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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科4巻12号

1949年12月発行

雑誌目次

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肺結核外科と麻醉

著者: 宮本忍

ページ範囲:P.612 - P.615

まえがき
 肺結核の外科的療法が普及するにつれて,その適應症や手技に一段の進歩が見られるが,そのうちで比較的軽視されていたのは麻醉の問題である. ところが,戰後アメリカの文献によつて全身麻醉の進歩が紹介されるに及んで,わが國でもようやくこの方面の関心が芽生えてきた. 去る10月16,17日の2日間にわたつて京都で開かれた第2囘胸部外科学会でも,これに関する5題の研究発表があつた. 私は,最近齋藤紀仁博士と協力してこの方面の研究を初めているが,この小論では今までの経驗を中心として私見を述べてみたい.

代用血漿アルギン酸に就て

著者: 友田正信

ページ範囲:P.616 - P.620

緒言
 急性大出血の処置,蛋白補給其他に対し全血の輸血が最も有効的であるとしても,吾國の現状では,殊に急性出血患者が一時に多数出た場合には大量の血液を一時に得ることはむつかしい. 乾燥血漿とても其の材料を人体に求めなければならない関係上現在に於ても,又將來に於ても相当の量的制限を受ける事は勿論である. 吾が教室では最近血液銀行の設立を企図しているが,給血者も100名内外約束している. 然し晝間は別としても院外の給血者に連絡を始めてから,輸血を実施する迄にはやはり相当の時間がかゝる. それで血液銀行を有していても,急の場合にはやはり代用血漿の必要を痛感する. 他方血液を血液で補うと云う事は一見理想的の樣ではあつても,よく考えて見ればこれは最も原始的な方法でもある. 戰時と云わず平時と云わず優秀な血液代用品の出現は最も期待せられている所である. 吾々は数年來吾國の島國であり海藻に豊かな特種環境にある特種事情に鑑みて独自の立場から新代用血漿を創製し,5年間の綜合的研究を了し優秀な代用血である事を色々の方面から立証したので,茲に研究の大要を記述する事とする.

Causalgiaについて

著者: 鹽澤正俊 ,   原文二

ページ範囲:P.621 - P.626

I 緒言
 四肢の神経損傷に伴つて時に一種特有な灼熱痛及び自律神経失調性症状を訴えることがある. 斯る一症候群に対してMitchell, Morehouse &Keenが初めてCausalgiaと言う言葉を用いた. Bisgard, Spiegeld&Milosky, Mayfield&De—vine1),Unnerd & Mayfield2),Kirklin-Cheno—weth & Murphey3),Freeman4)等は第二次世界大戰に於て神経射創に起因したCausalgiaに就いて発表し,本邦に於ても荒木5),神原・革島・富永6),岡崎7),竹内,緒方8),竹林9)等の業績がある.
 私共も四肢の神経射創に因るCausalgia 9例を経驗したので,自驗例に基いてCausalgiaの症状,診断,治療法等に就いて述べて見度いと思う.

人事消息

ページ範囲:P.626 - P.626

 ◇塩田廣重氏 今回上野公園内日本学士院に於て開かれた日本学術会議第4回総会第2日の席上,投票の結果和歌山医大学長古武彌四郞,阪大学長松本信一,名大教授久野寧の3氏と共に新学士院会員に選定された.
 ◇槇 哲夫氏 東北大医学部杉村外科教室助教授たりし氏は弘前大学弘前医大外科教授に就任さる.

主幹動静脈結紮の問題

著者: 垣內誠一

ページ範囲:P.627 - P.629

 主幹動脈損傷の場合,理想的療法は血管縫合にあるが損傷の状況によ又手術材料,器械の関係から何時,何処でも常に必ずしも安全に血管縫合を施行し得るというわけにはゆかぬ. 寧ろ己むを得ず血管結紮の必要に迫らるゝことが多いのではないかと思う. この時,主幹動脈を單独に結紮するという学者と同名静脈を同時に結紮した方が末梢組織の壊疽を來すことが少いという学者とあり,今日でもその見解が全く一致しているとはいえない. 自分は最近たまたま殆んど時を同じうして股動脈の損傷に單独結紮と股動静脈の損傷に同時結紮を行い,更に上膊動脈を單独結紮し,その経過を観察する機会を得たので茲に報告し,その利害得失に就き若干の文献を紹介する.

瘢痕性攣縮手術後に見られたる破傷風の1例

著者: 淸水文敏 ,   黑澤健夫

ページ範囲:P.630 - P.631

 破傷風は日常遭遇する疾患の一であるが,その特殊型の一である晩発性破傷風に関する本邦に於ける文献は少い樣である. 余等は最近当外科に於て瘢痕攣縮整形手術により誘発されたと思われる1例を経驗したので簡單に報告する.

カウザルギーに対する頸動脈毬剔出術の効果

著者: 久野一郞

ページ範囲:P.632 - P.633

1. 緒言
 余は最近ピストルに依る左上膊貫通銃創兼左上膊動脈,左正中神経損傷に依りカウザルギー症状を呈せる1例に遭遇せり. 該疾患は植物性神経機能失調に基因すと思惟せられ,この際治療法として從來交感神経切除術施行せられたり. 最近即ち昭和22年9月阪大竹林弘氏等の報告を最後としJames, A. Evans, Middeldorff, Coenen,岡崎,緒方氏等十二氏の頸胸部交感神経切除術の報告あり,その成績は有効なりと称するものあるも亦,無効例勘からず経驗せられたり. 從つてその効果必ずしも一定なりと云う可からず. 頸動脈毬の作用機轉の本態に就ては今日尚未解決の点多々あるも,斎しく植物性神経機能失調症に関聯ありとせらる. 故に本疾患に対する頸動脈毬剔出術は又用うべき治療法なりと思考せらるゝも,その文献なきを以て該手術を施行せるに幸い著効ありと報告すべき價値ある成績を得たり. 將來カウザルギーの症例の増加と共に御追試を得ば本術式が可なりや,交感神経切除術が可なりや,その効果の判定は自ら定まるものならんと思考し,爰に経過の概要を報告し大方の御批判を仰がんとす.

ホッファ氏病に就て

著者: 諸富武文

ページ範囲:P.634 - P.637

緒言
 本疾患は外傷後膝関節内の膝蓋骨下脂肪組織の炎症を起し,ために結締織性の肥大を起し,脂肪体が特有なる形態を呈する疾患であつて,膝関節内樹枝状脂肪腫の1種である.1904年Hoffa氏により初めて記載されたものであつて,同氏は数囘に亘り本脂肪体に関する意義及び手術的療法,病理組織学的所見に就き記載し,これをHoffa氏病と称した.其後Bircher(1929),Diamant-Berger et Sicard(1931),Friedrich(1927),F. Rost(1922),F. Holldack(1938)氏等の報告があるが甚だ僅少である.わが邦に於ては高和氏(1939)の1例德岡氏(1943)の数例をみる位であろう.
 私は前任地八幡製鉄病院で,本症の1例を経驗したので本症に就き少しく述べてみたいと思う.

集会

ページ範囲:P.647 - P.650

 日本臨床外科醫會總會 第11囘 昭和24.11.7,8.
1. 余の考案せる穿刺器に依る組織試片切截に就て        九大友田外科 鶴丸廣長
2.永久組織標本の迅速製法(余の方法に対する二, 三の改良)   九大友田外科 脇 坂 順 一

外科医のノート

インヂゴカルミンによる腎機能檢査

著者: 金子栄彥

ページ範囲:P.638 - P.639

 外科的腎機能檢査法には種々のものがあるけれど,日常も簡單に行い得て,而もその結果がよくその腎機能状態を示すものとして廣く用いられているのは,総腎機能檢査法としての水試驗及びフェノールズルホフタレン試驗法と,各腎機能檢査法としてのインヂゴヵルミン試驗法及び頸靜脉性ピエログラフィーによる影響の出現状況の観察である.
 腎に対して手術操作を施す場合,特に腎摘出術を行う場合には,必ず上記の方法で,両側腎の機能を予め纖る必要がある.

外科と病理

黄疽と胆嚢炎の症状の影にかくれた瀰蔓性硬化性膵臟炎→即一部に瘢痕癌を形成せる所謂膵硬変症

著者: 所安夫

ページ範囲:P.640 - P.642

 本例は都立大久保病院内科部長慶大助教授野並浩藏博士及び都立大久保病院外科部長宮沢政栄博士の好意ある材料の提供に基き私の教室で剖檢したものである. 臨床所見は両博士の資料に仰ぎ全文章の整理の責任は病理を受けもつ私にある. 茲に心から両博士に深甚の感謝を捧ぐる.
 膵臟の殆んど全体に亘る瀰蔓性の間質性硬化性炎症一膵硬化症又は膵線維症(膵硬変との概念上の識別問題は後にふれる)は決して左程日常遭遇する対象ではない. 臨床的に可成予想されるものではあつても最後的の決定が容易でなく病理解剖の材料としてその廣汎高度なものは実に稀有であると云えよう. 勿論限局性の膵硬化は附帯現象として少くはないであろうが剖檢の結果その成り立ちの解明に少なからず当惑させられるのは瀰蔓性硬化を前にして普通である. まして膵硬化と膵硬変との概念の識別となると甚だ模糊とした問題がひそんで釈然としない. 吾々が最近経驗したこの領域の1例症は生前の患者の歴史の分析からも多大の興味を呼ぶが外科的手術が予想を具体的に確めた上にさて剖檢してみた所膵の変化が詢に目ざましいだけでなくその成り立ちが直ちに結論を引き出すべく余りにも錯録し,加え膵硬化の一部に癌性変化を認めるといった工合でどの角度から眺めても教えられる所の豊富なものであつた.生前の手術前の症状からはむしろ黄疸の強さや胆嚢炎の所見が他を抜き嚴密な症状の検討が膵炎の合併を想出させるにすぎなかつたので,外科的処置は周到な考慮の下に行なわれ然もそれが甚だ効果を生むことが出來たのは剖檢者の立場に立つてみても有難いととであつた.臨床家の抱いた迷宮は一度開かれたが剖檢者に委ねられるや再び新たな迷宮が扉を閉ぢ,その詮索は現在に於てすら完壁の域に達し得ない.かかる症例に類似の経驗を持たれる世の多くの識者の前に忌憚なき資料と吟味の跡を披歴して願わくば卒直な御批判を戴きたいのが僞わらざる吾々の希望である.以下臨床と病理との要点を摘録し簡單な考按を加えてみたいと思う.

最近の外國外科

—France—乳癌の卵巣轉移,他

著者: ,  

ページ範囲:P.643 - P.646

 アメリン及びシャティンの両氏は58歳の嬬人で乳癌の両側卵巣に轉移した1例を報告している.乳癌の根治手術として乳房切断及び腋窩組除去を1945年の3月に施した患織者が,1945年5月迄,その経過を監視されたが,その頃に下腹部は重い感じを訴えて來た.そして骨盤腔に2個の硬い可動性の瘤塊が触知された.開腹術によつてそれ等は2つの大きな卵巣腫瘍と癌浸潤のある卵巣子宮靱帯とであることが分つた.子宮下部で亞全剔出を施した.顯微鏡標本檢査によつて,多形性の極めて異型的惡性癌細胞の卵巣腫瘍であることも判明した.その腫瘍は子宮迄も及び且つ子宮には異所的子宮粘膜症の変化見られた.患者の状態は1948年の8月迄はまず満足すべき状態であつたが,予後は極めて不良である.
 この樣な卵巣の癌轉移が子宮までも及んでおる場合には,子宮亞剔出よりも寧ろ子宮及び子宮附属器全部の全剔出を施した方が最良の治療法であつた.又手術不能の乳癌の場合には凡て去勢術を施すべきもので,その際にはレ線治療に依るよりも手術的にする方がよいのである.正常の月経のある若い婦人では手術可能.の乳腺腫瘍のある場合にも,若し臨床的見地から,その腫瘍が可威悪性のものであることが察知されたならぽ,卵集刎出術も施すべきである.ホルモンに依る補萌察法は現在未だ実験的段階にある,しかし一懸は考慮される.(Amelille, A. et Chatain, Y.: Paris Medical 2 : 532−536 Dec. 1943)

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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