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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科4巻11号

1949年11月発行

雑誌目次

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腹膜癒着防止の問題—現況の概観と尿素の効果

著者: 木本誠二 ,   松葉卓郞

ページ範囲:P.557 - P.562

 腹膜が癒着を來し易いことは,吸收並に滲出機轉の旺盛なことと共に最も重要な三大機能の一であり,腹膜腔内に起る病的状態,特に炎症の拡大を阻止する上に意義の大きいものであるが,その反面屡々好ましくない後遺症発生の原因となることも周知の通りである. 開腹術後に起る癒着は概して不利な面が多く,所謂手術後難澁症として腸管の狹窄を來し,或は完全な腸閉塞に至る場合も稀でない. 從つてこの腹膜癒着の問題は随分と古くから多数の人によつて研究されており,その防止に就ても数百に上る文献があるが,一般に広く行われ易く,且つ効果の確実な予防手段が確立される所までに至らず,最近も米國に於て盛に論議されつつある状況である. 即ち非常に古い問題であると同時に,新しい檢討を要望される問題の一つである. 吾々も最近この檢索に携つているので,交献的に概観すると同時に,吾々の成績を加えて考察して見度いと思う.
 腹膜が癒着を來す原因としては,腹膜被蓋細胞の傷害を來すあらゆる因子が挙げられ,特に細菌の感染は最も重要な因子であるが,なお機械的な摩擦,乾燥,冷却,出血などの外,藥物例えば消毒剤に接触するための化学的刺戟もその原因となる. この際個人的な体質的素因が大きく関與し,完全な無菌的開腹手術であり,又その操作に如何に綿密な注意を拂つても,術後広汎且つ高度の癒着を経驗することが屡ゝある. これは古くからケロイド体質と関連があると言われる癒着性体質とも呼ぶべきもので,手術的に剥離したとしても再び元通りの,或は多くは更に高度の再癒着を発生するのが常である. 從つてこうした患者を手術的に治療することは極力差控えるべきものとされるが,然し症状によつては止むを得ず開腹しなければならぬこともあり,時には数回に亘り相次いで開腹手術を繰返される場合がある.

良性虫垂炎における血管性栓塞

著者: ,  

ページ範囲:P.563 - P.566

 急性虫垂炎における虫垂の組織学的檢査によつて,栓塞のあることが屡々指摘されている. この研究は,急性虫垂炎が栓塞と如何なる関係にあるかを決定せんがために行われたものである.
 最近の新しい外科や病理学の教科書には,この栓塞が急性虫垂炎の際にあらわれることについては全然記してない. また,急性虫垂炎については多くの文献があり,その数は数千にものぼるのであるが,この血管の栓塞については殆ど僅かしか注意を與えられていない.

頭蓋内血腫の診斷における血管図

著者:

ページ範囲:P.567 - P.570

 一般外科病院でも又専門の神経外科クリニクでも急性頭部傷害をうけた患者において,屡々診断及び治療上の困難に直面するものである. この傷害外科の分野に於いては,経驗ある外科医は極く少数であり,またその頭蓋内傷害の性質と大いさについては常に疑いなきを得ないであろう.
 頭蓋骨折は決して簡單なものではない,体の他部において骨折が重要な意味をもつのとはちがつて,骨折自身は頭蓋傷害においては意義は少い. Oslo市病院の第三外科に1937-1939までの間,頭部傷害で收容された患者のうち頭蓋骨折をおこしていたものは,35%であつた. 死亡率は頭部傷害全数については7.6%であつたが,骨折のあるものでは18%であつた. 頭蓋骨折のあることは,傷害を強くうけたことを意味する. 我々の経驗では骨折のない頭部傷害は致命的であることは極めて稀である. それ故,頭部傷害における骨折の有無は予後に重要な意義があるものではあるが骨折それ自身が死の原因として何ら回答をもたらすものではない.

迷走神経切斷術—4年間の臨床経驗

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.571 - P.577

 迷走神経の完全切断が消化性潰瘍の一手術治療法としてDragstedt and Owensにより取上げられたのは1943年のことであるが,爾來吾々の外に,Moore並に協同研究者,Machella並に協同研究者,Walters,Harkins. and Hooker,Paulsonand Gladsden,Sanders,Crile,Schoen and Griswold,Schauffer,Beattieその他の人々によつて試みられ,大体に於て成績は良好とされ現在なお続行されている.
 然し一方に於ては,本法の價値にも一定の限度のあることが漸次明かにされ,これは無効例のあることよりも,むしろ副作用を伴うことに基因する.又Dragstedtが最初に観察した本手術による胃酸の低下,胃運動機能の変化,潰瘍の治癒などは一般に認められる所であるが,なおこの効果の持続期間が問題であつて,既に4年乃至6年の経驗をもつ多数諸家により間もなく重要な遠隔成績が報告されることと思われる.

消化性潰瘍治療の近況

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.578 - P.584

 消化性潰瘍の診断並びに治療に関し,こゝ1年間に医界に提示された論文は非常な多数に上り,日々根本的な改変が加えられつゝあり,この進展を実地に應用すべき医家に対する意義も大きいものと考えなければならない. これは米國を通じて現在の潰瘍患者数が400万人に及ぶことからでも明かであり,その治療上の進歩は重要問題であつて,米國胃腸学会により全國的委員会が設立され,医家に出來るだけ早く潰瘍問題に関する適確な判断が得られるよう,総ての部面に亘り研究し報告することゝなつた.

空腸捻轉症の1例

著者: 冨士田寬

ページ範囲:P.585 - P.586

 腸捻轉症は稀なものではないが,本邦に於ては普通S字状部に最も多く,小腸に於ては比較的少いとされている.
 余等は最近小腸特に空腸部に限局せる腸捻轉と此の部の穿孔による汎發性腹膜炎性腸管麻痺を呈せる1例を經驗したので其の概略を報告する.

興味ある坐骨結核の1例

著者: 伊藤忠厚

ページ範囲:P.587 - P.590

緒言
 骨・関節結核中坐骨結核は概して少なく,其の報告されたものも少い様である. 即ちM. Kaplan氏(1936)は其の1例を報告し,同時に過去35年間に於ける文献中からZellmeyen氏の集めた5例,Blankoff氏の1例,Adelberg氏の坐骨及恥骨に近接した部の炎症性疾患としての4例を引用し稀有であると述べ,P. Clairmont氏等は,10年間(1919〜1929)に経驗した骨・関節結核411例中,僅に3例をあげているに過ぎず,又我が國に於ても其の報告されたものは9例に過ぎない. 私は最近其の1例に遭遇し,且本症例が從來の報告に見られない興味ある化骨像を呈し,同時に血行性と考えられる第12肋骨カリエスを併発し,ツベルクリン皮内反應陰性を呈する興味ある症例に遭遇したので茲に報告する次第である.

急性化膿性膝蓋骨々髓炎の1例

著者: 星井孜

ページ範囲:P.591 - P.595

緒言
 急性化膿性骨髄炎は,臨床上屡々経驗する重要な骨疾患の一つであるが,其の多くは長管状骨に來り,短骨並に扁平骨に発生するものは比較的稀である. 就中膝蓋骨々髄炎は極めて稀有であつて,Trendel氏の統計をFritz氏が報告した急性化膿性骨髄炎1512例中,僅かに1例を算するのみである. 其の他Müller2例,Würthenau 1例,Röpke2例,Cpeite 1例,Ludloff 1例,Ducuing 1例,Partsch 1例,Walther 1例,Johansson 1例,Rosenbach 1例,等諸氏の報告を見るが,1936年Blumensaat氏は文献による集計を22例と記載し自家例2例を報告している. 本邦に於ては,膝蓋骨カリエスは稀に散見するが,急性化膿性炎衝の報告は著者の調査によれば昭和11年今西,森友氏の1例を認めたのみである. 著者は近時此の極めて稀な急性化膿性膝蓋骨々髄炎の1例を経驗したので茲に報告し,諸賢の御参考に供したい.

米國外科

ページ範囲:P.607 - P.608

SURGERY GYNECOLOGY & OBSTETERICS
 Vol. 89, No. 1. July 1949.
 (承前)
14. Primary Splenic Panhemato-penia. R. W. Hehle, M. D., & W. D. Holden, M. D. …79

集会

ページ範囲:P.609 - P.610

東京外科集談会 第481回 昭和24.10.15
1. 臍腸管膿瘍によるイレウスの1治驗例         慶大外科 傳田俊男              鈴木達雄
 臍腸管残存による陳旧性憩室炎より限局性腹膜炎を惹起しイレウスを起せる症例.

新医療関係法の解説・10

醫療法施行規則第20條特別の事情がある場合の解釋

ページ範囲:P.590 - P.590

 医療法施行規則第20條第6号「エックス線装置は,内科,小兒科,外科,整形外科,皮膚泌尿器科,泌尿器科及び理学診療科の1を有する病院又は歯科のみを診療科名とする病院には,これを設けなければならない. 但し,特別の事情がある場合であつて,都道府縣知事の許可を受けたときは,この限りでない. 」とあるが,但書の特別の事情がある場合とは,如何なる場合であるか.
 右の特別の事情についての厚生省医務局の解釈は次の通りである.

最近の外國外科

肺臟疾患の診断に於ける試驗的開胸術の重要性,他

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.596 - P.599

 ジョンソン氏及び協同研究者は,同氏たちの胸部疾患に於ける最近の経驗から,次のことを確認したと述べている.即ち試驗的開胸術を診断法として実施することは眞に價値のある又重要な方法であるにも拘らず,一般に認識されてない.しかし,この診断法が肺臟疾患の治療成績の改善に寄與したことは多大であると.同氏たちはこの信念の下に著者たちの1人のクラゲット氏が1942〜1947年間に肺臟に原発した疾患に対して手術を施した384例の患者の病歴を最近調査した.
 前述の患者中270名は,臨床的記載,試驗室の成績並に試驗的開胸術を除いた他の診断法のみを基礎として診断を下すことが出來た.その他の114名即ち30%に対しては確実な診断を下すために試驗的開胸術に頼る必要があつた.そしてこの114例の診断を確定し得なかつた肺臟疾患々者群の研究が,この報告の基礎となつておるのである.

外科醫のノート

留置カテーテル

著者: 金子榮壽

ページ範囲:P.600 - P.601

 尿道内に護謨製カテーテルを留置して,(1)尿を膀胱内に溜めないて,膀胱を收縮安靜にしておくこと,(2)尿が尿道壁に触れない様にすること,(3)尿道を拡張させ且つ尿道壁を圧迫すること,を目的とすることは,日常一般に行われていて,これを留置カテーテル若くは持続カテーテルと呼んでいる.
 留置用カテーテル. このものには,特種のもの,例えば,Pezzen氏カテーテル,Malecot氏カテーテル,或はCasper氏カテーテルがある. 大体に於て,同じ理論のもとにその構造がなつている. 即ちマンドリンで先端の壼腹部を延ばし,細長くして尿道に挿入し,その先端が膀胱に達したならば,マンドリンを抜去する. すると先端壺腹部が縮まつて,元の太さとなる. これは壺腹状をなしているので,内尿道口にひつかかつて抜けない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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