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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科39巻6号

1984年06月発行

雑誌目次

特集 〔Q & A〕術中トラブル対処法—私はこうしている 巻頭言

手術場での心得

著者: 陣内傳之助

ページ範囲:P.740 - P.741

大切な3S(静粛,清潔,整頓)
 手術場というものはかくあるべしということを有名な九大整形外科の故神中正一教授の教室では3Sといいまして,静粛,清潔,整頓ということをやかましくいつておられました.
 私は30年前にイギリスのマッチソックという脳外科の教授の手術を見学しましたが,中に入りますと,看護婦がきて,ものを言うな,囁きもいかんと本当の囁きで言いますね.それほど静粛ということが一番大切な心得なのでしよう.

甲状腺・上皮小体手術

開創したが上皮小体がみつからない

著者: 三村孝

ページ範囲:P.743 - P.743

解剖学的事項
 正常な上皮小体の解剖学的な存在部位を十分頭に入れて手術を行うことが必要である.上上皮小体の90%以上は反回神経が下甲状腺動脈と交叉する部より1cm頭側に存在する.残りは甲状腺と気管の間,気管と食道の間,食道の後方,甲状腺内などにある.下上皮小体の90%以上は甲状腺下極を中心とした半径2cm以内に存在する.異所性上皮小体の大部分は胸腺内にある.胸腺内にあつても,頸部手術創から切除可能なものが多く,縦隔内にあるものは少ない(図1).

誤つて反回神経を把んでしまつた

著者: 三村孝

ページ範囲:P.744 - P.744

 局所麻酔で手術を行う場合は,反回神経の近くの操作時,母音を発声させながら手術を進める.誤つて反回神経を把むと嗄声をきたす.直ちに鉗子を開放する.反対側の反回神経を損傷しないように注意し手術を終る.両側反回神経麻痺では,声帯が正中位に固定し窒息をきたす.片側を把んだ場合は特別な処置を加えなくとも2〜3カ月で嗄声は回復する.
 全身麻酔で手術を行い,反回神経を損傷したおそれのあるときは,抜管時声帯の運動をみて反回神経麻痺の有無を確認する必要がある.

総頸動脈からの出血が止まらない

著者: 三村孝

ページ範囲:P.745 - P.745

 甲状腺の手術で総頸動脈を損傷することはきわめて稀である.良性腫瘍では腫瘍が大きく,総頸動脈に強く癒着していても,剥離は比較的容易である.進行癌で総頸動脈に浸潤が及んでいるようにみえる場合も,血管鞘と外膜の間でなんとか剥離できるのが殆んどである.静脈と異なり動脈は甲状腺分化癌の浸潤には抵抗性を持つているように思える.今迄何回か,総頸動脈への癌の浸潤を予想して,代用血管を用意し手術に臨んだことはあるが,これが必要となつた症例は持ち合わせない.
 従つて"総頸動脈からの出血"というのは誤つて血管を損傷した場合と解釈する.損傷部が正常な血管壁であれば,処置としては損傷部の縫合で十分である.小さな損傷でも,かなりの勢いで血液が噴き出してくる.損傷部を指で抑えて出血をコントロールする(図1,A).脳への血流を保てる程度の力で抑える.こうしながら損傷部の上下を剥離して血管鉗子をかける.損傷の危険が予測される場合は予め上下にテープを通しておけば最善である.鉗子がかかつたら血行を遮断し,損傷部を5-0〜6-0のプロリン血管縫合系を用いて縫合する(図1,B).血行遮断時間は3分間までとし,それ以上かかる場合は一旦血流を解除する.

上甲状腺動脈がひつこんでひつぱれない

著者: 三村孝

ページ範囲:P.746 - P.746

 一般にバセドウ病など甲状腺の良性疾患の手術は,下えり状切開(low collar incision)で皮膚切開を行い,広頸筋下を剥離し,肩胛舌骨筋を露出,胸骨甲状筋を鈍的に縦方向に開離して甲状腺に達する.甲状腺にミューゾー鉗子をかけて下前方に牽引し,甲状腺上極を創外に引き出すようにした上で上甲状腺動静脈を甲状腺上極に分枝した部で結紮切断している(図1).したがつて甲状腺動静脈は過伸展した位置で切断される.もし動脈にかけた鉗子や,結紮系がはずれると,ひつこんだところで出血し,止血は困難である.悪性腫瘍の手術では,皮膚切開も高く,前頸筋も切断し,直視下で上甲状腺動脈の処置を行うので,このような事故は少ない.

内頸静脈から出血が止まらない

著者: 三村孝

ページ範囲:P.747 - P.747

 甲状腺の良性疾患では,内頸静脈にメスが及ぶことは稀であるが,進行癌の手術では内頸静脈から出血をきたすことはそれほど珍らしくない.腫瘍の浸潤が内頸静脈に及んでいたり,転移リンパ節が強固に癒着していて,内頸静脈の合併切除や,壁の一部を切除せざるを得ないことも多い.
 内頸静脈の細い枝をひきちぎり,壁から直接出血する場合は,出血部をペアン鉗子で把み,3号絹糸で結紮すればこと足りる.

甲状腺腫が鎖骨下に入り込んでいる

著者: 三村孝

ページ範囲:P.748 - P.748

 腺腫様甲状腺腫では,腫瘤の一部が鎖骨下で発育し,いわゆる縦隔内甲状腺腫となり,胸部X線写真で上縦隔に腫瘍性陰影を呈することがある(図).
 頸部甲状腺腫と連続性があり,周囲組織との癒着は少ないため,大部分の症例では頸部手術創から切除することが可能である.しかし,ときには腫瘤がぼろぼろとくずれてしまい,頸部に引き出すことができず,くずれた部からの出血も止らず苦労することがある.

食道手術

心嚢を損傷した

著者: 鶴丸昌彦 ,   秋山洋

ページ範囲:P.749 - P.749

 心臓はその大部分を心嚢(心外膜)に包まれており,通常,食道とは気管分岐部直下より横隔膜まで,すなわち,Im,Eiのほぼ全長にわたつて相接している.心嚢と食道との間には疎性結合織が介在しており,正しい層で剥離されれば,まず心嚢を損傷することはないが,たとえ損傷しても,全く恐れるに足りない.癌が心嚢に浸潤している場合,あるいは,近接していて浸潤が疑われる場合は,むしろ積極的に合併切除すべきである.
 心嚢損傷,もしくは合併切除した場合は縫合閉鎖する必要はなく,むしろそのままopenとしておくのがよい.例えば開心術後のドレナージ,あるいは心嚢水の貯留に対して,心嚢と右胸腔との間にwindowを開けて心嚢開窓を行うことがある.心嚢内の貯留液をいつたん右胸腔に誘導してそれを胸腔ドレーンより引いたり,胸膜の再吸収能力を利用したりするためである.

皮下気腫が著しい

著者: 鶴丸昌彦 ,   秋山洋

ページ範囲:P.750 - P.750

 皮下気腫は術中トラブルというより術後トラブルというべきであるが,多少の皮下気腫はめずらしくはない.しかし,帰室後,時間の経過と共に次第に増加する場合は,その原因を追求し,原因をすみやかに除去しなければならない.皮下気腫は胸腔内のairが呼吸や咳嗽,怒嘖運動で開胸創を介して皮下へ押し出されたものである.
 通常,胸部食道癌切除再建術は,右開胸と開腹および頸部と3ヵ所からapproachされ,それぞれは,前および後縦隔を介してつながつていると考えなければならない.すなわち,皮下気腫の原因となるairがこれらのいずれから入つてもよいわけで,1)頸部の吻合部付近にペンローズなどのドレーンを挿入している場合は吸気時に,このドレーンを介してairを吸い込んでいる可能性,2)腹腔にドレーンが挿入されている場合は,ここよりairが吸い込まれ,横隔膜食道裂孔部を通じて(これは通常縫合閉鎖されているはずであるが,閉鎖が不完全であつた場合)胸腔内にairが入るか,あるいは,胸骨後経路で再建した場合はこのルートを通り,頸部より更に縦隔を通つて胸腔内へairが吸引される可能性,3)右胸腔に挿入された胸腔ドレーンを挿入部の皮膚との間よりairが吸引されている可能性,4)胸腔ドレーンのコネクターよりの可能性,5)術中,肺損傷に気ずかずに閉胸し,胸腔ドレーンが十分効いていない可能性,などが皮下気腫の原因として考えられよう(図).

肺を損傷した

著者: 鶴丸昌彦 ,   秋山洋

ページ範囲:P.751 - P.751

 開胸して胸膜の癒着がある場合は,十分な時間をかけて,じつくりと癒着を剥離し,肺を損傷してair leakageをつくらない様,注意すべきである.air leakageがみられた場合は,術後肺合併症につながる可能性があるし,必要があつて陽圧呼吸療法を行いたい場合には大きな障害となる.
 しかし,肺を損傷してしまった場合は,air lea—kageを可及的に減少させる様努力すべきであり,無傷針付きの糸で丁寧に縫合するか,器械を用いた縫合を行う.われわれは最近,無視できない肺よりのair leakageに対して,USS社のAuto—suture TAを用い,取扱いが簡便で,良好な結果を得ているので紹介したい.

乳糜胸を作つてしまつた

著者: 鶴丸昌彦 ,   秋山洋

ページ範囲:P.752 - P.753

 胸管は胸腔内では奇静脈と大動脈の間にあり上行するに従い食道と隣接するようになり,更に上縦隔すなわち,奇静脈付近ないしは第4〜5胸椎付近で左側へ偏位し,左静脈角に注ぐことが多い.食道と胸管は大部分が相接しているため,胸部食道の進行癌では合併切除されることが少なくないし,また,胸管内に腫瘍塞栓が見られることがあるとの理由でルーチンに合併切除する施設もある1)
 胸管を術中損傷した時はその上流(腹腔側)で確実に結紮しておかないと乳糜胸となる.乳糜胸の死亡率は報告者により異なるが10%から50%までで,以前にはかなり高い死亡率であつた.

食道固有動脈根部より出血した

著者: 鶴丸昌彦 ,   秋山洋

ページ範囲:P.754 - P.754

 胸部食道では食道の動脈は気管支動脈の分枝,肋間動脈の分枝および大動脈より直接分枝する食道固有動脈がある.食道固有動脈は3〜7本存在するとの報告もみられるが,通常は上枝,下枝の2本がみられるのみで,3本以上存在することはむしろ少ない1).食道固有動脈は大動脈の前面やや右側より分枝し,上枝は第6〜7胸椎付近,下枝は第6〜7胸椎椎間板のレベルで大動脈より分枝する.この食道固有動脈を根部で損傷すると,あるいは大動脈を損傷すると大出血を起こすことは当然のことである.まず,指で出血をコントロールし,体勢を整えて血管縫合を行わねばならない.出血のコントロールの方法としては図に示すように指あるいはツッペルで圧迫止血する方法,大動脈にpartial clampをかける方法,血管内バルーンを挿入して出血をコントロールする方法がある.

気管膜様部を損傷した

著者: 鶴丸昌彦 ,   秋山洋

ページ範囲:P.755 - P.755

 胸部上部食道から頸部食道にかけて,気管膜様部と食道壁は筋線維のある線維弾性膜であるspatium esophagotrachealeを介して相接しているが,癌の浸潤のない限り,正しい層で剥離すれば気管膜様部を損傷することなく剥離することができる.
 癌浸潤がある場合には,肺靱帯などを切離し,十分に肺を受動し,気管を分節切除端々吻合することも適応を選べば比較的安全に行えるようになつてきた.ただし,その術後管理は切除気管の長さにより,前屈姿勢の維持や気道内圧上昇の回避,気管支鏡吸痰などきめ細かい術後管理が必要である.

胃・十二指腸手術

十二指腸潰瘍切除で断端閉鎖ができない

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.757 - P.757

 十二指腸潰瘍根治手術を計画し,胃切除を行つたが十二指腸断端に瘢痕形成が強く,また炎症性変化のため浮腫がひどい時,また潰瘍の一部が膵前面に残つて断端の変形が著しい時などは断端閉鎖に問題があり,その後の再建方法の選択に迷うことである.この時の解決法としては以下の2法が有効である.

脾臓を損傷した

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.758 - P.758

 胃切除中の脾臓損傷は大網の結紮,切離を上方に向つて行う時,脾の前縁Margo arcusの下の方の突起部が大網の胃脾靭帯Pars gastro-liena—lisと共に過度に牽引され被膜が脾実質の小部分と共に剥離する形が最も多い.大網の処理に熱中する余り,その先の脾との接合部を意識しないと広範囲胃切除の場合にこの損傷は珍らしくない.
 損傷程度の軽い場合は,まず損傷した部分の凝血を静かにとり除き,暫くガーゼで軽く圧迫した後剥離した脾実質をそつと元の位置に戻す.近くの大網に余裕があればその上に乗せ,利用出来ない時はSpongelやOxycelの小片を乗せてからガーゼ数枚を折りたたむ様にして圧迫する.そこは暫くそのままにして別の場所の手術操作を行い,なるべく時間をおいて閉腹前にガーゼを手前から順に丁寧に取り除くと殆んどの症例は止血している.直接創面をガーゼで押さえると,止血後ガーゼをとる時に再び創面剥離,出血が起こるおそれがあるので必ず何か介在物をおくべきである.

十二指腸潰瘍切除でぬいしろがなくB-ⅠかB-Ⅱに迷つた

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.759 - P.759

 十二指腸潰瘍の胃切除を終つてさて十二指腸断端を閉鎖するべきか,B-Ⅰを行うべきか迷う場合がある.いわゆる胃穿孔の様な十二指腸前壁病変の場合は問題にならないが幽門部小彎側や後壁に潰瘍がある場合は瘢痕,癒着で周囲組織の短縮が強く断端処理には適切な判断と精密な縫合技術が要求される.
 前述の如く十二指腸断端にこの様な変化が強い場合はB-Ⅱのために断端閉鎖を強行するのは得策でなく,むしろB-Ⅰを行う様に吻合を工夫する方が安全である.

総胆管を損傷した

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.760 - P.761

 十二指腸潰瘍で幽門輪附近の瘢痕形成が著しく,時には肝・十二指腸靱帯も瘢痕で覆われ局所解剖が判別し難くなることがある.
 こういう場合の幽門部附近の剥離操作は瘢痕組織を如何に扱うかに問題があり,性急な手術手技は副損傷を起こすおそれがあり慎しまねばならない.基本的には正常な場合の局所解剖を,頭の中で瘢痕の下に描きつつ剥離をすすめれば普通は総胆管損傷は未然に防げる筈である.この瘢痕の下には解剖学的にこの組織があるという意識をもつかもたないかによつて副損傷発生の確率はかなり違つたものとなると考えられる.

固有肝動脈を誤つて切つてしまつた

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.762 - P.762

 十二指腸潰瘍の瘢痕がつよく幽門附近から肝十二指腸靱帯にかけて正常の組織構造が失われ瘢痕で覆われていると,右胃動脈の切離に際して固有肝動脈を損傷するおそれがある.しかし,この場合も前項の総胆管損傷と同じく瘢痕の下に正常の局所解剖を脳裡に描きつつ剥離操作を行えば普通は固有肝動脈損傷はあり得ないことである.
 万が一損傷した場合は次の処置を行う.

郭清ができるとおもいブルゼクトミーを始めたら腹腔動脈幹が腫瘍でうまり,処置が困難

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.763 - P.763

 的確な判断は手術にとつて重要な条件の1つである.開腹時いきなりブルゼクトミーにとりかかる事なく,壁側腹膜,ダグラス窩など観察の上,また血管の処理が可能か否か充分検討をするのが当然である.ブルゼクトミーも大網の脂肪,血管の少ない病変部より出来るだけ離れた部位に電気メスにて切開を加えブルザの中より,胃後壁,膵上縁,膵尾部附近を観察し左胃動脈,腹腔動脈の処理が可能か否かをまず判断すべきである.この際腹壁,腹腔内の腫瘍細胞による汚染をさけるため極力無駄な操作はしない様にする.切除不能な場合は大網をほぼ横行結腸にそつた位置に復元し,マイトマイシン20mgを腹腔内投与する.又1,000〜2,000 mlの生食水で腹腔内を洗浄しておくのも良い.

開腹したらS3の膵臓で門脈浸潤があつた

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.764 - P.764

 このケースはStageⅣの進行癌と老えるべきで可能であれば血管再建を伴う合併切除を行う.しかしかかる症例に対しての術式の選択は慎重を要し特にpoor risk,高齢者に対しては十分検討されねばならない.
 黄疸に対しての処置:かかるケースでは当然黄疸を伴つている事が多いのでこれに対する処置が必要となる.総胆管上部に健常部があれば,十二指腸総胆管吻合,あるいは空腸総胆管吻合を行う.胆嚢を利用した内胆汁瘻は黄疸の軽減と言う点では余り期待出来ない.これらも不能ならば外胆汁瘻を設置する.通過障害に対しては,Antrum,corpusに空腸吻合が出来ればこれを行う.この際我々は病変部を噴置する方法をとつている.即ち胃の健常部にペッツをかけまず切断する.An—trumの断端を縫合し小彎側に,ネラトン10号〜15号を用いWitzelの胃瘻を造設し腹壁外に固定する.口側の胃はブラウン吻合結腸前胃空腸吻合を行う.この方法の利点は通過障害等がなくなるため食事の摂取が可能となり,又病変部は胃内容などにより刺戟を減少せしめ得る.Witzelのチューブより5FUエマルジオンなど制癌剤を局所に注入している.

亜全摘で支配血管を切り胃がチアノーゼを起こした

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.765 - P.765

 胃に行つている動脈は,左胃動脈,左胃大網動脈,右胃動脈,右胃大網動脈,短胃動脈の5本でこれらは腹腔動脈系の血管であるが,時に大動脈よりの下横隔膜動脈の分枝が噴門部に分布する事もあり,また食道の動脈と噴門部で粘膜下での吻合があると言われ,噴門の一部はこの血流を受ける事が出来る.これらの動脈は粘膜下で相互に吻合し血管網を形成するため,胃は血液灌流の最も良い臓器の一つである.
 胃亜全摘に際しての血流への考慮は腸管にくらべそれ程神経質にならなくてもよい.短胃動脈,左胃大網動脈の分枝の1本あるいは下横隔膜下動脈の分枝があれば残胃の血流は保たれる.かつて我我は肉眼的に残胃に流入する血管が認められぬ状況で胃十二指腸吻合を行い術後も何ら異常を認めぬケースで経験しているがすべての症例で安全とは言えず,残胃の大きさなど考慮すべきである.

胃全摘で食道がひつこんでしまつた 食道が縦に裂けてしまつた

著者: 前田昭二 ,   湯浅鐐介

ページ範囲:P.766 - P.767

 「良い手術をするためには良い手術野を作ること」が必要条件である事はいまさら言うまでもない事であるが,胃手術とて例外でなく手術範囲が食道にまで達する場合,手術野の良し悪しが手術そのものに多くの影響を及ぼす.手術創を数センチ追加することにより手術がより容易に進展する事は誰しもよく経験する事である.
 胃悪性腫瘍,噴門部病変では上腹部正中切開を最大限にする必要がある.すなわち皮切を胸骨下端を越え上部まで加え,筋膜は縦隔を開かない範囲で十分切開し場合により剣状突起を切除する.開創器を適確にかける事により噴門部,食道下端の処理はよりやり易くなるはずである.

迷走神経切離術

迷切により食道穿孔をおこした

著者: 大久保高明

ページ範囲:P.769 - P.770

 迷走神経切離に際しては,よく解剖を理解した上で,ていねいに細い神経枝を,小さい組織とともに,結紮切離されることが原則であり,大きい集束結紮は避けねばならない.また,十分な視野と,めんみつな操作を必要とすることはいうまでもない.
 脱神経を厳密にするために,食道筋層内に埋もれている主幹や,分枝,を粗暴にあつかうと,食道の穿孔,噴門部胃壁を穿孔することが時にある.術中に同部の迷切をおこなう際に,食道内に押入してある胃管を食道壁をへだてて触れることにより,食道壁とくに粘膜層の厚さを念頭におきつつ,注意深く食道周囲を剥離,指を挿入し,直接視野の下にて切離すれば,その危険は少ない.

迷切術中の出血をどうするか

著者: 大久保高明

ページ範囲:P.771 - P.772

食道・胃壁よりの出血
 迷切術中の胃壁の牽引,過伸展,および不注意,粗野な手術操作により,胃小彎側,左胃動脈領域の迷走神経枝結紮切断端に出血をみることがしばしばある.
 全幹迷切における傍食道領域,胃前壁よりの出血は発見容易であり,問題となることはすくない.S.P.V.(selective proximal vagotomy) S.V.(selective gastric vagotomy)では,胃小彎をこまかく,数多く,切離していくので,小彎胃壁よりの出血の頻度は多い.殊にS.P.V.術式では,完全迷切を期せねばならぬため,食道周囲を十分剥離,迷切をするので,同部が,食道裂口を通じ,術後横隔膜上につりあがり術中出血をみのがし,術後の後出血の原因となりうるので,術中に完全な止血が必要である.

〈付〉不完全迷切を避けるために

著者: 大久保高明

ページ範囲:P.773 - P.775

 全幹迷切(total truncal vagotomy T.V),選択的胃迷切(selective gastric vagotomy S.V.),選択的近位迷切(selectvie proximal vagotomy S.P,V.)いずれの術式を行うにせよ,迷走神経の解剖を熟知の上,迷切術を施行し,不完全迷切を避けねばならない.再開腹例や,極度の肥満症例では,特に確認困難な場合があるので注意を要する.不完全迷切を避けるため各術式を簡単にのべ,注意すべき点を列挙したい.

小腸・大腸手術

アンギオ上,小腸の出血が確認された 開腹時出血点を如何に見つけるか

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.777 - P.777

 出血源がわからずに開腹しなければならないことは,外科医が少なからず経験することである.術前の血管造影で,出血源が小腸と判明しているときは,かなり恵まれているといえよう.しかしそれでも開腹して,出血源が,視診や触診上はつきりしないことはあり得るし,そのときはかなり当惑する.小腸からの出血で知られる疾患としては,メッケル憩室,腺癌,悪性リンパ腫,平滑筋腫,クローン病,そしてまれに血管腫や動静脈瘻などがあるが,たいていのものは,触診や視診でその所在が判明する.判明しにくい場合があり得るものとしては,小さな平滑筋腫,動静脈瘻,血管腫などになろうか.
 このようなときに最も大切なことは,血管造影上でみられた出血部位が,小腸の一体どの辺にあたるかを,フィルムの上で詳細に判読することである.術前におおよその見当をつけておくのはもとより,開腹してからも,実際の血管の走行を確かめながら,血管造影所見と対比しながら判読し,おおよその範囲を作図して,その辺に腸の縦切開を加え,中を調べてみる.その際さらに口側と肛門側を大腸ファイバースコープを使つて調べてもよいだろう,最終的にはつきりしなければ,血管造影像と対比して,さらに部位を検討し,その辺を中心に30〜40cm位切除することも仕方あるまい.切除した腸管は,吻合する前に,直ちに開いて出血源を確かめ,見つからぬときはさらに切除範囲を延長しなければなるまい.

直立動脈の拍動がわかりにくい,吻合部をどこに選ぶか

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.778 - P.778

 血圧が術中低下しているために拍動がわかりにくいこともあろうし,血流が側副路を遠く迂回してくるために,血流があつても拍動がわかりにくい場合もあろう.あたたかい食塩水に浸して軽くしぼつたガーゼを腸管部にしばらくあてていると拍動がみえてきたり腸管壁の色がよくなつてきたりして判断しやすくなることがある.
 私が最も依存するのは,腸管の色で,健常部腸管と変らぬピンク色をしていれば,まず吻合部に選んで失敗することはない,長い間の血行遮断に対しては,漿膜側の方が粘膜側より抵抗が強いといわれ,私の経験でも,絞扼性イレウスの手術などで,絞扼を解いた後など,何となく他より色が悪いと思われる腸管でも漿膜の血管だけ赤く見えることがある.このようなときこの腸管を残すと,腸管壁は辛うじて生き残つても粘膜側が壊死脱落してしまうことがあるのではなかろうか.私の方針としては,色が悪く疑わしい場合には,どちらかというと思い切つて切除することにしている.

口径が合わない腸管同士の吻合は

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.779 - P.779

 腸管吻合は,端側でも側側でも,盲端を最少限にして,ほとんどつくらぬ位にすれば,一向支障はないのだろうが,やはりできるなら端々吻合にした方が,盲管症候群を起こすおそれもなく,最も生理的で理想的だと考えている.そして著者の経験では,口径がかなりくい違つていても,端々吻合が不可能であつたということがない.
 その方法は,腸内容を遮断するための腸鉗子をかけるだけで,吻合部は所謂open techniqueを用いる.吻合部の腸管の両側の断端で,まず腸間膜附着部と反対側に,3-0クローミックカットグートで,全層の結節縫合糸を通し(図1),次に腸間膜附着部側に同様の糸をかけて結び,それぞれ両側の糸を支持糸として把持する.これによつて口径の小さい方の腸管壁は伸展し,形の上では,とにかく両方共同じ長さにして合わせることができる(図2).その上で,自分の選択する腸管吻合法を行えばよい.

マイルズ手術で尿管(道)を損傷した

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.780 - P.781

 マイルズ手術で尿管を誤まつて損傷する場合は,その損傷を術中気が付く場合と,気が付かず,術後に会陰創から流出したり,後腹膜に尿の貯溜を起こしてから知る場合がある.また両側共に結紮または損傷すれば無尿となり,導尿しても尿が出ないか,出ても幾分しか出ないなどということになる.
 本稿では術中にわかつた場合に限つて述べる.術中の尿管損傷がすぐわかつた場合には直ちにその対応策を講ずることができる.マイルズの手術の際は,当然尿管は腸管を剥離する前に,分離露出して,細いネラトンカテーテルをかけ,周囲血管を含めて愛護的に扱い,その走行を確かめながら手術をすすめることいまさらいうまでもない.直腸の骨盤内剥離の際,浸潤や癒着などが強いと,尿管が膀胱に入る直前あたりで損傷しやすいが,注意さえしておれば,減多に起こるものではない.尿管損傷は,誤まつて鉤で引張りすぎることもあるというし,結紮することもあるし,誤まつて止血鉗子で圧挫損傷するとか,ボビーで誤まつて焼灼することも起こり得る.

マイルズ手術の際,仙骨の先端に静脈叢があり,出血がとまらない

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.782 - P.782

 マイルズの手術で,中仙骨静脈から出血を起こすと止りにくくて厄介なことは,経験ある外科医なら誰もが知つている.しかし経験を積むと,これを起こさぬような剥離ができるようになる.仙骨前で直腸を剥離する過程で,仙骨前面でこの静脈叢を覆うWaldeyerの筋膜を剥すと,その直下に露出された壁の薄い静脈は,損傷されやすく,また一旦,損傷されると,漏出性の出血が起こり,種々の手段を講じてもなかなか止らなくなることがある.中仙骨静脈でも根幹部の方が止血しにくく,末梢側,つまり仙骨先端部に近い方では,電気凝固か,圧迫でたいてい止血する.圧迫で止血しないときには,細い(4-0,5-0,)血管縫合糸を使い,小さな針で出血部をすくうように拾つて,ていねいに結紮する.外科縫合でそつと結ぶ.これでもなかなか止らず,何度かやつてみても失敗して,困惑の極に達したら,骨盤腔内をガーゼでタンポンして圧迫止血させ,そのまま手術を終え,感染症状が出ぬ限りは,数日から1週位たつてから会陰部から,ガーゼタンポンを一枚一枚ていねいに取り除くとよい.たいていはこれで止つている筈である.術中に内腸骨動脈を結紮した上で圧迫止血をはかると止血しやすいといわれるが,筆者にその経験はない.

マイルズ手術で前立腺を傷つけた

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.783 - P.783

 直腸前面の剥離は,直腸膀胱窩または直腸子宮窩の腹膜を切開し,それぞれの臓器の間膜をつくる線維性の筋膜状組織を分けて入る.Denonvilli—ers’fasciaの前後の間に入るのだが,実際上そう明瞭なものではない.この前葉を剥離すると,前立腺の薄い被膜を傷つけやすい.この層さえ誤まなければ,腹腔側の操作で前立腺からの出血に悩まされることはまずない.またこの部分の剥離は,鈍的に行えない部分は,直視下の剥離は無理なので,会陰部から行うことが多くなる.
 会陰部からの操作では,前立腺後下面,腟後壁との間の剥離は鋭的にしかできないため,その辺の静脈叢や前立腺実質からの出血を来して,なかなか止血できず困惑することがある.前立腺実質から出血させると,焼灼しても,縫合結紮しても止めにくいことは確かだが,根気よくていねいにこれを繰り返すと必ず止血する.もしどうしても止らなければ会陰創を開放創にしてタンポンでもする他あるまいが,そこまで必要とした症例を筆者は経験したことがない.

癌とイレウスが合併していた

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.784 - P.785

〔1〕肝臓転移のある場合
 原発性腸癌にイレウスが合併している場合そこに肝転移があろうとなかろうと,またイレウスの原因が癌そのものによろうとよるまいと,イレウス解除の手術が必要なのは当然だろう.ただし明瞭な癌性腹膜炎があつて,閉塞部位が多発性にあると考えられる場合は別で,末期癌として手をつけぬが普通である.
 この際の癌が小腸の場合は,切除して端々吻合すればよい.リンパ節の郭清には本質的な意味はなくなる.

広範囲に漿膜剥離があつたときの処置

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.786 - P.786

 開腹後早いときは2〜3時間以内に,腸管漿膜の表面に薄いフィブリンの膜ができてくることがある.このフィブリン膜は,術後の経過と共に,あるものは吸収されて消失し,あるものは残つて,やがては毛細血管が入り込み,線維性の癒着として完成する.このフィブリン膜がどういうときに吸収され,どういうときに器質化して残るかという疑問について,種々の考え方が発表されてきたが,古くから有力な説として通用してきたのは,腹膜上皮の有無や損傷に左右されるという説である.つまり手術その他で腹膜部に欠損ができると,その部分は癒着として残り,漿膜が正常な所では,フィブリン膜は吸収されて癒着は生じないというのである.今日でもこの考え方は広く信ぜられており,手術時に漿膜剥離があれば,できるだけていねいに縫合して,欠損部を漿膜で覆うことが癒着防止のため重要とされてきた.
 しかし腹膜の欠損が果して癒着の原因となるかどうかについては,従来からかなりの疑問が挙げられている.臨床でも,動物実験でも認められる現象だが,広範な腹膜欠損部でも,術後ある期間たつて再開復すると,その腹膜欠損部が,きれいに再生漿膜で覆われて,癒着を残さず,かえつて欠損部を縫合したりするとその糸の部分に癒着をみる方がむしろ多いなどということがある.

腸壁のヘマトームをどうするか

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.787 - P.787

 腸壁のヘマトームが術中に起こるというと,たいていは,吻合しているときに起こるものだろう.針を通した所から生ずるヘマトームは糸を結んだだけ,またはそこを暫く圧迫しておればひどく大きくなることはない.あまり腸壁内血腫が大きくなるときは,漿膜側から小さな切開を加えて減圧し,それ以上血腫が大きくならぬよう工夫することもある.しかし,血腫自体で腸壁の組織が壊死の危険にさらされることはないので,筆者は余り意に介さないことにしている.そのために術後合併症を来したと思われるような症例も経験していない.

肝臓手術

肝動脈を結紮してしまつた

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.789 - P.790

 この場合の肝動脈とは,肝固有動脈,またはそれに相当するレベルの動脈をいうこととする.結論的には肝動脈を結紮しても,門脈血流が確保されている限り,多くの場合致命的でない.しかし動脈血流もあるにこしたことはなく,できるだけ血流回復に努めるべきである.肝動脈結紮なり,切断なりに対処する方法は次の3段階に分れる.
 ①:肝固有動脈そのものの,血流を回復させること.

肝静脈からの出血

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.791 - P.792

 肝切除の肝離断時出血は,肝動脈・門脈の輸入血管と,輸出血管である肝静脈からの出血がある.肝動脈・門脈は肝門部など中枢側で血流遮断が容易であり,また肝離断面での出血点がよく見えるので,止血処置が容易である.これに対し肝静脈は,グリソン鞘のようなしつかりした支持組織がないので,肝離断面から肝静脈の切断端が引込んでしまい,出血点の確認がむずかしい.出血の様態も圧は低いが,流量は多く,対応を誤ると出血量は多量になる.
 肝静脈からの出血を少なくするためには,まず操作を加える肝葉をよく授動しておき,術者か第一助手かが,いつでも肝静脈と下大静脈の合流部を用指的に圧迫できる態勢をととのえておく.次に肝離断は肝静脈沿いに行い,肝静脈の側壁がいつも良い視野の中で走行を確認しつつ操作をすれば,大きく損傷することはなく,たとえ損傷が生じても亀裂部の中枢・末梢側を用指圧迫し,ゆつくりと正しく血管縫合糸で修復することができる.肝離断中の出血を節約するには,肝門部で肝固有動脈や門脈右枝を遮断し,かつ右肝静脈も遮断しておくのが有効である.右肝静脈だけのtap—ingで肝動脈・門脈を開けておくと欝血が生じ,かえつて出血が多くなる.

門脈を誤つて切断した

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.793 - P.793

 門脈のどのレベルで切断したかによつて,事の重大性も,処置の方法も異なる.
 (a)門脈本幹の切断及びこれに相当する全門脈血が遮断された(例えば右葉切除時,門脈右枝切断後に,温存すべき左枝を切断してしまつた場合など)場合.

胆摘時胆嚢粘膜が肝臓壁に付着して取れない

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.794 - P.794

 急性炎症が消槌していない胆嚢は,炎症が肝床の結合組織や,肝実質にも波及していることがあり,肝床部の胆嚢が剥がれないことがある.この場合の攻め方は2つあり,一つは肝実質の健全な部を胆嚢に付けて,肝離断の形で,摘出する方法で,これだと胆嚢を破裂させることなくとれ,準清潔手術を遂行することができる.もう一つの方法は,胆嚢壁を破り,内容を出してから,肝床付着部の粘膜は肝側に一旦残して切除し,その後肝床に残つた胆嚢粘膜をけずりとる.

門脈結紮糸がはずれた

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.795 - P.796

 設問の意味は例えば右葉切除なら門脈右枝と本幹との分岐部の切断後,本幹側の結紮糸がはずれ,門脈本幹からの大出血などを想定したものと思う,門脈本幹の完全遮断の許容時間は30分と考えてよい.この30分間に門脈本幹を修復すればよい.
 とりあえずの止血は用指的に行う.ペアン鉗子などの強いものでの止血は門脈壁を損傷する.こうして出血を防いでおいて,サテンスキー鉗子又はブルドッグ鉗子を用意する.中枢・末梢側に鉗子をかけ,門脈壁の修復にかかる.血管縫合糸の4-0程度の細いものを用い,連続縫合又は結節縫合をくりかえす.連続縫合の場合は,縫合部の長さが短縮しない程度の強さで締める.一端から他端までの一回の連続縫合が終わつたら鉗子をはずし,血流を再開する,血液の漏れがあつたら,その部を修復しながら連続縫合を折り返す.

右の副腎静脈を損傷した

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.797 - P.798

 右副腎は下大静脈の右側壁に接している.肝切除で肝右葉を授動するときや,さらに進んで短肝静脈切断の際に,術野に入つてくる.肝右葉と右副腎・下大静脈の関係は,図のように,肝切除の観点からは2つに分けられる.Aに示したように,右副腎と肝とが癒合していない場合(筆者の印象では約7割程度)は,副腎に触れる必要はなく,なんら問題はない.しかしBのように肝と癒合している症例では,肝から副腎を遊離させなければならない.副腎静脈は副腎上極から短い距離をもつて下大静脈に吻合している.肝と副腎との剥離の際この副腎静脈を損傷したり,結紮・切断せざるを得ないことがしばしばある.
 右副腎の脈管は,動脈は腎動脈系と下横隔膜動脈系との2大系統があり,その他にも系統不明の細小動脈が,副腎周囲から多数入り込んでいる.これに反し多くの外科手術書には右副腎の輸出静脈は,一本の比較的太い「副腎静脈」のみの記載がない.しかし解剖学の成書(人体局所解剖図譜,西成甫監修,金原出版)には,V. suprarenalis superior(これが通常「副腎静脈」と呼ばれている)の他に,V. suprarenalis inferiorという,右副腎下極から右腎静脈方へ向かう静脈が示されている.

Short hepatic veinをひつこ抜いた

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.799 - P.799

 短肝静脈(Short hepatic vein,SHV)とは,右肝静脈・中肝静脈・左肝静脈などの主要肝静脈の下大静脈合流部より尾側の肝部下大静脈へ,肝右葉後区域及び尾状葉から,短い首(通常5mm以下)しか持たずに流入する肝静脈で,多くの場合7〜8本見掛けられる.主要肝静脈が先天的に細かったり,癌などの病変に圧迫されて閉塞している時には,代償的に太くなつていることもあるが,多くは径3mm以下と細い.しかしこれが引きちぎられると,下大静脈から直接出血し,概して視野が悪く止血に難渋しかねない.あわててペアン鉗子などで直接下大静脈壁をつまむようなことはしてはならない.低圧系の出血であるのでとりあえずは,指で小孔をふさげば止血できる.その間にオキシセル綿や,スポンゼルなどを用意し,これらを使つて圧迫止血する.下大静脈管腔をつぶさない程度の柔らかい圧力がよい.肝側からもかなり逆流・出血するのでこちらも圧迫するか,可能ならば出血点を中心におおきめのZ縫合をかける.こうして一時的に出血をコントロールしておいて,本格的修復の段取りをする.まず術野の改善を試みる.皮膚切開を延長・拡大する.損傷したSHVに隣接する数本のSHVを確実に切断・処理し,裸地域の剥離・右副腎の剥離を併せて行い,肝右葉の可動性を大きくする.またこの間に各種血管鉗子,血管縫合糸など修復作業に必要な用具を揃える.

肝門で肝内胆管と空腸が吻合できない

著者: 山崎晋

ページ範囲:P.800 - P.802

 設問の意味する状況は肝門部癌で胆管を切除したとき,胆管の切断端が肝実質ギリギリのところになつたり,肝内へ引込んでしまつて,「縫いしろ」がなくなってしまつた場合を想定していると思われる.この場合は肝切除を加えれば容易に解決する.左葉の内側区域を正確に系統的に切除すれば,右葉では4個の亜区域枝(S8:右前下区,S6右後下区,S7右後上区,S8右前上区)が束になつて右葉断面に露出するし,左葉ではS2上外側区とS3下外側区の亜区域枝が見える.即ち正確な内側区域(S4)切除により,肝内胆管の3次分枝と空腸との吻合が可能である.一次分枝との吻合なら肝切除は不要で,2次分枝との吻合なら内側区域(S4)の部分切除のみで吻合ができる.「肝内胆管」の正確な定義はなく,外科手術の際肝門部で「肝外」と認識できる部位より遠位側をこう呼んでいるらしい.しかし実際に胆管の全周が肝実質に囲まれている部位は,3次分岐以遠である.肝門部では1次・2次分岐は厚い結合組織に被われ,また肝実質の背側に潜り込み,かつ尾状葉と右葉後区域の接合部の腹側を走るので,手術の際認識しにくく,いかにも肝内に入つているように見える.しかし肝実質を実際に割つてみれば明らかになるが,全周を肝実質に囲まれる,文字通りの「肝内」を走行するのは,右葉では,中肝静脈と交叉した(中肝静脈が腹側で,胆管を含むグリソン系3脈管が背側を通る)直後からである.

胆・膵手術

胆道造影で石があるがとれない

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.803 - P.803

 胆石の所在部位,つまり,胆石が胆管切開口より十二指腸側にある場合と肝内胆管の場合で対処する方法は異なる.
 胆石が十二指腸側にある場合には1)胆石匙を用いる,2)胆道鏡による切石,3)経十二指腸的総胆管切石術がある.いずれの場合も,十二指腸と膵頭部を後腹膜腔より十分に授動しておくことが肝要である.まず,膵頭部を左手ではさむようにし,胆石匙を胆石の後面に誘導し,胆石をすくうようにとり出す.この方法で胆石を除去できない時は胆道鏡を用いる.胆道鏡による切石に際しては,われわれは第一にバルーン付カテーテルを用いている.バルーン付カテーテルを胆道鏡下に胆石を越えて挿入した後,バルーンをふくらまし,胆道鏡で観察しながらバルーンとともに胆石を除去する.乳頭膨大部に胆石が嵌頓し,前述の方法が不可能な時は経十二指腸的切石術を行つた方が安全である.胆管切開口よりの切石に固執し,膵頭部に暴力的操作を加えると重篤な術後膵炎の発症をみることがある.

総胆管を損傷した

著者: 松代隆 ,   山本協二

ページ範囲:P.804 - P.805

 総胆管損傷は胆嚢摘出時に発生することが最も多い.とくに胆嚢頸部より三管合流部にかけて炎症や癒着が強い場合に発生する.このような場合には胆嚢頸部から胆嚢管の処理に先がけて総胆管および総肝管の走行をまず明らかにした方が安全である.すなわち,肝十二指腸靱帯の漿膜を三管合流部付近で2〜3cm縦に切開する.ツッペル(われわれは通常ガーゼを丸めた小片をつくり,これを鉗子の先にはさんでツッペルと呼んでいる)で肝十二指腸靱帯を分けていくと簡単に総胆管を露出できる.この方法により三管合流部付近の胆管の走行を完全に視野にとらえた後に胆嚢管の剥離にうつる.三管合流部付近から肝十二指腸靭帯まで瘢痕性に癒着しており前述の操作が困難な時は胆嚢を頸部まで切開し,ゾンデで胆嚢管の走行,できれば総胆管の走行まで確認してから胆嚢管の剥離にうつる.
 手術中に胆管損傷に気付いて直ちに修復手術を行えば,その手術手技は容易であるばかりでなく,後遺症を残すこともない.胆管壁の損傷創が比較的小さい場合には単に1〜2針4-0 Dexon糸で縫合してもよいが,創を縦方向に切開し,T字管を挿入した方が安全である(図a).損傷創が大きい時は辺縁をととのえた後に横に縫合する.この際T字管は縫合部から少し離れた部位から挿入する(図b).

総胆管の損傷で長さ不足で端々吻合ができがたい

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.806 - P.807

 総胆管の偶発的損傷は胆嚢摘出時に発生することが多い.しかし,設問のような損傷は三管合流部の処理をよほど盲目的に行わないかぎり発生しないと思われる.いずれにしろ,できるだけ総胆管の端々吻合を行うよう努力すべきである.このために,十二指腸および膵頭部を広く後腹膜腔より授動する.この操作で総胆管がもち上がり,端端吻合ができることが多い.著者には設問のような経験がないので,ここでは交通外傷後7日目に胆汁性腹膜炎の診断で開腹した総胆管完全離断の症例の端々吻合に成功した術式を紹介する.
 20歳の男性である.受傷後7日目に汎発性腹膜炎の診断で当院に転送された.直ちに開腹し,腹腔内に充満した胆汁様腹水約3,000 mlを吸引した.総胆管は確認できなかつた.萎縮した胆嚢に生食水を注入し,三管合流部より約3cm十二指腸側で総胆管が完全に離断されていることを確認した.しかし,十二指腸側断端は確認できなかつた.そこで,十二指腸および膵を後腹膜腔より授動した後,十二指腸を切開し,Vater乳頭より逆行性に5号ネラトンを挿入し断端を確認した.総胆管は両断端をも5号ネラトンがかろうじて通る太さであつた.両断端を新鮮創とした後,乳頭前壁に約1cmの乳頭切開を加え,外径4mmの栄養チューブをVater乳頭より挿入してスプリントとし,両断端をDexon糸で4針単に引きよせるように固定した(図1).

SMA,SMVを誤つて損傷した

著者: 松代隆 ,   今岡洋一

ページ範囲:P.808 - P.808

 SMA,SMVは膵頭部後側を並走している.したがって膵頭十二指腸切除術などに際してはこれらの血管さらには門脈から,膵頭部を剥離しなければならない.
 膵頭十二指腸切除術に際しては膵頭部を切離後にこれを右下方に牽引すると門脈本幹に注ぐ上膵十二指腸静脈がみえてくる.これを二重結紮のもとに切離する.ついで,小さな鉤でSMVを軽く左方に圧排しながら,ツッペルで膵を右方に圧排するようにして順次下方に膵静脈を切離していく.膵静脈は通常3〜4本である.最後に鉤状突起の下縁近くで下膵十二指腸静脈がSMVに注ぐので,これを二重に結紮切離する.この操作は膵頭十二指腸切除術で最も煩雑で慎重に行わねばならない部分である.

胆嚢動脈を切つて断端が奥にはいつてしまつた

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.809 - P.809

 胆嚢管より始める胆?摘出術は最初に胆嚢管,胆嚢動脈を処理するのでその後の操作を出血をみないできれいにすすめうる.しかし,三管合流部が深部にあり,胆嚢が腫大している場合や癒着の強い時は最初からこの部に手術操作を加えることは副損傷の危険が大きい.そのような場合は胆嚢底部より胆嚢の剥離を進めると,胆嚢動脈や胆嚢管の種々の異常などを確認でき,これらを損傷する危険がきわめて少ない.また,胆嚢動脈切離に先立ち肝十二指腸靱帯の漿膜を開きこれを胆嚢の漿膜切離縁と連絡させ,総胆管ならびに三管合流部をツッペルで剥離すると多くの場合胆嚢動脈が遊離される.胆嚢動脈は胆嚢に接して切離するよう心がけるべきである.胆嚢動脈は胆嚢頸部の左側にある前哨リンパ節(Sentinel gland)の直下を通ることが多いので,これを指標として操作をすすめてもよい.
 胆嚢動脈を損傷すると,手術野がせまく,しかも深部のため止血が困難なことが多い.このような場合,止血鉗子を用いて盲目的に止血を試みることは絶対に行つてはならない.肝動脈をも損傷して大事に至ることがあるからである,まず,図のように左示指と中指をウィンスロー孔に入れ,母指との間で肝十二指腸靱帯の中を走る固有肝動脈を圧迫する.固有肝動脈は総胆管の左側を走るので,この部を中心に指ではさみつけると出血は制御される.

下大静脈を損傷した

著者: 松代隆 ,   今岡洋一

ページ範囲:P.810 - P.810

 胆道や膵臓の手術で下大静脈の損傷を生じるのは膵頭部癌などの浸潤がすでに下大静脈に浸潤している場合やリンパ節の郭清時であろう.Kocher授動術では十二指腸および膵頭部は指で簡単に剥離できるので,この操作を愛護的に行えば下大静脈損傷の危険はない.
 損傷に対する処置としてはまず出血部位を指で圧迫した後,食塩水ガーゼで数分間圧迫しておく.この操作で下大静脈損傷による出血以外は止血されるので他の部位からの出血と鑑別できる.下大静脈からの出血であれば血管縫合を行わねばならない.小さい損傷であれば,損傷部位を指で押えながら縫合してもよい.これが不可能と思われる時は血行遮断を行つた後に縫合する.このような場合,損傷部位が比較的小さい時はSatinsky鉗子によるpartial clampingで血管縫合を行う.しかし,損傷部位が大きい時は最初からtotal clampingを行つた方がよい.まず損傷部位よりはなれて,その上下をテープが通るよう全周を剥離し,テープを通す.このテープに2〜3cmに切つたネラトンカテーテルを通し,これを用いてTotal clampingを行う.いずれの場合も血管縫合は連続縫合を5-0ないし6-0のatraumatic needle付きの合成線維縫合糸を用いる.

ダイレーターで膵内胆管を損傷した

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.811 - P.811

 このような偶発損傷をさけるために,総胆管切開に先立つて,十二指腸後部を膵頭部を含めて後腹膜腔より広く剰離しておくことが肝要である.ダイレーター挿入に際しては可動化した十二指腸後部に左示指および中指を挿入し,総胆管末端部を母指との間にはさむようにしてゆつくり挿入する.この操作を愛護的に行えば,通常は膵内胆管の損傷はさけ得ると考えられる.
 膵内胆管の損傷の場合は胆管の損傷部位を縫合すべきである.何故ならば,このような場合には胆汁と膵液が同時に後腹膜腔に流出するので,ドレナージが完全に行われない時は重篤な急性膵炎様症状が発生することが予想される.このような症例では胆管の拡張を伴つているので胆管の縫合はそれほど困難ではないと考えられる.その手技は最近はほとんど用いられないが,膵後部総胆管切開術(Retropancreatic choledochotomy)に準じて行えばよい.すなわち,すでに述べたように十二指腸後部および膵頭部を十分に後腹膜腔より剥離する.ついで総胆管切開によりできるだけ太いネラトン管を十二指腸乳頭付近まで挿入した後,膵頭部をもち上げその後面を露出させ損傷部位を確認する(図).損傷部膵を胆管より鈍的に剥離し,胆管損傷部に達する.この際血管はそのつど結紮切離し,膵よりの出血は完全に止血する.膵表面から胆管までの距離はほとんどない.

膵内胆管の末端にゾンデで石様のものをふれる.確認の方法は

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.812 - P.812

 総胆管切開を行う場合には,これに先立ち十二指腸と膵頭部を後腹膜腔より授動し,この部に玉つきガーゼを置き,出血を制御した後に切開を行う方がその後の操作に便利なことが多い.
 まず,総胆管にゾンデを挿入する前に左中指,示指と母指の間で膵頭部をはさむようにし,ゾンデの先を膵頭部後面より左中指と示指で確かめながらゾンデを挿入していく(図).ゾンデの先に石様のものをふれる時は膵後面よりこれをふれることができる.多くの場合は指の感触で胆石か否かを鑑別できる.胆石と思われた時は指で肝側に押し出すようにすると総胆管切開口まで動いてくることが多い.総胆管が拡張している時は示指を総胆管に挿入して確認することができる.なお,胆石が乳頭膨大部に嵌頓しており,このような操作で動かない時は経十二指腸的切石術を行つた方が安全である.膵頭部に暴力的操作を加えると重篤な術後膵炎を併発することがある.

ミリッジで右肝管を傷つけた

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.813 - P.813

 右肝管損傷による合併症として発生する可能性のあるのは胆汁性腹膜炎と出血である.したがつて,これらに対する対策が必要となるが,合併症の発生は損傷部位により異なる.すなわち,肝外に位置する右肝管の損傷であれば胆汁性腹膜炎は必発の合併症であるし,肝内胆管の損傷はミリッジが肝臓を貫通しないかぎり腹膜炎は発生せず,出血に対する対策を考えればよい.
 肝外に位置する右肝管を損傷した時は損傷部を縫合しなければならない.漿膜側より4-0 Dexon糸(針つき)で結節縫合を行う.術後の胆管狭窄を防ぐため横に縫合した方がよい.その後総胆管切開部から右肝管の損傷部をこえて,その太さに見合うT字管を挿入する.T字管は一側を切り落してL字形とし,右肝管の縫合部を越えて1cmの長さになるように調節してから,そのままの形でスプリントとして挿入する(図).その後T字管よりの術中造影を行い,大きな胆汁の漏出のないことを確認しておいた方が安全である.必ずウインスロー孔にドレナージをおき,術後の胆汁漏出に備える.術後ドレーンより胆汁の漏出を認める時はT字管を5cmH2Oの低圧で持続吸引すると胆汁漏出は数日でみられなくなる.T字管は最低一カ月は入れておいた方がよい.

炎症が強くて胆嚢管の処理が困難

著者: 松代隆 ,   山本協二

ページ範囲:P.814 - P.815

 急性胆嚢炎を合併した時の早期手術の場合には胆嚢全体が三管合流部まで炎症性,浮腫性に肥厚しており,胆嚢管の走行が確認できないことが多い.急性炎症期には胆嚢および肝十二指腸靱帯の漿膜を切開すると中はそれ程瘢痕性変化はなく,ッッペルで比較的容易に総胆管や胆嚢管の走行を確認できる場合が多い.胆嚢炎を合併した症例の胆嚢摘出術は底部より行つた方が安全である.胆嚢床より胆嚢体部を剥離した後は胆嚢漿膜の切開を肝十二指腸靭帯までのばすと同時に三管合流部を中心に肝十二指腸靱帯の漿膜をも縦に2cmほど切開する.ここで,まずツッペルで総胆管と総肝管を露出させる.その後さらにツッペルで胆管を損傷しないように胆嚢管を追跡する.この際,左の示指および中指をウインスロー孔に挿入し,この上に胆嚢管,総胆管をのせるようにしてツッペルで周囲組織より剥離する.急性炎症合併時には出血が多いので,細い血管でもそのつど結紮切離を行う.
 胆嚢膿腫あるいは水腫,萎縮胆嚢を合併した症例では三管合流部付近は瘢痕性に肥厚し,胆嚢管の処理が困難なことがある.このような場合も,まず,前述の操作を試みるべきであるが,肝十二指腸靱帯にも瘢痕化が及んでおり,総胆管の確認が困難なことがある.胆嚢周囲の解剖学的関係が不明で手術操作が困難と思われる時は,躊躇せず胆嚢を開いて,胆嚢内腔と周囲組織との関係を注意しながら操作をすすめるのが,副損傷を防ぐコツである.

再々手術で癒着が強く胆管へ到達できない

著者: 松代隆 ,   長嶋英幸

ページ範囲:P.816 - P.817

 Maingotによれば再手術時の胆管露出法として次のように記載されている.試みるべき方法と思われる.腹壁との癒着を剥離後,上行結腸および右結腸曲を肝より?離すると同時にこれを内下方にひき下げるようにする.ついで胃および十二指腸をていねいに肝下面より剥離し,これを下方に圧排すると肥厚した肝十二指腸靱帯が露出される.ここで,十二指腸および膵頭部を下大静脈さらには大動脈がみえるまで十分に後腹膜腔より剥離する(図1).総胆管の確認にはいわゆる総胆管リンパ節がその指標となる.このリンパ節は膵頭部の直上で総胆管が膵頭部と交叉する位置に存在する.多くの場合はこの方法で総胆管を確認できるので,あとは肝側に向つて総胆管を追跡すればよい.
 上部胆管に狭窄があり総胆管の確認が困難な時は胆管を穿刺して確認する方法がある.この場合も十二指腸および膵頭部を後頭部を後腹膜腔より授動するまでの手順は同じである.膵頭部の後方よりウインスロー孔に左手を挿入し,左母指との間に肝十二指腸靱帯をはさむようにして,固有肝動脈の拍動をたよりにその位置を確認し,遊離する.できれば門脈本幹も剥離しておいた方が安全である(図2).ここで肝十二指腸靱帯を穿刺しながら胆汁が吸引される部位を検索する.緑色胆汁が吸引されれば狭窄部の上部の胆管と考えてよい.

乳房手術

鎖骨下静脈を損傷した

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.819 - P.819

 鎖骨下静脈からの分枝はすべて鎖骨下静脈から2mmぐらい離れたところで結紮するように注意している.未だ鎖骨下静脈幹に裂創をつくつたりしてその出血で困つた経験はない.腋窩静脈の場合であつたら,裂創部を圧迫して一時的に止血して,ゆつくりその両端で血管を剥離し,SatinskyやBulldogなどの血管鉗子で,血管の両側または血管壁をはさむことによつて止血し,ゆつくり,ていねいに血管壁の裂創を5-0,6-0ぐらいの血管縫合糸で縫合閉鎖するのは難かしいことではない.しかし鎖骨下静脈の場合は,その部位によつては必ずしも出血のコントロールは容易であるまい.特に胸郭内に入り込む場所やその直前あたりで大きく裂けたらさぞかし大変だろうと思う.自分が経験したことがないのに,それについて述べるのはどうかと思うが,私の肺外科,血管外科それから一般外科を通じての経験から,そのようなことが起こつたら試みるだろうと思うことを述べてみることにする.
 このような大きな静脈からの出血は,まず第1に,決して止血鉗子で出血部をはさもうとしてはならないということである.止血鉗子が血管をさらに損傷して,裂け目をひろげ収拾がつかなくなる危険がある.まずあわてずに指先を用いて圧迫し,一時的に止血させてから,ゆつくりその処理をすることである.細い分枝の根本にできた小さな穴ぐらいだつたら,辛棒強く圧迫を続ければ,それだけで止血することが少なくない.

鎖骨上で神経叢を切断した

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.820 - P.820

 筆者は,鎖骨上部の郭清を必要と老えていないので,そこで神経叢を切断した経験がない.もしそのようなことがあれば,できるだけ丹念に,神経の端々吻合を行う他あるまいと思う.

その他の手術

虫垂炎の疑いで開腹したが虫垂がみつからない

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.821 - P.821

 開腹して虫垂がみつからぬ場合は,a)虫垂があるのにみつけられないか,b)既に切除してあつて存在しないかいずれかの場合になるだろう.その他の可能性として強いて挙げれば,c)過去に虫垂炎を起こして,組織が壊死に陥入つて,虫垂根部で自然に切断され,開腹しないままに自然に治癒して,吸収されその痕跡がほとんど認められないといつたような場合だろうか.
 a)の場合には,開腹して確かに回盲部周辺に急性炎症の所見があり,虫垂炎以外にこれを説明できる他の疾患,例えば,盲腸憩室炎,子宮附属器炎,急性回腸末端炎,急性子宮附属器炎,メッケル憩室炎,その他の疾患がなく,しかも虫垂がどうしてもあるべき所に見つからぬときは,仕方がない.そこにドレーンを挿入して閉腹し,術後,抗生物質で治療する他あるまい.一旦それで治癒してもその後度々,症状を繰り返し,しかも過去に虫垂が切除された可能性が全くなければ,本来なら再開腹して虫垂を切除すべきで,執刀者が経験の少ない外科医なら,経験の多い他の外科医の応援を頼むということであろう.

虫垂の炎症が盲腸に及んでいる

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.822 - P.822

 虫垂の炎症が,虫垂根部を越えて盲腸壁に及ぶ場合は時折経験することである.盲腸壁の炎症の程度によつて処理の仕方も異なるが,軽いものだつたら,虫垂根部の結紮を浮腫状の組織を切るほど強くしばらず,少しずつ,外科結びを使つて,しまる範囲内でしめて,結紮切断し,埋没縫合が可能なら,これも煙草縫合または,2〜3針の漿膜筋層の結節縫合で断端を覆えばよい.
 盲腸壁の浮腫がひどく,上述のような操作が無理なとき,筆者には,虫垂根部で漿膜筋層は結紮して切れてしまい,ただ粘膜管だけをかるく結紮切断,その上をクローシックカットグートで漿膜筋層縫合でかぶせ,念のためドレーンも入れたが,順調に経過退院した例がある.現在なら漿膜筋層縫合には,このような場合ポリプロピレン糸などの方がよいかもしれない.

虫垂がとれない

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.823 - P.823

 筆者にも,虫垂がとれなかつた経験が一度あつた.それは妊娠9カ月位の妊婦であつた.子宮が大きく,虫垂がその裏にかくれていて,無理にとろうとすると,子宮壁に対するかなりの圧迫,移動が必要であつた.取れないのではなく,無理に取るといけないという状態であった.ペンローズドレーンの太目のものを2本入れて,抗生物質で治療した.症状は消褪し,予定通り無事に分娩を満期で終了,その後1カ月位してから虫垂を切除した.簡単な虫垂切除であつた.こんなことぐらいの他には,虫垂がとれないという事態は想定もできない.

小児のヘルニア手術で精管を切断した

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.824 - P.824

 小児でも成人でも,未だ子供をつくる必要のある人に対しては,もし精管を切断した場合は,再建術を試みるべきである.他側が残つているからかまわないと考えるべきではない.反対側にもへヘルニアが発生し得ること,そして両側にもし損傷が起これば不妊につながることを考慮し,必ず再建するべきである.もつとも小児の場合などは,精管が細いので,再建術後の開存率は50%ぐらいであろうなどといわれている.
 再建には,6-0ぐらいのクローミックカットグート,またはデキソンを使い,全層を通して端々吻合する.マイクロサージャリー用の顕微鏡を使えば成績がよいというが,筆者には精管切断の経験がない.術後,吻合部の開存率をよくする方法として,カットグートをスプリントとして使う方法や(図),ワイヤをスプリントとして両端を腹壁外に出し,10日位してから抜き去る方法もある.

ヘルニア嚢が腹膜の方まで裂けてしまつた

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.825 - P.825

 内鼠径輪の所で,ヘルニア嚢を横筋筋膜から剥離しているとき,腹腔側に向つて裂けることがある.このような場合の処置は別段難かしく考える必要はない.さらにていねいに剥離して,裂けた部分の全体を明瞭にし,サックを切除した後,裂けた部分とサックの切断端を一体化し,腹膜を閉鎖する要領で,3-0クローシックのカットグートで,連続縫合で閉鎖してよい.その後のヘルニア修復は,通常のように行う.

痔瘻で2次開口部が3個所あるとき

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.826 - P.827

 痔瘻の場合,特に2次開口部が多数あるときには,クローン病,潰瘍性大腸炎,化膿性汗腺炎,瘻口形成性膿皮症などを鑑別して置く必要がある.前2者は,ロマノスコピー,バリウム浣腸および臨床症状で鑑別できる.後2者は,歯状線部に1次口をもたないこと,特に化膿性汗腺炎は,肛門周囲の皮膚に多数の瘻孔開口部があり,相互に枝分れしながら比較的浅い皮下を走る瘻管で連絡しあつているのが特徴である.
 さて,通常の痔瘻で,2次開口部が3カ所あるときでも,種々の場合がある.最も多いのはもちろん,瘻管が内外括約筋間を走る単純痔瘻だが,そのうちでも,浅く皮下外括約筋の下を走るものなら,瘻管切開の際,切断しなければならぬ括約筋は,皮下外括約筋だけなので,3カ所同時に切断しても,術後に肛門機能障害は起こらない.

痔瘻の手術で瘻孔処置を誤つて直腸粘膜を広範に損傷した

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.828 - P.828

 痔瘻の手術で,処置を誤つて,直腸粘膜を広範に損傷したという経験もなく,またその意味もよくわからなかつたが,おそらく直腸内に多数の瘻孔が開口するような複雑痔瘻のような場合であろうかと想像した.
 もし収拾のつかないような損傷で,修復しても感染の危険が大きいときには,むしろS状結腸に人工肛門を造設し,局所の創が治癒してから痔瘻と取り組み,痔瘻が治癒してから人工肛門を閉鎖することにでもなろうか.

腰椎麻酔が途中できれた

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.829 - P.829

 虫垂切除術でも,ヘルニアでも,痔瘻の手術でもとにかく腰椎麻酔がきれても,いずれも局所麻酔下の手術は可能である.特にヘルニァはMc—Vay法ででもなければ,局麻下の手術はそうむずかしいものではない.虫垂切除中に腰麻がきれるというのは,相当難かしい虫垂切除の場合だろうから,腹圧のため操作困難であれば,気管内麻酔に切り換えるのが最もよい.

全周性の高度の脱肛を伴う,内及び外痔核で,通常の結紮切除で処理できそうにもない

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.830 - P.830

 脱肛が痔に基づく粘膜性の脱肛で,真性の直腸脱でなければ,ひどい脱肛でも痔を手術すれば治る筈である.また全周性のものでも,4カ所位の結紮切除を行い,それぞれの切除創の中間部は,粘膜下に痔核の摘出を行えば,どんなひどい痔でも結紮切除法で処理できる.粘膜下を掘る場合は,粘膜が下の組織から遊離して浮くが,このとき血行障害を起こさず,狭窄を起こさぬようにするため,橋をつくる粘膜片の幅を最低7〜8mmは保ちたい.仕上げのとき,脱肛のひどい患者では,長軸での粘膜の余剰が起こりやすいが,これは結紮切除の際吊り上げても残る場合は切り取つて,断端を1〜2針カットグートで肛門皮膚に縫いつけておけば,治つた後の外観がよい.

痔瘻と痔核が合併していた

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.831 - P.831

 一般に,肛門に活動性の炎症性疾患のあるとき,痔核の手術を行うのは好ましくない.しかし慢性痔瘻で,しかも1次,2次開口部もそれぞれ単一で,その上,外括約筋を保存できるようなものであれば,痔瘻の手術の際同時に2〜3の痔核を切除しても,不都合は起こらない.馬蹄形痔痩であるとか,開口部や瘻管の数の多い複雑痔瘻の場合には,痔瘻の手術だけにとどめて,痔核は後に別に処理した方がよい.

肺・縦隔手術

肺動脈を処理中,これを損傷して大量出血をみた

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.845 - P.846

 これは確かに扼介な問題で,何年も肺外科をやつていながら処理に失敗して外科を止めた人もあるとすら聞く.処理中に肺動脈を損傷するのは,誤つて切つたと分るより,どうも良く分らないまま一寸した力の入れようで裂ける方が多いように思う.元来が低圧系血管であるだけにsystemicの動脈とは異なり,その壁は脆弱であり,最初の裂傷を荒く処理してしまうと裂け目を大きくするばかりということになりかねない.
 第一に行う対応は一旦出血を止めることである.その上でしばらく輸血の心配をし,全身状態の安定化に努め,さらに次の処置を行う際かなりの追加出血があつても大丈夫な態勢をとる必要がある.とりあえず出血を止めるには血管外科の定石に従い,指を用いるのが一番良い.効き手でない方の示指頭で出血部位を圧迫する.血管外科用以外の鉗子をかけようとあせるのは良くない.示指頭のみでカバーし切れない程裂け目が大きければ拇指や中指頭をも用いて肺動脈を挾むようにすると良い.この時肺動脈の展開が未だ十分でない時は一部肺実質と共に挾むか,残る指を合せ広く圧迫する方法をとる.

肺静脈の結紮糸がはずれてしまつた

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.847 - P.847

 普通十分な切りしろを作つて行う肺静脈の切断も,その後に結紮糸のはずれる場合がある.中枢側の場合は左房からの大量出血で緊急事態となり末梢側の場合も,特に肺動脈の処理が未だ行われていないと出血は大量となる.
 質問は「既にはずれたからどうするか述べよ」ではあるが,どうしても予防措置に触れない訳には行かない.その一つは言うまでもないが中枢結紮糸のすぐ末梢側にsuture-ligature(縫合結紮)を置くことで,私はこれに針付き2-0 braided silkを用いている.さらに,教科書には書かれていない方が多いが,末梢側にも予定切断線を中にして対称になるよう,1針suture-ligatureを置くようにしている.多少時間をとつてもこの処置は有用である.単結紮のみでは肺静脈が肺実質内ですぐ鈍角に分岐を示すため構造的にはずれ易い.もう一つの予防的考慮は,肺静脈の処理に困難が予測されたら,最初から心嚢を開いて心嚢内操作を考慮することである.

誤つて左房を損傷してしまつた

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.848 - P.849

 左房壁の状態や損傷部位,それに心嚢との関係,肺静脈結紮・切断の前後等により対応も少々異る.左房は通常低圧であるから軽い圧迫で止血出来そうに思えるものの,実際は湧出する血液のため出血部の視認が困難で手こずるものである.とりあえずガーゼを硬く折りたたんだものを充て,手指圧を予想出血部付近に広目に掛けて吸引しながら手指の位置を調整し,止血に努める.この間に別に3-0プロリン,テヴデク,絹糸等を用意するが,両端針付きプロリンが使い易い.左房壁や隣接する心膜等の組織が脆弱であれば予め両端の針をTeflon feltから作つたプレジェットに通しておき,対称に受ける方のプレジェットも用意しておく.
 次の判断は直接縫合に進むか鉗子を掛けるかである.損傷が小さく,肺静脈の展開もほとんど出来ていないようなら直接指尖での圧迫に切り替え用意した両端針を水平マットレス状にやや大きく掛ける.プレジェットの使用で糸がしつかり締められるようになるから,余程正常で展開の良い左房壁を相手にする時以外出来るだけ使うようにしている.針は圧迫指尖の下をくぐらせる気持で創縁を大きく掛ける.1針で不十分なら2針目を同様に掛けるが1針目の結紮した糸を牽引して鉗子を掛け得るようになることもある.

転移リンパ節により肺静脈の切離が極めて困難

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.850 - P.851

 肺癌の手術であるから,根治性を満足しなければならず,転移リンパ節もこの際切除しなければならない.質問の場合は従つて答えは唯一つ,心嚢内での肺静脈処理に尽きる.肺静脈の心嚢貫通部より前方で横隔神経の後方をやや尾側で切開し頭側に切り進み,肺静脈を確認,指示を通じその周囲の硬さを点検する.肺癌症例では肺門病変により横隔神経が肺門側に巻き込まれるように引つ張られていることも多い.こんな時は同神経の前方で心嚢を切開しても良い.
 心嚢外には浸潤が著しくとも心嚢内肺静脈はintactなことが多い.しかし心嚢内で処理し得る肺静脈の長さや,心嚢内面の折り返しによる肺静脈の固定の程度はさまざまである.この固定は図のように4本の肺静脈と上下大静脈とを結ぶ靱帯様の折り返し構造によるもので,軽度の際は膜様であるが高度となると肺静脈の1/4周以上にも及ぶので,薄いものは直角鉗子等で穿破,厚いものは入念に展開する.それには折り返しの一方の面をメッツェンバウム剪刀等で静脈の走行に沿つて開き,直角鉗子,強轡ケリー,強彎ルメール鉗子等を少しずつ進めて向う側に出す.あとは結紮を2本suture-ligatureを1本置くこと,心嚢外処理と同様である.しかし肺静脈を長軸方向に展開しても長さが十分得られないこともあるし,特に質問のケースでは末梢側に余裕がないと想定される.

肺区域切除を始めたが途中で切除線に迷つた

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.852 - P.852

 何年か前の胸部外科学会で故塩澤先生が「葉切でも良い場合は,肺区域切除のように労多くして合併症の多い手法を用いるより葉切を選ぶべきである.」と言う意味の発言をしておられたのを覚えている.しかし例えば上葉肺癌でS6に浸潤の疑われる症例でのS6合併区切や良性疾患での区切,それに高齢者肺癌でlimited surgeryの見地からする区切等々,今日でも必然性を持つ術式であり,私も質問のような事態にしばしば遭遇する.
 普通順行性に肺門で肺動脈区域支と区域気管支を切断し,区域間静脈を残そうと剥離を始めたが,静脈支の分布を見失い,どつちに進んでも気漏と出血とを増すばかりと言う事態が多い.区切例で肺区域隔壁がきれいに展開できるものもあるが,その隔壁の存在すらも疑わしくなるような例も少なくない.実際考えて見れば肺葉間ですら分葉不全とて実質性連続を示すものが非常に多いのであるから区域間においても隔壁を欠くか発育不良であつても不思議はないと思つている.

上葉切除・肺切除の際,気管支断端部で気管支狭窄を作つてしまつた

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.853 - P.854

 一般に気管支断端はどちらかと言えば長過ぎるかなと思う方が多く,幸か不幸か断端狭窄に遭遇した経験はない.そこで想定問題として考えさせて頂く.
 右上葉支断端の場合は縫合操作により上葉支口およびその付近が内腔に陥入するようになつて中幹に対する狭窄を生じ得る.上葉支断端残存部が短か過ぎるためであろうから縫合糸を抜いてやり直しても無理であろう,上葉支口の幅を底辺とし内側に向う楔状切除を加え部分的な気管支成形術を施す必要がある(図1).中幹にかかる末梢側への張力は大きくはないので縫合に亢う力は余り問題にはならないが,困難があれば肺靱帯の切離と心膜切開による右肺門の授動を追加する.部分形成でも狭窄がとれないようなら思い切つてsleeve resectionをする他はないだろう.この位置での管状切除端々吻合は比較的容易であるし,末梢側の授動は上述の内容で十分である.但し肺門周辺の心膜切開は全周性に完全に行う.上葉支口の幅だけの短縮であるから両断端の口径の調整なしに3-0または4-0 dexon糸にて結節縫合する.張力の比較的小さい部分であるから縫合不全よりも肉芽形成によるlate stenosisを心配し吸収性の糸を用いるのが良い.

上葉切除の際,下肺靱帯を切除すべきかどうか

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.855 - P.855

 下肺靱帯の「切除」と言われると,残存中下葉に対する授動操作の目的でする靱帯切離と,肺癌手術の際の#9リンパ節郭清のための切除の両方を念頭に置いてしまう.しかし#9は上葉切除では第3群リンパ節に入り根治手術の要件ではないから,あきらかなリンパ節腫大がない限り郭清の必要はない.従つてここでは前者の問題にしぼつて考えて見たい.
 授動操作としての肺靱帯切離は確かに有効で,さらに肺門や肺門周囲の心膜切開を併せ行うと右肺末梢側は全体として3.9cmも頭側に向けて授動し得る(Grillo).上葉切除の中でもsleeve lo—bectomyの場合は中幹または下幹以下を授動して減張する必要があり,肺靱帯の切離は必要である.

肺が脆く,縫合糸を掛ければ掛けるほど損傷が増えて気漏がコントロールできない

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.856 - P.857

 特発性自然気胸,続発性自然気胸の一部,巨大ブラ等の嚢胞性疾患で肺部分切除を行う時や,気腫性肺の縫合を要する時等,脆弱な肺組織の縫合は困難を伴う.特にanthracosisや胸膜線維化を伴う部分を扱うことが多く,針で裂創を作つてしまうだけでなく,何とか縫合できたつもりでも加圧時に糸によるcuttingを生じ気漏に悩まされることが少なくない.このような症例では追加縫合を掛けても組織損傷を増すだけのことが多い.
 この手の肺を相手にする時,私は補強材を用いて糸の張力を受けるようにしている.まず切除すべき病変(嚢胞等)の基部で病変の及んでいない部分に血管用鉗子(長い弱彎のものが良い)をかける.この鉗子の中枢側に鉗子に沿つてbasting sutureをおくのだが,糸は主に3-0プロリンを,補強材としてはテフロンフェルトを用いている.以前はフェルトを3×5mm位のプレジェットとして水平マットレス縫合の糸をこれに通し結んでいたが今はフェルトを4mm幅位の細長い帯状に切つたものを切除線の両側に当て,肺組織をサンドイッチ状に挾み,水平連続マットレス縫合で糸をしごきながら縫い上げている(図).鉗子末梢側の病変部分を鉗子に沿つて切除するが,この時幅2mm位鉗子線より末梢側で切るようにする.

縦隔腫瘍が横隔神経を巻き込んでいる

著者: 長田博昭

ページ範囲:P.858 - P.858

 このような症例で同神経の温存を企てれば余程の例外を除いて腫瘍の一部を残さざるを得ないから,腫瘍の完全摘出のためには横隔神経の切断は不可避である,そこで横隔神経麻痺の術後への影響を考えて見よう.
 一般に縦隔腫瘍の患者では肺切除は必要ないか,または部分的切除程度で済むことが多い.それに胸壁合併切除を要することも稀である.また両側で横隔神経を巻き込む例もほとんどない.呼吸機能のほぼ正常なこういう患者に一側横隔膜神経永久麻痺が生じても,術後の呼吸状態が著しく損われることはほとんどない.特に成人や年長児では手術終了時のTidal volumeやpCO2も許容範囲であることが多く,気管チューブも抜去出来る例が多い.血液ガス所見から抜管が危ぶまれても1〜2日以内にほとんど抜管でき自然の呼吸のみで補助を要しなくなるのが普通である.もつとも「息苦しさ」を訴える患者は少なくない.特に体位によつてかなりの苦しさを訴える患者もあるが,これも数週間程度を経ると大きな問題ではなくなることが普通である.無気肺傾向はどうしても避けられないが一般に致命的なものではない.

心臓手術

動脈管開存症PDA剥離の際,肋間動脈を損傷した

著者: 新井達太

ページ範囲:P.859 - P.859

 PDAそのものの剥離の際は肋間動脈を損傷することはないが,PDAより末梢の胸部大動脈を剥離の際損傷することがある.PDAの手術時の体位は手術台に対し約80度の側臥位とし,後側方開胸で入るので,PDAは視野の真下になる.この位置での肋間動脈は胸部大動脈の側方と裏側より出ており,多少見にくい.胸部下行大動脈の真上で胸膜を大動脈に沿つて上下に縦切開し,胸膜を側方に引つ張りながら大動脈を剥離するが,大動脈の側方,裏側を彎曲鉗子か彎曲した鋏を開閉して鈍的に剥離する.結合組織を一遍に剥離しようとすると肋間動脈を傷つけることがあるので,少しずつ剥離する.剥離できず多少抵抗のある所に血管があることが多いので抵抗があつたら血管があると考え慎重に剥離し血管を見つけるか,結合組織を一緒に結紮する.肋間動脈は左右対をなしている点もはじめから念頭におく.
 もし,損傷し出血したら手術操作を中止して,出血部位をガーゼで圧迫止血する.出血がガーゼににじむ程度に押え,数分は我慢して,1枚のガーゼでしつかり押える.ゆつくりガーゼをはがすと出血はかなり少なくなつており,肋間動脈の一部を損傷したのか,切断したのかなど出血点が明瞭になる.ナイロン糸又はプロリン糸で大動脈側よりの出血部位にU字又はZ縫合をかけ結紮止血する.切断した肋間動脈末梢側からの出血も縫合止血する.

PDA切離に十分な距離が得られない

著者: 新井達太

ページ範囲:P.860 - P.860

 PDAの中枢と末梢の大動脈にテーピングし,適当な太さで長さ5cm位のネラトン管にテープを通す.アホナードにて血圧を少し下げてからネラトン管を押し,テープを引いてPDA上下の大動脈を遮断する(図).こうするとPDAとその大動脈側は血流がほとんどなくなるので柔らかくなる.完全に大動脈をこの方法で遮断することは出来にくいので血流を少なくするよう狭窄を作ればよい.次いで7字状の部分鉗子をPDAよりも大動脈そのものにかける.PDAの肺動脈側はPotts鉗子をかけたのちに,大動脈の遮断を解除する.こうするとPDAを切離するに十分な距離が得られる.
 PDAの肺動脈側に鉗子をかける時,反回神経を鉗子にかけぬよう外側によけること.また胸膜切開を大動脈から鎖骨下動脈に延長する場合は胸管に注意せねばならない.筆者はchylothraxを起こした症例を経験したからである.

PDA切離の際,大動脈側あるいは肺動脈側のPotts鉗子がずれて出血した

著者: 新井達太

ページ範囲:P.861 - P.862

 ずれたPotts鉗子の大動脈側にPotts鉗子をあわててかけると,大動脈壁を損傷してかえつて大出血を起こすことがある.PDAの上下の大動脈にテーピングをしてある時は前項で述べたように大動脈をテープ又は大動脈鉗子で遮断して,PDAの切断部に余裕を作つてからPotts鉗子をかけ直すとよい.最近のPotts鉗子は非常によく出来ていて,ずれることはまずないが,鉗子がガーゼや他の組織などをかんでいるとゆるくなることがある.Potts鉗子をはじめにかける時,ほかの異物やほかの組織などをかんでいないか十分に確かめねばならない.
 PP/PSが80%以上の肺高血圧で成人の肺動脈側の鉗子がずれると,鉗子をかけ直すのはなかなか難しい.まず,出血部を助手が指で押さえる.この操作中鉗子が外れてしまうこともある.肺動脈圧が80mmHgもあると母指と示指で押えて出血を止めているのはなかなか困難で,PDA切断端から示指を挿入して出血を少なくしたという話をきいたことがあるので,指を挿入してでも出血を少なくせねばならない.まず,開胸創を胸骨方向にのばす.次に心膜を開き,肺動脈を大動脈から剥離してテープを通す.太いネラトンにテープを通して肺動脈を遮断すると出血は少なくなる.ここで手早くPotts鉗子を肺動脈のPDA切断端にかける.

上大静脈SVC,下大静脈IVCへのa)カニュレーション,b)テーピングの際,大静脈を損傷した

著者: 新井達太

ページ範囲:P.863 - P.864

a)カニュレーションの時,大静脈の損傷をした経験はないが,医局員の前立ちをしているとSVCになかなかカニューレが入らないことがある.カニュレーションの方法は右心耳をサティンスキー鉗子ではさみ,切開を加え,肉柱が見える時はこれを切断する.心耳の切開創の回りに巾着縫合をかけ,切開創の両端をアリス鉗子で開くようにしてカニュレーションをするのはだれも同じである.SVCに入らない術者を見ていると,右房切開創にカニューレを入れたら真直SVCにカニューレを向けて一気に挿入しようとしている.そうするとSVCと右房接合部にカニューレがつかえる.そのため直接ねらわずカニューレをまず右房内に挿入し,左指でカニューレをSVCに誘導すると入り易い.IVCへは,IVCに近い右房にカニューレより一回り大きく円型の縫合をかけ,その中央を先刄のメスで切開し,指で出血をコントロールして,カニューレをIVCに向かつて入れる.IVC近くに切開創があるために,ここで,もたつく術者はない.
 b)テーピングの際,直角鉗子で大静脈を損傷した私自身の経験とほかの術者が損傷したのを何度か見たことがある.そこで損傷しないためにはまず用指剥離を行う.SVCの内背側は頭側が肺動脈,尾側に左心房がある.この間にある結合組織を肺動脈に沿つてSVCの外側に用指剥離すると指が通ることが多い.もし,通らなければ無理をせず,SVCの外側からも剥離する.

大腿動脈よりの逆行性送血により大動脈解離が起こつた

著者: 新井達太

ページ範囲:P.865 - P.865

 大腿動脈よりの逆行性送血により大動脈解離の発生頻度は筒井によると0.5〜3.1%,平均1.0%,上行大動脈送血法では0.03%であるという.その発生機序は送血カニューレの大腿動脈挿入による内膜の機械的損傷,または逆行性送血によるjet streamによる動脈内膜の損傷などによると考えられている1)がその原因は解明されてはいない.
 筆者は50歳左室瘤の患者の手術時に経験した.体外循環開始直後に手術を見ていた医局員がブラウン管の動脈圧がフラットになつたのに気付いた.この動脈ラインは左橈骨動脈の穿刺によるもので,それまで100mmHgのレベルにあつた.腕の圧迫か動脈ラインの屈曲によるものだろうと筆者は考えた.それらの原因を確かめたが血圧の低下する原因がない.まだ心拍動も良好であつたので,体外循環を一時停止した.大動脈解離を疑い股動脈送血を上行大動脈送血に変えた.体外循環停止時の動脈圧波形は鋸歯状であつた.しかし再び体外循環を再開すると動脈圧は低下してフラットになつた.大動脈解離が強く疑われたので,体外循環を直ちに中止し,心拍動も良好だつたので手術は中止した.術後CTで大動脈弓部まで解離が及んでいることが確められた.この経験から小さなサインを見落さないことが非常に大切であることが分かる.

Blalock-Taussing吻合手術で,a)鎖骨下動脈を結紮切断後,その末梢側の結紮がゆるくて切断端が筋肉内にもぐつてしまつた.b)吻合しようとした鎖骨下動脈の鉗子がはずれてしまつた

著者: 新井達太

ページ範囲:P.866 - P.866

a)鎖骨下動脈を剥離して行くと胸管が見られるので胸管の左右を結紮して切断する.不注意に胸管を結紮せずに切るとchylothraxを起こす.さらに剥離を進めると椎骨動脈,甲状頸動脈,内胸動脈などが分岐するので,その中枢側,末梢側を結紮して切断する.鎖骨下動脈は同様に結紮してから切断するが,一番深い所のため結紮がゆるくて切断端が糸からはずれて筋肉内にもぐりこみ出血することがある.吻合に十分な長さが欲しいので鎖骨下動脈を引き出すことが多いので切断端は筋肉内に逃げこみ切断端を見つけようとしてもなかなか見つからず,かなりの出血をみることが多い.そのため切断端を見つけようとせず出血部をガーゼで押さえこむ.10分位押さえていると出血はほとんど止まる.ここで筋肉を分けて断端を見つけようとしてもまた出血するだけのことが多いので,atraumatic needleで筋肉に深めた針糸をU字,さらにZ縫合を加えて二重に結紮する.
 b)鎖骨下動脈中枢側の鉗子がはずれると切断端は血液を噴き出しながら,くるくる回る鼠花火のように左右上下と動き回る.切断端をつかもうとしてもなかなかつかまらず,胸腔内は血の海となる.切断端をつかまえるのは無理なので鎖骨下動脈の大動脈起始部をおさえるか,強くつまむと出血が少なくなると共に切断端の動きは少なくなる.その時点で切断端をつかむか鎖骨下動脈のどこかに鉗子をかけるとよい.

開心後,心室中隔欠損症VSDがなかなか見つからない

著者: 新井達太

ページ範囲:P.867 - P.867

 VSDがKirklin分類のⅠ型(supracristal)と術前診断し,肺動脈切開で入つたがVSDが膜性部にあつた場合,またはこの反対に膜性部と診断し右房切開で入つたのにⅠ型であつた時にはVSDは見つけにくい.もし肺動脈切開で見つからなければ右房を切開して見つける.この反対もありうる.最近は超音波心エコー法,ドプラー法によりVSDの部位診断はかなり確実になつているので,術前に部位を十分確めてから,どこを切開してVSDに到達するかを決めるとよい.
 VSDが一つの時は上記の方法と左室造影で部位診断はつくが,複数欠損孔の時の診断がつきにくく,また術中2つ目の欠損孔が見つからぬ時がある.筆者の最近の経験であるが,左室造影で膜性部の短絡は明瞭であつたが,筋性部欠損によるjetか,右室肉柱間に造影剤が入つたのかが明確には決定できないまま手術に入つた.膜性部VSDをpatch閉鎖後,筋性VSDを確かめたが,見つからぬため,ASDを通してカニューレを左室に入れ,色素を左室内に注入した.色素がVSDを閉鎖したパッチの布目から流れ出したりしてはつきりしないため,左室を切開し左室側より筋性VSDを確かめたが,VSDはなかつた苦い経験がある.

再手術例の胸骨正中切開の際,ストライカーにて心臓を損傷し出血した

著者: 新井達太

ページ範囲:P.868 - P.868

 初回の手術から何年かたつて再手術をする時には心臓と心膜が癒着しており,さらに心膜と胸骨とが癒着していることがある.ストライカーにて初回手術の時と同様,一気に胸骨正中切開を行うと,心臓を損傷し血液が噴き出してくることがある.
 筆者の経験では右心房を損傷したが,多くの場合右心房を傷つけ易い.損傷してしまつたら,ガーゼを出血部にあて噴出するのを防ぎながら胸骨を完全に切開する.小児用の小さい開胸器で胸骨を少し開き,胸骨と心膜の癒着を用指剥離しながら,開胸器を少しずつ開いて行く.ガーゼで噴出を防いでいた部位を開胸器で2〜3cm開くと出血部位と大きさが分かつてくる.そうしたら心膜と一緒に心房の損傷部をU字縫合にて止血する.止血が出来たら心膜と右心室の癒着部を切開して心臓を露出する.

胸腹部重度外傷

食道破裂,特に発症より24時間以上経過している時どう対処するか

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.869 - P.869

 食道破裂の原因には嘔吐などにより誘発される特発性食道破裂,外傷性食道破裂,内視鏡により偶発的におこるinstrumental esophageal rupture,工業用アルカリ製剤の誤飲によつておこるcorrosive esophageal perforationなどがある.いずれの場合でも予後を大きく左右する因子は発症からの時間的経過である.
 (1)発症から24時間以内;この場合は破裂創が1次縫合に耐える状態であり且つ縦隔洞炎も軽度なことが多く,予後は比較的良好である.破裂創周囲の壊死組織を除去したのち,組織反応が少ない4-0か5-0の細目の糸で層々に結節縫合を行う.当然のことながら,開胸時はFr. 24以上の胸腔ドレーンを2本挿入して閉胸する.

外傷性気管支破裂の呼吸管理および術式をどうするか

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.870 - P.870

 鈍的胸部外傷による気管支破裂には2つのtypeがある.1つは完全断裂でこれは胸腔ドレーン挿入によつても緊張性気胸が改善されないため緊急開胸術を必要とする.他の1つは,気管支断裂はあるがperibronchial sheathによつて辛うじて連続性が保たれているものである.これは後日断裂部位の瘢痕狭窄ないしは閉塞による無気肺のため発見されることが多い.この項でとりあげるのは前者である.
 (1)呼吸管理;鈍的胸部外傷で呼吸困難,チアノーゼがあり一側の呼吸音が減弱している時は外傷性緊張性気胸を疑い胸部X線を撮影する前に胸腔ドレーンを挿入しなければならない.胸腔ドレーンから大量のair leakageが認められる場合,あるいは2本の胸腔ドレーンが機能しているにも拘わらず,胸部X線像で患側肺が再膨張していない場合は,肺破裂ないしは気管支断裂を疑い,緊急手術の準備をすると同時にendo-tracheal tubeをendo-bronchial tubeに変換し,片肺換気unilateral lung ventilationか左右肺を別々に換気させる方法independent lung ventilationを施行しなければ救命は困難である.

十二指腸の下行脚から上行脚にかけての破裂に遭遇した

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.871 - P.872

 十二指腸破裂を疑つた時は術式を決定する前に,十二指腸全域を露出し創の状態を検索する必要がある.Kocker氏受動術にTreitz氏靱帯を開窓する方法が一般的であるが,時に上腸間膜動静脈が障壁になることがある.CattellとBraashが提唱した受動法は十二指腸全域を検索する上では最も優れているので紹介する.
 つまりKocker氏受動術を施行したのちに,右旁結腸溝を切開しさらに右結腸間膜を後腹膜より内側は上腸間膜動静脈幹,上方はTreitz氏靱帯まで剥離することにより図1に示したごとく十二指腸全域を完全に露出できる.次に手術々式についてわれわれがおこなつている手術方法のプロトコールについて述べる.

肝損傷に対し単純縫合止血で出血がコントロールできない

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.873 - P.874

 表在性裂傷であつても,損傷の部位によつては縫合止血が困難なことがある.例えば両葉のsu—perior segmentで肝付着部に近い場所(図1a)や肝下面や胆のう床に近い場所(図1b)の裂傷である.胆のう床に近い裂傷は胆のう摘出術後縫合止血をおこなう.その他については,剣状突起の切開により正中切開を拡大し,さらに肝鎌状靭帯三角靱帯および冠状靱帯を切離し,十分な視野のもとに縫合止血をしなければならない.
 図1cのような深在性裂傷で口が開いたように割れている場合は肝十二指腸靱帯内で肝動脈および門脈をクランプするPringle's maneuverを応用しつつ,裂傷辺縁の凝血塊や壊死組織の除去後出血点を結紮する.この方法で出血がコントロールできた場合は開放創とし,その近傍にドレーンをおくだけで良い.創縁を無理に寄せようとすると逆に肝実質が裂けたり,術後肝膿瘍やhemo—biliaを誘発することになり行つてはいけない.創の深部からの細い出血が気になる時は有茎大網を創に充填しその上から連続縫合し止血をおこなう(Id).

術中,膵頭部損傷に遭遇した

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.875 - P.876

 術中主膵管損傷を見逃したり,術式選択を間違えたりした場合,本損傷例は殆んどが致命的となる.
 従つて,膵全体を露出し,用手的ないしは,術中膵管造影などにより膵損傷の程度を慎重に診断しなければならない.膵頭部損傷が疑われた場合は胃結腸間膜を結紮切離しbursa omentalisに入る.次に肝結腸靱帯を切離したのちに横行結腸の肝彎曲部を遊離し,横行結腸間膜を膵頭部前面より剥離する.膵頭部後面はKocker's maneuverにより腹部大動脈まで剥離する.以上の操作により膵頭部を露出し,視診および触診により膵頭部の損傷程度を慎重に調べる.被膜下血腫により膵実質が離断されているかどうか判然としない時は必ず血腫を除去してから精査しなければならない.これらの方法によつて主膵管損傷に疑いが持たれる時は,術中ERCP,総胆管に減圧の目的で挿入したT—チューブよりの造影(T—チューブ挿入部位より肝門部に近い総胆管およびファーター乳頭部を外から圧迫して造影すると膵管は写りやすい)によつて主膵管の損傷の有無を確認する.時には十二指腸切開下,sphincterotomyをおき膵管内にビニールチューブを挿入して造影することもあるが,この際は十二指腸縫合部の閉鎖不全をおこしやすいため注意が必要である.

外傷性脾損傷に遭遇した

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.877 - P.877

 脾温存手術(脾縫合および脾部分切除)は現在の外傷学のトピックの一つである.本邦においては脾摘後の感染症の発生率に関する臨床的データは少ないが,欧米では脾摘後感染症はすでに確立した概念としての位置づけがなされている.従つて,外傷後あるいは,術中脾損傷に遭遇した場合,出来る限り脾を温存するための努力がなされなければならない.
 (1)脾縫合splenorrhaphy;脾結腸間膜および脾胃間膜を結紮切離し,脾外方の後腹膜への固定を切離して脾を受動したのちに損傷程度を精査する.被膜下裂傷に対しては,Geifoam,Oxycel,Tisseelなどの止血製剤を局所にあてその上をガーゼで圧迫止血する.これで止血し得ない時はnontraumatic needle付き3-0デキソンあるいはバイクリルなどで結節縫合あるいはhorizontal mattless縫合を行う.脾実質がもろい時は,テフロンフェルトないしはプレジェットを使用して補強する(図a).釘穴からのoozingは用手圧迫で容易に止血し得る.脾裂傷裂隙が大きい時は裂隙腔内に大網を充填しその上を連続縫合で縫合止血する(図b).

左側半結腸の外傷性破裂に遭遇した

著者: 葛西猛 ,   小林国男

ページ範囲:P.878 - P.879

 外傷性であれ非外傷性であれ,nonpreparedの左側半結腸破裂ないし穿孔例は縫合不全の発生率が高く,従つて,それぞれの状況に適した術式の選択が必要である.
 (1)primary closure(図a);最近は左側半結腸の破裂に対しprimary closureをおこなう事が多くなつてきている.患者の立場から考えるならばprimary closureが最も理想的な術式であるが,安全性という観点からは若干問題がある.参考までにStone,FabianおよびWienen等のprimary closureの適応基準を紹介する.ⅰ,ショック状態は軽度で1l以内の出血量,ⅱ,腹腔内他臓器損傷が2つ以下,ⅲ,腹腔内の汚染程度が軽度である.ⅳ,外傷後8時間以内の修復,ⅴ,大腸および腹壁損傷が軽度で切除を必要としない,となつている.

血管造影

血管のスパスムで,カテーテルが動かなくなつた

著者: 平松京一

ページ範囲:P.881 - P.881

 血管カテール法施行中における動脈のスパスムは,この検査法にみられる合併症としてかなり頻度の高いものである.スパスム発生部位は穿刺部位(カテーテル挿入部)とカテーテル先端部付近に大別される.カテーテルが動かなくなつた場合には,スパスムが穿刺部位に発生したことを意味する.とくに小児や若年の女性にはしばしば穿刺部のスパスムが発生しやすく,カテーテル検査後において大腿動脈から腸骨動脈にかけての血栓形成の原因になることが多い.
 このスパスム発生を防止する上に役立つ注意事項としては,動脈周囲までの十分な局所麻酔や注意深いカテーテル操作などがあげられるが,ここでは実際血管スパスムが発生した場合の処置について述べる.

カテーテルの中で凝血し,血液が手元の注射筒へ戻つてこない

著者: 平松京一

ページ範囲:P.882 - P.882

 カテーテルから血液の逆流がない場合,一応カテ先が壁に当つている可能性を否定するために,カテーテルに陰圧をかけながらカテ先の位置をいろいろ変えてみる必要がある.しかしこの操作でも全く血流が戻つてこない場合はカテーテル内の凝血を考え,ただちにカテーテル交換をしなければならない.
 この場合にはガイドワイヤーを用いたカテーテルの交換が出来ないわけで,当然sheath(あるいはintroducer)を使わねばならない.

カテーテルが血管内で結び目を作つてしまつた

著者: 平松京一

ページ範囲:P.883 - P.883

 カテーテル操作中にカテーテルが血管内で完全な結び目を作つてしまうことは,比較的まれであり,ガイドワイヤーを中に通して結び目を解くことも可能である.しかしカテーテル内に凝血が形成されてガイドワイヤーを通すことが出来なくなることもあるし,またガイドワイヤーだけでは結び目を解くことが不可能なこともあり得るので,この場合について述べる.
 まず別のルートを用いて長めの屈曲を持つたカテーテルを図のごとく挿入し,カテ先を屈曲させた後,結び目の部分より先へ送り込む.この屈曲させたカテーテルを引きながら結び目にひつかけて引つぱり,この結び目を解くわけであるが,この際結び目はなるべく手元近くにもつて来ておくことが望ましい.例えば経大腿動脈ルートの場合,結び目を大動脈下端にまでもつて来ておくことが望ましい.

造影剤注入時,カテーテルが破裂したり,尾部の広がりがアダプタの孔から抜けてしまつた

著者: 平松京一

ページ範囲:P.884 - P.884

 このトラブルは日常の血管造影でしばしば経験するものであるが,トルクコントロール用のカテーテルが出現してからは,カテーテルの強度が非常に高まり,このトラブルに遭遇することは少なくなつている.
 カテーテルが破裂したり,尾部の広がりがアダプタの孔から抜けてしまつた場合,とるべき3つの方法がある.一つはガイドワイヤーを用いてカテーテル交換してしまう方法,第二にはカテーテル内の凝血形成の項目でも述べたsheath set(またはintroducer)を用いる方法,第三の方法としてこのカテーテルを修復する方法がある。前二者は今さら説明を要することではないが,何らかの理由でカテーテル交換が出来ない場合,例えばカテーテルが他に準備してないか,カテーテルが超選択的に末梢に送りこまれていて,出来ればカテーテルをこのままの位置に固定しておきたいような場合,第三の方法をとる必要が生じて来る.ここではこのカテーテル修復法について述べる(図).

血管内膜を損傷してしまつた

著者: 平松京一

ページ範囲:P.885 - P.885

 血管の内膜損傷はカテーテル操作に伴つてしばしば遭遇する合併症の一つである.ガイドワイヤーによつて起こる場合とカテーテルによつて起こる場合があるが,時にはガイドワイヤーが内膜下に入り込み,これにかぶさつてカテーテルが内膜下を進む場合も少なくない.カテ先が内膜下にわずかに入り込んだだけでは大きな障害は発生しないが(図A),この位置で造影剤の大量注入が行われると,造影剤の内膜下注入となつてしまう(図B).通常この造影剤は吸収されるか,カテーテルが入り込んだ孔を通つて血管内にもどるが,高血圧症の患者で大動脈にこの内膜下注入が起こると人工的な解離性大動脈瘤に移行することもある.したがつてこのような場合には状況に応じて血圧を下げることも必要となる.
 カテーテルの選択的ならびに超選択的操作に際してカテーテルやガイドワイヤーが内膜を損傷すると,これにスパスムが伴い,この部位における血流を一時的に悪くする場合が多い.したがつてこのような場合には,カテーテル操作をこの時点で諦めるのが原則であるが,カテーテルを少し引きもどした部位からイミダリンやプロスタグランディンE1などの血管拡張剤を注入したり,ヘパリンやウロキナーゼなどを注入しておくべきである.

血管外へカテーテルがでてしまつた

著者: 平松京一

ページ範囲:P.886 - P.887

 カテーテルが血管壁を穿通してしまうというアクシデントは,注意深いカテーテル操作を行えば当然避け得るものであるが,静脈系のカテーテル検査に際して,多少でも無理な操作をすれば,カテーテルは容易に壁外に出てしまう.大動脈内においても無理な反転操作に際してカテ先が外膜外に出てしまうこともある.血管壁にカテーテルの太さに相当する小孔があいても,dos Santos法の操作を考えれば,出血傾向のある特殊な患者は別として,ある程度の血腫を壁外に形成して自然に止血してしまうことが多い.しかし部位によつてはカテーテル穿通孔を通して大量の出血が起こることもあるので,このような場合について述べることにする.
 まず穿通したカテーテルをそのままにして外科手術にもつて行くのは,一つの解決法であるが,患者に対する大きな侵襲を考えると,簡単に踏み切れないことが多い.しかし次に述べるような方法を応用することが出来なくて,しかも大出血が予想される場合には,この外科的方法をとらざるを得ない.

血管塞栓術,拡張術

カテーテルからコイルが抜けない

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.889 - P.892

 コイルに付属しているダクロン線維がレントゲンに写らないため,まだカテーテル内に残つている時カテーテルを引くと,共にコイルが付いてきて,栓塞目的血管から抜け出そうになる(図1—a).
 コイルの大きさとカテーテルの径が不適当な時や,硬い先端や細いテーパーのついたガイドワイヤーを用いた時には,コイルがカテーテル内で広がつたり,ガイドワイヤーがつき抜けたり,あるいはコイルが十分にカテーテルから抜け出ないことがある(図1—b).

コイルが大動脈へ脱落しかけた

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.893 - P.894

 栓塞すべき動脈内径より大きなコイルを用いた時には,コイルが中枢側にはみ出してくる(図a).
 大動脈のうねりが強く,コイルをガイドワイヤーで押し込もうとすると,カテーテル先端が大動脈側に出てくる場合がある(図b).大動脈のうねりが強い時は,コイルを入れる前に予めコイルを押し込むガイドワイヤーを挿入してみてカテーテル先端の動きを確かめるべきである.さらにカテーテル先端が動かないように,カテーテルに予めカーブをつくつておく.

動静脈瘻で栓塞物質が静脈側へすり抜ける危険がある

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.895 - P.895

 栓塞する対象が脾の場合は,小さなゼルフォームが1コ門脈内に流れ去つてもまず臨床的な問題は起こらない.2コ目から十分に大きな切片を入れる.腎の外傷や特に腎摘出後にできた動静脈瘻孔はかなり大きなことがある.
 <対策>下大静脈にも同時にカテーテルを入れバルーンカテーテルを腎静脈でふくらませて腎動脈血流量を減らし,栓塞物質を動脈側に止め置くことができる.瘻孔が大変大きく市販のコイルの径が小さすぎる時は,Whiteら1)は4〜8mm径のdetachable balloonを,Castaneda-Zuningaら2)は内側に鈎のついた傘状の大きなコイルを用いて,各々うまくいつたと報告している.

動脈狭窄部を通すガイドワイヤーが血管外に出た

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.896 - P.896

 ガイドワイヤーの硬い方の先端を先行させた場合,また柔軟な方の先端を用いても血管内腔にアテローム変性や潰瘍形成がある場合には血管壁を貫ぬくことがある.ガイドワイヤーは必ず1〜3mm Jガイドワイヤーを用いるべきである1).Y形コネクターで二重管になり,先端近くに側孔の開いたカテーテルやグリュンチッヒの同軸カテーテルにて,絶えず造影剤をフラッシュして動脈の走行や内腔を観察しながらガイドワイヤーやカテーテルを進めるべきである2).ガイドワイヤーが血管壁を貫いても,たいていそこは乏血気味であり,後腹膜や筋肉のため広い間隙がないので,血管が裂けたりしないかぎり大出血は起こらない3)
 <対策>血管形成術は中止して造影を行い,造影剤の血管外漏出程度をみて検査を終了する.その後必要に応じCTや超音波検査にて血腫や出血の程度を観察する.

穿刺術

経皮経肝胆道ドレナージで,カテーテルから動脈性あるいは静脈性出血がある

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.897 - P.898

 近年高性能のリアルタイム超音波診断装置による穿刺術が普及するにつれ,胆管穿刺に伴う肝内血管の同時穿刺は著明に減少した1)
 <対策>肝内胆管は門脈と併行しているため門脈損傷が最も多い.肝内門脈圧はあまり高くないので,針やカテーテルの手元を閉鎖して凝固時間の5〜15分間待つて再開してみると止血されていることが多い.それでも出血をみる時は,造影剤注入にて透視下に門脈,肝静脈,肝動脈が造影されるか,血液や凝血が胆管内に流入しているかを観察する,門脈の次に多い損傷は肝静脈である(図1).針の切先を回転させるか,わずかに2〜3mm引き抜いて血液の流出が止るかをみる.さらに出血が続くときは,カテーテルの内腔や針を手元でロックしたり,Bone wax2)やゼルフォームで充填して24時間留置後再開してみる.造影の結果,損傷部位が太い動脈や門脈の時は,金属コイルやゼルフォームの栓塞術を行う.腫瘍や肝動脈本幹からの止血がどうしても困難な時はただちに,セルジンガー法による肝動脈と上腸間膜経由門脈撮影を行い,肝動脈栓塞術を行う.

造影剤がカテーテル周囲から腹腔内に漏出

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.899 - P.899

 この原因としては,
 ① カテーテルが抜けかけていたり,作成不良で側孔の一部が肝被膜の外や被膜に近いところに位置している.

胆道ドレナージチューブが逸脱した

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.900 - P.901

 ドレナージカテーテルの肝内胆管からの逸脱は最も頻度の高い続発症である.検査室から運搬車に移す時にすでに抜ける早期のものから,数カ月経て退院後自宅で逸脱するものまである.
 <対策>2週間以内にカテーテルが完全に逸脱した場合は,元の瘻孔から再挿入することは困難で,多くは新たに皮膚より再刺入することが必要である.逸脱後2〜3日待つて肝内胆管の拡張を確認してから穿刺した方が成功しやすい.少しでもカテーテルが体内に残つている時は,先端の真直なflexibleなガイドワイヤーで,患者の呼吸停止の程度を変えながら肝被膜の孔を透視下に根気よく探す.症例にもよるが,ドレナージが2週間程経た例では皮膚孔より肝実質を貫いて胆管まで瘻孔ができていることが多い(図1).造影剤をある程度圧力をかけて皮膚瘻孔より透視下に注入すると(このための特別な注入器も考案されている)(図2)1),肝内胆管が造影され,それに沿って真直な軟かいガイドワイヤーを元の肝内胆管に進めカテーテルを再挿入できる2)

経皮腎瘻術でカテーテルが腎静脈に入つてしまつた

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.902 - P.903

 腎動脈は静脈に比して細く,穿刺針やガイドワイヤーが入ることはほとんどない.一方腎静脈は太く壁も薄いため,針先が腎盂より内側や腹側に向つた時に刺入する危険がある.特に水腎症や腎盂炎が続くと腎壁が薄くなり,炎症によつて脆弱になつているので,先端の真直なガイドワイヤーを用いた場合などには腎盂内壁を貫き,腎静脈から下大静脈にガイドワイヤーが進むことがある.必ずJ形ガイドワイヤーを用いるべきである.静脈に損傷がおこると腎盂内に出血が起こり,腎盂尿管は凝血で満たされる.
 <対策>もし反対側にも水腎症があり,経皮腎瘻術の適用があるなら,反対側の経皮腎瘻術を注意深く行つて成功させる.出血の起こつた方の腎孟は静脈性出血のため,ある程度内圧が上ると止血し,凝血のあと融解が起こるので後日こちら側の経皮腎瘻術を行う.もし出血を起こした腎のみしか腎瘻術ができない時は,血液透析で逃げ時間を稼ぐ方法もあるが,超音波下に18G針あるいは細い針(22G)で腎孟に造影剤を注入し,透視下に慎重に腎孟に穿刺とカテーテル挿入を成功させる.dilatorを用いたのち,カテーテルは9〜12Fぐらいの太いものを入れる.血性尿が出てくるが,冷たい生食水で十分に洗浄を繰り返し,赤味が薄くなつたら造影剤を注入して,腎孟から静脈へ造影剤が移行しないかを透視下あるいはスポット撮影で確認する.

経皮腎瘻術で腎盂や尿管に穿孔を起こした

著者: 青木克彦 ,   水野富一

ページ範囲:P.904 - P.905

 前項で述べたように水腎症や急性,慢性炎症を伴う腎盂や尿管は,ガイドワイヤーやカテーテル先端で損傷を受けやすい.
 <対策>カテーテルからの順行性尿路造影で後腹膜腔への造影剤漏れが認められても(図A),腎瘻からのドレナージが十分に効いていれば損傷部位は自然修復されることが多い2).利尿をつけ,抗生剤投与で経過観察をして1〜2週間後に造影してみると(図B),造影剤の漏れは認められなくなつている.尿管吻合縫合不全,炎症や腫瘍による尿管破綻の時に治療目的で経皮腎瘻術が行われるのと同じ由縁である.1978年の米国泌尿器放射線学会の調査では1),1207例の経皮腎瘻術中尿の漏出は7例(0.6%)で,ドレナージを必要としたのは4例にすぎない.尿の漏出には腎瘻からの尿量と臨床症状を注意深く観察し,超音波やCTによる検査が病変の進展を知る上で有用である.膿瘍形成があれば,超音波下に穿刺ドレナージを行う.

カラーグラフ 術中トラブル対処法—私はこうしている

術中トラブル回避のための胆道手術における肝外・肝内胆管の鑑別

著者: 松本由朗 ,   菅原克彦

ページ範囲:P.736 - P.737

 原発性肝内結石症の大部分は肝門部における胆管の狭窄(相対的)とそれより肝側の胆管の拡張が,結石形成の重要な母地であることを従来から論述してきた.したがつてこの狭窄部の開放がその根治療法であるために,拡大胆管切開術,肝切除術,および肝門部胆管切除・胆道再建などの術式が選択されている.しかしこの狭窄部位の局所解剖についての認識は少なく,主として胆道造影上の所見から肝実質との関係を想定して手術が行われているようである.教室ではCTスキャン,超音波断層と直接胆道造影所見の対比から,肝実質と胆管の関係,狭窄部の局在を明らかにし原発性肝内結石症の手術々式を選択するよう努めている.(図1)またその他の胆道疾患の手術においても胆管と肝実質との関係を術前に正確に把握することは術式決定のうえにおいても,また術中トラブル回避のためにも極めて重要であるので,最近の自験例について解説したい.

世界の手術室・5

術者,助手,器具,そして明り

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.839 - P.842

 今回は特集=術中トラブル対処法に関連して手術室の安全.工夫といつたテーマを筆者がここ数年間,国際学会などの飛び歩きのなかで印象に残つたいくつかの手術室の写真で構成した.筆者の記憶のままにのべさせて頂いたので誤解もあるかもしれない.またさらに改変された施設もあるかもしれない.真摯に手術に取り組む姿勢とお国柄を知る緒になれば望外の幸せである.

対談

術中トラブル対処法は卒後トレーニングにあり

著者: 真栄城優夫 ,   牧野永城

ページ範囲:P.907 - P.921

卒後教育は実践的に
 牧野 私,日本の大学の医局に6年半ぐらいおりましてからアメリカへ行つたんです.ですから向こうの教育とこちらの教育とがよく比較できたんです.結局,6年間いる間に私がやつた手術というと,日本ではうんと限られてしまうんですね.なにせ50床のところに50人の医者がいるんですから,回つてくる手術は限られているでしよう.そして,大きな手術は教授がやるというのが伝統的習慣だつたし,それから,よくいわれていたのは,手術というのはアシスタントをやつて鉤を引いていても覚えるものだということです.
 私たちもそうなのかなと思つていたけれども,実地の手術としてはその頃はトランクといつていましたが,医局におりながら1年に1〜2回短期間,田舎の病院に行つて実習してくる習慣があつた.これはいまでもかなりやられている方法ではないかと思いますが,私はこれが指導者のいない病院に行く場合には,社会的な問題さえ含んでいると思うんです.というのは,初めてやる手術を指導者なしで独立してやるというのはかなりの危険性があると思うんです.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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