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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科4巻3号

1949年03月発行

雑誌目次

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外科より見たる内臟の疼痛

著者: 荒木千里

ページ範囲:P.73 - P.79

 私は先づ,京大生理石川日出鶴丸名譽教授の,この方面に關する研究—それは,今から20年前のものであるが,今日でも充分尊重さるべき研究である。唯惜しいことには,一般にあまり知られてゐない—を紹介し,次いで臨牀家としての立場からこれに就て若干の意見を述べて見たいと思ふ。
 内臟の痛覺を動物で研究するには,疼痛に對する反應を高める樣に工夫することが必要である。その第1の方法として,アトロピンの小量を與へておく。アトロピンわ必ずしも注射に限らず,腦の一定部の表面に塗つてもよい。第2の方法は大腦を除去する。これで疼痛反應が高まる。この樣な方法を採用することによつて,動物で比較的明瞭に内臟の痛覺を研究し得る。動物では疼痛といふことが明かでないので,侵害感覺(Noci-Emp—findung),又は侵害反射(Noci-Reflex)と云ふ言葉を用いる。要するに之は逃避反射とか呼吸,血壓に對する反射的影響等を檢査するのである。

精神外科の現況

著者: 中川秀三

ページ範囲:P.80 - P.84

1. 緒論
 精神外科は現今日本の精神神經學會及び外科學會の寵兒的テーマである。
 この新治療法は云う迄もなく,リスボン大學教授Egas Monizによつて1935年創始せられた前頭腦白質切開療法frontale Leukotomieで,兩側前頭腦の白質を切開する事によつて精神病の治療を目的とした爲に,精神外科Psycho-chirurgie(Nervenarzt 10,1937)とも言はれている。Dandy等が1920年代に始めた前頭腦切除法frontallobectomyと適用目的を異にして創始された。この精神外科は歐洲にも追試者があつたが獨乙には餘り受入れられず,從つて當時獨乙醫學の流れをくむ日本でも無視されていた。1937年,ワシントン大學教授Walter Freeman及同學助教授JamesWattsが之を米國に輸入し,方法も改善してから前頭腦切開療法frontal lobotomyとして非常に普及し米國のみでなく世界各地で行はれるに至つた。これは原法を簡易化し切開效果を大ならしめたからである。現在,世界で行はれているのは,大體フリーマン・ワッツ法か又はその變法である。

ロイコトミー後に發生せる失語症

著者: 工藤達之 ,   粟津三郞

ページ範囲:P.84 - P.86

緒言
 私共は「プレフロンタールロイコトミー」後に發生せる一過性運動性失語症2例を經驗したので此處に報告する。

余等の提唱する虫垂神經症に就て

著者: 小堀薰 ,   高尾義明

ページ範囲:P.86 - P.89

緒言
 私等は最近,高度なる胃障碍を主訴とし,蟲垂炎樣症状は何ら訴へず,腹部一般の詳細なる檢査により,該部に輕度の壓痛及び筋防禦を認め,蟲垂切除のみにより胃障碍が全然消失した2例を經驗した。手術時の所見として,蟲垂などその周圍臟器に,肉眼的には勿論,鏡檢的にも何ら炎症所見を認めず,單に壁内神經特殊染色法により,蟲垂壁内神經微細構造に著明なる變化を認め,之により蟲垂性胃障碍の原因を推定する事が出來た。
 斯くの如く蟲垂に何等炎症々状を認めず,且高度の胃障碍を訴へた症例は,内外の文獻にもその報告は極めて少く,私等は本疾患を一獨立疾患として蟲垂神經症と稱するを至當と考へ,之を此處に報告して諸賢の御叱正を仰がんとするものである。

頭部外傷による去腦強直樣症状

著者: 安達晋

ページ範囲:P.89 - P.92

 吾々の教室に於て,生越十三が頭部外傷によつて死亡した例の腦幹部を連續切片によつて詳細に組織學的に檢査した所によると,(腦及神經,第1集,昭和23年11月)出血(小出血斑)は中腦背側部を中心とする一帶に最も多く見られる。之は機能的に見れば一種の去腦切斷に類似する。併し斯樣な例の多くは,受傷後短時間にして死亡して了うから,臨床的觀察の對象となる事は少いと想像される。今この點を再檢討する爲に,吾々の頭部外傷例の中から,かかる去腦強直樣症状を呈した例を拾い上げて見よう。

惡性甲状腺腫の腦轉移

著者: 長洲光太郞

ページ範囲:P.93 - P.95

 惡性甲状腺腫に關しては,病理組織學的問題,轉移形成の問題,或いは腫瘍細胞内分泌機能の問題等多くの興味ある問題があるが,最近余は本症の腦轉移に摘出術を行たつ稀有の1例を經驗したので,之を報告し,併せて若干の考察を試みた。

開頭術により輕快せる陳舊性運動麻痺例

著者: 伊藤忠厚

ページ範囲:P.96 - P.99

緒言
 頭部外傷者は,受傷時に於ける頭蓋内出血等の緊急手術適應症例以外は多くは安靜に保存的に治療せられ,其後殘存する運動麻痺に對しては理學的療法に委ねられる場合が多い。然しながら其の中には觀血的に處置し,效果の期待出來る症例の存するであろう事は當然考へられ得る所である。私は最近,頭部に外傷を受け其後長期にわたり恢復を示さなかつた運動麻痺例に對し,開頭術を行ひ輕快を見た症例を經驗したので茲に報告する次第である。

高度の脊柱攣曲を伴うRecklinghausen氏病

著者: 諸富武文 ,   松浦龍二

ページ範囲:P.99 - P.102

緒言
 皮膚に多發する神經よりする腫瘍をRecklinghausen(1882)は組織學的に檢査し,これ等の纖維腫は皮膚末梢神經の神經鞘及び外神經鞘の結締織より發生するものとし,Neurofibromと命した。これよりして本腫瘍をRecklinghausen病と呼稱せられる樣になつた。その後Verocay(1910)は詳細に組織檢索を行い,本腫瘍の細胞は主として無髄神經のSchwann氏鞘細胞より出るもので,神經纖維は腫瘍内にあつて分裂するが變性等の變化なく,只結締織が増殖するので,從つて腫瘍が増大するのであるとし,本腫をNeurinomと命名した。これよりして本腫瘍をNeurinomotose nach Verocayとも呼稱する樣になつた。Landwskiは皮膚腫瘍,神經腫瘍,色素沈着を本症の主徴候となし,確居氏等によれば,皮膚に多發する結節性小腫瘍群,色素沈着,骨の變化が三主要症候と云はれている。然乍ら,本症の本態に關しては諸説があつて一定していない。尚本腫瘍が巨大になつたものを瓣状象皮病(Volkmann),軟性象皮病(Virchow),神經象皮病(Brun)等と呼稱している。私等は最近定型的な本症の2例を經驗し,1例は瓣状象皮病,高度の脊柱彎曲,腫瘍は肉腫變性中と云ふ症状を有つた極めて興味ある症例を得たので後者に就き述べようと思う。

アルコール靜脈注射による新しき疼痛除去法について

著者: 加藤貞三郞

ページ範囲:P.102 - P.103

 アルコールを治療の目的で靜注せる報告は肺膿瘍,肺壞疸,傳染病等を對象として應用され,それは網状織内被細胞系への作用機轉を考慮している樣である。私は之とは全く異つた觀念から,植物神經系が主として關與せりと思考さるゝ疼痛群に對してアルコールの衝撃量を血管の中に注入する事が,從來の方法と比較して優秀なる效果が有することが分つたので,私はこゝにその大要を報告し諸彦の御追試を御願ひする次第です。

神經痛に對する硬膜上注射療法

著者: 櫛引桝太郞

ページ範囲:P.104 - P.105

 硬膜上注射(Epidural injection). (別名,硬膜外注射Extradural injection. 硬膜周圍注射,Peridural injection)が傳達麻醉或いは鎭痛に使はれたことはCathelin1)(1907)以來既に久しいが,これをCathelin原法の仙骨管内に限らず總ての高さに一般化したのはPages2)(1920)等によつたのである。
 ことに,Harger4)(1941)は(1934)年以來1000例に實施して簡單,確實,安全の3點で充分用ひ得べき麻醉法であるといい,又この方法を坐骨神經痛に使つて良效を得たと云ふ人5)もある。

外科より觀た榮養失調症—(第3報)初期症状と寒冷昇壓試驗

著者: 大村泰男 ,   西山信雄 ,   上野良太 ,   鹽川優一

ページ範囲:P.106 - P.109

 私共の檢査材料は榮養失調症と云つてよいか。良いとすれば如何なる程度であるかを,先づもつて考慮して置くことが本問題に入る前に必要なことである。
 戰時中わが海軍に於ては榮養失調症例を解剖すると殆どマラリア症であり,アメーバ赤痢,或いは結核症であつたとかで榮失症を獨立した疾患と認めない傾向であつたと洩れ承つている。私共の同症例を解剖してみると,マラリア,或いはアメーバ赤痢は勿論見出し得ないが,結核,肺炎,敗血症等の疾患が併發している者は相當數に存在する。然し榮失症と診斷する以外に何等他の所見のない者が確にある。肺結核,腸寄生虫が榮失症を惹起する一つの大きい要因をなすと考えれば,これらの疾患を別個に,無關係に取り扱ふ可きではないし,死亡の最後の原因をなした肺炎,敗血症も榮失症の基礎の上に比較的容易に發症したと解釋することによつて確かなつながりのあるものである。數年來,榮失症と取組んでいる私共は同症を獨立した疾患となし,他疾病との關係を原因として,或いは結果として持つものであると考へるに至つている。

創傷治癒に關する組織學的研究—第1報 創傷第1期癒合の組織學的機序

著者: 日下邦夫

ページ範囲:P.110 - P.112

緒論
 創傷治癒に關する組織學的研究の發端と發展はMarchand1)の綜説に詳かであり,またこの研究に一應の解決を與えたのも同氏であつて,同氏以後この方面に於いて革新的な業績をあげた研究者はなく,そこには,最早本質的な問題は殘されていないように見えたのである。
 しかるに1942年以降,本解剖學教室で山崎及び協同研究者2)3)4)により,顆粒白血球の潜能を中心課題として試みられた多數の研究は創傷治癒の過程を,これと本質的に同一の組織反應,炎,の場合と同樣に,從來とは全く異なる立場から改めて檢討する必要を生ぜしめた。この立場は19世紀に於けるZiegler5)の業績にその萠芽を認めるが,その後發展せず,同氏6)も後に到り自説を放棄してMarchand學派に合流したのである。しかし顆粒白血球の組織形成能は既に山崎等が各種の條件下で確めた所であつて,金城7)も創傷第1期癒合が同白血球の行動によつて殆んど全く一元的に説明され得ることを明らかにしている。

實際の外科知識

著者: 編集部

ページ範囲:P.113 - P.117

 讀者各位のかねてよりの御要望に應へ,いよいよ本號より「實際の外科知識」欄を新設しました。お忙しいところ諸先生方より御囘答を戴けました事を深く感謝します。尚本欄への御投稿(質問)は簡單にお願ひします。

消息欄

ページ範囲:P.125 - P.126

福島縣立女子醫專 外科教室
教授 八子 幸治 福島市五老内9
 〃  丹野 俊男 編島市森合南戸内15
講 師 桝 孔助 編島市清明町21
 〃  六角 襄 編島市萬世町47星方

集會

ページ範囲:P.127 - P.127

 第474囘東京外科集談會 昭和23.11.22.
1. 多發性胃癌とその淋巴腺轉移の  破裂による出血死の1例     毛受・柳
2. 胃癌根治手術中肝動服結紮の1症例 佐藤 博

最近の米國外科

轉移性腦膿瘍の外科的處置,他

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.118 - P.124

 リゾリー氏及び協同研究者によれば,腦膿瘍は通常3つの原因,即ち(1)副鼻腔或は乳嘴突起蜂窠から直接波及(2)頭蓋骨の複雜骨折及び頭蓋腔内異物から(3)身体何れか他の部分の感染巣の轉移から發生するとして,この第三のものに就て論述して居る。
 著者等は全治した轉移性腦膿瘍の10症例を集めて居る。但しこれ等患者中1例は2年後に身体の他の部分に多數の膿瘍を發生して死亡したが,頭蓋腔内感染の證據は何等認められなかつた。又10症例中7症例の原發膿瘍は胸腔内にあつたもので,3症例は他の部分の膿瘍からであつた樣であつた。即ちこの3名中2名は扁桃腺炎に罹つて居る。然し1名には扁桃腺炎の發病する1週間前に,發熱,咳嗽,喀痰があつた。最後の1名は腦膿瘍の始まる時に大腿に膿瘍を有して居つた。然し腦症状が現れた時には,この患者もレ線によつて左肺に炎症(Pneumonitis)の存在することが示された。この患者は後に死亡したが,その時には,兩側の肺に多數の慢性膿瘍を有して居つたことが發見された。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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