも病変の良・悪性などの質的診断に直接結びつくものではないが,腫瘤が消化管起源であること,および次に行われるべき検査が,消化管造影であることを示唆するものである.

外科医のためのマイコン・ガイド・8

—外科データを数式とグラフで表わす—回帰分析処理プログラムの作り方

著者: 松田和彦 ,   宮内啓輔 ,   進藤勝久

ページ範囲:P.535 - P.542

はじめに
 与えられた臨床データや検査データをグラフにプロットしたり,それから方程式を求めたりすることは,これからの外科医にとつても重要なことである.
 回帰分析は一次回帰,指数回帰,対数回帰,べき乗回帰などあり,標準プログラムも供給されて関数電卓で処理できないことはない.しかし,電卓はマイコンのようにデータを保存したまま追加,訂正,回帰分析法の変更や相関関係や有意差検定が同時にできない.そこで私達の常用する独自のプログラムを作つた.

臨床研究

胃癌リンパ節転移とCT像

著者: 堀雅晴 ,   渡辺進 ,   松原敏樹 ,   梶谷鐶

ページ範囲:P.543 - P.546

はじめに
 胃癌の診断は,胃X線,胃カメラ,生検の進歩によつて,ほぼ確立された感がある.しかし胃癌の壁外への伸展,すなわち他臓器浸潤の有無とその浸潤程度,リンパ節転移の有無とその拡がり,さらに遠隔血行転移等については,血管造影,エコー,種々シンチグラム等によつて多少の情報は得られるが,まだ十分とは言えない.Computed Tomography(CT)が登場し,肝転移をはじめとする血行転移の診断,他臓器浸潤の有無とその程度,リンパ節転移に関する情報も今までに増して,より多く得られる様になつてきた.そこでわれわれは胃癌手術例のうち,術前にCT検査の行われた症例についてCTの術前リンパ節診断の現状について検討を加えて見た.われわれが現在使川している機種は,東芝60 A検査法は造影剤点滴法のみで,無造影撮影は行つていない.

外科医の工夫

制癌化学療法における長期間静脈確保のための皮下永久埋没カプセル法

著者: 奥平恭之 ,   竹中賢治 ,   ,   松元輝夫

ページ範囲:P.547 - P.549

はじめに
 現在,化学療法は癌治療における単独療法,または外科治療との合併療法として欠かせないものとなつている,しかしながら長期間の制癌化学療法は,通常の経静脈による制癌剤の投与ではしばしば血栓性静脈炎を併発し,静脈の確保が不可能になることが多い.
 このためHickman1,2)は,単一管または二重管のカテーテルを腕頭静脈切開によつて上大静脈内に挿入し,カテーテルを胸部皮下トンネルを通して前胸壁皮膚外に露出する方法を考案した.現在この方法は,制癌剤投与のための静脈確保法として広く使用されている.しかしながら,このカテーテルは末端においてその一部が体外に露出されるため,患者の行動が著しく制限されると同時にカテーテルの皮下入口部に炎症性反応や感染が起こりやすく,また発熱の際にはカテーテル敗血症を懸念して抜去せざるを得ない事態がしばしば起こるという点で,改良の必要があつた.

臨床報告

誤嚥された魚骨片により惹起された腹壁放線菌症の1例

著者: 菅淳一 ,   上田祐滋 ,   亀井隆史 ,   籾井真美 ,   恵良昭一 ,   岩崎一教

ページ範囲:P.551 - P.553

はじめに
 放線菌症は,放線菌によつて引き起こされ特有のSul—fur granuleを病理学的特徴とする慢性の化膿性・肉芽腫性疾患であり,発症部位により顔面頸部,胸部,腹部放線菌症の3つに大きく分けられている.このうち腹部放線菌症は本症全体の約20%に発症する比較的稀な疾患であり,一般には急性虫垂炎や消化性潰瘍,腸憩室穿孔や外傷のあとに腹腔内膿瘍の形でづ発症する事が多い.
 本症の成因に関しては,正常の消化管粘膜の防御機構が外傷や疾病により破壊される事により,消化管内に常在する放線菌が腹腔内に遊離され病原性が惹起される事が,多数の臨床例により明らかにされているが,その詳細については不明な部分も多い.

十二指腸乳頭部に発生した平滑筋肉腫の1症例

著者: 沢井高志 ,   林哲明 ,   金子靖征 ,   池田卓 ,   伊東正一郎 ,   大高啓 ,   望月福治

ページ範囲:P.555 - P.558

はじめに
 十二指腸乳頭部に発生する腫瘍は比較的稀であるが,なかでも非上皮性の悪性腫瘍,つまり肉腫についてはその報告が少ない.今回,われわれは十二指腸乳頭部に発生した小さな平滑筋肉腫を術前に診断しえたので報告する.

特異な経過をたどつたマイトマイシン血管外漏出による皮膚潰瘍の1例

著者: 沢田幸正 ,   鈴木常正

ページ範囲:P.559 - P.562

はじめに
 抗癌剤静注時の血管外漏出は時には患者に長期間の苦痛,不快感を与えるのみならず,潰瘍化すれば保存的治療に難治性のことも多く,機能障害に至らしめる場合もある1).本症の治療法については未だ確立したものはなく諸説がいわれているが,今回,著者はマイトマイシンC(以下,MMCと略)血管外漏出による皮膚潰瘍の症例で,特異な経過をたどつた1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

男子の原発性同時性両側乳癌の1例

著者: 升田鉄三 ,   神雅彦 ,   北島修哉

ページ範囲:P.563 - P.566

はじめに
 男子乳癌は比較的稀で,本邦,欧米とも全乳癌症例の1%前後であり1-5),さらに男子の原発性同時性両側乳癌は,男子乳癌症例中1%前後にすぎない2-5).最近われわれは,一期的に両側定型的乳房切断術を施行し得た原発性同時性両側乳癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

卵黄腸管全開存(臍腸瘻)の1例

著者: 見市昇 ,   真田英次 ,   小林敏幸 ,   高橋侃 ,   小笠原長康 ,   成末允勇 ,   坂本昌士

ページ範囲:P.567 - P.569

はじめに
 卵黄腸管全開存(臍腸瘻)は卵黄腸管遺残症の中でも特に稀で分娩約15,000例に1例と言われ,本邦においては現在までに約30例の報告がみられるにすぎない.今回われわれは本症の1例を治験したので文献的考察を加え報告する.

15歳男子の直腸に集簇発生した多発性ポリープにfocal carcinomaを伴つた1症例

著者: 大久保忠俊 ,   橋本大定 ,   脇正志 ,   宮原透 ,   原田幸雄 ,   吉村敬三 ,   寺門道之

ページ範囲:P.571 - P.575

はじめに
 若年者に発生する直腸癌はきわめて稀であり,とくにポリープの一部に存在するfocal carcinomaについては,1950年以降比較的詳しく記載されている19歳以下の直腸癌報告例23例のうち,わずかに2例にすぎない1)
 われわれは15歳男子の直腸に集簇して発生した多発性ポリープにfocal carcinolnaが併存していた1症例を経験したので,その病理組織学的所見を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

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雑誌「SURGERY」最新号目次

ページ範囲:P.528 - P.528

SURGERY—Contents, March 1984 Vol.95, No.3 ©By The C. V. Mosby Company
 米国Mosby社の御好意により,世界的な外科雑誌"Surgery"の最新目次を,臨床外科の読者にいち早く,提供いたします。下記の目次は,発売前にファックスで送られてきたものです。この雑誌"Surgery"御購読は,医学書院洋書部(03-814-5931)へお申込み下さい。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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