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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科4巻2号

1949年02月発行

雑誌目次

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胃十二指腸潰瘍

著者: 福田保

ページ範囲:P.31 - P.35

 胃十二指腸潰瘍に關しては昔から問題が多く,その成因についても幾多の考へ方が繰返し唱へられたが,今日尚一致した見解に達していない。從つて治療目標にも疑問が多く,特にその外科的療法については古くからあれやこれやと試みられた手術方式には變遷が多い。それらの手術成績とにらみ合して遂に胃の廣範圍切除にまで及んで,その目的を果したかに見えたが,それでもかかる例のいくつかは不滿足の結果を示しているものがあつた。最近米國の一部には胃十二指腸潰瘍の新手術式として迷走神經切除術が登場し,反響を呼ぶようになつたが,かかる新方式を加へても尚胃十二指腸潰瘍の療法が理想の域に達するものとは考へられない。「臨牀外科」から胃十二指腸潰瘍について何か記載するやうにとの注文ではあるが,これらの問題には最近いくつかの記事論文が掲げられていて,私自身新手術の經驗もないので,少しも新味のある批判出來ないし,つきなみのことを記録したのでは徒らに重複するばかりで意味がないと思ふ。只日頃から胃十二指腸潰瘍について多少關心も持ち疑問もあるので,思ひつきのまま順序もなく述べつらねて注文に答へたいと思ふ。
 胃,十二指腸潰瘍は如何にして發生するか,またこれが如何にしで慢性化するかに關しては種々の考へかたがあつた。一般の外表面に見る潰瘍の發生についても(1)炎症性組織壞死による潰瘍,(2)血行障害より來る潰瘍,(3)腐蝕或は(4)機械的損傷などから來る潰瘍などであつて,胃十二指腸潰瘍でもこれ等のいづれかが或はいくつかが集つて原因となるものと考へられる。最も古いCru-veilhierの胃炎説は想像の域に止つたが,胃切除が流行するようになり,新しい切除標本について檢討されるに至り,從來潰瘍に合併する胃炎が二次的のものとされていたのに對し,Koujetzny一派や友田教授等が胃炎こそ潰瘍發生の原因であると主張した。血行障害に關しては1853年既にVirchowは血管説をたて,潰瘍の前提として血管に變のあることを認めた。目で1883年Hauserは粘膜の出血性梗塞や栓塞,内膜の變化があると述べたが,潰瘍が血管の變化の起り易い老年に歩く若い者に多く實際かかる變化を認めることが少いので,この説の發展は見られなかつた。然し血管説を支持する立場からなされた動物實驗で,本邦でも胃の小血管内に石松子浮游液を注入して胃潰瘍を發生せしめ海本多氏の實驗や大網切除によつて發生せしめた例もある。吾々の檢した多數の火傷屍剖檢例では胃十二指腸の粘膜下出血が稀ではなかつた,約30例の中で急性胃並に十二指腸潰瘍が夫々1例宛あつた。特に十二指腸潰瘍の例ではその新しい潰瘍から多量の出血があつて,それによつて死亡ししたものであつた。火傷後の胃,十二指腸潰瘍と粘膜出血,粘膜壊死とは關連性があつても差支へないと思ふ。手術例や剖檢例での胃に潰瘍と幽血性エロヂオンの共存する例は決して稀ではなく,かかる血行障害からも潰瘍は發生し得ることは不思議はない。Virchowのたてた血管説は,栓塞などの血管に機質的變化のあることを前提としたのであるが,神經から來る痙攣性,官能性機械説などの説く,血管そのものに機質的變化のない場合でも血行障害は起り得るのである。これ等に關してBenekeは神經性血管痙攣をv.BergmannやRössleなども痙攣説を唱へ,血管のみでなく筋群の痙攣によつても血行を押へて血行障害を來すもと説いている。

特發性血小板減少症と摘脾に就て

著者: 友田正信 ,   市吉親夫

ページ範囲:P.35 - P.40

緒言
 特發性血小板減少症(ウェルホーフ氏紫斑病)はWerlhof(1740)に依つて初めて報告され,獨立の一疾患として出血を主要症候とする他の多くの疾患から區別せられた。本症は血小板減少,皮下及び粘膜出血,出血時間の延長,血餅凝縮性の缺除,ルンペル・レーデ氏現象陽性等をその主要徴候とするものであるが,Frankは特に本症の症候中血小板減少を以て主徴と見做し,本症をEssentielle Thrombopenieと名付けた。
 本症に對する療法として脾臓摘出を初めて行つたのはKazuelson(1916)で,同氏が其效果の顯者である事を報告して以來,歐米に於てに盛んに脾臓摘出が行はれ,其治驗例の報告も多數に上つてゐるが,本邦に於ては本症に對する脾臓摘出例の報告は比較的少い。

胆石生成に關する物理化學的研究

著者: 大野定

ページ範囲:P.41 - P.45

前書き
 胆石生成論はNaunyn(1892)が炎症説を發表し,三宅,Mingnot(1898)等が實驗的に動物の胆石生成に成功して以來,炎症説が殆んど定説とされた。一方,Aschoff & Bacmeister(1909)は非炎症説を唱へ,Lichtwitz,Porges u. Neubauer及びSchade(1910)等は,更に膠質化學的に説明を試み,Berg(1923)は胆道機能障害説,Westphal(1923)は神經性機能障碍説,Rovsing(1925),松尾教授及びその門下による病的素因,新陳代謝異常説,之に對するGundermann等の反駁説等幾多活溌な論爭があつた。又最近には田村(1940)のX線分析法による結晶學的研究,田川(1940)の胆石生成と膵臓炎との關係,安部(1939),武内(1940)等の病的胆汁に於ける遊離胆汁酸の増加,住友(1946)の胆汁の緩衝作用による成因論,西村(1938),武市(1947)等の胆石分析による胆汁酸,脂肪酸の新知見 秀村(1947)の膠質化學的研究等陸續として研究報告がなされた。尚米國に於てはRalph-E,Dolkart(1939〜1940)等により,各種動物の胆汁の胆石溶解作用に付き,廣範な研究が行はれ,再び胆石生成論は擡頭して來た感がある。
 恩師三宅博教授は,その門下と共に化學分析,胆道系解剖,胆石成因,胆道生理等あらゆる方面に再檢討を加へ,胆石症に關し相繼いで注目すべき業績を發表した。私は三宅教授より胆石生成に關し研究を命ぜられ,主として胆嚢胆汁の物理化學的追究を行ひ,胆汁の反應調節作用を更に嚴密,詳細に檢討し,胆嚢胆汁の反應調節作用が胆汁の凝析作用に重大な意義のある事を知り,胆石生成に新知見を得たので諸家の御批判を仰がんとするものである。

創傷治療劑としての尿素に關する臨牀的竝に實驗的研究

著者: 高藤歲夫

ページ範囲:P.45 - P.51

緒言
 尿素(以下Uと略記)の外科的應用に關しては,曩に教室木本助教授は熱性膿瘍に對する非切開U液穿刺療法を提唱し,これを從來の切開療法による治療成績と比較してU液穿刺療法の優れた點を指摘し,殊に深在性の膿瘍即ち化膿性筋炎,化膿性乳腺炎等に於て卓效を奏することを認め,昭和18年9月誌上に報告された。引續き角田氏はUの生物學的作用に就いて研究を進め,その毒性・膿汁内殺菌力・膿汁溶解作用・生體組織反應等を檢索し,外科的治療劑としてのUの價値に就いて檢討した。著者はこの外科的治療劑として種々の特性を有するUに就いて,更にその適應範圍を擴大し,殊に木本助教授の檢討された閉鎖性化膿竃に對し,開放性化膿竈とも稱すべき種々の化膿傅染創に對するUの局所作用に就いて研究し,些か知見を得たので茲にその概要を報告し大方の御批判を乞おうとするものである。

氣管支喘息に對する頸動脈腺(毬)剔出術の效果—頸動脈腺外科 第4報

著者: 前多豐吉 ,   渡部達 ,   薄場元 ,   稻葉瑞穗 ,   富澤寬

ページ範囲:P.51 - P.53

 瀨尾,中山教授1)が氣管支喘息患者に對し頸動脈腺剔出術を提唱して以來,各方面より追試手術並に各種臨牀檢査成績に關し多數の發表を見,余等も2,3の報告2)3)4)をしたが其治效成績に關する詳細な記載は未だない。當教室手術例も長きは既は2年を經過したので茲に退院後成績を發表する。

胸廓成形術の肺機能に及ぼす影響及び陳舊性膿胸の膿pHの意義について—1. 胸廓形成術による膿胸性脊柱側彎症の側彎逆轉現象とその肺機能に及ぼす影響について 2. 陳舊性膿胸の意義について

著者: 木下仁

ページ範囲:P.54 - P.59

  第1 胸廓成形術による膿胸性脊  柱側彎症の側彎逆轉現象とその肺    機能に及ぼす影響について
         緒言
 戰傷性結核性膿胸が難治で後貽障碍が甚だ大きいことは,非戰傷性結核膿胸と異なる點はないことは永江の日本外科學會特別報告に述べている所である。結核性膿胸に對しては,最近は胸膜外胸廓成形術を行つて遺殘腔を消失せしめる方法が最も效果的なことは諸家の一致した見解で,本手術によつてもなお不充分な時は更に遺殘腔内筋肉瓣充填術を行えば,完全な效果をおさめる例が多い。
 膿胸に對する胸廓成形術は,理想として遣殘腔を消失又は極小に縮小させると共に,呼吸循環器特に健側肺の機能に對しては少しも悪影響を及ぼきないことが必要である。そのためには術前,術後の肺機能を精密に比較較檢討し,手術による影響を詳細に究明し,その後にその除去手段を求めることが極めて合理的なものと信ずる。私はこの見地から胸廓成形術の影響を觀察しているうちに,本手術により膿胸性の脊柱側症彎が影響を蒙つて,側彎の向が逆轉する側彎逆轉現象を見出し,このような逆轉現象を起す前後の患考の肺機能を測定した結果,逆轉現象は肺機能に對し悪影響を及ぼすことを確實にし,從つつこのような側彎逆轉を起さないような各種の豫防對策を講ずる必要のあることの根據を明白にした。なお膿胸性脊注側彎症の原因論に關しては諸説があるが,私は私の經驗した側彎逆轉象から發足して新たな解釋を加えた。私の行つた肺機能測定法はクニツピングのスビロメトリーである。(前號參照)

ロボトミーとパンピング療法に就て

著者: 靑山博

ページ範囲:P.59 - P.63

緒言
 精神病の外科的侵襲,即ち前頭葉白質切截術に關しては,現在各方面から盛んに研究されて居るのであるが,我が小澤外科教室に於ても昭和21年7月以降,約60例の精神病其の他の患者に之を實施し,術前術後の觀察を行つて來た。此の手術後發生する症状の中,自發性の喪失,減動状態,怠情無精,高度の感情の退化及び屎尿失禁等は術後の最も不快なる症状であつて,智能の特別の低下なく,又内向性が外向性に轉向して來るに拘らず,永く社會生活に適應出來ないのは,之等の症状が比較的高度に永く存在する爲であり,此の手術の最大の缺點と考へられる。之等の症状に對して,Speransky氏の所謂パンピング療法を實施すると,之等の症状は比較的早期に著明に恢復し,看護上にも又日常生活にも好影響を與へ,患者は社會生活にも耐へ,職業に從事することが可能になつて來,所謂社會的治癒が早められる。目下米國に於ては,精神症状の寛解と社會的生活に於ける適應,即ち後述する如く,切截面の選擇の問題が重要な課題となつているのであるが,このロボトミー後のパンビング療法併用は,此の問題を或程度解決し得ると信じ,茲に發表する次第である。

集談會

ページ範囲:P.68 - P.68

第19囘中國四國外科集談會 昭和23.11.28
 1. 頭蓋骨々髄炎に就て      森  渉
 2. 癌の骨轉移           鳥販 秋彦

消息欄

著者: 編集部

ページ範囲:P.69 - P.70

 終戰以來 國内諸事情は漸く平常にもどりつゝあるとは申しながら,いまだ,各大學教室に於ける恩師・先輩諸先生のその後の御消息を存じあげる機會もなく,又豫て讀者各位よりの懇望にこたへ,各教室の御協力によつて教授,助教授,講師諸先生方の御芳名を掲載する事が出來ました。當編集部の手落ち,或いは郵便未着等の事故によりいまだ御通知を戴けずにゐる教室もあるのではないかと懸念致して居りますが,その節は御一報下さる樣お願ひ申上ます。尚遲著の分は次號に掲載の豫定にして居ります。
 御協力を戴きました各教室に厚く御禮申上ます。

最近の米國外科

慢性嚢腫性乳腺炎は乳癌の前驅症なりや,他

著者:

ページ範囲:P.64 - P.67

 リード氏は1925年來St. Francis Hospital研究室に於て,慢性嚢腫性乳腺炎の多くの症例に就て臨床的及び病理組織學的研究をなして,1936年に63例の檢査の結果から,次の様な結論に達した旨を發表したが,今囘更に1931年より以前に本症で手術した26例こ就て,その術後經過を追求調査した結果,それ等を基礎として,この論文を發表して居るのである。
 以前發表した結論は次の様なものであつた。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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