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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科4巻6号

1949年06月発行

雑誌目次

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血液凝固に關する研究と最近の動向

著者: 濱光治 ,   神前五郞

ページ範囲:P.263 - P.269

 外科醫にとつて止血と云う問題は,尚解明すべき多くのものを殘している重要な課題である。止血機序には血液凝固速度以外に,血管收縮とか血栓形成(之に對しては血管内膜の性状,血流速度,血小板等が大きな役割を果している)なども重要な意義を持ているが,本稿に於ては主として血液凝固の面から止血と云う問題に觸れ,最近に於ける血液凝固に關する研究,及び吾々の得た新知見(之は第46囘(昭21年),47囘,48囘日本外科學會總會等に於て報告した)に就き述べる。
 血液凝固機序に就て概觀するに,Alexander Schmidt(1872)以來多くの研究が發表せられ,Nolf(1913),Herzfeld u. Klinger(1915〜17),Hekma(1913〜29),Stuber(1922〜25)等の膠質化學説,酵素學説としてもBordet(1913),又Howell(1916)1)等の説,或は更にFalkenhausen(1929),Fuchs(1930)等の血清免疫學と關係づけた説もあるが,現在ではMorawitz(1903),Fuld(1903),Spiro(1904)等の論に依つてWöhlisch2)が述べた模型が一般に行われている。之によると,血漿中に存在する凝固要素はプロトロトンビン(以下「プト」と略稱),Ca,フィブリノゲンの3種であつて,之等が紅織或は血小板の破壞により生するトロンボキナーゼ(Morawitz)或はトロンボプラスチン(Howeli)の作用に依って,次の2段の楷梯に分けられる反應によりフィブリンとなるのである。

兩側肺結核に對する兩側外科的療法の経驗

著者: 中西正雄

ページ範囲:P.271 - P.272

 肺結核の外科的治療法特に虚脱療法の適應は片側性硬化萎縮性で滲出性ならざるものを以て理想とするとは今世紀の初よりり不變であるが,更に他例にもある程度病變があつても限局性でない輕度の撒布竈や,廣汎でも高度に非ざるものや,小範圍の増眞性硬化竈あるも停止型なるものには適應範圍内なることを軍事保護院の要旨にもある如く,一般に認められて來たのである。然るに兩側性に同程度に存在するものは外科的療法を加うるか否かは檢討の余地も存するであろうが,近年ようやく兩側性加療にまで発達し,兩側成形術も2〜3発表されつゝある現状である。
 余も亦昭和16年來肺結核に虚脱療法を施しつつあるもので,この兩側手術にも少からず關心を持ち,今日迄に少數例ではあるが經驗したので,其の一端を述べて御批判を仰ぎたい。

骨關節結核殊に多發症例を中心とする觀察

著者: 橫田浩

ページ範囲:P.273 - P.276

 報告の材料は昭和19年5月から同20年6月迄1年2ケ月間に同仁會天津診療班外科で診療した骨關節結核症の内,單獨胸骨竝に肋骨結核を除外したものである。當時齒科醫の外科補修教育の參考資料として,短期間の調査ではあるが一應取纒めた所. 其後終戰にあい一部の記録を失い又一葉の「レ」線冩眞だに持歸り得なかつたため,杜撰且つ不備の所もあるが,臨牀上の興味の點では捨て難いものがあるので,貴重な紙面をも顧みず敢て報吉する次第である。
 對象となつた患者は大部分庶民階級であつたため,疾病への認識,經濟的事情或は環境等色々の點で醫療を求める時期甚だ遲く,初期症例に接したことは稀であり,殊に身體數ケ所に多發せる例を比較的屡々發見し,これ等の點は諸家の成績と多少異る所である。本文ではかゝる多發例を中心にした觀察を述べる。

變異結核菌の外科的研究—結核の血清學的診断に就て

著者: 竹內稔雄 ,   喜多昌彥

ページ範囲:P.277 - P.281

第1章 緒言
 外科的結核症とは本來メスの對稱となる結核の意味である。其の時代時代の外科の發達につれて内容も變つて來る。
 此處で取り扱うものは從來の骨關節結核,泌尿器結核,表在性淋巴腺結核等の他に外科治療の對稱となり得るもの,例えば肺結核症中の適應症等の廣い範圍を含むものである。

動脈注射に依る各種藥劑の關節腔内移行に就て

著者: 久保田亨一 ,   赤羽毅

ページ範囲:P.283 - P.289

第1章 緒言
 スルフォンアミド劑及びペニシリン等の藥劑を關節腔内に直接注入する以外に如何なる使用法に依るも其等薬劑の有効量を長時保接する事の困難なる事は諸氏に依り報告せられている所である。余等は葡萄糖液の各種使用法による關節腔内移行を檢すると同時にスルフォンアミド劑及びペニシリンの各種使用法時に於ける其等藥劑の關節腔内への移行状態を見更に其等藥劑を高稠葡萄糖液を溶媒として動脈注射した場合の移行と比較研究してスルフォンアミド劑及びペニシリンが關節腔内に直接注入する以外に如何なる使用によるもその有効量を長時保持せしめる事の困難なる事を知つた。然るに之を動脈内に衝撃的に然も高稠葡萄糖液を溶媒として注入する事によつて容易に有効量以上の高濃度を移行せしめ得る事を實證し第46囘外科學會總會席上に於て動脈注射の主作用機轉の1として中山教授竝に鈴木助教授に依り發表せられた所である。更に此の實驗を諸種關節疾患に施行して葡萄糖の關節腔内移行量が注入葡萄糖液の濃度の大なるに從い著明に増加する事を明かにし得たと同時にペニシリン及びスルフォンアミド劑等の關節腔内移行が溶媒としての葡萄糖液の濃度の大なるに從い著明に増加する事實を亦鮮明にし得た。以上の事實は他注射法に於ては見られない動脈注射の特殊的作用であると信ずる次第である。此所にその實檢成績を御報告し諸賢の御批判を仰ぐ次第である。

火傷瘢療癌—症例報告及文獻による統計觀察

著者: 村上忠重

ページ範囲:P.291 - P.298

 火傷痕瘢癌(以下火癌と略す)は本邦に特に多い皮膚癌で,臨牀統計ではその約20%を占める。都築外科12年間(自昭和9年4月至21年3月)に9例の火癌が經驗された。ここにその症例報告を行い,同時に昭和21年3月迄に原著や學會抄録等によつて得られた殆んど總ての本邦火癌報告症例107例に加えて116例とし,種々の統計觀察を試みた。即ち本統計に依て火癌の皮膚癌中に於る特異性を明かにし,全經過の觀察の容易な本疾患の統計的な追究を應じて一般の癌の諸性質を類推するよすがとし,又戰災による高度の火傷が多發した今後,多發を豫想される本疾患の觀察の一指針たらしめたいと思つた。

センイ素溶解に關する研究(第1報)—手術に伴うセンイ素溶解に就いて

著者: 豐田建一

ページ範囲:P.299 - P.302

 センイ素溶解(Fibrinolysis)の現象は古くから知られているが,2・3年このかた各國の研究者の關心をよび,その知見も急速に進歩した。この知見はふるく100年前にさかのぼる。
 Zimmermannは1846年食塩水中の牛のセンイ素が10日以上もそのまゝの状態であるのに,濡れた吸角放血法で得た人血のセンイ素は12時間から24時間以内に溶けてしまう事を發見し。たゞしこの事實は既に1838年Denisが觀察したという。Green(1877)は細菌の作用もなくて食塩水中のセンイ素が消失することを發見し,そして一旦溶けてしまうと,トロンビンを加えてもセンイ素が2度と出て來ないことを觀察している。センイ素溶解と言う言葉を最初に用いたのはDastre(1893,1894,1895)であるが,彼は犬の血液について同様な觀察を行い,センイ素は溶けるのでなくて,消化されるのだと結論した。またRulot(1904)に白血球が増加すると反應が促進されるので,その消化に白血球が關與していると信じた。1905年にNolfは犬について色々の實驗を行い,犬の肝臓を切除したり,ペプトン・ショックを起させるとセンイ素溶解が起る事を發見した。Morawitz(1906的は突然死の場合の血液につしいて同様な現象が起きる事を研究し,突然死の血液はフイブリノゲンを含まず,且つ正常血液のブイブリノゲンやセンイ素まで破壞する力があることを認めた。センイ素溶解に關する最も廣汎な研究はソ聯に於て,人の死体の血液を輸血に使用せんとする技術の發展中になされたものである。1937年Yndin及び其の協同研究者達は,人の新鮮なる死体の血液を使用せんとして,最も有効な給血者は,慢性病で死んだ患者よりも,外傷事故等のため突然に死んだ人であるのに氣づいた。そしてこのような突然死の血液は採血後,普通の血液の如く凝固するのであるが,2・3時間で流動性を帶び抗凝固劑を用いすに輸血出來る利益があつたのである。即ち突然死の患者の血液は非常にに早いセンイ素溶解を起すが,慢性病死亡患者の血液はセンイ素溶解を起さないことを彼等は認めたのである。手術に關しては1937年Macfarlaneが外科手術直後の患者のほゞ75%に於てセンイ素溶解が起る事を觀察し,この發見は同年Imperatiにより50%の陽性率を以て追試せられたのである。

進行性筋萎縮症に對する頸動脈毬摘出の影響

著者: 森川政一

ページ範囲:P.303 - P.305

緒言
 2例の内科的治療の少しも効果のない進行性筋萎縮症に頸動脈毬摘出術を施行し,術前術後のエルゴグラムにより明確に,手術効果を認め得た症例があるので,第48囘外科學會總會に於ける本庄民の手術報告に追加發表を行つたのであるが,茲にその概略を記載する。

胸廓成形術に於ける血液知見補遺

著者: 近藤達平

ページ範囲:P.307 - P.311

緒言
 日本醫療團大府荘に於て胸廓成形術を施行せし主として空洞を有する肺結核患者の中,血液像其他を比較的詳細に檢査せるもの25例につき,その所見を得たので簡單に報告する。手術後1ケ月間は手術の直接影響が大なる故之を省いた。觀察期間は1ケ年迄である。更に肺結核患者,胸廓形我術患者合せて75名につきGros反應及びその變法,高田反應等を試みたがその結果も合せて報告する。

結核性瘻孔のペニシリン注射併用に依る根治手術

著者: 本間五郞

ページ範囲:P.313 - P.313

 痔瘻,流注膿瘍の瘻孔及び腺結核の瘻孔は一般の局所處置では單に病竈の惡化を稍々阻止する程度で,外科治療中誠にぱつとしない詰らぬものゝ一つとされ兎角等閑に附されている傾向があると云うのは已に瘻孔の形成されたかゝるものにあつては假令剔出根治手術を試みても從來にあつては其の手術創の一期癒合は望み難く,長期に亙る瘢痕治癒を待たねばならず,其の間に再發併發に危險が少ない。而るに之等のものゝ剔出根治手術に併せてペニシリンの創内及び分創筋注を多量に行い,手術創の全縫合をなし1期癒合短期間に全治せしめ得た。
 術後無痛時に輕痛で激痛を訴えたものは1人も無く,術後手術創内血腫及び分泌物の吸收熱と云うべき發熱は殆んど見られず,せいぜい最高37度1.2分で大多數のものは無熱であつた。此のペニシリンの外科的應用は外科手術に飛躍的革新を齋らし,從來難治とされた種々の手術を成功に導くものと思惟し,其の一端としてペニシリンの併用に依る痔瘻並に結核性瘻孔の剔出性手術,一期癒合成功例を報告する。

約10ヶ月を經過せし柿果實結石に因る腸閉塞症の1治驗例

著者: 阿部達次 ,   大場直人

ページ範囲:P.315 - P.316

緒言
 吾々は東北地方に多く産出される豆柿を食し,之が爲に極めて緩慢に腸閉塞症を發來し,更に閉塞部位がトライツ氏靱帶直下にあり,そのレ線像に多大の興味ある1例を手術により治癒せしめたるを以て,茲に報告する。

米國外科

ページ範囲:P.321 - P.324

Annals of Surgery
Vol. 128. November, 1948. No. 5.
Observations on Viseral Pain, F. H. Bentley, M. D. Newcastle. England.………881
Hemophilia. —Charles G. Craddock, Jr., M. D. Leonard D. Fenninger, M. D. Bradford Simmons, M. D. Rochester, N. Y.………888

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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